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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科70巻5号

2016年05月発行

雑誌目次

特集 第69回日本臨床眼科学会講演集[3] 原著

高度涙小管閉塞症に対する開窓涙管チューブ長期留置術

著者: 湯田兼次 ,   高野昌代 ,   湯田健太郎

ページ範囲:P.703 - P.707

要約 目的:高度涙小管閉塞症に対し,Jonesチューブ治療に代わりうるものとして開窓涙管チューブ長期挿入術を検討した。

対象と方法:PFカテーテルの両端を切除し,開放端としたものを使用した。レーザー涙囊鼻腔吻合術後にシース誘導チューブ挿入術を用い,上下涙小管よりカテーテルを鼻腔内に留置し,カテーテル中央部をレーザーで穴を開け,開窓チューブとした。本法術後1年以上経過観察した14例17眼の成績を検討した。

結果:9例(53%)で流涙症が改善した。大きな合併症はなかった。

結論:開窓涙管チューブ長期留置術は高度涙小管閉塞症の治療に有用と考えられた。

結石の処理に16ゲージシースが有用であった涙囊内結石症例

著者: 四宮加容 ,   赤岩慶 ,   大串陽子 ,   藤原亜希子 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.709 - P.712

要約 目的:涙囊内結石の処理に16ゲージ(G)シースが有用であった1症例を報告する。

症例:62歳男性。数か月前から右の流涙と眼脂があった。

所見:通水試験で通水可能であったが,膿性貯留物の逆流があった。鼻涙管狭窄を疑い,涙道内視鏡下でのシース誘導シリコーンチューブ挿入術を予定した。術中,涙囊内に大きな結石を発見した。18Gシースで結石を搔爬して下鼻道への排出を試みたが,結石は固くて大きいため搔爬は困難であった。16Gシースを用いると,効率よく搔爬することができた。下鼻道に排出された結石は長径11mmであった。

結論:16Gシースはサイズが大きく,物体を押す力が強いことから大きな結石を効率よく搔爬することができた。

麻痺性斜視手術が角膜乱視に与える影響

著者: 近藤美穂 ,   木村亜紀子 ,   三村治

ページ範囲:P.713 - P.717

要約 目的:麻痺性斜視に対する斜視手術が角膜乱視に及ぼす影響についての報告。

対象と方法:2013年9月〜2015年1月の間に,麻痺性斜視に対して手術を施行した61例75眼を対象とした。男性32例,女性29例で,年齢は13〜84歳,平均59歳である。麻痺性斜視の内訳は,滑車神経麻痺18眼,甲状腺眼症と動眼神経麻痺が各15眼,外転神経麻痺11眼などであった。術式の内訳は,外直筋または内直筋の後転術20眼,内外直筋前後転術9眼,下直筋鼻側移動術22眼,内外直筋の後転術と下直筋鼻側移動術の併施19眼,西田法5眼であった。方法はオートレフケラトメータ(ケラト)と前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)を用いて,術前,術翌日,術2週後,術3か月後の角膜乱視を測定した。

結果:ケラトでは内外直筋前後転術と西田法で術翌日に角膜乱視が増加し,術前と術翌日間にのみ有意差を認めた(p<0.05)。前眼部OCTでは有意差を認める群はなかった。

結論:麻痺性斜視に対する斜視手術後の角膜乱視は術翌日にのみ増加するも,長期的には影響を与えなかった。

眼窩底骨折整復術後に僚眼の下斜筋過動を呈した1例

著者: 横山弘 ,   木村亜紀子 ,   一色佳彦 ,   増田明子 ,   三村治

ページ範囲:P.719 - P.723

要約 目的:眼窩底骨折整復後に最も顕著な眼球運動障害が僚眼の下斜筋過動症であった症例を報告する。

症例:41歳男性。左眼窩底骨折のため,計2回の左眼窩底骨折整復術を受けた。その後,徐々に正面視で上下・回旋複視が出現し,右眼の眼位異常も顕著となり,受傷から10か月後に当科を受診した。眼位は右上斜視で,眼球運動では左方視で右眼の下斜筋過動症を高度に認めた。左眼の斜視手術に加え,右眼の下斜筋減弱術を施行し,術後,正面視での複視は消失し,右眼の下斜筋過動症もほぼ消失した。

