icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科69巻3号

2015年03月発行

雑誌目次

特集 第68回日本臨床眼科学会講演集(1) 原著

アトピー性皮膚炎を合併した角膜移植症例の検討

著者: 塚原朋子 ,   佐伯有祐 ,   ジェーンファン ,   内尾英一 ,   青木光希子 ,   濱崎慎

ページ範囲:P.293 - P.297

要約 目的:アトピー性皮膚炎がある症例に対する角膜移植の,拒絶反応,感染,アトピー性強角膜炎を含めた術後経過の報告。対象と方法:2014年までの9年間に行った初回角膜移植189例のうち,アトピー性皮膚炎がある9例9眼を対象とし,診療録の記述をもとに検討した。男性6例,女性3例で,平均年齢は44歳であった。角膜移植が行われた原因疾患は,水疱性角膜症2眼,円錐角膜5眼,角膜穿孔1眼,角膜ジストロフィ1眼で,7眼に全層角膜移植,2眼に表層角膜移植が行われた。結果:術後28か月の間に,拒絶反応が4眼(57%)に生じ,1眼に再移植が行われた。2眼に術後感染があり,角膜または前房水からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出された。角膜移植後のアトピー性強角膜炎はなかった。結論:アトピー性皮膚炎がある症例に対する角膜移植では,拒絶反応の予防とMRSAなどによる感染症に留意する必要がある。

典型的皮疹を伴わない水痘・帯状疱疹ウイルスによる虹彩毛様体炎の臨床像の特徴

著者: 戸所大輔 ,   袖山博健 ,   山田教弘 ,   岸章治

ページ範囲:P.299 - P.303

要約 目的:典型的皮疹を伴わない水痘・帯状ウイルス(VZV)による虹彩毛様体炎の臨床像の報告。対象と方法:過去16か月間のVZV虹彩毛様体炎8例8眼の臨床像を診療歴に基づいて検索した。男性3例,女性5例で,年齢は35〜87歳,平均72歳であった。前房水のPCR法でVZV-DNAが陽性であるか,1年以内に同側の三叉神経枝に帯状疱疹があることを診断基準とした。結果:全例が片眼性で,豚脂様角膜後面沈着物があった。眼圧上昇が5眼にあり,ほとんどが3週間で消炎し,眼圧が正常化した。4眼に角膜浮腫,2眼に軽微な皮疹,3眼で過去に同側の眼部帯状疱疹があった。前房水のPCR検索で,6眼が陽性であり,うち3眼ではこれ以外にVZVに特異な所見がなかった。結論:VZVによる虹彩毛様体炎の主な臨床所見は,片眼性,豚脂様角膜後面沈着物,角膜浮腫,眼圧上昇であった。

霰粒腫によって自覚的視力障害が生じたLASIK既往眼の2例

著者: 渡辺このみ ,   渡辺一彦

ページ範囲:P.305 - P.307

要約 目的:過去にLASIKを受けた2例に,霰粒腫による視力障害が生じた報告。症例:症例はそれぞれ42歳と55歳の女性で,どちらも右眼の霧視で受診した。両症例とも10年以上前にLASIKを両眼に受けた。所見:右眼の裸眼視力はそれぞれ1.2と0.9であった。1例には角膜皺襞,他の1例には−3Dの正乱視がそれぞれ右眼にあった。両症例とも右の上眼瞼に霰粒腫があった。経結膜的に霰粒腫を摘出した。1例では2週後,他の1例では1週後に自覚的な霧視は消失した。結論:両症例とも,霰粒腫が角膜皺襞と角膜乱視の原因であり,霧視になったと推定される。LASIKの既往がある眼では,霰粒腫により角膜形状に影響が生じやすいと考えられる。

