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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科70巻9号

2016年09月発行

雑誌目次

特集 第69回日本臨床眼科学会講演集[7] 原著

網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対するトリアムシノロン・テノン囊下注射の治療成績

著者: 塩崎直哉 ,   中村裕介 ,   大矢佳美 ,   安藤伸朗

ページ範囲:P.1407 - P.1411

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫に対するトリアムシノロン・テノン囊下注射(STTA)の治療成績の報告。

対象と方法:過去6年間においてSTTA施行後3か月以上経過観察可能であった94例96眼。治療前後での術前および術後各時点での矯正視力(logMAR)と網膜厚(μm),術前および術後最高眼圧(mmHg)を後ろ向きに比較検討した。さらにSTTA治療前後の治療法について検討した。

結果:logMAR視力は術前0.38・術後24か月0.15(p<0.01),網膜厚は術前550.5・術後24か月314.8(p<0.01)であった。眼圧は術前14.7mmHg,術後最高17.1mmHg(p=0.91)であった。術後眼内炎はなかった。STTAのみ(レーザー治療も含める)で治療可能できたものは67%を占めた。

結論:BRVOに伴う黄斑浮腫に対するSTTAは有効であり,重篤な合併症も少ない。

鼻涙管閉塞に対する涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術の治療成績と術前培養菌種の検討

著者: 鎌尾知行 ,   白石敦 ,   高橋直巳 ,   山下有香 ,   大橋裕一

ページ範囲:P.1413 - P.1418

要約 目的:鼻涙管閉塞に対する涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術の治療成績に対する術前分離菌の関与の検討。

対象と方法:2010年11月〜2014年9月に涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術を施行し,術前涙囊分泌物を培養し,かつ涙管チューブ抜去後6か月以上経過観察できた64例74側を対象とし,菌種ごとの再発率を分離の有無で比較検討した。

結果:術後経過観察期間は10.8±9.3か月,術後再発は16側(21.6%),菌分離は58側(78.4%)に認めた。分離菌種数における再発率は,菌分離なし群12.5%,1種分離群7.7%,2種以上分離群37.5%と3群間で有意差を認めた(p=0.0141)。各菌種の分離群と非分離群で再発率を検討すると,Streptococcus anginosus groupにおいて分離群が非分離群より有意に再発率が高かった(p=0.0192)。

結論:涙囊炎起因菌種と分離菌種数により,涙管チューブ挿入術後成績が異なる可能性がある。

多焦点眼内レンズ交換症例の背景因子の検討

著者: 石田暁 ,   清水公也 ,   飯田嘉彦 ,   伊藤美沙絵

ページ範囲:P.1419 - P.1423

要約 目的:多焦点眼内レンズ(IOL)の交換が行われた症例の背景因子の検討。

対象と方法:過去6年間に多焦点IOLの交換が行われた19例24眼を対象とした。男性7例,女性12例で,年齢は49〜75歳,平均63歳である。14例では両眼に多焦点IOLが挿入され,うち9例では片眼交換,5例では両眼交換が行われた。17例22眼では,他医により多焦点IOLが挿入されていた。

結果:挿入されていた多焦点IOLの種類は,屈折型4眼,回折型20眼で,交換までの期間は平均21.4か月であった。術前の眼合併症または手術歴は,LASIK後が4眼,緑内障が4眼,黄斑上膜が2眼にあった。交換を要する原因は,waxy visionが16眼(67%)にあり,強い違和感を自覚する傾向があった。

結論:現行の多焦点IOLには,交換を要するほどの不満足例が一部にある。慎重な適応の選択と,多焦点IOLの特性と見え方についての説明が望まれる。

線維柱帯切開術ab interno法とTrabectome®の短期治療成績の比較

著者: 真鍋伸一 ,   林研

ページ範囲:P.1425 - P.1431

要約 目的:線維柱帯切開術ab interno法(以下,iSLOT)とTrabectome®(以下,TOM)の術後3か月までの短期成績の比較検討。

対象と方法:対象は,広義開放隅角緑内障に両手術を施行し,3か月以上経過観察した196眼(TOM 141眼,iSLOT 55眼)。評価項目は,術前因子(病型,年齢,投薬スコア,眼圧,角膜内皮細胞密度),術中術後因子(白内障同時手術,線維柱帯切開範囲,前房出血量,一過性高眼圧,角膜内皮細胞密度,眼圧)。

