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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科69巻8号

2015年08月発行

雑誌目次

特集 第68回日本臨床眼科学会講演集(6) 原著

近視性脈絡膜新生血管に対するラニビズマブ療法の効果

著者: 木村元貴 ,   永井由巳 ,   三木克朗 ,   大中誠之 ,   千原智之 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1147 - P.1151

要約 目的:ラニビズマブ硝子体内投与(IVR)を行った近視性脈絡膜新生血管(mCNV)の短期成績の報告。対象と方法:IVR後2か月以上経過観察ができたtreatment naïveのmCNV症例,26例26眼の視力,網膜厚,投与回数について後ろ向きに検討した。結果:視力はIVR前と1か月後で有意な改善がみられたが(p<0.01),最終観察時では有意差はみられなかった。中心窩網膜厚,病巣部網膜厚は,1か月後,最終観察時ともに有意な改善がみられた(p<0.01)。26眼中16眼が単回投与,10眼(38.5%)が複数回投与で,両群間の病変最大径に有意差はなく,病巣部網膜厚は複数回投与群が有意に厚かった(p<0.05)。結論:IVRは有効な治療法であるが,複数回投与を要する症例があり,IVR後の綿密な経過観察と投与方法の検討が必要であると思われた。

近視性脈絡膜新生血管の抗VEGF療法による長期成績

著者: 矢合都子 ,   中村友子 ,   矢合隆昭 ,   藤田和也 ,   武田祥子 ,   東條直貴 ,   加藤剛 ,   林篤志

ページ範囲:P.1153 - P.1158

要約 目的:近視性脈絡膜新生血管に対する抗VEGF薬の硝子体注射の長期成績の報告。対象と方法:近視性脈絡膜新生血管に対して抗VEGF薬の硝子体注射を行った37例38眼を対象とした。男性5眼,女性33眼で,年齢は33〜81歳,平均62歳である。屈折は−0.75〜−20D,平均−9.9Dであり,27眼が有水晶体眼,11眼が眼内レンズ挿入眼であった。全例に初回治療としてベバシズマブの硝子体注射を行い,3眼では再投与時にラニビズマブ注射を行った。視力はlogMARとして評価した。全例について24か月以上の経過を追跡した。結果:平均視力は,治療前0.67±0.47,24か月後0.39±0.50,36か月後0.39±0.41であり,いずれも有意に改善した(p<0.05)。経過中に17眼(45%)が再発した。再発眼は再発がない眼よりも治療開始時の新生血管の面積が有意に大きかった。結論:ベバシズマブまたはラニビズマブの硝子体注射は,近視性脈絡膜新生血管に対して有効であり,術後3年間にわたって視力が維持または改善した。治療開始時の血管新生の面積が大きい眼では,再発しやすかった。

縫着を要しない眼内レンズ毛様溝固定術の検討

著者: 杉浦毅

ページ範囲:P.1159 - P.1165

要約 目的:従来の眼内レンズ(IOL)縫着術は,侵襲が大きい。そこで,無水晶体眼の毛様溝に無縫合で固定できる3つのハプティクスを有するIOL(3-Haptics IOL)を考案し,その安定性を検証する。対象および方法:3-Haptics IOLを開発し,水晶体を除去した豚眼に3つのハプティクスを毛様溝に無縫合で固定する手技を紹介する。さらに,フックで光学部を押した場合,強膜を強く圧迫した場合,豚眼を高さ30cmから落とした場合のIOLの固定状態を観察する。結果:光学部を押しても,強膜を圧迫しても,IOLは安定していた。豚眼を高さ30cmから落としても,3つのハプティクスは外れず,IOLの固定状態は良好であった。結論:3-Haptics IOLは侵襲も少なく,無水晶体眼の豚眼の毛様溝に無縫合で固定が可能であった。

滲出型加齢黄斑変性のtreatment-naïve症例に対するアフリベルセプト硝子体内投与の成績

著者: 永井由巳 ,   大中誠之 ,   木村元貴 ,   三木克朗 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1167 - P.1173

