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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科67巻3号

2013年03月発行

雑誌目次

特集 第66回日本臨床眼科学会講演集(1) 原著

日本人網膜色素変性症におけるEYS遺伝子変異とその臨床像

著者: 岩波将輝 ,   西田朋美 ,   三輪まり枝 ,   山田明子 ,   西脇友紀 ,   小松真由美 ,   世古裕子 ,   加藤誠志 ,   仲泊聡

ページ範囲:P.275 - P.279

要約 目的:EYS遺伝子変異が同定された網膜色素変性症(retinitis pigmentosa:以下,RP)患者の臨床像の報告。対象と方法:当科受診140例のRP患者のうち変異が同定された23例(平均年齢52.5歳)を対象に,視力,視野,夜盲の自覚年齢,RP診断時年齢,白内障診断およびに手術時年齢,網膜電図,眼底所見の項目について検討した。結果:夜盲の自覚年齢は20歳代に多く,診断時年齢は平均39.0歳,13例に白内障手術の既往があり,臨床像は定型例にみられる遅発型RP像を呈した。結論:EYS遺伝子変異は定型RP像を呈する可能性があり,併発白内障にも留意する必要がある。

白内障手術既往のあるロービジョン患者の近見用視覚補助具処方状況

著者: 西田朋美 ,   世古裕子 ,   山田明子 ,   三輪まり枝 ,   小松真由美 ,   西脇友紀 ,   岩波将輝 ,   仲泊聡

ページ範囲:P.281 - P.284

要約 目的:白内障手術後ロービジョン患者の近見用視覚補助具処方の状況の報告。対象と方法:両眼白内障手術既往があり,ロービジョンケアを受けた62例。良いほうの眼の視力,屈折値,近見用視覚補助具処方状況について調査した。結果:対象の内訳は,近見用視覚補助具処方あり群は32.3%,処方なし群は67.7%であった。両群ともに原疾患は,網膜色素変性症が最多であった。年齢,術後屈折値に両群間で有意差があった。視力には両群間で有意差はなかった。結論:術後屈折値がより遠視寄りの患者で近見用視覚補助具が処方され,高齢でより低視力の患者で処方されていなかった。

Radial Keratotomy後のレーザー角膜屈折矯正手術症例

著者: 安岡恵子 ,   福田憲 ,   朝比奈恵美 ,   越智利行

ページ範囲:P.285 - P.290

要約 目的:RK後の残余屈折誤差に対するLVC治療症例の臨床結果の報告。対象・方法:RK後眼に施行したPRK2例4眼,LASIK4例7眼。年齢26~51歳(平均37.5歳)で,男性5例,女性1例。LVCは通常通りに施行した。結果:術後の裸眼視力は0.8~1.5(平均1.24),MRSEは-0.75~+2.00D(平均+0.05±0.70D)で,全症例で視力,屈折誤差に改善が得られた。術後に上皮迷入が3眼発生し,2眼はステロイド点眼薬,1眼は外科的除去した。結論:RK後のLVCは有用な治療法であるが,RK後眼の特異性による合併症が起こることがある。

ラニビズマブ単独治療の導入期に連続3回投与は必要か

著者: 井尻茂之 ,   杉山和久

ページ範囲:P.291 - P.296

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性に対するラニビズマブ導入期連続3回投与の必要性についての検討。対象と方法:導入期途中でdry macula(網膜浮腫および網膜下液の両者を認めない状態)を得たため1回または連続2回で終了した31眼(2回以下群)と,導入期途中でdry maculaを得たが連続3回投与した14眼(3回群)の治療成績を後ろ向きに比較した。結果:中心窩網膜厚と視力の改善量は,1か月,2か月,3か月,6か月,12か月時において2群間で有意差がなかった。12か月間の投与回数は,2回以下群のほうが有意に少なかった。結論:導入期途中でdry maculaが得られれば,連続3回投与する必要性はない可能性がある。

