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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科67巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

特集 中心性漿液性脈絡網膜症の病態と治療

網膜下液の貯留と吸収

著者: 喜多美穂里

ページ範囲:P.121 - P.126

はじめに

 中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorioretinopathy:CSC)は,1866年にvon Graefeによって“relapsing central luetic retinitis”として最初に報告され1),古くから知られた疾患であるが,その病態については今なお不明な点も多い。本稿では,網膜下における水の流れから,本疾患を考えてみる。

フルオレセイン蛍光眼底造影からみた病態

著者: 髙橋寛二

ページ範囲:P.128 - P.135

はじめに

 中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorioretinopathy:CSC)は脈絡膜血管透過性亢進を原発病変とし,網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE)がもつ外側血液網膜関門が二次的に破綻し,脈絡膜から網膜下への漿液の漏出と貯留が起こる疾患である。

 フルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography:FA)は,この疾患の病態を非常によく表す検査であり,古くから画像読影の解釈が行われてきた1,2)。CSCのFA所見は病型によってバリエーションがあり,また治療後の反応パターンや他疾患との鑑別が重要である。本稿ではCSCのFA所見について,病態からみた病型別の特徴と,治療後の読影および他疾患との鑑別ポイントについて述べる。

インドシアニングリーン蛍光眼底造影からみた病態

著者: 森本雅裕 ,   佐藤拓

ページ範囲:P.136 - P.140

はじめに

 1980年代後半から本格的に眼科で臨床応用され始めたインドシアニングリーン蛍光眼底造影では,励起光とインドシアニングリーンの発する蛍光が近赤外領域にあるために眼内組織の侵達性に優れ,フルオレセイン蛍光眼底造影では観察困難な脈絡膜循環動態や脈絡膜血管系の観察が可能である1,2)。インドシアニングリーン蛍光眼底造影は加齢黄斑変性をはじめとしたさまざまな眼底疾患の臨床研究に用いられ,ポリープ状脈絡膜血管症や網膜内血管腫状増殖など新しい疾患概念の確立や,脈絡膜循環障害の解析に大きく貢献してきた3~7)

 中心性漿液性脈絡網膜症に関してもインドシアニングリーン蛍光眼底造影を用いた研究から病態の理解が飛躍的に進歩し,主病巣は脈絡膜にあり,網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:RPE)障害は二次的変化であることが証明されてきた8~12)。本稿ではインドシアニングリーン蛍光眼底造影の知見から中心性漿液性脈絡網膜症がどのように解釈されるようになったかを解説する。

OCTからみた病態

著者: 丸子一朗

ページ範囲:P.142 - P.148

はじめに

 光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は1997年にわが国に紹介され,それ以降さまざまな黄斑疾患の病態解明に貢献してきた。初期型のタイムドメインOCTは1枚のBスキャン撮影に約1秒かかったものの,これまで曖昧に理解されてきた黄斑円孔と偽円孔や黄斑浮腫と黄斑剝離などが判別可能であり,その臨床への貢献は大きかった。その後2006年にはスペクトラルドメイン(SD)-OCTが登場し,それまでの数十倍の高速化・高解像度化を達成したことで,臨床面だけでなく研究面でも使用されるようになってきた。現在では通常の市販機よりも長波長の光源を用いた高侵逹OCTも開発され,さらなる進化をとげている。

 一方,中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorioretinopathy:CSC)の典型例は30~40歳代の中年男性に好発し,片眼性に中心窩を含む漿液性網膜剝離が生じる。フルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography:FA)では網膜色素上皮レベルの1か所または複数箇所の蛍光漏出を示すことから,網膜色素上皮のバリア機能の破綻が局所的または広範囲にわたって生じていることが漿液性網膜剝離の発症要因であることは明らかである。さらに1990年代のインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanine green angiography:IA)による研究で,脈絡膜血管の充盈遅延や血管拡張および異常脈絡膜組織染が観察され,脈絡膜異常が指摘されるようになった1~3)。特に異常脈絡膜組織染はIAの中~後期に観察され,これは脈絡膜血管透過性亢進を示唆する所見とされる。この脈絡膜血管透過性亢進によって,脈絡膜に貯留した水分が網膜色素上皮のバリア破綻部位を通って網膜下に移動することで漿液性網膜剝離を生じると考えられる。

