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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科66巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

特集 第65回日本臨床眼科学会講演集(7) 原著

スペクトラルドメインOCTによる健常眼の網膜神経線維層厚と視神経乳頭面積の関係

著者: 片井麻貴 ,   大黒幾代 ,   稲富周一郎 ,   大黒浩

ページ範囲:P.1313 - P.1317

要約 目的:健常眼の網膜神経線維層厚と視神経乳頭面積(以下,乳頭面積)との関係を屈折別に検討した報告。対象と方法:対象は屈折が-3.0Dより近視度数が大きい近視眼50眼と小さい非近視眼41眼。スペクトラルドメインOCTを用いて視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚と乳頭面積を測定。結果:乳頭面積は近視眼のほうが非近視眼より有意に小さかった。近視眼では乳頭面積が小さいほど上側網膜神経線維層が薄く,耳側網膜神経線維層が厚くなり,非近視眼では,乳頭面積が大きいほど鼻側網膜神経線維層が厚かった。結論:健常眼では近視が強いほど乳頭面積は小さくなる。乳頭面積と網膜神経線維層厚との関係は近視眼と非近視眼とでは異なる。

緑内障眼における黄斑部網膜神経節細胞複合体とHumphrey視野検査30-2中心8点との相関

著者: 伊藤梓 ,   横山悠 ,   浅野俊文 ,   岡村知世子 ,   渡邉亮 ,   布施昇男 ,   中澤徹

ページ範囲:P.1319 - P.1323

要約 目的:フーリエドメイン光干渉断層計で測定した8部位の網膜神経節細胞複合体(ganglion cell complex:GCC)と,同部位のHumphrey自動視野計で得られる所見との関係の報告。対象と方法:広義の開放隅角緑内障患者39例39眼を対象とした。視野測定には,自動視野計のSITA standard 30-2を用いた。相関の解析にはSpearmanの順位相関行列を用いた。結果:GCC厚と視野の測定値とには有意の相関があった。水平線よりも下方のGCC厚と上方視野との相関は,上方のCGG厚と下方視野との相関よりも高かった。結論:緑内障眼では,眼底中央部の網膜神経節複合体厚とこれに相当する視野の間には高い相関がある。

Inferior oblique muscle inclusionの1例

著者: 長屋匡俊 ,   高井佳子 ,   杢野久美子 ,   伊藤博隆 ,   杉浦澄和

ページ範囲:P.1325 - P.1329

要約 背景:Inferior oblique muscle inclusion〔下斜筋巻き込み症候群(私案)〕は,外直筋への手術時に下斜筋が外直筋に巻き込まれ癒着する合併症である。目的:内斜視の手術後に生じた下斜筋巻き込み症候群の症例の報告。症例:41歳男性が外斜視を主訴として受診した。生来の内斜視で,3歳と8歳のときに手術を受けていた。所見と経過:両眼とも+1.50Dの遠視があり,矯正視力は左右とも1.5であった。眼位は近見で40Δ,遠見で45Δの外斜視であり,左眼での固視時に16Δの右下斜視と右眼の上転・内転制限があった。右眼の術中所見として,内直筋は輪部から11mm,外直筋は8mm後方にあり,下斜筋はJ字型に走行し,その一部が外直筋付着部に癒着していた。内直筋前転と外直筋後転,下斜筋の癒着剝離を行い,眼位と眼球運動は改善した。結論:術中の下斜筋の所見から,下斜筋巻き込み症候群と診断し,癒着を解除して上下偏位が改善した。

YAGレーザーによる眼内レンズ損傷の視機能に対する影響

著者: 並木滋土 ,   松島博之 ,   勝木陽子 ,   日高次郎 ,   向井公一郎 ,   妹尾正

ページ範囲:P.1331 - P.1335

要約 目的:YAGレーザーによる眼内レンズ(IOL)の損傷が視機能に及ぼす実験の報告。方法:+20Dの球面IOLの光学部にYAGレーザーにより亀裂を作製した。亀裂の程度は,十文字にレーザーを照射した軽度と,光学部全体に照射した重度の2種類とした。損傷を加えたIOLを模型眼に設置し,光学部の中心から3mmと4.5mmの範囲の損傷の面積を算出し,視機能への影響を評価した。結果:IOLの光学部の損傷面積が大きいほど理論的に計算した視力が低下した。結論:YAGレーザーによりIOLの光学部に過度の亀裂が生じると,推定視力が低下する。しかし,実際の臨床で生じる程度の亀裂であれば,視機能への影響は小さいと推定される。

