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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科69巻7号

2015年07月発行

雑誌目次

特集 第68回日本臨床眼科学会講演集(5) 原著

北海道眼科医会によるロービジョンケア連携推進プロジェクトの現状

著者: 永井春彦 ,   田川博

ページ範囲:P.975 - P.979

要約 目的:ロービジョンケア導入のための連携を促進するプロジェクトであるスマートサイト北海道版の,運用開始直後の現状報告。対象と方法:北海道眼科医会ホームページの会員専用頁に,ロービジョンケアの連携に必要な情報と文書書式を収載して北海道内全眼科医に提供し,運用開始後6か月間における利用実態を調査した。結果:現状で実施されているロービジョンケアの大部分は自院で発生した症例に対するものであり,また,他分野専門機関との連携も少数にとどまる。結論:眼科医療機関相互間および医療機関と視覚リハ専門機関との間の連携を推進するうえで,スマートサイト北海道版の活用は重要であり,さらなる啓発が望まれる。

新潟大学における急性網膜壊死症例の検討

著者: 中野里絵子 ,   松岡尚気 ,   松田英伸 ,   長谷部日 ,   酒井康弘 ,   福地健郎

ページ範囲:P.981 - P.985

要約 目的:新潟大学病院で過去7年間に加療した急性網膜壊死(ARN)の報告。対象と方法:2013年までの7年間に当院を受診したARNの12例12眼を検索し,その治療成績を解析した。男性7例,女性5例で,年齢は25〜76歳,平均53歳であった。結果:全例が片眼発症であった。初診時に採取した前房水から,単純ヘルペスウイルスが3眼,水痘・帯状疱疹ウイルスが9眼で陽性であった。経過中に網膜剝離が7眼に発症し,5眼には発症しなかった。網膜剝離の有無は,ARN発症から受診までの日数とは相関がなかった。網膜剝離の原因は,2眼では増殖膜により牽引,5眼では裂孔原性であった。初診時に硝子体混濁が7眼にあり,うち6眼に網膜剝離が生じた。網膜剝離の全例に対して硝子体手術を行い,シリコーンオイル充塡などを併用した。全7眼で網膜が復位した。結論:当院でのARNはすべて片眼性であった。経過中の網膜剝離発症は,初診時に硝子体混濁のある例に多かった。

Ex-PRESS®を用いた濾過手術の術直後結果に影響を及ぼす因子の検討

著者: 横佐古加奈子 ,   庄司拓平 ,   上山数弘 ,   米谷新 ,   板谷正紀

ページ範囲:P.987 - P.991

要約 緒言:Ex-PRESS®を用いた濾過手術術後成績に及ぼす因子を検討する。対象と方法:当院でEx-PRESS®挿入単独手術を施行した緑内障患者連続63例70眼を対象とし,レトロスペクティブに解析した。結果:病型は原発開放隅角緑内障47眼,ぶどう膜炎に伴う続発性緑内障7眼,血管新生緑内障6眼,落屑緑内障10眼。術前眼圧は20(18〜26)mmHg〔中央値(四分位数)〕,平均観察期間は3.0か月,術後最終受診時眼圧は9(7〜10)mmHgであった。術後一過性前房消失が4眼(5.7%)に認められた。眼圧12mmHg以下を成功と定義した場合,年齢補正後,眼内レンズ眼と落屑緑内障が有意な予後不良因子であった。結論:Ex-PRESS®挿入単独手術の短期成績では合併症は少なかった。術後lowteenを目標眼圧値とした場合,眼内レンズ眼,落屑緑内障が予後不良因子として推定された。

白内障手術後の眼内レンズ位置異常に対して整復手術を要した106眼の検討

著者: 片平晴己 ,   石川友昭 ,   熊倉重人 ,   後藤浩

ページ範囲:P.993 - P.997

要約 目的:眼内レンズの位置異常に対して整復手術を行った背景状況の報告。対象と方法:過去78か月間に眼内レンズの整復手術を行った106眼を対象とした。白内障手術から整復手術までの期間,症例の背景,白内障手術の合併症などを検索した。結果:白内障手術から整復手術までの期間は平均103.6か月であった。Zinn小帯の脆弱化因子として,他手術の既往が16眼,アトピー性皮膚炎が14眼,眼球打撲が11眼,ぶどう膜炎が9眼,落屑症候群が4眼にあった。強度近視が21眼にあり,白内障術中の合併症が26眼にあった。結論:Zinn小帯の脆弱化因子がある症例や,白内障術中に合併症が生じた症例では,術後に眼内レンズの位置異常が生じる可能性がある。

