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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科68巻6号

2014年06月発行

雑誌目次

特集 第67回日本臨床眼科学会講演集(4) 原著

1,885眼の他覚的屈折度(球面度・乱視度)の20年にわたる経年変化の年代別比較

著者: 河鍋楠美

ページ範囲:P.791 - P.793

要約 目的:初診時年齢から20年を経た各年齢層において,他覚的屈折度数がいかに変化するかを年代ごとに調査した。対象と方法:眼科の1診療所において初診時が10~60歳代の各年代を対象に,他覚的検査器オートレフを用いて球面屈折度数,乱視度数,等価球面度数について経過を観察したうち,20年間を追うことのできた合計1,885眼の変化をみた。結果:初診時年齢30歳代を境に屈折度区分の近視側から遠視側への移行がみられた。乱視度数は年代にかかわらず増加した。結論:多数の症例の経過をみることにより,若年層は近視側・乱視へ移行する者が多いが,30歳代以上は遠視側・乱視へ移行する者が多く,過矯正の眼鏡による弊害も確認できた。

涙囊瘻炎の2例

著者: 渡辺このみ ,   渡辺一彦

ページ範囲:P.795 - P.797

要約 目的:無症候性の先天性涙囊瘻に感染を生じた2症例の報告。症例:症例1は23歳女性,症例2は48歳男性で,ともに左眼周囲の腫脹,疼痛を訴え受診された。所見:2例とも左眼の内眼角下方が腫脹し,腫脹部に先天性外涙囊瘻がみられた。涙囊瘻はこれまで無症状であった。上下涙点および涙囊瘻からも涙管通水が良好であったため,急性涙囊瘻炎と診断した。症例1は抗菌薬の投与と腫脹部への穿刺,排膿で,後者は抗菌薬の投与のみで改善した。結論:一見急性涙囊炎と思われても,通水検査や涙囊瘻を確認することで急性涙囊瘻炎ということがあり,先天性外涙囊瘻の存在も念頭に置いて診断する必要がある。

春季カタルの臨床像の最近5年間における推移

著者: 小沢昌彦 ,   ジェーンファン ,   内尾英一

ページ範囲:P.799 - P.804

要約 目的:免疫抑制薬が使用されるようになった過去5年間の春季カタルの臨床像の報告。対象と方法:2012年までの5年間に春季カタルと診断した64例を対象とした。男性53例,女性11例で,年齢は3~34歳,平均12歳であった。診療録の記述を検索した。結果:年齢は5~9歳,病型は眼瞼型,受診率は5~9月に多かった。アトピー性皮膚炎は45例(70%)にあった。検索した5年間の受診者と初診時の重症度は,減少する傾向にあり,女性の割合は増加した。ほぼ全例に免疫抑制点眼薬が用いられ,ステロイド薬の点眼は減少する傾向があった。結論:春季カタルの受診者数は過去5年間に減少し,軽症化する傾向があり,本症の発症原因が変化している可能性がある。

ヒト生体角膜内皮同一細胞群の2年間の観察でわかった細胞脱落前後の細胞動態と恒常性維持機構

著者: 松原稔 ,   松原令 ,   松原央

ページ範囲:P.805 - P.812

要約 目的:ヒト角膜内皮細胞の動態の報告。対象と方法:健康人8名16眼の角膜中央部の内皮を,スぺキュラーマイクロスコープで1週間に1回,2年間記録した。年齢は22~76歳(平均39歳)である。横断的解析群として,外来患者104名の角膜を同様に記録した。結果:角膜内皮には,細胞脱落前から多形性と大小不同が生じ,脱落後にこれが顕著化し,最終的に細胞面積が均等化した。これらの変化は,脱落細胞を囲む細胞群のみにあった。すべての細胞群で,内皮細胞の角数の平均は6.0であった。角数の変化は,細胞移動と脱落を反映した。結論:健康なヒト角膜内皮の細胞脱落は,プログラムされた現象であり,細胞角数の変化が細胞の移動と脱落を反映する指標であり,角膜面に垂直な方向から見た内皮細胞を正六角形に維持する機構があることが推測される。