慶應義塾大学病院における海外ドナー角膜と国内ドナー角膜の比較検討

著者: 西恭代 ,   川北哲也 ,   安昌子 ,   市橋慶之 ,   松本幸裕 ,   榛村重人 ,   坪田一男

ページ範囲:P.1337 - P.1342

要約 目的:角膜移植用として提供された国内と海外のドナー角膜の安全性についての比較。対象と方法:2010年までの5年間にアイバンクを通じて当院に提供されたドナー角膜490眼を対象とした。提供者の内訳は国内245眼,海外245眼である。提供者の死亡時年齢,角膜内皮細胞密度,死亡からの保存期間,保存から手術までの期間,有害事象について検討比較した。結果:提供者の死亡時年齢は,国内68.8歳,海外63.1歳で,有意差があった(p<0.01)。角膜内皮細胞密度の平均は,国内2,713.4/mm2,海外2,515.3/mm2で有意差があった(p<0.01)。Primary graft failureは,国内4件,海外0件で,有意差があった(p<0.044)。角膜輪部と角膜保存液の培養陽性率には,国内と海外で有意差がなかった。結論:角膜内皮細胞密度の平均値は,国内の提供者よりも海外が低かった。Primary graft failureは,国内の提供者のほうが多く,より厳密な品質管理が必要と考えられた。

前部虚血性視神経症と網膜中心動脈閉塞症を契機に側頭動脈炎が明らかになった1例

著者: 芳田奈津代 ,   武田憲夫 ,   八代成子 ,   中村洋介 ,   菅波由花 ,   高橋裕子 ,   上田洋 ,   三森明夫

ページ範囲:P.1343 - P.1347

要約 目的:片眼に前部虚血性視神経症,僚眼に網膜中心動脈閉塞症が発症し,側頭動脈炎と診断された症例の報告。症例:69歳女性が左眼視力低下で受診した。1か月前から激しい頭痛があった。経過:矯正視力は右1.2,左0.4であった。左眼に乳頭の発赤腫脹があり,視神経炎と診断した。ステロイドパルス療法を開始した。その2日後に右眼に網膜中心動脈閉塞症が発症し,視力は0.02になった。左眼の乳頭が蒼白になり,血沈が111mmであり,側頭動脈炎として内科に転科した。初診から13か月後の現在,病像は安定し,右0.09,左0.06の視力を維持している。結論:高齢者で激しい頭痛と視神経疾患が側頭動脈炎によることがある。

鼻性視神経症を呈した多発性硬化症の1例

著者: 笠井真央 ,   多田憲太郎 ,   岸茂 ,   小森正博 ,   福島敦樹

ページ範囲:P.1349 - P.1352

要約 目的:多発性硬化症の既往がある患者に鼻性視神経症が発症した報告。症例:81歳男性が3日前からの右眼の視力と視野障害で受診した。18年前に両眼の視力障害があり,自然寛解した。その6か月後に下肢麻痺があり,多発性硬化症と診断された。その2年後に両眼に視力障害が生じ,ステロイドパルス療法が行われたが,左眼の視力が光覚弁となった。17年前に副鼻腔炎の手術を受けた。所見と経過:矯正視力は右0.08,左光覚弁であり,MRIで,篩骨洞に境界が明瞭な囊胞があり,鼻性視神経症が疑われた。右視神経管開放術が行われ,右眼視力は3日後に0.2,75日後に0.6に改善し,視野はほぼ正常化した。結論:多発性硬化症の既往があるが,本症例での視神経症は副鼻腔に原因があった。

ポリープ状脈絡膜血管症に伴う黄斑下血腫に対するラニビズマブ併用硝子体内ガス注入術

著者: 廣江孝 ,   森本雅裕 ,   佐藤拓 ,   堀内康史 ,   渡辺五郎 ,   松本英孝 ,   向井亮 ,   高橋牧 ,   羽生田直人 ,   江原謙輔 ,   岸章治