2種類のトーリック眼内レンズの術後早期成績比較

著者: 竹下哲二

ページ範囲:P.309 - P.312

要約 目的:2種類のトーリック眼内レンズの術後早期成績を比較する。対象と方法:2013年にAcrySof® Toric SN6AT3-9を挿入した34例47眼(平均年齢74.1±6.5歳)と2014年2月以降にTECNIS® Toric ZCT150,225,300,400を挿入した36例51眼(平均年齢76.9±6.2歳)である。術後3か月までの裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数,術翌日の軸ずれを比較検討した。結果:術後1週間,1か月,3か月の裸眼・矯正視力,他覚・自覚球面度数,他覚・自覚円柱度数についてSN6AT群とZCT群の間に統計学的有意差はなかった。術翌日の軸ずれは両群間に有意差はなかったが,ZCT群のほうがばらつきが大きかった。軸ずれの回転方向はSN6AT群では時計回り,ZCT群では反時計回りが多かった。結論:軸ずれのばらつきはZCT群が多かったが,乱視軽減効果は同等であった。その理由として,両社のweb calculatorの特性による影響が考えられた。SN6AT群の軸ずれの回転方向は過去の報告と異なり,さらなる検討が必要と思われた。

乳頭周囲脈絡膜分離を合併し緑内障が疑われる症例の視野障害

著者: 林恵子 ,   間山千尋 ,   石井清

ページ範囲:P.313 - P.320

要約 目的:乳頭周囲脈絡膜分離があり,緑内障が疑われる症例の視野障害の報告。対象と方法:過去5年間に緑内障が疑われ,光干渉断層計(OCT)による眼底撮影を行った792例のうち,乳頭周囲脈絡膜分離の所見がある9例13眼を対象とした。年齢は35〜66歳,平均55歳で,屈折は−10.4〜−3.6D,平均−6.6Dであり,眼軸長24.6〜27.7mm,平均26.1mmであった。乳頭周囲脈絡膜分離は4例が両眼性,5例では片眼性であった。視野はHumphreyの静的自動視野計で評価した。結果:乳頭周囲脈絡膜分離は13眼すべてで乳頭下方に局在し,これに対応する上方弓状暗点が5眼にあった。うち3眼でコーヌスと乳頭周囲脈絡膜分離の境界部で網膜神経線維層が欠損し,1眼で初診から6年後に視野障害が進行した。結論:乳頭周囲脈絡膜分離では,コーヌスとの境界部での網膜神経線維の障害が視野障害と関係し,一部の症例では視野障害が進行する可能性がある。

PG製剤,ドルゾラミド塩酸塩とチモロールマレイン酸塩配合点眼液からトラボプロスト,チモロールマレイン酸塩とブリンゾラミド配合点眼液への切り替え効果

著者: 寺坂祐樹 ,   松浦一貴

ページ範囲:P.321 - P.325

要約 目的:プロスタグランジン製剤(PG)+ドルゾラミド/チモロール合剤(DTFC)からトラボプロスト/チモロール合剤(TTFC)+ブリンゾラミド(BRZ)へ切り替え,またはスイッチバックした症例の眼圧変化と角膜上皮障害の報告。対象と方法:PG+DTFC使用中の開放隅角緑内障13例24眼において,TTFC+BRZに切り替えた場合およびスイッチバックした場合の眼圧変化,および点状表層角膜症(SPK)を検討した。結果:TTFC+BRZに切り替え後に,眼圧は16.8±2.1mmHgから18.5±2.5mmHgと有意に上昇した。スイッチバックした症例は,16.4±1.9mmHgから切り替え後に18.5±2.5mmHgと有意に上昇し,スイッチバック後に17.1±1.9mmHgと有意に下降した。SPKのADスコアに有意な差はなかった。結論:TTFC+BRZではβ遮断薬の持続効果が十分でない症例の存在が懸念されるため,十分な眼圧下降が得られていない症例ではPG+DTFCへの切り替えを試みる価値がある。

インフルエンザワクチン接種後に片眼性視神経乳頭炎と毛様網膜動脈閉塞症が発症した小児の1例

著者: 天野文保 ,   岡本史樹 ,   平岡孝浩 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.327 - P.331