倒乱視白内障に対し過矯正Toric IOLを用いた乱視矯正の検討

著者: 平林一貴 ,   保谷卓男 ,   赤羽圭太 ,   金児由美 ,   菊島渉 ,   鳥山佑一 ,   京本敏行 ,   村田敏規

ページ範囲:P.813 - P.817

要約 目的:倒乱視がある白内障眼に対し,意図的に過矯正になるようなトーリック眼内レンズ(IOL)を挿入した結果の報告。対象と方法:倒乱視がある白内障34眼に,AcrySof®として推奨されるより1段階強いトーリックIOLを挿入し,1か月後の臨床所見を検索した。過去に推奨モデルを挿入した20眼と,その結果を比較した。結果:術後の残余乱視軸は,倒乱視5眼,直乱視12眼,斜乱視17眼であった。術後の裸眼視力は平均値logMAR 0.19,矯正視力はlogMAR -0.01,自覚円柱度数は0.69D,自動屈折計による円柱度数は0.99Dであり,いずれも術前よりも有意に改善した。結論:倒乱視がある白内障眼に対し,意図的に1段階の過矯正になるようなトーリックIOLを挿入し,術後の残余倒乱視が軽減した。

平滑筋肉腫に合併した腫瘍随伴網膜症が疑われた1例

著者: 高橋明裕 ,   齋藤航 ,   齋藤理幸 ,   岩田大樹 ,   神田敦宏 ,   石田晋

ページ範囲:P.819 - P.824

要約 目的:網膜症の発症から18か月後に平滑筋肉腫が発見され,腫瘍随伴網膜症であることが疑われた症例の報告。症例:79歳女性が1か月前からの左眼の霧視で受診した。高血圧以外には全身疾患はなかった。所見:矯正視力は右1.2,左0.8で,左眼に乳頭の腫脹と周辺部に雪玉様の硝子体混濁があった。蛍光眼底造影で乳頭と周辺部の網膜血管からの色素漏出があった。光干渉断層計で,視細胞内外節接合部の不連続化が両眼にあった。2週間後に左眼視力が0.2に低下した。多局所網膜電図での応答が両眼で低下していた。全身検査でサルコイドーシスは否定され,Gaシンチグラフィと胸腹部CTを含む諸検査で悪性腫瘍は発見されなかった。プレドニゾロンの経口投与で左眼視力は0.6に改善した。初診から18か月後に背部に皮下腫瘍が発見され,切除により平滑筋肉腫と診断された。初診から37か月後の現在まで,格別の変化はない。結論:本症例での網膜症は,腫瘍随伴網膜症であった可能性がある。

広義滲出型加齢黄斑変性へのラニビズマブ硝子体内投与反応不良例に対するアフリベルセプト硝子体内投与の短期成績

著者: 金井美智子 ,   今井尚徳 ,   藤井彩加 ,   大西健 ,   田上瑞記 ,   近藤仁美 ,   田口浩司 ,   安積淳

ページ範囲:P.825 - P.829

要約 目的:ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)反応不良であった滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対するアフリベルセプト硝子体内投与(IVA)の短期効果を検討する。方法:IVR導入期に反応不良であり,その後も再治療に抵抗した症例に対しIVA導入し6か月以上経過観察したAMD12例12眼を対象とした。男性10例,女性2例で,年齢は68~86歳,中央値75歳であった。病型内訳は典型AMD 6眼,ポリープ状脈絡膜血管症6眼であった。IVA導入前後の視力と病変の変化を検討した。結果:IVA導入前後で比較すると,視力は維持され(p=0.402),漿液性網膜剝離離,網膜色素上皮剝離は有意に減少したが(p=0.002,p=0.013),網膜内浮腫は有意な変化はなかったp=0.219)。結論:IVR導入期反応不良例であったAMDに対し,IVAは有効であった。

