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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科67巻11号

2013年10月発行

雑誌目次

特集 図で早わかり 実戦!眼科薬理

ページ範囲:P.1 - P.1

本書のねらいと使い方

著者: 中澤満

ページ範囲:P.3 - P.3

 医療行為とは患者の受診があってはじめて開始されるものであり,医療側の好みによって患者を選ぶことは通常不可能である。したがって,医療者側には患者が提示するさまざまな病的状態に可能な限り対応できるような不断の準備と努力が要求される。しかも医学は時代とともに進歩するので,医師としての研鑽は必然的に生涯にわたる。眼科学は眼球とその付属器および視覚に関係する臨床医学分野であるが,その領域に生じる病態には炎症,腫瘍,循環障害,代謝障害,遺伝性変性,加齢変化,退行性変化などバラエティに富んだ病理変化が伴い,それらに対応する治療法には内科的治療,外科手術,レーザー治療など多岐に及ぶものがある。

 本書の読者の多くは第一線で活躍される臨床眼科医であると思われるが,1人の眼科医が眼科学のすべての領域に精通することは現代の眼科学の進歩から鑑みてほぼ不可能ではないかと考えられる。それだけ情報量や技術量が膨大なものとなっているのである。したがって,いろいろな分野に精通した医師同士が連携し合いながらそれぞれの得意分野を分担して診療を進めていくのも望ましい姿であろう。しかし,現実には日本国中のすべての眼科医がそのような恵まれた環境で診療しているわけではない。眼科専門医制度では専門医には眼科学のほぼすべての領域である一定程度の水準を満たすことを義務づけている。これは最初に医療機関を受診する患者に対応する医師が誰であろうとある程度のオールラウンドな診断と治療の方向性を考慮できるようになるためであり,日本の眼科医の医療レベルを担保するための方策として意義がある。