結論:右眼に認められた左方視での下斜筋過動症は左眼の下直筋拘縮に伴うものであり,両眼視改善には患眼への斜視手術だけでなく僚眼の下斜筋減弱術が有効であった。

術前抗菌薬投与にてアナフィラキシーショックから心肺停止に至った硝子体出血の1例

著者: 津山孝之 ,   廣瀬浩士 ,   服部友洋 ,   佐久間雅史 ,   鈴木雅登

ページ範囲:P.725 - P.728

要約 目的:硝子体手術の術前投与として,ミノサイクリンの全身投与により,アナフィラキシーショックから心肺停止に至った1例を報告する。

症例:72歳男性。主訴は左視力低下。左眼に原因不明の硝子体出血を発症し,診断および加療目的で硝子体手術を予定した。手術室にてミノマイシン点滴静注開始後,咳嗽,悪心,発疹が出現。さらに血圧低下から意識消失し,蘇生処置を開始するも,心室頻拍から心肺停止となった。電気的除細動を施行し,心電図波形が改善した。ICUへ移送し,数日後には全身状態は安定した。

結論:眼科手術でも抗菌薬予防的投与によるアナフィラキシーショックの発症は避けられず,早期診断,救急処置,他施設への移送を含め,緊急時に対する準備が必要である。

Descemet membrane endothelial keratoplasty(DMEK)における移植片折れ曲がり整復テクニック

著者: 親川格 ,   澤口昭一

ページ範囲:P.729 - P.734

要約 目的:Descemet membrane endothelial keratoplasty(DMEK)の周術期合併症の1つに移植片接着不良があり,移植片生存率に大きくかかわる。その合併症を回避する手術手技を考案したので,症例とともに報告する。

対象と方法:対象はレーザー虹彩切開術後水疱性角膜症の6例6眼(女性6眼,平均年齢70.8歳)。DMEK移植片を前房内で展開後,角膜後面に接着させる際に生じる移植片の折れ曲がりを正常形状へ回復する方法としてbubble-bumping maneuverが既報にある。この操作を全象限に対して追加してDMEKを行った。

結果:全例移植片接着不良に対する空気再注入処置を要することはなく,良好な移植片接着が得られた。

結論:本法はDMEK移植片接着不良を回避するうえで有用である。

オルソケラトロジーでブレスオーコレクト®を学童に使用し角膜潰瘍を発症した1例

著者: 塚越美奈 ,   小菅正太郎 ,   鬼頭昌大 ,   高橋春男

ページ範囲:P.735 - P.739

要約 目的:オルソケラトロジー(オルソK)用コンタクトレンズであるブレスオーコレクト®使用中に角膜潰瘍を発症した症例の報告。

症例:11歳,女児。1年半前よりオルソKを開始し,適切なレンズケアを行っていた。3日前より右充血,眼痛を認め近医を受診し,改善しないため当院へ紹介となる。初診時視力は右手動弁,左(1.2)。右眼毛様充血,角膜中央部に類円形角膜潰瘍および前房蓄膿を認めた。細菌性角膜潰瘍を疑い,抗菌薬点滴,点眼で加療した。病巣擦過物などの細菌培養は陰性であった。角膜潰瘍は消退し,視力(1.0)に改善したが角膜上皮下混濁は残存した。

結論:角膜潰瘍は,レンズを正しく使用していても発生するオルソKの最も注意すべき合併症である。

カラーコンタクトレンズの色素に対するアレルギー反応が疑われた両眼角膜潰瘍の1例

著者: 安田絵里子 ,   長井隆行 ,   山崎悠佐 ,   松宮亘 ,   中村誠

ページ範囲:P.741 - P.745

要約 目的:カラーコンタクトレンズ(CL)による両眼角膜潰瘍の報告。

症例:16歳女性がカラーCLを装着したまま就寝後に両眼の眼痛,充血を自覚し,数日後に当院へ紹介となった。初診時の矯正視力は左右眼とも0.6であった。両眼の上方角膜に弓状に配列する多数の潰瘍と毛様充血を認めた。それまでの抗菌薬点眼に反応が乏しいことからCLへの炎症反応の可能性を考え,ステロイド点眼と内服を併用したところ,徐々に上皮化し視力改善が得られた。本症例ではカラーCLの角膜側に偏在した色素による直接的な障害と色素に対するアレルギー反応である可能性が推定された。

