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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科72巻3号

2018年03月発行

雑誌目次

特集 第71回日本臨床眼科学会講演集[1] 特別講演

神経眼科疾患治療の最近の進歩

著者: 三村治

ページ範囲:P.293 - P.309

 眼科学の多くの領域で,新しい機器,薬剤,治療手技の開発により劇的な治療の進歩がみられている。一方,これまで神経眼科疾患の多くは難治性と考えられてきた。しかし,最近の薬理学的研究や病態の解明の進歩により,神経眼科領域でも新しい薬剤の開発や治療法の改良が行われつつある。本稿では,下記のいくつかの新しい治療法を自験例の結果とともに解説する。

1.イデベノンは網膜神経節細胞のミトコンドリアのエネルギー代謝を改善し,アデノシン三リン酸(ATP)産生を増加する。遺伝性視神経症に対するイデベノンの治験で,レーベル遺伝性視神経症では30%以上の患者で視機能が改善し,特に20歳以下の若年発症が最も視力良好であった。また,優性遺伝性視神経症でもイデベノンは視機能維持・改善に有効と思われる。

2.眼筋型重症筋無力症では内服薬に免疫抑制薬タクロリムスを併用することと,眼科医が治療効果の判定や手術に参加することで,患者のquality of life(QOL)を大いに改善することができる。

3.後天滑車神経麻痺,甲状腺眼症による複視は,下直筋の鼻側移動術と後転術の併用で高率に消失させることができ,その他の眼球運動障害でもさまざまな手技で患者のQOLを改善することができる。

4.眼瞼痙攣の難治例では,A型ボツリヌス毒素の注射部位数の増加と上眼瞼筋切除術によって,多くの例で症状を改善できる。

5.A型ボツリヌス毒素の外眼筋注射は,輻湊痙攣や甲状腺眼症など非共同性斜視のいくつかのタイプにおいて有用な治療法の1つであり,斜視手術中に併用することで手術効果を増大させることができる。

原著

水晶体囊拡張リングを使用した水晶体再建術後に亜脱臼した眼内レンズの縫着整復手術

著者: 京本敏行 ,   榑沼大平 ,   星山健 ,   金児由美

ページ範囲:P.347 - P.350

要約 目的:水晶体囊拡張リング(CTR)は,チン小帯脆弱・断裂症例に使用するが,術後の長期的安全性はいまだ確立されていない。今回,CTR使用水晶体再建術後1年で眼内レンズ(IOL)亜脱臼を起こした症例に対して,IOLを摘出せずにCTRごと縫着整復し,術後4か月の経過観察ができた症例を報告する。

症例と経過:62歳,男性。長野赤十字病院眼科で左眼チン小帯断裂所見が約1/3周認められたため,CTRを使用し,水晶体再建術(IOL挿入含む)を無事に施行。その1年後に,5時方向に左IOL亜脱臼を認めたため,翌月,10-0ポリプロピレン糸を10時と2時に通糸し,CTRごとIOLを毛様体溝に縫着固定した。術翌日から視力が改善し,術後4か月間,左眼視力1.2を維持できている。

結論:CTRの適応は,約1/3周以下のチン小帯断裂症例とされ,縫着用CTRの適応は,約1/3周を越え約半周以内のチン小帯断裂症例となっている。また,縫着用CTR使用には,10件以上のCTR使用経験が必要である。つまり,CTR使用開始後10症例までに約1/3周のチン小帯断裂所見を認めた場合,CTRを選択することになる。そのため,CTRを使用しても,術後にIOL脱臼する可能性があり,IOL摘出を余儀なくされる。今回のようにIOLを摘出せずにCTRごと縫着整復し,IOL水晶体囊内固定と同様の視機能が維持できるならば,有用な術式と考えられる。ただし,術後の長期経過は確認できておらず,慎重な経過観察が必要である。

CYP4V2遺伝子変異を認めたクリスタリン網膜症の2例

著者: 飯田秀輝 ,   倉田健太郎 ,   月花環 ,   細野克博 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.351 - P.358

