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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科73巻11号

2019年10月発行

雑誌目次

増刊号 実戦 メディカル眼科治療アップデート

序文

著者: 中澤満

ページ範囲:P.3 - P.3

 2013年増刊号として,「図で早わかり 実戦!眼科薬理」を刊行した。その目的は,日常眼科診療においてオールラウンドな立場で,ある一定レベルでの診療を行うことができることであり,それを可能とするためにその時点での各領域における標準的な薬物治療をその理論的な根拠とともにわかりやすく網羅した。そして診療のかたわら,それを座右に置きながら折に触れて紐解くことで実戦と自己研鑽の両者を図ることも大きな目的であった。

 既刊から6年が経過した時点で眼科診療の全体を俯瞰したとき,領域によっては新しい疾患概念が確立されたり,新規治療法が導入されたりしたこともあり,既刊では必ずしも内容的にカバーされていない部分が散見されるようになった。そこで今回の増刊号では,この6年間の眼科臨床の進歩も取り入れながら,その発展的続編とも言うべき「実戦 メディカル眼科治療アップデート」を刊行することを企画した。

メディカル眼科治療 総論

ページ範囲:P.7 - P.7

Ⅰ 薬物療法の基本と留意点

点眼治療の臨床薬理

著者: 福田正道

ページ範囲:P.8 - P.12

POINT

●点眼薬の製剤設計において,有効性と安全性および安定性は必須の条件である。近年,点眼薬の有効性・安全性を定量的に評価することで科学的なエビデンスが得られ,より適切な点眼薬の選択や投与法の設定が可能になった。特に眼表面にやさしい,安全性を配慮した点眼薬が開発されている。

●白内障周術期には抗菌薬,抗炎症薬,消毒薬などの多剤併用が基本となっており,点眼薬に含まれる防腐剤が角膜上皮障害の一因となっている。近年,消毒薬であるPAIの使用頻度も高まっているが,角膜上皮障害を時間・濃度依存的に誘発することもCRD法で定量的に確認されている。

眼科抗菌療法の実戦と留意点

著者: 福田憲

ページ範囲:P.15 - P.19

POINT

●抗菌薬投与前に原因菌の検索を行う。

●抗菌薬は起炎菌の感受性と標的組織に薬剤が十分に達する投与経路を選択する。

●治療開始後は漫然と抗菌点眼薬を継続せず,効果判定をしっかり行う。

●薬剤耐性菌を誘導・増加させないように適切な抗菌療法を心がける。

眼疾患におけるステロイド薬療法の実戦と留意点

著者: 中井慶

ページ範囲:P.20 - P.24

POINT

●ステロイド薬療法には投与経路に応じて,点眼,結膜下注射,Tenon囊下注射,硝子体内注射,全身投与(点滴および内服)がある。

●炎症の部位に応じて,ステロイド薬の投与経路を考慮する。点眼では後眼部炎症の消炎が期待できないため,STTAやステロイド薬内服などを積極的に用いる。

●いずれの投与経路にしても,副作用として,ステロイド緑内障,白内障が挙げられ,特に若年者はステロイド緑内障の危険因子になりうるので注意が必要である。

●ステロイド薬を漫然と投与し続けるのではなく,近年保険適用になった免疫抑制薬なども積極的に用いて,ぶどう膜炎治療を行うべきである。

眼疾患における抗癌剤・免疫抑制薬療法の実戦と留意点

著者: 中村友子 ,   慶野博

ページ範囲:P.25 - P.30

POINT

●免疫抑制薬投与時は,投与前のスクリーニング検査,投与中のフォローアップ検査が重要である。

●シクロスポリン内服中は,血中濃度のモニタリング(トラフ値,投与後2時間値)を行う。

●眼科疾患に用いられる抗癌剤,免疫抑制薬は適応外使用となるものがあり,倫理委員会での承認を要する場合がある。

眼疾患における生物学的製剤の最近の動向

著者: 楠原仙太郎

ページ範囲:P.31 - P.38

POINT

●現在わが国で眼疾患に保険適用のある生物学的製剤は4剤であり,抗VEGF薬と抗TNFα薬に大別される。

●抗VEGF薬にはラニビズマブとアフリベルセプトがある。いずれも滲出型AMD,DME,RVOに伴う黄斑浮腫,mCNVに適用を有し,多くの患者で視力の向上が期待できる。

●抗TNFα薬についてはインフリキシマブとアダリムマブが認可されている。前者はBehçet病による難治性網膜ぶどう膜炎に,後者は既存治療で効果不十分な非感染性の中間部,後部または汎ぶどう膜炎に,それぞれ使用され,患者の視機能予後を改善させることがわかっている。

●抗VEGF薬については,頻回投与に伴う高額な治療費や治療抵抗例の存在などが問題となっている。抗TNFα薬については,結核を含む重篤な有害事象や二次無効に対する対策が必要である。