ページ範囲:P.1353 - P.1358

要約 目的:黄斑下血腫を伴うポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対し,ラニビズマブとSF6の硝子体注入を行った結果の報告。対象と方法:過去14か月間にラニビズマブとSF6の硝子体注入を行った黄斑下血腫を伴うPCV 17例17眼を対象とした。男性14例,女性3例で,年齢は57~91歳(平均72歳)である。全例で6か月以上の経過を追った。結果:黄斑下血腫は全例で1週間で移動し,菲薄化した。術後視力は12眼(71%)で改善または不変,5眼(29%)で悪化した。悪化した5眼中4眼では,網膜色素上皮剝離が中心窩にあった。術後の中心窩網膜厚は有意に改善した(p<0.05)。術後の再出血は1眼に生じた。結論:黄斑下血腫を伴うポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対するラニビズマブとSF6の硝子体注入後に,視力が改善し,黄斑厚が減少した。網膜色素上皮剝離が中心窩にある症例では,成績が低かった。

水晶体皮質が融解・自然吸収した1例

著者: 平野雅幸 ,   森實祐基 ,   熊瀬文明 ,   高畠隆 ,   木村修平 ,   塚本真啓 ,   大月洋

ページ範囲:P.1359 - P.1361

要約 目的:炎症所見を伴わない水晶体皮質融解の症例の報告。症例:62歳女性が内科でWegener肉芽腫症と診断され,精査のため紹介され受診した。所見と経過:矯正視力は右1.0,左指数弁で,眼圧は正常範囲にあった。左眼では水晶体皮質の大部分が消失し,水晶体囊と茶褐色の核のみがあった。前房に炎症所見はなかった。水晶体乳化吸引術,水晶体囊切除,眼内レンズの囊外固定を行い,6か月後に0.6の視力を得た。眼底に異常所見はなかった。結論:無症状の水晶体皮質融解に対して水晶体再建術を行い,良好な結果を得た。

硝子体手術に至った濾過胞感染症の臨床的特徴

著者: 植木麻理 ,   柴田真帆 ,   小嶌祥太 ,   杉山哲也 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1363 - P.1367

要約 目的:濾過胞感染により硝子体手術を必要とした症例の報告。対象と方法:過去11年間に緑内障に対する濾過手術の後,濾過胞感染により硝子体手術が行われた7例7眼の経過と特徴を臨床録により検索した。結果:男性4眼,女性3眼で,年齢は58~82歳(平均65歳)であった。1眼が有水晶体眼,1眼が無水晶体眼,5眼が眼内レンズ挿入眼であり,6眼が開放隅角緑内障,1眼が硝子体手術後の血管新生緑内障であった。濾過胞感染は線維柱帯切除術から3~84か月後,5眼では3年以上後に発症した。眼内炎発症時の眼圧は2~25mmHgで,濾過胞は4眼で消失,3眼で縮小していた。緑内障の病期は全例がⅢbで,術後最高視力は5眼が光覚弁から手動弁,2眼が0.5以上であった。術前の視力と眼圧は予後に関係しなかった。6例に全身または局所に易感染性の状態があり,3例は施設に入所中で,眼科を受診していなかった。結論:濾過胞感染は,濾過手術から長期間後に生じ,眼圧が上昇しないことが多かった。

硝子体・白内障同時手術における術後屈折誤差とその補正

著者: 宗田友美 ,   江内田寛 ,   末廣久美子 ,   久冨智朗 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.1369 - P.1373

要約 目的:硝子体・白内障同時手術における術後屈折誤差の測定を行い,その結果をもとに術後屈折誤差の補正法の有効性について検討する。対象と方法:2010年7~9月の間に硝子体・白内障同時手術を行った20眼(平均年齢66歳)に対し,術後屈折誤差を検討した。この結果より予測屈折値を補正し,補正前後の術後屈折誤差を検討した。結果:硝子体・白内障同時手術の術後屈折誤差は-0.37±0.59Dであった。補正方法として予測屈折値に+0.25Dを加えた眼内レンズ度数を選択した結果,±0.5D以内の術後屈折誤差は補正前の35.0%から67.9%に改善した。結論:硝子体・白内障同時手術での術後屈折誤差の補正方法について施設ごとに基準を設ける必要がある。

