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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科68巻3号

2014年03月発行

雑誌目次

特集 第67回日本臨床眼科学会講演集(1) 特別講演1

患者(ひと)はなぜ緑内障で失明するのか?―失明回避にTSUNAGUために

著者: 山本哲也

ページ範囲:P.277 - P.285

 緑内障による高度視覚障害を防ぐことは,緑内障診療に携わる者にとってきわめて重要な視点である。岐阜大学眼科のデータによれば,15~25年観察した原発開放隅角緑内障(広義)では手術治療・薬物治療ともに視野保持効果が認められ,特に前者が良好であった。Preperimetric glaucomaでも眼圧の管理が重要であった。手術治療は薬物治療と比べて体位変化に伴う眼圧変動が少なく,これが手術の視野保持効果に関連している可能性がある。また,日本緑内障学会の共同研究から,濾過胞感染による高度視覚障害の頻度を推定した。こうした研究成果と緑内障管理の現状を元に,緑内障による高度視覚障害を回避するための6項目の提言をした。

原著

ドルゾラミド点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加投与の長期経過

著者: 井上賢治 ,   添田尚一 ,   鬼怒川雄一 ,   中井義幸 ,   柳川隆志 ,   富田剛司

ページ範囲:P.287 - P.291

要約 目的:ドルゾラミド点眼薬をプロスタグランジン関連点眼薬に追加投与したときの長期効果の報告。対象と方法:プロスタグランジン関連点眼薬を単剤として加療中の原発開放隅角緑内障97例97眼を対象とした。男性49例,女性48例で,年齢は32~88歳,平均70歳であった。1%ドルゾラミド点眼薬を1日3回追加投与し,以後3年間の眼圧,視野のmean deviation(MD)値,副作用を投与前と比較した。結果:平均眼圧は,治療開始前17.5±3.1mmHgであり,1年後15.1±3.1mmHg,2年後15.0±3.1mmHg,3年後14.8±3.1mmHgと,いずれも有意に下降した(p<0.0001)。Humphrey視野計によるMD値は,開始前から3年間不変であった。11例(11.3%)が不十分な眼圧下降のため,5例(5.2%)が副作用のため,追加点眼を中止した。結論:プロスタグランジン関連点眼薬で加療中の原発開放隅角緑内障に対し,1%ドルゾラミドの追加点眼を行い,以後3年間眼圧が下降し,視野が維持され,安全性も良好であった。

中心性漿液性脈絡網膜症の蛍光漏出部の眼底自発蛍光

著者: 田中隆行

ページ範囲:P.293 - P.301

要約 目的:中心性漿液性脈絡網膜症のフルオレセイン漏出部の眼底自発蛍光の報告。対象と方法:初回発症の12例12眼を対象とした。男性9名,女性3名,年齢は33~67歳,平均51歳であった。CX-1TM(キヤノン社製)で眼底自発蛍光を記録した。結果:全例で色素漏出部は低蛍光を呈した。その近傍に9眼で過蛍光があった。色素漏出が1個の7眼では,低自発蛍光部が4眼で1個,3眼で複数個あった。色素漏出が2個の2眼では複数個の低蛍光,3個以上の3眼ではそれ以上の数の低蛍光があった。再発した2眼では,初発時に光凝固をしなかった低蛍光部から色素漏出があった。結論:中心性漿液性脈絡網膜症での眼底自発蛍光は,色素漏出部が低蛍光を呈し,その近傍に過蛍光のあることが多い。低蛍光部の数は色素漏出部と同数またはそれ以上である。再発時の色素漏出は,初回発症時の低蛍光部に生じる傾向がある。

強度近視に伴う黄斑部網膜分離症に対する耳側強膜短縮術併用硝子体手術

著者: 田中住美 ,   樋口かおり ,   安藤文隆 ,   馬場隆之 ,   出田隆一

ページ範囲:P.303 - P.308

要約 目的:近視性黄斑部網膜分離症(MMRS)に対する耳側強膜短縮術(SS)を併用した硝子体手術の治療成績を検討した。対象と方法:対象は,2012年1月~2013年4月に,耳側120°にわたる6mm幅のSSを併用し,内境界膜の意図的剝離をせずに後部ぶどう腫内の硝子体皮質剝離を行ったMMRSの連続症例10例10眼。術前術後の黄斑部OCT所見,視力を検討した。結果:3~15か月の術後経過観察期間で,10眼中9眼で解剖学的所見,4眼で矯正視力が改善した。OCT上,全例で後部ぶどう腫の軽度の平坦化が推察された。結論:本術式は奏効機序の解明が必要であるが,MMRS治療の選択肢として検討価値があると考えた。