インターフェロン治療中に発症し前眼部OCTが有用であった原田病の1例

著者: 春木智子 ,   馬場高志 ,   小山あゆみ ,   山﨑厚志 ,   井上幸次

ページ範囲:P.831 - P.836

要約 目的:C型肝炎に対するインターフェロン(IFN)治療中に発症し,前眼部光干渉断層計(OCT)が診断に有効であったVogt-小柳-原田病(原田病)の症例の報告。症例:49歳女性が両眼の視力低下で受診した。過去の出産時に2回の輸血を受け,5年前にC型肝炎ウイルスに陽性であることが発見された。肝機能が増悪し,11週前にIFN-αによる治療を開始した。視力低下は3週前に生じた。所見と経過:矯正視力は左右眼とも0.2で,両眼に乳頭の発赤と後極部の網膜剝離があった。フルオレセイン蛍光眼底造影で,点状の色素漏出と網膜剝離に一致する色素貯留があった。OCTで浅前房があり,原田病と診断した。IFNを中止し,ステロイドパルス療法を行った。前房は深くなり,OCTで網膜剝離は消失し,6週後に視力は左右眼とも1.2に回復した。本症例はフルオレセインに過敏であり,OCTは病変の経過観察に有用であった。結論:IFNの投与中に原田病が発症することがあり,注意が必要である。前眼部のOCTは非侵襲的検査として病勢の評価に有用であった。

頸動脈ステント留置術が視機能改善に有効であった眼虚血症候群の1例

著者: 大熊博子 ,   近藤亜紀 ,   松原正男

ページ範囲:P.837 - P.840

要約 目的:視力低下を契機として内頸動脈狭窄が発見され,ステント留置術後に視機能が改善した症例の報告。症例:76歳女性が2か月前に突発した左眼視力低下で受診した。高血圧があり,47年前からの喫煙歴がある。所見:矯正視力は右0.9,左0.5で,眼圧は左右眼とも10mmHgであった。左眼に虹彩ルベオーシスとテント状の周辺虹彩前癒着(PAS)があった。眼底に格別の異常はなかった。超音波検査で,左内頸動脈に75%の狭窄があった。頸動脈ステント留置術を行い,その2日後に左眼視力は0.8になり,虹彩ルベオーシスはほとんど退縮し,術前にあった鼻側の視野沈下は改善した。結論:内頸動脈狭窄に対するステント留置術で,視機能が改善した。

COL4A1遺伝子異常により網膜血管異常を呈した1例

著者: 佐藤春奈 ,   山根真 ,   門之園一明 ,   石田史彦 ,   金井光

ページ範囲:P.841 - P.844

要約 目的:Procollagen type Ⅳ alpha 1(COL4A1)遺伝子異常に網膜血管異常が併発した症例の報告。症例:在胎41週,体重2,086gで出生した女児が,生後3日目に受診した。妊娠5週目に母体が熱発し,妊娠24週目に超音波検査で側脳室の拡大があった。出生直後に側脳室の拡大,脳梗塞,脳出血があった。所見:水晶体混濁があり,出生3か月目に両眼に白内障手術を行った。両眼に網膜動静脈の白線化,網膜出血,硝子体出血があった。生後5か月目にCOL4A1遺伝子異常が発見された。生後8か月目に網膜下出血,血管の白線化,網脈絡膜萎縮が確認された。結論:本症例での網膜動静脈の閉塞と硝子体出血には,COL4A1遺伝子異常が関係していると推定される。

