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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科69巻12号

2015年11月発行

雑誌目次

特集 遺伝性網膜疾患のトータルケア 【基礎と診断】

遺伝性網膜変性疾患の遺伝子検査

著者: 堀田喜裕 ,   倉田健太郎 ,   細野克博

ページ範囲:P.1590 - P.1595

はじめに

 遺伝子の塩基配列を読むのをシークエンシングと呼び,読み取る機器をシークエンサーと呼ぶ。シークエンシングの技術も,シークエンサーの性能も急速な進歩を逐げている。筆者は,これまで30年間にわたって遺伝性網膜変性疾患の原因遺伝子と臨床像の解析を行い,現在は次世代シークエンサーを用いて研究を進めている(図1)1〜5)。表1に示すように,次世代シークエンサーを用いると,現時点では,約4割の患者の原因遺伝子を同定できるといわれている6〜10)。遺伝性網膜変性疾患の患者は,遺伝について心配していることが多く,原因遺伝子の同定は遺伝相談に有用と考えられる。一方で,①シークエンシングのコストや正確さの問題,②(遺伝的異質性のために)遺伝子診断がより厳密な予後推測に決定的でないこと,③遺伝子別の治療法が確立されていないことなどの問題がある。しかし,この勢いで進歩すれば患者の遺伝情報を用いた医療も可能になるかもしれない。本稿では,遺伝性網膜変性疾患の遺伝子検査に関して,最近研究者の間で導入されつつある次世代シークエンサーについて,その利点,欠点を中心に,今後の可能性についても述べる。

遺伝性網膜疾患の動物モデル

著者: 近藤峰生

ページ範囲:P.1596 - P.1601

はじめに

 遺伝性網膜疾患の原因を解明して新しい治療法を開発する際には,動物モデルは重要な役割を果たす。遺伝性網膜疾患の動物モデルの視機能を詳細に解析することによって「なぜ見えないか」を理解し(図1),さらに網膜のサンプルを調べることによって疾患のメカニズムを研究することができるからである。さらに新しい治療法を試す場合,患者に使用する前の段階で動物モデルに投与し,その安全性や効果を検証することができる。実験動物の寿命はヒトよりも短い(例えばマウスやラットであれば寿命は2年程度)ため,患者では5〜10年もかかる研究を数か月程度の短期で行うことも可能である。

遺伝性網膜疾患の病態

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1602 - P.1606

はじめに

 遺伝性網膜疾患は表1に示すように多彩な疾患を含む集合的な名称であるが,それら全体を総合しても眼疾患全体に占める割合はさほど高くはない。しかしながら,代表的な疾患である網膜色素変性にしても,人口約4,000人に1人の割合で発症することを考えると日本全国で3万人という患者数となり,きわめて稀な疾患といえるほど稀というわけでは決してない。日常の眼科診療のなかで平均的な眼科医であれば,いつかは必ずこのような疾患をもつ患者の診療を担当することになる。眼科医療施設を受診した遺伝性網膜疾患患者およびその家族に対して,その病態を現在の医学水準に照らして各眼科医なりに的確に説明できれば,それだけで眼科専門医が提供する患者サービスという役割を果たしたことにもなる。本項を読んで,その時の参考になればと考えて企画された。

遺伝性網脈絡膜疾患の診断と予後

著者: 林孝彰

ページ範囲:P.1608 - P.1616

はじめに

 遺伝性網脈絡膜疾患と聞いて,まず思い浮かぶ疾患は網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)や錐体ジストロフィであろう。大部分の遺伝性網脈絡膜疾患は,単一遺伝子疾患(メンデル遺伝病),すなわち1つの遺伝子異常によって発症する。遺伝形式としては,常染色体優性遺伝,常染色体劣性遺伝,X連鎖性劣性遺伝がある。遺伝性網脈絡膜疾患は,その病態から大きく4つすなわち,①RPを代表とする進行性夜盲性疾患,②停在性夜盲,③錐体ジストロフィを代表とする錐体機能不全,④黄斑ジストロフィに分類される。本稿では,成人発症の遺伝性網脈絡膜疾患を中心に,診断のために必要な問診・検査,各疾患の特徴,視機能予後について述べる。

