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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科69巻2号

2015年02月発行

雑誌目次

特集1 脈絡膜と網膜疾患

脈絡膜と加齢黄斑変性

著者: 古泉英貴

ページ範囲:P.136 - P.141

はじめに

 加齢黄斑変性(age-related macular degeneration:以下,AMD)は先進国の視覚障害の主たる原因であり,わが国においても中途失明原因の第4位に位置する重要な疾患である。厚生労働省の分類ではドルーゼンや網膜色素上皮(retinal pigment epithelium:以下,RPE)異常といった前駆病変を有する早期AMDと,その進行形である後期AMDに大別され,さらに後期AMDは境界明瞭な網脈絡膜萎縮を特徴とする萎縮型AMD,脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization:以下,CNV)を伴う滲出型AMDに分けられる。AMDは多因子かつ慢性疾患であり,遺伝学的背景や全身的要因,さらには食生活や喫煙などの環境要因が複雑に絡み合いながら発症,進行すると考えられている。

 AMDと脈絡膜との関連については古くから多くの議論がなされてきた。特に脈絡膜毛細管板はRPEと網膜外層の恒常性維持に不可欠な役割を担っており,脈絡膜循環異常はAMDにおける病的変化に深くかかわっている可能性がある。

 本稿ではまず,古くからさまざまな方法論で検討されてきたAMDと脈絡膜の関連につき概説する。近年,光干渉断層計(optical coherence tomograph:以下,OCT)の著しい技術革新により,以前は不可能であった脈絡膜断層像の取得が可能となった。AMDの各病型における脈絡膜断層像の特徴と臨床的意義,さらには治療に伴う変化や予後因子としての側面につき解説を加えたい。

脈絡膜循環と糖尿病

著者: 長岡泰司

ページ範囲:P.142 - P.147

はじめに

 これまで糖尿病網膜症における眼循環動態に関しては,レーザードプラ法を用いた網膜循環測定による臨床研究が30年以上前から行われており,多数の報告がなされてきた。筆者ら1)もレーザードプラ眼底血流計(laser Doppler velocimetry:以下,LDV)を用いた臨床研究で,2型糖尿病患者では網膜症のない段階からすでに網膜血流量が低下していることを報告した。他にも同様の報告が多数あり,糖尿病網膜症の発症・進展に網膜循環障害が関与していることが示唆される。

 一方,糖尿病網膜症における脈絡膜循環の研究は非常に少なく,これまで詳しい検討がなされていなかった。それは,網膜血管は非侵襲的に観察可能であるのに対して,脈絡膜血管は直接観察することができないことが主な原因であった。最近の光干渉断層計(optical coherence tomography:以下,OCT)の目覚ましい発展により,脈絡膜を非侵襲的に可視化できる時代になり,脈絡膜の形態学的変化を定量的に評価することが可能となり,多くの研究者の関心を脈絡膜に集め,糖尿病網膜症を含めたさまざまな病態で脈絡膜が肥厚・菲薄化することが明らかとなった。その脈絡膜の形態学的変化の説明として脈絡膜循環の変動が予想されているが,実際両者がどのように関連しているかは明らかではなく,今後のさらなる研究の発展が待たれる。

 本稿では,脈絡膜循環の基礎知識を整理したうえで,これまでの報告を元に,現時点で理解できる範囲内で,糖尿病網膜症における脈絡膜循環動態についてまとめてみたい。

脈絡膜と近視

著者: 植松聡 ,   佐柳香織 ,   生野恭司

ページ範囲:P.148 - P.151

はじめに

 強度近視眼では網脈絡膜の菲薄化を伴うことは摘出眼からの検討から以前よりよく知られていた。しかし,組織の切片作製の際に組織が収縮する可能性があることから,生体眼での正確な脈絡膜厚かどうか疑問であった。

 生体での脈絡膜の観察は主にインドシアニングリーン蛍光眼底造影検査(indocyaninegreen angiography:以下,ICGA)に拠っており,現在でも必要不可欠な検査であるが,2次元的であり,定量性に欠けるなどの限界があった。

