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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科69巻6号

2015年06月発行

雑誌目次

特集 第68回日本臨床眼科学会講演集(4) 原著

両眼性輪部機能不全に対する培養自己結膜上皮細胞シート移植の成績

著者: 北本昂大 ,   杉山なほみ ,   横尾誠一 ,   臼井智彦 ,   山上聡

ページ範囲:P.801 - P.805

要約 目的:両眼性輪部機能不全に対し,眼表面を再建するための細胞ソースとして,自己の結膜上皮を培養した自己結膜上皮細胞シート移植の成績の報告。対象と方法:両眼の輪部機能不全がある3例4眼を対象とした。年齢は37歳,69歳,48歳で,それぞれ染色体異常による角膜混濁,先天梅毒による角膜混濁と全層角膜移植の既往,原因不明の角膜びらんに対する深層角膜移植の既往があった。これら3例4眼に,自己の結膜上皮を培養した結膜上皮細胞シートを移植した。2眼ではウシ血清とマウス3T3フィーダー細胞,2眼では無血清,無フィーダーの条件で培養した。結果:4眼での矯正視力は,それぞれ0.02から0.7,0.02から0.3に改善したのち血管進入により0.07,20cm指数弁から0.05,0.01から0.9に改善した。結論:輪部機能不全による視力障害が,自己結膜を培養した上皮細胞シート移植により,4眼中3眼で改善した。長期に安定した結果を得ることが今後の課題である。

抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎7例の臨床経過

著者: 大松寛 ,   富長岳史 ,   山﨑厚志 ,   井上幸次

ページ範囲:P.807 - P.813

要約 目的:抗アクアポリン4抗体陽性の視神経炎10眼7例の報告。症例:鳥取大学附属病院眼科で過去6年間に視神経炎と診断した27例を対象とした。男性12例,女性15例,発症年齢は平均48歳であった。うち7例(26%)で抗アクアポリン4抗体が陽性で,うち3例では両眼発症であった。片眼に発症した1例を除く6例9眼に対し,ステロイドパルス治療を行った。片眼に発症した4例では,3例が初診時視力が0.02以下で,最終視力は2例が1.0以上,2例が指数弁以下であった。両眼に発症した3例6眼では,初診時視力が4眼で指数弁以下であり,最終視力は2眼が1.0以上,4眼が0.05以下であった。治療前後の視力に有意差はなかった。片眼発症の4例にはプレドニゾロン内服を行い,再発または他眼の発症はなかった。両眼に発症した3例では,まず片眼に発症し,それぞれ4か月,8か月,8年の後他眼に発症した。他眼の発症時にはプレドニゾロン内服は中止していた。結論:抗アクアポリン4抗体陽性の視神経炎では,ステロイドパルス治療後のプレドニゾロン内服が,視力の転帰にある程度の効果があった。

片眼性特発性頭蓋内圧亢進症の2例

著者: 園田良英 ,   湯川英一 ,   西智 ,   丸岡真治 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.815 - P.820

要約 目的:片眼のみに乳頭浮腫が生じた特発性頭蓋内圧亢進症の2症例の報告。症例:52歳男性と59歳女性の片眼に乳頭腫脹が発見された。両症例の視力は,左右眼とも1.2であった。脳脊髄圧は,それぞれ430mmHgと350mmHgであった。MRIで,頭蓋内の異常はなかった。両症例とも,片眼性特発性頭蓋内圧亢進症と診断された。1例はアセタゾラミドの内服で自覚症状と乳頭腫脹が軽快した。他の1例は治療を望まず,初診から3年間,他覚所見に変化はなかった。結論:特発性頭蓋内圧亢進症に併発した片眼性乳頭浮腫は,1例では薬物治療で寛解し,1例では3年間不変であった。両症例とも,経過監査中の期間,僚眼に異常は生じなかった。