【治療と対応】

遺伝性網膜疾患に対する薬物治療

著者: 中村洋介 ,   山本修一

ページ範囲:P.1618 - P.1622

はじめに

 遺伝性網膜疾患には,網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)をはじめとして,その特殊型であるLeber先天盲やRPに感音難聴を合併するUsher症候群などの類縁疾患,卵黄状黄斑ジストロフィやStargardt病などの黄斑部機能が進行性に障害される疾患群である黄斑ジストロフィなど多彩な疾患が含まれるが,本稿ではRPを中心に述べる。

 RPは,網膜の視細胞の遺伝子の突然変異により生じる緩徐進行性遺伝性疾患であり,視細胞および網膜色素上皮細胞の広範な変性がみられる原発性,進行性かつ遺伝性の疾患群である。本邦では4,000〜8,000人に1人の割合で発症し,緑内障,糖尿病網膜症に次いで成人の視覚障害原因疾患の第3位に位置する。これまで類縁疾患を含めると,80種類以上の原因遺伝子が見つかっている1)。典型例では,10〜20歳代に桿体細胞の変性による夜盲で発症し,徐々に周辺視野が障害され,視野狭窄が進行し,最終的には錐体細胞の変性により中心視力の低下から完全な失明に至る。現時点では有効な治療法は確立されていないが,近年,国内外でRPに関する病態解析研究や治療開発・研究が盛んになされてきており,病気の各段階に応じて,薬物治療,遺伝子治療,人工網膜,再生医療などのさまざまな治療戦略が考えられている。

 本稿では,これまで医学的にその有効性が報告された薬物治療や,今後臨床応用が期待され,現在各国で行われている臨床試験に関して,最新の知見を交えながら,RPをはじめとした遺伝性網膜疾患の薬物治療に関して解説する。また,RPに合併する黄斑浮腫に対する薬物治療に関しても,エビデンスを交じえ解説する。

遺伝性網膜疾患に対する外科治療

著者: 近藤寛之

ページ範囲:P.1624 - P.1629

はじめに

 遺伝性網膜疾患の多くは変性疾患であり,変性した組織の機能を手術によって回復させることは困難である。しかし,網膜剝離や黄斑前膜,白内障など,併発症の治療には外科治療が必要である。特に遺伝性網膜疾患患者では,黄斑変性や弱視,視野障害など視機能が低下していることが多く,残存した視機能をより有効に活用するためには手術が有効である。しかし,健常人との病理・組織学的な違いから,遺伝性網膜疾患の手術は必ずしも容易でない。術後合併症が生じる頻度が高く,手術侵襲の影響で術前より視機能が悪化する危険性がある。また残された視機能が限られているので,患者の期待通りに視機能が向上しないこともある。外科治療を効果的に行うためには健常人とは異なる配慮が必要である。

 本稿では,遺伝性網膜疾患に対する外科治療について,併発症のタイプごとに代表的な疾患を取り上げ,その適応や治療法の実際について述べる。

遺伝性網膜疾患のロービジョンケア

著者: 太田幸子 ,   田中桂子 ,   高橋政代

ページ範囲:P.1630 - P.1634

はじめに

 網膜再生治療や,最新の治療法についての情報を得るために先端医療センター病院(以下,当院)の専門外来を受診する網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)の患者が多くいる。そのなかで,治療法がないために眼科を長い期間受診せずに,ロービジョンケアと出会うチャンスがないまま視機能が低下し,家族の介助を頼りに生活している患者に出会うことが少なくない。視機能低下に応じた適切な時期にすべての患者をロービジョンケアにつなげていくことは医療機関の大切な役割であり,患者を「人」として信頼関係を構築しながらコミュニケーションをとる姿勢が求められる。