要約 目的:インフルエンザワクチン接種を契機として視神経乳頭炎と毛様網膜動脈閉塞を発症した小児例の報告。症例:生来健康の9歳女児。右眼の急激な視力低下を主訴に来院。右眼視力は(0.1),視神経乳頭浮腫と網膜浮腫を認め,蛍光眼底造影で毛様網膜動脈の造影遅延,光干渉断層計で網膜内層浮腫,Goldmann視野検査でMariotte盲点の拡大と鼻側の傍中心暗点を認めた。患者は発症4日前にインフルエンザ予防接種を受けていた。ステロイドセミパルス療法を行い,視力は(1.2)まで改善したが,網膜内層の菲薄化とMariotte盲点の拡大は残存した。結論:小児のワクチン接種後の視力低下では視神経炎と網膜動脈閉塞症の可能性を考える必要がある。

黄斑浮腫を伴った高γグロブリン血症の2例

著者: 田原由希子 ,   長谷川優実 ,   岡本史樹 ,   福田慎一 ,   中野伸一郎 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.333 - P.339

要約 目的:黄斑浮腫を伴う高γグロブリン血症の2例を報告する。症例:症例1はIgA-κ型の多発性骨髄腫の73歳男性。両眼の黄斑浮腫により視力が低下した。右眼にトリアムシノロンテノン囊下注射(STTA)を施行したが改善せず,左眼には硝子体切除+STTAを施行した。内科的治療で血清IgA値が低下すると黄斑浮腫は軽減し,特に左眼視力が改善した。症例2は原発性マクログロブリン血症の58歳男性。右眼の黄斑浮腫により視力が低下した。血漿交換施行した後一時的に視力が改善したが,その後網膜萎縮をきたした。結論:高γグロブリン血症に合併する黄斑浮腫の臨床経過とOCT所見を報告した。本症では,原疾患の治療に加えて硝子体手術が有効である可能性がある。

Clinically isolated syndromeと診断された小児視神経炎に対し血漿交換を行った1例

著者: 戸島慎二 ,   秋元悦子 ,   長岡義晴 ,   渡邊浩一郎 ,   寺田佳子 ,   原和之

ページ範囲:P.341 - P.345

要約 目的:Clinically isolated syndromeと診断された小児視神経炎に対し血漿交換を行った症例報告。症例:左眼視力低下を主訴に受診した12歳女児。所見と経過:視力は右眼(1.2),左眼(0.05)であった。左眼視神経乳頭の発赤・腫脹,MRIで左視神経の造影効果亢進と左大脳脚に脱髄病変を認めた。左眼視神経炎と診断しステロイドパルス療法を施行したが効果不十分と考え血漿交換療法を施行し,視力は左眼(1.5)に改善した。結論:血漿交換療法により速やかな視力改善を得たが,今後多発性硬化症への移行の可能性があり,経過観察が必要と考えられた。

視力低下と視野障害で発見された閉塞性水頭症を伴う松果体囊胞の1例

著者: 池上靖子 ,   田中俊一 ,   玉置正史

ページ範囲:P.347 - P.353

要約 目的:視力と視野障害で発見された松果体囊胞の症例の報告。症例:24歳女性が1か月前からの頭痛と5日前からの左眼視力と視野障害で受診した。所見:矯正視力は右0.8,左0.09で,両眼に不規則な耳側の視野沈下があった。頭部のCTとMRIで松果体囊胞と脳室拡大があり,松果体囊胞の中脳水道圧迫による閉塞性水頭症と診断した。脳室ドレナージの後,2週後に松果体囊胞開放術が行われた。視力と視野は正常化し,3年後の現在まで再発はない。結論:本症例は視力と視野障害を初発徴候とする松果体囊胞で,早期診断と早期治療が奏効した。

