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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科69巻9号

2015年09月発行

雑誌目次

特集 第68回日本臨床眼科学会講演集(7) 原著

造血器悪性疾患に合併した眼底病変に対する包括的感染症PCRの有用性

著者: 尾碕憲子 ,   川口龍史 ,   村上喜三雄 ,   鴨居功樹 ,   高瀬博 ,   杉田直

ページ範囲:P.1323 - P.1327

要約 目的:造血器の悪性疾患に関連した眼底病変に対し,前房水のpolymerase chain reaction(PCR)を行って鑑別診断をした2症例の報告。症例:それぞれ47歳と33歳の男性で,1例には成人T細胞白血球リンパ腫(ATL),ほかの1例には急性骨髄性白血病があった。1例には片眼のサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎が疑われ,ほかの1例には片眼の網膜出血と白斑が生じた。前房水のPCRを行い,1例ではヘルペスウイルス属がすべて陰性でATLの眼内浸潤と診断した。ほかの1例ではCMVが検出され,ガンシクロビルの硝子体注射で軽快した。結論:造血器の悪性疾患に関連した眼底病変が生じた2症例に対し,前房水のPCRが鑑別診断に有用であった。

涙管チューブ留置術を施行した涙囊炎症例の経過

著者: 五嶋摩理 ,   齋藤勇祐 ,   大熊博子 ,   近藤亜紀 ,   三村達哉 ,   亀井裕子 ,   山本英理華 ,   尾崎憲子 ,   田中裕一朗 ,   川口龍史 ,   村上喜三雄 ,   松原正男

ページ範囲:P.1329 - P.1332

要約 目的:慢性涙囊炎に対するチューブ留置術後の経過と成績に影響する因子の報告。対象と方法:慢性涙囊炎に対してチューブを留置した22例24側を対象とした。涙道内視鏡下で閉塞部の同定と穿破を行い,涙囊を洗浄した。男性4例4側,女性18例20側で,年齢は27〜85歳,平均65歳である。定期的な通水のみで流涙と眼脂が少ない症例を成功例,流涙が軽減しても眼脂が残り,涙囊鼻腔吻合術を希望した症例を不成功例とした。チューブ抜去後1年以上の経過を観察した。結果:成功例は7例7側で,16例17側が不成功例であった。不成功例では鼻涙管下部の閉塞が有意に多かった。不成功例では涙囊鼻腔吻合術を9例10側に行い,全例で流涙と眼脂が消失した。結論:慢性涙囊炎に対するチューブ留置術で,30%の症例で流涙と眼脂が消失した。不成功例では鼻涙管下部の閉塞が有意に多かった。

眼窩蜂窩織炎が疑われた眼球癆に発症した低分化癌の1例

著者: 坂本晋一 ,   新井悠介 ,   小幡博人

ページ範囲:P.1333 - P.1336

要約 目的:緑内障で眼球癆になった眼球に低分化癌が生じた症例の報告。症例:78歳男性が右上眼瞼の腫脹で紹介受診した。10年前に両眼の偽落屑緑内障と診断された。右眼に複数回の手術と毛様体光凝固を受け,眼球癆となって失明した。1か月前から右上眼瞼の腫脹があり,眼窩蜂窩識炎が疑われた。左眼は末期緑内障として経過観察中であった。所見:矯正視力は右測定不能,左0.02で,触診で右上眼瞼が固く触れた。CTで38×21mmの腫瘤が右眼瞼から眼窩にあった。経皮的に生検を行い,低分化癌と診断された。癌の発生母地は不明であったが,全身検索の結果,眼部原発と推定された。放射線照射で右眼の腫瘤は縮小した。4か月後に頸部リンパ節転移が生じ,放射線治療を行った。以後6か月後の現在まで,再発または転移はない。結論:失明眼であっても悪性腫瘍が生じる可能性があることを本症例は示している。

重症未熟児網膜症に対する網膜光凝固術単独療法と抗VEGF併用療法の成績

著者: 水澤裕太郎 ,   西智 ,   治村寛信 ,   中尾重哉 ,   長谷川泰司 ,   山下真理子 ,   峯正志 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.1337 - P.1341

