icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科72巻8号

2018年08月発行

雑誌目次

特集 第71回日本臨床眼科学会講演集[6] 原著

Modified extended field imaging法を用いた広角OCT angiography

著者: 笠松広嗣 ,   平野隆雄 ,   北原潤也 ,   柿原伸二 ,   鳥山佑一 ,   村田敏規

ページ範囲:P.1085 - P.1090

要約 目的:OCT angiography(OCTA)検査を既報のextended field imaging(EFI)法と,筆者らが新たに考案したソフトコンタクトレンズ装用下でのmodified EFI(M-EFI)法を用いて行い,取得画像の拡大率と画質について検討する。

対象と方法:対象は正常ボランティア6例6眼(平均年齢33±6歳)。EFI法は既報の通り+20Dレンズを挿入した検眼枠,M-EFI法は+20Dソフトコンタクトレンズ(ブレス・オー®,TORAY社)装用下で検査を施行。12mm×12mmの撮影条件で通常法,EFI法,M-EFI法を用い網膜全層OCTA(PLEXTM Elite 9000,Carl Zeiss Meditec社)画像を取得。通常法で得られた画像に対する面積の拡大率をImage Jを用いて算出し,EFI法とM-EFI法について比較検討を行った。それぞれの撮影法による取得画像の画質について8名の眼科医でabsolute category rating(ACR)を用い主観的評価(5段階)を行った。

結果:拡大率はEFI法がM-EFI法と比較し有意に高かった(1.69±0.18倍vs. 1.22±0.06倍,p=0.03)。主観的評価はM-EFI法がEFI法と比較し有意に高かった(ACR平均値:4.06±1.00 vs. 2.77±0.97,p<0.001;中央値:4 vs. 3)。

結論:M-EFI法はEFI法と比較し,拡大率は低下するものの,主観的評価の高い広範囲のOCTA画像を一度の検査で取得可能な検査方法と考えられる。

感覚性外斜視の発生メカニズムの研究—片眼性黄斑部疾患における視力,眼位,両眼視機能,視野の検討

著者: 大沼学 ,   新井田孝裕 ,   原直人 ,   藤山由紀子 ,   薄井紀夫 ,   内海通

ページ範囲:P.1091 - P.1097

要約 目的:視力不良が原因とされる感覚性斜視の発症メカニズムを,片眼性黄斑部疾患における視力,眼位,両眼視機能,視野を比較することで検討する。

対象と方法:対象は,片眼性の加齢黄斑変性(AMD)18例と,黄斑円孔(MH)13例,および年齢をマッチングさせた正常者対照群16例で,視力,眼位,両眼視機能(融像幅,立体視),および視野を比較した。AMDとMHの抽出条件は,健眼矯正視力1.0以上,患眼矯正視力0.6以下とした。融像幅は大型弱視鏡用に自作した円形単純図形を用いて測定し,近見立体視はTitmus stereo testsで評価した。視野はハンフリー10-2を用いて,中心窩閾値を含む全69点のトータル偏差から10dB以上感度低下した点を抽出し,その割合を障害率として算出した。

結果:31例中,患眼の抑制を呈したのは4例(12.8%),そのなかで斜視を呈したのは2例(6.4%)で,いずれもAMD症例であった。AMD群とMH群の患眼の視力および対照群を含めた融像幅に有意差はなかったが,視野ではAMD群の障害率が44.6%±34.2,MH群は10.5%±17.9であり,AMD群の障害率が有意に高かった(p<0.05)。患眼の抑制を示した4例の障害率は85.9%±16.4と中心視野の広範囲に存在し,さらに斜視を呈した2例の左右の視力差はlogMAR値で2.10,1.48と顕著であった。

結論:片眼性の黄斑部疾患では,視力の顕著な左右差と中心10°以内の視野で深く広範囲な障害が重なった場合に,両眼視の破綻をきたし感覚性斜視に移行すると考えられた。

和歌山県立医科大学附属病院での最近2年間(2015〜2016)の強度近視網膜分離症の手術成績

著者: 住岡孝吉 ,   田中才一 ,   岩西宏樹 ,   石川伸之 ,   溝口晋 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.1099 - P.1104