網膜ジストロフィをもつ小児への対応

著者: 村上晶

ページ範囲:P.1636 - P.1640

はじめに

 小児期に発症する網膜変性疾患には,さまざまなものがある。網膜色素変性(retinitis pigmentosa:RP)の多くは,10歳前後には,診断可能であるとされている。若年発症のRPである程度オーバーラップするものに,Leber先天黒内障(Leber congenital amaurosis:LCA,MIM 204000)がある。1869年,von Leber1)は生後早期に発症するRPについて記載しているが,これにちなんで,生後間もなくから発症する網膜ジストロフィをLCAと呼ぶようになっている。ちなみに,Leberはこの報告とは別に,遺伝性視神経症の記載をしており,これは現在,ミトコンドリアDNAの異常で起こるLeber病視神経症の病名の由来となっている。錐体ジストロフィやStargardt病においても視力の低下は小児期から始まっていることが多い。一方で,RPでは自覚症状に乏しく偶発的に眼底検査で発見される場合もある。そのケアも,診断から始まり,疾患の説明,就学の相談,ロービジョンケア,遺伝相談など多岐にわたり,対象は家族全体に拡がるという性質がある。小児科医のみならず,さまざまな専門をもつスタッフの協力が必要である。本稿では,小児網膜変性疾患の代表疾患であるLCAについて概説を行いながら,網膜ジストロフィをもつ小児への対応について概説する。

今月の表紙

水晶体前方脱臼

著者: 山口純 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.1582 - P.1582

 症例は30歳,女性。サルコイドーシスのため当院内科を受診していたが,右眼の霧視や複視を訴えたため眼科を受診された。初診時の視力は右0.02(0.8×+12.00D),左0.01(0.7×+12.00D),眼圧は両眼ともに13mmHg。前眼部所見として,前房内cell(+),水晶体の下鼻側への偏位と膨化が両眼にみられた。眼底所見は,網膜血管の強い蛇行を認めるものの炎症はみられなかった。手の指が細長く,以前より水晶体偏位を指摘されているため,Marfan症候群が疑われ,後に確定診断された。

 3か月後の診察にて,右眼の水晶体が前方へ偏位し角膜後面へ接する状態になったため,手術適応となった。写真はこの時に撮影したものである。手術はIOL縫着術を行い,視力は右(1.0×−0.75D()cyl−1.00D 120°)となった。

連載 今月の話題

麻痺性斜視の治療法

著者: 木村亜紀子

ページ範囲:P.1583 - P.1587

 麻痺性斜視の治療成績は20年前と比較すると格段に向上している。これまで難治性とされてきた固定内斜視に対する有効な治療法の開発や,上下・回旋斜視に対する治療の進歩がみられる。正面視の複視消失が得られても,正面視以外では複視が残存するため,外眼筋の作用を理解したうえでそれらの複視に対応したい。

知っておきたい小児眼科の最新知識・11

小児緑内障の診断と治療

著者: 松岡孝典 ,   松下賢治

ページ範囲:P.1642 - P.1646

point

1)小児緑内障は稀な疾患で,発見が遅れるときわめて予後不良である

2)小児の侵襲的診察は難しいが,体制や検査機器の工夫で厳密な管理も可能となってきている

3)初期管理の成功例は予後良好であり,余命を考えると早期発見早期治療が重要である

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第15回

下眼瞼水平方向の「ゆるみ」はこれで治せ!—これができればスペシャリストの仲間入りだ!

著者: 柿﨑裕彦

ページ範囲:P.1648 - P.1658

はじめに

 下眼瞼の水平方向の緩みを矯正する手術は難しいです…。短期的には大体はうまくいくのですが,長期的にみるとかなり「戻り」があるんですね。そのため,これらに対する術式はたくさんあります。そのなかで,Kuhnt-Szymanowski Smith変法が広く行われてきましたが,最近では“Lateral Tarsal Strip(LTS)Procedure”も行われるようになってきました。しかし,この2つの術式だけで下眼瞼水平方向の緩みすべてに適切に対応できるわけではありません。美容的な問題もあります。そこで本稿では,上記2つの術式に加えて,“Lazy T”と“Transcanthal Canthopexy”を加えた4つの術式について解説します。ちなみに,下眼瞼水平方向の緩みの矯正は,退行性変化のために生じた内反症や外反症の治療の一助となり,また,機能性流涙の改善につながることがあります。