要約 目的:CYP4V2遺伝子に原因変異を同定したクリスタリン網膜症(BCD)2例の報告。

症例:症例1は47歳の女性。43歳から変視が出現した。矯正視力は右1.0,左1.2で,後極部に閃輝性沈着物を認めた。視野欠損を認めず,全視野刺激網膜電図(ffERG)で異常を認めなかった。CYP4V2遺伝子にc.802-8_810delinsGCをホモ接合体で認めた。症例2は70歳の女性。47歳から視力低下を自覚した。矯正視力は右1.2,左0.4で,後極部に閃輝性沈着物を認めた。視野検査では傍中心暗点を認めた。ffERGでは杆体応答と錐体応答の振幅がやや減弱していた。23年間の経過中に変性が進行し,閃輝性沈着物は目立たなくなった。矯正視力は右眼0.4,左眼0.15へ低下した。視野は暗点が拡大し,ffERGでは波形はほぼ消失した。CYP4V2遺伝子にc.802-8_810delinsGC/c.1199G>Aを複合ヘテロ接合体で認めた。

結論:過去の報告と同様,BCDの2例に視機能に多様性があった。閃輝性沈着物が明らかではない状態では,時として診断のために遺伝子検査が有用である。

虹彩腫瘤の角膜後面接触による水疱性角膜症に対し角膜内皮移植術が有効であった1例

著者: 大谷洋揮 ,   土至田宏 ,   柏木広哉 ,   松崎有修 ,   小森翼 ,   朝岡聖子 ,   市川浩平 ,   林雄介 ,   桑名亮輔 ,   太田俊彦

ページ範囲:P.359 - P.362

要約 緒言:虹彩腫瘤が角膜後面に接触し水疱性角膜症を呈したと思われる症例に対し,角膜内皮移植術(DSAEK)が有効であったので報告する。

症例:79歳,女性。検診で視力低下を指摘され,当科を初診。初診時,左眼の虹彩耳側に孤立性の隆起性腫瘤およびその近傍の虹彩裂孔と両眼の白内障を認め,矯正視力は両眼とも0.7であった。角膜内皮細胞密度は右2,564個/mm2,左517個/mm2であった。既往歴としては右腎細胞癌が指摘され,4か月後に右腎摘出術が施行されたが,眼および全身への転移は否定された。その後,白内障および水疱性角膜症が進行したため,後日DSAEKを施行することを前提に左白内障手術を施行。その際,虹彩腫瘤切除術を併施した。病理組織学的検査では腫瘍細胞は認めず,細胞成分が不明瞭な色素顆粒の集積を認め,虹彩囊腫と考えられた。水疱性角膜症の進行に伴い,矯正視力が0.05に低下したためDSAEKを施行。DSAEKの術後1か月目には矯正視力が0.6に達し,12か月目においても0.6を維持していた。DSAEK術後12か月目の角膜内皮細胞密度は1,441個/mm2で,角膜内皮細胞減少率は42%であった。

結論:虹彩腫瘤の原因は不明であったが,幼少時の眼科通院歴から眼外傷の既往の可能性が推定された。虹彩腫瘤は角膜後面接触により水疱性角膜症を発症することがあるが,腫瘤摘出後のDSAEKは有効と思われた。

熊肉摂取後に発症した旋毛虫症にぶどう膜炎を合併した2例

著者: 湯川知恵 ,   星崇仁 ,   加治優一 ,   鈴木広道 ,   矢野晴美 ,   宮田和典 ,   長野功 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.363 - P.367

要約 目的:旋毛虫症に伴うぶどう膜炎を呈した2例を報告する。

症例:症例1は32歳の男性。熊肉を摂取後に発疹,筋肉痛,眼瞼浮腫,発熱が出現した。旋毛虫症の診断で,アルベンダゾールとプレドニゾロン内服が開始された。両眼の霧視を自覚し,前眼部炎症所見と散在する網膜出血,蛍光眼底造影検査で蛍光漏出を認めた。症例2は41歳の男性。熊肉の摂取から2週後に発疹,筋肉痛,発熱が出現し,アルベンダゾール内服が開始された。左眼の霧視を自覚し,硝子体中の細胞浸潤および網膜出血を認めた。2例とも1か月後の診察時に炎症所見および網膜出血の消退を認めた。