結果:平均年齢70.5±10.8歳。術前と術後3か月眼圧はTOMが24.9±7.8,15.0±3.7,iSLOTが30.2±9.6,13.8±4.4で,iSLOTのほうが術後3か月の眼圧は有意に低く,前房出血スコアは高く,一過性高眼圧は少なかった。

結論:iSLOTはTOMより術後3か月での眼圧下降効果は高い。

Mチャート®を用いた黄斑前膜手術後の変視改善の評価

著者: 森井智也 ,   住岡孝吉 ,   宮本武 ,   岡田由香 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.1433 - P.1436

要約 目的:黄斑前膜手術後の変視の変化の程度をMチャート®を用いて検討した結果の報告。

対象と方法:過去15か月間に黄斑前膜手術を施行し,術前後にMチャートで定量的に評価されていた55例57眼を対象とした。土橋分類に沿って4群に分類し,術前後での変視量を比較検討した。50眼で白内障手術を併施し,術前後での最良矯正視力を比較検討した。

結果:Mチャートでの変視量は,全体で有意に改善を認めた。土橋分類による4群では,改善を認めた群と認めなかった群が存在した。

結論:変視症を定量化できるMチャートは術後の評価に有用であると考えた。黄斑前膜の状態が変視症の改善の程度に影響することが示された。

春季カタルの結膜表面におけるEGF受容体発現

著者: 小林万莉 ,   庄司純 ,   稲田紀子

ページ範囲:P.1437 - P.1442

要約 目的:春季カタル患者の球結膜でのepidermal growth factor receptor(EGFR)mRNA発現の検討。

症例と方法:春季カタルがある18例18眼を対象とした。男性16例と女性2例で,年齢は16.6±8.7歳である。Schirmer検査を行ったSchirmer試験紙の先端5 mmを切除して検体とし,real-time RT-PCR法により,EGFR mRNA発現量をΔΔCT法で検討した。春季カタルがない7例7眼を対照とした。

結果:春季カタルでのEGFR 発現量は0.06〜1.8,中央値0.4であり,対照群での0.7〜1.6,中央値1.1と比較して有意に低値であった(p<0.01)。

結論:春季カタルでは,球結膜でのEGFR mRNA発現が低下する。

水晶体囊混濁のない水晶体囊内に挿入された眼内レンズが脱臼を繰り返した1例

著者: 安田慎吾 ,   宮本武 ,   石川伸之 ,   髙田幸尚 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.1443 - P.1447

要約 目的:囊内に挿入された眼内レンズ(IOL)が脱臼を繰り返し,最終的に水晶体囊ごとIOLを摘出した症例の報告。

症例と経過:34歳男性が他医で2年前に白内障手術を受け,当科で右眼に白内障手術を受けた。両眼とも水晶体囊の混濁はなく,IOLは囊内に固定され,偏位はなかった。幼少時から全身にアトピー性皮膚炎があり,眼周囲をこする癖があった。3年後に左眼の視力低下で受診した。IOLの支持部が虹彩前面に脱出して偏位し,Zinn小帯が部分的に断裂していた。IOL整復術が行われた。1か月後にIOLが再び脱臼し,光学部が大きなIOLと交換した。2年後にIOLが三度目の脱臼を起こし,IOLを水晶体囊とともに摘出した。摘出した水晶体囊には混濁はなかった。右眼には経過中に問題はなかった。

結論:後発白内障が囊内に挿入したIOLの固定に関与している可能性がある。

高度の視野異常を合併した網膜下線維性増殖を伴う汎ぶどう膜炎の1例

著者: 小川翔吾 ,   居明香 ,   壺井秀企 ,   矢寺めぐみ ,   河野剛也 ,   白木邦彦

ページ範囲:P.1449 - P.1454

要約 目的:高度の視力と視野障害を呈した網膜下線維性増殖を伴う汎ぶどう膜炎の症例の報告。

症例と経過:29歳女性が両眼の視力低下で,ぶどう膜炎として紹介受診した。父親が悪性リンパ腫であった。矯正視力は右1.0,左手動弁で,限界フリッカ値は右38Hz,左測定不能であった。両眼の前房と硝子体内に細胞が浮遊し,乳頭の鼻側に弧状の網膜下線維性病変があった。耳側と周辺視野に狭窄があり,網膜電位図でb波の減弱があった。ステロイドパルス療法で,視力は右1.2,左1.0になり,限界フリッカ値は右41Hz,左40Hz,周辺視野は正常化し,網膜電位図は正常波形になった。