網膜静脈分枝閉塞症による黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期治療成績

著者: 窪谷日奈子 ,   澤田憲治 ,   三浦真二 ,   森井香織 ,   藤原りつ子

ページ範囲:P.309 - P.313

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症に続発した黄斑浮腫に対するアフリベルセプト硝子体内投与の5か月間の成績の報告。対象と方法:発症から3か月以内と推定される網膜静脈分枝閉塞症9例9眼を対象とした。男性4例,女性5眼で,平均年齢は64歳である。全例に黄斑浮腫があった。罹患眼にアフリベルセプト2mgの硝子体注射を行い,経過により追加投与した。視力は対数視力で評価し,光干渉断層計による中心窩厚を計測した。治療開始から5か月間の経過を追った。結果:治療前の平均視力は0.39±0.24,1か月後0.14±0.16で,有意に改善した(p=0.03)。中心窩厚の平均は,治療前420.0±146.3μm,1月後には301.4±48.7μmで,有意に減少した(p=0.0020)。黄斑浮腫の悪化に対し,アフリベルセプトを3か月目に2眼,4か月目に5眼に再投与した。視力と中心窩厚は,経過観察の期間中維持された。結論:網膜静脈分枝閉塞症に続発した黄斑浮腫に対し,アフリベルセプト硝子体内投与により視力が向上し,中心窩厚が減少した。

硝子体手術とメトトレキサート眼内注射が有効であった原発性眼内リンパ腫の1例

著者: 古川真理子 ,   熊谷和之 ,   玉田裕治

ページ範囲:P.315 - P.320

要約 目的:眼内悪性リンパ腫に,硝子体手術とメトトレキサート(MTX)の硝子体注射が奏効した症例の報告。症例:50歳女性が1か月前からの左眼飛蚊症で受診した。父親が肝臓癌,母親が卵巣癌であった。所見と経過:矯正視力は右1.2,左1.5で,左眼に硝子体混濁と炎症細胞があった。ぶどう膜炎と診断し,ステロイド剤の点眼で寛解した。15か月後に左眼の飛蚊症が再発し,視力が0.7に低下した。硝子体混濁が増加し,前房に炎症所見があった。ステロイド剤の点眼で寛解した。さらに15か月後に再発があり,硝子体混濁が右眼にも生じた。左眼の眼底は透見不能で,右眼の黄斑下方に灰白色混濁があった。再々発から6か月後に左眼に硝子体手術を行い,悪性リンパ腫の所見を得た。右眼にも硝子体手術を行い,MTXの硝子体注射を10か月間行い,眼内所見は寛解した。悪性リンパ腫の診断から3年後に頭蓋内病変が生じ,視力は右手動弁,左0.4となった。結論:悪性リンパ腫による硝子体混濁に硝子体手術が奏効し,眼底の浸潤病巣にはMTXの硝子体注射が有効であった。

ロービジョン検査判断料に対する眼科医の意識調査

著者: 西田朋美 ,   鶴岡三惠子 ,   川瀬和秀 ,   仲泊聡 ,   永井春彦 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.321 - P.327

要約 目的:ロービジョン検査判断料に対する眼科医の意識調査報告。対象と方法:電子メールにより,全国の眼科医264名にアンケートを送り,8項目の設問に回答を求めた。結果:142名(53.8%)から回答があった。ロービジョン検査判断料が診療報酬化されてよかったかについては,78.2%がよかった,18.3%がわからないと回答し,よくなかったという回答はなかった。よかったことでは,76.6%がロービジョンケアの重要性をアピールできると回答した。困ることでは,46.8%が国リハ医師研修会を受講修了した医師が常勤勤務の施設しか診療報酬請求できないと回答した。結論:今後の課題は残るが,肯定的な意見が多かった。