Ⅱ 眼科治療—最近の動向・変化

レーザー光凝固療法の最近の動向と変化

著者: 大越貴志子

ページ範囲:P.39 - P.46

POINT

●近年,抗VEGF薬の登場によりレーザー光凝固術の適応と方法が大きく様変わりしつつある。

●黄斑疾患の治療では,閾値下レーザーという凝固斑が残らない低侵襲なレーザーが登場した。

●レーザー機器の自動化が進み,蛍光眼底写真などのイメージを基に手術計画図に従ってレーザーを自動的に照射するシステムが登場した。

緑内障における保存的治療と手術治療に関する最近の動向と変化

著者: 陳進輝

ページ範囲:P.47 - P.54

POINT

●アドヒアランスの向上につながる1日1回の点眼薬やさまざまな配合点眼液が発売されるようになった。

●点眼容器の改良や緩衝液の組み合わせによって,塩化ベンザルコニウムを含まない製品が多く発売され,アレルギーなどで使用できなかった薬剤も使用できるようになった。

●新しい作用機序の点眼薬が発売されたことで,点眼治療の選択肢が広がった。

●近年のマイクロパルス技術の進歩により,緑内障レーザー治療に新たな治療法が出てきた。

●眼内からアプローチできるさまざまな極低侵襲緑内障手術が普及してきた。

眼疾患における遺伝子治療の最近の動向と変化

著者: 西口康二

ページ範囲:P.56 - P.61

POINT

●遺伝子治療は,世界的な個別化医療政策の中心にあり,今後急速に成長していく分野である。

●Leber先天盲に対して初めて行われたアデノ随伴ウイルスベクターによる遺伝子治療の成功をきっかけに,遺伝性網膜変性に対する同治療の適応が急速に拡大した。

●滲出型加齢黄斑変性に対する抗血管新生治療など遺伝性網膜疾患以外の遺伝子治療臨床試験も進行中である。

メディカル眼科治療 各論

ページ範囲:P.63 - P.63

Ⅰ 外眼部疾患・前眼部疾患・屈折異常

細菌性結膜炎

著者: 宮本龍郎

ページ範囲:P.64 - P.67

POINT

●細菌性結膜炎ではキノロン系点眼薬が汎用されている。

●細菌性結膜炎のなかにはキノロン系点眼薬に耐性があるものが増加している。

●眼脂を塗抹検鏡し,分離培養することにより治療を行うことが望ましい。

ウイルス性結膜炎

著者: 山添克弥 ,   秦野寛

ページ範囲:P.68 - P.72

POINT

●アデノウイルス結膜炎は急性濾胞と流涙(水様性眼脂)を特徴として,伝染性が強いためその予防に十分留意する。

●アデノウイルス結膜炎の治療でステロイド薬を用いる場合は,特に単純ヘルペスとの鑑別が大切である。

●慢性経過の濾胞性結膜炎では伝染性軟属腫のほかに,クラミジア結膜炎,点眼の毒性反応などがあり鑑別が重要である。

アレルギー性結膜疾患

著者: 三村達哉

ページ範囲:P.73 - P.78

POINT

●アレルギー性結膜疾患の罹患率は近年増加している。

●軽症では,抗アレルギー点眼薬,花粉症では花粉飛散前に治療を開始する抗アレルギー療法が推奨される。

●重症化した病態である,アトピー性角結膜炎や春季カタルの症例では,免疫抑制薬とステロイド点眼,内服を併用する。

●眼瞼裏の乳頭増殖や角膜シールド潰瘍がみられる場合には,ステロイド局注や眼瞼結膜の乳頭の外科的切除を試みる。

●ステロイドによる眼圧上昇などの副作用に注意する。

単純ヘルペス角膜炎

著者: 佐々木香る

ページ範囲:P.79 - P.84

POINT

●アシクロビル眼軟膏の副作用に注意する。

●上皮脆弱性を考慮して,局所投与と内服投与の併用を取り入れる。

●上皮型以外では,抗ウイルス薬とステロイドのバランスが肝要である。

●多発時期(冬期)に注意し,頻発例には予防投与を行う。

●診断にはPCRや抗原検出キットも有用である。

●アシクロビル耐性菌を疑う前に,本当にヘルペスかどうか,またアシクロビルの副作用による上皮障害ではないかをチェックする。

水痘帯状ヘルペス角膜炎

著者: 篠崎和美

ページ範囲:P.85 - P.89

POINT

●水痘・帯状疱疹ウイルスによる角膜炎である。

●偽樹枝状角膜炎,円板状や限局性の角膜実質炎,多発性角膜上皮下浸潤を呈する。

●治療は,まず抗ウイルス薬の全身投与を早期に十分行う。

●角膜実質炎症に対してやや強めのステロイド薬点眼を用いる。

●ステロイド薬点眼による偽樹枝状角膜炎の悪化はない。合併した角膜実質炎,上強膜炎,強膜炎や虹彩炎を十分消炎できるステロイド薬点眼を投与する。

アカントアメーバ角膜炎

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.90 - P.93

POINT

●コンタクトレンズ装用歴があり,ヘルペス角膜炎などとして治療中にステロイド点眼によって遷延増悪する症例が多い。

●角膜搔爬の反復と消毒薬を含む抗真菌点眼薬に加えて,重症例では抗真菌薬全身投与を追加するが,ピマリシン,ボリコナゾールが比較的有効である。

●薬物治療のみで移行期以降の重症例は治療に長期間を要する。深部表層角膜移植による治療的角膜移植を検討する必要がある。

細菌性角膜炎

著者: 稲冨勉

ページ範囲:P.95 - P.99

POINT