 以上のようにCSCは,視機能に直接関与する網膜障害は脈絡膜の異常,特に脈絡膜血管透過性亢進が発症の一次的原因となって引き起こされていることがわかってきた。これまで脈絡膜は眼血流の8~9割を占めるものの,網膜とは異なりあまり注目されることはなかったが,最近OCTで脈絡膜を観察することがトピックとなっている。そこで本稿では,OCTを用いてCSCの病態を網膜側からだけでなく,脈絡膜側からも合わせて評価してみる。

自発蛍光からみた病態

著者: 石龍鉄樹

ページ範囲:P.150 - P.155

はじめに

 中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorioretinopathy:CSC)は,視力予後良好な疾患であるといわれているが,遷延例,再発例では,視力がかなり低下することも少なくない。また,漿液性網膜剝離消失後も,長期にわたり見え方の異常を訴える患者が多い。CSCによるこのような視覚異常には,漿液性網膜剝離に伴う視細胞,網膜色素上皮細胞の病態が深くかかわっている。この病態は,CSCだけではなく網膜剝離をきたす疾患に共通すると考えられ,網膜剝離に伴う網膜の変性を考えるうえでも興味深い。

 自発蛍光研究の初期から,CSCでは特異な自発蛍光がみられることが知られていた1)。自発蛍光物質の生化学的な理解が進み,眼底自発蛍光が剝離網膜下の病態を反映していることが明らかとなった。本稿では,眼底自発蛍光で明らかになったCSCで起きている網膜下の病態を中心に述べる。

関連因子からみた病態

著者: 本田茂

ページ範囲:P.156 - P.159

はじめに

 中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorio-retinopathy:CSC)は30~50歳代の男性に好発する疾患である。臨床的には脈絡膜から網膜下への漿液性漏出を主体とする病気で,脈絡膜血管の拡張や透過性亢進などの所見がみられるが,それらの発生メカニズムや原因についてはほとんどわかっていない。疾患の経過中に自然治癒がみられる一方,しばしば再発し,治療が困難なケースも少なくない。また,CSCは加齢黄斑変性,特にポリープ状脈絡膜血管症(polypoidal chroidal vasculopathy:PCV)の危険因子の1つに数えられることもあるが,両疾患の病態的な関連性については現在に至るまで不明である。

 本稿ではCSCの関連因子をまとめ,同疾患の病態メカニズムをできるかぎり生化学的に考察する。また,CSCと加齢黄斑変性における疾患の分子生物学的共通性および相違性を検討する。

最近の治療方針

著者: 後藤聡 ,   五味文

ページ範囲:P.160 - P.164

はじめに

 中心性漿液性脈絡網膜症(central serous chorioretinopathy:CSC)では,網膜色素上皮に障害が起こり,外血液網膜関門が破綻するために脈絡膜側より網膜下への水分漏出が起こると考えられていた。しかしインドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanine green angiography:IA)の登場により,脈絡膜毛細血管の透過性亢進(hyperpermeability)がCSCの主要因であり,網膜色素上皮障害は二次的なものであることがわかってきた1,2)。このことによりCSCの治療戦略も近年変化してきている。本稿では,現在までのCSCに対する治療を振り返りながら,最新の治療方法についてまとめてみたい。

連載 何が見える? 何がわかる? OCT・第2回

黄斑円孔と偽黄斑円孔の見分け方のポイント

著者: 白神千恵子

ページ範囲:P.166 - P.170

Point

◎円孔底の網膜外層(視細胞層)の存在を確認する。

◎網膜上膜の有無をみる。

◎中心窩のラインスキャンのみでは診断が困難な場合があるので,傍中心窩の所見も詳細に観察する。

基礎からわかる甲状腺眼症の臨床

「甲状腺眼症を緑内障・高眼圧症と間違えることがあるかも?」の巻!