書評

今日から使える医療統計

著者: 香坂俊

ページ範囲:P.1647 - P.1647

 自分は最近,無謀にも臨床系の大学院を開設するなどして1),院生と循環器疾患の大規模レジストリからの分析を行ったりしている。そこでよく「統計難しいっすね」などという趣旨の発言を耳にしたりもするのだが,厳密にはそれは間違った認識であると思う。

 実は統計の理論そのものはそれほど難しいことではない。高校数学の新課程では「データ解析」が【数Ⅰ】に織り込まれ(2012年〜),高校生でもその基本的なコンセプトは習得可能,とされている。実際,進研ゼミのQ & Aなどをみても十代にして彼らの理解度は恐ろしく高い2)

やさしい目で きびしい目で・191

One for all, all for one

著者: 高村悦子

ページ範囲:P.1659 - P.1659

 野球やサッカーが何人でプレイしているかも知らない私ですが,ラグビーだけは別です。娘が高校生だったころ「ラグビーの試合を見に行きたいんだけど」の一言に,当時東海大の医学部にラグビー部を作った私の弟(日本医大眼科 小野眞史)が感激し,親子3人分の慶早戦のラグビーのチケットをくれたのが,この道(?)にはまったきっかけです。ラグビーの対抗戦の慶早戦は,毎年11月23日に秩父宮ラグビー場で行われています。身内に慶応出身者が多いため,もちろん,慶応を応援します。主人は,慶応ラグビー部創部100年で総監督を務めた上田昭夫さんと幼稚舎の同級生で,ラグビー部に所属し,「当時は,上田より俺のほうがうまかった」が口癖。ラグビー好きの娘は,ついに慶応ラグビー部の同級生と結婚。披露宴には慶応ラグビー部関係者が多数参列してくださり,大量の飲酒,網タイツの半裸のダンス,挙げ句の果てには,酔っぱらった同級生がホテルオークラのトイレを破損,といったおまけつき。二次会の会場,日比谷公園の松本楼へは公園の入口から会場まで,つぶれたラグビー部の後輩が点々と横たわっているので,道案内は不要。ラグビーファンの花嫁の母としては,一生の思い出になる,それはそれはすごい披露宴でした。

 慶応のラグビージャージは黄色と黒のしましまで,この色にちなんで,タイガージャージと呼ばれています。慶早戦の当日はこの黒黄色の旗をたずさえて,主人は婿さんからもらったレプリカのジャージを着こんで参戦します。秩父宮の屋根のないバックススタンドで秋の昼下がりの日差しを浴びながら,秩父宮で覚えた塾歌(慶応義塾の校歌)とボジョレーヌーボーで内側から寒さを吹き飛ばしながら,気が付くと立ち上がって,トライの声援。この興奮,感激が忘れられず,どれだけ秩父宮に通ったことでしょう。若いころはヨット好きの主人に連れられて,夏休みには真っ黒だったおかげで,今や蛍光灯でもシミが増えるようになったと嘆いていたのですが,この秋の日焼けはどうしようもありません。そのうち,お顔もタイガーになってしまうかも。

臨床報告

顕微鏡的多発血管炎に合併したと考えられた虚血性視神経症の1例

著者: 市橋卓 ,   鈴木浩之 ,   戸成匡宏 ,   栗本拓治 ,   奥英弘 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1663 - P.1667

要約 目的:片眼の前部虚血性視神経症(AION)が初発症状であった,顕微鏡的多発血管炎(MPA)の1例を経験したので報告する。症例:87歳女性。2週間前からの右眼視力低下にて受診。右眼光覚なし,左眼矯正視力0.4,右眼RAPD陽性,右眼に軽度の乳頭浮腫を認めた。MPO-ANCA 46EUであり,MPAに伴うAIONが疑われた。全身検査にて間質性肺炎,慢性腎不全を認め,MPAの確定診断に至った。内科にてステロイド療法および免疫療法を開始したところ,次第に症状は軽快し,1か月後には右眼視力40cm/指数弁とやや改善した。左眼は現在まで特に異常所見を認めていない。結論:初診時にAIONを認めた場合には,MPAも鑑別診断の1つと考え,必要に応じてANCAを調べることが重要と考えられた。