糖尿病網膜症に合併した黄斑円孔の自然閉鎖の1例

著者: 松尾祥代 ,   中村靖 ,   松尾健士 ,   大黒浩

ページ範囲:P.297 - P.300

要約 目的:糖尿病網膜症眼に発症した黄斑円孔が自然閉鎖した症例の報告。症例:77歳女性が糖尿病で内科から紹介受診した。26年前に糖尿病と診断され加療中で,血糖コントロールは良好である。矯正視力は右1.0,左0.2で,眼底には福田分類でB2の糖尿病網膜症があった。両眼に汎網膜光凝固を行った。7年後に左眼は眼内炎で失明し,右眼は白内障と黄斑浮腫で視力が0.2に低下した。初診から9年後に検眼鏡と光干渉断層計(OCT)で右眼に黄斑円孔があった。網膜前に増殖膜はなかった。その4か月後に円孔部に架橋形成があり,さらに2か月後に黄斑円孔は閉鎖し,0.2の視力を維持している。結論:黄斑円孔が自然閉鎖したのは,円孔部に架橋形成があったためと推定される。

不完全型網膜中心動脈閉塞症10例の検討

著者: 岡本紀夫 ,   栗本拓治 ,   大野新一郎 ,   萱澤朋泰 ,   國吉一樹 ,   奥英弘 ,   松本長太 ,   池田恒彦 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.301 - P.304

要約 目的:不完全網膜中心動脈閉塞症10例の経過と全身合併症の報告。症例:過去10年間に網膜中心動脈閉塞症と診断した症例のうち,明らかな桜実紅斑を認めない10例10眼を不完全型と定義し,検索した。男性6例,女性4例で,年齢は17~76歳,中央値66歳であった。結果:初診時の視力は0.5以上が3眼,0.1以下が2眼であった。全例で最終視力は0.6以上に回復した。logMARによる平均視力は初診時には0.568±0.576,最終には0.073±0.088で,有意差があった(p=0.011)。既往歴として高血圧症8例,糖尿病2例,心疾患と脳梗塞が各1例にあった。17歳で発症した女子はクリオフィブリノーゲン陽性であった。結論:不完全網膜中心動脈閉塞症の視力は,初診時と最終時ともに良好であり,網膜中心動脈の閉塞が軽度であると推察される。

漿液性網膜剝離を伴う加齢黄斑変性の眼底自発蛍光

著者: 田中隆行

ページ範囲:P.305 - P.312

要約 目的:漿液性網膜剝離を伴う加齢黄斑変性の眼底自発蛍光所見の報告。対象と方法:ラニビズマブ単独治療を行った10例10眼を対象とした。年齢は59~76歳(平均67歳)で,全員初回治療である。眼底自発蛍光撮影にはキヤノン社製CX-1TMを用いた。結果:蛍光眼底造影では,全例occult CNVを示した。インドシアニングリーン蛍光造影では,漏出はなかった。眼底自発蛍光では,全例で顆粒状の弱い自発蛍光と近傍の強い自発蛍光がみられた。弱い自発蛍光の多くは,蛍光眼底造影のoccult CNV部に一致し,8眼で軽度枝状を示した。光干渉断層計では,全例でtype 1 CNVが推定された。結論:本症の眼底自発蛍光では,顆粒状の弱い自発蛍光と近傍の強い自発蛍光がみられ,弱い自発蛍光は軽度枝状を示す傾向がある。

緑内障眼における2機種のスペクトラルドメインOCTによる網膜神経節細胞複合体厚および網膜神経線維層厚と視野障害の関係

著者: 山下力 ,   春石和子 ,   家木良彰 ,   後藤克聡 ,   渡邊一郎 ,   三木淳司 ,   桐生純一 ,   田淵昭雄

ページ範囲:P.313 - P.319

要約 目的:スペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)で測定された緑内障眼の黄斑部網膜神経節細胞複合体(GCC)厚および乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)厚と視野障害の関係の報告。対象と方法:広義原発開放隅角緑内障23例41眼を対象とした。2機種(RTVue-100,RS-3000)のSD-OCTでGCC厚,cpRNFL厚を測定した。視野検査はHumphrey視野計で測定し,中心30-2のMD値とVFI,トータル偏差で評価した。GCC厚,cpRNFL厚はBland-Altman plot解析を用い分析し,視野指標との関係は回帰分析を用い評価した。結果:直径9mmのGCC厚は視野指標と強く相関していた。RTVue-100とRS-3000のGCC厚に有意な差があった。RS-3000のGCC厚およびcpRNFL厚は,RTVue-100に対して比例誤差が生じた。結論:2機種のGCC厚およびcpRNFL厚は視野障害と有意に相関していた。RTVue-100とRS-3000のGCC厚は有意に相関していたが,機種間で値は異なることが示された。