要約 目的:強度近視網膜分離症の硝子体手術成績を検討した。

対象と方法:対象は2015年1月1日〜2016年12月31日に当院で施行した強度近視に伴う網膜分離症11例11眼。手術は全例で後部硝子体皮質を広範囲に除去し,7眼で内境界膜(ILM)剝離を行った。

結果:全例で網膜分離症は形態的に改善した。ILM剝離を行っていない1例で2か月後に再発したが,再手術でILM剝離を行うことで良好な経過をたどった。視力は9眼で2段階以上改善し,2眼が不変であった。

結論:強度近視網膜分離症の治療には硝子体手術が有効であった。ILM剝離が必要な症例を適切に判断することで術後良好な経過を得ることができる可能性がある。

横浜市立大学附属病院における若年性ぶどう膜炎の疫学的検討(2011〜2014年)

著者: 浅見茉利奈 ,   石原麻美 ,   澁谷悦子 ,   蓮見由紀子 ,   木村育子 ,   河野慈 ,   井田泰嗣 ,   竹内正樹 ,   山根敬浩 ,   水木信久

ページ範囲:P.1105 - P.1110

要約 目的:横浜市立大学附属病院眼科における若年性ぶどう膜炎患者の検討。

対象と方法:2011年4月〜2015年3月に当院を受診した19歳以下のぶどう膜炎初診患者63例を対象とし,原因疾患と臨床像を診療録より後ろ向きに調査した。

結果:初診時平均年齢は13.1±4.7歳(15歳以下60.3%)で,女児(65.1%)が多かった。前部ぶどう膜炎(50.8%)が最多で,次いで汎ぶどう膜炎(42.9%)であった。両眼性(65.1%),非肉芽腫性(65.1%)が多く,全身疾患に伴うものは27.0%であった。上位原因疾患は,若年性特発性関節炎(12.7%),CIC(chronic iridocyclitis in young girls)(7.9%),間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(6.3%)であり,同定不能例(52.4%)が最も多かった。眼合併症は46.0%にみられ,黄斑浮腫・変性(23.8%),視神経乳頭発赤・腫脹(22.2%),白内障(20.6%),高眼圧/緑内障(19.0%),帯状角膜変性(11.1%)であった。全身治療を行った症例は36.5%,手術(全例,白内障手術)を要した症例は9.5%であった。

結論:若年性ぶどう膜炎患者では女児,両眼性,前部ぶどう膜炎が多く,原因疾患では若年性慢性虹彩毛様体炎(若年性特発性関節炎およびCIC)が多かった。

近年の小児ぶどう膜炎の臨床的特徴

著者: 吉岡茉依子 ,   小野ひかり ,   春田真実 ,   南高正 ,   眞下永 ,   下條裕史 ,   岩橋千春 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.1111 - P.1117

要約 目的:わが国における近年の小児ぶどう膜炎の臨床的特徴について検討する。

対象と方法:地域医療機能推進機構大阪病院で,2010年7月〜2017年3月にぶどう膜炎と診断された初診時16歳未満の56症例92眼を対象とした。性別,初診時年齢,初診時視力,受診動機,診断,治療,合併症などについて検討した。

結果:女児が40例と多く,初診時年齢は6歳以上が53例であった。初診時矯正視力は1.0以上が53眼と約半数であり,最も多い受診動機は充血で28例であった。前部ぶどう膜炎が34例と多く両眼性が36例であった。確定診断が可能であった症例は18例で,chronic iridocyclitis in young girls 5例,ベーチェット病3例,tubulointerstitial nephritis and uveitis syndrome・ヘルペス性ぶどう膜炎・強膜炎・若年性特発性関節炎に伴うぶどう膜炎がそれぞれ2例,急性前部ぶどう膜炎・multifocal choroiditisがそれぞれ1例であった。34例で全身治療が施行され,続発緑内障,虹彩後癒着,白内障などの合併症が62眼にみられた。

結論:当院に受診した小児ぶどう膜炎症例は女児,6歳以上,視力良好例,充血の主訴が多かった。前部ぶどう膜炎,両眼性,全身治療施行例が多い,ということであった。

シクロスポリン併用が有効であったステロイド抵抗性のVogt-小柳-原田病

著者: 伊藤沙織 ,   石原麻美 ,   澁谷悦子 ,   河野滋 ,   井田泰嗣 ,   山根敬浩 ,   蓮見由紀子 ,   木村育子 ,   水木信久

ページ範囲:P.1119 - P.1127

要約 目的:複数回のステロイドパルス療法により,消炎しないか,ステロイドの内服漸減中に再燃するステロイド依存性のVogt-小柳-原田病(原田病)に,シクロスポリンの併用が奏効した4症例の報告。