後部硝子体剝離により自然軽快したと考えられる中心窩分離症,黄斑剝離の1例

著者: 岩久文 ,   榎本暢子 ,   富田剛司 ,   八木文彦

ページ範囲:P.329 - P.332

要約 目的:後部硝子体剝離を契機として,中心窩分離症と黄斑剝離が自発寛解した症例の報告。症例:強度近視がある71歳女性が,2年前に白内障手術を両眼に受けた。左眼後囊が破損し眼内レンズが偏位したので整復を希望して受診した。所見:矯正視力は右1.2,左0.7であり,眼軸長は右24.73mm,左29.26mmであった。左眼眼内レンズの偏位を整復し,視力は0.7に改善した。2年後に左眼視力が0.1に低下し,左眼の中心窩分離症と黄斑剝離がその原因と推定された。1年後に黄斑剝離は自然寛解した。特発性の後部硝子体剝離がその原因と推定された。結論:本症例の強度近視眼に生じた中心窩分離症と黄斑剝離は,後部硝子体膜の牽引で生じ,その剝離に伴って軽快したと解釈される。

ビタミンAを投与された網膜色素変性症例のGoldmann視野検査とHumphrey視野検査

著者: 明尾潔 ,   明尾庸子 ,   加藤帝子

ページ範囲:P.333 - P.338

要約 目的:ビタミンAの投与を受けた網膜色素変性の症例での視野の報告。対象と方法:眼底所見と電気生理学的所見とから網膜色素変性と診断された17例を対象とした。男性11例,女性6例で,投与開始時の年齢は28~70歳,平均44歳である。1日10,000IUのビタミンA(チョコラ®A)を投与し,矯正視力の経過を追った。Humphrey視野検査を13例に行い,1年から4年,平均2.2年の経過を追った。Goldmann視野検査を全例に行い,1~15年(平均8年)の経過を追った。投与前の矯正視力は,0.7以上が30眼,0.5以下が4眼であった。結果:ビタミンA投与後の矯正視力は,0.7以上が31眼,0.5以下が3眼であった。29歳の症例では,左眼視力が投与前の0.4から7年後に1.2に改善した。Humphrey視野計によるMD値は,13例中6例(46%)で片眼のみが改善した。Goldmann視野計でのⅠ-2指標の面積は,17例中3例(18%)で両眼,4例(24%)で片眼のみが拡張した。Ⅴ-4指標の面積は,4例(24%)で両眼,3例(18%)で片眼のみが拡張した。結論:網膜色素変性に対するビタミンAの長期投与で,一部の症例で視野が改善した。改善は,HumphreyとGoldmann視野でほぼ同等であった。

ベバシズマブ硝子体注射と光線力学的療法で加療した網膜血管腫の小児例

著者: 馬場高志 ,   三宅敦子 ,   山﨑厚志 ,   日下俊次 ,   井上幸次

ページ範囲:P.339 - P.343

要約 目的:ベバシズマブ硝子体注射と光線力学的療法(PDT)で加療した網膜血管腫の小児例の報告。症例:11歳女児が乳児期にvon Hippel-Lindau(VHL)病と診断され,眼科的な精査のため受診した。腎囊胞,膵囊胞,小脳血管芽腫があった。祖父と父に網膜血管腫を伴うVHL病があった。所見と経過:矯正視力は左右眼とも1.5であり,両眼の周辺部と左眼黄斑の耳側に網膜血管腫があった。両眼周辺部の網膜血管腫に光凝固を行い,16か月後に左眼にベバシズマブ硝子体注射を行った。さらに1年後に左眼黄斑耳側の血管腫にベバシズマブ硝子体注射とPDTを行った。以後6か月後の現在まで左眼は0.3の視力を維持し,眼底所見の悪化はない。結論:黄斑近くにある網膜血管腫に対し,PDTが有効であった。

追加手術が必要となった乳児内斜視症例についての検討

著者: 金井友範 ,   野村耕治 ,   阪田紘奈 ,   井上結香子

ページ範囲:P.345 - P.350

要約 目的:乳児内斜視への手術後に追加手術を必要とした症例の報告。対象と方法:過去10年間に乳児内斜視と診断し,手術が行われた102例を対象とした。22例には残余内斜視に対し追加手術として内直筋の後転術が行われた。これら22例での初回手術は,7例が2歳未満,15例が2歳以降に行われた。結果:追加手術が行われた22例で,追加手術が行われなかった80例と同等の良好な眼位と両眼視が得られた。初回手術が行われた年齢は,最終結果と関係しなかった。結論:乳児内斜視への手術後に残存した内斜視に対し,内直筋後転術による追加手術は有効であり,眼位の改善と両眼視が得られた。