Ⅰ.眼科臨床薬理総論

ページ範囲:P.7 - P.7

点眼療法の基本原理

著者: 横井則彦

ページ範囲:P.8 - P.13

POINT

◎点眼薬による治療は前眼部が主なターゲットとなる。

◎点眼薬中の成分は,主として角膜を透過し,眼内の前房,虹彩・毛様体,水晶体などへと移行する。

◎点眼薬のバイオアベイラビリティは薬物の物理化学的性質,点眼薬の剤型,投与量,濃度,投与間隔などに影響される。

眼科におけるステロイド療法の注意点と要点

著者: 鈴木潤

ページ範囲:P.14 - P.17

POINT

◎炎症の程度,作用させたい部位に適した薬剤,投与方法を選択する。

◎ステロイド薬による副作用を認識する。

眼科における抗菌薬投与の注意点と要点

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.18 - P.22

POINT

◎PK/PDに沿った薬物療法を考える。PKは薬の体内での動きと到達性,PDは微生物に対する抗菌力である。

◎眼感染症では組織部位別に局所投与と全身投与のウエイトを考える。眼組織では大半が点眼を主とする局所投与がより重要である。

テノン囊下注射のコツ

著者: 多田明日美 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.23 - P.27

POINT

◎患者に事前に副作用や合併症について十分に説明をしておく。

◎点眼麻酔で十分に痛みをとっておく。

◎抗菌薬点眼やイソジンなどでしっかり感染予防をしておく。

◎強膜をしっかり露出させる。

硝子体内注射のコツ

著者: 島田宏之

ページ範囲:P.28 - P.32

POINT

◎医師,看護師は必ず帽子とマスクを使用する。患者は帽子を使用し,口はマスクかドレープで覆う。

◎眼瞼皮膚を10%ヨード,結膜を0.25%ヨードで洗浄する。開瞼器を設置後に再度,結膜を0.25%ヨードで洗浄する。

◎結膜囊に0.25%ヨードが残った状態で30秒間待ってから硝子体内注射をする。

眼科における抗癌剤・免疫抑制薬使用にあたっての注意点

著者: 安積淳

ページ範囲:P.33 - P.38

POINT

◎眼科で用いられる免疫抑制薬や抗癌剤は多くはない。

◎副腎皮質ステロイド薬全身投与時の副作用管理法に習熟すべきである。

◎免疫抑制薬全身投与時には個々の薬剤特異的な副作用がある。

◎抗癌剤は眼局所で使用する場合が多く,全身副作用は稀である。

◎全身管理を通して関連他科との相互理解を深め,安全な薬剤使用を心掛けるべきである。

眼科分子標的治療の進歩

著者: 野田航介

ページ範囲:P.39 - P.43

POINT

◎分子標的治療とは「疾患に関与する遺伝子および遺伝子産物を標的とした薬物治療」のことである。

◎基礎研究による分子メカニズムの解明と多様な創薬アイデアが,より強力な分子標的治療薬の開発に寄与し,治療成績も向上させる。

◎しかしながら,分子標的治療には未知のadverse eventの可能性があるため,臨床における注意深い経過観察が必要である。

Ⅱ.眼科臨床薬理各論

ページ範囲:P.45 - P.45

1.外眼部・前眼部疾患

細菌性結膜炎

著者: 堀田芙美香 ,   江口洋

ページ範囲:P.46 - P.51

POINT

◎患者背景から起炎菌を推定する。

◎可能な限り結膜擦過物や眼脂の塗抹・検鏡と細菌の分離・培養検査を行う。

◎塗抹・検鏡ができない場合は,初期治療としてセフェム系点眼薬を使用する。

◎塗抹・検鏡ができる場合は,染色像を参考に起炎菌を絞り込み,抗菌薬を選択する。

◎初期治療が有効でない場合,薬剤感受性試験の結果を参考に抗菌薬を変更する。

ウイルス性結膜炎

著者: 庄司純

ページ範囲:P.52 - P.56

POINT

◎アデノウイルス結膜炎の治療は,抗菌点眼薬や副腎皮質ステロイド薬による対症療法で自然治癒を待つ治療法がとられる。

◎アデノウイルスに対して用いられる主な消毒薬は,① アルコール類,② 次亜塩素酸塩,③ ヨード剤である。

◎単純ヘルペス結膜炎の治療には,ウイルスの核酸合成阻害薬であるアシクロビルまたはバラシクロビルが用いられる。

アレルギー性結膜炎

著者: 高村悦子

ページ範囲:P.57 - P.61

POINT

◎アレルギー性結膜疾患はⅠ型アレルギーが関与する結膜の炎症疾患で,アレルギー性結膜炎では即時相が,また春季カタルでは遅発相が病態に関与する。

◎アレルギー性結膜疾患の治療の第一選択薬は抗アレルギー点眼薬である。

◎アレルギー性結膜炎では,症状悪化時のみ,低濃度ステロイド点眼薬を短期間追加する。

◎スギ花粉によるアレルギー性結膜炎に対しては,スギ花粉飛散初期の症状がないか,あってもごく軽度の時期から抗アレルギー点眼薬を開始する初期療法が有効である。

◎春季カタルの治療には,抗アレルギー点眼薬,免疫抑制点眼薬(カルシニューリン阻害薬),ステロイド点眼薬が用いられる。

単純ヘルペス角膜炎

著者: 星最智

ページ範囲:P.62 - P.65

POINT

◎アシクロビルはヘルペスウイルスのチミジンキナーゼによってリン酸化され,ウイルスのDNA合成を阻害することで抗ウイルス作用を示す。

◎バラシクロビルはアシクロビルのプロドラッグであり,アシクロビル内服よりも生物学的利用能が優れた薬剤である。

◎上皮型角膜ヘルペスの病態は角膜上皮細胞のウイルス感染であり,アシクロビル眼軟膏で治療する。

◎実質型と内皮型角膜ヘルペスの病態は標的細胞のウイルス感染とウイルス抗原に対する宿主の免疫反応と考えられており,アシクロビル眼軟膏やバラシクロビル内服による抗ウイルス治療と,副腎皮質ステロイド薬の点眼または内服による消炎治療を行う。