トーリック眼内レンズの早期術後成績

著者: 古藪幸貴子 ,   松島博之 ,   永田万由美 ,   向井公一郎 ,   宮下博行 ,   後藤憲仁 ,   妹尾正

ページ範囲:P.999 - P.1002

要約 目的:乱視眼に対するトーリック眼内レンズ(IOL)挿入1か月後の結果の報告。対象と方法:白内障のある40例50眼を対象とした。同一術者が水晶体再建術を行い,TECNIS® Toric IOLを挿入した。術前の角膜乱視と,術後1か月までの屈折と視力を測定した。結果:術中または術後の合併症はなかった。logMARとしての矯正視力は,術前の平均0.34が,1か月後の平均−0.07に有意に改善した(p<0.01)。術1か月後の小数視力は,0.6以上が92%,0.8以上が76%であった。術前の角膜乱視は平均1.27±0.46Dで,1か月後の乱視は0.45±0.27Dであった。術前の直乱視は過矯正,倒乱視は低矯正になる傾向があった。結論:トーリックIOLの挿入により,乱視矯正効果と良好な術後裸眼視力が得られた。

白内障術前患者における涙道閉塞合併の検討

著者: 松山浩子 ,   門屋郁子 ,   松下春佳

ページ範囲:P.1003 - P.1006

要約 目的:白内障手術が予定されている患者での涙道閉塞の頻度と部位の報告。症例と方法:過去2年間に白内障手術を行った735例1,089眼を対象とした。男性324例,女性411例で,年齢は20〜95歳,中央値76歳である。術前検査として涙管通水検査を行い,涙道通過障害がある症例には涙道内視鏡で閉塞部位を同定し,涙道再建手術を行った。結果:涙道通過障害は735例中46例(6.3%),1,089側中63側(5.8%)にあった。内視鏡による涙道閉塞は,1,076側中47側(4.4%)にあり,うち5側(0.46%)では無症候性の涙囊炎が新規に発見された。結論:白内障手術が予定されている患者には,無症候性の涙囊炎が存在することがある。術前に涙管通水検査をすることで,その発見が可能である。

サイトメガロウイルス角膜内皮炎・虹彩炎の5例

著者: 實吉安信 ,   笠岡政孝 ,   田口千香子 ,   門田遊 ,   山川良治

ページ範囲:P.1007 - P.1011

要約 目的:サイトメガロウイルスによる虹彩炎と角膜内皮炎5症例の報告。対象と方法:過去7年間に,前房水のPCR検査でサイトメガロウイルスが陽性で,眼所見とその経過から診断した5例6眼を対象とした。男性3例4眼,女性2例2眼であり,年齢は66〜72歳であった。結果:当科を受診する前に,全例が虹彩炎と続発緑内障と診断されていた。初診時の所見として,眼圧上昇が6眼,角膜後面沈着物が5眼,coin lesionが1眼にあった。5眼で角膜内皮細胞密度が1,500個/mm2以下に減少していた。全例にデキサメタゾンとガンシクロビルの点眼を行い,ガンシクロビルの点滴と硝子体注射などを併用した。治療終了時に全例で角膜内皮細胞密度の減少があった。結論:虹彩炎と続発緑内障の治療歴がある症例で,角膜後面沈着物があり,眼圧が上昇し,角膜内皮細胞密度が減少している時には,サイトメガロウイルスによる虹彩炎と角膜内皮炎が疑われる。

小切開による眼内レンズ縫着術後成績の検討

著者: 西田奈央 ,   後藤憲仁 ,   松島博之 ,   青瀬雅資 ,   妹尾正

ページ範囲:P.1013 - P.1016

要約 目的:眼内レンズ(IOL)縫着術の切開幅別術後成績の検討。対象と方法:IOL縫着術を施行した47例49眼。創口2.4mmの極小切開群(18眼),4.0mmの小切開群(14眼),6.0〜7.0mmの中切開群(17眼)の3群に分け,矯正視力,角膜内皮減少率,屈折誤差,乱視絶対量を比較した。結果:矯正視力は極小切開群0.94,小切開群0.91,中切開群0.70で良好であった。角膜内皮減少率は極小切開群4.5%,小切開群5.3%,中切開群6.1%であった。屈折誤差は3群ともに近視化していた。術後乱視絶対量は極小切開群で1.12D,小切開群で1.44D,中切開群で2.59Dであり,極小切開群は中切開群と比較し有意に低かった(p<0.01)。結論:IOL縫着術は良好な手術成績が得られ,切開幅が小さくなると術後乱視量が低下した。

