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雑誌目次

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臨床眼科72巻6号

2018年06月発行

雑誌目次

特集 第71回日本臨床眼科学会講演集[4] 原著

ぶどう膜炎に続発した血管新生緑内障2症例の前房内VEGF濃度と治療経過

著者: 前川有紀 ,   原佑妃 ,   松本牧子 ,   築城英子 ,   隈上武志 ,   北岡隆

ページ範囲:P.787 - P.793

要約 目的:血管新生緑内障(NVG)は糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症以外にぶどう膜炎にも続発しうるが,ぶどう膜炎には種々の病態が含まれ網膜循環障害をきたさない場合もある。網膜虚血を認めないぶどう膜炎によりNVGを呈した2症例の前房内血管内皮増殖因子(VEGF)濃度を測定し,ベバシズマブ硝子体内注射(IVB)を併用し加療した経過を報告する。

症例:症例1は55歳,女性。約1年半放置後のぶどう膜炎およびNVGにて紹介された。左眼に著明な前房炎症・虹彩新生血管・虹彩後癒着を認めた。IVBおよびステロイド局所投与や降圧治療後,白内障手術併用隅角癒着解離術を施行した。術後蛍光眼底造影にて網膜循環障害はなかった。症例2は69歳,女性。初診時の右眼圧は58mmHgであり,右眼虹彩・隅角の新生血管が著明で前房・硝子体内炎症所見と広範な網膜萎縮瘢痕巣を認め,蛍光眼底造影にて明らかな網膜灌流障害はなかった。IVBおよびステロイド点眼・内服,降圧治療のうえ,線維柱帯切除術を施行した。

結果:IVB前の前房水VEGFは順に1,220,1,080pg/mlと高値で,IVB後は速やかにルベオーシスが消退し,周術期出血性合併症はなかった。

結論:網膜に虚血性病変を認めないぶどう膜炎に続発したNVGにおいても,前房内VEGF濃度高値が確認された。ステロイドの効果も考慮されるが,IVB後ルベオーシスは迅速に消退し,治療上有用性があると考えられる。

非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブの治療効果

著者: 小野ひかり ,   吉岡茉依子 ,   春田真実 ,   南高正 ,   眞下永 ,   下條裕史 ,   岩橋千春 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.795 - P.801

要約 目的:既存治療に抵抗を示す難治性非感染性ぶどう膜炎に対するアダリムマブ(ADA)の効果について検討する。

対象と方法:地域医療機能推進機構大阪病院で2017年1〜8月にADAを導入した難治性非感染性ぶどう膜炎17例を対象とし,治療効果と安全性について検討した。眼所見の改善の有無,併用薬の減量の有無により,著効・有効・無効の3つに分類し効果を評価した。また,副作用についても調べた。

結果:著効10例,有効5例,無効2例であった。ベーチェット病,若年性特発性関節炎,原因不明の汎ぶどう膜炎の全例を含む10例で眼所見の改善および併用薬の減量が可能であり,著効と評価した。びまん性網脈絡膜炎の全例を含む5例では併用薬を減量できたが,眼所見の改善は認めず,有効と評価した。無効と評価した2例では,副作用のためプレドニゾロン(PSL)を減量できなかった。導入後の平均視力は導入前より有意に改善した。17例中PSLを使用した15例全例でADA導入後のPSL内服量は10mg未満となった。副作用は3例(注射部位反応1例,好酸球増加2例)認めた。

結論:既存治療に抵抗性を示す非感染性ぶどう膜炎に対し,ADA投与は有効であり,併用PSL投与量は全例で10mg未満に減量可能であった。

原発閉塞隅角症疑いにおける前房深度と水晶体の関係

著者: 渡邊逸郎 ,   渡邉日菜 ,   石田陽子 ,   渡邊一郎

ページ範囲:P.803 - P.808

要約 目的:原発閉塞隅角症疑い(PACS)における前房深度(ACD)と水晶体の関係についての検討。

対象と方法:対象は細隙灯検査,隅角検査,光学式眼軸長測定装置(OA-2000)で眼軸長を測定した正常眼圧症例201例366眼。対象をvan Herick法grade 2以下のPACSでACD 2.0mm未満を1群,2.0mm以上を2群,コントロール群を3群に分類した。水晶体厚などの水晶体因子パラメータを定めてその群間差,ACDと水晶体因子パラメータとの相関を検討した。