要約 目的:過去5年間に治療した重症未熟児網膜症の報告。対象と方法:2014年3月までの5年間に当院の新生児集中治療部(NICU)で加療した重症未熟児網膜症の新生児14例を対象とした。出生時の在胎週数は22〜26週,平均24週であり,出生時体重は425〜978g,平均660gであった。全例に網膜光凝固を行い,2013年4月以降に出生した5症例には,光凝固と同時またはこれに先行して抗VEGF薬を硝子体内に注入した。網膜剝離が発症した4例には硝子体手術を行った。結果:脳室内出血が6例,動脈管開存症が4例にあり,入院中に回腸穿孔が1例に発症した。最終的な網膜症は11例が瘢痕期1度,3例が2度であった。瘢痕期2度の症例はすべて光凝固のみが行われた例であった。硝子体手術が行われた4例はすべて光凝固のみが行われ,抗VEGF薬が導入される以前の症例であった。瘢痕期分類は抗VEGF薬の使用の有無と相関しなかった。結論:光凝固が行われた重症未熟児網膜症の症例では,抗VEGF薬の硝子体内注入により,牽引性網膜剝離の発症がなく,硝子体手術を必要としなかった。

エルロチニブ塩酸塩(タルセバ®)内服中にみられた角膜潰瘍

著者: 浜野茂樹 ,   清水聡子 ,   溝田淳

ページ範囲:P.1343 - P.1345

要約 背景:エルロチニブ塩酸塩(タルセバ®)は細胞増殖を抑制する薬物で,切除が不能な肺癌などに経口投与される。目的:エルロチニブ塩酸塩の服用中に角膜潰瘍,捷毛の長毛化や乱生が生じた症例の報告。症例:87歳男性が両眼の角膜潰瘍で紹介受診した。肺腺癌に対してエルロチニブ塩酸塩を6か月前から内服中であった。所見:両眼に角膜潰瘍と,捷毛の長生化と乱生があった。オフロキサシン眼軟膏とレボフロキサシン点眼は奏効せず,初診の5日後にエルロチニブ塩酸塩の服用を中止した。その23日後に角膜潰瘍は治癒した。以後9か月後の現在まで経過は良好である。結論:本症例の角膜潰瘍は,エルロチニブ塩酸塩による角膜上皮障害と捷毛乱生とが原因であったと推定される。

妊娠後のインスリン強化療法により糖尿病網膜症が発症増悪したが予後良好であった1症例

著者: 森秀夫 ,   福田宏美 ,   細井雅之 ,   福本まりこ

ページ範囲:P.1347 - P.1351

要約 目的:糖尿病合併妊娠の血糖降下治療後に増殖糖尿病網膜症を発症したが,光凝固をせずに予後良好であった1例の報告。症例:10歳で2型糖尿病を発症し,20年間血糖高値が続いた。30歳で妊娠し,第8週からインスリン強化療法を開始すると網膜症が発症して増悪し,両眼の軽い硝子体出血(VH)に至った。治療5か月後から網膜症は軽快に転じ,右眼は順調に経過した。治療7か月後での出産後左眼に著明なVHを生じ,10か月後の手術時に乳頭上新生血管膜を認め剝離したが,網膜自体は良好で光凝固は行わなかった。最終視力は両眼とも0.9であった。結論:糖尿病合併妊娠において,血糖是正を契機に網膜症が発症しVHにまで至った場合でも,網膜症が自然寛解する場合がある。