アカントアメーバ角膜炎

著者: 森重直行 ,   植田喜一

ページ範囲:P.66 - P.71

POINT

◎アカントアメーバ角膜炎は,コンタクトレンズユーザーに好発する。

◎アカントアメーバ角膜炎の病期は,初期,移行期,増殖期の3期に分けられる。

◎アカントアメーバに対する特効薬的な薬剤はなく,3者併用療法で治療する。

細菌性角膜炎

著者: 佐々木香る

ページ範囲:P.72 - P.78

POINT

◎サーベイランス,感受性,FICを考慮すると,グラム陽性球菌ではニューキノロン+セフメノキシム点眼薬,グラム陰性桿菌ではニューキノロン+アミノグリコシド点眼薬を選択する。

◎高濃度,頻回点眼が可能という点眼薬の特性から,臨床所見と薬剤感受性結果の解離がみられることもある。

◎実際の病態には,菌によるバイオフィルムの形成や炎症細胞の集積があるため,物理的除去(掻爬)も考慮する。

◎角膜炎の起因菌のうち,ニューキノロンの耐性菌として注意が必要なのは,MRSA(methicillin-resistant Staphylococcus aureus),コリネバクテリウム,非定型抗酸菌(マイコバクテリウム),放線菌である。

角膜内皮炎

著者: 白石敦

ページ範囲:P.79 - P.85

POINT

◎角膜内皮炎はHSV,VZV,CMVの角膜内皮細胞への感染が原因である。

◎角膜実質炎との鑑別は角膜実質への細胞浸潤・血管侵入がないことで行う。

◎診断には前房水PCR法が有効である。

◎原因ウイルスにより治療薬の種類・投与量・投与方法が異なる。

真菌性角膜炎

著者: 宇野敏彦

ページ範囲:P.86 - P.91

POINT

◎真菌は形態学的に大きく糸状真菌と酵母状真菌の2つに分類される。

◎抗真菌薬の効果は糸状真菌か酵母状真菌かによって大きく異なる。

◎酵母状真菌では起炎菌としてCandida albicansを代表とするカンジダ属が最も多く,その他non-albicans Candidaと呼ばれる種類も増加傾向にある。また,糸状真菌ではFusarium solaniをはじめとするフサリウム属が多く,AlternariaAspergillusPenicilliumなども比較的頻度が高い。

◎眼科領域で使用できる抗真菌薬は少なく,治療に苦慮する例も多い。最終的には角膜移植を含む外科的治療も考慮する必要がある。

強膜炎

著者: 目時友美

ページ範囲:P.92 - P.96

POINT

◎非感染性と感染性の鑑別を行う。

◎非感染性強膜炎は免疫疾患との関連性が知られている。

◎ステロイド薬による治療を行う。

涙腺炎(IgG4涙腺炎を含む)

著者: 大島浩一

ページ範囲:P.97 - P.106

POINT

◎涙腺炎の画像所見の特徴はmoldingを示すことである。画像所見により炎症と悪性リンパ腫を区別することはできない。

◎急性涙腺炎の原因は,多くの場合,細菌感染またはウイルス感染である。

◎慢性涙腺炎の原因は多様である。特に眼窩腫瘍との鑑別が重要である。

◎IgG4関連眼疾患の病因は不明である。診断には血清IgG4値と病理所見が重要である。

眼窩炎症性疾患(涙腺炎以外)