著者: 大久保真司

ページ範囲:P.172 - P.177

はじめに

 甲状腺眼症に高眼圧症や緑内障の併発が多いかどうかは,以前から議論されてきましたが,最近の報告では緑内障の頻度はコントロール群と比較して有意に多くはないとされています1,2)。しかし,「甲状腺眼症症例において,眼圧が高い症例を多く経験する」とお悩みの先生も多いように思われます。

 甲状腺眼症では,本当に眼圧は高いのでしょうか。現在知られている高眼圧のメカニズム,眼圧測定のコツ,高眼圧症に対する対処法,前月号で解説のあった「怖~い,甲状腺視神経症」と緑内障の鑑別のポイントにつき整理したいと思います。

つけよう! 神経眼科力・35

眼球電図(EOG)の利用と読み方

著者: 浅川賢 ,   石川均

ページ範囲:P.178 - P.182

基礎知識

 眼球電図(electrooculogram:EOG)は,眼球運動に関連した電気現象を記録することで視覚―運動反応の客観的評価を目的とした検査法である。

 眼球は,角膜側が陽性,網膜側が陰性に分極している一定の電圧を有する。眼外の回路を角膜側から後極部側へ流れる電流が常に存在しており,この角膜と網膜の電位差を眼球常在電位(約3~6mV)と呼ぶ。

眼科図譜・360

黄斑部海綿状血管腫の経過観察中に脳実質と脳幹に海綿状血管腫が発見された1例

著者: 牧野伸二 ,   加藤健

ページ範囲:P.184 - P.186

緒言

 海綿状血管腫は比較的稀な血管性過誤腫あるいは血管奇形と考えられている。網膜海綿状血管腫では小円形の血管瘤がぶどうの房状に集まって形成され,遺伝性を有するもの,皮膚や頭蓋内に血管腫を伴うものがある1)

 筆者らは以前,黄斑部にみられた網膜海綿状血管腫を報告した2)。当時,頭蓋内に異常はなかったが,経過観察中に脳実質と脳幹部に多発性海綿状血管腫が確認されたため,改めて報告する。

眼科図譜・361

白内障術後に角膜融解と穿孔が生じた1例

著者: 橘理人 ,   濱田禎之 ,   松尾俊彦 ,   大月洋

ページ範囲:P.188 - P.190

緒言

 非ステロイド点眼液(non-steroidal anti-inflammatory drugs:以下,NSAID)やステロイド点眼液は,内眼手術前後の消炎に広く用いられている。近年,稀ではあるが,NSAID点眼液やステロイド点眼液で角膜穿孔に至る重度の角膜上皮障害が報告されている1~4)。今回,白内障術後にジクロフェナクナトリウム点眼液およびフラジオマイシン配合ベタメタゾン点眼液を使用し,両眼に角膜潰瘍を生じたのち,左眼は角膜穿孔に至った1例を経験したので報告する。

今月の表紙

ロール状になったDescemet膜

著者: 山川曜 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.183 - P.183

 症例は72歳,女性。点眼麻酔下にて右眼の耳側角膜に対し,2.8mm切開幅にて超音波乳化吸引術を施行した。同切開幅にてwound assisted法によりインジェクターでIOL(SN60WS 26.5D)を挿入した。その際にDescemet膜剝離が認められた。術終了時には前房内へ空気注入も行ったが,完全に復位せず,術後剝離したDescemet膜はロールアップしたままであった。術後は視力(1.0)と良好で,角膜内皮細胞密度は術前2,584/mm2,術後8か月で2,469/mm2となった。

 撮影環境は,カメラユニットにNikonD200を装着したライト製作所Righton RS-1000を使用し,ファイリング環境はKowa VK-2に接続していた。耳側方向より40°の角度でスリット長14mm,スリット幅5mm,フラッシュ光量はマニュアルで「5」,背景光は「off」とした。ロール状の部分の近傍を照射することで,間接光でロール状の縁の部分や曲面にハイライト部分ができるよう,スリットをわずかに耳側方向へ首振りさせて撮影した。ロール状になった部位がより立体的に見えるよう撮影にあたったが,十分に意図した通りに撮影できたと思う。