結果:平均年齢は各群間で有意差はなかった。1,2群間ですべての水晶体因子パラメータで有意差があった(p<0.01)。ACDと水晶体因子パラメータの間に相関があった。

結論:光学式眼軸長測定は閉塞隅角疾患の診療に有用であり,1群は水晶体因子が強く,PACSのなかでも急性緑内障発作を生じるリスクが高い可能性がある。

白内障手術および濾過手術周術期における抗菌薬・ステロイド点眼薬使用の多施設検討

著者: 荒木裕加 ,   本庄恵 ,   石田恭子 ,   富所敦男 ,   原岳 ,   相原一 ,   平成緑内障倶楽部研究グループ

ページ範囲:P.809 - P.815

要約 目的:白内障手術および濾過手術周術期における抗菌薬とステロイド点眼薬の使用状況を調べた。

対象と方法:関東の緑内障専門医(平成緑内障倶楽部参加)に対して,白内障手術,濾過手術,および同時手術の周術期における抗菌薬・ステロイドの使用方法について,アンケート調査を行った。

結果:34施設48名の医師より回答を得た。術前後の抗菌点眼薬はニューキノロン系が多く,投与期間は術前は3日間,術後は白内障手術,濾過手術,同時手術でそれぞれ1か月(51%),3か月(41%),3か月(43%)が多かった。術後ステロイド点眼の使用期間は,白内障術後では1か月(49%),濾過手術後では6か月(29%),同時手術では3か月または6か月(27%)が最も多かった。

結論:白内障手術と濾過手術周術期の抗菌薬・ステロイド点眼薬の使用法には個人と施設では相違があり,合併症,眼内炎発症,耐性菌出現などの安全性も検討し,適切な使用法を検討すべきである。

加齢黄斑変性,糖尿病および緑内障患者の受診率と手帳持参率の比較

著者: 小林博

ページ範囲:P.817 - P.826

要約 目的:加齢黄斑変性患者,緑内障患者および糖尿病網膜症患者の病識を調べるために,受診率と手帳の持参率を比較検討した。

対象と方法:対象は,次回診察を予約した加齢黄斑変性患者170名(75.8±9.5歳,男性114名,女性56名),糖尿病患者377名(66.4±12.0歳,男性204名,女性173名)および緑内障患者513名(72.1±11.7歳,男性223名,女性290名)である。初診時に手帳を渡し,3年間にわたり受診率と持参率を調査した。

結果:加齢黄斑変性患者160名(94.1%),糖尿病患者304名(80.6%),緑内障患者396名(77.2%)が調査を完了した。全期間における持参率は,加齢黄斑変性患者が91.0%(3,700回中3,367回),糖尿病患者が89.3%(3,913回中3,495回),緑内障患者が92.7%(7,528回中6,981回)であり,有意差はなかった。いずれの疾患でも持参率は1年までは有意に上昇し(p<0.0001),その後は変化がなかった。50〜79歳では,加齢黄斑変性および緑内障患者は糖尿病患者に比較して持参率は有意に高く(p<0.002),加齢黄斑変性患者と緑内障患者では80歳以上の患者は50〜79歳の患者に比べて低率であった(p<0.0001)。いずれの疾患でも,脱落患者の手帳の持参率は調査完了患者に比較して有意に低率であった(p<0.01)。

結論:いずれの疾患でも,高齢化するに従い持参率は低下しており,脱落患者の手帳の持参率は調査完了患者に比較して有意に低率であった。同年齢層では,加齢黄斑変性および緑内障患者は糖尿病患者に比較して持参率は有意に高かった。

エクスプレス®挿入術後の強膜フラップ厚の経時的変化

著者: 吉田祐史 ,   上野勇太 ,   大鹿哲郎

ページ範囲:P.827 - P.834

要約 目的:エクスプレス®(アルコン社)は緑内障濾過手術に用いるデバイスであり,従来の術式よりも合併症が少ないと報告されている。一方で,デバイス特有の合併症として結膜上への露出があり,強膜フラップの経時的な菲薄化の可能性が示唆される。そこで今回エクスプレス®挿入術後の強膜フラップ厚の経時的変化を検討した。