症例:症例は原田病と診断した男性3例と女性1例で,年齢はそれぞれ43,49,57,73歳である。全例にステロイドパルス療法を行い,1例は3クールで消炎し,1例は消炎せず,2例は再燃の徴候を呈した。シクロスポリンの併用により消炎したが,うち1例は腎障害のため減量後に再燃があり,ステロイドを増量した。

結論:ステロイドに抵抗または依存する原田病4例に対し,シクロスポリンを併用することで,消炎またはステロイドの減量と中止ができた。

脈絡膜皺襞を認めた特発性眼窩炎症の1例

著者: 戸成匡宏 ,   西川優子 ,   松尾純子 ,   奥英弘 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1129 - P.1134

要約 目的:脈絡膜肥厚と視神経周囲炎を伴い,強膜炎に合併したと考えられる特発性眼窩炎症の1例を報告する。

症例:症例は83歳,女性。右眼眼痛,充血,開瞼困難にて受診した。全方向への眼球運動障害,眼球突出,結膜充血などが認められた。矯正視力は右眼0.25,左眼1.0,右眼RAPD陽性で,光干渉断層計で黄斑部に著明な脈絡膜皺襞が認められた。MRIでは視神経乳頭に及ぶ全周性の強膜炎が認められた。プレドニゾロン内服を行い漸減した。治療後,すべての症状が改善した。

結論:本症例は特発性眼窩炎症のテノン囊/強膜炎型に該当し,炎症が脈絡膜と視神経乳頭周囲に波及したと考えられる。再発が多いとされ,慎重な経過観察を要すると思われる。

両眼性の重篤な視力障害を発症したMPO-ANCA陽性肥厚性硬膜炎の1例

著者: 杉原佳恵 ,   瀬口次郎 ,   成田亜希子 ,   能祖美樹 ,   藤田計行 ,   上野明子 ,   山村昌弘

ページ範囲:P.1135 - P.1140

要約 目的:両眼光覚を消失した肥厚性硬膜炎の1例の報告。

症例:87歳,女性。両眼光覚の消失を主訴に受診した。4か月前より滲出性中耳炎にて耳鼻科で加療中に前額部痛を発症し,抗好中球細胞質ミエロペルオキシダーゼ抗体(MPO-ANCA)陽性にて多発血管炎性肉芽腫症を疑われ,ステロイド内服を開始した。その後,症状は軽快傾向であったが,当科受診2週間前に左眼視力低下を自覚しはじめ,数日のうちに両眼光覚が消失し,近医を受診したのち当科を紹介され受診となった。

所見:Gd造影MRIにて両眼窩先端部を含むびまん性の脳硬膜の肥厚,増強効果を認め,MPO-ANCA陽性肥厚性硬膜炎と診断し,ステロイドパルス療法を開始した。ステロイド内服漸減中に徐々に視力は回復し,シクロホスファミドパルス療法とアザチオプリン内服を追加し,右眼の矯正視力は(0.06)まで回復した。左眼は一時光覚を回復したが,経過中に再び光覚を消失した。

結論:肥厚性硬膜炎は,急速な進行性の両眼視力障害をきたすことがあり,造影MRI撮像し,関連した診療科と連携のうえ,迅速な診断と治療開始が重要である。

視神経乳頭の腫脹から猫ひっかき病の診断に至った2例

著者: 渡邊天翔 ,   市川良和 ,   今村裕 ,   石田政弘

ページ範囲:P.1141 - P.1148

要約 目的:視神経乳頭の浮腫で初発し,Bartonella henselae抗体が陽性で,猫ひっかき病と診断した2症例の報告。

症例:2症例とも男性で,年齢は27歳と52歳である。いずれも片眼性で,羞明または見えにくさが主訴であった。両患者ともネコの飼育歴はなかった。

所見と経過:いずれも片眼のみに病的所見があり,患眼の矯正視力はそれぞれ1.2と0.04であった。1例には乳頭浮腫と網膜静脈炎が初診時にあり,他の1例には乳頭浮腫と漿液性網膜剝離があった。両症例とも黄斑部に脂質沈着が生じた。両症例とも血清学的にB. henselae抗体が陽性で,猫ひっかき病と診断した。1例にはプレドニゾロン内服,他の1例にはステロイドパルス療法と抗菌薬投与を行った。両症例とも寛解し,それぞれ1.2と0.8の最終視力を得ている。