視力不良の小児に対するサブトラクション法を用いた皮膚電極による網膜電図の有用性の検討

著者: 加藤貴保子 ,   松永美絵 ,   貝田智子 ,   花谷淳子 ,   徳留俊彦 ,   徳田祥太 ,   宮田和典

ページ範囲:P.821 - P.825

要約 目的:視力不良の小児に対するサブトラクション法を用いた皮膚電極による網膜電図(ERG)の有用性を検討する。対象と方法:視力不良の小児53例に対して皮膚電極による網膜電図(ERG)検査を行った。平均年齢6.1±2.6歳(7か月〜10歳),男女比は24/29例であった。結果:92%(49例)で判別可能ERGが得られ,遺伝性網膜疾患7例,機能的視覚障害6例が診断された。検査不能例は,すべて6歳未満であり,暗順応や電極装着不可によるためであった。結論:皮膚電極によるERGは,小児に対して有用であり,遺伝性網膜疾患の早期診断を可能にすると考えられた。

角膜穿孔をきたし,水晶体貫通せずに隅角に落下した金属異物の1例

著者: 阮俊榮 ,   藤谷周子 ,   関根新 ,   貞松良成 ,   星合繁

ページ範囲:P.827 - P.830

要約 目的:金属性異物が角膜を穿孔し,隅角に落下した1症例の報告。症例:31歳男性が,溶接の作業中に左眼に金属片が入ったとして,受傷の5時間後に受診した。眼痛はなかった。所見:矯正視力は右1.2,左0.2であり,左眼角膜の中央部の穿孔創があった。前房は深く,水晶体前囊に軽度の混濁があった。隅角検査で下方5時の隅角根部に金属性の異物があった。その翌朝に小切開により,鑷子による異物除去と超音波乳化吸引術を行った。経過は良好で,1週間後に視力は1.2に回復した。結論:金属性異物が角膜を穿孔し,水晶体を貫通せずに隅角に落下していることがある。本症例での術後経過は良好であった。

進行性の周辺虹彩萎縮を合併した発達緑内障の1例

著者: 前田敦史 ,   城信雄 ,   中川和紀 ,   千原智之 ,   加賀郁子 ,   木村元貴 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.831 - P.836

要約 目的:進行性の周辺部虹彩萎縮を示した発達緑内障の症例の報告。症例:15歳男児が眼圧上昇で紹介受診した。8年前に左右眼の角膜径が13mmで,早発型発達緑内障が疑われたが,無治療であった。所見:矯正視力は右0.9,左1.0で,眼圧は右39mmHg,左19mmHgであった。右眼は−9D,左眼は−4Dの近視であった。角膜径が左右眼とも13mmで,虹彩周辺部に萎縮があり,全周に虹彩高位付着があったが,隅角が広く開大していた。乳頭の陥凹/乳頭径比は右0.8,左0.4であった。点眼で眼圧が下降せず,右眼に線維柱帯切除術を行った。10か月後の現在まで,眼圧の経過は良好である。結論:周辺虹彩萎縮の原因は不明であるが,眼圧コントロールが不良になり,緑内障が進行したことと関係する特殊な病態のあることが推定される。

フルオレセイン蛍光眼底造影検査における副作用の検討

著者: 相庭伸哉 ,   嶋村慎太郎 ,   鈴木崇弘 ,   河合憲司

ページ範囲:P.837 - P.840

要約 目的:フルオレセイン蛍光眼底造影の副作用の報告。対象:2013年12月までの30か月間に当院で蛍光眼底造影を行った1,178例を対象とした。結果:フルオレセインの副作用は36例(3.1%)にあり,嘔気が最も多く,28例にあった。24例で蛍光眼底造影開始から3分以内に副作用が発現した。副作用発症例の全身合併症は61.1%にあり,アナフィラキシーが生じた7症例では,その43%に全身合併症がなかった。結論:フルオレセイン静注による副作用は,全身合併症がなくてもショックに移行することがあり,慎重な全身管理が必要である。

裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術後に特徴的な白斑を認めた1例

著者: 佐埜弘樹 ,   香留崇 ,   堀田芙美香 ,   内藤毅 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.841 - P.845

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術後に特徴的な白斑を認めた症例を報告する。症例:45歳,男性。右眼裂孔原性網膜剝離の診断で当科を紹介受診した。所見:右眼矯正視力は0.02で眼底の上耳側に裂孔があり,黄斑を含む網膜剝離を認めた。右眼の硝子体手術を施行し速やかに網膜は復位した。術後2週目に以前の剝離境界部の剝離網膜側に沿って眼底自発蛍光で過蛍光となる円形の白斑を認めた。白斑部の自発蛍光は術後4週目で最も過蛍光になり,術後12週目で自然に消失した。結論:部分的に円形に残存した剝離網膜下に視細胞外節由来物質が蓄積し,自発蛍光にて過蛍光となる白斑を形成したと推測した。

