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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科7巻10号

1953年10月発行

雑誌目次

綜説

眼瞼整形手術手技—東京眼科講習會講演(28.6.7)

著者: 大熊篤二

ページ範囲:P.533 - P.539

 私は戰時中陸軍々醫學校の嘱託として眼部戰傷患者の診療に從事し,終戰後も引續き國立東京第一病院に於て復員の戰傷患者の治療に當つていたので,各種の眼瞼變状に對する整形手術を比較的多數施行する機會を得た。軍醫學校に於ける記録は焼失したので明かでないが,國立東京第一病院に於ては233回の整形手術を施行し,其後横濱醫科大學に於て131回の整形手術を行つている。ここに整形手術というのは,主として眼部及びその周圍顔面の變形を舊に復する手術過程に於て皮膚缺損面を生じ,之を被覆閉鎖する必要のあるような手術を指すのであつて,例えば各程度の眼瞼缺損や瘢痕による各種の眼瞼の變形に對する手術,眼瞼の腫瘍摘出等を含み,眼瞼内反眼瞼下垂に對する手術及び二重瞼手術等は含んでいない。
 これらの整形手術の術式は,その個々の場合により各種各樣であるが,本日はその基本となる缺損面の設定及び之を閉鎖する各種の方法に就て,私の日常行つている手技を述べることとする。決してここに述べるのが最良の方法であるという譯ではないが,私は之によつて大體滿足すべき結果を得ているので,初心の方の參考となれば幸である。尚これらの手法が各種の眼瞼變状に對してどのように應用せられるかに就ては,各種の眼科手術書殊に大橋孝平教授の新眼科手術學に詳しく記されているからそれを參照せられたい。

網膜構築の細胞化學

著者: 小島克

ページ範囲:P.541 - P.552

 網膜構築の形態的分野は,宇山教授の特殊構造,中村康教授の人胎網膜の發生學的研究が發表され漸次,極微形態學の方向へ進展しつつある。一方化學的分野と生物電氣的分野と網膜構造の連鎖も機能學の解析に進展してゆく樣である。中島教授の「網膜の化學」以後,といつてもその一分野に過ぎない組織化學をとりあげてみても,最近諸家によつて急速な進展がある。筆者は,この樣な構築と細胞化學的な面から關係文献を概觀してみたい。

臺灣紀行

著者: 中村康

ページ範囲:P.553 - P.558

 本年の正月呉基福博士が歐米留學の帰途東京に立寄られて「一度臺灣に來て下さい」と述べて行かれたがこんなにも早く臺灣行きが實現されるとは思つて居なかつた。2月末臺灣醫擧會理事長杜聰明博士の招請状を受け呉博士から何時頃渡臺するかとの書面で「5月末なら1週間位の暇が出來るから講演に伺いませう」と返事をしたところ臺灣全島を偏歴するんだとの事で1ヶ月を豫定して欲しいとの再度の手紙を受けとつたのである。其處で病院の都合や私の研究の豫定を色々工面して6月一杯を臺灣で暮そうと決心したのであつた。處が愈々臺灣に出掛けてみると診を求める患者は多いし各地の講演も仲々素通りではすまされなくなつて到頭ビザ10日間の延長が「患者が多く診察り切れない」との理山で許可される始末。7月初旬にやつと日本へ帰つて來ることが出來た。
 5月30日夜11時CAT航空會社の四發飛行機に乘し12時星の輝く空に向つて舞ひあがつたが,初め眼下に東京都内の赤,青に點減するネオンの光りにうづまる美しさを稱しつゝ伊豆半島もやがて過ぎた頃眠りについたのであつた。飛行機に乘つた初めは何となく不安を感じ,何時落ちるんだろうかと落ちつかない心持ちであつたが時間を過ぎると共に汽車よりも動揺がなくプロペラの音も會話をするのに何の障碍とならない程靜かなのを知つて室だけに目をうつして居れば平地に止る一つの建物の一室に過ぎない錯覺にとらはれるのであつた。