緑内障手術時に両眼の結膜下悪性リンパ腫が発見された続発緑内障の1例

著者: 高井章子 ,   植木麻理 ,   奥田吉隆 ,   河本良輔 ,   小嶌祥太 ,   杉山哲也 ,   奥英弘 ,   横手耐治 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1017 - P.1020

要約 目的:両眼の結膜下悪性リンパ腫が緑内障に対する手術中に発見された症例の報告。症例:72歳女性が緑内障の疑いで紹介受診した。両眼の霧視が2か月前からあり,隅角癒着が両眼にあり,眼圧上昇があった。所見:矯正視力は右0.9,左0.6で,眼圧は右36mmHg,左31mmHgであった。血液検査で白血球数が23,260/μlで,リンパ球の増加があった。1か月の間隔で両眼に線維柱帯切除術を行った。術中所見として,強膜上に癒着する淡茶褐色の組織があり,病理学的と遺伝子検査で結膜下悪性リンパ腫と診断された。結膜下の静脈周囲にリンパ球の浸潤があった。14か月後の現在まで,眼圧は正常域に維持されている。結論:両眼の結膜下悪性リンパ腫による静脈灌流障害が,本症例での眼圧上昇の原因であると推定される。

網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブの短期成績

著者: 新井純 ,   前沢千種 ,   赤羽聡子 ,   児玉真也

ページ範囲:P.1021 - P.1026

要約 目的:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射の短期成績の報告。対象と方法:網膜静脈閉塞症22例22眼を対象とした。男性10例,女性12例で,年齢は44〜83歳,平均70歳であった。網膜中心動脈閉塞症が5眼,網膜静脈分枝閉塞症が17眼にあった。併発した黄斑浮腫に対してラニビズマブ硝子体注射を行い,6か月間の経過を観察した。必要に応じてラニビズマブ投与を追加した。視力はlogMARで評価した。結果:経過中に平均2.4回のラニビズマブ追加投与を行った。平均視力は投与前0.64±0.41,6か月後は0.56±0.50で,改善傾向を示した。中心窩網膜厚は,治療前には平均577.8±207.0μm,治療の翌日が459.0±144.6μm,6か月後が373.1±102.9μmであり,有意に減少した。結論:網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するラニビズマブ硝子体注射で,その翌日から黄斑浮腫が減少し,短期的な視力の改善が得られた。

眼瞼温罨法による脈絡膜厚の変化

著者: 松田順繁 ,   平野隆雄 ,   今井章 ,   平林一貴 ,   鳥山佑一 ,   家里康弘 ,   村田敏規

ページ範囲:P.1027 - P.1031

要約 目的:眼球を加温する前後での中心窩網膜厚と中心窩下脈絡膜厚の報告。対象と方法:健常人10例20眼を対象とした。男性4眼,女性16眼で,平均年齢は26歳であった。上眼瞼を経由して眼球を40℃で10分間加温した。波長掃引光源光干渉断層計で,中心窩網膜厚と中心窩下脈絡膜厚を測定した。結果:中心窩網膜厚の平均値は,加温前203.5μm,加温後202.3μmで有意差はなかった(p=0.690)。中心窩下脈絡膜厚の平均値は,加温前228.7μm,加温後246.9μmで,有意に増加した(p=0.0155)。結論:若年の健常人では,眼瞼を経由する眼球加温により,中心窩網膜厚は変化せず,中心窩下脈絡膜厚が有意に増加した。

糖尿病黄斑浮腫に対する硝子体内ベバシズマブ初回3回投与後の経過

著者: 杉本昌彦 ,   一尾享史 ,   松原央 ,   近藤峰生

ページ範囲:P.1033 - P.1036

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫に対し,導入期3回のベバシズマブ硝子体注射を行った短期結果の報告。対象と方法:糖尿病黄斑浮腫がある39例39眼を対象とした。平均年齢は65歳であった。ベバシズマブ硝子体注射を3回連続して行い,1か月後と2か月後の視力,中心窩網膜厚,微小視野計による網膜感度閾値を評価した。視力はlogMARで評価した。結果:視力,中心窩網膜厚,網膜感度閾値は,いずれも有意に改善した(p<0.05)。2か月以降については,10眼(26%)では追加治療不要と判断され,15眼(38%)ではベバシズマブを維持投与し,14眼(36%)では他の加療が行われた。結論:導入期3回のベバシズマブ硝子体連続注射は,糖尿病黄斑浮腫に対し有効であった。2か月以降については,治療の継続または追加が必要な症例があった。