トーリック眼内レンズ挿入眼の術後成績

著者: 市橋恒友 ,   礒辺絢子 ,   鈴木康之 ,   河合憲司

ページ範囲:P.1375 - P.1379

要約 目的:角膜乱視がある白内障眼にトーリック眼内レンズを挿入した結果の報告。対象と方法:白内障手術が行われ,Alcon社製SN6AT3,AT4,AT5または60WFが挿入された211眼を対象とした。術前後の角膜乱視と他覚乱視を比較した。結果:角膜乱視は術前後で変化せず,挿入されたトーリック眼内レンズの型または角膜乱視の強度と無関係であった。術後の他覚乱視は,1.5D未満の低乱視群31眼を除き,有意に低下した(p<0.05)。結論:トーリック眼内レンズ挿入により,角膜乱視は変化せず,他覚乱視が有意に低下した。

強膜マッサージが小切開硝子体手術における強膜創の自己閉鎖率に与える影響

著者: 高階博嗣 ,   渡辺朗 ,   三戸岡克哉 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1381 - P.1384

要約 目的:23ゲージ小切開硝子体手術(MIVS)の創口自己閉鎖の検討。対象と方法:当院で23ゲージMIVSを施行した97例98眼。自己閉鎖にこだわらず強膜マッサージを数回のみ行ったA群71例72眼,自己閉鎖にこだわり十分な強膜マッサージを行ったB群27例27眼に分けた。両群とも強膜マッサージにて自己閉鎖しなかった場合,強膜創を縫合した。結果:自己閉鎖率はA群18.3%,B群93.8%で,B群が有意に高かった(p<0.05)。B群内で強膜マッサージ時間を比較すると,灌流用創口で10時および2時創口より有意に短かったものの,10時および2時創口間では有意差がなかった。術後低眼圧はなかった。結論:十分に時間をかけた強膜マッサージは自己閉鎖に有用な手技と考えられる。

裂孔原性網膜剝離に網膜新生血管が生じた網膜色素変性症の1例

著者: 岡本和夫 ,   岡野内俊雄 ,   石原理恵子

ページ範囲:P.1385 - P.1388

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に新生血管が併発した網膜色素変性症の症例の報告。症例:43歳女性が網膜色素変性症の精査を希望して受診した。主訴は視野狭窄であった。所見:矯正視力は右0.6,左0.9で,右眼に約4D,左眼に約5Dの近視があった。両眼とも眼底に網膜色素変性症に特有な所見があった。右眼には鼻側上方に萎縮性円孔があり,それから下方にかけて胞状の網膜剝離があった。下方の網膜剝離縁に網膜新生血管があり,眼底周辺部には広い無血管野があった。強膜内陥による剝離手術を行い,3か月後に網膜は復位した。網膜新生血管は消退し,視力は0.8に改善した。結論:網膜色素変性症に裂孔原性網膜剝離が生じ,併発した網膜新生血管は網膜の復位後に消失した。

Iris retraction syndromeの合併が疑われた裂孔原性網膜剝離の1例

著者: 武信二三枝 ,   山崎厚志 ,   川口亜佐子 ,   池田欣史 ,   井上幸次 ,   松浦一貴

ページ範囲:P.1389 - P.1392

要約 背景:Iris retraction syndrome(仮称:虹彩後退症候群)とは,網膜剝離で前房圧が後房圧よりも高くなり,虹彩が後方に移動し,虹彩周辺部が段状に陥没する状態をいう。目的:虹彩後退症候群が疑われた網膜剝離の症例の報告。症例:59歳女性が3日前からの左眼の眼痛と視力低下で受診した。右眼は20年前に白内障手術を受け,左眼は幼少時から弱視であった。所見:矯正視力は右1.0,左0.08で,眼圧は右14mmHg,左7mmHgであった。左眼は前房が深く,周辺部で虹彩が段状に陥没していた。超音波検査で左眼に網膜剝離と顕著な脈絡膜剝離があった。ステロイド薬の点眼で眼痛は軽快し,眼圧は14mmHgになった。左眼眼底の上方に馬蹄形裂孔が発見され,その周囲に光凝固を行った。初診から7日後には網膜剝離と脈絡膜剝離は消失し,視力は0.2になった。その翌月に白内障手術を行い,0.6の視力を得た。以後5か月後の現在まで再発はない。結論:本症例は裂孔原性網膜剝離に併発した虹彩後退症候群であったと推定される。