 近年の光干渉断層計(optical coherence tomography:以下,OCT)の進歩には目を見張るものがあり,spectral-domain OCT(SD-OCT)の登場によって網膜の描出は飛躍的に進歩した。しかし従来のSD-OCT撮影では,深部の描出は不明瞭であり,高度に脈絡膜の菲薄化した強度近視眼を除いては脈絡膜の観察はできなかった。その後,SD-OCTの上下反転した画像を得ることで脈絡膜を観察するenhanced depth imaging(EDI)法や,従来のOCTよりも長波長の光源を用いることで組織への侵達度を高めた高侵達OCTの開発により,正視眼や遠視眼でも脈絡膜の観察が可能になった。

 本稿では現在明らかにされている正視眼と近視眼での脈絡膜厚,近視眼に特徴的な眼球形状と脈絡膜厚の関係,および病的近視の脈絡膜について述べていきたい。

糖尿病脈絡膜症

著者: 白神千恵子

ページ範囲:P.152 - P.156

はじめに

 糖尿病眼において,網膜症が視力予後に直結する重要な病変と考えられている。網膜の血管病変は,検眼鏡検査やフルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography:以下,FA)でその病状が容易に検出できるため,病期の進行の把握や視機能予後の評価に用いられてきたが,脈絡膜病変については,あまり重要視されていなかった。糖尿病眼における脈絡膜血管病変は,1985年にHidayatら1)が初めて糖尿病眼の光学,電子顕微鏡による病理組織学的研究の報告をした。その後,Cao2),Fukushimaら3)が,糖尿病剖検眼の脈絡膜血管伸展標本を用いた組織所見の報告をしている。

 インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyaninegreen angiography:以下,IA)が普及してからは,臨床的に脈絡膜血管の異常をある程度把握することが可能となり,IAを用いた糖尿病脈絡膜症(diabetic choroidopathy:以下,DC)に関する報告が散見される4,5)。さらに,近年ではenhanced depth imaging(EDI)光干渉断層計(optical coherence tomography:以下,OCT)やswept source OCT(SSOCT)にて脈絡膜の厚さや大まかな血管構造を検出できるようになり,糖尿病眼における脈絡膜OCT所見の報告が注目されている。そこで,本稿では糖尿病眼における脈絡膜血管病変について述べる。

糖尿病黄斑症と脈絡膜

著者: 園田祥三

ページ範囲:P.158 - P.163

はじめに

 糖尿病眼における脈絡膜に関する研究の歴史は古く,1900年代後半の組織学的な検討においてすでに糖尿病脈絡膜症(diabetic choroidopathy)という概念は提唱されている1〜3)。しかしながら,糖尿病眼合併症における脈絡膜の関与は,網膜と比較すると明瞭でなかったためか,その後の報告は限られたものとなっている。2009年にSpaideら4)によって報告されたenhanced depth imaging-optical coherence tomography(以下,EDI-OCT)の手法(図1)を用いることで,生体における脈絡膜についての比較的詳細な解析が可能となったことから,近年,各種疾患における脈絡膜解析に注目が集まっている。糖尿病網膜症の病態の中心は網膜にあるが,EDI-OCTの手法を用いて糖尿病眼における脈絡膜についての解析を進めることで,糖尿病脈絡膜症の概念が再考され,網膜のみでなく,脈絡膜を含めた病態メカニズムの解明が進むことが待たれている。本稿では,過去になされた糖尿病眼における脈絡膜に関する報告を紹介し,現在筆者らが行っている研究や,その展望について述べる。

特集2 近年のコンタクトレンズ事情

コンタクトレンズ材料の進歩

著者: 佐野研二

ページ範囲:P.164 - P.171

はじめに

 わが国におけるコンタクトレンズ(CL)装用者数が2000万人に迫ろうとしている。一時期ライバルと思われたレーシックなどの屈折矯正手術が,施術を受けた時点の技術を超えないのに対し,CLは常に進化した新しい技術の恩恵を受けられるという点において,今なおアドバンテージをもっている。