結論:眼瞼浮腫,ぶどう膜炎,皮疹,好酸球増多を認めた際には旋毛虫症も鑑別に考え,病歴聴取を行う必要がある。

ニボルマブ投与後にぶどう膜炎を発症した1例

著者: 徳永理佐 ,   山田義久 ,   原佑妃 ,   北岡隆

ページ範囲:P.369 - P.375

要約 目的:腎細胞癌の術後に生じた全身転移に対するニボルマブ投与後にぶどう膜炎が生じた1症例の報告。

症例:45歳男性の左腎癌に対する腎摘出後に,リンパ節と肝臓に転移を認めた。ニボルマブを全身投与し,その7週後に両眼の充血と瘙痒感が生じ,当科を受診した。

所見と経過:矯正視力は右0.3,左0.5で,両眼に前房の炎症所見,虹彩後癒着,漿液性網膜剝離があり,蛍光眼底造影で原田病と似た所見があった。HLAはDR4陽性であった。ニボルマブによるぶどう膜炎を疑い,ニボルマブの投与中止とステロイド点眼とテノン囊下注射を開始し,ステロイド内服を追加した。眼所見は改善し,視力は3か月後に右1.2,左1.5になった。ステロイド内服を継続しながらニボルマブの投与を再開した。以後7か月後の現在までぶどう膜炎の再発はない。

結論:腎細胞癌の術後に生じた全身転移に対するニボルマブ投与後に原田病に類似するぶどう膜炎が発症した。ステロイドの局所と全身投与でぶどう膜炎は寛解した。

網膜細動脈瘤破裂に伴う黄斑円孔の発症機序を術中所見から推察できた1例

著者: 田村和樹 ,   北川順久 ,   田中公二 ,   森隆三郎 ,   中静裕之

ページ範囲:P.377 - P.381

要約 目的:手術所見から網膜細動脈瘤破裂に伴う黄斑円孔の発症機序の一因を考察する。

症例:67歳女性,主訴は突然の右眼視力低下。

所見:初診時視力は右眼(0.15),左眼(0.8),眼圧は右眼20mmHg,左眼21mmHgであった。前眼部所見は両眼軽度白内障を認め,眼底所見では右眼黄斑部に網膜細動脈瘤破裂による内境界膜下出血,網膜下出血を認めた。高血圧を認めたため,内科で入院加療後,発症2週後に水晶体再建術および27G硝子体手術を行った。内境界膜剝離を行い,内境界膜下出血を除去,中心窩に器質化した血塊を認めたため硝子体剪刀で切除した。網膜細動脈瘤から連続的に網膜下さらには小さな黄斑円孔に通じる白色索状物を認めた。20%SF6ガス置換し,24時間の腹臥位とした。術後,黄斑円孔は閉鎖し,右眼視力は(0.8)に改善した。

結論:本症例では網膜細動脈瘤から網膜下出血を生じ,網膜下圧上昇から,中心窩に黄斑円孔が形成されたと考えられた。

治療に難渋した眼瞼メルケル細胞癌の4症例

著者: 児玉俊夫 ,   田原壮一朗 ,   平松友佳子 ,   大熊真一 ,   岡奈央子 ,   大城由美

ページ範囲:P.383 - P.392

要約 目的:腫瘍の拡大切除が行われ,切除した断端に腫瘍の残存がなかったにもかかわらず,転移が生じた2例を含む,眼瞼のメルケル細胞癌4例の報告。

症例:4例はいずれも片眼性で,上眼瞼に発症した。男性3例,女性1例で,年齢はそれぞれ81,81,85,96歳であった。2例は当科で初診,他の2例は他医を受診し,組織学的にメルケル細胞癌と診断された。全例が腫瘍の拡大切除を受け,2例は切除後に放射線治療を受けた。2例は術後8か月,4年11か月で転移を生じなかったが,他の2例ではそれぞれ術後6か月,8か月に転移を生じた。

結論:高齢者の眼瞼のメルケル細胞癌では,迅速で広範囲の切除が第一選択であり,切除後の予防的な放射線治療が望ましい。

上斜筋麻痺に対する下直筋手術の長期経過

著者: 林孝雄

ページ範囲:P.393 - P.399

要約 目的:後天性の滑車神経麻痺と成人の先天上斜筋麻痺に対する健眼の下直筋手術の長期経過の報告。

対象と方法:過去38か月間に当科で上斜筋麻痺と診断され,手術を受けた126例中,後天性の滑車神経麻痺と成人の先天上斜筋麻痺で健眼の下直筋手術を1回のみ施行し,4年間の経過が追えた14例を対象とした。診療録の記述に基づき,術前,術後3か月と4年の上下と回旋眼位を検索した。