結論:カラーCLによる角膜潰瘍で抗菌薬点眼の効果が乏しい場合には,ステロイド治療を検討すべきと考えられた。

胆管炎で発症し胆管炎の再発により再発した内因性細菌性眼内炎の1例

著者: 森秀夫 ,   谷原佑子 ,   内本佳世

ページ範囲:P.747 - P.752

要約 目的:原疾患の再発時に内因性細菌性眼内炎(EBE)が再発した症例の報告。

症例:73歳の糖尿病合併男性。胆管炎治療中に右眼視力が0.02に低下し,充血,前房蓄膿,硝子体混濁を認めた。EBEとして緊急に前房洗浄,水晶体・硝子体切除を行った。術中に大型の網膜滲出壊死巣が認められた。術後に前房洗浄を追加し,肺炎桿菌が分離された。以後の経過は良好で,3か月後眼内レンズを移植し,視力0.8を得た。その1か月後の胆管炎再発に伴いEBEが再発し,この硝子体手術時に眼底への大量の膿付着と網膜出血を認めた。その後も2回硝子体手術を追加して消炎し,最終視力は0.3であった。

結論:EBE治療には初発再発を問わず消炎を得るまで硝子体手術を施行する必要がある。

拍動を伴う眼球陥凹と眼球運動障害を認めた先天性蝶形骨欠損の1例

著者: 河野良太 ,   上松聖典 ,   渡邊健人 ,   藤川亜月茶 ,   北岡隆

ページ範囲:P.753 - P.757

要約 目的:拍動性眼球陥凹と眼球運動障害を呈した先天性蝶形骨欠損の1例の報告。

症例:38歳女性が左眼の拍動と眼球陥凹で受診した。18歳の時から左眼に瞼裂狭小があり,3回の出産ごとに悪化し,眼球陥凹が徐々に出現した。

所見:矯正視力は左右眼とも1.2で,正位であった。左眼に上転と外転制限があり,拍動性眼球陥凹があった。安静時に眼球が陥凹し,怒責時に突出した。頭部のCTとMRIで左側の蝶形骨欠損と脳髄膜瘤があった。神経線維腫症1型の所見はなかった。左眼の先天性蝶形骨欠損と診断し,手術は行わなかった。

結論:蝶形骨欠損により,拍動を伴う眼球陥凹と眼球運動障害が生じることがある。

松山赤十字病院における涙腺部腫瘍の検討

著者: 児玉俊夫 ,   池川泰民 ,   鳥山浩二 ,   水戸毅 ,   山本康明 ,   山西茂喜 ,   飛田陽 ,   大城由美

ページ範囲:P.759 - P.766

要約 目的:松山赤十字病院で診断した涙腺部腫瘍の報告。

対象と方法:過去139か月間に病理組織診断が確定した涙腺部腫瘍68例を対象とし,年齢,性差,治療法とその成績を検討した。

結果:良性腫瘍45例(66%),悪性腫瘍23例(34%)であり,良性腫瘍については,男性16例,女性29例であり,悪性腫瘍については,男性13例,女性10例であった。上皮性腫瘍は,多形腺腫,囊胞,癌腫の順に多く,リンパ増殖性腫瘍は,悪性リンパ腫,非IgG4関連疾患,IgG4関連疾患の順に多かった。

結論:涙腺由来と推定される腫瘍では,悪性腫瘍の頻度が1/3を占めていた。涙腺腫瘍では,悪性腫瘍を念頭に置いて検査と治療を進める必要がある。

Epstein-Barrウイルスの関与が疑われた両眼性毛様体剝離の1例

著者: 加藤寛彬 ,   横田怜二 ,   山添克弥 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.767 - P.772

要約 目的:Epstein-Barrウイルス(EBV)の関与が疑われた毛様体剝離の症例報告。

症例:22歳女性。発熱・咽頭痛の症状で内科受診,EBVによる伝染性単核球症と診断されていた。経過中,急性の両眼視力低下を自覚した。初診時視力は右0.03(0.7×−11.5D()cyl−0.75D 80°),左0.02(1.0p×−12.25D)であった。眼圧は右21mmHg,左22mmHg。両眼狭隅角・浅前房を認め,中間透光体に混濁や炎症所見はなかった。眼底は両眼後極部に網膜皺襞を認めた。超音波生体顕微鏡(UBM)では両眼とも全周性に毛様体剝離を認め,それに伴う毛様体前方回旋・狭隅角・近視化,水晶体前方移動による硝子体牽引を原因とした網膜皺襞と考えられた。局所加療はせずに経過観察したところ,1週間後に全身症状が改善し,視力も右(1.5×−4.0D()cyl−0.25D 60°),左(1.5×−4.0D)になった。浅前房は解消され,網膜皺襞も改善した。UBMで毛様体剝離は消失した。