無症候性のBasedow病を合併した自己抗体陰性の眼筋型重症筋無力症の1例

著者: 山田麻里 ,   玉井一司 ,   永井博之 ,   紙本薫

ページ範囲:P.845 - P.847

要約 目的:無症候性のBasedow病を合併した自己抗体陰性の眼筋型重症筋無力症の症例の報告。症例:45歳男性が両眼複視と左眼瞼下垂を主訴に受診した。所見:両眼とも矯正視力は1.2で左眼の眼瞼下垂と内転,下転障害を認めた。抗アセチルコリン受容体抗体は陰性で,その後,右眼瞼下垂と左眼球運動障害の変動がみられるようになった。テンシロンテストで陽性を示し,全身症状がみられなかったため,眼筋型重症筋無力症と診断した。繰り返し行った血液検査と甲状腺超音波検査で無症候のBasedow病の合併が判明した。結論:重症筋無力症では経過中にBasedow病などの自己免疫疾患を合併することがあり,繰り返し検査を行い早期発見に努める必要がある。

横行結腸癌原発の右眼転移性虹彩毛様体腫瘍の1例

著者: 陳内嘉浩 ,   鈴木幸彦 ,   目時友美 ,   鈴木香 ,   中澤満

ページ範囲:P.849 - P.854

要約 背景:悪性腫瘍の眼球への転移は,肺癌と乳癌の脈絡膜転移が多く,消化器癌の虹彩毛様体への転移は稀である。目的:結腸癌が虹彩毛様体に転移した1例の報告。症例:54歳女性が6週間前からの右眼の視朦と充血で受診した。5年前に横行結腸癌の切除手術を受け,すでに腹膜転移があった。以後,複数の抗癌剤による治療を受け,すでに肺,腹膜,Douglas窩を含める全身転移があった。所見:矯正視力は右0.2,左1.2で,眼圧は右12mmHg,左16mmHgであった。右眼虹彩の下方部位に3mm大の黄白色腫瘤があり,これに相当する毛様体に腫瘤の浸潤があった。眼痛がなく,積極的な治療は行わなかった。虹彩腫瘤は月に1mmの速さで増大したが,眼圧上昇はなかった。初診から50日後に全身状態が悪化し,不帰の転帰をとった。結論:悪性腫瘍の虹彩毛様体への転移は,増加する可能性がある。ぶどう膜炎と所見が類似することがあり,注意が必要である。

両側涙腺腫脹に硬化性胆管炎を合併したIgG4関連疾患の1例

著者: 黒田健一 ,   吉武達哉 ,   瀬戸口義尚 ,   雨宮かおり ,   谷口美砂 ,   大谷篤史

ページ範囲:P.855 - P.858

要約 目的:IgG4関連涙腺炎と眼科的に診断され,全身検索で胆管炎が発見された症例の報告。症例:65歳男性が6か月前からの両側の眼瞼腫脹で受診した。眼窩組織の生検で,涙腺にリンパ組織の過形成があり,免疫染色で多数のIgG4陽性細胞があった。血液検査で胆道系酵素が高値であり,腹部CTで硬化性胆管炎が発見された。プレドニゾロン内服で2か月後に眼瞼腫脹が軽快し,胆管炎も寛解した。結論:涙腺腫脹ではIgG4関連涙腺炎であり,全身的に合併症がある可能性がある。

Stevens-Johnson症候群後に巨大結膜囊胞を生じた1例

著者: 横尾摩耶 ,   中尾功 ,   平田憲

ページ範囲:P.859 - P.863

要約 目的:Stevens-Johnson症候群の発症後に巨大な結膜囊胞が生じた症例の報告。症例:18歳女性が右眼の内眼角の囊胞と眼瞼下垂で紹介受診した。6年前に寒冒に対して3種類の薬剤を処方され,皮疹と角結膜炎が生じ,Stevens-Johnson症候群と診断された。その2か月後に右眼の内眼角に囊胞が生じ,穿刺を繰り返したが,次第に大きくなった。所見:右眼の上眼瞼後面が隆起し,眼瞼下垂があり,瞼裂幅は右7mm,左11mmであった。右眼の内眼角に半透明で弾性軟の囊胞があった。磁気共鳴血管造影(MRI)で,内部が均一で境界が鮮明な囊胞が描出された。大きさは14mm×8mm×16mmであった。トリパンブルーと粘弾性物質を併用する手術により,結膜囊胞を全摘出した。病理学的に結膜貯留囊胞と診断された。結論:結膜貯留囊胞は,Stevens-Johnson症候群の結果として瞼球癒着が生じ,副涙腺の分泌が障害されたために生じたと推定された。