低SNR(signal-to-noise ratio)症例での光眼軸長測定(OA-1000TM)の精度

著者: 松浦一貴 ,   寺坂祐樹 ,   魚谷竜 ,   井上幸次

ページ範囲:P.321 - P.325

要約 目的:信号対雑音比が低い症例と眼内レンズ挿入眼の眼軸長を光干渉眼軸測定装置(OA-1000TM)で測定した精度の評価。対象と方法:15か月間に眼内レンズを移植した395眼を対象とした。術前の信号対雑音比は,3未満が53眼,6未満が195眼,6以上が200眼であり,各群について術前後の眼軸長と術後屈折誤差を評価した。結果:術後の眼軸長は各群で約0.10mm低くなり,3群の間に有意差はなかった。自覚的な屈折誤差は全例で-0.32±0.55mmであり,3群の間に有意差はなかった。結論:信号対雑音比が低い眼でも高い精度の眼軸長の測定値が得られる。OA-1000TMによる眼内レンズ挿入眼の眼軸長測定値は安定し,信頼できる。

白内障術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼の効果

著者: 竹下哲二

ページ範囲:P.327 - P.330

要約 目的:白内障術後に涙液層破壊時間が短縮し,異物感があり,人工涙液点眼が奏効しないドライアイに対する3%ジクアホソルナトリウム(DQS)点眼の効果の報告。対象と方法:白内障術後にドライアイと診断し,人工涙液が奏効しない34例34眼を対象とした。男性7例,女性27例で,平均年齢は79歳である。DQSを10~78日,平均29日間点眼した後の効果を判定した。結果:涙液層破壊時間と角結膜上皮障害スコアはいずれも有意に改善した(p<0.001)。自覚症状のうち,疲れ,乾燥感,かすみ,異物感はいずれも有意に改善し(p<0.01),流涙は悪化した(p<0.001)。34例中9例は人工涙液点眼への復帰を希望し,2例は異物感または副作用のため他の点眼に変更した。結論:白内障術後のドライアイに対するDQS点眼は,他覚的と自覚的に奏効した。涙液量が増える結果としての流涙には注意が必要である。

高齢者の涙腺に発症した好酸球性肉芽腫(木村病)の1例

著者: 溝口晋 ,   岡田由香 ,   中村靖司 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.331 - P.335

要約 目的:高齢者の涙腺に発症した木村病の症例報告。症例:71歳男性が両上眼瞼腫脹で紹介受診した。所見:左側に優位な両上眼瞼涙腺部腫脹を認めた。両涙腺生検術を施行した。病理組織学的にリンパ濾胞形成が散布性,一部は集簇性にみられ,辺縁帯からリンパ濾胞間には好酸球浸潤がみられた。血液検査では好酸球増多とIgE増加がみられた。以上から木村病と診断した。結論:高齢者の場合でも,涙腺部腫脹をきたした際には木村病を鑑別疾患として挙げる必要性がある。

強い眼症状により診断された月経前症候群の1例

著者: 橋本浩隆 ,   橋本昌典 ,   橋本義正 ,   筑田眞 ,   小原喜隆

ページ範囲:P.337 - P.340

要約 目的:強い眼症状の訴えにより眼科を受診し,月経前症候群(PMS)の診断に至った症例の報告。症例:34歳女性。約2年前からの冬季に限定した隔月で月経周期に伴って起こる右眼痛で受診した。20歳時に子宮外妊娠で片側卵管の摘出術を受けた既往と,受診後の検査で松果体囊腫の指摘がある。本症例は,鑑別診断およびPMS診断基準によってPMSと判断された。冬季および隔月に発症する原因としては,それぞれ松果体囊腫と卵管摘出の関与を推定した。結論:眼症状が著明なPMSがみられることがある。