結論:網膜下線維性増殖を伴う汎ぶどう膜炎に対するステロイドパルス療法で,視力低下と視野障害は,網膜機能とともに劇的に改善した。

前眼部光干渉断層計が毛様体解離範囲の同定に有用であった低眼圧黄斑症の1例

著者: 横山一弘 ,   高橋淳士 ,   川井基史 ,   中林征吾 ,   長岡泰司 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.1455 - P.1460

要約 目的:低眼圧症に対し,前眼部光干渉断層計(AS-OCT)により毛様体解離の範囲を同定した後,強膜毛様体縫合術を行った症例の報告。

症例:60歳男性が右眼の眼内レンズ脱臼で紹介受診した。23年前に金属片により右眼が受傷し,その9年後に眼内レンズが挿入された。その5年後に鈍性外傷で眼内レンズが脱臼し,無水晶体眼になった。5か月前に眼内レンズ縫着を受けた。矯正視力は1.2,眼圧は9mmHgであった。

所見と経過:右眼視力は0.5,眼圧は5mmHgで,眼内レンズの状態に異常はなく,眼底に黄斑浮腫など低眼圧症の所見があった。隅角鏡検査で右眼の隅角に2時半から4時にかけての隅角解離と毛様体解離があった。AS-OCTでは,毛様体解離は隅角鏡検査よりも広い範囲にあった。その後,強膜毛様体縫合術を行った。術後のAS-OCTで毛様体解離は消失し,矯正視力は1.0,眼圧は10mmHgになり,網脈絡膜皺襞など低眼圧黄斑症の所見が消失した。

結論:AS-OCTは,外傷性の毛様体解離の術前術後の評価に有用であった。

両側顔面神経麻痺から完全型Heerfordt症候群を認めた1例

著者: 三根正 ,   古賀隆史

ページ範囲:P.1461 - P.1464

要約 目的:両眼性顔面神経麻痺で発症し,完全型Heerfordt症候群を呈した1症例の報告。

症例:31歳女性が左側の顔面神経麻痺で受診した。2週前に右側の神経麻痺があり,プレドニゾロンの経口投与で軽快していた。

所見と経過:両眼の前眼部に眼サルコイドーシスの典型的な所見があり,左眼に硝子体混濁と網膜血管炎があった。微熱,耳下腺腫脹,ふどう膜炎があり,完全型のHeerfordt症候群と診断した。

結論:Heerfordt症候群が顔面神経麻痺で初発することがある。

Uveal effusion syndromeにおける網脈絡膜の光干渉断層計による観察

著者: 杉本八寿子 ,   木村元貴 ,   城信雄 ,   中道悠太 ,   正健一郎 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1465 - P.1472

要約 目的:Uveal effusion syndrome(UES)2症例のスペクトラルドメイン光干渉断層計(SD-OCT)による所見の報告。

症例:第1例は67歳女性で,左眼黄斑部の網膜剝離で受診した。15年前に両眼に網膜剝離を伴う脈絡膜剝離が発症した。UESと診断され,右眼に2回,左眼に1回の強膜開窓術が行われ,寛解していた。眼軸長は左右眼とも約16mmであった。第2例は39歳男性で,24年前に両眼にUESが発症し,右眼に4回,左眼に5回の強膜開窓術が行われ,寛解していた。眼軸長は左右眼とも約23mmであった。

所見と経過:活動期にあると推定される第1例では,SD-OCTにより両眼に顕著な脈絡膜肥厚があり,脈絡膜内層から中層に点状高反射が多発していた。右眼には網膜外層が消失し,outer retinal tubulationがあり,左眼には脈絡膜反射が増強していた。陳旧期にあると推定される第2例では,右眼のellipsoid zoneが保たれ,脈絡膜肥厚と脈絡膜内層から中層に点状高反射が多発していた。左眼では網脈絡膜の菲薄化,網膜外層の消失,網膜色素上皮から脈絡膜の薄い高反射帯,脈絡膜反射の増強があった。

結論:UESの陳旧期には,網膜外層と網膜色素上皮の障害を示す所見があった。活動期と陳旧期にある脈絡膜の点状高反射は,高密度の脈絡膜血管に相当すると解釈された。

治療後長期間生存している悪性視神経膠腫の1例

著者: 藤原望 ,   中内正志 ,   正健一郎 ,   山田晴彦 ,   最所千晶 ,   岩田亮一 ,   亀井孝昌 ,   淺井昭雄 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1473 - P.1478