対象と方法:エクスプレス®挿入術を施行した27例29眼を対象とし,術後の眼圧や追加治療の有無によりコントロール良好群17例19眼と不良群10例10眼に分けた。術後1週,1,3,6か月の時点で前眼部光干渉断層計(CASIA,トーメー社)を用いて濾過胞を撮影し,断面像より強膜フラップ厚を測定した。角膜輪部から1.5mmまでの強膜フラップを前方,それ以降を後方とし,それぞれ比較検討した。

結果:良好群の強膜フラップ厚は,前方・後方ともに経時的変化はなかった。不良群の強膜フラップ厚は,有意差はないものの前方・後方とも徐々に薄くなる傾向があった。術後1週と6か月の強膜フラップ厚を比較すると,6か月において良好群で前方9μm,後方6μm,不良群で前方59μm,後方34μm菲薄化しており,前方の変化量に両群間で有意差があった(p<0.05)。

結論:エクスプレス®挿入術後に,眼圧コントロール不良例では強膜フラップが薄くなる可能性が示唆された。特にエクスプレス®の鍔と接触する輪部付近の強膜フラップにおいて,その傾向は顕著であった。

若年者にみられた乳頭出血の3例

著者: 清水瑞己 ,   大野新一郎 ,   石川慎一郎 ,   江内田寛

ページ範囲:P.835 - P.841

要約 背景:若年者に乳頭出血が生じることがある。アジア人,女性,小乳頭,近視眼に多いとされ,その原因として,硝子体による乳頭部の牽引,脈絡膜と乳頭境界組織の破綻,乳頭の形態異常などが推定されているが,原因は不明である。

目的:乳頭出血が生じた3症例の報告。

症例:症例はいずれも女性で,それぞれ14歳,17歳,24歳である。乳頭出血は3例とも片眼に生じたが,うち1例では5か月後に他眼にも生じた。3症例とも−3〜−5Dの中等度近視であった。3症例とも,後部硝子体剝離はなく,片眼または両眼が小乳頭であった。1例には心奇形と無脾症があり,ワーファリンを服用中であったが,他の2例には出血の素因はなかった。乳頭出血は初診から1〜3か月後に自然消退した。

結論:若年の成人女性に乳頭出血が生じた。中等度の近視と小乳頭があった。いずれも出血は自然寛解した。

膠原病患者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎の2例

著者: 一色仁美 ,   豊口光子 ,   青山幸弘 ,   三上侑利子 ,   竹下恵理 ,   狩野麻理子 ,   船津英陽

ページ範囲:P.843 - P.849

要約 目的:膠原病患者に発症したサイトメガロウイルス網膜炎(CMVR)の2例を経験した。2013年にSchneiderらが提唱した慢性網膜壊死の病像を呈していたので報告する。

症例:症例1は72歳,女性。MPO-ANCA関連血管炎による急性進行性糸球体腎炎でステロイドパルス療法後にステロイド内服中であった。右眼の視力低下を主訴に当科を受診し,虹彩炎,網膜出血,硝子体混濁を認めた。ステロイド点眼およびトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射を施行したが,3か月後に眼底出血が増悪し,白色顆粒状病変が出現した。前房水PCR検査でCMV-DNAを認めCMVRと診断し,ガンシクロビルの全身投与と硝子体内注射で改善を認めた。消炎後,広範囲の網膜血管閉塞領域を認めたため網膜汎光凝固を施行した。症例2は73歳,女性。関節リウマチで免疫抑制薬とステロイド内服中であった。左眼の飛蚊症を主訴に前医を受診し,左眼ぶどう膜炎の診断で当科へ紹介され受診した。虹彩炎,網膜血管白線化,網膜白色顆粒状病変を認め,前房水PCR検査でCMV-DNAを検出しCMVRと診断した。ガンシクロビルの全身投与と硝子体内注射を施行し改善傾向であったが,新生血管からの硝子体出血を生じ硝子体手術を施行した。術後,周辺部の網膜血管閉塞領域に対し光凝固を施行した。