結果:第1眼位での上下偏位の平均値は,術前10.1°であり,術後3か月で0.7°,4年後に1.8°と有意に改善した。回旋偏位の平均値は,術前9.3°であり,術後3か月で1.8°,4年後に2.4°と有意に改善した。上下偏位と回旋偏位の値は,3か月後と4年後の間に有意差はなかった。第1眼位での上下偏位1mmあたりの矯正度数は,術後3か月で2.0°,4年後で1.6°であり,有意差があったが,回旋偏位の1筋幅あたりの矯正度数は,それぞれ9.4°と8.4°であり,両者間に有意差はなかった。

結論:後天性の滑車神経麻痺と成人の先天上斜筋麻痺に対する健眼の下直筋手術により,上下偏位と回旋偏位が有意に改善した。術後の眼位は,術後3か月の値が,術後4年でもほぼ保たれていた。

抗MOG抗体高力価陽性脳脊髄炎後に発症した視神経炎の1例

著者: 前嶋京子 ,   花田厚枝 ,   金子仁彦 ,   高橋利幸 ,   須永康夫

ページ範囲:P.401 - P.405

要約 目的:抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)抗体が高値の脳脊髄炎後に視神経炎が発症した1症例の報告。

症例:6歳女児。発熱,頸部の疼痛,歩行障害を発症し,当院小児科へ入院。その際,視力は左右とも1.2であった。MRIで大脳と視床,脊髄に高信号域があり,脳脊髄炎と診断された。メチルプレドニゾロンによるステロイドパルス治療1クール施行後,症状は軽快した。髄液の抗MOG抗体は強陽性であった。退院7日後,両眼の視力障害で再受診。

所見と経過:視力は左右眼とも光覚弁で,両眼に強い乳頭浮腫があった。両眼の視神経にMRIで高信号があり,視神経炎と診断した。ステロイドのパルス療法で,3クール後に視力は左右眼とも1.2に回復した。3か月後の抗MOG抗体は大きく低下した。以後13か月間,視神経炎の再発はない。

結論:抗MOG抗体が高値の脳脊髄炎の治療後に視神経炎が発症し,ステロイドパルス療法で寛解した。

眼球突出で来院した経眼窩的穿通性頭部外傷の1例

著者: 近藤太郎 ,   中村靖

ページ範囲:P.407 - P.411

要約 目的:眼球突出を主訴に来院した,経眼窩的穿通性頭部外傷の比較的稀な症例の報告。

症例:33歳,男性。仕事中,左眼の外側から異物が入り眼球突出になったと受傷1時間後に来院した。意識清明,神経学的異常なし。視力は右(1.0×−3.5D),左指数弁(0.01×−3.5D),眼圧は右15mmHg,左45mmHg,眼球運動は全方向に制限,右眼と比べ7mmの眼球突出を認めた。CTで左前頭葉に出血と眼窩骨膜下出血を認めた。受傷2時間後,意識障害と右片麻痺が生じ,CT再検査で脳出血の拡大がみられため,脳外科的頭蓋内血腫除去,異物除去+眼窩内出血除去術を施行。術翌日より眼窩内炎症による眼球突出が著明となり,兎眼となる。消炎・視神経保護を目的にステロイドパルス療法を行い,角膜保護のため眼軟膏を点入し,ラップにて露出角膜を被覆した。角膜障害は重症化したが,ステロイドパルス療法3クール目に眼球突出が減少し,閉瞼可能となり角膜障害も改善した。ステロイドパルス療法終了後11か月の視力は(1.2)と改善し,眼球運動障害もなく,眼球突出も左右差が消失した。

結論:経眼窩的穿通性頭部外傷は,無症状であれば脳損傷は見過ごされる可能性がある。一方で,その診断および治療が遅れなければ比較的予後は良好である。今回の症例では,初診時は眼科的に重篤な状態であったが,治療により後遺症もなく経過良好であった。これは,眼窩内炎症による重篤な眼球突出に対して,早期のステロイドパルス療法による保存的治療が有効であると考えられた。

網膜色素変性症患者における自動車運転実態調査

著者: 武内宏樹 ,   倉田健太郎 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.413 - P.417

要約 目的:網膜色素変性症(RP)による視機能障害と自動車事故の関係を検討するため,RP患者の自動車運転実態調査を施行した。

対象と方法:自動車運転免許を有したことがあるRP患者40名を対象にアンケート調査を行った。過去5年間に事故歴がある事故群と,事故歴がない無事故群に分類し,年齢や性別,運転歴,視力,視野面積について比較を行った。また,免許返納者に対して返納した理由を質問した。