19年後に黄斑浮腫を生じた家族性滲出性硝子体網膜症の1例

著者: 壷井秀企 ,   河野剛也 ,   安宅伸介 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.847 - P.851

要約 目的:家族性滲出性硝子体網膜症(FEVR)で,初診の19年後に網膜の滲出性変化が新たに生じた症例を報告する。症例:35歳,女性。5歳より左眼FEVRのため他施設で経過観察されていた。14歳時に当科に紹介された。初診時,眼底周辺ほぼ全周わたる網膜前線維性組織とその周辺部に無血管野を認めた。硝子体による網膜牽引の進行があり,光凝固と輪状締結術を施行,経過は良好であった。しかし,初診19年後(輪状締結13年後)に網膜新生血管,黄斑浮腫,その耳側に硬性白斑と網膜の浮腫性混濁がみられた。血管アーケード外への広範囲な網膜光凝固と黄斑耳側への光凝固を施行し,網膜新生血管縮小と硬性白斑および網膜混濁が消失した。結論:FEVRでは10年以上の長期経過の中では黄斑浮腫を生じる滲出性変化が新たに起こりうる。

周辺部網膜分離拡大予防目的で光凝固を施行した先天性網膜分離症の1例

著者: 中野雄一郎 ,   矢寺めぐみ ,   河野剛也 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.853 - P.856

要約 目的:予防的光凝固を受けた先天性網膜分離症の1症例の長期経過の報告。症例:現在29歳の男性が,5歳時から当科を受診している。3歳時に両眼の先天性網膜分離症と診断された。母方の従兄弟も先天性網膜分離症と診断されている。5歳時の初診時の視力は,右0.03,左0.3で,両眼に車軸状の中心窩分離と周辺部網膜分離があった。左眼の周辺部網膜分離の後極寄りにアルゴンレーザーによる光凝固を行った。18歳時に前回の光凝固斑が網膜分離部内にあるように見え,さらに光凝固を追加した。11年後の現在まで,左眼の周辺部網膜分離の進展はない。結論:初回の光凝固では,周辺部網膜分離の進展を阻止できなかった。2回目の光凝固でも,瘢痕は網膜分離層には及んでいなかったが,周辺部の網膜分離の後極に向かっての拡大はなかった。

軽度近視眼にみられた乳頭周囲萎縮内pitを伴うintrachoroidal cavitationの1例

著者: 山崎厚志 ,   金田周三 ,   上田麻奈美 ,   富長岳史 ,   魚谷竜 ,   武信二三枝 ,   井上幸次 ,   寺坂祐樹

ページ範囲:P.857 - P.861

要約 目的:軽度近視眼の乳頭周囲の萎縮部にpitがあり,広範囲のintrachoroidal cavitationを示した1症例の報告。症例:75歳女性が左眼の脈絡膜腫瘍の疑いで受診した。左眼の緑内障に対して点眼加療中であり,1年前に左眼の白内障手術を受けた。手術前には左眼に−2Dの近視があった。所見:矯正視力は右1.5,左1.0,眼圧は10mmHg,左7mmHg,眼軸長は右22.81mm,左24.54mmであった。左眼の乳頭周囲の萎縮部内にpitと,その周囲に橙黄色の三日月形の病変があり,これらを囲んで7×3乳頭径題の扁平な暗黄色の病巣があった。光干渉断層計で,このpitに隣接する深層にintrachoroidal cavitationがあった。脈絡膜腫瘍を示す所見はなかった。結論:Pitに伴う橙黄色の病巣では,intrachoroidal cavitationが関与している場合がある。

日食黄斑症の1例

著者: 中尾重哉 ,   松浦豊明 ,   夏目恵治 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.863 - P.867

要約 目的:日食黄斑症の1例の報告。症例:75歳女性が右眼の流涙で受診した。16か月前の2012年5月下旬の朝に日食があり,40分間すりガラス越しに太陽を見ていた。所見:矯正視力は右0.6,左0.5で,両眼に約−3.5Dの近視があった。水晶体に軽度の白内障があった。右眼の中心窩に接して0.3乳頭径の黄色斑があり,フルオレセイン蛍光眼底造影でこれに一致する過蛍光があった。スペクトラルドメイン光干渉断層検査(SD-OCT)で,視細胞のellipsoid zoneの欠損とその周囲の外境界膜の欠損があった。4か月後にこの所見は軽減した。結論:右眼の黄斑部に見られた所見は,日食黄斑症によると推定される。