●感染要因や患者背景から起炎菌を想定し,塗抹検鏡で迅速診断する。

●キノロン系抗菌薬を第一選択とし,重症度に応じて作用機序の異なる抗菌薬を併用する。

●細菌培養や薬剤感受性を参考に選択薬剤を修正する。

●治療抵抗性の場合はまず患者コンプライアンスを確認する。

●症状と所見の改善に合わせて薬剤を減量し,薬剤毒性による治癒遅延に注意する。

角膜内皮炎

著者: 白石敦

ページ範囲:P.100 - P.104

POINT

●角膜内皮炎はHSV,VZV,CMVの角膜内皮細胞への感染が原因である。

●角膜実質炎との鑑別は角膜実質への細胞浸潤・血管侵入がないことである。

●診断には前房水PCRが有効である。

●原因ウイルスにより治療薬の種類・投与量・投与方法が異なる。

真菌性角膜炎

著者: 宇野敏彦

ページ範囲:P.106 - P.110

POINT

●真菌は糸状真菌と酵母状真菌の2つに分けて考える。

●抗真菌薬の特徴と抗菌スペクトルをまず理解する。糸状真菌の場合,酵母状真菌の場合の治療メニューをあらかじめ確立しておくとよい。

●糸状真菌はmedical interventionに限界がある。起炎菌を同定のうえ最大限の治療を開始しても奏効しない場合には,角膜移植を含めた外科的アプローチに切り替える必要がある。

強膜炎

著者: 目時友美

ページ範囲:P.112 - P.116

POINT

●非感染性と感染性を鑑別すること。

●非感染性強膜炎は免疫疾患との関連が知られ全身疾患に合併することがある。

●重症度によって治療方法を選択することが大切である。

Stevens-Johnson症候群・中毒性表皮壊死症

著者: 上田真由美

ページ範囲:P.117 - P.122

POINT

●急性期に偽膜と角結膜上皮欠損を伴う重篤な結膜炎を伴う場合は,眼後遺症を生じる可能性が高く重篤である。

●重篤な眼合併症を生じる患者は,皮膚科で診断されるSJS/TENの約半数であり,発症時に,偽膜と角結膜上皮欠損を伴う重篤な結膜炎とともに,口唇・口腔内のびらんと爪囲炎を認める。

●発症早期(4日以内)のステロイドパルス療法ならびステロイド眼局所投与が有用であり,急性期の消炎治療が眼科的予後に影響する。

ドライアイ

著者: 柿栖康二 ,   糸川貴之

ページ範囲:P.123 - P.127

POINT

●2016年にドライアイの診断基準が改訂され,自覚症状と涙液層の安定性の低下が重要視されるようになった。

●涙液層破壊時間および涙液層破壊パターンからドライアイの原因を判別する。

●涙液減少型ドライアイに対して3%ジクアホソルナトリウム点眼液,水濡れ性低下型ドライアイには2%レバミピド点眼液と3%ジクアホソルナトリウム点眼液が良い適応である。

近視に対するオルソケラトロジー

著者: 中村葉 ,   稗田牧

ページ範囲:P.128 - P.132

POINT

●適応は−4.00D以下の近視,1.50D以下の乱視,39.00〜48.00Dの角膜屈折力,角膜内皮細胞密度2000cells/mm2以上である。

●装用後約1か月以内に80%の症例で1.0の裸眼視力を得ることができる。

●エビデンスのある近視進行抑制法として報告されてきている。

角膜移植後の拒絶反応

著者: 横川英明 ,   小林顕

ページ範囲:P.133 - P.137

POINT

●角膜移植後のR. S. V. P.(充血,まぶしさ,視力低下,痛み)は拒絶反応が考えられるため,緊急受診が必要である。

●拒絶反応の早期発見と,積極的なステロイド点眼を中心とした治療が,グラフト維持にとって大切である。

トピックス

カラーコンタクトレンズ—最近の動向

著者: 月山純子 ,   植田喜一

ページ範囲:P.138 - P.139

カラーコンタクトレンズの広がり

 カラーコンタクトレンズ(以下、カラーCL)と聞くと、酸素の通らない粗悪品というイメージを持つ方も多い。確かに低含水性HEMA(2-hydroxyethyl methacrylate)といわれる約50年前に開発された素材で作られたカラーCLもいまだに多い。雑貨店やインターネット通販で販売されているカラーCLの大部分はこの素材で、トラブルも後を絶たないのであるが、近年では酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲル素材のカラーCLや、含水率の高い素材でできたカラーCLの種類も増え、透明なレンズと同等の安全性といわれるカラーCLも数多く登場してきた。また、まだ種類や度数は多くないものの、乱視用や遠近両用のカラーCLも登場してきている。

 筆者ら1)は、乱視用カラーCLについて調べてみたが、厚生労働省承認の乱視用カラーCLは種類が少なく、大半が海外からの個人輸入の未承認のものであった。個人輸入といっても、買う側からすればインターネット通販で普通に購入できてしまうので、個人輸入の未承認レンズであることに気づいていないと思われる。筆者らは個人輸入で、韓国製の乱視用カラーCLを入手したが、驚いたことに乱視用レンズのフィッティング検査に必須であるガイドマークがなかった。2社から取り寄せたが、2社ともそうであった。また、レンズの製造工程でついたと思われる切削痕が観察できるような粗雑なレンズもあった。