虹彩上に白色塊が発生し自然消退した1例

著者: 中沢陽子 ,   植田次郎 ,   横山佐知子 ,   高野晶子

ページ範囲:P.1393 - P.1396

要約 目的:虹彩前面に白色塊が生じ,自然消退した症例の報告。症例:4歳男児が両眼の眼脂で受診した。顔面と下腿にアトピー性皮膚炎があり,ステロイド軟膏を使用中であった。所見と経過:3か月後に左眼輪部の鼻側下方に血管新生を伴う混濁が生じた。1か月後に混濁は角膜中央部に移動した。さらに3か月後に約3.5×3.5mmの馬蹄形の白色塊が瞳孔縁に接する虹彩前面に生じた。前房に炎症所見はなかった。25日後に白色塊は半透明化し,生じてから45日後に消失した。結論:虹彩前面の白色塊は睫毛由来のfree keratinが関与した可能性がある。

網膜静脈閉塞症様所見で発症しBehçet病と診断された2例

著者: 篠原洋一郎 ,   細貝真弓 ,   黛豪恭 ,   鹿嶋友敬 ,   秋山英雄 ,   岸章治

ページ範囲:P.1397 - P.1400

要約 目的:網膜静脈閉塞症が当初疑われたBehçet病の2例を報告する。症例1:32歳男性。近医で右眼の網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)の診断で加療されたが,5か月後に左眼のBRVOが発症し当科紹介。右眼は乳頭耳下側に網膜前出血があった。左眼は耳下側静脈領域に軟性白斑と出血が多発しBRVO様所見を呈していた。口内炎と外陰部潰瘍,下肢の紅斑があり,完全型Behçet病と診断した。症例2:6歳男児。左眼の充血と急激な視力低下にて紹介。左眼では視神経を中心に一面に広がる網膜内出血があり,網膜中心静脈閉塞症(CRVO)様所見を呈していた。口内炎と結節性紅斑があり,不全型Behçet病と診断した。結論:非定型的なBRVO,CRVOではBehçet病の閉塞性血管炎の可能性を念頭に置くべきである。

連載 今月の話題

糖尿病網膜症に対する網膜光凝固の新しいエビデンス

著者: 佐藤幸裕

ページ範囲:P.1283 - P.1289

 欧米では,糖尿病網膜症の進行抑制を目的とする光凝固は汎網膜光凝固のみである。わが国では前増殖網膜症の時期に,蛍光眼底造影で無灌流域を確認して凝固する選択的光凝固が広く行われているが明確なエビデンスはなかった。本稿では,欧米と日本の考え方の違いを概説するとともに,前増殖網膜症に対する選択的光凝固が増殖網膜症の発生防止に有効かを検討した多施設無作為臨床比較試験の結果を紹介する。

網膜剝離ファイトクラブ・Round 11

脈絡膜剝離を伴った網膜剝離

著者: 喜多美穂里 ,   木村英也 ,   日下俊次 ,   栗山晶治 ,   斉藤喜博 ,   塚原康友 ,   安原徹

ページ範囲:P.1290 - P.1298

ファイトクラブにようこそ!

今回は,脈絡膜剝離を伴う網膜剝離の症例を検討します。

このような症例では,灌流ポートをいかにうまく設置するかがキーポイントです。あなたなら,どう治しますか? 一緒に考えてみましょう。

眼科医にもわかる生理活性物質と眼疾患の基本・33

―臨床編:各種眼疾患と生理活性物質とのかかわり―アトピー性皮膚炎の鍵を握るペリオスチン

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1300 - P.1302

はじめに

 前回は,本連載では生理活性物質の代表としてサイトカインを取り上げており,サイトカインはそもそも免疫担当細胞から産生されるタンパク質として知られるようになった,と述べた。今回はちょうど佐賀大学の出原賢治教授(分子生命科学)らのグループがアトピー性皮膚炎の鍵を握るタンパク質としてペリオスチンの作用を世界で初めて明らかにし1),報道などで大きく取り上げられたタイミングでもあるので,彼らの研究成果を概観してみたい。アトピー性皮膚炎は同時に,アトピー性角結膜炎ばかりでなく併発白内障や網膜裂孔,網膜剝離にも関与する疾患であるので眼科医にとっても知っておくべき情報である。