要約 目的:治療歴がない滲出型加齢黄斑変性に対し,アフリベルセプトの硝子体内投与を行った結果の報告。症例:加齢黄斑変性165例166眼を対象とした。男性111例112眼,女性54例で,年齢は51〜87歳,平均72歳である。78眼が典型加齢黄斑変性,77眼がポリープ状脈絡膜血管症,11眼が網膜血管腫状増殖であった。導入期にアフリベルセプトの硝子体内投与を4週ごとに連続3回行い,以後は必要に応じて追加投与した。視力はlogMARとして評価した。結果:平均視力は治療開始前0.43,3か月後0.36,6か月後0.36,9か月後0.38,12か月後0.33であり,導入期の視力が維持された。治療開始時と3か月後の平均視力は,典型加齢黄斑変性では0.51から0.43に,ポリープ状脈絡膜血管症では0.32から0.43に,網膜血管腫状増殖では0.59から0.49に変化した。結論:滲出型加齢黄斑変性に対するアフリベルセプトの硝子体内投与により,術後12か月間の視力が維持または改善した。

小児眼における屈折と高次収差の関係および調節麻痺薬の高次収差に及ぼす影響

著者: 小橋理栄 ,   大月洋 ,   成田亜希子 ,   平野雅幸 ,   秋元悦子 ,   瀬口次郎

ページ範囲:P.1175 - P.1179

要約 目的:屈折異常と調節麻痺薬の点眼が小児の高次収差に及ぼす影響の報告。対象と方法:矯正視力が0.8以上の41名71眼を対象とした。年齢は3〜15歳で,中央値は6歳であった。遠視22眼,正視25眼,近視24眼で,塩酸シクロペントレートの点眼前後の高次収差をwave-front analyzerで解析した。結果:遠視眼でのコマ様収差と全高次収差は正視眼よりも有意に大きく,遠視眼での球面様収差は正視眼と近視眼よりも有意に大きかった。調節麻痺薬の点眼により,遠視眼では球面様収差と全高次収差が有意に増加し,正視眼では有意の変化がなく,近視眼ではコマ様収差,全高次収差,角膜高次収差が有意に増加した。Zernike多項式については,点眼後の遠視群ではC(3,−3),C(3,−1),C(4,0)に,近視群ではC(3,−1),C(4,−2),C(5,−3)に,それぞれ有意な変化があった。結論:調節麻痺薬の点眼により,屈折異常のある小児の高次収差に変化が生じた。

アレルギー性結膜疾患の瞼結膜に発現されるIL-8とムチンコア蛋白遺伝子の検討

著者: 町田弓美子 ,   庄司純 ,   原田奈月子 ,   石森秋子 ,   稲田紀子

ページ範囲:P.1181 - P.1185

要約 目的:結膜上皮におけるIL-8 mRNA(IL8)とMUC遺伝子(MUC)発現の検討。対象と方法:アレルギー性結膜炎,アトピー性角結膜炎,春季カタル(VKC群)の患者のimpression cytology検体(検討1),およびlipopolysaccarideまたはヒスタミン刺激培養ヒト結膜上皮細胞(HCE)(検討2)で,IL8MUC1MUC5ACMUC16発現をreal-time RT-PCR法で検討した。結果:検討1:IL8発現は,VKC群で高値を示し(P<0.05),IL8MUC1は相関した(r=0.54, P<0.05, 偏相関検定)。検討2:ヒスタミン刺激したHCEでIL8MUC1が相関した(r=0.62, P<0.01, 偏相関検定)。結論:結膜上皮でのIL-8とMUC1の変化は,VKCのアレルギー炎症でみられる。