 CL性能の基幹となる材料の開発には,酸素透過性,光学性,耐久性,水濡れ性,耐汚染性といったさまざまな機能が要求され,機能性高分子学の世界では非常にモチベーションが掻き立てられる分野である。今も拡大する巨大市場に支えられたCLの材料開発は進歩を止めず,その具体的成果としては,裸眼時とほぼ変わらない酸素供給能力の獲得,使い捨てCLによる汚染性の解決,表面の親水処理技術や生体模倣材料による生体適合性のさらなる向上などが挙げられる。

 特に,CL材料の酸素透過性能は至上命題とされてきたため,ハードCL(HCL)用材料を中心に飛躍的な進歩をみせたが,その一方でCLの水濡れ性の悪化が指摘されてきた。すなわち,1975年ごろ登場したセルロースアセテートブチレート(CAB)から,酸素拡散係数の非常に高いシリコーン系材料や,酸素溶解係数の高いフッ素系材料への変遷がみられ,酸素透過性素材開発の一定の方向性が示されるなか,シリコーンもフッ素系材料も,それら特有の強い撥水性がHCLの不良な水濡れ性を引き起こしているのである。

 一方,酸素が水を担体として運ばれる含水性ソフトCL(SCL)材料の酸素透過性は,その含水率に依存し,1960年に登場したポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)から,これにメタクリル酸を組み合わせたり,N-ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミドを用いたりして,ハイドロゲル材料の高含水化を図る方向で改善されてきた。こうした高含水SCLでは乾きやすさが問題となり,さらに最近ではハイドロゲルの高分子網目構造自体に,超酸素透過性ではあるが撥水性かつ親油性のシリコーン誘導体を導入したシリコーンハイドロゲルレンズが登場した。ここでもやはり,レンズ表面と水との相互作用にフォーカスが当てられるようになった。酸素透過性能においては一定の成果を得た現在,CL材料の進歩とは,オキュラーサーフェスにある水をいかにコントロールするかという戦いといっても過言ではない。

特殊レンズ

著者: 植田喜一

ページ範囲:P.172 - P.183

はじめに

 コンタクトレンズ(以下,CL)は近視,遠視,乱視などの屈折異常や老視を矯正する視力補正用(度あり)のものが一般的であるが,非視力補正用(度なし)のものもある。特におしゃれを目的とした度なしカラーCLについては,若い女性を中心に急増しているが,カラーCL以外に角結膜表面の治療を目的とする治療用CLがある。

 一方,近視,遠視を矯正するCLの多くは前後面とも球面レンズであるが,前面あるいは後面が単一な球面で設計されていない独特な形状のCLがある。それらの特殊CLは,乱視や老視の矯正だけでなく,円錐角膜を代表とする角膜不正乱視の矯正や,裸眼視力の改善を目的として開発されたものもある。

 本稿では,こうした特殊CLについて,近年の状況を概説する。

カラーコンタクトレンズの問題点

著者: 月山純子

ページ範囲:P.184 - P.189

はじめに

 カラーコンタクトレンズ(以下,カラーCL)による眼障害が問題となっている。診療にあたり,通常のCLよりも気をつけなければならないことが多い。患者がカラーCLの使用歴を申告しないケースや,重症であっても治療を自己中断する場合もある。カラーCLの問題点を理解することは,患者に対してより説得力のある説明をするためにも重要である。本稿では,特にカラーCLで問題となっていることについて述べる。

学校保健とコンタクトレンズ

著者: 宇津見義一

ページ範囲:P.190 - P.197

はじめに

 日本眼科医会(以下,日眼医)の2012年の全国の学校でのコンタクトレンズ(以下,CL)使用調査では,使用目的で最も多いのは,「スポーツをするから」「メガネが嫌だから」である1)。CLは生命や健康に重大な影響を与えるおそれがある機器である高度管理医療機器であり,CL使用者の7〜10%に眼障害を生じている2)