視神経障害を発症したと思われるANCA関連血管炎の1例

著者: 伊野田悟 ,   吉田淳 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.869 - P.873

要約 目的:抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎に視神経障害が発症したと推定される1症例の報告。症例:74歳女性が右眼視力の低下で受診した。以前からぶどう膜炎が両眼にあり,プレドニゾロンを内服していた。右眼に白内障手術と難聴の既往があった。所見:矯正視力は右0.1,左1.2で,眼圧は右5mmHg,左16mmHgであった。右眼に前房の炎症所見と硝子体混濁があった。蛍光眼底造影で後部ぶどう膜炎の所見があった。左眼には病的所見はなかった。MPO-ANCAが高値で,難聴の既往と合わせ,内科でANCA関連血管炎と診断された。プレドニゾロン内服を継続した。5か月後に左眼視力が低下し,その3週間後に受診した。矯正視力は右0.3,左0であり,蛍光眼底造影で左眼乳頭の低蛍光があった。ANCA関連血管炎に関連した後部虚血性視神経症が推定された。左眼視力は回復しなかった。結論:ANCA関連血管炎に関連した視神経症は,多彩で難治性であることを本症例は示している。

10歳児に発症した水痘帯状疱疹ウイルスによると考えられた角膜内皮炎の1例

著者: 永井博之 ,   玉井一司 ,   山田麻里

ページ範囲:P.875 - P.878

要約 目的:10歳児に発症した水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)によると推定された角膜内皮炎の報告。症例:10歳女児が5日前からの右眼の眼痛と充血で受診した。所見:視力は左右とも1.5で,右眼の毛様充血,下耳側の角膜に限局性浮腫,Descemet膜皺襞,角膜後面沈着物があった。所見から角膜内皮炎と診断した。血清のVZV-IgMが陽性で,17日後に陰性化した。VZVが原因ウイルスと推定された。結論:角膜内皮炎が健康な小児に発症することがある。VZVが原因である場合があり,本例では血清のIgM検査が有用であった。

両側肺門リンパ節腫脹(BHL)よりサルコイドーシスが疑われ,脳生検にて悪性リンパ腫の診断に至った1症例

著者: 森下苑子 ,   石原麻美 ,   澁谷悦子 ,   山中正二 ,   山根敬浩 ,   石戸みづほ ,   脇屋匡樹 ,   木村育子 ,   國分沙帆 ,   中村聡 ,   水木信久

ページ範囲:P.879 - P.884

要約 目的:ぶどう膜炎と両側肺門リンパ節腫脹(BHL),肺野病変,多発性脳病変からサルコイドーシス(サ症)が疑われた中枢神経原発悪性リンパ腫の1例。症例:69歳,男性。右前房内細胞と両びまん性硝子体混濁がみられ,BHLと縦隔リンパ節腫大,肺野病変よりサ症が疑われた。頭部MRIにて多発性脳病変がみられ,認知症状の進行により悪性リンパ腫が疑われた。経気管支肺生検では両者の鑑別はつかず,脳生検を施行し,中枢神経原発悪性リンパ腫と診断された。メトトレキサート大量療法により脳病変,眼病変ともに改善した。結論:ぶどう膜炎に肺門・縦隔のリンパ節腫脹,脳病変がみられた場合は,サ症と悪性リンパ腫を早急に鑑別する必要がある。

リウマチ性多発筋痛症に両眼性動脈炎型前部虚血性視神経症を合併した1例

著者: 松髙恵 ,   杉田圭二郎 ,   雑喉正泰

ページ範囲:P.885 - P.890

要約 目的:リウマチ性多発筋痛症に両眼性動脈炎型前部虚血性神経症が併発した症例の報告。症例:89歳女性が前日からの両眼視野障害で受診した。2か月前からリウマチ性多発筋痛症の症状があり,3日前に巨細胞性動脈炎の症状があった。所見:矯正視力は右0.5,左0.08で,両眼に乳頭浮腫と視野狭窄があった。血沈値の上昇があり,リウマチ性多発筋痛症に併発した巨細胞性動脈炎と動脈炎型の両眼性前部虚血性神経症と診断した。ステロイドパルス療法を開始し,2か月後に右眼の視機能は回復した。5か月後の現在まで,前部虚血性神経症の再発はない。結論:リウマチ性多発筋痛症に併発した巨細胞性動脈炎と動脈炎型の前部虚血性神経症の病変が,早期の診断と治療で軽快した。