両眼の網膜中心動脈閉塞症を契機に発見された肺小細胞癌の1例

著者: 馬場高志 ,   蝶野郁世 ,   山﨑厚志 ,   岡崎亮太 ,   山本章裕 ,   瀧川洋史 ,   井上幸次

ページ範囲:P.355 - P.360

要約 目的:両眼の網膜中心動脈閉塞症を契機として肺小細胞癌が発見された症例の報告。症例:77歳女性が右眼の視朦を自覚し,即日受診した。過去18年間の喫煙歴があった。所見と経過:矯正視力は右指数弁,左0.4で,両眼に角膜後面沈着物,硝子体混濁と桜実黄斑があった。蛍光眼底造影で右眼に網膜中心動脈閉塞症,左眼に網膜動脈分枝閉塞症があった。5日後に左眼に網膜中心動脈閉塞症が発症し,視力は0.01になった。血液の癌胎児性抗原(CEA)が高値で,縦隔と肺上葉に腫瘍が発見された。2週後の縦隔リンパ節生検で転移性肺小細胞癌と診断された。全身検査で脳への多発性転移と右内頸動脈から中大脳動脈にかけての狭窄があった。全身的な化学療法で眼内炎の所見は軽快し,以後6か月間の再発はない。視力の改善はなかった。結論:高齢者の両眼に発症した網膜中心動脈閉塞症は,悪性腫瘍が原因である可能性がある。

ANCA関連副鼻腔粘膜病変により眼窩先端症候群を呈した1例

著者: 谷澤和之 ,   高橋淳士 ,   安井文智 ,   朝日淳仁 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.361 - P.366

要約 目的:眼窩先端症候群がANCA関連蝶形骨洞粘膜病変がある症例に生じた報告。症例:73歳女性が1週間前からの頭痛,複視,右眼の眼球突出と視力低下で受診した。既往として糖尿病,高血圧,脂質異常があった。所見:矯正視力は右0.01,左0.9で,右眼の眼球突出と全方向への運動障害があった。MRIで右蝶形骨洞に粘膜病変があり,視神経管と海綿静脈洞に接していた。MPO-ANCAが陽性で,多発血管炎性肉芽腫症が疑われた。プレドニゾロン20mg/日の全身投与で粘膜病変は消失し,6週後に視力と眼球運動が正常化した。13か月後の現在まで経過は良好である。結論:多発血管炎性肉芽腫症による眼窩病変は予後不良とされるが,本症例では蝶形骨洞の粘膜病変からの炎症性神経障害があったと推定され,経過は良好であった。

Special Interest Group Meeting(SIG)報告

日本眼科アレルギー研究会

著者: 福島敦樹

ページ範囲:P.368 - P.369

 2014年11月13日午後5時10分より午後7時まで,SIGとして日本眼科アレルギー研究会が開催された。これまでドライアイ研究会と合同で行われていたが,今回より本研究会単独での開催となった。藤島理事長のあいさつに続き,日本眼科アレルギー研究会優秀賞受賞講演,シンポジウムが行われた。

日本強度近視研究会

著者: 大野京子

ページ範囲:P.370 - P.371

 日本強度近視研究会のSIGは今年で3回目を迎えました。今年も多数の参加者にお越しいただき,素晴らしい講演と活発な質疑応答が行われ,途中で質問をセーブしていただかなくてはならないほど盛況な会になりました。一般講演は4題,特別講演は1題行われました。

連載 今月の話題

体位と眼圧変動

著者: 澤田明

ページ範囲:P.271 - P.277

 眼圧は体位によって変動し,座位において最も低い値を示す。しかしながら,もっぱら座位における眼圧値をベースとして,緑内障診断ならびに管理がなされている。本稿では,体位による眼圧変動と緑内障発症ならびに進行とのかかわりを述べるとともに,現行の緑内障管理に一石を投じてみたい。