後部硝子体剝離を伴わず自然閉鎖した特発性黄斑円孔が再発した1例

著者: 雲井美帆 ,   坂東肇 ,   井上亮 ,   坪井孝太郎 ,   中島浩士 ,   西牟田明伸 ,   池田俊英 ,   恵美和幸

ページ範囲:P.1187 - P.1192

要約 目的:黄斑円孔が自然閉鎖した後に再発し,後部硝子体剝離がない1例の報告。症例:56歳男性が3週間前からの歪視で紹介受診した。所見と経過:矯正視力は右1.0,左1.2で,光干渉断層計でstage 2の全層黄斑円孔が右眼にあった。後部硝子体剝離はなかった。円孔径が56μmと小さいため,そのまま経過を観察した。円孔は2か月後に自然閉鎖し,視力は1.2に改善した。その8か月後に黄斑円孔が再発し,視力は0.8に低下した。後部硝子体剝離はなく,円孔径は200μmであった。白内障と硝子体手術を同時に行い,円孔は閉鎖し,視力は1.5に回復した。1年後の現在まで経過は良好である。結論:後部硝子体剝離がなく,自然閉鎖した黄斑円孔では,円孔が再発することがあり,注意が必要である。

慢性網膜壊死の病像を示したサイトメガロウイルス網膜炎の2症例

著者: 傳田悠布子 ,   嶋千絵子 ,   藤原敦子 ,   永井由巳 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1193 - P.1200

要約 目的:2013年Schneiderらが提唱した慢性網膜壊死の病像に一致する2例を経験したので報告する。症例1:77歳男性,右眼霧視で初診。初診時,矯正視力は右0.5,左0.9,右眼は高眼圧,虹彩炎,網膜周辺部に白色顆粒状病変,全周に網膜動静脈の閉塞を認めた。前房水PCRでcytomegalovirus(以下,CMV)が検出され,抗CMV薬内服で改善した。症例2:70歳男性,両眼の視野欠損で初診。既往にCMV抗原血症があり,抗CMV薬内服をしていた。初診時矯正視力は両眼0.7。両眼に網膜動脈の白線化,周辺部に顆粒状病変がみられ,進行は緩徐であった。結論:CMV網膜炎では免疫状態にかかわらず網膜周辺部に顆粒状病変,汎網膜閉塞性血管炎が慢性的に進行する病態があり注意を要する。

TS-1®使用患者の白内障手術後に急激な異常上皮の角膜進入をきたした1例

著者: 竹澤由起 ,   原祐子 ,   白石敦 ,   坂根由梨 ,   宇野敏彦 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.1201 - P.1206

要約 背景:TS-1®は,テガフール,ギメラシル,オテラシルを含む複合薬で,悪性腫瘍に対して経口投与される。目的:TS-1®を服用中の患者に白内障手術を行い,異常上皮が角膜に進入した1症例の報告。症例:70歳の女性が視力障害で受診した。6年前に胆管癌の手術を受け,TS-1®の2週服薬と2週休薬を繰り返していた。所見と経過:矯正視力は右0.8,左0.08で,両眼に白内障があった。白内障手術をまず右眼に,1か月後に左眼に行った。上方の結膜を4.5mm切開し,3mmの強角膜切開で手術を行った。視力は右1.2,左0.3に回復した。4か月後に流涙と視力障害が生じ,視力が0.5と0.1に低下した。上方の結膜切開部から角膜中央部まで境界明瞭な異常上皮の進入と血管新生があり,上下の涙小管が閉塞していた。TS-1®による角結膜上皮障害と診断した。人工涙液の頻回点眼を行い,異常上皮は右眼では2か月後,左眼では6か月後に異常上皮の境界線が後退した。通院はその後中断した。結論:白内障手術での上方強角膜切開により輪部構造が障害され,TS-1®の服用が異常上皮進入を助長したと推定される。

放射状角膜切開術後の白内障手術における眼内レンズ度数決定

著者: 森井香織 ,   三浦真二 ,   澤田憲治 ,   大塚齋史 ,   窪谷日奈子 ,   藤原りつ子

ページ範囲:P.1207 - P.1211

要約 目的:近視眼に対して放射状角膜切開術(RK)後の白内障手術における眼内レンズ(IOL)度数決定に際して,術前角膜屈折値および術後屈折誤差を,検討する。症例:両眼RK施行歴のある61歳女性。今回,右眼に白内障手術を施行。IOL度数決定には,眼軸長をIOLマスター®を用い,術前角膜屈折力はPentacam®を用いたTrue Net Power(TNP)法,計算式はSRK/T式を使用した。術後屈折度数誤差は術後等価球面度数と予測屈折度数の差とした。ほかの方法でも術後屈折誤差を推測した。結果:術後屈折誤差は,IOLマスター®が0.25D,ring 3法が−0.72D,TNP法が0.04D,Haigis-L式が−2.49Dであった。結論:RK術後の眼内レンズ度数決定は,TNP法とSRK/T式を用いることで,屈折誤差が減少した。

