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特集 涙器涙道手術の最近の動向
ドライアイ治療
著者: 柿栖康二1
所属機関: 1東邦大学医療センター大森病院眼科
ページ範囲:P.1518 - P.1523
文献購入ページに移動はじめに
ドライアイの定義と診断基準は2016年に改定され,「様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」と定義されている(2016年,ドライアイ研究会)。また診断基準についても「涙液層破壊時間(tear film break-up time:BUT)5秒以下かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する」と改定された。2006年の定義,診断基準と大きく異なる点は,シルマー試験による涙液量の評価および角結膜上皮障害の評価が除外されたことである。ドライアイのコアメカニズムは,「涙液層の安定性の低下」であると考えられており,涙液層の破壊がドライアイの診断において重要視されている。眼表面には親水性で高分子の糖蛋白質であるムチンが発現しており,涙液の保持などの重要な役割を担っているが,ドライアイ患者においてはムチンの発現が減少していることが知られている1)。
ドライアイの治療薬は長年,眼表面の水分量の増加を目的としたヒアルロン酸点眼と人工涙液のみであったが,不足したムチンを補充することで涙液層の安定性の増加を目的としたジクアホソルナトリウム点眼液およびレバミピド懸濁点眼液が発売され,より効果的な治療が選択できるようになった。しかしながら,点眼治療のみでは治療が不十分な重症ドライアイも確実に存在し,そのような場合は追加治療として外科的治療が選択される。近年提唱されている眼表面の異常を層別に診断するTFOD(tear film oriented diagnosis)2)により涙液層破壊パターンがarea breakを呈する症例は,眼表面の涙液量が極端に少なく,角膜上に塗り付ける涙液がほとんどない重症の涙液減少型ドライアイのパターンである。このような症例に対しては,点眼治療だけでは不十分であり,涙点を直接閉鎖することで眼表面の涙液貯留量を増やし,涙液層の安定性を増加させる効果が期待される涙点プラグや涙点焼灼術が選択される。シリコーン製涙点プラグを用いた涙点閉鎖が一般的であるが,症例に応じて液体コラーゲンプラグが選択されることもある。さらに涙点プラグによる効果があるものの,プラグの挿入が困難となった場合は涙点焼灼術が選択される。
涙液中には角膜上皮細胞の正常な分化と増殖に必須である蛋白質やビタミンA,成長因子などが含まれており,涙液量が極端に少ない重症ドライアイではこうした因子が慢性的に不足しているため,角膜上皮欠損が再被覆されず,遷延性角膜上皮欠損の原因となることがある。重症ドライアイに伴う遷延性角膜上皮欠損の治療として,成長因子や各種サイトカインを有している羊膜を眼表面に押さえつける羊膜被覆術や,強制閉瞼させることで涙液メニスカスを再建させる瞼板縫合があり,それぞれの状況に応じて選択される。
本稿では,点眼治療のみでは治療効果が不十分な重症ドライアイに対する治療を中心に述べる。
ドライアイの定義と診断基準は2016年に改定され,「様々な要因により涙液層の安定性が低下する疾患であり,眼不快感や視機能異常を生じ,眼表面の障害を伴うことがある」と定義されている(2016年,ドライアイ研究会)。また診断基準についても「涙液層破壊時間(tear film break-up time:BUT)5秒以下かつ自覚症状(眼不快感または視機能異常)を有する」と改定された。2006年の定義,診断基準と大きく異なる点は,シルマー試験による涙液量の評価および角結膜上皮障害の評価が除外されたことである。ドライアイのコアメカニズムは,「涙液層の安定性の低下」であると考えられており,涙液層の破壊がドライアイの診断において重要視されている。眼表面には親水性で高分子の糖蛋白質であるムチンが発現しており,涙液の保持などの重要な役割を担っているが,ドライアイ患者においてはムチンの発現が減少していることが知られている1)。