黄斑欠損に合併した脈絡膜新生血管に対するアフリベルセプト硝子体内投与

著者: 髙橋元 ,   大中誠之 ,   三木克朗 ,   中内正志 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1037 - P.1042

要約 目的:黄斑欠損に合併した脈絡膜新生血管に対してアフリベルセプト硝子体内投与を行った症例の報告。症例:60歳男性が3週間前からの右眼視力低下で受診した。2年前から右眼の脈絡膜欠損と左眼の正常眼圧緑内障で加療中であった。所見:矯正視力は右0.1,左1.2で,右眼に−4.5D,左眼に−10Dの近視があった。右眼黄斑部に3乳頭径大の脈絡膜欠損と,網膜下出血と灰白色病巣があった。フルオレセイン蛍光眼底造影で,脈絡膜欠損部は低蛍光,灰白色病巣は早期には過蛍光,後期には色素漏出があった。インドシアニングリーン蛍光造影で,灰白色病巣に網目の過蛍光があった。光干渉断層計で網膜の部分欠損と脈絡膜欠損があり,鼻側網膜に浮腫と,脈絡膜新生血管と推定される高反射域があった。これらの所見から,黄斑欠損に合併した脈絡膜新生血管と診断した。4回のアフリベルセプト硝子体内投与を行い,8か月後に網膜下出血は消失し,視力は0.3に回復した。結論:黄斑欠損に合併した脈絡膜新生血管に対し,複数回のアフリベルセプト硝子体内投与が奏効した。

多発性後極部網膜色素上皮症に対して低照射エネルギー光線力学的療法が奏効した2症例

著者: 赤岩慶 ,   香留崇 ,   藤原亜希子 ,   堀田芙美香 ,   内藤毅 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.1043 - P.1050

要約 目的:多発性後極部網膜色素上皮(MPPE)がある2例4眼に,低照射エネルギー光線力学的療法を行った報告。症例:症例はそれぞれ61歳と67歳の男性である。1例は1年前からステロイド薬の全身投与を受け,視力障害で当科を受診した。他の1例は多発性骨髄腫に対して10年前からプレドニゾロンを内服していた。3年前にMPPEが発症し,複数回の光凝固を受けたが改善しなかった。所見:両症例とも両眼のMPPEと診断し,1例には囊胞様黄斑浮腫があった。通常の半量のverteporfinを用いた低照射エネルギー光線力学的療法を両症例の両眼に行った。4眼中3眼で漿液性網膜剝離が改善し,中心窩下の脈絡膜厚が減少した。うち2眼で視力が改善し,4眼中1眼では所見に改善がなかった。結論:MPPEに対し,低照射エネルギー光線力学的療法が4眼中3眼で奏効し,1眼では無効であった。

特発性黄斑上膜における立体視の検討

著者: 新竹広晃 ,   森隆史 ,   佐藤千尋 ,   石龍鉄樹

ページ範囲:P.1051 - P.1056

要約 目的:片眼性の特発性黄斑上膜症例での,立体視,視力,変視症,不等像などの報告。対象と方法:片眼性の特発性黄斑上膜34例34眼を対象とした。男性17例,女性17例で,年齢は49〜80歳,平均67歳である。左右眼の屈折に1.5D以上の差がある症例は除外した。結果:立体視は視力と不等像量とに有意な正の相関を認めた。水平・垂直変視量,中心窩網膜厚とは有意な相関を認めなかった。さらに立体視検査の結果で立体視良好群(視差100秒未満)と立体視不良群(視差100秒以上)の2群間では,視力と不等像量で有意差を認め,水平・垂直変視量と中心窩網膜厚は有意差を認めなかった。結論:片眼性の特発性黄斑上膜では,視力が良好でも立体視が不良な症例がある。本症の治療方針の決定では,立体視を含めた両眼視機能を考慮する必要がある。