白内障手術翌日に後極部網膜剝離をきたした網膜色素上皮変性の1例

著者: 中沢陽子 ,   服部知明 ,   伊藤祐也 ,   坂本真帆

ページ範囲:P.1213 - P.1218

要約 目的:白内障手術の翌日に網膜剝離が生じた症例の報告。症例:両眼の後極部に色素沈着がある79歳女性が,右眼に白内障手術を受けた。手術の翌日に後極部の網膜剝離が生じ,視力は術前の0.6が0.08に低下した。剝離の高さは約700μmで,感覚網膜は色素沈着域で色素上皮と癒着し,造影検査で同部に脈絡膜循環障害があった。経過観察のみで3か月後に視力は0.7に回復した。1年後に左眼の白内障手術を2か月間プロスタグランジン剤を投与した後に行い,術中術後に問題はなかった。結論:眼底に色素沈着がある症例には,脈絡膜循環と網膜色素上皮機能の障害を伴っている可能性があり,白内障手術を行う際には,術前に造影検査を用いた評価をすることが勧められる。

米沢市立病院における裂孔原性網膜剝離に対する初回硝子体手術と強膜バックルの比較

著者: 髙宮美智子 ,   佐藤憲夫 ,   平田勲 ,   梅津由子 ,   庄司賢二 ,   大西正一 ,   桑島一郎

ページ範囲:P.1219 - P.1223

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に対する初回手術としての硝子体手術と強膜バックルの成績の比較。対象と方法:2013年までの5年間に裂孔原性網膜剝離に対して手術を行った55例55眼を対象とした。35例には硝子体手術,20例には強膜バックルを行った。結果:初回復位は,硝子体手術群では27眼(77%),強膜バックル群では17眼(85%)で得られ,最終的には全例が復位した。硝子体手術を行った症例には,網膜全剝離,大きな裂孔,多発裂孔,増殖硝子体網膜症B以上が多かった。強膜バックルを行った症例には,小さな裂孔と網膜剝離の範囲が1象限程度であるものが多かった。結論:裂孔原性網膜剝離に対する初回手術では,術式の選択が復位率を高くするためには必要である。

MPS2を用いた対照眼と中心性漿液性網脈絡膜症における黄斑色素光学密度の検討

著者: 楯日出雄 ,   笹川幸映 ,   河端陽子 ,   石田純菜 ,   真鍋麻実 ,   伊田宜史

ページ範囲:P.1225 - P.1231

要約 目的:黄斑色素スクリーナー(MPS2)で測定した健常眼と中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)の黄斑色素光学密度の報告。対象と方法:CSCのある16例16眼を対象とした。男性14例,女性2例で,平均年齢は55歳であった。CSCがない僚眼16眼と,健常な127例231眼の計247眼を対照とした。結果:対照眼での黄斑色素光学密度は,平均0.64±0.14で,年齢と屈折値には相関がなく,女性よりも男性が高かった(p<0.05)。CSCの罹患眼での黄斑色素光学密度は,中心窩網膜厚と正の相関があり(R2=0.53),中心窩網膜厚が薄いほど黄斑色素光学密度が低下した。結論:健常眼での黄斑色素光学密度は,年齢とは相関しなかった。CSC眼での黄斑色素光学密度は,対照眼または僚眼よりも有意に低く,慢性化したCSC眼でこの傾向が顕著であった。

神経線維腫症1型での脈絡膜光干渉断層計像

著者: 居明香 ,   河野剛也 ,   安宅伸介 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1233 - P.1238