Ⅱ 眼窩疾患およびその周辺部領域

甲状腺眼症

著者: 神前あい

ページ範囲:P.140 - P.144

POINT

●球後の炎症の有無を見きわめて治療法を選択する。

●消炎治療にはステロイドパルス治療や放射線治療に加えて局所のステロイド注射がある。

●残存する複視や顔貌の変化には手術治療を検討する。斜視に対してはボツリヌス毒素注射も有用である。

涙囊炎

著者: 宮崎千歌

ページ範囲:P.146 - P.149

POINT

●急性涙囊炎の治療には,抗菌薬を全身投与する。

●慢性涙囊炎に対しては,抗菌薬の有効性は不明である。

●先天鼻涙管閉塞に対しては,眼脂のあるときのみ抗菌薬を短期間投与する。

先天鼻涙管閉塞

著者: 松村望

ページ範囲:P.151 - P.154

POINT

●CNLDOは自然治癒率が高く,生後6か月頃までは経過観察が基本である。

●抗菌点眼薬は,眼脂が多く,必要なときのみ短期間使用する。

●涙囊マッサージの効果は意見が一致していない。行う場合は涙囊部から下方に向けて圧をかける(Crigler法)。

●経過観察中に涙囊洗浄を繰り返し行う必要はない。

涙腺炎

著者: 古田実

ページ範囲:P.156 - P.161

POINT

●一般的には原発性は急性片側性,続発性は慢性両側性に多い。

●涙腺炎の診断は,涙腺腫大・涙腺腫瘤がみられる病態のすべてが鑑別の対象となる。

●全身疾患や病態がすでに診断されているとき以外は,生検が必要となることが多い。

●感染症や全身性の原因疾患を十分に精査するまでは,全身ステロイド投与は控える。

IgG4関連眼疾患

著者: 小幡博人

ページ範囲:P.162 - P.165

POINT

●IgG4関連疾患に伴う眼病変は,両側涙腺の対称性腫大以外に,三叉神経(特に眼窩下神経)腫大,外眼筋腫大,視神経症などが知られている。

●診断には,画像診断における有意な所見と血清学的に高IgG4血症(135mg/dL以上)を認めること,病理組織学的にIgG4陽性の形質細胞浸潤を認めることの3つが必要である。

●治療はステロイドの全身投与を行う。PSL 0.5〜0.6mg/kg/日で開始する。

●ステロイドの漸減時,または離脱後に再発する例がある。

特発性眼窩炎症

著者: 伊藤和彦 ,   久保田敏信

ページ範囲:P.167 - P.172

POINT

●眼窩内に炎症性病変を呈し,原因が不明な病態の総称である。

●典型例では,突然眼周囲に炎症による臨床症状がみられ,かつその程度が強い。しかし,時間の経過とともに,その症状が増悪することはあまりない。

●典型例では,それぞれの眼付属器に罹患し,炎症部位が局在している。

●特発性眼窩炎症はおそらく症候群であって,上記の典型像をもたない非典型的な特発性眼窩炎症や,慢性に臨床症状が経過する慢性型の特発性眼窩炎症もある。

●典型例では,コルチコステロイド加療が奏効し,再燃は稀である。一方,慢性型では,コルチコステロイド加療が奏効を示すものの再燃がみられることがある。

トピックス

眼科領域悪性腫瘍に対する重粒子線治療

著者: 辻比呂志

ページ範囲:P.174 - P.175

はじめに

 重粒子線治療は,体内での優れた線量集中性と高い生物効果を特徴とする放射線療法であり,眼科領域の悪性腫瘍のように重要臓器に近接した病巣の治療において,特にその優位性が発揮される。

 重粒子線治療の適応となる眼科領域腫瘍としては,脈絡膜悪性黒色腫と涙腺癌をはじめとする眼窩腫瘍がある。脈絡膜悪性黒色腫は,頻度が高い欧米では陽子線治療が普及し,手術,小線源療法と適応を分ける形で市民権を得ている。放射線医学総合研究所でも1986年から陽子線による治療を行ってきたが,2001年からはさらに良好な成績を目指して新たに建設された重粒子線治療装置(HIMAC)を用いた重粒子線治療へと移行した。

 眼窩腫瘍については,特に通常の放射線が効きにくい腺癌,腺様囊胞癌が重粒子線治療の良い適応と考えられるため,2001年に涙腺癌に対する臨床試験を開始した。

Ⅲ 神経眼科疾患

特発性視神経炎

著者: 増田洋一郎

ページ範囲:P.177 - P.180

POINT

●特発性視神経炎は,視神経以外の脳脊髄には病変を認めない。特発性視神経炎は,MSの病態生理に準ずる自己免疫機序による脱髄性疾患である。

●特発性視神経炎は,除外診断によって診断される。抗AQP4抗体陽性視神経炎,抗MOG抗体陽性視神経炎,非定型視神経炎などを含めた視神経症が除外されることが重要であるが,治療経過で診断がつくことも少なくない。

●治療の基本はステロイドの投与であるが,行うのであればパルス治療であること,予後に関しては無治療群と有意差がなく,「自然経過でも改善がみられる」ことを知っておくことが重要である。

抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎

著者: 横内裕敬

ページ範囲:P.181 - P.185

POINT

●視神経炎発症時に抗AQP4抗体検査(CBAとELISA法)を行う。

●抗AQP4抗体陽性視神経炎の鑑別において,造影MRIは有用である。

●抗AQP4抗体陽性視神経炎の治療戦略を立てる際は,神経内科医・腎臓内科医との迅速な連携が必要である。

抗MOG抗体陽性視神経炎

著者: 毛塚剛司

ページ範囲:P.187 - P.191

POINT

●抗MOG抗体陽性疾患は,MSや抗AQP4抗体陽性視神経炎とも異なる新しく分類された脱髄性疾患と考えられている。

●抗MOG抗体陽性疾患のなかでも視神経炎は最も多く存在し,抗MOG抗体陽性視神経炎は眼痛を伴う視神経腫脹が強い視神経乳頭炎としてみられることが多い。

●抗MOG抗体陽性視神経炎は再発しやすいので,治療にはステロイド治療に加えて免疫抑制薬などを併用するケースがある。

非定型視神経炎

著者: 須田謙史 ,   大石明生

ページ範囲:P.192 - P.196

POINT

●非定型視神経炎には全身疾患を合併する視神経炎,および抗体陽性視神経炎やステロイド依存性のCRIONが含まれる。

●視神経炎に遭遇した場合は,合併する全身疾患や仮面症候群の可能性を検索し,もしあればその診断に基づいた治療を導入する必要がある。

●典型視神経炎と異なり,ステロイド内服や免疫抑制薬などの後療法(maintenance therapy)が再発防止に重要である。

虚血性視神経症

著者: 中馬秀樹

ページ範囲:P.197 - P.201

POINT

●虚血性視神経症には,動脈炎性と非動脈炎性があり,発症頻度が多いのは非動脈炎性で,両眼失明の危険があるのは動脈炎性である。

●巨細胞性血管炎によるAIONは,可及的速やかにメチルプレドニゾロン1000mgパルス療法を3〜5日間行い,その後ゆっくりと漸減させる。

●現時点では,NAIONに対する治療で明らかにその有効性が証明されたものはない。

眼瞼痙攣・片側顔面痙攣

著者: 細谷友雅 ,   岡本真奈

ページ範囲:P.202 - P.206

POINT

●眼瞼痙攣と片側顔面痙攣の鑑別が必要である。

●第一選択はBTX-A注射である。

●眼瞼痙攣ではBTX-A注射以外に遮光レンズやクラッチ眼鏡も有効であるが,いかなる治療を行っても症状の改善しない重症例が少なからず存在する。

斜視に対するボツリヌス毒素治療

著者: 宇井牧子

ページ範囲:P.207 - P.210

POINT

●斜視に対するボツリヌス治療は2015年6月に保険適用となった。外眼筋にボツリヌス毒素を注射することで筋の収縮力を弱め,後転術に似た効果を得ることができる。

●本療法の良い適応として,急性後天性内斜視,麻痺性斜視の急性期,小角度の甲状腺眼症,手術後のシミュレーションが必要な例,大角度の斜視に対する後転術との併用がある。

●効果の持続期間は3〜4か月である。本療法の利点は,急性期の斜視に介入可能なこと,侵襲が少なく,短時間の処置で済むことである。欠点は,手術に比べ定量性に乏しく効果が不安定であること,一過性眼瞼下垂や一過性上下斜視の副作用などである。効果が一過性であることは,利点とも欠点ともなりうる。

眼筋型重症筋無力症

著者: 岡本真奈 ,   木村亜紀子

ページ範囲:P.211 - P.215

POINT

●近年,高齢者でのMGが増加している。高齢者のMGは眼筋型が多く,眼科を初診する確率が非常に高い。

●眼筋型MGはわずかな上下斜視や内転制限を伴う外斜視で発症することが多く,実際の臨床では見逃されやすい。自覚症状がなくても眼瞼下垂の存在や日内変動に注意を払い,適切な診断が望まれる。

●ステロイド内服が困難,あるいはステロイド離脱が困難なケースではタクロリムスの導入が有用である。

動眼・滑車・外転神経麻痺

著者: 中西(山田)裕子

ページ範囲:P.217 - P.223

POINT

●眼運動神経の単独麻痺の原因は,いずれも血管性(虚血性)の頻度が最も多い。動眼神経麻痺では脳動脈瘤の有無,滑車神経麻痺では外傷の既往や先天上斜筋麻痺との鑑別,外転神経麻痺では頭蓋内腫瘍の検索が重要である。

●血管性(虚血性)の眼運動神経麻痺は自然回復の割合が多い。糖尿病など原因疾患の治療と併せて補助的に薬物治療を行う。

●自然回復までの経過観察や手術加療までの待機期間には,症例によりボツリヌス治療を用いて筋の拘縮の予防や自覚症状の軽減を図る。光学的治療では,経過を通じてプリズムや遮蔽膜を症状の固定後も活用する。6か月経過しても改善が得られない場合は,手術加療の適否を検討する。