治療に苦慮した電動草刈機で刺入した深層結膜下異物の1例

著者: 髙宮美智子 ,   佐藤憲夫

ページ範囲:P.341 - P.344

要約 目的:植物性の眼窩異物の症例の報告。症例:72歳男性が電動草刈機で草を刈っているときに右眼にゴミが入り,異物感,流涙,眼脂があり,その翌日に受診した。所見:矯正視力は右0.7,左0.1で,右眼の結膜に充血があった。前房には異常がなかった。頭部のCTで眼球に接する異物があった。結膜切開で異物は確認できず,大量の眼脂が出現した。再度のCTで異物が眼球の耳側上方の赤道部にあった。全身麻酔下で結膜を切開し,植物のトゲが赤道部後方に複数個あり,これを除去し,治癒が得られた。結論:イガのような植物性異物は,CTによる部位の確認が困難であり,眼部に金属の指標を置くなどの対応が望まれる。

網膜色素変性の暗順応検査と周辺部残存視野

著者: 明尾潔 ,   明尾庸子 ,   加藤帝子

ページ範囲:P.345 - P.350

要約 目的:暗順応が良好な網膜色素変性患者での視野を含む視機能の報告。対象:網膜色素変性の患者4例8眼を対象とした。すべて女性で,初診時年齢は15歳,34歳,44歳,66歳であり,それぞれ12年,4年,12年,6年にわたり経過を追った。初診時の視力は0.8~1.2の範囲にあった。視野はGoldmann視野計,暗順応はGoldmann-Weekers暗順応計で検査した。全症例でのsingle flash electroretinogramはsubnormalであり,暗順応検査の結果は正常とされる102~2×103の範囲にあった。結果:全症例で固視点から10°以内の中心視野が維持され,これより外方に島状の暗点があり,加齢に伴い周辺視野の欠損が進む傾向があった。結論:暗順応が良い網膜色素変性では,中心視野が保存され,経過が良好な症例がある。

クリプトコッカス髄膜炎に併発した視神経障害の1例

著者: 柴田貴世 ,   寺田佳子 ,   秋元悦子 ,   原和之 ,   内藤かさね ,   田路浩正

ページ範囲:P.351 - P.354

要約 目的:クリプトコッカス髄膜炎に視神経障害が併発した症例の報告。症例:56歳女性が右眼の視力低下と複視で紹介受診した。1か月前から頭痛と意識消失発作があった。所見と経過:矯正視力は右0.05,左1.0で,両眼に外転制限と乳頭浮腫,右眼に中心暗点,左眼に盲点拡大があった。MRIで脳室拡大と髄膜炎を示す所見があり,髄液にクリプトコッカス(C. neoformans)が検出され,クリプトコッカス髄膜炎と診断された。抗真菌薬などによる加療で外転制限と乳頭浮腫は改善したが,2か月後に右眼は視神経萎縮になった。病像は左後頭葉に拡大し,右半盲になった。結論:クリプトコッカス髄膜炎は成人に発症し,視神経障害が合併することがある。

Special Interest Group Meeting(SIG)報告

黄斑研究会

著者: 伊藤逸毅

ページ範囲:P.356 - P.358

 毎年,日本臨床眼科学会の専門別研究会の一つとして行われていた黄斑研究会が,本年からSpecial Interest Group Meeting(SIG)として行われるようになった。時間はこれまでは木曜日の午前であったのが,木曜夕方の開催となった。この時間はイブニングセミナーと同じ時間帯であったが,テーマが非常にホットなものであったためか参加者もかなり多く,各シンポジストの講演は興味深いものばかりで質問・討論もそれぞれ活発に行われた。