重症未熟児網膜症に対してベバシズマブ硝子体注射と網膜光凝固を併用した2症例

著者: 山内悠也 ,   松本直 ,   片山雄治 ,   有村哲 ,   堀裕一

ページ範囲:P.891 - P.894

要約 目的:光凝固とベバシズマブ硝子体注射で加療した重症未熟児網膜症(APROP)の2症例の報告。症例:1例は在胎24週で出生し,生下時体重665gの女児で,posterior zone 2 stage 3 plusの未熟児網膜症があり,2回の光凝固を受けたが改善せず,修正35週で当科に転院した。他の1例は在胎22週で出生し,生下時体重499gの男児で,zone 1 stage 2 plusの未熟児網膜症があり,APROPと診断された。硝子体混濁が強く,光凝固は困難と判断され,当科に転院した。結果:1例には修正35週に両眼に光凝固とベバシズマブ硝子体注射を行い,翌日から増殖性病変は軽快した。他の1例には修正32週に両眼にベバシズマブ硝子体注射を行った。4週後に再増殖があり,その翌週に光凝固を行い,網膜症の活動性が低下した。結論:ベバシズマブ硝子体注射がAPROPに対する治療の選択肢になる。

外傷性散瞳症例への瞳孔形成術の成績

著者: 城卓之 ,   坂東肇 ,   冨田有輝 ,   木坊子展生 ,   中島浩士 ,   池田俊英 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.895 - P.900

要約 目的:鈍性外傷による散瞳に対し,虹彩牽引術を行った2症例の報告。症例:症例1は54歳男性で,飲酒時に右眼がドアノブに当たり,強膜破裂と硝子体出血が生じた。緊急手術後に麻痺性散瞳が生じた。瞳孔径は8mmであった。前房に挿入した硝子体攝子で瞳孔縁を把持し,瞳孔の中心に向けて牽引した。この操作を5か所で行い,瞳孔径は4mmになった。1年後の現在まで羞明などはない。症例2は41歳男性で,乗用車を運転中に追突され,エアバッグにより右眼を打撲した。他医により水晶体摘出と硝子体手術が行われた。麻痺性散瞳で3か月後に受診した。瞳孔径は9mmであった。症例1と同様な操作を8か所で行い,2か所での虹彩縫縮を追加した。瞳孔径は5mmになり,1年後の現在まで羞明はない。結論:外傷後の麻痺性散瞳に対し,器械的な虹彩牽引が奏効した。

就労相談から診断に至ったオカルト黄斑ジストロフィの1例

著者: 鶴岡三惠子 ,   永野雅子 ,   井上賢治

ページ範囲:P.901 - P.906

要約 目的:就労継続の相談の目的で受診し,オカルト黄斑ジストロフィの診断に至った症例の報告。症例:39歳男性が就労継続困難を訴え受診した。視神経疾患が疑われていた。所見:矯正視力は右0.4,左0.2で,眼底正常。光干渉断層計(OCT)では黄斑部の視細胞内節外節接合部ラインの不明瞭化を認めた。杆体・錐体系網膜電図は両眼とも正常。多局所網膜電図では両眼の中心部の著しい反応低下がみられた。オカルト黄斑ジストロフィと診断。運転業務はできないが,デスクワークは可能である診断書を会社へ提出した。結論:オカルト黄斑ジストロフィの診断にOCTは有用で,診断により就労継続が可能となった。

Special Interest Group Meeting(SIG)報告

眼光学アップデート

著者: 石川均 ,   根岸一乃

ページ範囲:P.908 - P.909

 本SIGは,眼光学領域の研究成果発表の場を増やし,本領域の最新の知識を眼科臨床医に啓蒙することを目的とし,日本眼光学学会のメンバーが中心となって企画するものである。第1回のテーマは「メラノプシンと眼光学」とした。メラノプシンは,新しく発見された網膜神経節細胞に存在する光受容器で,瞳孔運動のみならず,眼内レンズ挿入後の睡眠障害や近視進行予防などにも関係する可能性がある。以下,4名の演者のご講演内容(演者の先生方に自ら内容をまとめていただいた)についてご紹介させていただく。なお,講演終了後も,会場の参加者も含めて活発な質疑応答があり,メラノプシン研究への関心の高さがうかがわれた。