血液透析時の眼圧上昇に血液濾過が有効であった1例

著者: 南川裕香 ,   杉崎顕史 ,   國方俊雄 ,   田邊樹郎 ,   藤野雄次郎

ページ範囲:P.351 - P.354

要約 目的:血液透析時に眼痛があり,透析後に眼圧が顕著に上昇する症例に,血液濾過への変更が奏効した報告。症例:57歳の男性が血液透析中に生じる右眼の疼痛で受診した。32歳から糖尿病があり,39歳から囊胞腎による慢性腎不全で血液透析を開始し,42歳から拡張性心筋症,49歳の時に小脳出血があった。母,兄,姉が囊胞腎による腎不全で死亡している。所見と経過:透析前は無症状で,矯正視力は両眼とも1.2であり,眼圧は右20mmHg,左15mmHgであった。眼底に糖尿病網膜症はなかった。眼圧は透析直後に右30mmHg,左21mmHgに上昇した。グリセオール200mlを点滴で併用した。透析直後の眼圧上昇には変化がなかった。初診から3か月後に血液透析を血液濾過に変更した。血液浄化前後の眼圧は14~20mmHgの範囲におさまるようになり,眼痛はなくなった。初診から20か月後に不帰の転帰をとった。結論:血液透析時の眼圧上昇に,血液濾過への変更が奏効した。

Special Interest Group Meeting(SIG)報告

黄斑研究会

著者: 岩瀬剛

ページ範囲:P.356 - P.357

 今年も昨年同様に,日本臨床眼科学会の専門別研究会の1つとして行われてきた黄斑研究会がSpecial Interest Meeting(SIG)として行われた。近年,黄斑研究会は若干メディカルレチナに重きを置いて進んできた。一方,黄斑分野では近年画像診断の進歩が著しく,さまざまな黄斑疾患の病態解明・治療技術の進歩に大きく貢献してきており,硝子体手術後の網膜の形態もより詳細に評価することが可能となった。そこで本年は,本来の本研究会の前身であった専門別研究会Closed eye surgeryに立ち戻り,進歩の著しいサージカルに重きを置いて,画像診断の進歩に基づく最近の手術成果と今後の方向性について検討された。

 具体的には,硝子体手術の著しい進歩の一方,抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)抗体硝子体内投与をはじめとする薬物治療の開発が進み,今まで硝子体手術を行ってきた網膜疾患の一部では現在薬物療法による加療により良好な結果が得られてきている。本年の研究会においては,薬物療法が主に行われている加齢黄斑変性,日本では薬物療法よりむしろ手術療法が行われている糖尿病黄斑浮腫(diabetic macular edema:DME),今後新しい薬物療法(Ocriplasmin)の適応が進んでくると考えられる黄斑牽引症候群や黄斑円孔などについて,今後の治療方針を見据えたうえでの硝子体手術成績,そして,さらに進化していく画像診断による硝子体術後の観察,さらなるsmall gaugeからの硝子体手術などの現状・将来の可能性について5人の研究者が口演し,活発な討論がなされた。

日本強度近視研究会

著者: 大野京子

ページ範囲:P.358 - P.359

 日本強度近視研究会のSIGは今年で2回目を迎えたが,今年も素晴らしい講演と活発な質疑応答が行われ,白熱した会となった。一般公演は4題あり,特別講演は1題行われた。

連載 今月の話題

視神経乳頭・網脈絡膜循環測定の臨床応用

著者: 杉山哲也

ページ範囲:P.255 - P.260

 眼循環測定の臨床応用は従来から試みられてきたが,レーザースペックル法による汎用機(レーザースペックルフローグラフィ:LSFG)が日本で普及しつつある現在,ようやく日常臨床への実質的応用が可能になったといえる。わが国で開発されたLSFGを用いて,眼循環測定がいかに臨床応用できるか,実例を挙げ解説する。

硝子体手術アジュバント―知っておきたいコツと落とし穴・第2回

染色剤(ICG,BBG)