 安易なCL使用によって眼障害を生じないように,学校では眼科学校医はCLの健康教育,学校保健員会などにより子どもたちに周知すべきである。さらに,養護教諭などの学校関係者,教育委員会なども同様である。横浜市では学校や学校関係者,教育委員会,医師会などCLの啓発活動を積極的に実施してきた3)。2000年頃では中学生に定期健康診断でCLはトラブルを生じやすいことと問うとほとんどが返答できなかったが,現在は同様の質問をすると多くが知っている。学校,地区などでの啓発活動そしてマスコミ報道などにより,正しいCLの知識が周知されつつある。しかし,行政の不適切な対応によりCLが医師の処方なしで購入できることなどで,学校でのカラーCL使用者の増加とそれによる眼障害の増加など新たな問題が生じている。

 本稿では,全国の学校でのCL使用実態とCL処方,学校保健における眼科学校医の対応や啓発活動について述べる。

レンズケア

著者: 宮本裕子

ページ範囲:P.198 - P.203

はじめに

 ハードコンタクトレンズ(以下,HCL)とソフトコンタクトレンズ(以下,SCL)に対するケア用品は異なるが,方法としては,まず石鹸を用いての手洗いを行い,いずれもこすり洗いとすすぎが基本だと考えて大きな問題はない。しかし,近年は,特に若年者が,眼科を受診せず,非常に安易にコンタクトレンズ(以下,CL)を入手する例が増え,なかでもカラーCLの場合,CL自体を初めて使用する例もあり,レンズケアの指導を全く受けることなくCLを使用している現状がある。こすり洗いをしないどころか,水道水を用いて保存のみ行ってレンズを使用していたり,たとえケアを行っていても誤った方法となっている例がある。そのうえ,把握できないくらい多くの種類のカラーCLが世間に出回っており,一部のカラーCLに対して過酸化水素製剤が使用できないものもある。非常に多くのカラーCLが出回っているなか,現在のケア用品がすべて,それぞれのレンズに適合するのかどうかは明らかになっていない。また,こすり洗いをすると,色落ちするカラーCLもいくつか存在している。本稿では,今までのCLに対するケアについて振り返りつつ,最近の事情について考えていきたい。

今月の表紙

無虹彩症

著者: 和田裕靖 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.128 - P.128

 症例は4歳,女児。3歳児検診時は気づかなかった。母親は目のクリッとした綺麗な子だと思い病識がなかった。2013年6月に保育園の先生より眩しがるので眼科受診を勧められ近医で両眼無虹彩症の診断をされるが,再検査のために同年7月に当院受診となった。視力は,Cyplegin® 1%2回点眼による散瞳負荷試験を施行し,右0.1(0.3),左0.1(0.3),両眼,等価球面度数+4.0Dの遠視性乱視で,眼圧は,右14mmHg,左13mmHg。非接触型スペキュラー測定では,右3,248 cells/mm2,左3,572 cells/mm2。眼位は虹彩がなくわかりにくいが内斜視様。眼球運動は正常で眼振は確認されなかった。右眼の角膜6時方向にパンヌスが確認されるも,両眼ともに中間透光体および後極部に特記する所見はなかった。また,Wilms腫瘍など全身の合併症もなかった。

 現在は弱視に対する屈折矯正と,羞明感に対するケアとして東海光学のフィルターレンズCCP400(カラー:FL)でオーバーグラスを作製し,経過観察中である。今後は女児の発達障害や重複障害の有無を観察しながら,母親と相談し近隣の盲学校への紹介も検討している。

連載 今月の話題

培養角膜内皮細胞移植

著者: 小泉範子

ページ範囲:P.129 - P.135

 水疱性角膜症に対する新しい治療法として,生体外で培養した角膜内皮細胞を用いた再生医療が注目されている。筆者らの研究チームでは,高品質なヒト角膜内皮細胞を効率的に増殖させる培養技術を確立し,サルを用いた前臨床研究を経て,2013年に京都府立医科大学において培養角膜内皮細胞の前房注入治療の臨床研究を開始した。これまでの研究開発の経緯と角膜内皮治療の将来展望を述べる。

知っておきたい小児眼科の最新知識・2

重症未熟児網膜症には光凝固? それとも抗VEGF治療?