今月の表紙

低眼圧黄斑症のレトロモードイメージング

著者: 岡本明子 ,   中倉俊祐 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.780 - P.780

 症例は56歳,男性。進行した開放隅角緑内障(右眼)に対しマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を行った。術後2週間目に眼圧が4mmHgとなり,検眼鏡で黄斑部の皺襞と乳頭の発赤,黄斑浮腫ならびに網膜血管の蛇行を認め,低眼圧黄斑症と診断した。

 F-10走査レーザー検眼鏡(NIDEK社)を使用し,790nmの赤外光を用いたレトロモードで黄斑部を撮影した。レトロモードは眼底からの散乱光を横に位置した穴から収束することにより深部網膜の擬似的な3D様画像が1枚の平面画像で得られるイメージングである。これまでドルーゼン,糖尿病黄斑浮腫,網膜分離症の診断にも用いられている。写真の皺襞は網膜色素上皮を示しており,3D-OCT(TOPCON社)でも網膜皺襞を確認できた。診断後2週間(術後4週間)で眼圧は11mmHgと回復した。眼圧が回復するのに伴い,レトロモード写真における皺襞の減少経過を3D-OCTでも追うことができた。

連載 今月の話題

眼瞼の創傷治癒—新生血管は悪者ではない

著者: 野田実香

ページ範囲:P.781 - P.786

 近年,眼瞼手術のニーズが急速に高まってきている。眼瞼組織と眼球組織とは性質が大きく異なるため,それらの手術は基本手技から術後管理まで全く異なるものとなる。特に眼瞼は創が露出する部位であるので,術創を良好な治癒に導く知識を備えていたい。本稿では眼瞼組織の創傷治癒につき解説し,術後の管理や経過に対する理解を深めていただくことを目指す。

知っておきたい小児眼科の最新知識・6

新生児・乳児の眼底出血を診たら

著者: 中山百合

ページ範囲:P.788 - P.792

point

1)新生児網膜(硝子体)出血は出生時に生じ,2〜3週間ほどで自然消失する。全身状態や状況から虐待と鑑別は容易である

2)虐待性頭部外傷およびゆさぶられっ子症候群では,眼底検査結果が虐待判定の重要な所見となる。多発性,多層性の網膜出血や,出血性網膜分離などが特徴的な眼底所見である

3)少しでも虐待の疑いがあれば,医療者は速やかに児童相談所へ通告〔全国共通ダイヤル:0570-064-000(2015年7月からは局番なしの189に変更)〕を行わなければならない

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第10回

ちょっとポピュラーじゃない眼瞼下垂手術—つり上げ術(前半)

著者: 柿﨑裕彦

ページ範囲:P.794 - P.799

はじめに

 今回と次回は『つり上げ術』です。大まかにいえば,挙筋系の手術とつり上げ術ができればほぼすべての眼瞼下垂に対応が可能です。手術自体は挙筋系のものよりもシンプルですが,なじみが薄いので難しく感じている先生方が多いようです。本稿を読んでいただければ,そんな誤解も氷解することでしょう! ちょっと長いので2回に分けて解説します。

書評

《眼科臨床エキスパート》眼感染症診療マニュアル

著者: 鳥崎真人

ページ範囲:P.806 - P.806

 眼感染症に関する教科書は数多くあるが,専門的になればなるほど知識のレベルは上がるものの実際の臨床現場で症例について調べるには使いにくい。ハンドブック的なものはちょっとした知識や数値の確認には便利ではあるが,写真がなかったり記載が不十分だったりすると,結局教科書を調べに行くことになる。毎日の外来診療においてもう少し使いやすい本があればと思っていたところに,この度,薄井紀夫,後藤浩両先生の編集による本書が刊行された。眼感染症各分野のエキスパートの先生方総勢41名が,臨床の場における実践的な利便性を追求し「極めてシンプルに効率よく」という編集方針に沿って記述した,まさにエキスのみが入っている本である。