著者: 山根真

ページ範囲:P.262 - P.265

コツ

1.後部硝子体皮質を除去してから染色する。

2.眼内灌流が止まった状態で染色剤を吹き付ける。

3.染色剤はすぐに吸引除去する。


落とし穴

1.ICGには網膜毒性があるので使用濃度は0.125%以下にする。

2.黄斑円孔では円孔底へ色素を入れないようにする。

3.黄斑上膜があると染色されないので除去する。

何が見える? 何がわかる? OCT・第14回

IS/OSに注目してみよう1―AZOOR

著者: 向井亮 ,   佐藤拓

ページ範囲:P.266 - P.274

Point

◎IS/OSラインの不整がみられる部位と,視野障害・多局所ERGの振幅低下がみられる部位との一致を確認する。

◎外顆粒層,網膜色素上皮の変化にも注意する。

◎視神経乳頭周辺部に病巣があることも多く,中心窩だけのスキャンではなく視神経乳頭を中心としたスキャンの観察も重要である。

今月の表紙

Wilson病

著者: 比嘉智子 ,   中澤満

ページ範囲:P.275 - P.275

 症例は27歳,男性。18歳時から肝機能障害を指摘され精査目的に入院となり,当科へ紹介となった。視力は右0.8(1.2),左0.7(1.2)で,眼圧は右9mmHg,左11mmHg,水晶体,中間透光体に異常はみられなかったが,角膜周辺部に黄褐色がみられ,Kayser-Fleischer角膜輪が両眼の全周に認められた。

 撮影には,トプコン社製のSL-7Fを使用した。倍率25倍,スリット長10mm,幅3mm,バックグラウンドはoffに設定し,カメラを耳側に振り,スリット光が虹彩からの反射光により角膜裏面の沈着物に,ピントが合うように調整して撮影した。

書評

《眼科臨床エキスパート》オキュラーサーフェス疾患 目で見る鑑別診断

著者: 妹尾正

ページ範囲:P.355 - P.355

 本書は,「眼科臨床エキスパート」シリーズの角膜疾患編である。本書籍はこれまでの成書として確立された定番の説明だけにとどまらず,最先端の知見・技術を含む基礎知識や臨床応用,トピックスが盛り込まれている。角膜形状解析,PCRなどの遺伝子検査,前眼部OCT,電子顕微鏡,共焦点顕微鏡といった現状でも新たな利用価値や開発が進み続けている機器の解説や実際の所見がふんだんに盛り込まれている,頼もしい一冊である。

 なによりも本書に魅力を感じる点は,その読みやすさ(使いやすさ)にあると思う。一般診療でわれわれ臨床医がとる診断・治療の過程のなかで成書や文献は,問診・診察より得られる情報から臨床経験を通して想起される診断・治療の確認や確定診断にむけたさらなる検査,ベストチョイスであろう治療法の選択を確立するための一手段として用いられている。しかし実際には日常診療のなかで素早く診断・治療を決めてゆくためには,ゆるぎない知識が要求されるうえ,必ずしも自分が専門とする疾患を患う患者のみが選択的に自分のもとに来るわけではない。中には典型的な所見を呈する患者だけではなく,専門分野であっても診断がつきにくい疾患もあまたある。このような現状で,多くの成書は疾患について詳細にまとめあげたものが多い。例えば「角膜上皮欠損」→「異物」「CL障害」「アレルギー」「感染症」「薬物障害」などなど多くの原因を想起し診断・治療へと進んでゆくわけだが,鑑別が困難な場合(または治療効果が得られない場合)成書をひも解くのはやや手間がかかる。(もっともこれらを繰り返してゆくことが,医師としての知識につながってゆくのだが―)この点で本書はまとめ方がユニークで他の成書と併用し得る興味ある一冊となっている。われわれ眼科医が診療上最も得られやすい臨床所見,例えば「点状表層角膜症の鑑別」「角膜上皮欠損の鑑別」といったようにまとめあげられているのである。これまで本書のようなまとめ方は,ありそうでなかった。なぜならば,このようなまとめ方を求めると疾患や診断・治療法が大きく重複してしまい複雑かつ膨大になってしまうからである。本書はこの点をきれいに整理し非常に理解しやすくまとめ上げている。また基礎知識,所見,疾患概念,検査を先端技術や治療法を含めて段落ごとに整理されており,大変使いやすい。疾患ごとに整理された大きな成書も一冊必要とは思われるが,本書と併用することによって縦横の知識の網羅ができる外来必携の一冊である。