結果:無事故群は27人,事故群は13人で,視力と視野のデータが得られたのは,それぞれ19人と10人であった。両群間で年齢や運転歴,視力に差はなかったが,男性の比率は事故群で有意に高かった(p<0.05)。良好眼の視野面積と両眼視野面積は,事故群で有意に狭かった(それぞれp=0.02,0.03)。免許を返納した理由としては,事故を起こしてはいけないからという返答が最も多かった。

結論:RP患者では,視野面積が狭いほど自動車事故が起こる可能性が推定された。

新しい眼科手術練習用モデル眼の試作

著者: 上甲覚 ,   中山馨

ページ範囲:P.419 - P.423

要約 目的:手軽に眼科手術の練習ができるモデル眼を作製すること。今回は,①模擬水晶体前囊と,②硝子体手術に関連した手技の練習用模擬眼を試作した。

対象と方法:①下敷きをアルミホイルで覆い,テンプレート定規(丸型)を乗せ固定した。定規の丸い穴の下にあるアルミホイルを模擬前囊とした。②市販の円柱形のクリアケース(内径と高さが約25mm)のフタを取り,食品包装用ラップフィルムで開口部を覆った。その中央部(直径12mmの円)は避けて,周辺部にビニールテープを貼って補強し,模擬強膜とした。これらの模擬眼で,眼科手術関連の練習が可能かを試みた。

結果:2種類のモデル眼は短時間で作れた。作製した模擬眼で,連続前囊切開や硝子体注射や硝子体手術の3ポート作製の練習が可能であった。

結論:細部にこだわらない本模擬眼は,入手が容易な材料で簡単に作製できた。特定の手術手技ではあるが,低予算で手軽に練習可能であった。

Special Interest Group Meeting(SIG)報告

日本眼科アレルギー研究会

著者: 福島敦樹

ページ範囲:P.424 - P.426

はじめに

 2017年10月12日午後5時35分から午後7時5分まで,日本眼科アレルギー研究会主催のSIGが開催された。

 眼科領域のアレルギー疾患患者数は年々増加傾向にある。アレルギー疾患について,その病因や治療法,または環境因子を含めた予防法などを検討することにより,患者の生活状態の改善を目標に眼科アレルギー研究会は活動してきた。さらには,結果を文書または冊子にして,広く眼科医に啓発することを目標としている。アレルギー疾患は即時相と遅発相に分けて考えることが一般的であるが,今回は遅発相の代表疾患であるアトピー性角結膜炎(atopic keratoconjunctivitis:AKC)にテーマを絞り検討することとした。昨今,アトピー患者は増加しており,その合併症と診断から治療までの検討は,皮膚科や小児科を中心に進んでいる。このような現状を踏まえ,「アトピー性角結膜炎とその合併症:診断から治療まで」のタイトルで,以下の順で5名の先生方に発表していただいた。

屈折調節研究会(眼光学アップデート)

著者: 長谷部聡 ,   石子智士

ページ範囲:P.428 - P.431

はじめに

 本SIGは,眼光学領域の研究成果発表の場を増やし,最新知識を眼科臨床医に啓発することを目的とし,日本眼光学学会(ホームページアドレス:http://www.gankougaku.gr.jp/)のメンバーが中心となって企画したものである。第3回となる今回は,「学童近視の疫学と予防」をテーマとして取り上げ,疫学,遺伝因子,環境因子,診断,進行予防という幅広い視点から,5名の先生方に学童近視に関する最新研究をレビューしていただいた。演者ご自身に執筆いただいた講演要旨を以下に示す。

連載 症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー・術前編2

術前生体計測の重要性

著者: 須藤史子

ページ範囲:P.310 - P.316

Q 核硬化が強く,後囊下白内障もあり(図1),光学式眼軸長測定装置で眼軸長の測定ができませんでした(図2)。最近光学式眼軸長測定装置で測定できるものが多かったので,超音波Aモード法で測定すること怠っていました。このような場合,どのようなことに気をつけて,眼内レンズ度数計算をしたらよいのでしょうか? また,生体計測を行うとき,日常からどのようなことに留意して測定したらよいのでしょうか?