臨床實驗

再びB.C.G.接種後發生したフリクテン

著者: 小原博亨 ,   友松實枝 ,   澁谷聰

ページ範囲:P.559 - P.562

 B.C.G.接種後發生した眼疾患に就いては桑原氏が報告して以來幾多の報告があるが其の眼疾患の發生に對するB.C.G.の役割に對する見解も亦,區々で有つて同一人であつても其の症例により異なる見解を取つている。私は先きにツ反應に因り誘發されたと考え得るフリクテン(以下フとす)を報告した際,B.C.G.接種した場合には其の前に殆どツ反應が施行されるので其の場合のフはB.C.G.のみならずツ反應の影響をも考慮されなければならないとしたが,最近ツ反應及びB.C.G.接種直後生じたフを經驗したので報告し私の見解をのべて見たい。

視束症状の特性とその分類について—特に脱髓疾患群との關係

著者: 桑島治三郞

ページ範囲:P.563 - P.566

Ⅰ.視束症状の本來の特長
 坐骨神經痛とか顔面神經麻痺などというように,特定の神經の障碍をあらわした病名は必ずしも珍らしくはないがこれらの神經障砥に單獨で「神經炎」だの「神經萎縮」などとよばれるものは餘り見あたらない。たゞヒトの視神經にだけは,これが末梢神經のひとつとして腦神經にぞくするとされていた時代から單獨で「神經炎」や「神經萎縮」とよぶ病氣のあることが知られ今日ではすでに常識酌事項のひとつになつている。
 末梢神經に單獨でおこる「神經炎」というものにはそれ自體に問題はあるが,視神經が今日あらゆる點からみて末梢神經ではなく大腦白質の延長であり中枢神經系の一部であることが明らかにされ「視束」の名でよばれるようになつてみると1),「視神經炎」や「視神經萎縮」とよぶものの本來の概念が「腦炎」,「脊髄炎」および「脊髄癆」や腦脊髄の「硬化症」などの概念に相當するということは特に説明をまつまでもなく肯ずかれる2)3)

本邦人高年者網膜血管に關する研究(第8報)—本邦人高年者剖檢時の腦血管硬化と全身血壓其他との關係

著者: 樋渡正五

ページ範囲:P.566 - P.570

 既に第6,第7報に於て腦血管硬化と網膜血管硬化との關係及び網膜血管硬化と腎,心血管や大動脈硬化との關係に就いて論じたが,其の際同時に腦血管の硬化と全身血壓との關係や尿中蛋白との關係に就いても少しく知見を得たので報告する。

網膜内境界膜剥離症に就て

著者: 弓削經一

ページ範囲:P.570 - P.573

 後部硝子體剥離という病變に就ては私は既に2回に亘つて考察の結果を發表したが1)2),今日迄の考え方では,硝子體内に浮游している膜樣物,即ちHruby3)の所謂geformte Trübungは,實は網膜内境界膜乃至は乳頭前グリア膜の一部であると見なしている。此考え方では,網膜内境界膜と硝子體後境界膜とを分離しないで兩者は同一の膜の呼び方の違いにすぎないと見做している。但し茲にいう網膜内境界膜とはMüller氏支柱線維のBasalkegelの前面にある薄膜であつて,Basal-kegelを含んでいない。此Basalkegelは,Mar-go limitans intermaとせられている。
 此樣に私は臨床的觀察と組織學的觀察との併行によつて綱膜内境界膜の一部の剥離したものが,後部硝子體剥離といわれる膜樣浮游物であると考えるのであるが,未だ,それを臨床的に實證した事も無く,又組織標本で之を確かめた事も無い。今回臨床的に之を實證するに足る症例を得たので,之を報告し,併せて1,2の考察を加える事とする。

テラマイシンによるトラコーマの集團治療成績(第5報)—1.0%及0.75%軟膏による成績並0.5%,0.25%.0.1%軟膏との比較に就て

著者: 蔡炎山

ページ範囲:P.575 - P.583

 余等は先に0.5%テラマイシン軟膏による學童トラコーマの集團治療成績に就き發表し,次いでこれと0.25%,0.1%軟膏による成績との比較に就ても發表したが,その後1.0%及び0.75%軟膏を用いて實驗することが出來たのでこゝにその成績を記載し,これと先に發表した諸種濃度に就き相互に比較検討した結果に就き述べて見度いと思う。
 尚トラコーマの分類はMac Callan氏分類に疑似症を加えたものによつたし,効果の判定基準その他は前報と同樣であつて,7週目から顆粒の著しいものに對しては壓出術を,乳嘴増殖高度のものにはカイニング氏マッサージを併用した。

