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文献詳細

雑誌文献

臨床眼科69巻2号

2015年02月発行

文献概要

特集2 近年のコンタクトレンズ事情

コンタクトレンズ材料の進歩

著者: 佐野研二1

所属機関: 1あすみが丘佐野眼科

ページ範囲:P.164 - P.171

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はじめに

 わが国におけるコンタクトレンズ(CL)装用者数が2000万人に迫ろうとしている。一時期ライバルと思われたレーシックなどの屈折矯正手術が,施術を受けた時点の技術を超えないのに対し,CLは常に進化した新しい技術の恩恵を受けられるという点において,今なおアドバンテージをもっている。

 CL性能の基幹となる材料の開発には,酸素透過性,光学性,耐久性,水濡れ性,耐汚染性といったさまざまな機能が要求され,機能性高分子学の世界では非常にモチベーションが掻き立てられる分野である。今も拡大する巨大市場に支えられたCLの材料開発は進歩を止めず,その具体的成果としては,裸眼時とほぼ変わらない酸素供給能力の獲得,使い捨てCLによる汚染性の解決,表面の親水処理技術や生体模倣材料による生体適合性のさらなる向上などが挙げられる。

 特に,CL材料の酸素透過性能は至上命題とされてきたため,ハードCL(HCL)用材料を中心に飛躍的な進歩をみせたが,その一方でCLの水濡れ性の悪化が指摘されてきた。すなわち,1975年ごろ登場したセルロースアセテートブチレート(CAB)から,酸素拡散係数の非常に高いシリコーン系材料や,酸素溶解係数の高いフッ素系材料への変遷がみられ,酸素透過性素材開発の一定の方向性が示されるなか,シリコーンもフッ素系材料も,それら特有の強い撥水性がHCLの不良な水濡れ性を引き起こしているのである。

 一方,酸素が水を担体として運ばれる含水性ソフトCL(SCL)材料の酸素透過性は,その含水率に依存し,1960年に登場したポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)から,これにメタクリル酸を組み合わせたり,N-ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミドを用いたりして,ハイドロゲル材料の高含水化を図る方向で改善されてきた。こうした高含水SCLでは乾きやすさが問題となり,さらに最近ではハイドロゲルの高分子網目構造自体に,超酸素透過性ではあるが撥水性かつ親油性のシリコーン誘導体を導入したシリコーンハイドロゲルレンズが登場した。ここでもやはり,レンズ表面と水との相互作用にフォーカスが当てられるようになった。酸素透過性能においては一定の成果を得た現在,CL材料の進歩とは,オキュラーサーフェスにある水をいかにコントロールするかという戦いといっても過言ではない。

参考文献

1)黒川考臣:機能性ふっ素高分子.日刊工業新聞社,東京,1982
2)佐野研二・所 敬・鈴木 禎・他:フッ素系非含水性ソフトコンタクトレンズ用素材の研究.日コレ誌 36:196-200,1994
3)佐野研二・勝山晴美・小林里津子・他:親水性モノマーを表面にグラフト重合させた新しい酸素透過性ハードコンタクトレンズ.あたらしい眼科 16:851-853,1999
4)佐野研二:イオン性素材—何が問題なのか.あたらしい眼科 17:917-921,2000
5)松沢康夫:シリコーンハイドロゲルレンズの基礎知識—表面の性質について.あたらしい眼科 22:1315-1324,2005
6)住江太郎・高橋和彦・伊藤徹男・他:新しい非含水性ソフトコンタクトレンズの研究.第1報 素材の基本物性(その1).日コレ誌 25:100-104,1983
7)住江太郎・高橋和彦・伊藤徹男・他:新しい非含水性ソフトコンタクトレンズの研究.第2報 素材の基本物性(その2).日コレ誌 25:142-145,1983
8)Chu MX, Miyajima K, Takahashi D et al:Soft contact lens biosensor for in situ monitoring of tear glucose as non-invasive blood sugar assessment. Talanta 83:960-965, 2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1308

印刷版ISSN:0370-5579

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