要約 目的:神経線維腫症1型の2症例4眼でのswept source光干渉断層計(OCT)による脈絡膜の所見の報告。症例:1例は15歳女性,他の1例は18歳男性で,いずれも神経線維腫症1型として小児科から紹介された。両症例とも視力は良好で,両眼にLisch結節のみがあった。近赤外光による走査型レーザー検眼鏡で,高輝度の脈絡膜病変が散在していた。Swept source OCTで,これに一致する脈絡膜部位に高反射があった。結論:神経線維腫症1型は発生学的に神経堤に由来する細胞の発達異常で,脈絡膜にはメラニン色素細胞の増殖があることから,OCTによる高信号は,これら脈絡膜間質を構成する細胞の増殖部位に相当すると考えられる。

IFN治療中に黄斑部漿液性網膜剝離を生じた2例

著者: 武田美佐 ,   林しの ,   木下導代 ,   柴田啓志 ,   掘田芙美香 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.1239 - P.1245

要約 目的:慢性C型肝炎に対するインターフェロン(IFN)治療中に,黄斑部に漿液性網膜剝離が生じた2症例の報告。症例:1例は56歳男性,他の1例は41歳男性で,1例はIFN 2剤併用,他の1例は3剤併用による治療を受けていた。1例は投与49日目に左眼,6日後に右眼に漿液性網膜剝離が生じ,光干渉断層計(OCT)でこれに相当する所見があった。IFNを中止し,5週後に寛解した。他の1例はIFN開始から61日目に両眼の視力が低下し,黄斑部に漿液性網膜剝離があり,OCTでこれに相当する所見があった。治療を中止し,4週後に寛解した。両症例とも,蛍光眼底造影で蛍光漏出はなかった。結論:IFNの全身投与が黄斑部の漿液性網膜剝離の誘因であったと推定される。両症例とも,IFNの投与中止で寛解した。

メトトレキサートの両眼硝子体内注射と予防的髄腔内化学療法を行った眼に初発した悪性リンパ腫の1例

著者: 八木陽子 ,   西出忠之 ,   早川夏貴 ,   澁谷悦子 ,   木村育子 ,   山根敬浩 ,   石戸みづほ ,   國分沙帆 ,   安村玲子 ,   中村聡 ,   石原麻美 ,   水木信久

ページ範囲:P.1247 - P.1251

要約 目的:両眼の眼内の悪性リンパ腫に対し,メトトレキサートの硝子体注射と予防的髄腔内注射を行った症例の報告。症例:69歳男性が1か月前からの両眼の視力障害で受診した。所見と経過:矯正視力は右0.7,左0.4で,前房には炎症の所見はなく,両眼に硝子体混濁があった。眼底には著変はなかった。2か月後の左眼の硝子体生検でインターロイキン(IL-)6とIL-10の上昇があり,さらに2か月後の右眼硝子体生検で悪性リンパ腫の診断が確定した。両眼にそれぞれ6回のメトトレキサート硝子体注入を行った。中枢神経と脊髄腔に悪性リンパ腫の所見はなかったが,メトトレキサートの髄腔内投与を行った。前房水の生検でIL-10が測定限界以下に低下していた。以後7か月後の現在まで経過は良好である。結論:眼内に原発した悪性リンパ腫に対し,メトトレキサートの硝子体注射と髄腔内注射を行い,診断から1年間の経過が良好であった。

長期にわたり多彩な眼症状が出現したIgG4関連疾患の1例

著者: 江川麻理子 ,   井上昌幸 ,   林勇樹 ,   三田村佳典 ,   岸潤

ページ範囲:P.1253 - P.1258

要約 目的:視神経炎と虹彩炎が先行し,涙腺の腫脹を契機にIgG4関連疾患(IgG4RD)と診断された症例を報告する。症例と経過:63歳男性が,左眼の球後視神経炎として紹介受診した。視力は右1.5,左0.02であった。両眼に虹彩炎の所見があり,眼底には異常がなかった。ステロイドパルス療法で軽快した。以後2回の再発があったが,ステロイドの全身投与で寛解した。初診から2年後に両眼の虹彩炎と上強膜炎が頻発し,その2年後に両側の上眼瞼腫脹と涙腺部の腫瘤が生じた。ガドリ二ウム造影磁気共鳴画像検査で,涙腺炎,下垂体炎,肥厚性硬膜炎があり,さらに涙液腺腫脹,大動脈周囲肥厚,縦隔リンパ節腫大などが発見された。その5か月後にIgG4値が上昇し,中枢性尿崩症が生じた。プレドニゾロンの全身投与で寛解した。結論:本症例での球後視神経炎視神経炎と虹彩炎は,IgG4RDであった可能性がある。