臨床報告

原発閉塞隅角緑内障に対する隅角癒着解離術・線維柱帯切開術併用の有無による手術成績の比較

著者: 前田美智子 ,   植木麻理 ,   河本良輔 ,   小嶌祥太 ,   杉山哲也 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.321 - P.325

要約 目的:原発閉塞隅角緑内障(PACG)に対して隅角癒着解離術を施行した群(GSL群)とそれに線維柱帯切除術を併用した群(LOT併用群)の短期成績を比較検討する。

方法と対象:PACGで初回手術を行ったGSL群6例6眼,LOT併用群8例10眼の眼圧と投薬スコアを,術前と術後で比較検討した。術前の眼圧,隅角閉塞の範囲,薬剤スコアに差はないが,診断からの手術までの期間がGSL群で1.0〜24.3か月(平均6.1か月),LOT併用群で5〜146か月(平均64.8か月)と有意差があった。

結果:両群とも眼圧と投薬スコアは,術後有意に下降し,両群間で有意差はなかった。

結論:診断から早期のPACGでは,隅角閉塞の範囲にかかわらず,GSL単独とLOT併用で同等の眼圧下降効果が得られた。

長期緑内障点眼による皮膚癒着をきたした眼瞼外反症術後皮膚欠損に被覆材DuoActive® ETが奏効した1例

著者: 鄭暁東 ,   五藤智子 ,   溝上志朗 ,   白石敦 ,   大塚三由里 ,   本山真希

ページ範囲:P.327 - P.332

要約 目的:長期緑内障点眼によって瞼縁皮膚癒着を合併した下眼瞼外反症の術後の皮膚欠損に,被覆材DuoActive® ETを利用して治癒できた症例の報告。

症例:76歳,男性。近医より右下眼瞼外反症を指摘され,紹介受診となる。15年以上プロスタグランジン(PG)製剤点眼にて緑内障加療され,慢性眼瞼炎,流涙の既往があった。初診時に右下眼瞼外反,高度結膜充血,眼脂,眼瞼縁炎を認めた。外反した瞼縁と下眼瞼皮膚との癒着が強く,高度な皮膚発赤,菲薄化を認めた。眼瞼水平方向弛緩も強く,lateral tarsal strip procedure術を行い,外反した瞼縁を鈍的に分離した。術後に下眼瞼縁,外眼角部皮膚欠損を認めたため,皮膚再生を促すとともに再癒着防止のため被覆材DuoActive® ETを使用した。被覆2週間後に外反矯正良好,創部上皮再生,創傷治癒した。

結論:PG製剤長期点眼による高度下眼瞼縁炎を合併した外反症は,瞼縁皮膚癒着が高度であり,通常の外反手術のみでは再癒着など増悪の可能性があり,術後皮膚欠損に対して被覆材DuoActive® ETが創傷治癒に簡便で有用であった。

過剰涙丘の2例

著者: 石本敦子 ,   嶋千絵子 ,   木村元貴 ,   佐々木香る ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.333 - P.337

要約 目的:稀有な過剰涙丘の症例の報告。

症例:30歳男性と44歳女性が,いずれも左下眼瞼の結膜腫瘤による異物感を自覚して紹介受診した。

所見と経過:それぞれ左下眼瞼結膜に,4mm×6mmおよび3mm×5mmの隆起性腫瘤があり,その表層に毛を含み,その表面に黄白色の微小結節が散在していた。両症例とも腫瘤を単純切除し,自覚症状は消失した。術後それぞれ4か月と34か月後,再発はない。病理組織学的に,腫瘤の表面は杯細胞を伴う重層円柱上皮で覆われ,実質に硬い結合織があり,その中に毛包,脂腺,副涙腺とリンパ球の浸潤があり,涙丘の所見と合致していた。

結論:今回の過剰涙丘の2症例は,いずれも片眼性,正常涙丘が共存するなどの特徴があり,悪性の所見はなかった。

糖尿病患者における血糖コントロール強化に伴う網膜厚の変化

著者: 西川憲清 ,   藤木典隆 ,   眞野福太郎 ,   清水彩洋子 ,   渡邉裕尭 ,   藤田洋平 ,   畑﨑聖弘 ,   馬屋原豊 ,   内堀恭孝

ページ範囲:P.339 - P.345

要約 目的:HbA1c急速低下による網膜厚への影響を検討。

方法・対象:HbA1c10%以上の2型糖尿病患者39例に対して,血糖コントロール強化を行うとともに,網膜厚を測定した。

結果:HbA1cは3か月間に4.62±1.80%低下し,網膜前膜などを除外すると,無糖尿病網膜症(NDR)25例,単純糖尿病網膜症(SDR)10例であった。NDRおよび黄斑浮腫のないSDRの網膜厚は6か月後にそれぞれ1.1%,2.8%増加していたが,有意でなかった。HbA1cが3か月間で5.8%低下し,貧血と血圧低下を合併した1例で,6か月後に網膜厚が8.7%増加した。