結論:ネコの飼育歴または濃厚接触がなくても,乳頭浮腫,網膜静脈炎,黄斑部の脂質沈着などがあれば,猫ひっかき病の可能性がある。

乳頭上網膜細動脈瘤破裂に伴い網膜動脈分枝閉塞症を発症した1例

著者: 園部智章 ,   永里大祐 ,   亀岡真弘 ,   松葉真二 ,   清水有紀子 ,   今村日利 ,   山内知房 ,   田淵仁志 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.1149 - P.1152

要約 目的:乳頭上網膜細動脈瘤破裂に伴い網膜動脈分枝閉塞症を発症した1例を報告する。

症例:48歳の男性が左眼飛蚊症,下半盲を自覚し受診した。

所見と経過:矯正視力は右1.5,左0.2で,左眼に視神経乳頭上の網膜細動脈瘤とその周囲の網膜下出血,網膜前出血,耳上側の網膜白濁を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影検査にて上耳側網膜動脈の灌流遅延を認めた。インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査では乳頭上に蛍光貯留を認めた。漿液性網膜剝離を伴う黄斑浮腫に対し抗VEGF薬硝子体注射を2回施行し,黄斑浮腫,網膜下出血,網膜前出血は消失した。視力左(0.9)に改善し,治療後24か月で再発はない。

結論:本症例では,乳頭上網膜細動脈瘤破裂に伴い,網膜動脈分枝閉塞症および黄斑浮腫を認めた。乳頭上網膜細動脈瘤破裂に伴い発症した黄斑浮腫に抗VEGF薬は有用であった。

鼻根部へのヒアルロン酸注射直後に,著明な眼虚血および眼球運動障害をきたした1例

著者: 西村英里 ,   盛秀嗣 ,   中川和紀 ,   中道悠太 ,   永井由巳 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1153 - P.1159

要約 目的:鼻根部へのヒアルロン酸注射後に眼動脈閉塞および眼球運動障害をきたした1例を報告する。

症例:症例は31歳の女性。美容外科で隆鼻目的にて鼻根部へのヒアルロン酸注射直後に,右眼の視力低下をきたした。ヒアルロニダーゼを大量注入するも症状は改善せず,当院に紹介され受診した。右眼初診時の矯正視力は0.2,直接・間接対光反射は消失,上眼瞼腫脹と内転障害を認めた。眼底には網膜の浮腫白濁を認め,フルオレセイン蛍光眼底造影では網脈絡膜への流入遅延,OCTで網膜内層の高反射化と肥厚,OCT-angiographyでは網脈絡膜血流の全般的な低下を認めた。受診翌日に角膜実質浮腫による視力低下を認めた(10cm指数弁)。頭部MRIでは右外眼筋の腫脹を認めた。以上からヒアルロン酸血管内迷入による右眼動脈閉塞,外眼筋炎と診断した。治療として眼動脈閉塞に対して眼球マッサージと眼圧下降を行い,前眼部虚血および外眼筋炎に対してステロイド点眼・内服加療を行った。受診1か月後,網膜内層が菲薄化し,局所的な網脈絡膜萎縮は残存したものの,上眼瞼腫脹,内転障害,角膜実質浮腫は消失し,視力は0.2まで回復した。

結論:美容目的のヒアルロン酸注射件数の増加に伴い,今後も重篤な眼合併症の増加が危惧される。眼科医もヒアルロン酸皮下注入の危険性を周知しておく必要がある。

治療開始後に肺結核への罹患が判明した糖尿病網膜症3例

著者: 玉城麻夏 ,   大内亜由美 ,   坂西良仁 ,   李亜美 ,   海老原伸行

ページ範囲:P.1161 - P.1167

要約 目的:増殖糖尿病網膜症の治療開始後に肺結核のあることが判明し,結核の治療後に硝子体手術を行った3症例の報告。

症例:1例は女性,2例は男性で,年齢はそれぞれ31,54,59歳である。3例とも未治療の増殖糖尿病網膜症として受診した。

所見と経過:それぞれ3か月,4か月,7か月の隔離と肺結核に対する加療を必要とした。3例とも結核の治療中に増殖網膜症が進行し,視力が低下した。硝子体手術により,術前と術後の視力は,それぞれ0.1から0.7,0.1から0.4,0.04から0.5に改善した。