今月の表紙

樹氷状網膜血管炎

著者: 西山真世 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1126 - P.1126

 症例は35歳,男性。右眼の急な視力低下を自覚し,近医を受診。右眼網膜中心静脈閉塞症を疑われ当科紹介となった。

 初診時視力は右(0.7),左(1.5)であった。検眼上,右眼には,前房炎症と,主要網膜静脈が広範囲にわたり高度に樹枝状に白鞘化している所見が認められ,右眼樹氷状網膜血管炎と診断した。その後,ステロイド薬の内服によって,前房炎症と網膜静脈の樹氷状変化は著明に改善したが,受診17日後に,黄斑浮腫を伴う虚血型の網膜中心静脈閉塞症を併発し,右眼視力は0.5pに低下した。黄斑浮腫の治療と血管新生緑内障の発症予防の目的で,その後,アフリベルセプトの硝子体注射と,汎網膜光凝固術を施行した。初診8か月後の現在,右眼視力は1.5と良好,眼圧もmiddleteenを維持している。検眼上,炎症所見,網膜・虹彩新生血管,黄斑浮腫も認めておらず経過良好である。

連載 今月の話題

黄斑と硝子体の新しい理解

著者: 岸章治

ページ範囲:P.1127 - P.1133

 後部硝子体皮質前ポケット(posterior precortical vitreous pocket:硝子体ポケット)の発見は,網膜硝子体界面病変の概念に変革をもたらした1,2)。硝子体ポケットは透明であるため,臨床の現場での観察は困難であった。2012年に登場したswept source optical coherence tomography(SS-OCT)により硝子体ポケットの全貌が見えるようになり,黄斑と硝子体の理解が急速に進んだ。本稿では,筆者らが最近まとめた論文を概説し今後の展望を述べる。

知っておきたい小児眼科の最新知識・8

知らないと困る小児角結膜疾患

著者: 外園千恵

ページ範囲:P.1136 - P.1141

point

1)小児の先天角膜混濁は緑内障を合併しやすい

2)腫瘍性疾患は機能面,整容面の両面から治療を考える

3)小学校高学年以上のアレルギー疾患では自己管理の指導も大切である

4)角膜ヘルペス,角膜フリクテンは再発させないよう治療を行う

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第12回

拡大眉毛下皮膚切除術—“自然”な上まぶたのたるみ取り

著者: 一瀬晃洋

ページ範囲:P.1142 - P.1146

はじめに

 上眼瞼除皺といえば,重瞼線付近の皮膚の切除が一般的でしたが,近年では眉毛下皮膚切除術を第一選択として患者さんに推奨しています。眉毛下の長い傷跡は目立つイメージがありますが,上手に手術を行うと傷跡は思いのほか目立たず,不自然な二重ができたりして困ることが少ない術式といえます。開瞼も楽になるため患者さんの満足度が高い方法なのですが,単に皮膚を切り取るだけの術式ではなく,デザインや切開・縫合法など失敗しないためのコツがいくつかあります。本稿では,拡大眉毛下皮膚切除術の術式や合併症の対策などを解説します。

書評

《眼科臨床エキスパート》眼感染症診療マニュアル

著者: 大野重昭

ページ範囲:P.1174 - P.1174

 この度,医学書院の《眼科臨床エキスパート》シリーズの一冊として,眼感染症診療のための究極の実践書である『眼感染症診療マニュアル』が発刊された。

 本書は,長年にわたり眼感染症の基礎および臨床に熱心に従事してこられた総合新川橋病院眼科部長の薄井紀夫先生,および東京医科大学眼科学分野教授の後藤浩先生が編集された眼感染症に関する新しいバイブルである。薄井先生,後藤先生は眼感染症学のリーダーとして世界的に活躍しておられるだけではなく,感染症全般に独自の深い見識をお持ちの専門家である。このお二人の下に,わが国を代表する41人の眼感染症専門家が集い,最新の眼感染症診療マニュアルを完成させた。これは第一線の眼科医だけではなく,眼科医療従事者,さらには研修医や医学生にとっても必読の貴重な書物である。