 本年のテーマは,「網膜形態評価法はどこまで進歩したか」である。近年,網膜画像診断領域におけるさまざまな面で大きな進展がみられる。最も大きなトピックスの一つは,補償光学(adaptive optics:AO)眼底カメラが市販されるようになったことである。AOは眼底撮影時の収差を補正する装置であり,これを用いると眼底を超高解像度で撮影することができる。このAOを備えた眼底カメラ(Imagine Eyes社,フランス)が本邦でも承認がされ,発売になった。この装置を用いて撮影すると,約4μmの解像度で眼底撮影が可能であり,視細胞を直接可視化できる(図1)。残念ながら,視細胞のなかでも,高密度の中心窩の視細胞(cone)や周辺部の杆体(rod)はこの解像度では写らないが,視細胞単位での眼底評価が可能となったのである。現在はAO眼底カメラよりもはるかに焦点深度の浅いAO走査レーザー検眼鏡(AO-SLO)も開発されており,長期的にはAOは眼底評価に幅広く使われるような時代になっていくと思われる。

再生医療・生体材料研究会―生体材料研究会

著者: 河合憲司

ページ範囲:P.360 - P.361

 日本生体材料研究会では,生体材料の臨床的意義を理解している医師と生体材料の性質を熟知している技術者のコミュニケーションを強化し,お互い異なった領域から刺激しあうことで新しいアイディアの出現や眼科生体材料研究の発展を図っている。そこで今回2名の先生に特別講演を依頼した。以下にその概要を記す。

連載 今月の話題

緑内障における網膜神経節細胞層の菲薄化

著者: 宇田川さち子 ,   大久保真司

ページ範囲:P.245 - P.249

 現在,臨床的に使用されているスペクトラルドメイン光干渉断層計のソフトでは,網膜神経節細胞層単独を評価することは困難であるが,網膜内網状層とあるいはそれに加えて網膜神経線維層を合わせて網膜内層として評価することが可能である。緑内障眼では,網膜神経節細胞層および網膜内層が菲薄化することが知られており,緑内障の早期発見での有用性が期待される。

何が見える? 何がわかる? OCT・第3回

網膜が厚くなる疾患1―黄斑上膜

著者: 香留崇 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.250 - P.255

Point

◎IS/OSなどの網膜外層の状態が黄斑上膜症例の視機能と密接に関連している。

◎網膜外層のラインの観察には白黒反転画像(white on black)が適している。

◎網膜厚マップや3次元表示は黄斑上膜による網膜形態の変化を把握するのに有用である。

基礎からわかる甲状腺眼症の臨床

「甲状腺眼症って何ですか?」の巻!―その1

著者: 柿﨑裕彦

ページ範囲:P.256 - P.260

はじめに

 帰ってきましたよ~! 前回は,金沢大学の大久保の兄貴による「甲状腺眼症と緑内障の関係」についての読み応えのある総説で,日常の眼科診療においてピットフォールを回避しうる内容でした! 今回と次回,「甲状腺眼症」に関する一般的知見を,不肖柿﨑,大久保の兄貴に及ばずながらも,全力を尽くして担当させていただく次第であります! 以下,ちょっとまじめモードです。しっかり読んでちょ~すよ!

つけよう! 神経眼科力・36

眼筋型重症筋無力症は眼科医こそが診療に当たるべきである!

著者: 三村治

ページ範囲:P.262 - P.268

はじめに

 重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)というと,自己免疫性の全身疾患であり,眼科医が診療するなんてとんでもない,神経内科で診療するべきであると思われる先生方が多いのではないだろうか。しかし,MGは眼瞼下垂や複視・斜視など眼症状で初発するものが大部分であり,神経内科医であればしばしば初発症状の軽微な眼症状を見逃してしまう。血液検査に関しても,全身型では約80%で有用性の高い抗アセチルコリンレセプター(AChR)抗体の陽性率も,眼筋型では50%前後にすぎず1),抗MuSK抗体2)の陽性率も低く,眼筋型ではseronegative MGが半数近くを占める。そのため,神経内科を受診したとしてもMGの診断に至らず,適切な治療を受けられない患者も少なくない。しかも,日常臨床ではMG患者の多くは眼科を初診する3)。したがって,初診における眼科医の責任は重大であり,決してMGを見逃してはならない。