結論:肺結核に併発した増殖糖尿病網膜症では,結核の治療中での不十分な眼科診療や,厳格な血糖コントロールにより,網膜症が悪化することがあることをこれら3症例は示している。増殖糖尿病網膜症,特に長期間未治療の症例では,呼吸器症状があるとき,結核感染にも注意するべきである。

眼鏡非装用にて再発した弱視の2症例

著者: 吉岡千紗 ,   西川優子 ,   戸成匡宏 ,   松尾純子 ,   真野清佳 ,   筒井亜由美 ,   菅澤淳 ,   池田恒彦 ,   岡崎優紀子

ページ範囲:P.1169 - P.1173

要約 目的:眼鏡非装用にて再発した弱視2症例の報告。

症例:症例1は6歳6か月,男児。右眼の視力低下にて受診。遠視と内斜視を認めたため,弱視治療を2年間施行し視力は右眼矯正1.0pに改善した。その後,眼鏡破損により1年間眼鏡を装用せず,右眼矯正0.5と視力低下をきたし再診した。矯正眼鏡の再処方と遮閉法にて右眼矯正1.0と改善した。症例2は4歳8か月,男児。遠視と内斜視を認め,弱視治療を7年間施行し,視力は右眼矯正1.0と改善した。その後,眼鏡破損により6か月間眼鏡を装用せず,右眼矯正0.4視力と低下をきたし再診した。矯正眼鏡を再処方し,右眼矯正0.8と視力改善がみられた。

結論:2症例とも不同視弱視兼斜視弱視の症例で,このような症例では,弱視治療が終了しても眼鏡装用と通院が重要である。

黄斑部疾患に対する硝子体白内障同時手術での術後屈折誤差の検討

著者: 忍田栄紀 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.1175 - P.1179

要約 目的:白内障単独手術で挿入すべきIOLを硝子体白内障同時手術で挿入すると屈折誤差が生じる可能性がある。そこで,硝子体白内障同時手術において予測屈折値と術後屈折値を比較し,その誤差を検討した。

対象と方法:対象は特発性黄斑円孔(MH)と特発性黄斑上膜(ERM)に対し硝子体白内障同時手術を施行した111眼。MHは55眼,ERMは56眼で,白内障のみ施行した50眼を対照とした。超音波Aモード法(Aモード)または光学式眼軸長測定装置(IOLマスター)にて眼軸長測定,IOL度数決定を行い,予測屈折値と術後屈折値の誤差をレトロスペクティブに検討した。

結果:3疾患すべて近視寄りの屈折誤差を認め,Aモード群でMHはERMと白内障より,IOLマスター群でMHとERMは白内障より有意に屈折誤差が大きかった。

結論:今後さらなる硝子体白内障同時手術の増加が予想され,硝子体白内障同時手術を行う際には術後の屈折誤差を考慮したIOL度数決定が必要であると考えられた。

連載 今月の話題

眼科における人工知能

著者: 髙橋秀徳

ページ範囲:P.1055 - P.1060

 第1回眼科AI・ビッグデータ研究会が2018年4月16日の第122回日本眼科学会総会初日に開催され,眼科における人工知能について活発な意見交換がなされ,盛況のうちに幕を閉じた。昨今新聞も含め人工知能関連の記事のない日はないくらいになっている。人工知能とは何か,眼科診療はどのように変わっていくのか解説する。

症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー・術中編7

PEA装置のセッティングと核処理

著者: 小川智一郎

ページ範囲:P.1062 - P.1068

Q 両眼の後極部に厚い円形の混濁を呈する白内障(図1)に対して手術を行う際に,超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsification and aspiration:PEA)装置のセッティングや手術手技に関してどのような注意点がありますか?