結論:HbA1cが急速に低下しても網膜厚は有意には増加しなかったが,全身状態により網膜厚が増加する可能性がある。

今月の表紙

軟性白斑

著者: 水澤剛 ,   中澤満

ページ範囲:P.317 - P.317

 症例は51歳,女性。右眼視野上方に黒いもやが見えるとのことで前医を受診した。右眼眼底に白斑を認め,網膜動脈分枝閉塞疑いで当院へ紹介され受診となった。視力は右1.2(1.5×−0.25D),左0.6(1.5×cyl−1.00D 90°)。右眼黄斑下鼻側に1乳頭径程度の軟性白斑が認められた。左眼は特記すべきことはなかった。受診当日,カラー眼底写真と光干渉断層計(OCT),OCT angiography(OCTA),フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)を行った。FAでは,軟性白斑に一致して初期像から後期像まで無灌流領域(NPA)を認めたものの,中心窩付近には認めなかった。OCTAでも同様の所見が確認され,自覚と一致した。画像はそのときのものである。

 撮影はNIDEK社製のOCT,RS-3000 AdvanceにOCTAのソフトウェアを追加して行った。縦横6mmの撮影範囲を3mm×3mmで5か所撮影を行い,付属のパノラマ自動合成機能を用いた。このソフトウェアは,網膜全層画像のほか,4枚の層別パノラマOCTA画像を抽出することができる。写真は,網膜表層血管のみを抽出した画像で,軟性白斑の位置関係や閉塞範囲がわかるように,中心窩と視神経乳頭を画面に入れて撮影した。また,涙液層の乱れによる画像強度の低下が生じないよう,定期的に瞬目を促しながら撮影を行った。

海外留学 不安とFUN・第27回

ボストン研究留学記・2

著者: 上田高志

ページ範囲:P.318 - P.319

Angiogenesis Laboratory

 ハーバードの眼科の研究室は大きく分けると臨床部門(Massachusetts Eye and Ear Infirmary:MEEI)所属の研究室と,それと別にSchepens Eye Research Institute所属の研究室があり,両者を合わせると全体で数十という単位であるようです。私が所属しているのはMEEI附属のAngiogenesis laboratoryというところで,このラボ名は,滲出型加齢黄斑変性に対する光線力学療法,抗VEGF療法が世界に先駆けて研究開発されてきた歴史に基づいているそうです。現在はMEEIの院長になられたJoan Miller先生が主宰されており,現場はVavvas先生,Connor博士のお二人がprincipal investigator(PI)としてまとめています。

 私自身はVavvas先生のラボに採用していただきましたが,どちらのPIのラボにも日本人のポスドクの先生が常に在籍している状態ですので,私自身も馴染みやすかったです。もちろん,日本人以外にも世界各国の眼科医が留学に来ており,国際色豊かなラボです。Vavvas先生はギリシャ出身の網膜硝子体専門医で,網膜変性疾患のマウスモデルにおけるnecroptosisに関連した研究で活躍されています。

Book Review

神経眼科学を学ぶ人のために 第2版

著者: 相原一

ページ範囲:P.346 - P.346

 三村治先生の『神経眼科学を学ぶ人のために 第2版』が出版された。神経眼科分野でも,従来の画像検査の改良とともにOCTやOCTアンギオにより,より詳細な病態が捉えられて診断に役立つようになった。また治療法も増え,ガイドラインも確立されてきた。そのような背景を基に,初版をさらに充実させた本書は,新たな疾患概念や“CloseUp”という魅力的な著者のつぶやきがちりばめられている。“CloseUp”を読んでいるだけでとても楽しく,著者の広い知識があふれ出ている。