Laser in situ keratomileusis術後の裂孔原性網膜剝離の検討

著者: 都筑茜 ,   渡辺朗 ,   月花環 ,   新井香太 ,   常岡寬

ページ範囲:P.1353 - P.1356

要約 目的:屈折矯正手術としてLASIKが行われた後に発症した裂孔原性網膜剝離の特徴と治療成績の報告。対象と方法:2013年までの5年間にLASIKの後に裂孔原性網膜剝離が生じた12例12眼を対象とした。男性9例,女性3例で,年齢は31〜55歳,平均44歳である。眼軸長は25.98〜29.59mm,平均27.72mmで,LASIKから網膜剝離が発症するまでの期間は36〜180か月,平均71か月であった。網膜剝離に対して,強膜内陥術を5例,輪状締結術を1眼,硝子体手術を6眼に行った。結果:網膜裂隙の形と位置については,通常の裂孔原性網膜剝離と比べて,格別の差はなかった。初回手術で網膜の復位が11眼(92%)で得られ,最終的に全12眼で復位が得られた。LASIKでの角膜フラップと関連した合併症はなかった。手術前後の屈折変化の平均は,強膜内陥術で+0.16D,硝子体手術で−1.75D,硝子体手術と水晶体再建術を併用した4眼で+0.375Dであった。Haigis-L式での平均屈折誤差は0.51±0.57Dであった。結論:LASIK後に発症した裂孔原性網膜剝離は,通常の網膜剝離と同じ特徴を示し,手術術式も同様でよい。

Unilateral acute idiopathic maculopathyの1例

著者: 薫一帆 ,   北原由紀 ,   中山滋章 ,   秋庭幹生 ,   小早川信一郎 ,   高橋浩

ページ範囲:P.1357 - P.1362

要約 背景:片側性急性特発性黄斑症(unilateral acute idiopathic maculopathy:UAIM)は,感冒様の症状に続き,健常な成人の片眼に急激な視力低下が生じ,黄斑部に黄白色の滲出斑が現れる疾患である。目的:UAIMと推定される1症例の報告。症例:38歳男性が左眼の急激な視力低下で紹介受診した。感冒様の症状はなかった。視力は右1.5,左0.15で,左眼の中心窩下に1.5乳頭径大の黄白色の病巣があった。光干渉断層計で網膜色素上皮の不整とIS/OS線の消失があった。フルオレセイン蛍光眼底造影で,早期では不均一な過蛍光,後期には組織染があった。UAIMと診断した。視力は1か月後に0.5,2か月後に0.9,4か月後に1.2に自然寛解した。結論:急激な黄斑部の黄白色の滲出斑を呈する病変では,感冒様症状が先行しなくても,UAIMである可能性がある。

心病変を合併し,多発する脈絡膜肉芽腫がみられたサルコイドーシスの1例

著者: 脇屋匡樹 ,   石原麻美 ,   澁谷悦子 ,   山根敬浩 ,   木村育子 ,   石戸みづほ ,   国府沙帆 ,   水木信久

ページ範囲:P.1363 - P.1368

要約 目的:肺と心病変が併発し,多発性の脈絡膜肉芽腫が両眼に生じたサルコイドーシスの1症例の報告。症例:80歳女性が9か月前からのぶどう膜炎の精査のため紹介受診した。2年前に高度の房室ブロックに対してペースメーカーの植え込みを受けていた。所見:視力は良好で,右眼に隅角の部分癒着,両眼に硝子体混濁があった。両眼の網膜と網膜下に多発する白色の結節があった。光干渉断層計で網膜内病変と脈絡膜の隆起性病変があった。全身検査でサルコイドーシスと診断された。心病変に対してプレドニゾロン内服を行い,脈絡膜と網膜の肉芽腫は3か月後に退縮した。結論:高度の房室ブロックがある高齢女性に脈絡膜の隆起性病変があるときには,サルコイドーシスの可能性がある。