著者: 日下俊次

ページ範囲:P.204 - P.208

point

1)未熟児網膜症の標準的治療法は網膜光凝固である

2)重症例では抗VEGF治療が有効である

3)抗VEGF治療の全身への影響,長期予後は現時点では不明である

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第6回

手術だけが「眼瞼下垂」じゃないぜ!—ひと目でわかる「眼瞼下垂」の鑑別診断!(後半)

著者: 柿﨑裕彦

ページ範囲:P.210 - P.216

はじめに

 今回は後天眼瞼下垂の残りと偽眼瞼下垂について解説します。項目や図の番号は前回からの通しにしてあります。

何が見える? 何がわかる? OCT・第25回【最終回】

前眼部OCTによる角膜移植術前後の評価

著者: 臼井智彦

ページ範囲:P.218 - P.223

Point

◎前眼部OCTは角膜混濁眼であっても内部情報を得ることが可能で,かつ角膜形状解析装置としての役割も果たす。よって角膜移植の術前評価,治療戦略,術式選択,術後評価に不可欠な機器である。

英語論文執筆テクニック—虎の巻・第4回

総論

著者: 柿﨑裕彦

ページ範囲:P.224 - P.226

はじめに

 今回は,論文がどのように査読されているのか,また,論文執筆の倫理面に対する考え方について解説します。

やさしい目で きびしい目で・182

すべては自分の創造

著者: 安達京

ページ範囲:P.227 - P.227

 私たちが出会うさまざまな出来事は,すべて自分が創り出しています。

 こう書きますと,多くの方からの反対意見が聞こえてきそうですが,自分の現実は自分が創り出していることは真実であると私は思っています。

臨床報告

視索に形態的変化を確認できた視索症候群の1症例

著者: 林一彦 ,   石井伸明

ページ範囲:P.231 - P.236

要約 背景:視索症候群は片側の視索の機能障害によるが,視索に形態的変化があるか否かは知られていない。目的:磁気共鳴画像(MRI)で片側の視索に異常があった1症例の報告。症例:19歳女性が他医で緑内障と診断され,その6か月後に精査を希望して受診した。小児てんかんがあり,4年間の投薬既往がある。所見:矯正視力は左右とも1.2で,眼圧は右11mmHg,左12mmHgであった。両眼の視神経乳頭耳側に蒼白化があり,右側の非調和性同名半盲があった。光干渉断層計で,右眼に横方向の乳頭周囲神経線維層厚の減少と中心窩鼻側の神経節細胞複合体の菲薄化,左眼に縦方向の乳頭周囲神経線維層厚の減少と中心窩耳側の神経節細胞複合体の菲薄化があった。MRIで左側視索の縮小と容積減少があり,左側の視索症候群と診断した。結論:本症例は,新知見として視索の機能障害と形態的変化を示す,視索症候群であった。

進行性の眼障害をきたした花火による眼外傷の1例

著者: 田原昭彦 ,   松下五佳 ,   遠藤亜有子 ,   近藤寛之

ページ範囲:P.237 - P.241

要約 目的:花火が眼に当たり,角結膜障害が長期に進行した症例の報告。症例:20歳男子が打ち上げ花火を,互いに相手に向かって発射して遊んでいた。相手が発射した花火の火玉が左眼に当たった。直ちに救急病院で処置を受け,その翌日に当科を受診した。所見:矯正視力は右1.5,左0.03で,左眼に著明な結膜浮腫があり,角膜上皮は全面が欠損していた。上下眼瞼の上皮が欠損し,水晶体と眼底に異常はなかった。左眼の涙液が弱アルカリ性を示した。経過:左眼を持続洗眼した。角膜の上皮欠損部は徐々に縮小したが,球結膜が進入し,受傷2か月後に角膜は結膜で覆われた。瞼球癒着が進行し,受傷4か月後にわずかな瞼裂間隙を残して停止した。眼瞼上皮の欠損部は,受傷5か月後に上皮で覆われた。左視力は手動弁であった。結論:打ち上げ花火で使われる黒色火薬は,燃焼するとアルカリ性になる。本症例の眼障害にはアルカリ熱傷が関係したと推定される。