要約 目的:悪性視神経膠腫に対し,腫瘍切除,放射線治療,化学療法が行われ,転帰が良好な症例の報告。

症例:59歳女性が左眼の網膜中心動脈閉塞症として紹介受診した。2か月前に急激な左眼視力障害を自覚したが放置していた。

所見と経過:矯正視力は右眼1.2,左眼光覚なしであった。左眼の乳頭は境界不鮮明で腫脹し,蒼白であった。MRIで左眼の球後から視交叉にかけて視神経の肥大があり,視神経膠腫が疑われた。視交叉から前方の視神経と左眼球を摘出した。病理組織学的に,退形成性星状細胞腫と診断された。術3年後の現在まで経過は良好である。

結論:成人に発症した視神経膠腫は急速に進行し,生命予後が不良とされている。本症例は術後3年間,経過が良好であった。

自覚症状がなく,学校検診での軽度の異常を契機に診断されたCoats病の2例

著者: 藤田周子 ,   白井久美 ,   岡田由香 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.1479 - P.1484

要約 目的:学校検診での異常を契機として発見された自覚症状がないCoats病2例の報告。

症例:それぞれ7歳と12歳男児で,1例は学校検診で眼位異常,他の1例は片眼の視力低下を指摘された。いずれも患眼の矯正視力は良好で,眼底周辺部に網膜下の滲出と網膜血管異常があった。両症例ともCoats病と診断し,網膜光凝固を行った。

結論:今回の2症例では,学校検診での異常を契機としてCoats病が発見され,早期治療を行うことができた。

急性骨髄性白血病寛解期に再発を繰り返した浸潤性視神経症の1例

著者: 池上靖子 ,   田中俊一 ,   高橋美幸 ,   高野弥奈

ページ範囲:P.1485 - P.1492

要約 目的:急性骨髄性白血病の視神経浸潤が,白血病の寛解期に再発を繰り返した症例の報告。

症例:64歳男性が1か月前からの左眼視力低下で受診した。約4年前に急性骨髄性白血病が発症し,化学療法で寛解していた。

所見と経過:視力は右0.3,左手動弁で,両眼の乳頭に軽度の発赤があった。髄液検査で細胞数が増加し,白血病細胞があり,白血病視神経浸潤と診断した。ステロイドパルス療法と抗癌剤の髄腔注入で眼所見は改善したが,以後6か月間に3回の再発があり,加療を繰り返した。初診から8か月後に両眼に乳頭浮腫が生じ,MRIで視神経の腫大があった。放射線照射で視力は維持された。その2年後に再発があり,放射線照射で視力が維持された。2か月後に全身状態が悪化し,不帰の転帰をとった。

結論:急性骨髄性白血病の視神経浸潤の症例で,早期診断と治療により,比較的長期間の視機能が保持された。

両眼に同時発症した非動脈炎性虚血性視神経症の1例

著者: 髙良太 ,   岡村寛能 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1493 - P.1497

要約 目的:非動脈炎性虚血性視神経症が両眼に同時発症した症例の報告。

症例:46歳女性が3日前からの左眼の視野異常で受診した。経口避妊薬を使用中であった。

所見と経過:矯正視力は右1.5,左1.2で,両眼に視野の下方が欠損する水平下半盲があった。対光反射は正常で,両眼の乳頭が蒼白腫脹していた。単純CT検査で頭蓋内に病変はなく,視神経の所見も正常であった。フルオレセイン蛍光眼底造影で乳頭の部分的充塡遅延が両眼にあった。血液所見には異常がなかった。これらの所見から,非動脈炎性虚血性視神経症と診断した。6か月後の現在まで,視力と視野に変化はない。

結論:本症例では,経口避妊薬が血栓形成などを通じ,非動脈炎性虚血性視神経症の両眼発症に関係した可能性がある。

今月の表紙

サルコイドーシス

著者: 水澤剛 ,   後藤浩 ,   中澤満

ページ範囲:P.1356 - P.1356

 症例は36歳,男性。左眼の視力低下を自覚し,近医を受診。転移性眼内腫瘍の疑いで当院紹介受診となった。

 初診時視力は右0.15(1.5×−4.25D()cyl−1.00D 180°),左0.125(1.2×−4.25D()cyl−0.75D 140°),眼圧は右11mmHg,左11mmHg前眼部,中間透光体に異常はなかった。左眼の眼底には黄斑部に網膜前膜と,視神経乳頭より下方アーケードに沿って新生血管を伴った結節性の白色隆起病変を認めた。右眼に異常はなかった。