反復性前房内水晶體脱臼の1例

著者: 長崎光夫

ページ範囲:P.585 - P.587

 最近私は反復性に前房内水晶體脱臼を起し,而も續發性緑内障を惹起しなかつた興味ある1例を經驗したので報告する。

葡萄状球菌に因る結膜並に眼瞼僞膜

著者: 長谷川信六

ページ範囲:P.589 - P.591

 急性結膜炎の起炎菌の統計を求めたものの文献を見るに,眼脂の塗抹又は培養で現れた菌を直ちに,該結膜炎の起炎菌として取扱つている著者があり,從つてこの場合は葡萄状球菌(以下葡菌)が相當高率に急性結膜炎の起炎菌と見做されている。併し葡菌は健康結膜でも高率に現れるものであるから急結炎に葡菌を見たからとて直ちに之を起炎菌と見做すことは考慮を要するものである,殊に主として培養でのみ菌が現れた場合には一層その感が深い。このことは長谷川俊明氏,桐澤長德氏も述べておられる。併し葡菌も何等かの機縁で結膜嚢で多量に増殖したならば結膜にも炎症を起すであろうと云うことは考えられる。我々は麦粒腫の化膿巣が結膜面に開口しているとき,結膜は開口の周圍から周邊に及んで廣く相當の炎症を起すことは日常見ることである。この場合膿中にある菌の毒素の影響もあるであろうが兎に角葡菌に因つても結膜に炎症が成立することは立證される,このことは當然のことであるとも思われるが,併し又實際の臨床になると,かかる特種の場合を除くと,葡菌のみに因つて起るところの純粋の急性結膜炎なるものが果してどの程度に實在するものであるかを實證するのは困難な場合が多く,他面それなるが故に葡菌による結膜炎なるものを今一歩追究してみる必要がある理である。

大槽内に注入せし「サルヷルサン」の視束内分布に就て

著者: 遊佐滿

ページ範囲:P.593 - P.595

 體内に注入されたサルヷルサンの組織内分布は,1928年Jancsóが,硝酸銀グリセリンアムモニア試藥を用いて系統的に研究しており,Jancsóが検索を行わなかつた眼球組織に就ては,昭和4年林教授が實驗を行い,その成績を發表していられるが,サルヷルサンの投與方法は經靜脈的で,從つて,眼組織に出現する量も輕微である故,直接局所に投與した場合,視束内に於ては果して如何なる分布をとるかと云う問題を,脊髄癆性視束萎縮にサルヷルサンを使用する事の可否の問題と關連せしめ研究した。

眼疾患に對するコーチゾン療法の檢討(第1報)—コーチゾンの眼疾患に對する効果に就いて

著者: 吉岡久春

ページ範囲:P.597 - P.606

 抗生劑例えばペニシリン,ストレプトマイシン,オーレオマイシン,テラマイシン等の出現により,眼疾患に對する治療は一大進歩を來したが,更に副腎皮質ホルモンの1種であるコーチゾンが登場するに及び,之が諸種の眼疾患に對し,劇的効果を示す事が1950年Woodの報告以來多數の人人によつて認められ,眼疾患に對する治療に一大飛躍をもたらした。
 然し如何なる藥物も同樣であるが,コーチゾンも1)適應症,2)投與量,投與法及び投與期間,3)副作用等の決定が必要で,從來の報告では,1),2)の問題に就いては相當検討されているが,3)の問題に就いては未だ不充分である。

銀海餘滴

健康保險

ページ範囲:P.562 - P.562

 問 マイシリン注射の項でマイシリン(ストマイ0.59ペニシリン40萬)を使用した場合固定點數は14點+10=24點となるが藥價基準に從えばストマイ0.5gペニシリン40萬のものは305圓とありこれも右と同樣實際上賄い得ない。
 答 ストマイ0.5g+ペニシリン40萬單位の合製劑を使用した場合はストレプトマイシン0.25gにつき2點を加算することが出來る。その點數算出例を示せば次のとおりである。