ステロイドパルス療法が著効した難治性後部強膜炎の2例

著者: 澤田奏子 ,   平岡美紀 ,   吉田香織 ,   大黒浩

ページ範囲:P.243 - P.249

要約 目的:難治性の後部強膜炎に対し,ステロイドパルス療法が奏効した2症例の報告。症例:1例は58歳女性。両眼に前部強膜炎と反復性の虹彩炎が生じた。ステロイド薬の内服と局所投与で軽快せず,1年後に右眼の乳頭浮腫と左眼のぶどう膜炎が発症した。メチルプレドニゾロンのパルス療法で寛解した。第2例は76歳女性。1年前に発症した左眼の後部強膜炎と胞状網膜剝離で受診した。メチルプレドニゾロンのパルス療法で軽快した。6か月後と13か月後に再発した後部強膜炎と網膜剝離に,同療法が奏効し,寛解を得た。結論:重篤な眼合併症が併発した後部強膜炎の2例にメチルプレドニゾロンのパルス療法が奏効した。

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欧文目次

ページ範囲:P.127 - P.127

べらどんな Müller先生

著者:

ページ範囲:P.141 - P.141

 網膜に錐体と杆体があることは,視覚学だけでなく眼科の基本中の基本であるが,その存在が知られたのはかなり最近で,19世紀の後半である。

 話はそれほど簡単ではない。それまでは,現在の視細胞に相当する器官は網膜の内層,すなわち神経節細胞がそれであると考えられていた。

ことば・ことば・ことば 白

ページ範囲:P.230 - P.230

 アホウドリの「引っ越し」が成功しそうだという嬉しいニュースがありました。

 この鳥は,八丈島のずっと南にある鳥島が主な繁殖地でしたが,乱獲のために絶滅寸前にまで数が減りました。鳥島は平地が少なく,活火山なので危険でもあります。昔は尖閣諸島にも居たのですが,山羊を放牧したので住めなくなりました。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.250 - P.254

投稿規定

ページ範囲:P.256 - P.257

希望掲載欄

ページ範囲:P.258 - P.258

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.259 - P.259

アンケート

ページ範囲:P.260 - P.260

次号予告

ページ範囲:P.261 - P.261

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.262 - P.262

 本稿を執筆している現在は2014年の暮れです。振り返ると2014年はさまざまなことがありました。科学界では幹細胞研究問題が社会を揺るがせましたが,眼科が社会へ与えた影響の大きさからいえば,コンタクトレンズ問題が一番大きかったのではないかと思います。屈折矯正手術は安全な手術であるにもかかわらず,一部の誤った診療やマスコミの極端な報道により頭打ちです。わが国には多くの近視患者がいますが,若い世代は眼鏡よりもコンタクトレンズによる近視矯正を好みます。またカラーコンタクトレンズによる傷害など,従来は考えられなかった事例も増えています。特に問題なのは,コンタクトレンズをインターネットや路上で購入する人々が非常に増えている点です。正しい装用法を知らないことによる患者が今後爆発的に増える恐れがあります。眼科医はコンタクトレンズについての最新の知識をもつ必要がありますが,今特集はその大きな助けになるでしょう。

 もう一つの特集は脈絡膜です。OCTは今まで観察不可能であった脈絡膜を観察可能にしました。糖尿病や黄斑変性など多くの網膜疾患の本態は血管障害であり,脈絡膜にも当然病的変化が起きていると思われていましたが,観察が不可能なために研究は進んでいませんでした。ところが最近はどの専門誌を見ても脈絡膜関連の論文がないものはありません。今まさに発展中の分野であり,本特集はこの分野の理解のために大いに役立つと思われます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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