結論:EBV感染の1症例で近視化を伴う一過性の毛様体剝離が発症した。

サルコイドーシスに合併した網膜色素上皮剝離の経過

著者: 馬場高志 ,   佐々木慎一 ,   富長岳史 ,   山﨑厚志 ,   井上幸次

ページ範囲:P.773 - P.778

要約 目的:サルコイドーシスによるぶどう膜炎の治療後に発生した網膜色素上皮剝離(PED)の報告。

所見と経過:症例は50歳男性。受診1年前から全身の異常知覚と疼痛,耳鳴と聴覚障害,味覚障害があった。1か月前から左眼の霧視を自覚し,当院を受診した。両眼の汎ぶどう膜炎を認め,眼,肺,末梢神経サルコイドーシスと診断した。ステロイド薬は全身投与せず,局所投与のみで治療開始1か月後に消炎した。初診から8か月後,右眼に新たにPEDが生じた。自覚症状もなく,視力,視野とも異常を認めず,PEDの確認4か月後に消失した。

結論:眼サルコイドーシスは消炎後も脈絡膜病変の発生に注意する必要がある。

レバミピド懸濁点眼長期使用例の検討

著者: 高良由紀子 ,   高良俊武 ,   高良広美 ,   田辺芳樹

ページ範囲:P.779 - P.782

要約 目的:レバミピド懸濁点眼を長期使用した症例の臨床経過の報告。

対象と方法:1年以上レバミピド懸濁点眼を続行したドライアイ症例15例27眼を対象とした。点状表層角膜症の程度を,area density(AD)分類で評価した。

結果:点眼開始後1か月後の平均点眼本数は1日4本であったが,最終時(平均979日)は1日平均2.2本であった。点眼治療開始前と比べ有意な改善がみられたが(p<0.0001),点眼1か月と最終時の結果には有意差はなく,点眼回数の減少による治療効果の減少はなかった。

結論:点状表層角膜症に対するレバミピド懸濁点眼は,長期点眼の場合,1日2回の点眼回数でも治療効果がある。

単焦点眼内レンズ挿入眼における偽調節に関与する因子の検討

著者: 新見浩司 ,   山田理香 ,   藤本将仁 ,   奥内俊介 ,   阿部國臣 ,   山中昭夫 ,   三村治

ページ範囲:P.783 - P.786

要約 目的:偽調節関連因子についての報告。

対象と方法:同一の単焦点眼内レンズを挿入した遠見矯正視力1.0以上の36例64眼を対象とした。男性11例,女性25例で,年齢は平均74.0±7.3歳である。主観的偽調節量は近見視力検査にて評価し,他覚的偽調節量は他覚的屈折変化,瞳孔径変化,角膜屈折力勾配,MTF値にて評価した。

結果:偽調節量は0.15〜1.0(0.61±0.20)logMARであった。角膜屈折力勾配と偽調節量間には弱い正の相関が認められた(r=0.428,p<0.05)。瞳孔径と偽調節量間には極弱い負の相関がみられた(r=−0.266,p<0.05)。調節負荷時の他覚的屈折変化は0.07±0.20D(n=25)であり,ほとんど認められなかった。

結論:偽調節には角膜の多焦点性が関与する。

診断に苦慮した成人悪性視神経膠腫の1例

著者: 山﨑厚志 ,   春木智子 ,   小山あゆみ ,   井上幸次 ,   神部敦司 ,   武信順子

ページ範囲:P.787 - P.791

要約 目的:成人悪性視神経膠腫の1例の報告。

症例:63歳男性が右眼の急激な視力低下を主訴に受診した。矯正視力は右光覚弁,左0.9であった。激しい視神経乳頭浮腫と網膜出血が認められた。最初の頭部MRIでは視神経腫脹は軽度であり視神経炎の診断であったが,皮下多発腫瘤の生検にてⅠ型神経線維腫症と診断されたため,成人悪性視神経膠腫を疑った。脳外科での視神経の生検で悪性視神経膠腫と診断され,眼球を含めて視神経を摘出した。術後18か月の時点で再発はない。