栃木県内で経験した東洋眼虫症の1例

著者: 武村千紘 ,   鈴木重成 ,   和泉田真作 ,   桐木雅史 ,   金子禮子 ,   妹尾正

ページ範囲:P.1369 - P.1372

要約 背景:東洋眼虫Thelazia callipaedaは,ヒトと野生の哺乳類を宿主とする人畜共通の寄生虫であり,涙囊または結膜囊に寄生する。中間宿主はショウジョウバエ科のメマトイで,涙液や眼脂を舐めるときに幼虫を摂取する。東洋眼虫による眼感染は,日本では九州や西日本などの温暖な地域に多かったが,近年では北上する傾向がある。目的:栃木県内で発症した東洋眼虫による結膜感染例の報告。症例:栃木県に住む63歳男性が1か月前からの左眼の霧視と異物感で紹介受診した。自覚症状が生じる2週間前に,公園でハエに顔面周囲を執拗にまとわりつかれた。前医で虫体が左眼結膜に1隻発見され,除去された。患者の趣味は昆虫の写真撮影であった。所見:摘出された虫体は,その形態的特徴から東洋眼虫の雄と判定された。虫体の摘出後,自覚症状は消失した。結論:栃木県で東洋眼虫が発見されたことは,従来の報告にはない。温暖化のためにメマトイの活動期間が長くなったことがその理由であると推定される。

胸腺腫に伴う悪性腫瘍随伴網膜症の1例

著者: 小林奈美江 ,   小林健太郎 ,   小野田貴嗣 ,   土屋真理夫 ,   安達惠美子

ページ範囲:P.1373 - P.1378

要約 目的:黄斑浮腫が併発した胸腺腫の症例の報告。症例:41歳男性が4か月前からの両眼の視力障害で受診した。その3か月前に原因不明の微熱があった。所見:裸眼視力は左右眼とも1.2で,両眼の前房と硝子体に軽度の混濁があった。眼底は正常所見で,視野の求心狭窄があった。蛍光眼底造影で網膜色素変性に類似する所見があった。網膜電図はほとんど消失していた。全身検査で抗recoverin抗体が陽性であり,陽電子放射断層撮影(PET)で胸腺腫があった。悪性腫瘍随伴網膜症と診断し,ステロイドパルス療法とトリアムシノロンのテノン囊下注射を行ったが改善せず,視野狭窄はさらに進行した。結論:胸腺腫により悪性腫瘍随伴網膜症として網膜色素変性に類似する所見が生じることがある。

視力障害と嚥下障害を併発した肥厚性硬膜炎の1例

著者: 徳永義郎 ,   薄井隆宏 ,   高橋春男

ページ範囲:P.1379 - P.1382

要約 目的:視力障害と嚥下障害を初発症状とした肥厚性硬膜炎の症例の報告。症例:77歳男性が複視を主訴として受診した。矯正視力は左右眼とも1.2で,左眼の外斜視があった。そのほかに眼球運動を含めて異常所見はなく,頭部のMRIでも病的所見はなかった。その後左眼視力が徐々に低下し,2か月後には光覚弁になった。その翌日から嚥下障害と嗄声が出現した。頭部の造影MRIで大脳左半球の肥厚性硬膜炎が疑われ,ステロイドパルス療法を行った。嚥下障害は改善し,左眼視力は0.4になった。その後プレドニゾロンで後療法を行ったが,6か月後に感染性脳症が発症し,不帰の転帰をとった。結論:肥厚性硬膜炎が視力と嚥下障害を初発症状として発症することがある。本例では頭部の造影MRIが診断に有用であった。

モノビジョン矯正でソフトコンタクトレンズの使用度数が漸減し眼精疲労が改善した3症例

著者: 有賀義之 ,   梶田雅義

ページ範囲:P.1383 - P.1387

要約 目的:ソフトコンタクトレンズ(SCL)の矯正度数が不適切と疑われる3症例に対してモノビジョン矯正を行い,眼精疲労が改善し,SCL矯正度数を適正度数に調整できた報告。症例:症例1は26歳女性。主訴は眼の疲れ,頭痛,吐き気。症例2は33歳女性。主訴は眼の疲れで,SCL装用時に特に感じる。症例3は32歳女性。主訴は眼の奥の痛み,肩こり,頭痛。所見:今までバイビジョン矯正であった3症例に対して,モノビジョン矯正を行ったところ,適正なSCLの度数に調整することができ,眼精疲労も軽快した。結論:モノビジョン矯正は,SCL度数が不適切と疑われる眼精疲労の症例に対する,度数調整の手段として有効である可能性がある。