《眼科臨床エキスパート》All About開放隅角緑内障

著者: 根木昭

ページ範囲:P.361 - P.361

 本書は,わが国の緑内障学の牽引者である山本哲也氏と谷原秀信氏の編集による開放隅角緑内障についての最新の知見をまとめた400ページ余の大著である。本書は医学書院による「眼科臨床エキスパート」シリーズの一巻であり,シリーズの方針は「臨床現場で要求される知識を,エキスパートの経験・哲学とエビデンスに基づく新スタンダードとして解説する」ことにある。この基本方針に加えて,「基礎と臨床の新知見をふんだんに盛り込み」,「患者の予後改善に役立つ知識を整理」することを目的として編集された。

 内容は5章からなり,第1章の「総説」では山本哲也氏の豊かな経験に基づく緑内障診療のすすめかたの哲学と管理における着目ポイントが箇条書きに簡潔にまとめられている。第2章は「疫学と基礎」で,有病率やリスクファクター,遺伝要因や基礎的裏付けについて重要な情報が全体の約40%の紙面を費やして詳細に記載されている。第3章は「開放隅角緑内障の診断」について眼圧測定,眼底所見,視野検査の留意点とともに発展著しい光干渉断層計,視野解析方法の最新の知見が紹介されている。第4章は「開放隅角緑内障に対する治療」であり治療原則から新しい点眼薬やチューブシャント手術に至るまで実践的に記載されている。特に日常診療の主体である薬物治療に約50ページが割かれている。第5章では「開放隅角緑内障の生活指導とロービジョンケア」が症例を挙げて示されており,全体として現在の開放隅角緑内障管理のスタンダードのすべてが網羅されている。

やさしい目で きびしい目で・171

草原を走る

著者: 清水聡子

ページ範囲:P.363 - P.363

 2年前の春,長男は医学部に,次男は中学に入学した。6歳離れているので卒業・入学が重なることになる。2年前は大学受験と中学受験が重なり,母としては気のもめる毎日であった。無事進学も決まり,当たり前だが次男にも背が追い越され,私が家の中で一番小さい人になってしまった。

 私の母は眼科医,祖母はもともと歯科医,叔母たちも医師であったり薬剤師であったり,私・弟・いとこたちを育てながら皆働いていた。彼女たちの影響が強く,子どもの頃から私も大人になったら当然働きながら家庭をもつのだと思っていた。

臨床報告

視神経膠腫を疑い視神経鞘髄膜腫であることが判明した1例

著者: 工藤孝志 ,   木村智美 ,   工藤朝香 ,   安達功武 ,   中澤満 ,   大熊洋揮 ,   黒瀬顕

ページ範囲:P.373 - P.377

要約 目的:視神経膠腫に類似する臨床所見を呈し,病理組織学的に視神経鞘髄膜腫と診断された1例の報告。症例:妊娠6か月の25歳女性が左眼視力低下で近医を受診し,乳頭浮腫を指摘され,左眼の視神経乳頭炎と診断された。出産後に当科を受診し,矯正視力は右2.0,左手動弁,眼球運動は正常であった。左眼に乳頭腫脹と網膜血管の拡張・蛇行がみられた。1年後に左眼の乳頭腫脹は増大し,optociliary shunt vesselが確認された。MRI検査で視交叉まで連続する左視神経の腫大があった。視神経膠腫が疑われ,4か月後に開頭による腫瘍摘出が行われた。病理学的に髄膜腫と診断された。さらに5か月後の現在,右眼視力は2.0,左眼視力は0で,眼球癆は生じていない。結論:本症例は,臨床所見が視神経膠腫に類似したが,病理組織学的に視神経鞘髄膜腫であった。

経過中に網膜静脈分枝閉塞症を発症した視神経乳頭上動脈瘤の1例

著者: 石黒利充 ,   金煕乾 ,   中道悠太 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.379 - P.383