 本稿では,眼筋型MGは眼科医が診療を担当するか,少なくとも治療方針決定に積極的に関与すべきである理由と,見逃さない診断テクニック,さらに新しい治療法について解説する。そのなかで自験の統計として引用しているのは,1994~2010年の過去17年間に兵庫医科大学病院眼科を受診し,眼科主体で治療を開始した眼筋型MG患者146例中経過を追うことのできた110例の解析結果である。

今月の表紙

市販デジタルカメラによるマイボグラフィー(アレルギー性結膜炎)

著者: 岩﨑隆 ,   中澤満

ページ範囲:P.273 - P.273

 症例は20歳,男性。数年前にアレルギー性結膜炎(スギ)を発症した。軽度の瞼結膜および球結膜の充血があり,上眼瞼に乳頭増殖を認めた。

 赤外線撮影において,脂質である腺房は白い球形として描写されるが,導管はほとんど描写されないため,マイボーム腺(Meibomian gland)は瞼板内を垂直に走る多数の白点として観察される。本症例ではマイボーム腺の短縮・消失はほとんどみられないが,アレルギー性結膜炎に特徴的とされる屈曲がみられた。

書評

あなたへの医師キャリアガイダンス

著者: 石見陽

ページ範囲:P.363 - P.363

 実は,私自身も医学生時代,聖路加国際病院の研修とはどんなものなのだろう? と思い,半日だけ病棟を見学させていただいたことがある。地方の大学に通っていた私は情報に疎く,「将来は人が多く,モチベーションの高い仲間に囲まれる環境で働きたい」と考えながらも,部活動中心ののんびりした学生生活を送っており,気づいた時点で聖路加国際病院の夏休みの見学の応募期間は過ぎていたのだった。あきらめきれなかった私は,友人のつてをたどり,非公式に半日だけ院内を案内してもらった。その夜に開かれた宴会で聖路加国際病院での研修の激しさをうかがい,医師になるというのはこういうことかと身が引き締まる思いをしたことを思い出す。何よりこの病院に所属している研修医の方々の誇り・病院への愛情を感じ,感銘を受けたのである。結果として私は研修先を東京女子医科大学に決め,聖路加国際病院で研修をすることはなかったが,今でも私の中の憧れの病院であることに変わりはない。

 さて,本書は岡田定先生,堀之内秀仁先生,藤井健夫先生が編者となり,過去または現在において,聖路加国際病院で診療にかかわった数十名の先生方が執筆した医学生・医師向けのキャリアガイドである。各先生方が,医師になるにあたってどのように悩み,医師になってからどのようなキャリアを志向し,障害を越え,今後どのように進んでいこうとしているのか? 後輩である医師・医学生を想定して執筆されている。

やさしい目で きびしい目で・159

この頃思うこと

著者: 市川玲子

ページ範囲:P.365 - P.365

 早いもので,私が眼科医になってから30余年が過ぎました。その間,常に仕事に全力疾走とはいかなかったものの,マイペースかつキャリアの中断は最小限に―いわばスロージョギングでやってまいりました。認可保育園には入れず,生後42日から区の指定保育施設に預けた長男は現在専門医を目指す眼科医。入園前,検診の仕事中には私の傍らのクーハンに寝かされていた次男も医学部の最上級生として過ごしております。

 アラカンと呼ばれる年齢となり,このところのわが身の経年変化は内も外もますます明らかとなってまさにため息ものなのですが,仕事のうえでは,年をとるのも決して悪いことばかりではないと思う今日この頃です。文字通り,患者様の身になれるからです。

臨床報告

白内障手術患者における服薬状況と緑内障禁忌薬の内服実態

著者: 林泰博 ,   北岡康史

ページ範囲:P.377 - P.381

要約 目的:白内障手術に際しての,薬剤師による服薬管理で明らかになった緑内障禁忌薬の処方状況。対象と方法:当院で行った白内障手術で,術前の薬剤師による服薬管理で処方状況が明らかになった231例231眼を対象とし,緑内障禁忌薬,前房角膜比について検討した。結果:緑内障禁忌薬を処方されていたのは92例(39.8%)で,「抗不安薬,睡眠薬」の割合が69.1%と最も多かった。van Herick法Grade 2以下の症例が23例(10.0%)に認められ,そのうち12例(52.2%)で緑内障禁忌薬が処方されていたが,観察期間中に緑内障発作を発症した症例はいなかった。結論:緑内障禁忌薬は高率で処方されているため,薬剤師や他診療科と協力し正確な処方実態の把握が重要だと思われた。