結論:網膜白色顆粒状病変と網膜血管閉塞を伴い,慢性的な臨床経過を認めたCMVRを経験した。臨床経過から非HIV患者に発症した慢性網膜壊死と考えられた。慢性網膜壊死では,薬物療法のみではなく新生血管予防のため光凝固が必要な症例もあり,早期診断,治療が必要である。

血管攣縮網膜症から発見された褐色細胞腫の1例

著者: 杉本八寿子 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.851 - P.858

要約 目的:眼科において血管攣縮型高血圧網膜症と診断し,内科的検索の過程で褐色細胞腫が発見された症例を経験したので報告する。

症例:49歳,女性。左眼に強い両眼の視力低下を自覚し近医を受診した。眼底の異常を指摘され精査加療目的に関西医科大学附属病院を紹介受診となった。初診時所見は,矯正視力が右眼0.9,左眼0.5であった。受診時血圧が212/138mmHgと著明な高血圧を認めたが,内科受診歴はなかった。両眼の眼底には,乳頭浮腫の強い網膜浮腫,軟性・硬性白斑が散在し,点状・線状出血,静脈の拡張蛇行と動脈の狭細化を認めた。網膜深層に急性Elschnig斑を認めたために,血管攣縮型高血圧網膜症と診断した。内科へ紹介したところ,褐色細胞腫と診断された。降圧治療開始後,眼底所見は改善を認め,眼科的治療なしに視力障害を残さず眼底の異常所見は消失した。

結論:血管攣縮型高血圧網膜症は二次性高血圧から生じることが多く,早期に降圧治療を行えば視力障害なく改善する。血管攣縮網膜症を認めた場合,本例のように褐色細胞腫の存在を考慮する必要がある。

横浜市立大学附属病院における5年間の眼腫瘍の手術治療

著者: 加藤愛 ,   金子明博 ,   西出忠之 ,   井田泰嗣 ,   加藤明世 ,   野村知世 ,   近藤由希帆 ,   近藤紋加 ,   水木信久

ページ範囲:P.859 - P.865

要約 目的:過去5年間に横浜市立大学附属病院で眼腫瘍に対し手術加療を行い,病理組織診断がついた症例を報告する。

対象と方法:2012年4月〜2017年3月の5年間に当院にて眼腫瘍と病理組織診断した143例150眼に対し,腫瘍発生部位,腫瘍別の件数,治療予後についてレトロスペクティブに検討した。

結果:平均年齢は61.1±19.9歳で,全腫瘍のうち良性腫瘍は102眼(68%),悪性腫瘍は48眼(32%)であった。発生部位は結膜57眼,眼瞼56眼,眼窩内32眼,眼内5眼の順に多かった。病理組織別頻度では良性腫瘍では母斑が最も多く,次いで乳頭腫,脂漏性角化症の順に多かった。悪性腫瘍では悪性リンパ腫が最も多く,次いで脂腺癌,扁平上皮癌の順に多かった。悪性腫瘍切除後に放射線療法を併用した症例は12眼(8.0%),化学療法を併用した症例は2眼(1.3%)であった。悪性腫瘍切除後に再発したのは9眼(6.0%)であり,脂腺癌が4眼(2.6%)と多かった。転移したのは3眼(2.0%)であり,そのうち脂腺癌1眼(0.7%)であった。

結論:脂腺癌は切除治療後の再発転移に十分注意して経過観察し,切除後の定期的な全身検索も必要である。

旭川医科大学病院眼科における結膜・眼瞼・眼窩腫瘍の検討

著者: 花田一臣 ,   廣川博之 ,   石居信人 ,   三代川斉之 ,   武井英博 ,   吉田晃敏

ページ範囲:P.867 - P.874

要約 目的:結膜・眼瞼・眼窩の腫瘍について発生頻度と病理組織学的診断を検討する。

対象と方法:2005年5月〜2017年4月の12年間に旭川医科大学病院眼科で切除または生検を施行して病理組織診断を得た結膜・眼瞼・眼窩の腫瘍91名99眼について,性別,良性・悪性の比率,発生時年齢,病理組織学的診断を後ろ向きに検討した。