帰してはいけない小児外来患者

著者: 五十嵐隆

ページ範囲:P.1186 - P.1186

 吉田兼好の「命長ければ恥多し」の言葉どおり,小児科医は誰しも臨床経験が長いほど臨床現場で「痛い」思いをした経験を持つ。私自身もプロとして恥ずかしいことではあるが,救急外来など同僚・先輩医師からの支援がなく,臨床検査も十分にできない状況にあり,しかも深夜で自分の体調が必ずしも万全ではない中で短い時間内に決断を下さなくてはならないときに,「痛い」思い,すなわち診断ミスをしたことがあった。かつての大学や病院の医局などの深い人間関係が結べた職場では,上司や同僚から心筋炎,イレウス,気道異物,白血病などの初期診療時の臨床上の注意点やこつを日々耳学問として聞く機会があり,それが救急外来などの臨床現場で大いに役立ったと感謝している。質の高い医療情報を獲得する手段が今よりも少なかった昔は,そのようにして貴重な臨床上の知恵が次世代に伝授されていたのだと思う。

 今回,崎山弘先生と本田雅敬先生が編集された『帰してはいけない小児外来患者』を拝読した。本書では,見逃してはならない小児の重症疾患の実例が多岐にわたり丁寧に解説されている。初期診断時に重症疾患をどうして正しく診断できなかったか,そして,どのようなちょっとした契機により重症疾患の診断に気付かされたかが手に取るようにわかる。読んでいる途中で,昔のように自分が医局のこたつで上司や同僚から臨床上の貴重な知恵や注意点を伝授されている気がしてきた。

やさしい目で きびしい目で・188

夏山診療所にて

著者: 本田美樹

ページ範囲:P.1259 - P.1259

 夏休みを山で過ごされる方も多いと思います。夏山診療所は主に各大学医学部山岳部によって行われているボランティア活動であり,北アルプスを中心に全国20箇所以上にのぼっています。

 私が所属している順天堂大学は,長野県安曇野市,標高2,763mの燕岳の頂上稜線と合戦尾根との交点,標高2,712mにある燕山荘に診療所を開設しております。北アルプスの山小屋のなかでも有数の歴史があり,毎年多くの登山者が訪れる所です。小屋の隣にはテント場もあり,夏は色とりどりのテントが張られ小屋の周りを彩ります。燕山荘から望む燕岳の姿はとても美しく,花崗岩でできた白い山肌と独特の山体は,訪れた登山者を魅了します。また高山植物の女王として知られるコマクサの群生地としても有名で,周囲のハイマツ帯には,国の特別天然記念物に指定されたライチョウが生息しており,山頂付近は特別地区に指定されています。

臨床報告

増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術10年後視力予後因子の統計学的検討

著者: 佐々由季生 ,   秋山雅人 ,   吉田茂生 ,   佐伯有祐 ,   高橋理恵 ,   光武智子 ,   向野利寛

ページ範囲:P.1269 - P.1275

要約 目的:硝子体手術を行った増殖糖尿病網膜症の10年後視力の報告。対象と方法:2002年までに初回硝子体手術を行った増殖糖尿病網膜症460例512眼のうち,10年以上の術後経過が追跡できた73例109眼を対象とした。男性62眼,女性47眼で,手術時の年齢は23〜71歳,平均51歳であった。2眼を除く107眼は2型糖尿病であった。視力はlogMARとして評価した。結果:平均視力は術後6か月では0.34,10年後では0.22であり,有意差がなかった。術後に黄斑牽引または網膜剝離が生じた症例と,複数回手術の症例では10年後視力が低下した。虚血性心疾患の既往がある15眼では,6か月後の平均視力が0.23で,10年後では0.02に低下した。脳梗塞が生じた6眼では,6か月後の平均視力が0.07で,10年後では0.06であった。結論:硝子体手術を行った増殖糖尿病網膜症の10年後の視力不良因子は,黄斑牽引,網膜剝離,複数回の手術,虚血性心疾患,脳梗塞であった。