Ⅳ 緑内障

原発開放隅角緑内障

著者: 横山悠

ページ範囲:P.225 - P.230

POINT

●POAGは,眼圧依存性に視野障害が進行する疾患であり,早期発見・早期治療が治療の原則である。

●近年では,眼圧下降薬の種類が多くなり,治療選択の幅が広がってきた。

●多剤点眼薬で治療する際には,患者のアドヒアランスを低下させないことを心がける。

原発閉塞隅角緑内障

著者: 酒井寛

ページ範囲:P.231 - P.234

POINT

●原発閉塞隅角緑内障に対するmedical interventionには限界がある。

●原発閉塞隅角緑内障および原発閉塞隅角症には手術が必要となる。

●急性発作(急性原発閉塞隅角症)では,虹彩虚血に注意する。

●ピロカルピン点眼は瞳孔ブロックを解除しないことに留意する。

●PACSに対する治療の必要性についてのエビデンスはない。

小児緑内障

著者: 廣岡一行

ページ範囲:P.235 - P.238

POINT

●早期発見・早期治療が遅れると,生涯にわたり重篤な視機能障害を残す場合がある。

●検査や治療に十分な協力が得られない場合が多い。

●原発先天緑内障は手術治療が第一選択になる。

●薬物治療は手術で眼圧下降効果が十分に得られなかった際の補助療法と考えるべきである。

落屑症候群

著者: 西田崇 ,   川瀬和秀

ページ範囲:P.239 - P.242

POINT

●年齢とともに有病率は増加するが,無散瞳下では落屑物質を確認できない症例もある。

●緑内障発見時の進行例も多く,その際には眼圧下降を迅速に行う必要がある。

●散瞳不良,浅前房,毛様小帯脆弱例が多く,水晶体再建術の際は注意が必要である。

緑内障レーザー治療の効果と限界

著者: 新田耕治

ページ範囲:P.243 - P.247

POINT

●YAG laser capsulotomyも施行できる機器を購入したが,SLTの適応や施行方法がわからずに眠ったままになっている施設が多い。

●2018年の診療報酬改定により,隅角光凝固術の保険点数が,片眼8970点から9660点へ変更になり,この1年でのSLT施行件数が約2割増加している。

●SLT照射方法を十分に理解しないで施行すると,前房出血や眼圧上昇など重篤な合併症に遭遇する可能性がある。

●SLTを第一選択や第二選択治療とするほうが,SLTによる眼圧下降効果が期待できる。

トピックス

Preperimetric glaucoma—最近の考え方

著者: 東出朋巳

ページ範囲:P.248 - P.250

Preperimetric glaucomaとは?

 2018年1月に6年ぶりに改訂された緑内障診療ガイドライン第4版では,「前視野緑内障(preperimetric glaucoma:PPG)は,眼底検査において緑内障性視神経乳頭所見や網膜神経線維層(retinal nerve fiber layer:RNFL)欠損所見などの緑内障を示唆する異常がありながらも,通常の自動静的視野検査で視野欠損を認めない状態」と定義されている。

 緑内障性視神経症(glaucomatous optic neuropathy:GON)では,網膜神経節細胞死がある程度進行するまで,通常の視野検査では異常は検出されない。光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)の飛躍的な進歩により,PPG段階でのGONあるいはそれに類似した構造異常が容易に発見されるようになった。

Ⅴ ぶどう膜炎・眼内炎症・腫瘍性疾患

サルコイドーシス

著者: 寺田裕紀子 ,   蕪城俊克

ページ範囲:P.251 - P.255

POINT

●サルコイドーシスは原因不明の全身性炎症性疾患で,原因療法は確立しておらず,対症療法を行う。

●可能な限り眼局所治療を行い,不十分な場合のみ全身治療へ移行する。

●長期視力予後に影響するCME,多発性脈絡膜炎,続発緑内障は特に積極的治療が必要である。

Vogt-小柳-原田病

著者: 水内一臣 ,   南場研一

ページ範囲:P.257 - P.261

POINT

●初発時には確実な診断のもと,ステロイド薬パルス療法またはステロイド薬大量療法を行う。

●炎症の再燃は,前房炎症の有無や脈絡膜肥厚,IAでのHDDsの有無などを用いて評価する。

●原田病は経過中に再発・再燃することも多い。その際はステロイド薬内服に加え,CYAまたはアダリムマブ併用を考慮する。

Behçet病

著者: 伊東崇子 ,   北市伸義

ページ範囲:P.262 - P.265

POINT

●基本病態は好中球の機能亢進である。

●インフリキシマブの登場で,本病を取り巻く医療環境は大きく進歩した。

●生物学的製剤が劇的な効果を示すが,導入時のスクリーニングや投与時反応に適切な対応が必要である。

急性網膜壊死

著者: 臼井嘉彦

ページ範囲:P.266 - P.271

POINT

●リアルタイムPCR法やPCRストリップ法によりARNの診断や病勢の推測が容易になった。

●薬物療法や硝子体手術が進歩した今日においてもARNの視力予後は不良であるが,早期診断・早期治療が重要である。

●抗ヘルペス薬の種類や投与方法および硝子体手術施行時期などは,施設や患者により異なる。

サイトメガロウイルス網膜炎

著者: 竹内大

ページ範囲:P.272 - P.276

POINT

●免疫不全患者にみられる網膜炎であり,AIDS患者に最も多くみられるが,化学療法中の血液疾患の患者,コントロール不良の糖尿病患者にも生じる。

●抗ウイルス薬による全身加療が主な治療法である。

●全身状態,副作用のモニタリングが大切であり,内科医との密な連携が必要である。

細菌性眼内炎

著者: 丸山和一

ページ範囲:P.277 - P.281

POINT

●細菌性眼内炎は適切な診断が必要である。

●細菌性眼内炎には内因性と外因性の両者がある。

●網膜・硝子体内に細菌感染が及んだ場合は,必ず手術が必要である。

真菌性眼内炎

著者: 川上秀昭 ,   田中大貴 ,   望月清文

ページ範囲:P.282 - P.289

POINT

●真菌性眼内炎症例の多くは,悪性腫瘍,大手術後,糖尿病,副腎皮質ステロイド薬使用,抗菌薬全身投与あるいは中心静脈カテーテルの長期留置などの既往を有する。

●全身所見としては抗菌薬不応性の発熱,白血球あるいはCRPの炎症反応,血清β-D-グルカン高値あるいは真菌血症を呈し,眼底では後極を中心とした黄白色滲出斑,網膜出血,羽毛状あるいは雪玉状硝子体混濁がみられる。

●診断後は原因菌種および眼内移行を考慮して,抗真菌薬の全身投与を開始する。治療開始後3〜5日目に病態の改善がみられない場合には系統の異なる薬剤への変更を考慮する。