網膜血管腫に対して硝子体手術を施行した4例

著者: 平川沙弥香 ,   長谷川裕平 ,   望月泰敬 ,   向野利一郎 ,   宮崎勝徳 ,   石橋達朗

ページ範囲:P.383 - P.388

要約 目的:網膜血管腫に対して硝子体手術を行った4例の報告。症例:過去5年間に網膜血管腫とその合併症に対して硝子体手術を行った4例4眼を診療録の記載に基づいて検索した。男性1例と女性3例で,年齢は36,50,52,55歳であった。所見と経過:網膜血管腫は3眼では血管増殖性腫瘍(vasoproliferative tumor),1眼ではvon Hippel病であった。いずれも孤立性で,網膜赤道部にあり,大きさは2~4.5乳頭径であった。4眼に網膜剝離,2眼に黄斑上膜が併発した。2眼に流入血管の光凝固,2眼に経瞳孔的温熱療法を行い,その後,硝子体手術による眼内ジアテルミーを3眼,血管腫の部分切除を2眼,全切除を1眼に実施した。網膜は全例で復位し,ジアテルミーのみの1眼では血管腫が再発した。結論:網膜血管腫に対して,腫瘍の部分切除が奏効することがある。

網膜と脈絡膜の循環障害をきたしたTolosa-Hunt症候群の1例

著者: 白井久美 ,   岡田由香 ,   高田幸尚 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.389 - P.395

要約 背景:Tolosa-Hunt症候群は海綿静脈洞の肉芽腫性炎症によることが多く,この部を通過する動眼神経,滑車神経,外転神経と三叉神経第1枝の障害を伴いやすい。目的:眼動脈の閉塞が生じたTolosa-Hunt症候群の1例の報告。症例:64歳男性が左側の眼窩深部痛と前頭部痛を伴う嘔吐で緊急受診した。3日前に同様の発作があり,一過性の複視があった。所見:全身状態が不良なため,視力測定はできなかった。左眼に外転と上転制限があった。その直後に急激な左眼視力低下を自覚した。矯正視力は右0.9,左0であり,左眼の網膜血管が狭窄していた。蛍光眼底造影で網膜と脈絡膜への色素流入の遅延がみられ,脈絡膜蛍光に区画状の欠損があった。左内頸動脈の海綿静脈洞部が不整で,磁気共鳴画像血管造影(MRA)で左眼動脈は造影されなかった。臨床所見と合わせ,Tolosa-Hunt症候群と診断した。ステロイドパルス療法を開始し,その翌日に左眼視力が0.3に改善した。初診から7か月後の現在まで再発はない。結論:Tolosa-Hunt症候群で一過性の網膜動脈閉塞,脈絡膜動脈閉塞が生じうることを本症例は示している。

カラー臨床報告

前部虚血性視神経症と網膜中心動脈閉塞症が併発したアレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群)の症例

著者: 井上千鶴 ,   中道悠太 ,   杉山千晶 ,   西村かおる ,   吉野谷清和 ,   笠松悠 ,   角谷昌俊 ,   笠松美宏 ,   岡見豊一

ページ範囲:P.369 - P.376

要約 目的:前部虚血性視神経症と網膜中心動脈閉塞症が生じたアレルギー性肉芽腫性血管炎の報告。症例:62歳女性が右眼視力低下で受診した。6か月前に気管支喘息と診断され治療中であった。1か月前に四肢のしびれと,血液の好酸球増多があり,アレルギー性肉芽腫性血管炎の診断で全身ステロイド療法を受けていた。所見:矯正視力は右0.1,左0.7で,右眼の乳頭が蒼白浮腫状であった。右眼視野に中心暗点があり,前部虚血性視神経症と診断した。数日後に左眼視力が0.1になり,網膜中心動脈閉塞症が発症していた。その4日後に右眼視力がさらに低下し,網膜中心動脈閉塞症と診断された。血漿交換を含む精力的な治療を行ったが,発症8か月後の現在,視力は右零,左0.1である。結論:本症例での前部虚血性視神経症と網膜中心動脈閉塞症には,アレルギー性肉芽腫性血管炎が関係したと推定される。