日本の介護老人保健施設における眼疾患に関する検討

著者: 福岡秀記 ,   山中行人 ,   長屋政博 ,   鳥羽研二 ,   木下茂

ページ範囲:P.865 - P.868

要約 目的:在宅医療の前段階である介護老人保健施設の眼疾患の実態を調査すること。対象および方法:介護老人保健施設において同意の得られた症例29例58眼(男性5例,女性24例),平均年齢84.6±9.1歳を対象に眼鏡の有無の問診と眼科一般検査を行った。結果:外眼部疾患6眼(10.3%),白内障は31眼(53%)に認めた。後眼部疾患は,緑内障(疑いを含む)30眼(52%),その他7眼(12%),異常なし21眼(36%)であった。健眼視力が0.5未満かつ0.1を超える症例は6例(20.7%),0.1以下の症例は2例(6.9%)であった。結論:介護老人保健施設入所者には,高い割合で眼疾患があり在宅医療を含めたスクリーニングが必要と思われた。

スマートフォンによる前眼部撮影の検討

著者: 齋藤雄太 ,   小菅正太郎 ,   内田強 ,   高橋春男

ページ範囲:P.869 - P.872

要約 目的:スマートフォンに付随したカメラを用いて細隙灯顕微鏡所見を撮影し,既存のフォトスリットと比較検討した。対象と方法:白内障患者のうち散瞳下でiPhone®と既存のフォトスリットで前眼部撮影した患者をレトロスペクティブに検討した。iPhone®とフォトスリットの前眼部写真から白内障のgradeを診断し比較した。Mann-Whitney検定を用いてp<0.05を有意差ありとした。結果:平均年齢は68.9歳で男性14例24眼,女性13例24眼であった。両群間で白内障のgrade診断に有意差はなかった(p=0.19)。結論:iPhone®を用いることで簡便で安価に,既存のフォトスリットと同程度の前眼部画像が得られた。

Special Interest Group Meeting(SIG)報告

オキュラーサーフェス研究会 日本眼科アレルギー研究会

著者: 海老原伸行

ページ範囲:P.874 - P.875

 日本眼科アレルギー研究会は,今まで同様にドライアイ研究会と合同でオキュラーサーフェス研究会として,SIGの部会として2013年10月31日(木)17:15~18:45に行われた。ここでは,アレルギー研究会関連の事項について報告する。

連載 今月の話題

OCTを用いた緑内障眼底診断―その有用性と落とし穴

著者: 富田剛司

ページ範囲:P.771 - P.777

 光干渉断層計(OCT)検査は,緑内障で生じる乳頭陥凹の拡大,リム萎縮,網膜神経線維層欠損を検出するために行う。OCTを用いてはじめて診断できる症例もあるが,それゆえの落とし穴もある。OCTはあくまで緑内障を診断するためのツールであって,主治医に代わって診断を確定してくれるものではないことは十分認識されるべきである。