結果:発生部位別の内訳は結膜71眼,眼瞼9眼,眼窩19眼であった。性別ごとの症例数は男性49名54眼,女性42名45眼であった。良性・悪性別の症例数は良性腫瘍63眼,悪性腫瘍36眼で良性腫瘍のほうが多かった。発生時年齢の平均は,59.2±20.2歳(8〜96歳),良性腫瘍では53.8±20.0歳,悪性腫瘍では69.1±15.1歳であった。病理組織学的診断は良性腫瘍では母斑,乳頭腫が多く,悪性ではMALTリンパ腫と眼表面扁平上皮新生物が多かった。

結論:今回の検討では発生部位では結膜が多かった。性差,良性・悪性の比率,発生時年齢について既報とおおむね同様の結果であった。眼部腫瘍の発生部位と種別は多岐にわたるので,適切な治療のためには病理組織学的診断が重要であると考えた。

超音波生体顕微鏡と前眼部光干渉断層計で観察された水晶体形状の比較

著者: 馬嶋清如 ,   市川慶 ,   酒井幸弘 ,   内藤尚久 ,   磯谷尚輝 ,   片岡嵩博 ,   中村友昭 ,   市川一夫

ページ範囲:P.875 - P.882

要約 目的:超音波生体顕微鏡(UBM)と前眼部光干渉計(OCT)で撮影された水晶体の形状を比較する。

対象と方法:対象は正常眼,アトピー白内障眼,加齢白内障眼の計20眼である。無散瞳の状態でUBMと前眼部OCTを使用して12-6時,2-8時,3-9時,4-10時の4方向から前眼部と中間透光体を撮影した。次にUBM画像の透明度を50%にした後,水晶体の形状を保ったまま前眼部OCT画像の水晶体前後面に重ね合わせるように傾きを変えて縮尺した合成画像を作成した。合成画像において,両画像間の水晶体前後面が一致するのか,角膜の位置に違いがあるのかを調査した。対象とした画像数は計80画像である。

結果:水晶体の前後面は両画像間で全例が一致していた。角膜後面中央部に関しては一致する例と一致しない例があり,一致しない場合は全例において角膜後面中央部の位置が前眼部OCT画像のそれに比して上方に位置しており,平均値で0.24mm上方に観察された。

結論:水晶体形状は両画像間で一致しており,UBM画像においても前眼部OCT画像と同様な精度の観察が可能と考えた。角膜後面中央部の位置が両画像間で違う例も存在していたが,これは両画像間における観察軸の違いが原因ではないかと考えた。

井上眼科病院における多焦点眼内レンズ挿入術対象者の推移

著者: 小西健太 ,   比嘉利沙子 ,   設楽恭子 ,   徳田芳浩 ,   井上賢治

ページ範囲:P.883 - P.887

要約 目的:井上眼科病院における自費診療と先進医療の多焦点眼内レンズ(IOL)挿入術対象者の推移を後ろ向きに調査した。

対象と方法:対象は,2014年9月〜2016年12月に井上眼科病院で,多焦点IOL挿入術を施行した353例548眼(自費診療163例264眼,先進医療190例284眼)である。2016年1〜12月に当院で施行した単焦点IOL挿入例(10歳未満を除く)3,719例5,127眼を比較対象とした。

結果:多焦点IOL挿入術は,2009年以降,徐々に増加した。自費診療と先進医療の割合は同等であった。多焦点IOL挿入例は女性の割合が多く,単焦点IOL挿入例より平均年齢は若かった。自費診療と先進医療では,先進医療保険加入の状況,職業,多焦点IOLの情報源について異なる傾向を示したが,多焦点IOLの情報源については,いずれも医療機関を受診した際が最も多かった。

結論:多焦点IOLは,若い年齢層が多く,情報源については,いずれも医療機関を受診した際が最も多かった。

3種類のHaigis式IOL定数における白内障術後屈折誤差の検討

著者: 都村豊弘 ,   野本浩之 ,   山地英孝

ページ範囲:P.889 - P.897

要約 目的:眼内レンズ(IOL)度数計算式の1つであるHaigis式のIOL定数(a0,a1,a2)算出を3施設に依頼。提供されたIOL定数で度数計算を行い術後屈折誤差精度について比較した報告。