連載 今月の話題

眼科医に必要な重粒子線治療の最新知識

著者: 溝田淳

ページ範囲:P.1357 - P.1363

 眼科領域では,悪性腫瘍は頻度は高くはないが,感覚器である眼球のそばに発生する,あるいは眼球の中に発生するためにその治療に苦慮することが多い。治療法によっては,視機能に関する問題や,整容的にも問題になることが多い。重粒子線はその物理学的,生物学的特性から従来放射線感受性が低いとされていた腫瘍にも応用が期待されており,眼科領域の腫瘍に対しても新たな治療として期待されている。本稿では重粒子線による眼科領域の腫瘍の治療について論ずる。

熱血討論!緑内障道場—診断・治療の一手ご指南・第8回

高眼圧症—小児の高眼圧症への治療方針はどうしますか?

著者: 鈴木克佳 ,   狩野廉 ,   家木良彰

ページ範囲:P.1366 - P.1371

今月の症例

【患者】7歳,女児

【主訴】精査希望

【現病歴】両眼の結膜炎で近医を受診した際に,高眼圧(右眼27mmHg,左眼24mmHg)を認め,精査目的で当科へ紹介された。

蛍光眼底造影クリニカルカンファレンス・第9回

網膜中心静脈閉塞症

著者: 小島彰

ページ範囲:P.1372 - P.1377

疾患の概要

 網膜中心静脈閉塞症(central retinal vein occlusion:CRVO)は,視神経内の篩状板付近に血栓が形成され静脈内圧が上昇し,4象限すべてにおいて網膜静脈の拡張と蛇行,網膜出血を呈する疾患である1)。高血圧や動脈硬化などの基礎疾患をもつ中高年に多くみられるが,基礎疾患のない若年者でも発症することがあり,原因として乳頭血管炎などの視神経周囲の炎症が考えられている。循環障害に伴う血管透過性亢進により黄斑浮腫を生じ視力低下をきたす。毛細血管床閉塞の広さによって非虚血型と虚血型に分けられ,虚血型では虹彩新生血管を生じ血管新生緑内障を発症する可能性が高い2)。網膜中心静脈が2本に分かれており,その一方だけが閉塞することで上方または下方2象限のみに病変がみられるものは半側網膜中心静脈閉塞症(hemi CRVO)と呼ばれる。閉塞領域の広い網膜静脈分枝閉塞症(branch retinal vein occlusion:BRVO)とhemi CRVOとは,動静脈交叉部など中心静脈以外の部位での閉塞か否かで区別できる。

 フルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angio-graphy:FA)では,腕-網膜循環時間,網膜内循環時間,無灌流領域(non-perfusion area:NPA)の有無,蛍光漏出の部位と程度を評価する。腕-網膜時間は,フルオレセイン静注後から網膜循環が開始するまでの時間で,正常は10〜15秒である。網膜内循環時間は,網膜動脈充盈開始から乳頭近傍の大静脈に充盈開始するまでの時間で,正常は約10秒である。CRVOでは腕-網膜循環時間は正常またはわずかに遅延していることが多いが,網膜内循環時間は遅延していることが多く3),20秒以上の場合には虹彩新生血管を発症するリスクが高いとされる4)

目指せ!眼の形成外科エキスパート・第25回

涙道内視鏡を用いた流涙症の検査と治療—涙カメラで不治の病,涙目に挑む

著者: 後藤英樹

ページ範囲:P.1378 - P.1383

はじめに

 眼窩,眼形成を専門としない通常の研修を受けた眼科医師の涙道疾患(特に涙道閉塞症)とのかかわりは「涙囊洗浄(いわゆる涙洗)」や「先天性鼻涙管閉塞のブジー」が代表的です。前者は検査として涙管通水(D277)といわれたり,処置として涙囊ブジー(洗浄含む,J092)といわれたりする,鈍針での涙道洗浄手技です。後者は特に専門家でなければ現在無理にブジーせず経過観察でもよいのではという論議がなされています。