他覚的屈折度(等価球面度数)を40年以上追えた180眼の屈折度の変化

著者: 河鍋楠美

ページ範囲:P.1389 - P.1393

要約 目的:他覚的屈折度の変化を180眼について40年以上追跡した結果の報告。対象と方法:他覚的屈折度の変化を180眼について検索した。初診時の年齢は,53眼が10歳未満,58眼が10歳以上20歳未満,14眼が30歳未満,40眼が40歳未満,15眼が50歳未満であった。全例について,初診から40年以上の屈折度の経過を追った。屈折の測定には初診時の年齢に応じて調節麻酔薬を点眼し,3種類の手動または自動屈折計を用い,等価球面度数として解析した。結果:180眼での40年間の屈折は,31眼(17%)で変化がなく,50眼(28%)で遠視が強くなり,99眼(55%)で近視が強くなった。このうち62眼では屈折が近視側から遠視側に変化し,この変化は35〜45歳の間で顕著であった。結論:加齢に伴う屈折の変化は,近視または遠視の進行のほかに,近視側から遠視側に進むことがあり,この傾向は40歳前後で顕著であった。

視神経乳頭腫脹を契機として発見された肺腺癌の1例

著者: 金井友範 ,   西崎雅也 ,   山田裕子 ,   金森斎修 ,   田邊益美 ,   金森章泰 ,   中村誠

ページ範囲:P.1395 - P.1399

要約 目的:片眼の視野障害を初発症状とした肺腺癌の視神経乳頭への転移例の報告。症例:54歳男性が3か月前からの左眼視野異常を主訴として受診した。所見:矯正視力は右1.2,左1.0で,左眼に乳頭腫脹と上方の水平半盲様の視野欠損があった。造影MRI検査で頭蓋内に異常はなかった。ステロイドパルス療法で乳頭腫脹と視野に変化がなかった。悪性腫瘍の転移を疑い,全身検索を行ったところ,上皮成長因子受容体遺伝子変異を伴った肺腺癌が判明した。分子標的薬のゲフィチニブ(イレッサ®)の全身投与で原発巣と乳頭腫脹は速やかに縮小した。結論:本症例は,片眼の視野障害を初発症状とした肺腺癌の視神経乳頭への転移例であった。分子標的薬は視神経乳頭転移にも奏効した。

オフィスワーカーの自発性瞬目の日内変動についての検討

著者: 山中行人 ,   福岡秀記 ,   渡辺彰英 ,   鈴木一隆 ,   豊田晴義 ,   袴田直俊 ,   木下茂

ページ範囲:P.1401 - P.1405

要約 目的:オフィスワーカーの自発性瞬目の日内変動を検討すること。対象と方法:対象は白内障以外の眼科疾患および眼科手術の既往のないオフィスワーカー6例12眼(男性3例女性3例,平均年齢59.0±4.8歳)である。瞬目高速解析装置を用いて連続5日間,1日3回(10時,14時,16時)の両眼の自発性瞬目を測定した。結果:開閉瞼時とも上眼瞼移動距離,瞬目期間,最大速度,瞬目回数のいずれも10時,14時,16時の各群間で日内変動を認めなかった。結論:オフィスワーカーの自発性瞬目には,有意な日内変動がなかった。

今月の表紙

ガス白内障

著者: 今井大輔 ,   山本素士 ,   濵祥代 ,   喜多美穂里 ,   中澤満

ページ範囲:P.1300 - P.1300

 症例は15歳,男児。軟式野球の打球を捕球した際に右眼にあたり,当院へ紹介され受診となった。

 初診時視力は右0.04(0.2×−3.25D()cyl−0.75D 170°),左0.15(1.5×−2.25D()cyl−0.75D 180°),眼圧は右14mmHg,左18mmHgであった。右眼前眼部には,外傷性散瞳,隅角の開大と後退,硝子体内には炎症細胞を認めた。眼底には耳下側周辺に3乳頭径大の網膜裂孔,黄斑円孔,黄斑を横切る脈絡膜破裂を認めた。周辺裂孔にレーザー光凝固術を施行し,黄斑円孔は経過観察とした。