著者: 久保田敏信

ページ範囲:P.107 - P.112

POINT

◎眼窩炎症性疾患はIgG4関連眼疾患,特発性眼窩炎症,眼窩蜂巣炎が3大疾患である。

◎IgG4関連眼疾患は原因が不明であるが,症状の程度にかかわらず,中等度用量ステロイド加療から緩やかな漸減加療が著効する。

◎特発性眼窩炎症も原因が不明であるが,ステロイド加療が奏効し,診断時と状態の経過から投与方法が考慮される。

涙囊炎

著者: 廣瀬美央

ページ範囲:P.113 - P.118

POINT

◎涙囊貯留物の培養・感受性試験を行う。

◎急性期は起因菌を想定した抗菌薬投与を行い,慢性期は原則として抗菌薬投与は行わない。

◎小児はインフルエンザ菌・肺炎球菌が起因菌となることが特徴である。

◎成人はブドウ球菌(MRSAを含む)・緑膿菌など多様である。

◎根治治療として涙道閉塞の解除を行う。

ドライアイ

著者: 山口昌彦

ページ範囲:P.121 - P.126

POINT

◎涙液層は,水層を中心として,ムチンや油層によってその安定性を保つ仕組みが成り立っている。

◎ドライアイの主な病態は涙液減少と涙液蒸発であり,これらを引き起こすさまざまな要因を的確に発見・診断し,治療戦略を立てることが重要である。一方,涙液層破壊時間(BUT)短縮型ドライアイという新しい疾患概念があり,日常臨床上,治療抵抗性であることが多い。

◎ジクアホソルナトリウム点眼液,レバミピド点眼液の登場により,これまで個別にアプローチが困難であった涙液各層をターゲットとする治療が可能になり,涙液層別治療(TFOT)という概念が提唱されている。

◎ジクアホソル点眼,レバミピド点眼により,これまで治療に苦慮していた自覚症状の強いSjögren症候群やBUT短縮型ドライアイを,点眼のみによって寛解状態に持ち込めるケースが増えてきた。

Sjögren症候群

著者: 北川和子

ページ範囲:P.127 - P.131

POINT

◎Sjögren症候群は涙腺,唾液腺のリンパ球浸潤を主体とする慢性の自己免疫疾患で,多彩な自己抗体が出現する。その発症には遺伝的要因,ウイルス感染などの環境要因,免疫要因,加齢などが複雑に関与する。

◎眼乾燥,口腔乾燥を主徴とし,中年女性に好発する疾患であり,膠原病に合併する続発性Sjögren症候群と合併しない原発性Sjögren症候群に分類される。原発性Sjögren症候群では涙腺,唾液腺以外の全身多臓器の病変(腺外病変)が半数にみられ,一部の症例では悪性リンパ腫を発症する。

◎内科,歯科・口腔外科と連携して診断・治療にあたることが望ましい。口腔乾燥にはムスカリンM3受容体作用薬の全身投与が適応となる。

◎Sjögren症候群における眼乾燥の治療は通常のドライアイと同様であるが,Sjögren症候群ではより重症である場合が多く,障害が高度であれば積極的に涙点閉鎖を治療の選択肢とする。

重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群ならびに中毒性表皮壊死症

著者: 上田真由美 ,   外園千恵

ページ範囲:P.132 - P.139

POINT

◎眼粘膜病変を伴うStevens-Johnson症候群および中毒性表皮壊死症では発症時に両眼性の急性結膜炎,口唇・口腔内のびらん,爪囲炎を認める。

◎偽膜ならびに角結膜上皮欠損を伴う場合は,後遺症を生ずる可能性が高く,重篤である。

◎発症4日以内にステロイドパルス療法ならびステロイド眼局所投与を開始することが有用であり,急性期の消炎治療が眼科的予後に影響する。

◎発症に薬剤(特に感冒薬)ならびに微生物感染が関与している可能性がある。

2.内眼炎(ぶどう膜炎),眼内炎症

サルコイドーシス(ステロイドの合併症)