対象と方法:対象は2015年7月〜2017年6月に当診療所にて白内障手術を施行した127例217眼。IOLはNS-60YG(SZ-1:NIDEK社),角膜曲率半径と前房深度はTMS-5(TOMEY社),眼軸長測定はOA-1000(TOMEY社)のContactモードで測定。IOL定数は過去4年間に当診療所で施行した300眼をDr. Hillのウェブサイト(H群),TOMEY社(T群),NIDEK社(N群)に依頼し算出したものを使用。それらIOL定数を用いて同じIOL度数における予測屈折値をHaigis式で算出。術後1か月に他覚屈折値を基に自覚屈折値を算出しそれぞれの予測屈折値と比較した。

結果:算出されたIOL定数(a0,a1,a2)はH群:0.670,0.008,0.177,T群:0.582,0.010,0.180,N群:0.499,0.150,0.165であった。術後1か月における屈折値誤差平均値(絶対値平均値)はH群−0.04±0.43(0.33±0.28)D,T群0.09±0.43(0.34±0.29)D,N群0.28±0.43(0.40±0.31)D。眼軸長別誤差平均値(H群,T群,N群)は,22mm未満:0.07,0.21,0.52D,22〜24.5mm未満−0.08,0.06,0.23D,24.5mm以上:0.16,0.25,0.37Dであった。両平均値ともに各群間で有意差があった(平均値p<0.001,絶対値平均値p=0.012,ANOVA)。また,±0.5(±1.0)D以内に入った割合は,H群79.7(96.3)%,T群79.3(96.8)%,N群71.4(94.5)%であった。各群間で有意差はなかった(±0.5D以内p=0.071,±1.0D以内p=0.444,χ2検定)。

結論:Haigis式におけるIOL定数の最適化を行う際には複数の解析施設に依頼し算出された結果を比較したうえで度数計算する必要があることが示された。

45歳以上の近視矯正に施行した有水晶体眼内レンズ(ICL)挿入術

著者: 田川考作 ,   浅井宏志

ページ範囲:P.899 - P.904

要約 目的:厚生労働省の承認を受けた近視矯正目的の後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)の適応は21〜45歳である。45歳以上は併発白内障や近見障害を懸念して慎重適応とされているが,当院で施行した結果を報告する。

対象と方法:ICL挿入術を施行した近視または近視性乱視症例86例153眼のうち,45歳以上の10例17眼を検討した。平均年齢52.1歳,術前等価球面度数の平均は−10.29D,遠方裸眼視力の平均は0.03であった。17眼のうちnon-hole ICLは1眼,hole ICLは16眼であった。

結果:遠方裸眼視力の平均は術後1か月0.88,3か月1.08,6か月1.33,1年1.07であった。中間(50cm)裸眼視力の平均は0.83,近方(30cm)は0.44であった。等価球面度数の平均は術後1か月−0.71D,6か月−0.13D,1年−0.31Dであった。コントラスト感度は正常範囲内であった。白内障の悪化や再手術を要する眼圧上昇はなかった。アンケートによる満足度(5点満点)は遠方3.9点,中間4.1点,近方2.9点で近方が低く,眼鏡を使わないは62%であった。

結論:45歳以上への近視矯正ICL挿入術は,良好な遠方裸眼視力が得られ,安全で有効な術式と思われたが,さらに長期の経過観察が必要である。また近方視の満足度がやや低かった。

連載 今月の話題

RAPD—あるのか,ないのか,それが神経眼科的問題だ!

著者: 中村誠

ページ範囲:P.755 - P.764

 光刺激を交互に片眼ずつ与える交互点滅対光反射試験を行ったとき,片側の直接対光反射が鈍い場合,相対的瞳孔求心路障害(RAPD)があると考える。このRAPDは,唯一といってよい,非侵襲的で客観的な視機能障害所見であり,臨床的意味と有用性はきわめて大きい。

症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー・術前編5

特殊症例の眼内レンズ選択

著者: 根岸一乃

ページ範囲:P.766 - P.771

Q エキシマレーザー角膜屈折矯正手術後や有水晶体眼内レンズ(intraocular lens:IOL)挿入眼などの屈折矯正手術後の患者や円錐角膜の患者に対する白内障手術に際しては,通常通りに行うと,IOL度数の計算誤差が大きいことが知られていますが,現状においてIOLをどのように選択し,度数計算はどのような方法で行ったらよいでしょうか?