つけよう! 神経眼科力・30

頭頸部外傷後遺症とその対応

著者: 石川均

ページ範囲:P.1304 - P.1308

はじめに

 頭頸部外傷後の眼科受診で多くみられるものは脳神経・眼筋麻痺による複視,自律神経・内眼筋麻痺による調節障害,視神経障害による視力低下ではなかろうか。外傷の原因や程度はさまざまで交通外傷,スポーツ外傷,転落などの事故によるもの,医原性のものもこの範疇に入れるべきかもしれない。損傷の程度は広範囲な脳挫傷を伴ったものから,脳そのものは障害されず周囲の軟部組織,神経,血管損傷などによる虚血まで多岐にわたる。以下,比較的よくみられる頭頸部外傷症例を提示し,それをもとにその対応を含め考えたいと思う。

今月の表紙

強度近視眼球の3D MRI像

著者: 森山無価 ,   中澤満

ページ範囲:P.1309 - P.1309

 表紙はさまざまな強度近視眼球の3D MRI像。aは眼球を側面から観察した像で,下方に突出した大きな後部ぶどう腫が描出されている。bは眼球を下方から観察した像で,眼球後方に延びる巨大な後部ぶどう腫が認められ,さらに方向を変えて後部ぶどう腫が進展している様子がわかる。cは同じく眼球を下方から観察した像で,後部ぶどう腫だけでなく輪状締結術による眼球壁の変形も描出される。dは信号域を調節して視神経を描出させた像である。後部ぶどう腫の近傍に視神経が観察できる。

 MRIはSigna HDxt 1.5T(GE healthcare社)を使用した。撮影シーケンスはCubeでT2強調画像を撮影した。パラメータは次の通り。256×256 matrix,22cm field of view,1.2mm slice thickness,TR 2500ms,TE 90ms,ETL 90。付属のソフトウェアAW4.4にてvolume renderingを行って3次元像を構築した。T2強調画像なので強膜や角膜ではなく,前房水や硝子体液を見ていることになるが,液性成分であるため眼球と眼球以外の境界が明瞭に判別でき,眼球のみを抽出することが非常に容易である。

書評

構造と診断 ゼロからの診断学

著者: 春日武彦

ページ範囲:P.1348 - P.1348

 本書は,診断するという営みについて徹底的に,根源的なところまでさかのぼって考察した本である。それはすなわち医療における直感とかニュアンスとか手応えといった曖昧かつデリケートな(しかし重要極まりない)要素を「あえて」俎上に乗せることでもある。昨日の外来で,ある患者を診た際に感じた「漠然とした気まずさや躊躇」とは何であったのか。やぶ医者,残念な医者,不誠実な医者とならないように留意すべきは何なのか。どうもオレの診療は「ひと味足らない」「詰めが甘い」と不安がよぎる瞬間があったとしたら,どんなことを内省してみるべきか。本書はいたずらに思想や哲学をもてあそぶ本ではない。しっかりと地に足が着いている。極めて現実的かつ実用的な本である。そして,とても正直な本である。「ぼくら臨床医の多くはマゾヒストである。自分が痛めつけられ,苦痛にあえぎ,体力の限界まで労働することに『快感』を覚えるタイプが多い」といった「あるある」的な記述もあれば,うすうす思っていたが上手く言語化できなかった事象を誠に平易な言葉で描出してみせてくれたり,「ああ,こういうことだったんだ」と納得させてくれたり,実に充実した読書体験を提供してくれる。

 蒙を啓いてくれたことがらをいくつか記しておこう。「患者全体が醸し出す全体の雰囲気,これを前亀田総合病院総合診療・感染症科部長の西野洋先生は『ゲシュタルト』と呼んだ」「パッと見,蜂窩織炎の患者と壊死性筋膜炎の患者は違う。これが『ゲシュタルト』の違いである」。蜂窩織炎と壊死性筋膜炎,両者の局所所見はとても似ているが,予後も対応も大違いである。そこを鑑別するためにはゲシュタルトを把握する能力が求められる。わたしが働いている精神科では,例えばパーソナリティー障害には特有のオーラとか独特の違和感といったものを伴いがちだが,それを単なる印象とかヤマ勘みたいなものとして排除するのではなく,ゲシュタルトという言葉のもとに自覚的になれば,診察内容にはある種の豊かさが生まれてくるに違いない。ただし「ゲシュタルト診断は万能ではない。白血病の診断などには使いにくいだろう。繰り返すが,万能の診断プロセスは存在しない。ゲシュタルトでいける時は,いける,くらいの謙虚な主張をここではしておきたい」。