ドライアイの治療薬は長年,眼表面の水分量の増加を目的としたヒアルロン酸点眼と人工涙液のみであったが,不足したムチンを補充することで涙液層の安定性の増加を目的としたジクアホソルナトリウム点眼液およびレバミピド懸濁点眼液が発売され,より効果的な治療が選択できるようになった。しかしながら,点眼治療のみでは治療が不十分な重症ドライアイも確実に存在し,そのような場合は追加治療として外科的治療が選択される。近年提唱されている眼表面の異常を層別に診断するTFOD(tear film oriented diagnosis)2)により涙液層破壊パターンがarea breakを呈する症例は,眼表面の涙液量が極端に少なく,角膜上に塗り付ける涙液がほとんどない重症の涙液減少型ドライアイのパターンである。このような症例に対しては,点眼治療だけでは不十分であり,涙点を直接閉鎖することで眼表面の涙液貯留量を増やし,涙液層の安定性を増加させる効果が期待される涙点プラグや涙点焼灼術が選択される。シリコーン製涙点プラグを用いた涙点閉鎖が一般的であるが,症例に応じて液体コラーゲンプラグが選択されることもある。さらに涙点プラグによる効果があるものの,プラグの挿入が困難となった場合は涙点焼灼術が選択される。
涙液中には角膜上皮細胞の正常な分化と増殖に必須である蛋白質やビタミンA,成長因子などが含まれており,涙液量が極端に少ない重症ドライアイではこうした因子が慢性的に不足しているため,角膜上皮欠損が再被覆されず,遷延性角膜上皮欠損の原因となることがある。重症ドライアイに伴う遷延性角膜上皮欠損の治療として,成長因子や各種サイトカインを有している羊膜を眼表面に押さえつける羊膜被覆術や,強制閉瞼させることで涙液メニスカスを再建させる瞼板縫合があり,それぞれの状況に応じて選択される。
本稿では,点眼治療のみでは治療効果が不十分な重症ドライアイに対する治療を中心に述べる。
参考文献
1)堀 裕一:粘膜から考えるドライアイ.OCULISTA 31:21-27,2015
2)横井則彦:ドライアイ診療のための涙液層のブレイクアップ分類最前線.あたらしい眼科34:315-322,2017
3)山口昌彦:BUT短縮型ドライアイに対する涙点プラグの使用のコツと注意点34:Frontiers in Dry Eye:涙液から見たオキュラーサーフェス5:34-38,2010
4)小嶋健太郎・横井則彦・中村 葉・他:重症ドライアイに対する涙点プラグの治療成績.日眼会誌106:360-364,2002
5)Balaram M, Schaumberg DA, Dana MR:Efficacy and tolerability outcomes after punctal occlusion with silicone plugs in dry eye syndrome. Am J Ophthalmol 131:30-36, 2001
6)小島隆司:涙液全体を保持する涙点プラグ,コラーゲンプラグ.あたらしい眼科32:925-929,2015
7)木村健一・横井則彦・稲垣香代子・他:パンクタルプラグFにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌118:485-489,2014
8)薗村有紀子・横井則彦・小室 青・他:スーパーイーグルプラグにおける脱落率と合併症の検討.日眼会誌117:126-131,2013
9)堀 裕一:涙点プラグ挿入術・涙点閉鎖術.あたらしい眼科29:927-931,2012
10)横井則彦・西井正和・小室 青・他:涙液減少型ドライアイの重症例に対する新しい涙点閉鎖術と術後成績.日眼会誌108:560-565,2004
11)Koizumi N, Inatomi T, Sotozono C et al:Growth factor mRNA and protein in preserved human amniotic membrane. Curr Eye Res 20:173-177, 2000
12)Shimazaki J, Shinozaki N, Tsubota K et al:Transplantation of amniotic membrane and limbal autograft for patients with recurrent pterygium associated with symblepahron. Br J Ophthalmol 82:235-240, 1998
13)Kim JS, Kim JC, Na BK et al:Amniotic membrane patching promotes healing and inhibits proteinase activity on wound healing following acute corneal alkali burn. Exp Eye Res 70:329-337, 2000
14)Kobayashi N, Kabuyama Y, Sasaki S et al:Suppression of corneal neovascularization by culture supernatant of human amniotic cells. Cornea 21:62-67, 2002
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