●視力障害をきたす危険性のある病巣が中心窩あるいはその近傍に存在する症例,あるいは手術不能例では,速やかに抗真菌薬の硝子体内投与を計画する。

梅毒性ぶどう膜炎

著者: 岩橋千春 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.290 - P.294

POINT

●特異的な所見はないため,ぶどう膜炎をみたら,梅毒性ぶどう膜炎を鑑別に挙げる。

●診断には血清学的診断が有用であり,STS法とTPHA法の組み合わせで検査する。

●HIVウイルスとの重複感染例も多いので,梅毒性ぶどう膜炎と診断したら,HIV感染の確認が必須である。

眼内悪性リンパ腫

著者: 上田俊一郎 ,   後藤浩

ページ範囲:P.295 - P.299

POINT

●眼内悪性リンパ腫は代表的な仮面症候群であり,中枢神経病変を合併した場合には予後不良となることが多く,発症早期における確実な診断が重要である。

●硝子体検体を用いた細胞診に加えて,フローサイトメトリー,免疫グロブリン重鎖遺伝子再構成の確認,サイトカインの測定など,多角的に診断する。

●中枢神経や全身の病変を合併する場合には全身化学療法が中心となり,眼内に限局する場合はメトトレキサート硝子体注射や放射線治療が行われるが,後者に対する全身化学療法の是非については議論の分かれるところである。

トピックス

乳児血管腫に対するβブロッカー療法

著者: 藤本雅大

ページ範囲:P.300 - P.301

疾患概念

 乳児血管腫は毛細血管内皮細胞が増殖する良性の血管性腫瘍であり,多くは自然消退するため,経過観察となる。有病率は日本人で約1〜2%であり1),乳児期では最も頻度の高い腫瘍の1つである。男女比はおおよそ1:3と女児に多く,発現部位の6割は頭頸部である。出生時には何も認めないか,もしくは薄い紫斑か紅色の丘疹を認める程度であるが,生後2週間を経過した頃から徐々に病変が顕在化し,3〜5か月にかけて急激に病変が増大する。サーモンパッチなどの血管奇形であれば,大きさは変化しない。

 乳児血管腫の病変が増大する1歳半頃までの時期は「増殖期」と呼ばれ,それ以降に自然に病変が消退していく「退縮期」は5歳頃までで,5歳以降は「消失期」と呼ばれる。「消失期」といっても,必ずしも病変が完全に消失するわけではなく,未治療患者の25〜69%で毛細血管拡張による発赤もしくは皮膚のたるみが生じたり,線維性組織や脂肪織に置換され瘢痕が残存したりする。また,眼周囲に発症した場合,視力障害や乱視が生じることもあり,整容面・機能面を考慮に入れて,治療が必要となる症例もある。

Ⅵ 網膜硝子体疾患

網膜静脈閉塞症

著者: 岩瀬剛

ページ範囲:P.303 - P.307

POINT

●近年の画像進歩により,視力に影響を及ぼす囊胞様黄斑浮腫や網膜無灌流領域の診断や経過観察は容易になってきた。

●抗VEGF薬は網膜静脈閉塞症に対し奏効する有効な治療であり,比較的早期の導入が望ましいと考えられる。

●抗VEGF薬の治療に抵抗する症例では,抗VEGF薬以外の治療の併用や切り替え療法も考慮する必要がある。

網膜動脈閉塞症

著者: 鈴木幸彦

ページ範囲:P.308 - P.313

POINT

●網膜中心動脈閉塞症は一般的に視力予後が不良であるが,早期受診例では眼球マッサージ・前房穿刺・線溶療法などを試みるべきである。

●内頸動脈の狭窄や心疾患など基礎疾患の検索を行う必要がある。

●血管新生緑内障を合併する例が少数ではあるが存在するので注意を要する。

糖尿病黄斑浮腫

著者: 村上智昭

ページ範囲:P.314 - P.320

POINT

●糖尿病黄斑浮腫の薬物療法に際しては,OCTを用いた客観的な診断と治療効果判定が有用である。

●抗VEGF療法が糖尿病黄斑浮腫に対する治療の第一選択である。慢性疾患であり繰り返し投与が必要であるが,PRNレジメンでは投与回数は2年目以降に減少することが多い。

●黄斑部光凝固やステロイドとの併用療法を考慮する際には,各治療法の特徴を十分に活かせるようにタイミングや手順を工夫する。

糖尿病網膜症へのレーザー治療

著者: 高村佳弘

ページ範囲:P.321 - P.326

POINT

●増殖糖尿病網膜症への進行ないしは悪化を抑制する目的で,虚血領域へのレーザー治療は重要な治療アイテムである。

●低侵襲な熱凝固と薬物の併用は,レーザー後の合併症の抑制に寄与する。

●糖尿病黄斑浮腫に対するレーザー治療は,精度の高い画像解析に基づいて正確に行うことが求められる。

網膜色素変性—①囊胞様黄斑浮腫

著者: 安達功武 ,   中澤満

ページ範囲:P.328 - P.331

POINT

●近年の画像診断の進歩により,囊胞様黄斑浮腫(CME)の診断が容易となっている。

●網膜色素変性に合併するCMEに対して炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)の内服や点眼の効果が報告されている。

●CAIは点眼にても有効率約50%程度の効果を発揮するが,形態的効果に比較して視力改善効果にはある程度限界がある。

網膜色素変性—②ロービジョンケア

著者: 斉之平真弓

ページ範囲:P.333 - P.339

POINT

●初期の網膜色素変性は夜盲と羞明が主症状である。夜盲は10〜20代で始まり1),羞明は視野検査で暗点がみられない時期から存在することがある。日常生活では夜間の外出・運転以外には困難を感じることはない。