著者: 蕪城俊克

ページ範囲:P.140 - P.145

POINT

◎サルコイドーシスは何らかの病原体に対する過剰な免疫反応で起きると推測されている。

◎治療はステロイド局所投与(眼球周囲注射を含む)による消炎と散瞳薬による瞳孔管理を基本とするが,視機能障害の恐れがある場合はステロイドの全身投与を検討する。

◎遷延する黄斑浮腫は黄斑変性に至ることがあるため,視機能障害が不可逆的になる前に硝子体手術を検討する。

◎ステロイドの副作用に注意するだけでなく,副作用についてあらかじめ患者によく説明しておく必要がある。

原田病

著者: 奥貫陽子

ページ範囲:P.146 - P.150

POINT

◎原田病はメラノサイトに対する全身性の自己免疫疾患である。

◎ステロイド薬の全身投与が第一選択である。

◎シクロスポリンは主にT細胞の活性化を抑制することにより,ステロイド薬無効例に対する効果が期待できる。

Behçet病

著者: 北市伸義

ページ範囲:P.151 - P.156

POINT

◎Behçet病眼病変診療ガイドライン(第1版)が完成した。

◎基本病態は好中球の機能亢進である。

◎ゲノムワイド関連解析でHLA-B51HLA-A26IL-10IL-23R/IL-12RB2遺伝子が強く関連していることが判明した。

◎抗TNF-α抗体が劇的な効果を示すが,導入時のスクリーニング,投与時反応に適切な対応が必要である。

ウイルス性ぶどう膜炎(急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎)

著者: 阿部俊明

ページ範囲:P.157 - P.161

POINT

◎急性網膜壊死もサイトメガロウイルス網膜炎もヘルペスウイルスの局所感染が関与するが,抗ウイルス薬や手術を積極的に行っても,いまだに予後不良の症例が多くみられる。

◎抗ウイルス薬の投与法には全身投与と局所投与があり,手術を併用することも多く,消炎のために同時にステロイドも局所,全身に使用する。

◎予後不良例が多いことを踏まえて積極的な検査で診断し,薬剤や手術開始などのタイミングを適切に判断し,薬剤の作用機序や副作用を十分に理解して速やかに治療を開始する。

真菌性眼内炎

著者: 杉田直

ページ範囲:P.162 - P.166

POINT

◎IVHや静脈留置カテーテルの既往歴,または免疫不全状態の患者で,網膜滲出斑,硝子体混濁があれば真菌性眼内炎を疑う(特に両眼性)。

◎診断後,抗真菌薬〔例:フルコナゾール(ジフルカン®)400mg 1日1回〕の点滴静注を開始する。

◎進行が早い症例では機を逸せず抗真菌薬含有の灌流液下で硝子体手術を行う。

◎原因真菌が不明なケースと同定されているケースでは実際の処方が異なるので,臨機応変に対応することが大切である。

細菌性眼内炎

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.167 - P.171

POINT

◎細菌性眼内炎の病態成立の要因となるのは,無菌的な,いわば細菌培養の培地のような硝子体内への細菌の侵入である。

◎術後眼内炎にはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS),腸球菌などのグラム陽性菌が多い早期感染例と,Propionibacterium acnesや表皮ブドウ球菌などの弱毒菌による遅発感染例とがある。内因性細菌性眼内炎は肝膿瘍が原発巣として最も多く,起炎菌はグラム陰性菌が多い。

◎治療法としては硝子体内注射と硝子体手術があり,軽症例では前者でも治療できるが,硝子体への感染性炎症の波及が確実と思われる中等症以上の症例では後者が最も確実な治療法である。

3.内分泌疾患

甲状腺眼症

著者: 高橋靖弘 ,   柿﨑裕彦

ページ範囲:P.172 - P.180

POINT

◎甲状腺眼症は眼部を標的とした自己免疫性炎症性疾患であり,消炎治療を行う場合には,副作用が少なく,効果が大きいステロイドパルス治療を選択する。

◎上眼瞼後退症例で,上眼瞼挙筋およびMüller筋に炎症があり,線維化の進行していない場合には,トリアムシノロンアセトニドまたはボツリヌス毒素Aの局所注射が有効である。

◎甲状腺眼症に伴うドライアイ・上輪部角結膜炎に対しては,点眼・眼軟膏を用いて治療する。

◎甲状腺眼症に伴う眼圧上昇に対しては,房水産生抑制点眼薬が第一選択となる。

4.神経系疾患

特発性視神経炎

著者: 中馬秀樹

ページ範囲:P.181 - P.187

POINT

◎特発性視神経炎の病態生理は,多発性硬化症(MS)の病態生理に準じ,Th1優位に髄鞘を破壊する。

◎メチルプレドニゾロンは抗炎症作用とTh1の細胞傷害性T細胞(感作T細胞)への分化を抑制することで視力回復の期間を短縮させ,2年間はMSへの移行を少なくする。

◎インターフェロン(IFN)-βは主にT細胞の活性化抑制,炎症性サイトカインの産生抑制,Th1からTh2へのサイトカインバランスのシフトにより,視神経炎発症3年以降もMSへの移行を約30%少なくし,再発率も約30%少なくする。