網膜色素線条に脈絡膜新生血管を合併した家族例

著者: 中野英之 ,   長谷部日 ,   松岡尚気 ,   寺島浩子 ,   佐々木亮 ,   上田恵理子 ,   佐藤弥生 ,   福地健郎

ページ範囲:P.1057 - P.1061

要約 目的:網膜色素線条がある同胞3名の両眼に生じた脈絡膜新生血管(CNV)の経過の報告。症例:症例は59歳女性,55歳男性,63歳女性で,3名は同胞である。母は生前に弾性線維性仮性黄色腫(PXE)と診断されていた。所見:症例1にはPXEと,両眼に網膜色素線条とCNVがあった。11年間の経過観察中に,右眼に光線力学的療法を行い,左眼のCNVは瘢痕化した。最終視力は0.3と0.07である。症例2では5年間の期間中に左眼のCNVが自然に瘢痕化した。右眼には出血を伴うCNVが発症し,5回のベバシズマブ硝子体注射を行った。最終視力は0.4と0.3である。症例3では4年間の期間中に,右眼のCNVに対し2回のベバシズマブ硝子体注射を行い,左眼のCNVにラニビズマブ硝子体注射を行った。最終視力は0.04と0.4である。結論:網膜色素線条がある同胞3名の両眼にCNVが生じ,抗VEGF薬の硝子体注射などで瘢痕化した。

白点状眼底に合併した脈絡膜新生血管に抗VEGF薬硝子体注射を施行した1例

著者: 佐藤尚栄 ,   井上麻衣子 ,   山根真 ,   荒川明 ,   門之園一明

ページ範囲:P.1063 - P.1066

要約 目的:白点状眼底に併発した脈絡膜新生血管に対し,抗VEGF薬の硝子体注射を行った症例の報告。症例:74歳男性が11日前からの左眼霧視と変視症で受診した。所見:矯正視力は右1.2,左0.9で,両眼の後極部眼底に白点が多発していた。左眼黄斑部に,網膜下出血と網膜剝離を伴う脈絡膜新生血管と思わる所見があった。左眼を白点状眼底に併発した脈絡膜新生血管と診断した。ラニビズマブの硝子体注射を4回行ったが病変が再発したため,アフリベルセプトの硝子体注射を3回行った。初診から12か月後の現在,網膜下出血は消失し,後極部の白点病巣は消失し,視力は0.6を維持している。結論:白点状眼底に併発した脈絡膜新生血管に対し,抗VEGF薬の硝子体注射を複数回行い,脈絡膜新生血管が退縮した。

ステロイドパルス治療を施行した若年者の甲状腺眼症の1例

著者: 野口晴香 ,   神前あい ,   舟木智佳 ,   伊藤学 ,   井上立州 ,   西山功一 ,   井上吐州

ページ範囲:P.1067 - P.1074

要約 背景:若年者での甲状腺眼症は,軽症であることが多い。目的:外眼筋肥大がある若年者の甲状腺眼症に対し,ステロイドパルス療法が奏効した1例の報告。症例:15歳女性。易疲労感と眼球突出でバセドウ病と診断され,紹介受診した。所見と経過:視力は良好で,眼球突出は右23mm,左24mmであった。両眼瞼が腫脹し,Graefe徴候が陽性で,下方視で複視を認めた。MRIで両眼の上眼瞼挙筋の肥大があった。1年後に眼球突出と複視が増悪し,MRIで外眼筋の肥大と炎症所見がみられた。ステロイドパルス療法を3クール行い,外眼筋肥大は改善し,複視は軽減した。結論:活動性が高い甲状腺眼症に対しては,若年者であってもステロイドパルス療法が必要であり,有効である。

発症から長期経過後に副鼻腔手術により視力改善が得られた鼻性視神経症の1例

著者: 海野茂樹 ,   横田陽匡 ,   野村研一郎 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1075 - P.1079

要約 目的:発症から長期間が経過した後に,手術により視機能が回復した鼻性視神経症の1例の報告。症例:30歳男性が2週間前からの右眼周囲の疼痛と視力低下で受診した。所見と経過:視力は右指数弁,左1.5であったが,左右眼とも他覚的に病的所見を認めなかった。視野検査では右眼に視野狭窄と中心暗点があった。ステロイドパルス療法を施行し右眼視力は0.4に回復したが,10か月後に通院を中断した。5年後に同様の症状を訴え再受診した。矯正視力は右0.03,左1.2であった。再度ステロイドパルス療法を施行し,3か月後に右眼視力は0.7に回復するも,その1か月後に0.4になり,さらに悪化した。そこで,これまでの画像検査を再検討し,篩骨蜂巣の所見などから鼻性視神経症を疑った。副鼻腔手術を施行し,5日後には視力は1.0に回復し,10か月後の現在まで経過は良好である。結論:本症例は慢性に経過する非典型的な鼻性視神経症であり,副鼻腔手術が奏効した。