網膜硝子体手術SOS トラブルとその対策

著者: 竹内忍

ページ範囲:P.1401 - P.1401

 術中,術後の合併症は避けることのできないものである。多数例の手術を経験した術者であればあるほど,合併症の経験も数多くあり,皮肉にもその分豊富な対処方法を持っている。その意味では,経験したことのない合併症に遭遇したら,直ちにベテランの術者にアドバイスを求めるのが妥当であろう。実際,昔のことであるが,他の病院から緊急の電話がかかり,「今,硝子体手術中に駆逐性出血が生じたので,どうしたらよいか!?」という問い合わせを受けたことがある。このように緊急時に対応できれば幸運であるが,必ずしもそのような恵まれた状況にあるとは限らない。何らかの合併症に遭遇したら,あらかじめある程度の知識があれば,合併症の程度を最小限にとどめることができるかもしれない。その意味で今回,RETINAの会から『網膜硝子体手術SOS――トラブルとその対策』が上梓されたことは,非常に喜ばしいことである。

 手術の合併症だけをまとめた成書は非常に少なく,特に網膜硝子体手術に関してはほぼ皆無であり,網膜硝子体手術を手がける術者にとっては待望の本が出版されたと言える。RETINAの会は,眼科サージャンズの会が行った症例検討会を引き継いで,年2回の割合で開催されてきたという。眼科サージャンズの会は,故田野保雄先生の提案で「失敗を素直に語り合う会」という一面があり,今回の『網膜硝子体手術SOS』は,まさに合併症への対策を受け継いできた歴史の集大成ではないかと個人的には思える。

やさしい目で きびしい目で・153

夢を持ち続けて

著者: 宮崎千歌

ページ範囲:P.1403 - P.1403

 今春は嬉しさ半分,寂しさ半分,末娘が高校卒業し大学へ入学しました。子育てしながら仕事していると,弁当作り,受験などから解放されるこの日を待ち望んでいたところもありますが,いざこの時を迎えると胸にぽっかりと穴があいたような複雑な心境です。

 夢抱いて大学へ入学する娘を見ていると,そのころを思い出します。自分自身のそのころの夢はいくつ叶い,いくつ破れたでしょうか。

臨床報告

前眼部形状解析装置TMS-5による角膜径(white to white)測定の再現性と他機種との比較検討

著者: 藤原和子 ,   藤村芙佐子 ,   神谷和孝 ,   清水公也

ページ範囲:P.1411 - P.1417

要約 目的:複数の装置で測定した角膜径の値の再現性と装置の比較の報告。対象と方法:屈折異常以外に疾患がない25例46眼を対象とした。男性13眼,女性33眼で,年齢は20~31歳(平均24歳)である。角膜の水平径の測定には,TMS-5,ORBSCAN Ⅱ®,Pentacam®を用いた。2検者がwhite-to-whiteを指標として3回ずつ計測した。結果:TMS-5よる角膜径は,自動測定で11.86±0.34mm,手動で11.87±0.34mmで,両者間に差がなく,検者間にも有意差がなかった。変動係数は,TMS-5による自動と手動測定値ともに2.9%,ORBSCAN Ⅱ®が2.8%,Pentacam®が3.9%であり,Bland-Altman Plots 95%信頼区間については,全機種で高い再現性を示した。TMS-5による測定値は,他機種よりも約0.4mm高値を示した。結論:TMS-5による角膜径の測定値の再現性は良好であり,他機種よりも高い値が得られた。

カラー臨床報告

DNA解析でAlternaria alternataによる角膜真菌症と診断した1例

著者: 岩本怜 ,   横山利幸 ,   比留間政太郎 ,   佐野文子 ,   村上晶

ページ範囲:P.1407 - P.1410

要約 目的:植物の突き目を契機として角膜真菌症が発症し,遺伝子診断で原因がAlternaria alternataと同定された症例の報告。症例:76歳男性が左眼の眼痛と視力低下で受診した。3週間前に蠟梅の植え替えをしていて眼に異物が飛入し,虹彩炎として近医で加療中であった。所見:矯正視力は右1.0,左0.2で,左眼の角膜中央部より外下方に混濁があり,前房内に炎症細胞があった。病巣の擦過により角膜真菌症と診断し,ピマリシン眼軟膏で治療した。病巣は改善し,2週間後には瘢痕治癒した。擦過物の分子生物学的DNA配列の検索で,Alternaria alternataが同定された。結論:Alternaria alternataによる角膜真菌症は,病変が角膜浅層に限局するので,本症例のように経過が良好であることが多い。