知っておきたい小児眼科の最新知識・3

これだけは押さえたい遺伝性網膜硝子体疾患

著者: 近藤寛之

ページ範囲:P.278 - P.283

point

1)鎌状網膜襞は家族性滲出性硝子体網膜症を念頭に置く

2)Stickler症候群は裂孔原性網膜剝離の鑑別診断として重要である

3)Stickler症候群の全身所見は見逃されやすい

4)先天網膜分離症はERGやOCTによって総合的に診断する

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第7回

挙筋短縮術は俺にまかせろ!—兄貴が語る挙筋短縮術指南

著者: 三戸秀哲

ページ範囲:P.284 - P.287

はじめに

 いきなり“兄貴”って何だと思われたかも知れませんが,筆者は,本連載の編集を行っている柿﨑先生が学生時代のBSLで担当教官だったことがそもそもの始まりです。したがって血縁はありません!

 今回,本連載の一環として,眼瞼下垂に対する挙筋短縮術(levator resection)について,どのように学べばわかりやすく,かつ,早期に習得できるかを意識しつつ,筆者がこれまでに多くの眼科医に指南してきた経験を駆使して解説します。

英語論文執筆テクニック—虎の巻

各論 第1回

著者: 柿﨑裕彦

ページ範囲:P.288 - P.290

はじめに

 さて,今回から2回にわたり各論を解説します。よりわかりやすい論文を書くためのルールやテクニックが満載で,本項の内容を実践すれば,査読者の心証がかなり良くなると思います。

今月の表紙

正常錐体細胞

著者: 中西明子 ,   後町清子 ,   亀谷修平 ,   中澤満

ページ範囲:P.291 - P.291

 症例は10歳,男児。原因不明の両視力低下を主訴として前医から紹介された。視力は右(0.8),左(0.6)。眼圧,前眼部所見,眼底所見,SD-OCT,色覚,視野,full-field ERG,VERISにて異常を認めなかった。補償光学(adaptive optics:AO)眼底カメラによる検査で錐体細胞密度,錐体細胞間距離,および錐体細胞モザイクの配列に全く異常を認めなかった。問診でゴルフの大会が近づいていることにストレスを感じている様子があり,総合的に心因性視力障害が疑われた。

 写真はAO眼底カメラを使用して撮影した錐体細胞の画像であり,使用した機種はrtx1TM(Imagine eyes,France)である。右下の切り込み画像はCirrusTM HD-OCT(Carl Zeiss,Germany)の眼底観察用のSLO画像である。切り込み画像内の白枠線内はAO眼底カメラ画像で示した領域を表している。若年者であるため,角膜や中間透光体の混濁による収差の影響が少なく,非常に鮮明に錐体モザイク(正常錐体細胞の配列)が撮影できた。黄斑中心部へ向かうにしたがい,錐体細胞密度が大きくなり,錐体細胞間距離が小さくなっているのがわかる。

書評

神経眼科学を学ぶ人のために

著者: 若倉雅登

ページ範囲:P.373 - P.373

 日本広しといえども,神経眼科の大看板を掲げた主任教授のいる教室は,現在兵庫医科大学しかない。その人,三村治教授が八年をかけて渾身の神経眼科学の教科書を上梓した。

 視覚は眼球だけでは成り立たない。対象物に視線を合わせて明視するという瞬時の作業は脳と眼球の共働で行われ,このときに,眼球運動,調節や瞳孔の運動が生じている。こうして適切に網膜に入力された視覚信号は視路を経て,大脳皮質視覚領に到達し,さらに高次脳へ至って情報処理される。神経眼科とは眼球そのものだけでなく,それと共働作業をしている大脳皮質や脳幹,小脳も含めた視圏で,視覚に関する生理,病理を捉える学問で,その源は20世紀前半にある。その後の一世紀の間に,神経学を支える学問群の目覚ましい進歩とともに,神経眼科はおびただしい臨床経験をした。三村教授は,日本の神経眼科学の草創期メンバーである井街譲,下奥仁兵庫医大両教授の下に学び,1998年に第3代教授に就任した。この経歴からも,日本で最も豊富な神経眼科の臨床経験を有した現役医師かつ教育者であることが知れる。