 実際の眼科診療では涙目(流涙症,涙道閉塞症)の患者数はきわめて多く〔特に高齢者(診断は前回の鶴丸先生の稿を参照)〕,対処としては投薬のみ,または涙洗処置を行うのみ,ということで,この疾患は根本的な治療が難しい不治の病として扱われていることが多いのが実態です。

 そもそもが人間の体で健常であるべき粘膜管腔が塞がったままになるという不思議な病態であり,そこに感染を併発してしまったりと,もっと病因や原因を探り,予防ができるようになるべきなのですが,その道は遠そうであり,対処が精一杯なのが現状です。その現状への対処で涙洗から一歩進んだのが涙管チューブ挿入術です。これはすばらしい進歩でしたが,盲目的涙道ブジーと盲目的涙管チューブ挿入の組み合わせによっていたため,症例により仮道を作ってしまう可能性がなくなりませんでした。

 「涙道の中を見たい!」「涙管チューブを仮道でなく確実に涙道に留置したい!」それは多くの眼科医がもっていた夢でありました。他の部位で考えると,胃疾患へのアプローチは皮膚側から胃カメラによる内視鏡診療ですむことが増えてきました。涙道は,“涙カメラ”はなんとかならないものか? これは実際には一部で開発が進み,2002年頃から実用可能となっています(図1〜3)(涙道内視鏡は鼻内視鏡と組み合わせて使用されます)。しかし敷居が高いという声もよく聞き,一般的に広まっているとは言いがたい状態です。とはいえ,涙道を直接観察できるという利点はやはり何物にも代えがたいと思います。興味のある先生は,①フォーサム日本涙道・涙液学会総会涙道内視鏡スキルトランスファー,②D & D東京涙道機械展示,③メーカー各社へのデモ依頼,④教科書「涙道内視鏡入門!」1)などにアプローチしてみるとよいと思います。

 涙道内視鏡の導入は簡単なのかという質問には,「やる気と根性があれば必ず克服できます」と答えることにしています。少なくともブジーの経験者ならば必ず取りかかれるはずです。なぜならカメラ機能のついたブジーを入れるだけですから! わからなくなれば目を閉じて盲目的ブジーに戻るだけです。ドンマイドンマイ! しかし実際には,特に最初は,小さな問題が起こることもあるのですが…しばしば。講演会などで目にする涙道内視鏡や鼻内視鏡の画像は非常に勉強になりますが,解剖などに慣れないと何を見ているのかわからないことも多いと思います。ある程度の慣れが必要なのは他の眼科の手技と同様ですが,破囊して眼内炎,などのような厳しいことは鼻の処置(喉につながっているので呼吸にかかわる)を除けばあまり考えなくてよいと思います2,3)

海外留学 不安とFUN・第9回

サンディエゴ(ラ・ホヤ)での研究生活・2

著者: 﨑元晋

ページ範囲:P.1386 - P.1387

スクリプス研究所

 私が所属するスクリプス研究所は,バイオメディカル分野におけるアメリカ最大規模の非営利の私立研究所で,カリフォルニア州とフロリダ州に2つのキャンパスがあります。大学院大学のシステムを取っており,学生は博士号を取得する目的で入学しますが,この研究所に占める学生の割合は非常に少なく,主にポスドクやファカルティによって構成されています。その内訳は200人以上のPI(principal investigator)をはじめとして,約500人以上のポスドク,総スタッフは約2,500人以上にのぼります。

 スクリプス研究所の起源は1924年に創立されたScripps Metabolic Clinicまでさかのぼり,そこからスタートしたこの研究所は主に生物学的・化学的な研究科で占められています。これまで4人のノーベル賞受賞者を輩出しており,最近ではToll様受容体を発見した,ボイトラー博士(現在はテキサス大学)がノーベル生理学・医学賞を受賞しています。サンディエゴに存在する他の研究所群と同様,非常に国際色豊かで,ポスドクは世界各国から集まってきており,日夜研究に励んでいます。日本人のポスドクも数多く在籍しており,その交流も盛んです。

臨床報告

Behçet病に合併した壊死性強膜炎の1例

著者: 三輪裕子 ,   吉田章子 ,   三河章子

ページ範囲:P.1389 - P.1395

要約 目的:Behçet病に併発した壊死性強膜炎の1例の報告。

症例:40歳女性が2日前からの右眼瞼の蜂窩識炎の疑いで紹介受診した。8年前に口腔内アフタ,結節性紅斑,関節炎,虹彩炎,陰部潰瘍が発症し,完全型Behçet病と診断されていた。