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欧文目次

ページ範囲:P.242 - P.243

べらどんな 過剰照明

著者:

ページ範囲:P.319 - P.319

 昔の眼科の外来は暗かった。壁は墨で真っ黒に塗ってあった。診察台には半分が透明,あとの半分が磨りガラスの石丸電球のスタンドが立ち,河本式検眼鏡で眼底検査をした。切手くらいの大きさの凹面鏡で電球の光を反射させ,プラス13Dのレンズで眼底を倒像で見る。壁が黒いのは,自分の目をあらかじめ暗順応させるためである。

 家の中も暗く,天井から下がった裸電球ひとつが室内を照らしていた。

べらどんな フリーセル

著者:

ページ範囲:P.335 - P.335

 ゲームというものは,いちどはじめると人をとりこにする性質がある。パチンコはもちろんだが,パソコンにはかならず「おまけ」のように,トランプを並べ替えるゲームが入っている。フリーセルがその名前である。

 学会で南アフリカに行ったとき,サファリを見ようとジンバブエを訪れた。あの辺は国境が複雑なので,ボツワナだったか隣国に車で入った。野生のライオンを見るために日帰りで入国するだけでも,国境線にある入国事務所でビザをもらう必要がある。

ことば・ことば・ことば コルヒチン

ページ範囲:P.368 - P.368

 薬の名前には歴史や神話に関係したものがあり,とくに生薬にこれが多いようです。

 「しょうやく」を辞書で引くと,「動植物の部分・細胞内容物・分泌物・抽出物あるいは鉱物で,薬品または製薬の原料とするもの」と定義されています。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.397 - P.403

投稿規定

ページ範囲:P.404 - P.405

希望掲載欄

ページ範囲:P.406 - P.406

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.407 - P.407

アンケート

ページ範囲:P.408 - P.408

次号予告

ページ範囲:P.409 - P.409

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.410 - P.410

 読者の皆様,『臨床眼科』2013年3月号をお届けします。今月から昨年の臨床眼科学会での講演原著の掲載が始まりました。実際に学会に出席された方々でもとてもすべてのサブ領域を網羅的に概観することは無理だと思いますので,本誌を用いて原著論文で改めて内容を吟味するのも臨床眼科医としての実力アップに結びつくこと請け合いです。小さな一歩一歩の積み重ねを継続させることが,後から大きな収穫を得る秘訣で,今月も非常に参考になる報告が満載されています。特にラニビズマブ単独治療導入期に連続3回投与が必要かどうかの検討(井尻茂之氏ら)などは今後も色々な施設で検討する意義があるでしょう。お薦めの一編です。

 本号を通読して気がついた共通点をいくつか挙げてみます。第1にOCTを中心とした画像診断です。網膜硝子体疾患の診療では黄斑部網膜外層(「網膜が厚くなる疾患1」,香留 崇氏ら),そして緑内障の診療では黄斑部網膜内層(「緑内障における網膜神経節細胞層の菲薄化」,宇田川さち子氏ら)の詳細な所見の解析が行く行くはそれぞれの疾患の視機能の判定や予後を予測できるという内容で,網膜硝子体と緑内障の接点がOCTによって黄斑に求められると考えられます。そして将来期待される次世代のOCT(「黄斑研究会」,伊藤逸毅氏),より広く,より深く,より詳細にということで興奮します。第2に甲状腺眼症(「基礎からわかる甲状腺眼症の臨床」,柿﨑裕彦氏)と眼筋型重症筋無力症(「つけよう! 神経眼科力」,三村 治氏)があります。この2疾患では内科医や神経内科医よりも眼科医が診断や治療にイニシアチブを発揮するべきという理路整然たる内容に脱帽です。私なぞこれまで多くの患者さんを見逃していたと思われ,不勉強を反省しております。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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