やさしい目で きびしい目で・183

眼科医になって14年

著者: 辻本淳子

ページ範囲:P.375 - P.375

 眼科医になって,早いもので14年が経とうとしています。私は福井医大を卒業後,地元に帰って京都府立医大眼科学教室に入局し,関連病院の大病院で常勤をしながら出産をし,産後2か月で職場に復帰しました。子供が小学生になると定時で働くのは難しいと考え,一大奮起してお世話になった医局を出て,医師不足の中小病院で,時間を短縮して働かせてもらう条件で働き始めました。外科系の常勤医がいなくなったために手術ができなくなっていた病院で,5年ぶりに手術場を再稼働させ2年が経ち,ようやくやりたいことができるようになってきました。

 子育てをしていて,息子の面倒を見ているようで実は息子に助けられていると思うことがあります。私は休日の診察には息子をよく連れて行くのですが,その日は白内障手術後に前房出血があり,退院の日が延びた患者さんの診察がありました。一緒に来た息子は,その方の診察が終わった後も病室までついていって,帰り際に何度も何度も病室まで手を振りに行ったそうです。その方が退院後の診察で,あの時は凄く嬉しくて元気が出たと涙しておられました。息子がその患者さんが落ち込んでいるのに気づいたのか,単なる気まぐれなのかはわからないのですが,私も助けられた気がしました。他にも大きな声では言えませんが,出席したくない会の時に限って息子の熱が出ることもよくありました。子供の世話で自分の時間もないし,好きなこともできないと思ったりもしますが,子供はお母さんを幸せにするために産まれてきたという言葉をどこかで聞いたことがあり,あながち間違ってないなあと思っています。現在7歳の息子に私の一番好きなところを尋ねてみると,みんなの眼を治しているところと言ってくれて,励みになります。

臨床報告

網膜出血と軟性白斑を認めたsilent巨細胞性動脈炎

著者: 間瀬智子 ,   木ノ内玲子 ,   小村景司 ,   福井勝彦 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.379 - P.383

要約 背景:巨細胞性動脈炎は,頭痛,側頭動脈の硬結,リウマチ性多発性筋痛症,前部虚血性視神経症などが古典的な症状である。発熱などを主症状とするsilent巨細胞性動脈炎のあることが,近年報告されている。目的:網膜出血と軟性白斑を伴うsilent巨細胞性動脈炎の1症例の報告。症例:60歳女性が網膜虚血病変の有無の精査のため紹介受診した。6週前から発熱があり,大動脈炎症候群を示唆する検査所見があった。所見:矯正視力は左右眼とも1.2で,両眼の網膜に軟性白斑が散在し,乳頭周囲の出血があった。フルオレセイン蛍光眼底造影で周辺部の網膜血管からの色素漏出があった。全身検査で大型血管炎の所見が得られ,巨細胞性動脈炎と診断された。プレドニゾロンの経口投与が行われ,10週後に眼底所見は正常化した。結論:本症例は一過性の網膜出血と軟性白斑を伴うsilent巨細胞性動脈炎で,全経過を通じ,視機能は良好であった。

黄斑円孔網膜剝離におけるタンポナーデ物質別手術成績

著者: 石黒利充 ,   中内正志 ,   中道悠太 ,   有澤章子 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.385 - P.390

要約 目的:黄斑円孔網膜剝離に対して行った硝子体手術に用いたタンポナーデ物質別の結果の報告。対象と方法:過去8年間に手術を行った強度近視に伴う黄斑円孔網膜剝離43例43眼を対象とした。男性5眼,女性38眼で,年齢は53〜84歳,平均69歳である。初回手術として内境界膜剝離を併用する硝子体手術を行い,タンポナーデには,11眼に六フッ化硫黄(SF6),20眼に八フッ化プロパン(C3F8),12眼にシリコーンオイルを用いた。シリコーンオイルは全例で抜去した。術後の成績は,3〜69か月,平均31か月後に判定した。結果:初回網膜復位は,43眼中35眼(81%)で得られた。初回網膜復位率,黄斑円孔閉鎖率,視力変化率,眼軸長と網膜復位率との関係は,いずれも3群間に有意差はなく,術後の腹臥位日数のみがSF6群で有意に短かった。結論:黄斑円孔網膜剝離に対する硝子体手術では,使用するタンポナーデ物質の種類は初回手術の成績に影響せず,術後の腹臥位日数のみがSF6群で有意に短かった。