要約 目的:乳頭上の網膜細動脈瘤に網膜静脈分枝閉塞症が併発した症例の報告。症例:69歳女性がSjögren症候群として内科から紹介され,経過観察中であった。初診時の矯正視力は右0.9,左0.5であった。2年後に右眼の乳頭上に動脈血管瘤が発見された。動脈血管瘤は緩慢に増大し,9か月後に硝子体出血を伴う網膜静脈分枝閉塞症が生じた。網膜出血と黄斑浮腫が生じ,視力が0.3に低下した。発見から15か月後に硝子体手術を行い,動脈瘤は器質化し,0.7の最終視力を得た。結論:本症は,乳頭面上に生じた網膜細動脈瘤では網膜静脈分枝閉塞症が併発する可能性があることを示している。

陳旧性外傷性黄斑円孔眼に発症した黄斑円孔網膜剝離

著者: 竹田朋代 ,   家久来啓吾 ,   板野瑞穂 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.385 - P.390

要約 目的:鈍性外傷による黄斑円孔が生じてから長期間後に黄斑円孔網膜剝離が発症した症例の報告。症例:67歳男性が3日前からの右眼視力低下で受診した。17歳の時に野球ボールが右眼に当たり,外傷性黄斑円孔と診断されていた。7年前にも同じ診断を受け,矯正視力は0.01であった。経過:矯正視力は右0.01,左1.0で,強い屈折異常はなく,眼圧は右13mmHg,左15mmHgであった。右眼に黄斑円孔があり,その下方に胞状網膜剝離があった。硝子体手術を行い,術中所見として後部硝子体は未剝離であった。空気による網膜伸展,眼内レーザー光凝固,ガスタンポナーデにより網膜は復位し,0.02の矯正視力を得た。結論:外傷性黄斑円孔に,しかも50年という長期間後に網膜剝離が続発することは稀有である。本症例では,後部硝子体が未剝離であったことが主な発症要因であったと推定される。

OCT所見に左右差のみられた成人型卵黄様黄斑変性の1例

著者: 文俊貴 ,   家久来啓吾 ,   鈴木浩之 ,   佐藤孝樹 ,   石崎英介 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.391 - P.395

要約 目的:光干渉断層計(OCT)で左右眼に異なる所見を示した成人型卵黄様黄斑変性の症例の報告。症例:49歳女性が2年前からの両眼の変視症で受診した。変視症は左眼で顕著であった。所見:矯正視力は右1.2,左0.9で,網膜電図は正常であった。両眼黄斑部に1/4乳頭径大の卵黄様滲出斑があった。フルオレセイン蛍光眼底造影では,病変部は低蛍光で,その周囲に輪状の過蛍光があり,造影後期には病変部全体が淡い過蛍光を呈した。OCTでは,右眼では病変に一致する疣状の肥厚が視細胞内外節接合部と連続し,左眼ではこれが網膜色素上皮(RPE)と連続していた。結論:成人型卵黄様黄斑変性の49歳女性でのOCT所見として,一眼には視細胞内外節接合部に疣状の高反射,他眼にはRPEが疣状に肥厚する高反射があった。成人型卵黄様黄斑変性では,病変がRPEに限局するだけでなく,内層に波及する可能性がある。

両眼開放不能症例に対する新作カラーオクルーダー眼鏡のトライアル

著者: 槇千里 ,   塩川美菜子 ,   山崎幸加 ,   松森礼子 ,   本多聖子 ,   井上賢治 ,   若倉雅登

ページ範囲:P.397 - P.403

要約 目的:両眼開放視困難な症例に対してquality of life(QOL)向上を目的に試作したカラーレンズオクルーダー眼鏡を使用し,その装用効果と患者の満足度を検討する。対象と方法:代償不能の複視や両眼視を損なう疾患などにより,両眼開放下で日常生活に困難を生じている29例を対象とした。目的を説明後,上掛け式カラーレンズオクルーダー眼鏡を試用させ,希望者には貸与のうえで2週間以上,日常生活での使用に供し,アンケート調査を行った。結果:約62%の症例で自覚症状改善がえられた。非改善例はいずれも周辺視野や周辺融像の阻害が原因であった。不満が多かったのは外見や装用感であり,のちの改良に役立てた。結論:カラーレンズオクルーダー眼鏡は代償できない複視,混乱視のための両眼開放視困難な患者の両眼を開瞼したまま片眼遮閉ができることでQOL向上に有用である。