連載 今月の話題

スマートフォンを用いた前眼部および眼底撮影

著者: 周藤真 ,   平岡孝浩

ページ範囲:P.1301 - P.1307

 スマートフォンを含むデジタルカメラ機器は小型化,高性能化してきており,画像所見を多く扱う眼科診療においてその利用価値は大きい。近年,スマートフォンを利用した前眼部および眼底撮影に関する報告が増加傾向にあり,臨床応用が進んでいる。本稿では実際の使用方法とコツを紹介する。

知っておきたい小児眼科の最新知識・9

小児の心因性視力障害の診断,治療

著者: 村木早苗

ページ範囲:P.1310 - P.1314

point

1)眼心身症と眼転換症状性神経症に分けられる

2)器質的疾患を常に念頭に置いて診療に当たらなければならない

3)視力検査,視野検査などの自覚的検査で特徴的な結果を示す

4)弱視との鑑別が重要

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第13回

挙筋腱膜フラップを用いた切開式重瞼術—陥凹のない自然な重瞼を目指して

著者: 岩山隆憲 ,   曾我部浩 ,   橋川和信

ページ範囲:P.1316 - P.1321

はじめに

 切開式重瞼術の術後は左右差のないこと,瘢痕が目立たないこと,閉瞼時の不自然な陥凹を生じないこと,重瞼線が消失しないことが重要であると筆者らは考えています。

 切開法による重瞼作成は重瞼作成予定線より尾側の瞼板前組織の除去により,瞼板と皮膚裏面を癒着させ重瞼を作成する腱板固定法1〜3)が最も簡便であり手術時間も短いとされていますが,術後,閉瞼時に重瞼線の頭側と尾側で癒着による不自然な陥凹を生じることがあります。

 瞼板固定法で生じた不自然な陥凹は,時間の経過とともに軽快すると考えている術者もいますが,実際は陥凹の修正目的で来院される患者も多いです。

 昨今,眼瞼下垂症手術時の重瞼作成法として挙筋腱膜前転を併用した術式4)が報告されており,自然な重瞼術として知られています。また,一重瞼の患者は潜在的な眼瞼下垂症であることも多く,挙筋腱膜の前転と重瞼術を同時に行うことにより,開瞼をより大きくする美容外科手術5,6)も報告されています。

 挙筋腱膜を前転させ,その尾側端と重瞼線の皮膚ないし皮下眼輪筋とを縫着し重瞼を作成する方法であるため,挙筋腱膜と重瞼線への連結を重瞼の正常構造にきわめて近く再建することで重瞼を作成しており1),理にかなった方法です。しかし,これらの術式は挙筋腱膜の前転幅が重瞼溝の皮下まで十分到達する長さの線維性組織を得られることが前提であると筆者らは考えています。

 この方法を,下垂が軽度である若年者の厚い瞼に適応させると,挙筋腱膜の前転幅は2〜3mmにもかかわらず,瞼板から皮膚までの厚みがあるため連結に必要な長さを得ることができないことがあります。無理に縫合すると重瞼線の陥凹が強くなり,不自然となります。

 筆者らは患者の瞼の厚さに見合った挙筋腱膜から重瞼線への線維性組織の再構築を行うことが,結果として自然な重瞼を得られるのではないかと考えており,挙筋前転と重瞼術を同時に施行する若年患者に対して,前転させた挙筋腱膜の余剰部分をフラップとして挙上し,皮下線維性組織として重瞼線を作成しています。フラップの長さを変えることで皮下組織の厚い瞼に対しても,閉瞼時に陥凹のない自然な重瞼が得られると考えています。本稿では実際の手術についての考え方と手順を紹介します。

書評

今日から使える医療統計

著者: 小林広幸

ページ範囲:P.1406 - P.1406

 “数式を使わないで直観的に学ぶ”『今日から使える医療統計学ビデオ講座』で,精力的にわかりやすい情報を発信されてきた新谷歩教授の医療統計への慧眼と熱き思いが,単行本として結実し上梓された。基礎および臨床医学研究大国である米国で生物統計学者として20年の豊富なキャリアを重ねてきた著者が,医療統計の重要なテーマに関する極意を例題/具体例を活用し読み物形式で伝授してくれる。これまで医療統計の本に構えてしまった読者でも,数時間もあれば楽しく講義を受けている感覚で一気に読めるだろう。