◎Glatiramer acetateはMHCクラスⅡ抗原に競合的に結合し,T細胞への抗原提示を阻害することで視神経炎発症3年以降もMSへの移行を約30%少なくし,再発率も約30%少なくする。

抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎

著者: 國吉一樹

ページ範囲:P.188 - P.193

POINT

◎抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎とは,血清中の抗アクアポリン4抗体が陽性である視神経炎で,すべての視神経炎の10~38%を占める。

◎抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の多くは初発時に球後視神経炎の形をとり,経過中に視神経脊髄炎になることが多い。

◎抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎は,他のタイプの視神経炎に有効であるステロイドパルス治療に低反応ないし無効で,視力予後は不良である。

◎発症早期に血漿交換を行うと有効である。

◎近年ではステロイドパルス治療後の大量免疫グロブリン投与の有効性が報告され,臨床治験が進行中である。

非定型視神経炎

著者: 増田洋一郎

ページ範囲:P.194 - P.198

POINT

◎原因検索が治療の原則(詳細な病歴聴取,神経眼科的検査,神経学的検査,血液検査,ウイルス・免疫・分子生物学的検査,電気生理学的検査,MRI,髄液検査)である。

◎狭義の非定型視神経炎はステロイド治療に対する反応が良好であり,発症早期のステロイド治療が視力予後に影響する。

◎ステロイドの投与量漸減中に再発しやすいため,離脱困難な症例には免疫抑制薬を併用する。

眼瞼顔面痙攣

著者: 木村亜紀子

ページ範囲:P.199 - P.203

POINT

◎眼瞼顔面痙攣は本態性眼瞼痙攣と片側顔面痙攣に分けて考える必要がある。

◎本態性眼瞼痙攣は現在のところ原因不明の難病であり,重症型では強い閉瞼により機能的失明状態となる。

◎片側顔面痙攣は顔面神経が血管に圧迫されて生じる神経血管圧迫症候群の1つであり,眼瞼だけでなく,重症になるとあらゆる顔面神経支配の顔面筋に痙攣が広がり,開瞼困難に加えて,笑顔が引きつる,口角が上がりしゃべりにくいなどさまざまな症状が現れる。

◎どちらもボツリヌスA型毒素療法が有効である。

眼筋型重症筋無力症

著者: 三村治 ,   木村直樹

ページ範囲:P.204 - P.209

POINT

◎眼筋型では今なお抗コリンエステラーゼ(ChE)薬内服が第一選択である。

◎抗ChE薬が無効あるいは副作用で内服困難であれば,低用量ステロイドの隔日朝1回内服投与を行う。

◎ステロイドによる副作用や再発・再燃反復例では速やかにカルシニューリン阻害薬(CNI)であるタクロリムスを導入し,ステロイドの減量・離脱を図る。

◎融像困難や大角度の斜視,さらに整容上問題になる眼瞼下垂がみられれば,斜視手術や眼瞼手術を積極的に行うべきである。

5.網膜疾患

網膜静脈分枝閉塞症

著者: 﨑元晋 ,   瓶井資弘

ページ範囲:P.210 - P.217

POINT

◎血管内皮増殖因子(VEGF)をターゲットとした硝子体注射療法は,網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)による黄斑浮腫に対して有用であることが大規模スタディによって明らかにされている。

◎抗VEGF抗体の注射療法は,注射間隔があくと黄斑浮腫が再発する場合があり,長期経過では光凝固治療などとの併用効果を検討する必要がある。

網膜中心静脈閉塞症

著者: 鈴木幸彦

ページ範囲:P.218 - P.223

POINT

◎フルオレセイン蛍光眼底造影検査により虚血型か非虚血型かを判定する。虚血型の場合,血管新生緑内障を予防するため,網膜光凝固術や抗VEGF薬の硝子体注射を考慮する。