硝子体手術アジュバント―知っておきたいコツと落とし穴・第5回

粘弾性物質による分層術

著者: 前野貴俊

ページ範囲:P.778 - P.782

コツ

1.先端の曲がった鈍針を用いてゆっくりと注入する。

2.増殖膜や後部硝子体膜と網膜の層間が広い部位を見つける。

3.粘弾性物質は凝集型で,中等度の分子量のものがよい。


落とし穴

1.網膜下へ誤注入すると抜き去るのに苦労するので,誤注入しないように注意する。

2.網膜血管からの術中出血の拡散を阻止しているので,吸引除去後に思わぬ大量出血を生じることがある。

3.注入針で増殖膜を無理に持ち上げてはいけない。

何が見える? 何がわかる? OCT・第17回

OCTとWatzke-Allen法による黄斑円孔の評価

著者: 山切啓太 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.784 - P.788

Point

◎黄斑円孔における自覚的な変視症の確認法としては,Watzke-Allen法は最も簡便で,鋭敏な方法である。

◎硝子体手術後のガス充満眼でもOCTの撮影も,Watzke-Allen法も可能である。

今月の表紙

Wyburn-Mason syndrome

著者: 冨樫真紀子 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.789 - P.789

 症例は18歳,女性。他医にて,左眼の先天性網膜動静脈奇形と脳動脈奇形を告知され,数年前まで定期検診を受けていた。2週間前に眼痛,羞明,眼精疲労を主訴に近医を受診した。ドライアイの診断でヒアレイン®を処方されたが,眼痛がときどき増強したため,当院受診となった。

 視力は右1.2(1.2),左1.2(1.2),眼圧は右16mmHg,左17mmHg。結膜には充血,涙液の減少がみられた。右眼の眼底は正常であった。左眼の眼底には耳側上方に向かう血管の蛇行,拡張,毛細血管新生,動静脈の吻合があり,蛇行した血管の交叉部とその末梢に白鞘形成が認められた。Goldmann視野計においての欠損部位は,後極の血管吻合部位に一致していた。

書評

《眼科臨床エキスパート》糖尿病網膜症診療のすべて

著者: 池田恒彦

ページ範囲:P.830 - P.830

 本書を一読してまず感じたのは,編集者および執筆者の良い教科書を作ろうとする意気込みと熱意である。もちろん京大,長崎大の糖尿病網膜症を専門とする見識の高い,優秀な先生方によって執筆された教科書なので,その内容のレベルの高さについてはいうまでもないが,教科書が数多く出版されている近年においては,どうしても総括的あるいは一般的な内容になってしまうことが多い。また,教科書は内容的に最新の情報に多少とも遅れる傾向があるが,本書はまさに今,学会で議論されている最新の情報が数多く盛り込まれている。読んでいて非常に勉強になるという意味では,近年では出色のものであると確信する。

 具体的な特徴をいくつか挙げてみよう。まず,光干渉断層計(OCT)を中心とした画像診断の領域では常に日本をリードされている先生方の執筆にふさわしく,眼底写真,蛍光眼底写真にOCTを組み合わせて,非常に病態が理解しやすく記載されていることが挙げられる。画像にはおのおの所見が付記されている点も理解を助ける上で非常に有用である。また画像写真がいずれも非常にクオリティが高いのも特筆すべきことと思われる。本書の写真を見ることで,日ごろ何気なく見過ごしていた所見も確実に頭にインプットすることができる。

《眼科臨床エキスパート》オキュラーサーフェス疾患 目で見る鑑別診断

著者: 島﨑潤

ページ範囲:P.876 - P.876

 眼科の魅力の一つに「直接目で見ることができる」というのがあると思う。ラボデータや画像を介しての診断が主体となる他科と異なり,眼科疾患の多くはスリットランプや眼底鏡などで直接見て診断を下し,治療効果の判定を行うことができる。特にオキュラーサーフェスは,そのすべてをスリットランプで観察することができる。眼科医ならば誰でも,オキュラーサーフェスの観察は日常的に行っており,施設や器械によってできたりできなかったりということはない。

 すると以下のような疑問が生じる。「誰にでも見ることができるのであれば,誰でも同じように診断できるのではないか?」答えは当然「ノー」である。同じ症例を前にしても,レジデントと専門医ではその診断技術に大きな差がある。ではその差は,接したことのある症例数,いわゆる「経験の差」に由来するのであろうか? これは半分は正解だが,半分はそうとも言えない。確かにスリットランプという単純な器械でもその使い方は奥が深い。しかし専門医の診断技術の神髄は,その頭の中にあると思う。オキュラーサーフェスは診断や治療に頭を使う分野である。眼で見た所見と病歴を元に,頭の中で病態のストーリーを組み立て,それを元に治療計画を立てる。その過程こそが経験の差であり,単なるデータ量の問題ではない。