書評

Medicine―医学を変えた70の発見

著者: 山本和利

ページ範囲:P.193 - P.193

 10年以上前から医学部1年生と一緒に医学史を学んでいる。24のテーマを私が設定してそれを学生が調べ,1回2テーマずつをパワーポイントにまとめて,1テーマにつき質疑応答を含めて45分間で発表する授業形式をとっている。学生たちは医学に関することに初めて触れる機会なので,皆,目を輝かせて発表を聴いている。開講当初は,数少ない医学史の本を探したり,関連書籍を図書館で借りたりしながら学生たちは課題をこなしていたが,最近ではもっぱらインターネットで探しているようだ。確かにカビ臭く小さな活字の漢字だらけの参考書籍は敬遠しがちになろう。そのため豊富な画像をカラーで掲載している書籍を待ち望んでいたところであるが,最近そのような要望に応えてくれる書籍が出版された。それが,『Medicine―医学を変えた70の発見』である。

 これまでの医学史の本は,時系列にそった記述に終始しがちであったが,本書は,古代の医学(エジプト,中国,インドなど)における身体のとらえ方から,現代の最新医術までを医療機器,疫病,薬,外科技術,予防など7つの章(70項目)に分けてわかりやすく解説している。特徴は切り口が斬新なことである。その理由は,医学の長い歴史を,単に時系列によるのではなく,その多様なテーマを上手に7つに分けて,テーマごとに一連の流れを作って描き出しているからである。それゆえ読者は,本書を読むことで7つの視点で7回医学の歴史を振り返ることができる。そして,何よりも幅広い時代・地域から集められた豊富な図版が382点もオールカラーで掲載されているのがうれしい。原書は美術書のように分厚くて重かったが,翻訳版の本書は薄い紙を使って表紙もソフトカバーになり,携帯しやすくなっている。

やさしい目で きびしい目で・158

みんなに助けられて

著者: 望月典子

ページ範囲:P.195 - P.195

 母は職業婦人であった。定年まで平日は「大変,大変」といいながら仕事に出かけ,日曜日はずっと寝ていた。平日帰りの遅い父は,日曜日になるとご飯を作り掃除をし,遊びに連れていってくれた。人は働けるときには働くものだというのも,男性が家事をするのも普通だと思っていた。大学のとき,彼氏に「将来は家に入って子供の面倒をみてほしいな」と言われたときにはショックだった。彼の母は専業主婦で,家に帰ったらお母さんが温かく迎えてくれたのがよい思い出のようだったが,医師を目指す女にそれを要求するのはありえないと思った。

 幸い理解ある夫に恵まれ,仕事を続けている。最初の2年間は大学で研修し,その後2年間は市中病院で働き,また大学に戻ってきて7年目である。途中,娘が生まれて産休を取ったが,育休は取らずに復帰した。母は「一旦休んでしまうと休み癖がつくから」と研究会やら学会やらがあると娘を預かってくれる。実際に面倒をみるのは父であるが。

臨床報告

プロピルチオウラシルにより両球後視神経炎を生じたANCA関連血管炎の1例

著者: 工藤孝志 ,   鈴木香 ,   鈴木幸彦 ,   工藤朝香 ,   木村智美 ,   伊藤忠 ,   片山君予 ,   中澤満

ページ範囲:P.209 - P.213

要約 目的:プロピルチオウラシル内服により抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎が生じ,両眼の球後視神経炎が発症した症例の報告。症例:47歳女性が1週間前からの両眼視力障害と頭痛を伴う球後痛で紹介され受診した。Basedow病があり,3年2か月前からプロピルチオウラシルを内服していた。2年前に両下肢に皮疹が生じ,ANCA関連血管炎と診断され,内服を中止した。2か月前にプロピルチオウラシル内服を再開したが,6週後に頭痛と発熱が生じ,服薬を中止した。所見:矯正視力は右0.01,左0.03で,両眼に中心暗点があった。MRIで視神経鞘の増強があり,両眼の球後視神経炎と診断した。ステロイドパルス療法で3日後に中心暗点が消失し,両眼の視力が1.2に改善した。結論:本症例の球後視神経炎はプロピルチオウラシル内服によるANCA関連血管炎が原因であったと判断される。