硝子体混濁を主症状としたFuchs虹彩異色毛様体炎の2例

著者: 寺尾亮 ,   藤野雄次郎 ,   南川裕香 ,   杉崎顕史 ,   田邊樹郎

ページ範囲:P.1669 - P.1673

要約 目的:硝子体混濁を主な臨床所見としたFuchs虹彩異色虹彩毛様体炎(Fuchsぶどう膜炎)の2症例の報告。症例:症例は33歳女性と32歳男性で,いずれも片眼性である。症例1は5年前に虹彩炎と硝子体混濁を指摘され,ベタメタゾン点眼で虹彩炎は軽快していた。症例2は8か月前に霧視が生じ,次第に悪化していた。所見と経過:患眼の矯正視力は,それぞれ1.0と0.7であった。症例1には軽度の角膜後面沈着物と中等度の硝子体混濁があった。原因不明のぶどう膜炎としてベタメタゾンの点眼を行った。2週間の点眼中止時に,特徴的な角膜後面沈着物,虹彩萎縮,虹彩結節が発見され,Fuchsぶどう膜炎と診断した。症例2には軽度の虹彩萎縮,後囊下白内障,強い硝子体混濁があった。前房水と血液の風疹ウイルスの抗体が高値であり,Fuchsぶどう膜炎と診断した。硝子体切除を行い,霧視は消失し,視力は1.0に向上した。結論:Fuchsぶどう膜炎の2症例で,硝子体混濁が主要な臨床所見であった。

重篤な角膜障害を起こした3症例に対する高濃度自己血清点眼

著者: 高良由紀子 ,   高良広美 ,   高良俊武 ,   牛田宏明 ,   田辺芳樹

ページ範囲:P.1675 - P.1680

要約 目的:高濃度自己血清点眼治療3症例を報告する。症例:症例1は偽眼類天疱瘡例である。左眼白内障手術および内反症手術後,角膜障害が重症化,3年8か月100%自己血清点眼治療施行。現在矯正視力は0.5である。症例2は右眼実質型角膜ヘルペスの症例で,他院で白内障手術後の点眼による重症角膜障害,ヘルペスぶどう膜炎が発症し,抗ウイルス薬と60%自己血清点眼治療を施行。現在矯正視力1.2である。症例3は聴神経腫瘍術後の右眼神経麻痺性角膜症である。初診時矯正視力0.2,60%自己血清点眼を2年間施行。現在矯正視力0.8である。考察:重症角膜障害に高濃度自己血清点眼治療は有効であった。

低用量ピル内服中に網膜血管炎に伴う傍中心窩黄斑虚血がみられたBehçet病疑いの1例

著者: 小川由梨香 ,   堀口浩史 ,   酒井勉 ,   常岡寛

ページ範囲:P.1681 - P.1686

要約 目的:低用量ピルの内服中に傍中心窩黄斑虚血を伴う網膜血管炎が生じ,Behçet病が疑われた症例の報告。症例:32歳女性が前日に生じた右眼の視力障害で受診した。再発性口腔内アフタと皮疹の既往があり,子宮内膜症に対し低用量のピルを18か月前から内服中であった。所見と経過:視力は右0.6,左1.5で,右眼の黄斑部に網膜白濁と小出血があった。蛍光眼底造影で両眼に網膜血管炎があった。光干渉断層計の所見と合わせ,右眼の眼底所見は網膜血管炎に伴う傍中心窩黄斑虚血と考えられた。HLA B-51が陽性で,全身の既往病変と併せて,不全型Behçet病の疑いと診断した。ピルの内服中止とプレドニゾロン内服で,眼底所見は改善し,18日後に右眼視力は1.2になった。結論:Behçet病の疑いがある症例での低用量ピルの内服が,網膜血管炎と全身の血管炎の悪化に関与した可能性がある。