所見と経過:矯正視力は左右眼とも1.5で,右眼にびまん性強膜充血があり,耳側球結膜に黄白色の結節があり,右眼瞼の発赤腫脹があった。造影CTで増強効果があり,壊死性強膜炎と診断した。眼瞼と頬部に感染が併発していた。抗菌薬,プレドニゾロン,シクロスポリンの全身投与で,翌日に改善傾向があり,14日後にほぼ軽快した。1年後の現在まで再発はない。

結論:8年前に発症したBehçet病の症例の片眼に生じた壊死性強膜炎に対し,シクロスポリンなどの全身投与で早期の寛解が得られた。

早期診断により保存的加療が可能であったリステリア性眼内炎の1例

著者: 中澤祐則 ,   川野浩輝 ,   棈松徳子 ,   中尾久美子 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1397 - P.1400

要約 背景:リステリアはグラム陽性の桿菌で,自然界に広く存在し,時に眼感染症の原因になる。

目的:発症から6日後にリステリア眼内炎の診断が確定し,保存的治療で軽快した1症例の報告。

症例:71歳女性が3日前からの左眼の充血と疼痛で受診した。20年前から関節リウマチに対し,メトトレキサートとプレドニゾロンなどを服用していた。

所見と経過:矯正視力は右1.5,左0.04で,左眼に前房蓄膿を伴う眼内炎があった。硝子体と眼底の所見は不明であった。前部ぶどう膜炎として加療したが,病状は悪化した。発症から6日目に採取された前房水からListeria monocytogenesが検出され,これに対するペニシリン系の抗菌薬の全身投与を開始した。眼内炎の所見は発症の3週間後に軽快し,左眼視力は0.7に回復した。

結論:本症例では,リステリア眼内炎の診断が早期に確定して治療を開始したことで,良好な転帰が得られた。

血液透析の時間短縮を契機にスパイク状の高眼圧を生じた1例

著者: 真鍋佑介 ,   澤田明 ,   山本哲也

ページ範囲:P.1401 - P.1406

要約 目的:血液透析の時間短縮を契機にスパイク状の高眼圧を生じた1例を報告する。

症例:20歳時に急性腎不全を発症し,以後血液透析中の42歳男性。半年前から頻回に左眼霧視を自覚していた。

所見:眼圧は右13mmHg,左53mmHg。右眼は開放隅角,左眼に全周の周辺虹彩前癒着を認めた。左眼にマイトマイシンC併用線維柱帯切除術を施行し,術後眼圧は10〜18mmHgと低下した。右眼にも血液透析後のスパイク状の眼圧上昇を生じるようになったが,高浸透圧補液併用の血液透析および血液透析時間の補正を依頼したのち,眼圧は正常値内に維持された。

結論:緑内障症例では,血液透析後のスパイク状の眼圧上昇に注意すべきである。また,血液透析時間にも留意する必要がある。

書評

《眼科臨床エキスパート》知っておきたい眼腫瘍診療

著者: 三村治

ページ範囲:P.1412 - P.1412

 この《眼科臨床エキスパート》シリーズは眼科実地臨床のエキスパート達が自らの知識と豊富な臨床経験に基づいてさまざまな疾患の解説を行うものであり,臨床眼科医必携のシリーズである。本書のように,テーマによっては項目の最後に「一般眼科医へのアドバイス」という実際の症例に遭遇した時の診療の注意やコツまで記載されているタイトルもあり,専門外の読者にとってはありがたい。

 しかし,シリーズ新刊『知っておきたい眼腫瘍診療』でまず衝撃を受けた(読者の先生方はこれから受けるであろう)ことは,その圧倒的なボリュームの多さである。総頁459ページというまさに圧巻の解説書である。しかも内容も素晴らしい。総論に200ページ余りを費やして,大きな分類ごとに「疫学的事項」から始まり,「初診時の外来診療—どう診てどう考えるか」「診断・治療に必要な検査」「治療」を非常にわかりやすく解説しておられる。これは眼腫瘍専門家ではないものの,時々眼腫瘍を診療する機会のある私たちにとって非常にありがたい。