 本書を開いてみた感想としては,まず何といっても内容が見やすい。基本的なレイアウトとして左ページに文章,右ページに写真や図表というように配置されているため,文章を読みながら写真を探すのも,写真を見て文章を読むのも非常にやりやすい。行間が広いため読みやすく,また所々少し贅沢かなと思われるようなスペースがあることも読んでいて疲れにくく感じる理由かもしれない。具体的な内容としては,眼瞼疾患にはじまり,涙器・眼窩疾患,結膜疾患,角膜疾患,ぶどう膜・網脈絡膜疾患,眼内炎,術後感染症まで一般眼科臨床で遭遇する可能性のある疾患が十分網羅されている。それぞれの疾患について疾患概念,臨床所見,病原微生物の同定,治療,生体反応への対応,続発症への対応および予後がきちんと分けて書かれているので必要な内容にたどり着くのが容易であり,しかもそれぞれが簡潔にまとめられているため理解しやすい。また各分野の冒頭には,その分野の疾患を理解するための鑑別の重要ポイントが述べられている。簡潔ではあるが非常に丁寧にわかりやすく書かれていて,眼感染症に対する知識がまだ少ない人でも診断や治療を間違えないようにとの道しるべになっており,編集者お二人の優しさがそこに見て取れる。写真もよく選ばれており数も多くまた図表もよくまとまっているので,若い先生方(若くなくても結構)には,ぜひ本書の右ページのみをざっと目を通すことをお勧めする。明日からの外来診療で患者さんを見る目が変わることは間違いない。

帰してはいけない小児外来患者

著者: 市川光太郎

ページ範囲:P.910 - P.910

 長い間,小児救急医療に携わってきたが,その多くは軽症疾患であり,重篤な疾患はまれであることは間違いない。しかし,なぜか,慢心な気持ちが沸けば沸くほど,重篤な疾患に遭遇してしまう皮肉な結果を嫌というほど思い知らされてきた。そこにはピットホールに陥りやすい,われわれ医療側の診療姿勢が見え隠れしているのだと思っている。いかにすべての患児家族に不安をもたらすことなく,的確な診断治療に直結するスキルを自分自身が養い,後輩たちに継承するかは小児救急医(臨床医)の永遠の課題と常々考えてきた。

 本書を読み,この自らの問いへ答えてくれる本に出逢ったという想いに溢れ,もっともっと救急現場に立ちたいという気持ちになった。楽しみながら仕事をするという本質的な部分を感じさせる本なのかもしれないと感じ,嬉しくなった。

やさしい目で きびしい目で・186

この頃,思うこと

著者: 福下公子

ページ範囲:P.911 - P.911

 私は,1949年生まれ,昭和24年,4と9の多い生年であり,0とか5の多い人に比べて切りが悪く落ちつかない生まれ年だなと思っていた。

 しかしながら,昨年2014年(平成26年)は私にとって切りの良い年であった。所属する東京都眼科医会創立100周年,医学部卒業後(お騒がせしている東京女子医科大学)40年,烏山眼科医院開業30周年,おまけに,東京都教育委員会表彰(学校医),東京都医師会功労賞(女性医師支援),と2つのお祝いをいただいた。そして年齢は切りの良い65歳で,人生の節目を感じる1年であった。

臨床報告 カラー臨床報告

生体共焦点顕微鏡を用いた扁平角膜の角膜各層の観察

著者: 小林泰子 ,   近間泰一郎 ,   門廣祐子 ,   金岡智里 ,   木内良明

ページ範囲:P.915 - P.920

要約 目的:レーザー生体共焦点顕微鏡で角膜各層が観察できた扁平角膜の1症例の報告。症例:46歳の男性。近医で扁平角膜を指摘されて受診した。矯正視力は右0.5,左1.0で,右眼に+9.5D,左眼に+8.0Dの遠視があった。角膜横径は左右眼とも10mmで,角膜屈折力は右32.3D,左28.0D,眼軸長は右23.2mm,左23.7mm,中心角膜厚は右597μm,左532μmであった。前眼部OCTでは,瞳孔領に一致する角膜後面の平坦化と高輝度があり,レーザー生体共焦点顕微鏡では,角膜実質の中層から輝度が高くなり,内皮の一部に変性があった。結論:レーザー生体共焦点顕微鏡は,扁平角膜のような発生過程の分化異常が考えられる希少な疾患の病態を観察するのに有用であると考えた。