臨床報告

ぶどう膜炎にてステロイド治療中にニューモシスチス肺炎を併発した死亡例1例を含む3症例

著者: 工藤孝志 ,   江目孝幸 ,   田名部玲子 ,   工藤朝香 ,   目時友美 ,   安達功武 ,   鈴木幸彦 ,   中澤満

ページ範囲:P.775 - P.780

要約 目的:ぶどう膜炎に対する副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)治療および免疫抑制薬使用中に併発した死亡例1例を含むニューモシスチス肺炎3症例の報告。

症例:[症例1]59歳,女性。既往に特記事項なし。難治性強膜炎およびぶどう膜炎に対し,ステロイド大量漸減療法施行中,同肺炎を発症した。スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST)合剤による治療を施行し軽快した。[症例2]76歳,男性。ステロイド糖尿病の既往あり。難治性原田病に対し,シクロスポリンを併用したステロイド加療中,同肺炎を発症した。ST合剤併用にて治療したが呼吸状態が悪化し,集中治療部にて吸気時陽圧補助換気による呼吸管理を要した。[症例3]78歳,男性。ホジキンリンパ腫の既往あり。経過中に難治性強膜炎およびぶどう膜炎を発症し,ステロイドパルス療法を施行中に同肺炎を発症した。ST合剤による加療開始となるが呼吸状態が悪化し死亡した。

結論:ぶどう膜炎などの眼疾患にて高用量ステロイド治療時や免疫抑制薬併用時は,常に同肺炎への警戒と予防が必要であり,特に全身疾患をもつ症例は重症化する可能性が高く,注意が必要であることが認識された。

眼部にAIDS関連カポジ肉腫を認めた1例

著者: 高木健一 ,   吉川洋 ,   田邉美香 ,   塩瀬聡美 ,   村田昌之 ,   藤原美奈子 ,   園田康平

ページ範囲:P.781 - P.786

要約 目的:眼部に後天性免疫不全症候群(AIDS)関連カポジ肉腫を認めた1例を報告する。

症例:35歳,男性。6か月前に右下眼瞼の腫瘤を近医で切開をされたが軽快しなかった。その後,健康診断で肺野の異常陰影を指摘されAIDSと診断,九州大学総合診療科から九州大学眼科を紹介された。右下眼瞼外側に暗赤色の有痛性腫瘤,左眼球結膜に赤色腫瘤性病変を認めた。右下眼瞼の生検でカポジ肉腫と診断した。肺と消化管にも腫瘍が多発していた。Highly active anti-retroviral therapyに加えてリポソーマルドキソルビシン投与を6クール行い,腫瘍は消失した。

結論:AIDS関連カポジ肉腫の患者がAIDSの自覚なく眼科を初診しうるので注意が必要である。

今月の表紙

硝子体脱出

著者: 永野幸一 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.754 - P.754

 症例は60歳の女性。10日前より左眼のかすみが出現し,近医を受診したところ急性緑内障と診断され眼圧降下薬を処方された。すぐに中核病院を受診するように紹介されたが受診せず,1週間後に受診したところ水晶体亜脱臼と診断された。手術を予定されたが,視力が比較的保たれていることから手術を躊躇し,セカンドオピニオン目的にて当院を受診した。

 初診時視力は,右0.7(1.2×+0.25D()cyl−0.75D 80°),左0.3(1.2×+1.50D()cyl−1.00D 120°),眼圧は両眼ともに15mmHgであった。眼底には異常はなかったものの,左眼は上方のチン小帯が断裂して水晶体が下方に偏位し,硝子体が前房内に脱出していた。現状と手術の必要性を説明したところ,前医で予定通り手術を受けることになった。