加齢黄斑変性患者の白内障手術後の満足度

著者: 小門正英 ,   宮本武 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.391 - P.396

要約 目的:加齢黄斑変性のある眼に対する白内障手術後の患者満足度の報告。対象と方法:過去2年間に当科で行った加齢黄斑変性のある眼に白内障手術を行った45例45眼を対象とした。男性27例,女性18例で,年齢は70〜91歳,平均80歳である。手術から4か月以上が経過した後のアンケートで,手術を受けたきっかけ,手術前の期待,手術後の満足度を無記名で調査した。結果:38例(84%)から回答を得た。手術のきっかけは,19例が医師や看護師の勧めであり,18例が自分で決めた。術前には,35例が視力改善を期待し,3例が期待しなかった。術後の満足度は,29例が満足し,4例が普通であり,5例が後悔した。術前と術後視力には有意差がなく,加齢黄斑変性の程度にも変化がなかった。結論:加齢黄斑変性のある眼に対する白内障手術では,術前の説明が術後の満足度に影響する。

緩和的放射線治療が有用であった涙腺原発と思われる脂腺癌の1例

著者: 三野亜希子 ,   四宮加容 ,   川中崇 ,   榊美佳 ,   吉本聖 ,   坂本佳也 ,   荒瀬友子 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.397 - P.402

要約 目的:緩和的放射線治療が奏効した涙腺原発と推定される脂腺癌の1症例の報告。症例:37歳男性が,6か月前からの右眼球突出と最近の疼痛で受診した。視力は右(1.2),左1.5(矯正不能)で,CTで,骨破壊を伴う右眼窩腫瘍があり,生検で脂腺癌と診断し,涙腺原発であると推定された。陽電子放出断層撮影(PET-CT)は,所属リンパ節への転移と多発性骨転移を示した。患者は対症療法のみを希望したが,4か月後に疼痛管理が困難になり,右眼窩にX線照射39Gyを行った。眼窩病巣は縮小し,整容的な改善と疼痛の軽減が得られた。初診の8か月後に汎血球減少で死亡するまで効果が続いた。結論:涙腺原発と推定される進行した脂腺癌に対し,緩和的放射線治療が奏効し,生活の質が改善した。

多発性骨髄腫に合併した角膜混濁のレーザー生体共焦点顕微鏡による観察

著者: 門廣祐子 ,   近間泰一郎 ,   小林泰子 ,   戸田良太郎 ,   出口香穂里 ,   木内良明

ページ範囲:P.403 - P.407

要約 目的:角膜混濁を伴った多発性骨髄腫の症例にみられた角膜混濁を,レーザー生体共焦点顕微鏡で観察した報告。症例:55歳男性。近医にて両眼ぶどう膜炎加療中に両眼の角膜変性症を疑われて当科を受診した。初診時にぶどう膜炎は軽快しており,自覚症状はなかった。細隙灯顕微鏡で両眼にびまん性角膜混濁がみられ,その混濁は角膜上皮から実質中層に散在していた。共焦点顕微鏡を用いた観察では,角膜全層にわたり高輝度な沈着物がみられた。特に角膜上皮層において細長い針状の結晶様沈着物の密度が高く,特徴的な所見を呈した。実質全層にかけて細胞の輝度が高く,深層に向かって沈着物が小さく変化していた。結論:共焦点顕微鏡を用い,角膜各層において沈着物の形態が異なることが観察できた。