やさしい目で きびしい目で・174

私の音楽活動(2)

著者: 佐藤弥生

ページ範囲:P.877 - P.877

 前回は自分の音楽活動の歴史を書きました。今日はライブとその楽しさについてです。

 ライブのスタイルは,場所や主旨に応じて①バンドが演奏して自分はボーカルのみ,②バンドで自分がピアノも演奏して歌も歌う,③ピアノ弾き語り,のパターンがあります。曲はオリジナル,ジャズスタンダード,洋楽やJ-popのカバーなどです。

臨床報告

翼状片手術前後の前眼部OCTを用いた角膜変化の観察

著者: 髙橋大介

ページ範囲:P.889 - P.893

要約 目的:翼状片術後の屈折と角膜形状の変化の報告。対象と方法:翼状片手術を行った21例26眼を対象とした。術前と,術後3か月までの5回,自動屈折計で角膜2方向の屈折を測定した。術前と術翌日に光干渉断層計(OCT)で前眼部の形状を記録した。結果:術直後の角膜屈折は平均3.1Dの先鋭化があり(p<0.001),それ以後は変化しなかった。角膜屈折の変化は,翼状片長と有意に相関した(p<0.05)。角膜形状と前房深度には,術前と術翌日で有意差がなかった。結論:翼状片手術では,角膜実質の形状は変化しない。翼状片での角膜乱視は,角膜表面でなく,翼状片の表面が関係する人工産物(アーチファクト)である。

タフルプロスト長期点眼(1年間)による原発開放隅角緑内障眼の視野,視神経乳頭血流・形状の変化

著者: 小嶌祥太 ,   杉山哲也 ,   柴田真帆 ,   植木麻理 ,   河本良輔 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.895 - P.902

要約 目的:原発開放隅角緑内障(POAG)に対する1年間のタフルプロスト点眼が,視野,視神経乳頭の形状と微小循環に及ぼす影響の報告。対象と方法:広義のPOAG 25例を対象とした。無作為に2群に分け,12例には0.0015%タフルプロスト,13例には0.005%ラタノプロストを1年間点眼した。全例で眼圧,レーザースペックル法による乳頭の微小循環,乳頭の形状,視野を計測した。結果:眼圧は,投与開始後1~12か月まで,両群で有意に降下した。Humphrey視野計によるMD値は,タフルプロスト群でのみ有意に改善した。視神経乳頭の微小循環は,タフルプロスト群では上方と下方象限で有意に増加し,ラタノプロスト群では下方と耳側象限で有意に減少した。血圧,眼灌流圧,光干渉断層計(OCT),Heidelberg retina tomograph(HRT)Ⅱの所見には変化がなかった。結論:タフルプロストの1年間の点眼で,緑内障眼での視神経乳頭微小循環が増加する可能性がある。

カラー臨床報告

前房水PCRでHSV(初診時)とアスペルギルス(再燃時)が検出された片眼性網膜血管炎の1例

著者: 田中克明 ,   吉田淳 ,   青木由紀 ,   蕪城俊克 ,   小川学 ,   杉田直 ,   望月學 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.881 - P.887