海外留学 不安とFUN・第30回

留学奮闘記 from Los Angeles・2

著者: 寺崎寛人

ページ範囲:P.772 - P.773

 後編では自分の経験から以下の2点に絞って述べさせていただきます。留学を検討中の先生方のお役に立てれば幸いです。

Book Review

あなたの患者さん,認知症かもしれません—急性期・一般病院におけるアセスメントからBPSD・せん妄の予防,意思決定・退院支援まで

著者: 桑田美代子

ページ範囲:P.842 - P.842

 「桑田さんから紹介された小川先生の本,面白くてもう2回も読んだわ。認知症のことわかっていると思っていたけど,改めて勉強になった! すごく読みやすいのよ」と,当法人の看護部長が意気揚々と語ってくれた。面白かったという点は以下の通りである。認知症に関する知識の整理につながった。随所に「ポイント」として,重要な点が簡潔にまとめてあるのも理解の助けになった。そして,皆が疑問に思うことに答えるような書き方になっている。急性期・一般病院で日常起こっている現象だから,「ある,ある」と自然に頭に入る。小川先生の講義を聞いている印象さえすると語っていた。

 認知症患者は,“大変な患者”の一言で語られてしまう現状もある。スタッフは忙しいのに対応しきれない。そして,ケアする側が大変と受け取れば,それは“不穏”“問題”と表現され,その理由に目が向けられない。ケアする側が不安や混乱を増強させていることに気付いていない。だから,根本の原因解決となる対応にはつながらない。本書は,その根本原因の解決につながる知識,現象の見方が書かれている。認知症をもつ人の生活のしづらさ,苦痛や不安に焦点をあて,認知症の知識に基づき,その原因がひもとかれている。だから,「なるほど,そうなんだ!」と合点がいくのである。みかたが変わると,現象の受け止め方も変わり,ケアする側の気持ちにも余裕が出てくる。

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目次

ページ範囲:P.750 - P.751

欧文目次

ページ範囲:P.752 - P.753

Information 第36回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.765 - P.765

ことば・ことば・ことば 小川さん

ページ範囲:P.774 - P.774

 日本人の姓には,中村さんや横山さんのように,具体的な意味が隠れているのが普通です。イギリスやドイツでもこれと似たことがあります。

 動物の名が姓になっているのが,強度近視の中心窩にできるFuchs斑です。ドイツのFreiburgの教授だった人ですので,英語ではfoxになり,「狐先生」ということになります。

べらどんな ある仮説

著者:

ページ範囲:P.794 - P.794

 山梨の塚原重雄先生が,昨年暮に82歳で逝去された。当たりの柔らかい温厚そのものの方で,副学長になられたのも当然である。

 塚原先生で思い出すのは正常眼圧緑内障(normal tension glaucoma:NTG)のことである。最近その頻度が激増しているが,理由についてはいまだ定説がない。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.906 - P.909

希望掲載欄

ページ範囲:P.912 - P.912

アンケート用紙

ページ範囲:P.914 - P.914

次号予告

ページ範囲:P.915 - P.915

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.916 - P.916

 先日,第122回日本眼科学会総会が盛況のうちに終了しました。学会長の鳥取大学教授の井上幸次先生の細やかな心遣いやプログラム委員会のご努力,そして天候にも恵まれ,充実した議論のなか,多くの刺激を受けることができました。ちなみに今回の学会長をされた井上先生には,この4月から本雑誌「臨床眼科」の編集委員にご就任いただくことになり「臨床眼科」の内容がますます充実していくことが期待されます。井上先生よろしくお願いいたします。

 さて,この4月から新専門医制度の下で臨床研修が始まったわけですが,そのなかで厚労省のあからさまな外科医,産婦人科医などへの誘導と都市部医師の制限が強行されることになりました。なかでも眼科では都会に指定された東京,神奈川,愛知,大阪,福岡で過去5年間の平均数を上限とした登録者制限が行われ大混乱をきたしました。特に東京では第一次登録者97名中20名が,愛知では27名中10名が登録不可となり,また一次登録者が0であったにもかかわらず二次募集ができない施設も出ました。来年度も,この状態が改善される見込みはなく,今秋の登録時に,どのような状況が起きるのか今から大変心配されます。眼科全体の意思統一と他科との連携を含め可能な手段を尽くして対策していく必要があると思います。眼科の将来を明るいものにすべく協力していきましょう。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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