--------------------

欧文目次

ページ範囲:P.268 - P.269

べらどんな 梟

著者:

ページ範囲:P.298 - P.298

 ドイツの友人から自作のカレンダーをいただいた。旧東ドイツの教授で,いまは開業しているが,「鳥が趣味」だという。

 あちらは日本とは違い,ちょっと郊外に出ると,いろいろな小鳥に会えるらしい。超望遠レンズで撮った季節ごとの鳥が,毎月のページに載っている。

べらどんな 肩たたき

著者:

ページ範囲:P.346 - P.346

 子供からものを貰うのは嬉しい。

 娘が小さかったころ,トランプくらいの大きさの紙切れを渡された。「かたたたきけん」と書いてある。これを使うと,こちらが希望するときに肩を叩いてくれるのである。

アンケート

ページ範囲:P.374 - P.374

ことば・ことば・ことば 英語と米語

ページ範囲:P.378 - P.378

 「炎症の四徴」のことを病理学総論の講義で習いました。はっきりした順序は覚えていませんが,発赤,疼痛,熱発,腫脹がそれでした。日本語では覚えにくいので,これをラテン語にして,rubor,dolor,calor,tumorというと覚えやすいのだと教わりました。

 語尾の韻がきれいに揃っています。「医学部の教授は偉いものだ」と感心しました。ところがあとから考えると,このラテン語云々のことはその教授が自分で発見したのではなく,病理の教室で何代も前から伝わっている話だったようです。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.408 - P.412

次号予告

ページ範囲:P.413 - P.413

投稿規定

ページ範囲:P.414 - P.415

希望掲載欄

ページ範囲:P.416 - P.416

著作権譲渡同意書

ページ範囲:P.417 - P.417

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.418 - P.418

 臨床眼科3月号をお送りします。この原稿を書いているのはこの冬一番といわれる寒気が日本列島を包んで,各地で雪による交通被害が続出している最中ですが,本誌が皆様のお手許に届けられるのは北日本でも雪解けが進んでいる頃ではないかと想像しています。どんなに雪が深く積もっても,桜の時期が来る前には必ず解けてしまう自然の摂理は感動的でさえあります。そしてその雪解け水が伏流水となって農作物の栄養を支え,私達の口に入り成長を助け,かつ一部では老化をも促進することとなる訳です。これも自然の摂理でしょうか。

 そして,本誌は今月もちょうど程よいボリュームで私達の脳細胞を活性化できる内容となっています。「今月の話題」は岐阜大学の澤田明先生による「体位と眼圧変動」です。私達が通常の診療で使用しているGoldmann眼圧計は常に座位での測定となっていて,私達は眼圧といえば座位でのものと自然に洗脳されています。しかし,血圧が体位の影響を受けるのと同様に眼圧もそれなりに影響を受けること,しかも座位より仰臥位や側臥位のほうが高眼圧になることから,日常生活の中での眼圧値は体位変化によってかなり修飾されたものとなるであろうことが想像されます。今後はこのような点をも考慮した眼圧値のモニタリングが普及してくることが予想されるところです。小児眼科の連載では産業医大の近藤寛之先生による小児の遺伝性網膜硝子体疾患です。FEVR,Stickler症候群そして若年網膜分離の3者に絞られていますので,大変理解しやすい内容です。形成外科は井出眼科病院の三戸秀哲先生による挙筋短縮術指南で,ポイントが押さえられた珠玉の手術指南となっています。「英文論文執筆テクニック—虎の巻」は柿﨑裕彦先生による各論の第1回目となりました。細かなポイントが簡潔に押さえられていて,若い読者向けではありますが大学院生を指導する立場の私自身も実は大変勉強になっています。その他,この欄では紹介しきれませんが,珍しいけれど大変重要な症例報告や臨床研究が満載です。インフルエンザワクチン後の眼合併症など目が離せません。詳しくは論文を読んで頂きたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?