Washoutを併用した緑内障点眼整理の有用性

著者: 林泰博 ,   北岡康史

ページ範囲:P.215 - P.218

要約 目的:1か月間のwashout後に点眼整理を行い,その効果を検討した。対象と方法:緑内障点眼をしている28例28眼(平均72.1±13.3歳)を対象とした。1か月間のwashout期間を設け,washout後の眼圧をベースライン眼圧とした。ベースライン眼圧に応じて点眼薬を整理した。点眼整理前後の眼圧,点眼薬数,点眼回数,眼圧下降率につき比較検討した。結果:ベースライン眼圧は16.6±4.3mmHgであった。点眼整理前後で平均眼圧は14.5±3.2mmHgから13.1±3.4mmHgに下降し(p<0.05),平均点眼薬数は1.7±0.8本から0.8±0.4本に減少し(p<0.01),平均点眼回数は2.4±1.8回から0.8±0.4回に減少した(p<0.01)。平均眼圧下降率も8.9%から19.6%に改善した。結論:Washoutを併用した点眼整理は,眼圧の上昇をきたすことなく点眼薬数の減少を望める効果的な方法と考えられた。

高齢者における緑内障点眼の使用状況

著者: 林泰博 ,   北岡康史

ページ範囲:P.219 - P.223

要約 目的:3か月以上緑内障点眼薬を使用中の75歳以上の患者61例を対象とし点眼状況について聞き取り調査を行った。対象と方法:調査方法は外来で患者との対面聞き取り法にて行った。また75歳以上85歳未満の後期高齢者群と85歳以上の超高齢者群に分け差異を検討した。結果:全体での平均点眼忘れのスコアは3.7±0.6,自立点眼可能な割合は90.2%であった。後期高齢者群での点眼忘れのスコアは3.8±0.5,超高齢者群では3.7±0.6であり有意差はなかった(p=0.88)。自立点眼可能な割合は後期高齢者群で96.9%,超高齢者群は82.8%であり後期高齢者群が多い傾向にあった(p=0.06)。結論:点眼忘れのスコアに差はなかったが点眼の自立度は超高齢者群で低い傾向にあり,安易な多剤療法は控えるべきである。

カラー臨床報告

疎水性アクリル眼内レンズのグリスニングとホワイトニングにより視機能低下をきたした1例

著者: 日高悠葵 ,   根岸一乃 ,   松島博之 ,   鳥居秀成 ,   佐伯めぐみ ,   渡邊一弘 ,   稲福沙織 ,   坪田一男

ページ範囲:P.199 - P.202

要約 目的:白内障術後,眼内レンズ(IOL)のグリスニングとホワイトニングによると考えられる視機能低下によりIOLを交換した症例を報告する。症例:78歳,女性。右白内障手術6年後の視力低下を主訴に受診した。所見:右矯正視力は白内障手術直後の0.8から0.4に低下しており,IOLのグリスニングおよびホワイトニングを認めた。軽度の網脈絡膜萎縮を認めたが,白内障手術直後から変化はなかった。IOL交換により矯正視力は0.8に回復した。結論:IOLのグリスニングおよびホワイトニングにより視機能低下をきたす可能性があり,その場合には眼内レンズの摘出・交換も考慮すべきである。