Special Interest Group Meeting(SIG)報告

眼科DNAチップ研究会

著者: 上田真由美 ,   木下茂

ページ範囲:P.1080 - P.1082

 多くの疾患は,個人のもつ遺伝素因に環境因子が加わり,疾患が発症する多因子疾患である。多因子疾患の発症にかかわる体質をつかさどる遺伝要因として,遺伝子多型(SNP)が挙げられる。最近まで,一般的な多因子疾患(common disease)の発症には昔に発生した多くの個人で共有されるcommon variantsが関与しているという“common disease-common variants仮説”のもと,全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS)が精力的に行われてきた。しかし,common SNPによるGWASでは,予測された発症率の一部しか説明できないという事実に直面し,common diseaseの発症には多くのrare variantsが関与しているとする“common disease-rare variants仮説”に考え方が大きく変化してきている。それに伴い遺伝子解析の手法も,全ゲノムのcommon variantsを検出するGWASから,次世代シーケンサーを用いたrare variantsの解析にシフトしてきている。

 第68回日本臨床眼科学会のSIGとして,第15回眼科DNAチップ研究会が神戸国際会議場で開催された。本研究会では,眼科領域では,山梨大学の櫻田先生に“臨床における加齢黄斑変性遺伝子多型の活用法”について,京都大学の大石先生には“Targeted exome sequencingによる遺伝性網膜変性疾患の網羅的遺伝子検索”について,横浜市立大学の石原先生には“サルコイドーシスのゲノムワイド相関解析”についてご講演いただき,京都府立医科大学の上田は“感冒薬によるStevens-Johnson症候群のGWASならびに国際サンプルを用いた検証”について講演した。さらに,東京大学医学研究科人類遺伝学分野の徳永先生に,教育講演として“Complex diseasesの遺伝研究:現状と課題”についてご講演いただいき,それぞれについて熱心な討論が行われた。ここでは,4つの講演,ならびに,教育講演の要旨を報告する。

連載 今月の話題

新しい黄斑円孔手術

著者: 森實祐基

ページ範囲:P.953 - P.959

 近年の硝子体手術の進歩とともに,黄斑円孔の治癒率は向上し,現在では90%以上の症例が初回手術で治癒するようになった。しかし一方で,硝子体手術を行っても円孔が閉鎖しない,いわゆる難治性黄斑円孔の存在が明らかとなり,有効な治療法の登場が望まれてきた。近年,難治性黄斑円孔に対して,新しい術式が考案され,良好な手術成績が報告されている。

知っておきたい小児眼科の最新知識・7

これだけは知っておきたい網膜芽細胞腫治療の最新知識

著者: 鈴木茂伸

ページ範囲:P.960 - P.964

point

1)診断は眼底所見,画像検査で行う

2)化学療法,局所治療により眼球温存を目指す

3)眼球温存率は50%程度,生命予後は95%以上であり,適切な治療が重要である

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第11回

ちょっとポピュラーじゃない眼瞼下垂手術—つり上げ術(後半)

著者: 柿﨑裕彦

ページ範囲:P.966 - P.971

はじめに

 今回は,つり上げ材を糸として用いる方法とつり上げ材について解説します。項目や図の番号は前回からの通しにしてあります。

今月の表紙

真菌性角膜潰瘍後にみられた虹彩脱出

著者: 長谷川哲也 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.973 - P.973

 症例は86歳,男性。木の枝が左眼に当たり受傷。自覚症状がなく,内科受診時に充血を指摘され紹介となった。

 初診時視力は右0.2(0.6),左5cm指数弁,眼圧は右18.0mmHg,左30.0mmHgであった。左眼毛様充血,角膜中央部羽毛状角膜潰瘍,前房蓄膿を認めた。当院で培養した結果Aspergillus flavusが検出され,ボリコナゾール,フルコナゾール,ピマリシンにて治療していた。全身状態の悪化のため他院へ緊急入院し来院できない状況が続き,眼状態が悪化。前房を2/3を膿が覆い尽くす前房蓄膿になり,角膜パンヌスが全周より侵入。その後角膜上方,下方が穿孔した。

書評

《眼科臨床エキスパート》眼感染症診療マニュアル

著者: 清澤源弘

ページ範囲:P.1012 - P.1012

 『眼感染症診療マニュアル』という本がこのたび上梓されました。内容は440ページと読み応えのある厚さのある本に仕上がっています。編集は薄井紀夫先生と後藤浩先生の東京医科大学の同門のお二人です。