結論:成人のⅠ型神経線維腫症の患者に激しい視神経乳頭浮腫を認めた場合には悪性視神経膠腫の可能性があり,早急な生検が必要である。

今月の表紙

Outer retinal tubulation

著者: 山本素士 ,   小畑亮 ,   相原一 ,   寺崎浩子

ページ範囲:P.634 - P.634

 症例は70歳,男性。6年前より右眼歪視を自覚し近医受診後,当科紹介となった。既往歴に肺結核があった。初診時の右視力は(0.4),前眼部,中間透光体に特記することなく,眼底には両眼視神経乳頭周囲に広範囲な網脈絡膜萎縮,黄斑部に脈絡膜新生血管,漿液性網膜剝離,網膜下出血を認めた。クォンティフェロン陽性であった。経過観察中に網脈絡膜萎縮の範囲は拡大した。以上より,結核性ぶどう膜炎による地図状網脈絡膜炎,続発性脈絡膜新生血管と診断し,抗結核療法とベバシズマブ硝子体内投与(倫理委員会承認済)を開始した。現在,右視力(0.08)となり,outer retinal tubulationを伴う萎縮型黄斑変性に移行している。

 撮影は,OCTにHeidelberg Engineering社SPECTRALIS®を用い,網膜中心窩を含む網脈絡膜萎縮部位の水平断を撮像した。複数の水平断を撮像することにより,網膜内に走るouter retinal tubulationの管腔構造を把握できるように意図した。

連載 今月の話題

角膜移植の現在と未来

著者: 山口剛史

ページ範囲:P.635 - P.644

 角膜疾患の治療法として,悪い部分だけを置換する「パーツ移植」の目覚ましい進歩が,注目されつつある。これらの新しい手術法の不正乱視・視機能を評価するには,従来の角膜不正乱視の評価法に限界があった。筆者らの研究チームは,パーツ移植前後の角膜光学機能の評価系として,従来の角膜前面・後面だけでなく,光線追跡法を用いることで,角膜全体(=前面+後面)の高次収差の演算方法を新規に確立し,さらにパーツ移植における角膜前面と後面の平行性の破綻による視機能への影響を証明した。この解析法を用いることで,さまざまな角膜混濁眼における角膜収差解析が可能となり,これまで角膜混濁疾患と考えられてきた疾患が高次収差によって視機能障害をきたしていることも明らかになりつつある。本稿では,新しいイメージング技術による光学機能解析法の視点から,角膜内皮移植(Descemet's stripping automated endothelial kelatoplasty:DSAEK)やDescemet膜移植(Descemet's membrane endothelial keratoplasty:DMEK)など最新の「角膜移植の現在と未来」について,将来の展望を述べる。

熱血討論!緑内障道場—診断・治療の一手ご指南・第4回

眼底OCTの診かた 緑内障と診断された乳頭低形成

著者: 金森章泰 ,   寺西慎一郎 ,   中倉俊祐

ページ範囲:P.648 - P.659

今月の症例

【患者】58歳,男性

【主訴】精査希望

【現病歴】6年前,近医で緑内障と診断され,右眼に緑内障治療点眼薬を開始した。転居に伴い,別の近医で受診したところ,先天的な視神経部分低形成と診断され,点眼の中止を指示された。精査目的で2010年に紹介され受診した。

蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス・第5回

網膜動脈閉塞症

著者: 小暮朗子

ページ範囲:P.660 - P.670

疾患の概要

 網膜動脈閉塞症(retinal artery occlusion:RAO)は,視神経内の網膜中心動脈に閉塞が起こる網膜中心動脈閉塞症(central retinal artery occlusion:CRAO)と,網膜内の網膜動脈分枝に閉塞が起こる網膜動脈分枝閉塞症(branch retinal artery occlusion:BRAO)に分類される。いずれもその支配領域の網膜内層虚血により,突然の重篤な視機能障害を生じる。閉塞の原因として最も多いのは塞栓であるが,若年者では抗リン脂質抗体症候群や血管炎などの基礎疾患が背景にあることが多い。急性期には網膜内層の凝固壊死により浮腫が生じるが,発症から4〜6週後には萎縮により菲薄化する。98分以上網膜循環が途絶すると,不可逆的な網膜内層の萎縮が生じると報告されている1)

 フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluorescein angiography:FA)では,蛍光充盈の遅延や欠損などにより閉塞の程度や部位を確認することができる。CRAOは,通常,視力予後が不良なので,積極的な経過観察が行われないこともあるが,稀に血管新生緑内障が発症することがあり,慢性期においてもFAを用いた観察が有用となる2)

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第21回

転移した眼窩腫瘍の取り扱い方法—まさかの時の診療手引き

著者: 大島浩一

ページ範囲:P.672 - P.676

はじめに

 本稿では,転移した眼窩腫瘍の取り扱い方法について述べます。いずれにしても,普通の眼科医が治療に関与できる病態ではありません。しかし,「何も知らなくてよい」ということでもありません。これらの患者が,いつ眼科外来を訪れるかわからないのです。

 では,どのように対処すればよいでしょうか。まずは,常日頃から悪性眼窩腫瘍ではないかと疑える環境を整えておくことです。そのうえで,紹介すべきルートを確保しておくべきです。さらに患者が腫瘍の治療を受けている間,および治療終了後も,紹介先と連携しながら眼症状に関して経過観察できれば,これ以上のことはありません。ここで大切なことがあります。それは治療方法,治療に伴う合併症,そして治療の限界をある程度知っておくことです。このことは,悪性眼窩腫瘍に限ったことではありません。

海外留学 不安とFUN・第5回

Harvard School of Public Healthの授業

著者: 内野美樹

ページ範囲:P.678 - P.679

 「絶対Harvardに入学して勉強したい!」と悩んでいたところ,当時東大から留学されていたN先生に「summer studentとして授業を取り,その授業で“A”の成績が取れれば,この生徒は英語ができるという推薦書を書いてもらえるよ」と,入学するうえでの貴重な裏技を教えていただきました。

 「これは,やるしかない!」と思い立った私は,社会疫学(Society and Health)のIchiro Kawachi先生の授業のsummer studentとなりました。

臨床報告

内眼炎所見を合併した多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)の1例

著者: 松田英伸 ,   酒井康弘 ,   上田恵理子 ,   福地健郎

ページ範囲:P.681 - P.687

要約 目的:内眼炎所見を合併した多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)の症例報告。

症例:39歳男性。両眼の視力低下を自覚して紹介受診。前眼部炎症所見はなく,眼底所見は両眼後極部に漿液性網膜剝離と網膜血管炎,左眼黄斑下に黄白色の滲出性病変と網膜色素上皮剝離を伴っていた。蛍光眼底造影検査では,右眼中心窩に蛍光漏出と蛍光貯留,左眼も蛍光漏出と網膜血管からの蛍光漏出,視神経乳頭の過蛍光の所見を認めた。治療としてステロイド内服やパルス療法,ベバシズマブ硝子体内投与を施行したが反応はなかった。経過や眼所見よりMPPEと診断し,ステロイドの漸減と漏出点に対し網膜光凝固を施行した。

結論:MPPEに網膜血管炎など内眼炎所見を合併したため,診断に時間を要した症例を経験した。早期にステロイド全身投与を開始したが,それにより遷延化し,診断が困難になったと考えられた。

CO2レーザーを使用したMüller筋牽引縫縮眼瞼下垂手術(Extended Müller Tucking法)

著者: 宮田信之

ページ範囲:P.689 - P.693

要約 目的:眼瞼下垂(加齢性,コンタクトレンズ長期装用によるもの,内眼術後)の治療にMüller筋を10mm以上タッキングした症例の報告。

対象:2012年4月〜2014年4月に当院で同一術者により施行されたMüller筋牽引縫縮眼瞼下垂手術のうち10mm以上Müller筋のタッキングを両眼同時に行われた132例264眼瞼(男性39例,女性93例),平均年齢67.3±11.6歳について検討した。

方法:手術方法は眼瞼皮膚切開後瞼板中央に達し,瞼縁側の瞼板上の組織をペアンで把持して,瞼板をドーム状になるように斜め上方へ引き上げ牽引することで,Müller筋を立体的に引き出し,2か所でタッキングするMüller筋牽引縫縮眼瞼下垂手術(Extended Müller Tucking法)で行った。

結果:手術時間は両眼で33.2±5.8分であった。術後は全例MRD(marginal reflex distance)の改善がみられ,平均3.0±1.1mmの挙上が得られた。