 そんな本書のタイトルは『神経眼科学を学ぶ人のために』であるが,眼科医ならもちろん,小生のような緑内障専門家には特に読んでほしい。乳頭所見,視野障害は神経眼科学の分野であり,神経眼科学の知識なくして緑内障専門家を標榜してはならない。緑内障は眼圧については独自の分野かもしれないが,結局は神経障害である以上,神経眼科学の一部である。正常眼圧緑内障は神経眼科的疾患の知識なくしては診断できない。そして緑内障分野でも最近話題になっている乳頭篩状板を挟んだ脳脊髄圧と眼圧の圧勾配についてはまさに神経眼科領域の話題でもある。眼球裏面まで存在するくも膜下腔を介した脳脊髄圧と眼内からの眼圧,乳頭血流灌流圧,ひいては近視性眼軸延長に伴う眼球変形ストレスのバランスは視神経乳頭症というべきで,バランスが崩れれば,うっ血乳頭,乳頭腫脹,乳頭陥凹,乳頭構造障害ひいては乳頭蒼白となり種々の疾患に至る。本書でも多くの画像とともに乳頭視神経疾患を詳細に記載してあり読み応えがある。また,間違いやすい網膜疾患から乳頭,視交叉以降の視路疾患,さらに眼球運動障害,眼瞼,瞳孔,眼窩,全身疾患の順に非常に簡潔明瞭な記述で解説され,神経眼科学の魅力を余すことなく伝えている。

日常診療に潜むクスリのリスク—臨床医のための薬物有害反応の知識

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.412 - P.412

 医療現場でクスリの副作用ケースが増えています。高齢化,マルチモビディティ,ポリファーマシー,新薬開発,ガイドラインによる推奨などが要因です。それでも,処方した医師には副作用を早期に発見し対処する責任があるといえます。そのためには処方する医師には「特別」な学習が必要です。なぜ特別かというと,悲しいかな,薬の副作用についての臨床的に役立つ実践的な知識は薬のパンフレットや添付文書を熟読しても習得できないからです。

 本書はそのような実践的な知識をコンパクトにまとめてエビデンスを提供してくれる新しいタイプのリソースです。著者は総合診療エビデンス界のプリンス,上田剛士先生(洛和会丸太町病院救急・総合診療科)。本書では,得意技である円グラフを駆使して,徹底的な科学的エビデンスを提供してくれています。

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欧文目次

ページ範囲:P.290 - P.291

ことば・ことば・ことば 神経は腱

ページ範囲:P.320 - P.320

 杉田玄白の『解体新書』では,さまざまな術語が新規に作られました。この本はオランダ語で書かれた解剖学の教科書『ターヘル・アナトミア』を訳したものですが,それまで日本で通用していた漢方医学と違っていたり,新しい事実や概念が出てきたからです。

 「神経」もそれまではなかった術語です。ヒトや動物の体内にある白いヒモは「経脈」と呼ばれていました。これには,腱,血管,神経などが含まれます。「神気のようなものが通る経脈」に対する用語として「神経」が作られたと,玄白は説明しています。

べらどんな 眼病アトラス

著者:

ページ範囲:P.406 - P.406

 いまの日本には眼病図譜はないが,ずっと昔にはこれがあった。

 石原 忍先生の『眼底図譜』と『眼病図譜』がそれである。眼底図譜は昭和7年(1932),そして二冊本の眼病図譜は昭和10年(1935)に刊行された。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.432 - P.433

希望掲載欄

ページ範囲:P.436 - P.436

アンケート用紙

ページ範囲:P.438 - P.438

次号予告

ページ範囲:P.439 - P.439

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.440 - P.440

 「臨床眼科」3月号では,昨年の第71回日本臨床眼科学会総会での特別講演,兵庫医科大学神経眼科治療学講座の三村治特任教授による「神経眼科疾患治療の最近の進歩」の総説論文を掲載しています。三村先生も論文の中で述べられておられますが,神経眼科というと主として診断学であって,治療の対象となることは少ない,という先入観をもっている眼科医が多いのに対して,三村先生は教室の伝統である神経眼科疾患の治療の開発・改良を追求する,というビジョンを掲げて臨床研究を推進されてこられました。その集大成が今回の論文に纏められています。その成果はレーベル病に対するイデベノン内服療法,眼筋型重症筋無力症に対するタクロリムス内服併用,眼筋麻痺による複視に対する手術療法,ボツリヌス毒素の眼瞼痙攣や麻痺性斜視の手術への応用などに表されております。いずれも患者のQOLの改善に大きく貢献しうる研究で,実際の講演もそうでしたが,感銘を覚える内容となっています。編集子にとっては保存版となる論文です。

 「症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー」では,白内障手術術前検査の実践編として,眼軸長計測法における光学式と超音波Aモード方式という2つの計測法に関して須藤史子先生にレクチャーしていただきました。両者の原理をよく理解したうえで補完的に用いられれば,盤石というものでしょう。ともすれば手術術式のほうに興味が行きがちですが,その前に当然知っておくべき基本中の基本であると感じました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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