カラー臨床報告

Vogt-小柳-原田病(VKH)に続発する脈絡膜新生血管症に対してラニビズマブ硝子体注射が奏効した1症例

著者: 辻隆宏 ,   小堀朗

ページ範囲:P.367 - P.371

要約 目的:Vogt-小柳-原田病に併発した脈絡膜新生血管にラニビズマブの硝子体注射が奏効した症例の報告。症例:42歳男性が2週間前からの左眼視力低下で受診した。矯正視力は左右眼とも1.2であった。両眼に眼底周辺部に軽い夕焼け様の変化と,乳頭浮腫があった。HLA型はDR1とDR4が陽性で,眼底所見と合わせ,Vogt-小柳-原田病と診断した。14か月後に右眼に変視症が生じた。両眼とも強い夕焼け状眼底であり,右眼の中心窩に接して脈絡膜新生血管があった。2週間後に右眼視力が0.6に低下した。ラニビズマブの硝子体注射を行い,6週間後に視力は1.0に回復した。さらに5週後の再発に同様の治療を行い,以後5か月間,再発はない。結論:Vogt-小柳-原田病の晩期合併症として生じた脈絡膜新生血管に,ラニビズマブの硝子体注射が奏効した。

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欧文目次

ページ範囲:P.252 - P.253

べらどんな 平均値

著者:

ページ範囲:P.286 - P.286

 脈なし病と頸動脈狭窄とは似た関係にある。どちらも総頸動脈か内頸動脈の狭窄がゆっくり進行する疾患だからである。ところが眼科からみると,この両者はまったく違う。重篤度にもよるが,脈なし病では網膜の動静脈吻合が生じ,毛細血管瘤も多発するのに,頸動脈狭窄では網膜の血管が狭細化するだけで,動静脈吻合などは生じないのである。

 この違いがなぜ起こるのかは,ずっと不思議だった。発症年齢の差,すなわち脈なし病は若い女性に好発するのに,頸動脈狭窄は動脈硬化がある高齢者に多いからである。最近になり,その理由がわかった(ような気がした)。

べらどんな グレーフェ賞

著者:

ページ範囲:P.362 - P.362

 机から記念メダルがでてきた。1966年にミュンヘンで開催された第20回国際眼科学会のときに頂いたもので,直径4cmの銀製である。

 裏面には,聖母教会のバロック風の二本の塔があり,それを囲んで1966の数字と,Conc. Int. XX. Ophth. Münchenの文字がある。

ことば・ことば・ことば プロテーゼ

ページ範囲:P.366 - P.366

 フランス語には英語とそっくりな単語があります。ただし,フランス語から英語に入った場合がほとんどで,例外はbarとsandwichぐらいです。

 綴りが同じ単語の例としては,nation,nature,animal,journal,sensation,associationなどと,キリがありません。もちろんですが,形が似ていても発音はすべて違います。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.404 - P.408

投稿規定

ページ範囲:P.410 - P.411

希望掲載欄

ページ範囲:P.412 - P.412

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.413 - P.413

アンケート

ページ範囲:P.414 - P.414

次号予告

ページ範囲:P.415 - P.415

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.416 - P.416

 臨床眼科68巻3号をお届けします。本号が発刊される頃は第118回日眼総会と第34回国際眼科学会(WOC 2014)を目前に控え,学会関係者や各大学関係者には特別な緊張感が漂っているのではと推察します。日本で国際眼科学会が開催されるのは1978年の京都開催以来ですので今回で36年ぶりとなります。アジアや欧米を中心に各国から眼科医が日本に集う特別な機会ですので,ぜひこの特別な学会に参加されてグローバルな視点を味わってみることをお勧めします。日常眼科診療への有形無形な財産となるものと思います。

 今月の臨床眼科誌では昨年の第67回日本臨床眼科学会での山本哲也岐阜大学教授による特別講演「患者(ひと)はなぜ緑内障で失明するのか?」の原著が掲載されています。緑内障治療はいつ開始するべきか,薬物治療と手術治療の選択はどうすべきか,目標とすべき眼圧値はどのくらいか,などについて極めて論理的にかつ明快に記載されています。長期間の岐阜大学での緑内障診療データベースの構築があったからこその成果であり,山本教授や前任の北澤克明名誉教授の先見性やリーダーシップのなせる技だと感じさせられます。その他,レーザースペックル法の応用(杉山哲也氏)や術中染色剤(山根 真氏)の論文や多彩な症例報告など興味深い内容が満載です。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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