◎虚血型・非虚血型にかかわらず,黄斑浮腫により視力低下がみられた場合は,抗VEGF薬の硝子体注射,あるいはトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下や硝子体注射を行う(その際には眼内炎の予防に努める)。

◎血管閉塞性疾患なので,全身性疾患の有無を把握する。エビデンスレベルは高くないが,抗血小板薬や抗凝固薬の投与も検討する。

網膜中心動脈閉塞症

著者: 國方彦志

ページ範囲:P.224 - P.230

POINT

◎発症時期から大別した網膜中心動脈閉塞症治療の目的は,急性期には網膜中心動脈の再灌流,亜急性期には血管新生合併症発症の予防,長期的には目または他臓器の虚血性イベント発症の予防,の3つに分けられる。

◎エビデンスが明らかに証明されている効果的な網膜中心動脈閉塞症の治療は,現在でも存在しないのが現状である。

◎血管新生緑内障が続発する可能性を考慮すると,視力にかかわらず,少なくとも発症後4か月程度は毎月のフォローが必要と思われる。

◎網膜中心動脈閉塞症に対する薬剤を用いた治療は,全身に影響することが多く,血栓溶解薬,眼圧降下薬,星状神経節ブロックなど各治療・手技においてそれぞれ重篤な副作用・合併症があるので十分に注意する。

糖尿病黄斑浮腫

著者: 志村雅彦

ページ範囲:P.231 - P.238

POINT

◎糖尿病黄斑浮腫は病態が多様,かつそのほとんどが不明であり,根本的な治療法は確立されていない。

◎現在,糖尿病黄斑浮腫に対する薬物治療は抗炎症ステロイドと抗VEGF抗体の局所投与のみであり,いずれも姑息的治療である。

◎糖尿病黄斑浮腫の形態別に薬物治療の効果が異なっている。

◎薬物治療は組み合わせ治療,または外科的治療との併用治療としても有効である。

網膜色素変性

著者: 村上祐介 ,   池田康博

ページ範囲:P.239 - P.245

POINT

◎網膜色素変性は遺伝性の網膜変性疾患で,桿体細胞の機能不全および細胞死によって夜盲や視野狭窄をきたす。

◎病期が進行すると,桿体細胞のアポトーシスに続いて錐体の細胞死が起こり,中心視力も低下する。

◎現在のところ,網膜色素変性に対して明確な有効性を示す治療法は確立されていないものの,病態理解の進歩からさまざまな治療薬の開発が進んでおり,世界中で臨床研究が実施されている。

◎黄斑浮腫などの網膜色素変性の合併症に対しては,既存の治療薬が有効である症例がある。

加齢黄斑変性

著者: 齋藤昌晃

ページ範囲:P.246 - P.254

POINT

◎加齢黄斑変性はわが国でも増加中の疾患で,治療は抗VEGF薬を用いることが主流である。

◎加齢黄斑変性は典型加齢黄斑変性,ポリープ状脈絡膜血管症,網膜血管腫状増殖の3病型に分けられ,それぞれに治療方針を考える必要がある。

◎加齢黄斑変性の適切な治療には正確な診断が不可欠である。

中心性漿液性脈絡網膜症

著者: 丸子一朗

ページ範囲:P.256 - P.264

POINT

◎現在,エビデンスのある薬物治療はない。

◎現時点では自然軽快しない症例には漏出点へのレーザー光凝固術が第一選択の治療法である。

◎脈絡膜の肥厚があることから,症例によっては光線力学的療法も考慮する(ただし,専門医へのコンサルトが必要)。

硝子体手術と可視化剤

著者: 久冨智朗 ,   江内田寛

ページ範囲:P.265 - P.269

POINT

◎硝子体可視化法の歴史を理解し,適切な適用を考慮する。

◎目的に応じた可視化剤の選択と使用法を理解する。

◎可視化剤のメリット,デメリットを理解して有効に利用する。

6.白内障

白内障周術期の薬物療法

著者: 石井清

ページ範囲:P.270 - P.274

POINT

◎術野の減菌化のために術前に抗生物質の点眼を行う。

◎白内障手術当日の減菌化には抗生物質とポビドンヨード希釈液の点眼,また薬物療法としては散瞳剤とNSAIDsを用いる。

◎白内障手術後の点眼治療としてはレボフロキサシン,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム,ブロムフェナクナトリウム水和物を処方する。