 本書を読み進めていくと,2003年から2年間ヴァンダービルト大学大学院の臨床研究科学マスターコースで新谷教授から医療統計の講義・演習を受けた際の衝撃が鮮烈に蘇ってきた。グラフィックやイメージを多用し実例を基に医療統計の概念や前提条件を教えてくれる講義は,医療統計学に対する見方が一変,目から鱗が落ちる連続で,楽しみながら医療統計に関する知識・スキルを習得することができた。新谷教授は,研究者としてはもちろん教育者としても一流で,そのユニークな統計教授法には定評があり,ヴァンダービルト大学でベストティーチングアワードを受賞している。

やさしい目で きびしい目で・189

女医としてのラッキーな人生

著者: ビッセン宮島弘子

ページ範囲:P.1407 - P.1407

 毎号,眼科で活躍していらっしゃる先輩や後輩の女性医師が書かれた“やさしい目で きびしい目で”を読ませていただき,皆さんが自分と同じことに悩み,同じような努力をしてきたことがわかり,大変励まされています。私は眼科医になって30年以上になりますが,自分自身が女性に生まれ,そして医師になって本当にラッキーだと思っているので,その理由をいくつかご紹介するとともに,今後の眼科をリードする若手眼科医,特に女性医師にエネルギーを伝授できれば幸いです。タイトルに入れた女医ですが,医師のなかで女性のみ女医と呼ばれることをネガティブに捉えるのではなく,海外では独立して使われることがない女医という単語をポジティブに捉える時代になってほしいとの意味を込めてネーミングしました。

 写真は,眼内レンズの生みの親であるRidley先生を中心に1966年に結成されたIIIC(International Intra-ocular Implant Club)で筆者が記念講演をした後に,メンバーと撮ったものです。真ん中の小さな女性が筆者で,両サイドは白内障,屈折矯正手術で世界をリードする著名な眼科医です。ここでも紅一点ですが,国内外の学会でシンポジスト,パネリストとして檀上で討論となると,自分のまわりは男性のみという状況がほとんどでした。女医でラッキーだったと思うことがたくさんあります。まず,相手(男性がほとんどですが)が声をかけやすくライバル意識をもちにくいので親しくなりやすい,いい仕事をすると同じレベルの仕事をした男性よりも女性であるがゆえに目立ち,褒めてもらえるので次の仕事のモチベーションになる,困ったときに男性から優しくサポートしてもらえるなどです。

臨床報告

非感染性角膜穿孔に対する多層羊膜移植術の有効性

著者: 林李恵

ページ範囲:P.1411 - P.1415

要約 目的:非感染性角膜穿孔に対する多層羊膜移植の結果の報告。対象と方法:過去20年間に角膜穿孔に対する多層羊膜移植を行った22例22眼を検索した。男性12眼,女性10眼で,平均年齢は61歳であった。基礎疾患として,Stevens-Johnson症候群8眼,熱傷またはアルカリ外傷3眼,角膜潰瘍2眼,感染による角膜潰瘍9眼があった。全例で前房が消失し,11眼で輪部機能不全があると判断された。羊膜は,帝王切開による出産時に得た。結果:全例で術後2日以内に前房が形成された。術後の角膜上皮化は11眼で生じた。うち輪部機能不全は3眼にあり,8眼にはなかった。この頻度には有意差があった。角膜上皮化が遅延した症例では,状況により,追加手術が行われた。結論:非感染性角膜穿孔に対する多層羊膜移植により,術後2日以内に前房が形成された。輪部機能不全がある症例では,角膜内皮化の遅延が多く,この術式は根治的治療をするまでの処置とみなされた。

鈍的外傷後に生じた中心性漿液性脈絡網膜症様の漿液性網膜剝離を伴う脈絡膜破裂

著者: 庭田有理 ,   大塚寛樹 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1417 - P.1421