《日本医師会生涯教育シリーズ》Electrocardiography A to Z 心電図のリズムと波を見極める

著者: 相澤義房

ページ範囲:P.1448 - P.1448

 このたび,磯部光章先生,奥村謙先生の監修による,『Electrocardiography A to Z 心電図のリズムと波を見極める』が刊行された。本書は日本医師会企画による第一線の臨床医に向けた循環器領域のシリーズ『心電図のABC』のいわば改訂版とも言えるものである。

 「監修・編集のことばにあるように,心電図や不整脈のわかりやすい入門書であると同時に,最近の不整脈治療の進歩が理解できるように企画されている。その結果,非専門医であっても,心電図と不整脈を自ら診断し,臨床的意義を再確認できるとともに,最新治療との関わりを確認することができる。また退屈になりがちな心電図の記録法や波形の成り立ちの記述も,カラーで見やすく,簡潔かつ十分に内容のある口絵としてまとめられている。このカラー口絵と第Ⅰ章で,心電図の基本的知識が十分に身につく。第Ⅱ章では心電図や不整脈診断における一般的な流れが示されている。このようなアプローチは,心電図や不整脈診断や判読の基本で,その流れの先にはおのずと正しい診断があると言える。第Ⅲ章以下,異常所見や不整脈があった場合,その病態やメカニズムはどうなっているのか,どのような治療がありかつ必要とされるかも述べられており,大変に実用的でもある。

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欧文目次

ページ範囲:P.1354 - P.1355

第34回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1385 - P.1385

ことば・ことば・ことば リンゴ

ページ範囲:P.1388 - P.1388

 英語のapple of the eyeは「瞳孔」のことです。これは中世の頃には,虹彩にあいた孔ではなく,球であると考えられたからです。

 リンゴは何千年もの古い歴史があるので,ヨーロッパだけでも名前が大きく違います。ドイツ語のApfelだけは英語と似ていますが,あとはフランス語のpommeやラテン語のmalusのように形がまったく違います。

べらどんな 再現性

著者:

ページ範囲:P.1424 - P.1424

 論文が発表されると,「追試」がよく行われる。これが基礎的な学問の分野であれば必須であるし,医学の臨床でも,その内容が学界で認められるためには望ましい。

 中谷宇吉郎(1900-1962)という物理学者がいた。寺田寅彦の一番弟子であった。32歳で北海道大学の教授になったが,イギリスに留学したときの「X線による元素の内部構造の解析」ではなく,「雪」を専門に研究した。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1498 - P.1508

希望掲載欄

ページ範囲:P.1512 - P.1512

アンケート用紙

ページ範囲:P.1514 - P.1514

次号予告

ページ範囲:P.1515 - P.1515

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1516 - P.1516

 「臨床眼科」9月号をお届けします。小欄執筆時の本日は実は七夕なのですが,9月のことをあれこれと連想しながら書いています。リオデジャネイロオリンピックが8月で終わり,何となく祭りの後の空虚感に浸りつつも,9月のパラリンピックを観戦している,といった状況が思い浮かびます。4年前のロンドン大会がつい先日のことのように感じられますが,そうすると4年後の東京大会などもあっという間ということになります。本当に早いものですね。私なども任された任期に限りがありますので,とにかく集中力をいかに維持させるかが常に自分に対する課題となっています。

 ところで,今月も「臨床眼科」は盛りだくさんの内容です。「今月の話題」では溝田淳先生に重粒子線治療による涙腺悪性腫瘍と脈絡膜悪性黒色腫の治療の現状について大変わかりやすく解説していただきました。両腫瘍とも標準的治療では眼球を残すことが厳しい状況ですが,視機能はともかくも眼球温存を図ることができるという点において重粒子線療法には有用性があるものと思います。ただ,私の経験では眼球温存できるからといって手放しで喜べないことも理解しておく必要があるようで,放射線網膜症に伴う血管新生緑内障の発症は念頭に置いたほうがよく,場合によっては予防的な網膜光凝固も早期に考慮すべきではないかと感じています。「緑内障道場」では小児の「高眼圧」症例に対する考え方が実に要領よく述べられています。私も時にこのような症例を診察することがあり,長い将来のある小児を高眼圧症として治療開始するべきかどうか迷うことがあります。本欄はその指針として非常に有用な内容になっています。その他にもさまざまな内容があり,オリンピック後の空虚感を紛らわせるのに十分すぎるほど充実した本号を,早秋の読み物としてご愛読願います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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