眼科図譜

網膜下沈殿物を認めた続発性クリオグロブリン血症の1例

著者: 七部史 ,   岡本紀夫 ,   杉岡孝二 ,   松本長太 ,   下村嘉一

ページ範囲:P.1082 - P.1084

緒言

 クリオグロブリン(cryoglobulin:CGs)は,血清を低温に放置すると形成される白色沈殿物である。眼科領域では角膜混濁1),中心性漿液性脈絡網膜症2),血管新生緑内障3),プルチャー様網膜症4)の合併が報告されている。今回,筆者らはCGs血症に網膜下沈殿物を認めた1例を経験したので報告する。

臨床報告

診断に苦慮した浸潤性視神経症の1例

著者: 山内宏大 ,   工藤孝志 ,   中澤満

ページ範囲:P.1073 - P.1080

要約 目的:診断に苦慮した浸潤性視神経症症例の報告。

症例:40代,女性。1週間前から右視力低下あり。右眼は光覚弁となっていたが,検眼上は異常なし。画像上右蝶形骨洞炎の指摘あり。生検にて右蝶形骨洞癌と診断され,放射線治療を施行後は再発なく経過したが,治療1年後に左眼も徐々に視力低下した。検眼上は変化なく,全身CT,各種採血を施行したが原因を特定できなかった。原因不明の左視神経症としてステロイドパルス療法を施行したが,左眼も失明に至った。パルス終了4か月後に左動眼神経麻痺が出現。この時点でのPET-CTにて左視神経に至る腫瘍の再発を認めた。

結論:画像上,視神経の腫瘍性浸潤の同定が困難な場合があり診断に難渋することがある。このような例に対しては髄液検査も含めた検索も考慮する必要があると思われた。

今月の表紙

サイトメガロウイルス網膜炎

著者: 後藤肇 ,   若月優 ,   川村昭之 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1054 - P.1054

 症例は16歳,男児。急性骨髄性白血病で骨髄移植を行い,生着6日後に右眼霧視を自覚し当科受診。初診時は病室管理のためベッドサイドで眼底検査を行った。右眼眼底には後極部下方に約1乳頭径の出血と白色病巣を認めた。サイトメガロウイルス(CMV)網膜炎を疑い,ガンシクロビル点滴を開始したが,網膜出血,白色滲出斑は急速に拡大した。初診5日後には外来検査が可能となった。視力は右眼(1.0),前房,前部硝子体中に炎症細胞を僅かに認めた。右眼眼底には下耳側血管アーケードに沿った網膜出血と白色滲出斑を認めた。また病巣部と健常網膜の辺縁に白色の点状病巣がみられた。以上よりCMV網膜炎と診断し,眼局所療法ガンシクロビル硝子体内注射を行った。抗ウイルス薬の全身投与と硝子体注射により眼底の白色病巣は消失したが,網膜は菲薄化した。

 撮影には,Topcon社製眼底カメラTRC50DXを使用し,撮影画角は50°に設定した。骨髄移植後で体調が優れなかったため迅速に検査をすることを意識した。また散瞳不良で縮瞳しやすかったため観察光量を落として撮影した。

海外留学 不安とFUN・第32回

デンマーク・オーフス大学での留学生活・2

著者: 鈴木佳代

ページ範囲:P.1070 - P.1071

留学中の苦労

 私が所属している北海道大学眼科学教室には,石田 晋教授を始め,留学経験のある先生方が数多くいらっしゃいます。その先生方から色々と留学先での苦労や驚くような事件も聞いていましたが,どこかで自分には起こらないだろうと思っていました。本当に自分の考えは甘かったと思います。

 まず,出鼻を挫かれたのが,よく聞く「ロストバゲッジ」というものでした。意気揚々と乗り込んだコペンハーゲン空港行きの飛行機の到着が遅れてしまい,オーフス空港行きの乗継便に間に合いませんでした。その後,なんとかオーフス空港にはたどり着きましたが,その影響で,預けていた荷物は行方不明になってしまいました。また不運なことに到着したその日はイースターと呼ばれる長期休暇真っただ中で,行方不明になった荷物が届くのに1週間も要しました。

Book Review

あなたの患者さん,認知症かもしれません—急性期・一般病院におけるアセスメントからBPSD・せん妄の予防,意思決定・退院支援まで

著者: 渡邉眞理

ページ範囲:P.1117 - P.1117

 日本は超高齢社会を迎えようとしており,医療の現場では既にその波が押し寄せ,高齢患者が急増しています。医療の現場では平均在院日数が短縮する中,時間に追われながら入院患者の対応をしているのが現状です。そのような状況で本書の『あなたの患者さん,認知症かもしれません』というタイトルは,とても気になりました。