要約 目的:前房水のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による検索で治療方針が決定した急性網膜血管炎の症例の報告。症例:28歳女性が右眼視力の急激な低下で受診した。妊娠9か月であった。所見:矯正視力は右0.5,左1.2で,右眼の前房に炎症の所見,硝子体混濁,網膜血管炎があった。前房水のPCRで単純ヘルペスウイルス(HSV)が陽性であり,アシクロビルとプレドニゾロンを投与した。3週間後に正常に出産した。初診から5か月後に右眼視力が0.03に低下し,前房に炎症,硝子体混濁,網膜血管炎の所見が生じた。前房水のPCRではHSVが陰性で,血液のPCRでアスペルギルスが陽性であった。ボリコナゾールなどの全身投与で眼所見は寛解し,視力は1.2に改善した。初診から12か月後に眼炎症が再発したが,前房水と血液のPCR所見は陰性であり,プレドニゾロン増量などで軽快した。結論:非典型的な網膜血管炎の診断と治療方針の決定に,前房水のPCR検査が有用であった。

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欧文目次

ページ範囲:P.768 - P.769

第32回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.790 - P.790

 第68回日本臨床眼科学会(神戸ポートピアホテル・神戸国際展示場)会期中の2014年11月13日(木)~11月15日(土)に開催される「第32回眼科写真展」の作品を募集します。

べらどんな つまみ食い

著者:

ページ範囲:P.829 - P.829

 むつかしい病気を診るときには,患者本人だけでなく,「立会人」と一緒に来るようにお願いしている。これは,つれあいでも家族でも友人でもよい。「つまみ食い」を避けるためである。

 病気の説明はできるだけ短いのが良い。しかし,医師の側としては,病気の原因,これからの見通し,他眼の予後,食事を含めた生活の注意など,いろいろ話をしたい。

ことば・ことば・ことば 模式図

ページ範囲:P.880 - P.880

 はじめて教わった英語はイギリス英語でした。当時はKing's English,今だったらQueen's Englishです。King's Crown Readerという教科書を使い,表紙には王冠の絵が出ていました。

 「世の中には別の英語があるらしい」ことを知ったのは,scheduleの発音でした。「予定表」のことですが,「目録,別表」とか「列車の時刻表」の意味もあります。

べらどんな 個体識別

著者:

ページ範囲:P.887 - P.887

 幸島(こうじま)という無人島が宮崎県にある。県の最南端の都井岬に近いところにあり,全周は約3kmである。ここに約90頭のニホンザルがいる。このサルたちは昭和9年に天然記念物に指定された。

 京都大学の霊長類研究所のグループが,幸島のサルたちの研究をはじめた。まず,個々のサルに名前をつけた。これは容易ではない。それぞれの顔や身体的な特徴を覚え,親子関係なども知る必要がある。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.903 - P.911

アンケート

ページ範囲:P.913 - P.913

投稿規定

ページ範囲:P.914 - P.915

希望掲載欄

ページ範囲:P.916 - P.916

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.917 - P.917

次号予告

ページ範囲:P.919 - P.919

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.920 - P.920

 今号は第67回日本臨床眼科学会講演集の4回目です。今回も貴重な報告が揃っていますが,特に河鍋氏の1,885眼という多数の高年齢症例を対象に屈折変化を20年にわたって検討した論文は,他にないもので,若年では近視化する傾向があるのに対し,高年齢層で遠視・乱視化することを多くのデータより示しています。連載も充実しており,今月の話題では富田先生がOCTを用いた緑内障眼底診断の際の注意点に関して述べられていて参考になります。結果が正常眼データベースに基づいて判定されているため,データベース対象を外れる低年齢者や屈折異常のある被験者の結果は保障されていないこと,また白内障によっても影響されることを強調されており,きわめて大事な観点だと思います。さらに「硝子体手術アジュバント―知っておきたいコツと落とし穴」第5回では前野先生がトロカールの使用が一般的になった小切開硝子体手術においてどのようにviscodelaminationを行うのかを詳細に解説されていますし,「何が見える? 何がわかる? OCT」第17回では山切先生らがWatzke-Allen法に焦点を当てられており,ガス下のOCTが施行できない場合でもWatzke-Allen法によって黄斑円孔の閉鎖判定が可能であることを解説されています。いずれも臨床上非常に役に立つ記事と思います。是非ご一読ください。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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