特発性水晶体囊真性落屑の1例

著者: 久保田敏昭 ,   瀬戸陽子 ,   中野聡子 ,   野田佳宏

ページ範囲:P.921 - P.923

要約 目的:特発性水晶体囊真性落屑の1例を経験したので報告する。症例:88歳,女性。幼少時に炭焼きと関連する熱曝露の経験があり,白内障を発症して偶然発見された。矯正視力は右(0.4),左(0.3)であった。細隙灯顕微鏡検査で両眼の水晶体の前囊の表面にセロファン状に立ち上がる膜状構造物を認め,水晶体囊真性落屑と診断した。白内障手術の際に得られた水晶体前囊を光学顕微鏡と電子顕微鏡で観察し,水晶体囊が層間剝離していることが確認できた。結論:熱曝露で変性した水晶体前囊に加齢変化が起こることが真性落屑の原因の1つと考えられた。

文庫の窓から

『此事難知』

著者: 中泉行弘 ,   林尋子 ,   安部郁子

ページ範囲:P.924 - P.927

李東垣の説を王好古がまとめた書

 『湯液本草』を著した王好古(1200頃-1264)が,最後に書いたといわれる著作がこの『此事難知』である。岡西為人は『中国醫書本草考』の中で,王好古の著作のうち「これだけが東垣没後の作と見られる」と述べている。また,「李濂『医史』,『東垣十書』,『補遼金元藝文志』などはこれを李杲の書としているが,『四庫提要』はそれを誤りとし,この書は傷寒に関する李杲の説を好古がj収(ほうしゅう)したもので李杲の『傷寒会要』が伝存しない今日では,李杲の論議はこの書によってその一端をうかがうほかはないと述べられている」とあり,『此事難知』が王好古の著作でありながら,師匠の李東垣の考え方を知る大きな手がかりとして使われていることを示している。

 当館所蔵の『此事難知』には慶長年間の古活字版,寛永版のほか,3種の『東垣十書』の中に含まれるものや,医統正脈本からとった人民衛生出版社の影印版(1956)がある。また,今回『済生抜萃』に方剤が収載されていることに気付いた。この『済生抜萃』は民国27年の元本影印版であるが,潔古(張元素)以来の金元医学の鍼灸と湯液をまとめた全集で,表1の19巻の書物の要点が収められている。『済生抜萃 第9巻 此事難知』には81種の方剤が挙げられているが,その方剤名は『此事難知』本文に挙げられているものより多く,また異なるものが入っている。

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欧文目次

ページ範囲:P.778 - P.779

第33回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.800 - P.800

べらどんな 誤植

著者:

ページ範囲:P.813 - P.813

 今年は桜の開花が早かった。お花見にも好都合のはずだったが,関東地方はその後の天候が不順で,期待がはずれた。

 このようなとき,中村 康先生の「ひらがな近距離視力表」は,歳時記の代わりになる。「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」が良い例である。視力0.9のところにある。ただし,原文はすべてひらがなで,濁点も句読点もない。

ことば・ことば・ことば 白

ページ範囲:P.914 - P.914

 画家の藤田嗣治(1886-1968)は「白い肌」で有名になりました。

 父親は医師で,のちに軍医総監になった人です。嗣治は若いころからフランスで絵の修業をすることを望んでいました。しかし,森 鴎外の勧めで,まず上野の美術学校に入学しました。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.928 - P.939

希望掲載欄

ページ範囲:P.942 - P.942

アンケート用紙

ページ範囲:P.944 - P.944

次号予告

ページ範囲:P.945 - P.945

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.946 - P.946

 臨床眼科6月号をお送りいたします。今号の特集も第68回日本臨床眼科学会講演集の続きで計19編の原著論文が掲載されており,さらに臨床報告が2報掲載されています。

 今号は特に症例報告が多く,一例一例について多くの画像やデータを元に詳細に記述されているところが見どころになると思います。このようにきちんとした症例報告をするためには,毎日の外来・病棟業務で大事な所見をしっかり記録しておくことが大事ですが,近年のように眼科医不足が続くと,つい手を抜いてしまいがちです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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