未熟児網膜症と全身麻酔が関与した小児の急性閉塞隅角緑内障の1例

著者: 山城知恵美 ,   鈴木克佳 ,   小林由佳 ,   寺西慎一郎 ,   白石理江 ,   徳久佳代子 ,   園田康平

ページ範囲:P.1687 - P.1691

要約 目的:未熟児網膜症(以下,ROP)の既往があり,全身麻酔後に急性閉塞隅角緑内障をきたした小児の報告。症例:6歳女児が全身麻酔手術翌日から持続する左結膜充血で受診した。両ROPの治療歴があり,抗てんかん薬を内服していた。所見:初診時の眼圧は右20mmHg,左50mmHg。両眼とも浅前房で,左眼に毛様充血,中等度の瞳孔散大を認めた。左眼の急性閉塞隅角緑内障と診断し,両眼の周辺虹彩切除術を施行し,眼圧は下降した。超音波生体計測では,浅前房と厚い水晶体を認めた。結論:ROP歴があり,浅前房や厚い水晶体を有する小児は,全身麻酔を契機に急性閉塞隅角緑内障を発症する危険性があり,発症時には成人の緑内障発作に準じた治療が必要である。

文庫の窓から

『泰定養生主論』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.1692 - P.1696

 『泰定養生主論』全16巻は元の時代,王中陽の著作で,妊娠のことに始まり,嬰児・幼年期から老年に至るまでの養生法と運気論による説明,また病の原因,診断法,治療法などがまとめられた書物である。

 研医会図書館の所蔵する『泰定養生主論』は2冊ある。ひとつは寛永7年(1630)「新町通町頭 蘆甚左衛門,室町薬師町 宇野善五郎」が刊行した古活字版の1冊本(図1〜3)で,もう一方は目録の26までの項目のうち,7項目を載せる最初の巻のみがある刊本である(図4〜6)。

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欧文目次

ページ範囲:P.1581 - P.1581

べらどんな 誤問と正答

著者:

ページ範囲:P.1629 - P.1629

 数学では解答が正しくても,最初の式が誤っていると,良い点はもらえない。ところが世の中には,前提が間違っていても,結論が立派であれば是認され,ときには称賛されることがある。

 その典型的な例が,コロンブスのアメリカ大陸発見である。これは1492年に行われた。大西洋を西に行くことで,インドに達することがその目的であった。

ことば・ことば・ことば 切る

ページ範囲:P.1662 - P.1662

 十進法の世の中なので,2015年と関係する歴史上の出来事を探してみました。

 50年前の1965年には特記すべきことがなかったようです。その5年前にレーザーと蛍光眼底造影が発明されましたが,日本ではまだ注目されていません。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1697 - P.1707

希望掲載欄

ページ範囲:P.1710 - P.1710

アンケート用紙

ページ範囲:P.1712 - P.1712

次号予告

ページ範囲:P.1713 - P.1713

あとがき

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.1714 - P.1714

 第69回日本臨床眼科学会も盛会に終わり,静かな秋をお迎えのことと存じます。

 今月号は特集として,「遺伝性網膜疾患のトータルケア」を掲載いたしました。遺伝性網膜疾患は,患者が小児であることも多いので,大学病院などに精査目的で紹介することもしばしばあるかと思います。また,治療法がないので,成人において診断がついているにもかかわらず,大病院へ患者に対する説明をお願いしてしまうことも時にはあるのかと思います。大学ではより精密な網膜電図などで診断を確定することができる場合もあり,また,最近では遺伝子診断も行われています。しかしながら,例えば網膜色素変性においては,現状では失明原因の第3位にいまだにとどまっており,多くの方が患っていますので,日常診療におきましては地域の先生方への依存も多いかと思います。ぜひ一度,本特集において最近の知見などをお読みいただき,お役立ていただければ幸いです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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