醫療施設調査規則

ページ範囲:P.573 - P.573

 統計法(昭和22年法律第18號)第3條第2項の規定に基き,醫療施設調査規則を次のように定める。

新しいホルモンの話

ページ範囲:P.587 - P.587

 最近のホルモン界の動向は未知のホルモンが發見されたというよりも,ホルモンの化學が進歩して,各種のホルモンが純粋にしかも多量に得られるようになつたので,新しい生理作用がわかつたり,新しい臨床的應用法が解つてきたことです。
 コルチゾンコルチゾンは副腎皮質ホルモンの一種で,性ホルモン等と同じようにステリン體で,單離されたのは1936年でありますが,難治な慢性リウマチス關節炎に著効があることがわかつて今世界に注目されるに至りました。長い年月慢性リウマチ關節炎に悩んで,歩行できなかつた者が,コルチゾン療法を受けると短時間に苦痛が去り,歩行できるようになつたのですから無理もありません。

社會保險

勞働者災害補償保險法保險料率表(別表第4)

ページ範囲:P.591 - P.591

臨床講義

網膜膠腫—Glioma retinae

著者: 入野田公穗

ページ範囲:P.607 - P.609

 視器より原發する惡性腫瘍の種類は必ずしも尠いものではないが,就中眼球内に初發し屡々幼兒の生命を奪うに到る網膜膠腫は夫の惡性度に於て壯年の肉腫,老年の癌腫に比し決して劣るものではない。當初より醫治を受けつつありたるにも拘らず,再發轉移を來し不幸なる轉帰を示せる本症の1例に就て,其の經過の概要を述べ説明しよう。

私の經驗

私の眼科診療室

著者: 水谷豊

ページ範囲:P.610 - P.610

 私は以前から,眼科の診察治療という面で1つの不滿を持つていた。それは視力の不自由な患者に對して,今迄の眼科の診察治療のあり方が,すこぶる不親切であつた。それが設備のよい大病院程著しい。例えば,先ず患者は診察室に入ると,醫師の前に坐つて問診を受ける。一應の問診を受けると檢査になるが,これが數ヵ所の場所で檢査を受けなければならず大變である。第1に視力檢査の場所迄行き,其處で視力の檢査を受ける。それが終ると最初明室で前眼部が檢査され,屈折異状や前眼部以外の疾患は更に暗室内へ連れて行かれ,暗室檢査を受ける。暗室檢査が終ると,再び別の場所に連れてゆかれて,視力の再檢査や視野,眼壓其他の諸檢査を夫々に受ける。總ての檢査が終つてから治療室に入り,始めて治療を受ける始末である。
 以上の最初の問診から治療迄に,患者は多くの歩行を強いられ,時間の浪費も多く非能率的である。一體視力障碍があつたり,甚しい眼疾のある患者を取扱う眼科醫は,恰も内科醫が重病人に接する樣な態度を持つべきで,身體が健康であるからといつて,患者の行動の不自由から來る苦悩を忘れてはならない。扨て,これらの不滿を解消するためには如何樣にしたらよいか。そのためには,患者を動かさずに檢査,處置が出來るように考えればよいわけである。

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讀書寸感

著者: 中村康

ページ範囲:P.611 - P.611

 1) Fortschritte der Augenheilkunde 3500
 本書は1952年版で表題が獨乙語,英語,佛語で書いてある。Biemond (アムスラルダム) Dekking (グロニンゲン) Doesshate (ユトレヒト) Goldmann (ペルン)Lyle (ロンドン),Nordmann (ストラスボルグ) Streiff(ロザンス)氏等の共著でStreiffが主に編輯にあたつているようである。Ⅰ〕Ⅱ〕Ⅲ〕と出版されている。本書はZ.f.Augenheilkunde殊にOphthalmologicaに掲げられた抄録で1943年からのものが大戰のためたまつてしまつた。其等を其儘にして置くことは遺憾であるからまとめて編纂したのが本書だと言う。即ち眼科文献の抄録集と言う處である。言いかえれば1943年以來の眼科各部門の進歩をたづねる參考書となるものと述べている。又文献を集めるのに利便である。
 第1卷の内容は共働性斜視,眼科史,檢査法,白内障,緑内障,が掲つている。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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