7.緑内障

原発開放隅角緑内障の臨床薬理

著者: 中澤徹

ページ範囲:P.275 - P.280

POINT

◎眼圧下降は,房水産生抑制とぶどう膜強膜流出路からの房水排出亢進により起こる。

◎各種点眼薬は異なる作用機序で眼圧下降を引き起こす。

◎各種点眼薬には全身・局所の副作用を認める。

原発閉塞隅角緑内障の臨床薬理

著者: 酒井寛

ページ範囲:P.281 - P.286

POINT

◎原発閉塞隅角緑内障は多因子疾患である。

◎原発閉塞隅角緑内障の治療は手術が基本であり,薬物療法は手術を補完するものである。

◎新しい抗緑内障薬ブリモニジンには眼圧下降作用に加えて弱い縮瞳作用があり,暗室うつ伏せ試験を陰性化する。

◎手術により隅角が開放した後の残余緑内障は開放隅角緑内障として治療を行う。

小児に対する緑内障薬物治療

著者: 中野匡

ページ範囲:P.287 - P.291

POINT

◎小児に対して安全性が確認された眼圧下降薬はない。

◎大部分の症例は手術が第一選択であり,漫然と薬物治療を継続し,手術適応を遅らせないように注意する。

◎正確に眼圧測定をするためには根気が必要で,良好なアドヒアランスを維持するには治療に対する保護者の理解,協力も大変重要となる。

各種続発緑内障に対する薬物治療の考え方

著者: 植田俊彦

ページ範囲:P.292 - P.296

POINT

◎眼圧治療とともに基礎疾患の治療を行う。

◎隅角所見で眼圧上昇機序を鑑別する。

◎ピロカルピンは禁忌である。

濾過手術術中術後の薬物治療

著者: 布施昇男

ページ範囲:P.297 - P.301

POINT

◎眼圧は房水産生と房水濾過のバランスで決まる。

◎濾過手術後に重要なのは,炎症,術後瘢痕化である。

◎濾過胞感染は特に注意すべき術後合併症である。

8.眼科腫瘍性疾患

網膜芽細胞腫の化学療法の考え方

著者: 鈴木茂伸

ページ範囲:P.302 - P.308

POINT

◎硝子体播種,網膜下播種,眼球外浸潤など,腫瘍の広がりを的確に把握する。

◎腫瘍縮小か,転移予防か,救命治療か,化学療法の目標を設定する。

◎眼内腫瘍に対しては局所化学療法が行われる。

眼窩部悪性腫瘍の治療方針と後療法の考え方

著者: 大島浩一

ページ範囲:P.310 - P.317

POINT

◎固形癌に対しては,多くの場合,化学療法のみでは完治を期待できない。一方,悪性リンパ腫,白血病や横紋筋肉腫では,強力な化学療法により完全治癒や著明な腫瘍縮小を期待しうる。

◎眼付属器に初発するMALTリンパ腫は,眼窩悪性リンパ腫の約8割を占める。経過の緩やかなものが多く,他部位に転移する可能性は低い。

◎眼窩びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は,眼窩悪性リンパ腫の1~2割を占める。悪性度が高く,全身化学療法の対象となる。

◎横紋筋肉腫に対しては,全身化学療法,外科手術,放射線治療の組み合わせが標準的治療として確立されている。胎児型で,治療開始時に遠隔転移がなく,肉眼的に腫瘍摘出が可能であれば,生存率は9割近くになる。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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