カラー臨床報告

重症アトピー性皮膚炎患者に発症した結膜扁平上皮癌の1症例

著者: 李亜美 ,   冨田茂樹 ,   海老原伸行

ページ範囲:P.1263 - P.1267

要約 目的:アトピー性角結膜炎に対してタクロリムスを点眼中に増悪した結膜扁平上皮癌の1例の報告。症例:52歳男性が右眼の角膜ヘルペスの疑いで紹介受診した。重症のアトピー性皮膚炎があった。3年前に右眼に白内障手術を受けた。所見:アトピー性角結膜炎を疑う所見が右眼にあった。0.1%タクロリムス点眼で18か月後に角膜びらんが軽快した。さらに6か月後に球結膜の肥厚と色素沈着が生じ,生検で扁平上皮癌と診断された。IFNα-2bの点眼で寛解した。結論:重篤なアトピー性角結膜炎が,結膜扁平上皮癌の危険因子である可能性がある。タクロリムス点眼による腫瘍の発症または進展については不明である。

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欧文目次

ページ範囲:P.1124 - P.1125

第33回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1180 - P.1180

べらどんな アニリン

著者:

ページ範囲:P.1200 - P.1200

 組織学と細菌学は,19世紀の後半,特に1870年以降に大きく発展した。これには,ヘマトキシリンとエオジンで代表される色素の合成が可能になった結果でもある。

 ヘマトキシリンは紫檀(シタン)から抽出された色素であり,エオジンとともにアニリンから合成されるようになった。どちらも1860年代のことで,日本では,幕末から明治維新に相当する。

ことば・ことば・ことば 遠い

ページ範囲:P.1262 - P.1262

 空想科学小説(science fiction:SF)という文学があります。日本でこの分野を代表する作家は小松左京(1931-2011)で,日本列島が海底に沈む『日本沈没』(1973)がその代表作です。なお,これには「第二部」があり,2006年に出版されました。

 SFの創始者は,フランスのJules Verne(1828-1905)だとされています。『海底2万浬旅行』(1870)や『80日世界一周』(1873)が有名で,これらが明治時代のはじめに書かれたとはとても思えません。星 新一(1926-1997)と半村 良(1933-2002)も小松左京の仲間で,よく活躍しました。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1276 - P.1286

希望掲載欄

ページ範囲:P.1290 - P.1290

アンケート用紙

ページ範囲:P.1292 - P.1292

次号予告

ページ範囲:P.1293 - P.1293

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1294 - P.1294

 2015年の梅雨の最中に,本稿を執筆しております。当地鹿児島は,さすがに南国だけあって雨の強さが違います。豪雨に慣れていない地方では,簡単に洪水になると思われるほどの激しさです。しかし,梅雨が明ければ,一転して厳しい夏が訪れます。極端から極端に振れるのは日本人気質の特徴とされていますが,このような気候も関係あるのかもしれません。

 さて,今月の話題は,岸章治先生の「黄斑と硝子体の新しい理解」についてです。岸先生は,世界で初めて現在の形の黄斑ポケットを発見された研究者です。この概念は,網膜硝子体疾患の理解に大きく寄与し,90年代に大きく発展した硝子体手術の方法論に大きく影響を与えました。そして,2000年代になると,光干渉断層計の発達により,岸先生の正しさが次々と証明されました。今回の論文は,その総まとめともいえるものであり,特にSwept Souse光干渉断層計によって得られた最新の知見がわかりやすく解説されています。1990年以前の硝子体の知識は,主に剖検眼の観察によって得られたものであり,必ずしも病態と一致するものではありませんでしたが,岸先生の観察は臨床所見と見事に一致するものです。一般に,大成した研究には,適切な時期に適切な環境が整うことが求められますが,岸先生の硝子体研究は,研究者の興味,能力,環境の全てが完璧に揃った極めて稀有な例であり,今後も長く残るものです。そのことを理解してご一読いただくと,本論文がいっそう味わい深いものになると思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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