 実際に本を手にしてみますと,眼感染症をテーマに診療に取り組んでおられる先生方41人のお名前が執筆者として記載されています。ひょっとしたら眼感染症の専門家のお名前は全て使われてしまっており,感染症には専門外の私などの所に書評のお鉢が回ってきたのかもしれません。

Pocket Drugs 2014

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1074 - P.1074

 くすりの種類は年々膨大となっており,薬剤についての広範囲に及ぶ知識はもはや医師の記憶容量の限界を超えてしまっている。それでもポイント・オブ・ケアの臨床現場では,普段使い慣れていない薬剤についての情報が必要となる場面は多い。そんな時,臨床医はどのようなリソースを用いて薬剤情報を入手しているのだろうか。ネット上や電子カルテ内にあるdrug information(DI)や添付文書,製薬会社作成のパンフレット,あるいは薬剤出版物などを使用することもあるであろう。DIや添付文書は,網羅的記載ではあるが単調な内容で,重要ポイントがしばしば不明瞭である。また,薬剤パンフレットやチラシはどうしても製薬会社バイアスがあり,信頼性に乏しい点がある。このようなことから,ネットが普及してベッドサイドでモバイル端末が導入され,検索スピードはアップしたものの,こと薬剤情報についてはほしい情報を得るには意外と苦労する。

 最前線で患者ケアに従事する臨床医にとって重要な情報は,薬剤情報の中でもエビデンスサマリーと信頼できる臨床医の生のアドバイスだ。それもあまり長い文章ではいけない。臨床現場では時間管理が常に優先されるからだ。エビデンスサマリーと専門家のアドバイスがバランスよく記述されている『Pocket Drugs』は臨床医にとってとても役に立つリソースとなることは間違いない。

やさしい目で きびしい目で・187

予定とストレス

著者: 杉本貴子

ページ範囲:P.1083 - P.1083

 旅が好きだ。というか旅の計画を立てることが大好きだ。1年に2回,1週間の休暇がもらえるので,1年くらいかけて計画を立て,予定をなぞるように旅をする。予定通りにいかないとストレスを感じる。フランスのボルドーへ旅行した時のこと。午前中は事前に申し込んでいたツアーに参加した。午後は自力で郊外にあるアルカションというところに行く予定を立てていた。ここには,スペイン国境まで続く森と3kmもの長さでヨーロッパ最大のピラ砂丘があるのだ。ボルドーの駅からローカル電車で1時間,アルカションの駅からさらにタクシーで田舎道を15分。バスが2時間に1本くらいあることがわかっていたので,帰りはバスで帰ろうと予定していた。タクシーを降りて,砂丘に向かう前に駐車場の隅にあるバス停の場所を確認した。時刻表も見て,調べていた通りの時刻があることも確認。駐車場を抜け森の中の道を進み,砂丘に向かった。天気も良く,風もさわやかで,砂丘を十分に満喫。露店で食べたカキもワインもおいしくて,すべてが完璧だった。そろそろ帰ろうと10分前にバス停に戻った。が,時刻になってもバスは来ない。まあ,遅れることはあるだろうとさらに15分待ったが,来ない。さらに10分。露店は次々に閉まっていくし,駐車場の車はどんどん減っていく。〈samedi〉なんとなくの英語の感覚で日曜日のことだと思い込んでいたが,フランス語では土曜日を表す。日曜日は〈dimanche〉。曜日を間違えていたのだった。日曜日のバスは一本もなかった。気が付いてよかった。閉まりかけていたお土産屋さんに走り,お店のおばさんに,しどろもどろの英語と指差しフランス語でタクシーを呼んでもらい,なんとか駅まで戻ることができた(タクシーもなかなか来なくて,このままここで夜を過ごさなければならないのではないかとかなり不安だった)。調べ尽くして完璧な計画だと思っていたけど,大失敗。そんなこともある。

 医師になって15年。旅行の計画はあんなに一生懸命立てるのに,将来の仕事についてとか,人生についてとか先のことはあまり考えたことがない。ここまで続けることができたのは,見捨てずに育ててくれた医局の先生方や,頼りになる後輩の先生方のおかげであることはいうまでもないが,あまり細かく予定を立てず,こだわらず,なるがまま,流されてきたこともあるのかもしれない。予定がなければストレスも少なくて済む。仕事は楽しい。これからも,そんなこともある,なんとかなると,あまり深く考えずに穏やかに末永く働けたらと思っている。