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欧文目次

ページ範囲:P.1280 - P.1281

第30回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1312 - P.1312

 第66回日本臨床眼科学会(京都)会期中の2012年10月25日(木)~28日(日)に開催される「第30回眼科写真展」の作品を募集します。

べらどんな 平均余命

著者:

ページ範囲:P.1342 - P.1342

 病気を正確に診断するのは楽ではないが,それ以上に困難なのが予後の判定である。加齢黄斑変性(AMD)でも,これを放置した場合と治療したときとでそれぞれどうなるかを考え,そのうえで治療方針を決めることになる。個々の症例についてAMDの予後が読めれば,それだけでも名医の資格がある。

 眼は左右の二つがある。いわば車がスペアタイヤを積んで走っている感じだが,内科ではそうはいかない。最大の難問が「あと何年生きられるか」の問題である。

べらどんな 異端者

著者:

ページ範囲:P.1379 - P.1379

 時代の常識と大きく離れた革新的な発明には,2通りの受け入れ方がある。エジソンは運が良く,電話でも蓄音機でもすぐ有名になった。これとまったく違ったのが光凝固である。

 ドイツのMeyer-Schwickerath(マイアー・シュヴィッケラート)がこれに着想し,キセノン光凝固装置が1954年に完成するまでに約10年かかった。

ことば・ことば・ことば 消費税

ページ範囲:P.1406 - P.1406

 いちど読んだ本はすぐには読み返さないものですが,ちょっと時間があるときには,英語の辞書が良い相手になります。

 ときどき開いているのが,18世紀に出た英英辞典です。とくに面白いのがSamuel JohnsonのA Dictionary of the English Languageで,1755年に出版されました。Folio版という新聞の半ページくらいに大きく,イギリスでは最初にできた本格的な辞書です。「ページ付け」がないので勘定ができませんが,800ページはたっぷりあります。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1419 - P.1427

投稿規定

ページ範囲:P.1428 - P.1429

希望掲載欄

ページ範囲:P.1430 - P.1430

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.1431 - P.1431

アンケート

ページ範囲:P.1432 - P.1432

次号予告

ページ範囲:P.1433 - P.1433

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1434 - P.1434

 臨床眼科9月号をお届けします。今月号では第65回日本臨床眼科学会講演集の7回目となります。この号が皆さまのお手許に届く頃はもうすでにロンドンオリンピックも遙か以前に終わり,第66回の臨眼総会が目前と言ったところでしょうが,昨年の臨眼で発表された報告の原著に目を通して間接的に臨床経験と考察を共有することで眼科の認識を深めるのも一興かと思います。

 今月の特集は佐藤幸裕先生による「糖尿病網膜症に対する網膜光凝固の新しいエビデンス」です。前増殖糖尿病網膜症に対して無灌流領域への選択的光凝固の有用性と問題点が分かりやすく解説されています。この研究は日本糖尿病眼学会が行ったRCT(無作為臨床比較試験)の結果で,選択的光凝固の効果については世界で最初の研究となります。私も当学会員としてこの研究に参加する立場にありましたが,諸般の事情により1例しかエントリーできず,わが身の不明を恥じております。佐藤先生をはじめ,糖尿病網膜症治療検討小委員会のメンバーには敬意を表したいと同時に,日本でもこのような多施設研究がさらに多く行われ,新しい知見が世界に発信されるようになることを期待します。また,連載の「つけよう!神経眼科力」では頭頸部外傷後遺症による外眼筋麻痺への対応が石川 均先生によって解説されています。大学で眼内疾患を専門に診ている者としては神経眼科はどちらかというと敬遠しがちです。眼内疾患だと様々な検査法によって可視化が可能ですが,神経麻痺となると勝手が異なるというのが最大の理由ではないでしょうか。そのような方々にとっては,この連載が守備範囲を神経眼科へと効果的に拡大させるのに最適な方法ではないかと自負しています。「網膜剝離ファイトクラブ」も脈絡膜剝離を伴った網膜剝離についてのファイトあふれる検討です。理詰めの治療方針の検討にはいつも感心させられます。最後に「生理活性物質」の連載もいよいよ大詰めに近づいてきました。今回は炎症性疾患に関するサイトカインのシリーズ第2弾となります。秋の勉学シーズンの開幕でもあります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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