●中期では視野狭窄とともに夜盲が進行し2),室内でも薄暗い場所での移動が難しくなる。将来的に,車の運転をしなくてもよい環境や,運転業務従事者には業務内容の変更を助言していく時期である。

●後期の求心性視野狭窄(Goldmann視野10°:Ⅴ4e)の状態に至ると,慣れない場所での単独移動が難しくなり,読み書きの速度も低下してくる。矯正視力が0.3以下では読み書きに拡大補助具が必要になる。

加齢黄斑変性—①Classic CNV

著者: 齋藤昌晃

ページ範囲:P.340 - P.347

POINT

●Classic CNVはフルオレセイン蛍光眼底造影での所見である。

●そのため,滲出型加齢黄斑変性のすべての病型でみられる所見である。

●網膜色素上皮の上に新生血管が出てくる,いわゆるtype 2 CNVであることが多く,早急な抗VEGF薬を用いた治療が必要である。

加齢黄斑変性—②PCV

著者: 片岡恵子

ページ範囲:P.348 - P.352

POINT

●PCVは異常血管網の辺縁にポリープ状病巣を生じ,網膜下出血や出血性の網膜色素上皮剝離を繰り返す。

●アフリベルセプト単独療法もしくは抗VEGF薬と光線力学的療法の併用療法による良好な治療成績が報告されている。

●抗VEGF薬の維持期における投与方法には必要時投与,計画的投与,固定投与がある。

中心性漿液性脈絡網膜症

著者: 今村裕

ページ範囲:P.353 - P.357

POINT

●近年の画像診断,特にOCTと自発蛍光画像の進歩によりCSCの診断は精度が高まっている。

●CSCでの脈絡膜肥厚は診断に重要な画像所見である。

●CSCでの自発蛍光所見は,漏出点の位置,発症時期,色素上皮萎縮の有無など多くの情報を与えてくれる。

●慢性CSCでは視力不良に至る症例があり,安易な経過観察は慎み,慢性例には治療の選択肢を患者に提示すべきである。

●治療は自然軽快しないケースで,漏出点が中心窩から離れているものは局所光凝固をする。慢性例では光線力学的療法が確立した治療であるが,近年抗アルドステロン薬が有効との報告が相次いでおり,今後有望な選択肢になると思われる。

近視性黄斑変性

著者: 杉山敦

ページ範囲:P.358 - P.363

POINT

●近視性黄斑変性のうち,近視性脈絡膜新生血管(mCNV)は早期の診断と治療を要する。

●画像診断,特にOCTやOCTAの進歩によりmCNVの検出が容易となった。

●mCNVに対してラニビズマブとアフリベルセプトの2製剤の抗VEGF薬の硝子体注射が保険適用となっている。

●一般的にmCNVは滲出型加齢黄斑変性よりも治療反応性が良好であり,単回投与+PRN(必要時投与)でコントロールできる症例が多いが,再発も多い。

黄斑部毛細血管拡張症

著者: 大音壮太郞

ページ範囲:P.364 - P.371

POINT

●黄斑部毛細血管拡張症には1型と2型がある。

●診断にはmultimodal imagingが有用である。

●1型に対しては,レーザー,ステロイド,抗VEGF薬硝子体注射などの効果が報告されている。

●2型はCNVを合併することがあり,抗VEGF薬硝子体注射の効果が報告されている。

Coats病

著者: 加瀬諭

ページ範囲:P.372 - P.377

POINT

●小児で片眼性に黄色調の滲出と血管異常がみられたら本症を疑う。

●本症の病態においては血管透過性亢進,異常血管からの蛋白質漏出,血管新生,慢性炎症細胞浸潤が特に重要である。

●両眼性に無血管領域がみられることがあるため,両眼の詳細な眼底検査,蛍光眼底造影検査が必要である。

●初期では網膜光凝固,抗VEGF薬治療,ステロイド薬局所投与,進行期では網膜復位術,硝子体手術,眼球摘出術などが行われる。

AZOOR complexと眼底白点症候群

著者: 齋藤航

ページ範囲:P.378 - P.381

POINT

●各疾患の鑑別にはマルチモーダルイメージングが必須である。

●基本的にステロイドの局所・全身投与が有効であるが,無治療で改善する疾患もある。

●疾患によってステロイド薬の投与法や投与量は異なるので,診断を正確に行ったうえで治療方針を決定する。

トピックス

OCTアンギオグラフィでどこまでわかるか

著者: 吉田宗徳

ページ範囲:P.382 - P.383

OCTアンギオグラフィとは

 OCTアンギオグラフィ(optical coherence tomography angiography:OCTA)は、OCTを用いて造影剤を使用せずに網脈絡膜の血流を調べる検査法である。長所として造影剤が不要で安全であること、簡便で繰り返し検査ができること、非常に精細な画像が得られること、網膜血管を層別に検査できること(網膜血管は表層、中間層、深層に分かれているが、通常の造影検査では区別することができない)、造影剤のリークなどに邪魔されず血管構造を描出できること、などがある。

 一方短所は、撮影できる範囲が狭いこと、造影と異なり蛍光漏出やプーリングなどの所見や時間経過に伴う変化が捉えられないことなどがある。また、OCTAにはsegmentation errorやprojection artifact、motion artifactなどOCTA特有の問題があり、読影には注意を要する1)。しかしながら、これらの短所は日々改善されており、今後眼科臨床の現場でOCTAは急速に普及すると思われる。

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目次

ページ範囲:P.4 - P.6

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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