臨床報告

蜂刺傷が誘因となり緩徐に眼窩内浸潤をきたした微小囊胞性付属器癌の1例

著者: 澤田奏子 ,   橋本雅人 ,   山下建 ,   大黒浩

ページ範囲:P.1087 - P.1091

要約 目的:蜂刺傷瘢痕を契機に緩徐に進行し眼窩内深部浸潤をきたした微小囊胞性付属器癌の1例を報告する。症例:67歳,男性。33年前にスズメバチに刺された右前額部の刺傷部が瘢痕化し緩徐に拡大,右上眼瞼腫脹,開瞼困難となり当院受診となった。右眉毛部から前額部に広がる無痛性の硬結様の皮膚腫瘤がみられ,右眼の眼球運動は全方向に運動制限を認めた。眼窩部MRIでは,充実性の右前額部皮下腫瘤が眼窩内深部,外眼筋にも浸潤している所見を認めた。病理診断は微小囊胞性付属器癌であった。眼窩内容除去術および皮弁移植術を施行,20か月後の現在,再発なく経過している。結論:微小囊胞性付属器癌は眼科領域においても鑑別を要する皮膚疾患である。

裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術における気体タンポナーデ物質の検討

著者: 石黒利充 ,   中道悠太 ,   中内正志 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1093 - P.1097

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術で,空気または六フッ化硫黄(SF6)を用いた成績の報告。対象と方法:過去2年間に,原因裂孔が上方2象限にある網膜剝離に対して硝子体手術を行った58例60眼を対象とした。年齢は41〜77歳,平均59歳であった。裂孔周囲の網膜には光凝固を行った。タンポナーデとして30眼では空気,30眼ではSF6を用いた。術後36時間は腹臥位とし,以後は状況に応じて延長した。術後6か月間の経過を追った。結果:初回手術により,空気群では30眼,SF6群では28眼で復位が得られた。両群間に有意差はなかった。術後視力の不変または改善が,両群とも100%で得られた。術後の腹臥位日数は,空気群で平均4.20±0.55日,SF6群で8.23±0.90日であり,両群間に有意差があった(p<0.01)。結論:原因裂孔が上方にある網膜剝離に対する硝子体手術で,タンポナーデ物質として空気とSF6を使用した症例群では,復位率と術後視力に差がなかった。術後の腹臥位日数は,空気群が有意に短かった。

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欧文目次

ページ範囲:P.950 - P.951

第33回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.974 - P.974

べらどんな 無ノンブル

著者:

ページ範囲:P.1082 - P.1082

 本にはページ番号を示す数字がついている。印刷業界では,これをノンブルというらしい。

 横書きの本では,本文には算用数字を使うが,序文は別建てにして,ⅰⅱⅲⅳなどのローマ数字にする習慣がある。ちょっと凄いのが,McKusickのMendelian Inheritance in Man(MIM)である。1998年に出た第12版では,序文はccclxv,すなわち365ページもある。

ことば・ことば・ことば 膝と隅角

ページ範囲:P.1086 - P.1086

 すこし前にこの欄の原稿を書いていたときです。英語ではナイフをknifeと綴り,発音もしないkがなぜnの前に入っているのかが気になりました。「それがどうした」と言われそうですが,そもそも「なぜ」は学問の出発点なのです。

 調べた結果から言うと,knifeについては「わからない」が結論です。古代英語ではcnifとなり,ドイツ語にもKneipなどの単語があるのですが,それよりも古くは遡れません。フランス語にあるcanifは,英語からの借用語だそうです。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1098 - P.1110

希望掲載欄

ページ範囲:P.1114 - P.1114

アンケート用紙

ページ範囲:P.1116 - P.1116

次号予告

ページ範囲:P.1117 - P.1117

あとがき

著者: 下村嘉一

ページ範囲:P.1118 - P.1118

 周知のように,昨年日本専門医機構が新しい理念のもとに発足いたしました。そのコンセプトは医学・医療界をあげ,プロフェッショナルオートノミーを十分に発揮し,国民に理解される専門医制度を構築することにあります。眼科の専門医制度は他科に比較して高い評価を得ていますので,機構側としては他の18領域と同じレベルに平準化しようと試みています。しかしながら,更新やプログラム研修施設認定はいまだ決定されていません。機構側は理想とする専門医制度に向けて努力していますが,各領域との間に意見の相違がみられています。いずれにせよ,我々は機構側の姿勢・態度,および財政基盤を絶えず注視する必要があると思います。

 さて,「今月の話題」では黄斑円孔手術について述べられています。ここでは難治性黄斑円孔に対する新しい術式が考案されて,その良好な成績が報告されていますので,ぜひご覧ください。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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