ステロイド点眼液により結核性ぶどう膜炎を治療した1例

著者: 本間慶 ,   後藤早紀子 ,   望月典子 ,   山下英俊

ページ範囲:P.203 - P.208

要約 背景:ジフルプレドナート(difluprednate)は消炎効果のあるステロイド剤で,点眼液として用いた場合,眼内移行性が高いとされている。目的:網膜血管炎を伴う結核性ぶどう膜炎をステロイド点眼で治療した症例の報告。症例:58歳男性が2か月前からの右眼霧視で受診した。15年前に甲状腺癌の手術を受け,以後2回の転移があった。所見:矯正視力は右0.01,左1.2で,右眼には,前房に炎症所見,硝子体混濁,びまん性の網膜出血,白線化を伴う静脈周囲炎があった。ツベルクリン反応が強陽性,クオンティフェロンTB-2G陽性であり,胸部X線検査では結核を示す所見はなかった。結核性ぶどう膜炎を疑い,抗結核薬4剤併用による治療を開始した。2か月後に右眼の病的所見が軽快したが,黄斑浮腫が残っていた。1日4回の右眼への0.05%ジフルプレドナート点眼を開始した。3か月後に病的所見は改善し,右眼視力は0.2になった。以後8か月後の現在まで,炎症の再発はない。結論:網膜血管炎に併発した黄斑浮腫が,ジフルプレドナート点眼で軽快した。

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欧文目次

ページ範囲:P.119 - P.119

べらどんな 網膜色素変性とCME

著者:

ページ範囲:P.126 - P.126

 もと同級生から83歳の患者を紹介された。この同級生は別の学部に進学し,そのときの同級生である。このような依頼は断ってはいけない。病名は網膜色素変性である。

 この疾患の高齢者ははじめてなので,「これは大変」と思ったが,まず復習と予習をすることにした。

べらどんな レカヒナ

著者:

ページ範囲:P.190 - P.190

 とんでもない誤診をしそうになった。

 コンタクトレンズを希望して30歳代の主婦の方が来られた。左右眼とも裸眼視力は0.03で,-2.25Dの近視があるが,矯正視力は0.3しか出ない。中間透光体と眼底には異常所見がなく,OCTでも黄斑部はまったく正常である。

ことば・ことば・ことば ユーレカ!

ページ範囲:P.198 - P.198

 イタリア半島の長靴の先にある大きな島がシチリアです。気候が温和で暮らしやすいところですが,エトナ(Etna,3,340m)という活火山があり,ときに大噴火をします。近年では1669年のが有名でした。

 エトナから80km南の海岸にシラクサ(Siracusa/Syracuse)の町があります。シチリアは地中海のほぼ中央にあるので,フェニキア,ギリシャ,ローマの各時代の遺跡がいろいろ残っています。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.225 - P.229

投稿規定

ページ範囲:P.230 - P.231

希望掲載欄

ページ範囲:P.232 - P.232

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.233 - P.233

アンケート

ページ範囲:P.234 - P.234

次号予告

ページ範囲:P.235 - P.235

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.236 - P.236

 本稿を書いている2012年12月に,京都大学の山中伸弥先生のノーベル賞授賞式がストックホルムで開催されました。最近,中国や韓国から発信される医学論文数の激増と,それとは対照的な日本の論文数減少が話題になっています。つまり,日本の医学レベルは相対的に低下しているということなのでしょうが,このニュースはその危機感を吹き飛ばすものであり,自信を取り戻した方も多いと思います。今回の受賞は,山中先生個人の才能と努力によるものが大きく,日本国が先生の研究のために戦略的に特別なことをしたわけではありません。しかし,受賞に際しての謙虚な姿勢と今後の社会貢献を述べられる先生の姿は,理想の日本人像を見るようで非常に爽やかな気持ちになりました。

 さて,本号の特集は中心性漿液性脈絡網膜症です。網膜下液が貯留する原理を喜多先生,病態解析を髙橋先生,森本先生および丸子先生,関連因子を本田先生,治療方針を後藤先生,自発蛍光を石龍先生が解説されています。中心性漿液性脈絡網膜症は古くから知られていますが,ここ10年の間に新しい病態の理解とそれによる新しい治療法が確立された疾患のひとつです。今回の解説を読んで,この進歩には多くの日本人医師の貢献があったことがわかりました。巷間伝えられるように,日本の眼科研究レベルは決して低くはなかったのです。しかしながら,それは過去のことです。山中先生は受賞後の会見で「ノーベル賞受賞は過去のことであり,さらに新しく研究を進めたい」と述べられました。医学研究は,現在も弛まぬ勢いで進歩を続けています。10年後の本誌で,ある疾患の特集を組んだときに,その進歩にはやはり日本の研究者が大きく貢献していたといわれるためには,レベルは違えど山中先生のように常に新しい地平線を目指す努力が必要であると感じます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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