 一般病院に入院中の2〜6割の患者に認知症が疑われます(本書p.9より)。患者の入院生活を通じて「なにか変?」という違和感を抱きながらも高齢者だから……と認知症を見過ごすことも多くあると思います。

《視能学エキスパート》視能訓練学

著者: 大鹿哲郎

ページ範囲:P.1174 - P.1174

 このたび,《視能学エキスパートシリーズ》として,『視能検査学』『視能訓練学』『光学・眼鏡』の3部作が刊行された。公益社団法人日本視能訓練士協会の監修である。これは大げさではなく,快挙と言ってよい。量的にも質的にも驚くばかりである。日本の視能学,特にその臨床教育が達した高みに,ひとしきり感心した。

 3部作のうちの1つである本書が扱うのは,視能訓練士の業務のうち,彼ら/彼女らが最も“腕を振るう”フェーズであろう視能訓練である。視能訓練とは,斜視や弱視の回復を主な目的として,医師の指導のもと専門の視能訓練士が行うリハビリテーション訓練と定義されており,わが国におけるその歴史は未だ半世紀ほどにすぎない。したがってこれまでは,眼科医が眼科学書を微修正する形で編さんしたテキストブックが教育に使用されてきた。実際,国家試験合格が目的であれば,そういった教科書で十分であった。本書はそれらと異なり,視能訓練士が自らの視点から企画したものである。

--------------------

目次

ページ範囲:P.1050 - P.1051

欧文目次

ページ範囲:P.1052 - P.1053

Information 第36回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1061 - P.1061

ことば・ことば・ことば 代官様

ページ範囲:P.1072 - P.1072

 日本の眼科医で,国際的に知名度がいちばん高いのは,石原 忍先生です。ところが漢字を知らない外国人には,Ishiharaに意味があるとは夢にも思わないでしょう。日本には小原,大原,砂原,中原,上原や,原田,原口,それに原一文字だけの姓もあるのです。

 欧米の人名には地名が使われていることがあります。アメリカで飛びぬけて有名な大統領は,ワシントンとリンカーンの2人です。ところがWashingtonもLincolnのどちらも,イギリスにある地名なのです。前者はEnglandの南にある小さな町で,「Wassaと呼ばれる人々が住みついた集落,そして後者はロンドンの200km北にあるLincolnshireの中心で,ローマ時代からあったそうです。ラテン語のcoloniaは「植民地」のことです。ローマの軍団の駐屯地が小山の高いところにあり,そこから下の湿地が見えていました。

べらどんな シュレム管

著者:

ページ範囲:P.1097 - P.1097

 シュレム管はFriedrich Schlemm(1795-1858)が1831年に発見した。ベルリン大学の解剖学教授で,絞首刑になった人の眼球を半割したところ,血液が充満した管が輪部にあった。ブラシの毛を入れて,これが管であることを確認した。

 なぜシュレム管がこのような遅い時期に発見されたかについては,それなりの理由がある。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1180 - P.1184

希望掲載欄

ページ範囲:P.1188 - P.1188

アンケート用紙

ページ範囲:P.1190 - P.1190

次号予告

ページ範囲:P.1191 - P.1191

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1192 - P.1192

 あとがきを執筆している現在は,アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長がシンガポールで会談をしている6月上旬です。今年の冬には,朝鮮半島で戦争が起こるかもしれないとマスメディアで話されていたことを覚えておりますが,そのことを考えると事態の急激な変化に驚かされます。同じようなペースで世の中が急速に変化するとすれば,本号が出版される時には,一体どのようなことになっているのか想像もつきません。

 さて,本号の今月の話題は人工知能です。人工知能が世の中を変える,人工知能による第4次産業革命に乗り遅れた国は今後一方的に収奪され続けるなど,人工知能に関する刺激的なフレーズが巷に溢れています。この予言的フレーズは,確かに半分程度は当たっているようです。しかし,どのように変えるかについてまだわかっていません。人工知能問題が重要なのは,これは科学のみならず人文学研究,そして経済のみならず,わが国の社会までも変えてしまう可能性があることです。著者の髙橋秀徳先生は,この問題に以前から取り組まれている数少ない眼科医です。眼科医の立場から,人工知能について解説されています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?