結論:Extended Müller Tucking法は,低侵襲で安全,確実な上眼瞼挙上術である。

両眼脈絡膜骨腫に脈絡膜新生血管を合併した1例

著者: 高橋静 ,   鈴木幸彦 ,   陳内嘉浩 ,   吹田淑子 ,   目時友美 ,   中澤満 ,   佐藤元哉

ページ範囲:P.695 - P.702

要約 目的:ベバシズマブ硝子体注射(IVB)で加療した両眼脈絡膜骨腫例の報告。

症例および経過:39歳男性が右眼眼底出血の精査を目的として受診した。矯正視力は右1.2,左1.0であった。両眼の黄斑部に黄白色の病変が存在し,眼窩部CT検査で眼球後壁に石灰化があり,脈絡膜骨種と診断した。精査により右眼には脈絡膜新生血管(CNV)が生じていたことが判明したため,IVBを行った。右眼変視は改善したがその後,著明な漿液性網膜剝離(SRD)が生じ,IVBを2回追加したが右矯正視力は0.01まで低下した。続いて左眼に変視を自覚し,CNVを認めたため速やかにIVBを行い,初診から20か月後の現在まで矯正視力1.0を維持している。

結論:脈絡膜骨腫に伴うCNVでは,SRDが持続すると視力低下をきたすため,早期に抗VEGF薬硝子体内注射を行い,腫瘍部の活性を抑制したほうがよい。

書評

《眼科臨床エキスパート》緑内障治療のアップデート

著者: 富田剛司

ページ範囲:P.724 - P.724

 医学書院の《眼科臨床エキスパート》シリーズに新たに『緑内障治療のアップデート』が加わった。金沢大学の杉山和久教授ならびに熊本大学の谷原秀信教授という現在の日本の緑内障学を牽引する最も脂の乗った先生方の編集によるものである。昨今は,医療のスタンダーダイゼーションの波が押し寄せ,さらにはエビデンスに基づいた医療の実行が世界的な規模で求められるようになってきている。わが国でも今後,眼科分野においても新しい診療ガイドラインの策定が精力的に行われるようになると思われる。

 そのような流れの中で,緑内障治療に関する現時点における最もアップツーデートで新しいスタンダード,いわゆる,PPP(preferred practice pattern)につながる流れを示唆する教科書が本書であると考える。ただ難しい文献を並べて,それを云々する内容ではない。より積極的に,この手技・治療はこうあるべきだということを主張しつつ,その根拠を文献によってしっかり押さえてある。

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欧文目次

ページ範囲:P.632 - P.633

ことば・ことば・ことば 合

ページ範囲:P.680 - P.680

 「症状」symptomと「徴候」signとは混同されがちですが,本来は基本的に違った概念です。アメリカのWebster辞典第3版(1961)は,両者の違いを鮮やかに説明しています。以下がその定義で,イタリックの斜体の文章は例文です。

 Symptom:Subjective evidence of disease or physical disturbance observed by the patient. Headache is a symptom of many diseases.

第34回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.708 - P.708

べらどんな 20億回の拍動

著者:

ページ範囲:P.758 - P.758

 網膜色素線条(angoid streaks)は妙な疾患である。

 眼底に地割れのような色素線が生じるのが特徴で,そのほとんどが無症状である。色素線の形は一定しないが,乳頭を囲む色素輪と,これから放射状に延びることが多い。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.792 - P.798

次号予告

ページ範囲:P.799 - P.799

希望掲載欄

ページ範囲:P.802 - P.802

あとがき

著者: 寺崎浩子

ページ範囲:P.804 - P.804

 第120回日本眼科学会総会も盛会に終わり,さわやかな季節のもとで,診療,あるいは教育,研究に励んでいらっしゃることと存じます。他科領域もそうだと思いますが,医学の進歩は年々速度を増しているような気がします。海外の学会に行くと,遺伝子治療などや人工網膜移植などが臨床例として発表され,日本でも尽力をしていかなければならないと感じているこの頃です。もちろんiPS移植など,日本オリジナルの医療を海外に発信することも期待されています。

 今月号は第69回日本臨床眼科学会講演集の第3回目となります。過去に論文報告のある事例でも,改めて実際の臨床経過が書かれている症例報告を読むと,自身の症例のように実感し日常診療に役立ちます。副作用や合併症などに関する事例は,ともすると報告に躊躇することもあるかと思います。しかしながら,我々は勇気をもって報告してくださった著者に感謝しながら論文を読むことで経験を増やすことができます。貴重な機会を大切にして日々勉強していただきたいと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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