要約 目的:鈍的外傷後に脈絡膜破裂と黄斑部の漿液性網膜剝離が生じた症例の報告。症例:38歳男性がラグビーの試合中に左眼に受傷し,2日後に中心暗点を自覚し,その翌日に受診した。所見:矯正視力は右1.5,左1.0で,左右眼とも約−9Dの近視眼であった。左眼の黄斑に1乳頭径大の漿液性網膜剝離があり,OCTでこれに相当する所見があった。フルオレセイン蛍光眼底造影でwindow defectと弱い色素漏出があり,インドシアニングリーン蛍光造影では透過性の異常はなかった。OCTで色素漏出部に一致する網膜色素上皮の障害と,脈絡膜破裂を示す所見があった。3か月後に左眼の網膜剝離は消失し,現在までの経過は良好である。結論:漿液性網膜剝離は鈍的外傷による脈絡膜破裂に続発したと推定される。今後の長期経過には注意が必要である。

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欧文目次

ページ範囲:P.1298 - P.1299

第33回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1322 - P.1322

べらどんな 眼外傷

著者:

ページ範囲:P.1388 - P.1388

 食パンを食べたら歯が折れたという話を,ある高齢者から聞いた。上の小臼歯だそうだが,歯そのものの寿命だったらしい。

 似た話が漱石の「猫」に出ている。椎茸の傘を噛もうとしたら前歯が折れたことを,苦沙彌先生に寒月が報告する場面である。

ことば・ことば・ことば 超

ページ範囲:P.1410 - P.1410

 昔も今も,医者仲間で使われている隠語に「メタ」があります。あまりに有名なので,もとの言葉がドイツ語なのか英語なのかも判然としません。意味はもちろん「転移」のことです。

 ギリシャ語ではmetaはさまざまな意味をもつ接頭辞でした。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1422 - P.1434

希望掲載欄

ページ範囲:P.1438 - P.1438

アンケート用紙

ページ範囲:P.1440 - P.1440

次号予告

ページ範囲:P.1441 - P.1441

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1442 - P.1442

 臨床眼科9月号をお届けします。本号は第68回日本臨床眼科学会講演集の第7回目となります。症例報告には読んで頭の片隅に置いておけば類似の症例に出会ったときにとても参考になるものがあります。ほんの一部を紹介しますと,森秀夫氏らの妊娠糖尿病例がインスリン強化療法に伴って一過性の網膜症の悪化をみた症例,薫一帆氏らのUAIM症例,脇屋匡樹氏らのサルコイドーシスで多発性脈絡膜肉芽腫を示した症例,徳永義郎氏らの肥厚性硬膜炎へのステロイド治療後に感染性脳症を発症した症例などはいずれも大学病院などの基幹病院で眼科診療を行ううえで見逃すことのできない症例です。それから水澤裕太郎氏らの重症未熟児網膜症に対する抗VEGF併用療法に関する報告も時代の流れを感じさせる論文かと思います。

 連載では周藤真氏らによる「スマートフォンを用いた前眼部および眼底写真」が注目です。本号ではスマートフォンによる前眼部撮影と眼底撮影のノウハウを実際に即してわかりやすく記載していただきました。世の中,大型PCからノート型の小型PCへ,そしてスマートフォンが単なる携帯電話とカメラから情報端末へと徐々に移って行く流れの先には,スマートフォンがいずれPC機能を持つようになるだろうと予想されています。眼科領域ではスマートフォンが医療機器としての機能を持つようになるというのも時代の流れでしょうか。それから村木早苗氏の小児心因性視力障害についての大変わかりやすい解説も見逃せません。眼底に異常のない視力障害に対して,心因性なのか視神経や錐体視細胞の器質性疾患なのかに関して頭を悩ませる症例に多く出会います。私なぞはわからなくなると大学の先輩である清澤源弘先生のご高診を仰ぐことが多いのですが,村木氏の解説により小児心因性視力障害とはどのようなものなのか,認識を新たにして日々の診療に応用したいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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