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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科73巻4号

2019年04月発行

雑誌目次

特集 第72回日本臨床眼科学会講演集[2] 原著

網膜中心動脈閉塞を伴う巨細胞性動脈炎を生じたリウマチ性多発筋痛症の1例

著者: 森尾倫子 ,   山崎厚志 ,   稲田耕大 ,   魚谷竜 ,   佐々木慎一 ,   井上幸次 ,   船越泰作

ページ範囲:P.443 - P.449

要約 目的:網膜中心動脈閉塞と巨細胞性動脈炎が合併したリウマチ性多発筋痛症の症例の報告。

症例:72歳男性が,前日からの左視力障害で受診した。1か月前から下顎跛行,両側の頭部痛,両眼の一過性黒内障の発作があり,3か月前からリウマチ性多発筋痛症があった。

所見と経過:矯正視力は右1.0,左0.01で,左眼底に桜実状紅斑があった。赤沈とCRP値の上昇があり,頭部のMRIとエコーで側頭動脈壁の肥厚があったため,リウマチ性多発筋痛症に併発した網膜中心動脈閉塞と診断した。血栓溶解療法,プロスタグランジン製剤の点滴,ステロイド製剤のパルス療法を行った。2か月の入院加療中に,左眼視力は0.09に改善した。右眼に同様の発症はなかった。

結論:リウマチ性多発筋痛症に網膜中心動脈閉塞と巨細胞性動脈炎が併発する可能性があることを本症例は示している。ステロイド製剤の全身投与は,網膜中心動脈閉塞の改善と僚眼の発症抑制に奏効したと推定される。

線維柱帯切除術後にレーザー切糸による低眼圧を生じた症例の検討

著者: 松崎絵里子 ,   春日俊光 ,   山口昌大 ,   松田彰

ページ範囲:P.451 - P.455

要約 目的:順天堂大学医学部附属順天堂医院にて線維柱帯切除術(TLE)を施行し,術後にレーザー切糸(LSL)を施行した患者のうち,LSL施行後に低眼圧を起こすリスク因子について検討する。

対象と方法:2016年4月〜2018年3月にTLEを施行し,術後にLSLを施行された81例81眼を対象としてレトロスペクティブに検討を行った。LSL後に眼圧5mmHg以下となり,浅前房もしくは脈絡膜剝離を生じた症例を低眼圧と定義し,リスク因子について多重ロジスティック回帰分析を用いて検討した。

結果:7眼(8.6%)においてLSL後に低眼圧を認めた。統計学的には年齢(オッズ比1.18),性別(男性)(オッズ比62.2),術前の眼圧値(オッズ比1.22),手術日から初回LSLまでの日数(オッズ比0.40)が有意な因子であった(すべてp<0.05)。

結論:TLE術後のLSL後に発症する低眼圧には,年齢,性別,術前の眼圧値,手術日から初回LSL施行までの日数が関与している可能性が推定された。

ぶどう膜炎に伴う続発緑内障に対するブリモニジン点眼の短期眼圧下降効果

著者: 岩橋千春 ,   河共美 ,   春田真実 ,   南高正 ,   冨田有輝 ,   眞下永 ,   下條裕史 ,   狩野廉 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.457 - P.462

要約 目的:ぶどう膜炎に伴う続発緑内障(UG)に対するブリモニジン(Bm)点眼の短期的な眼圧下降効果の報告。

対象と方法:2012年5月〜2018年1月の間に地域医療機能推進機構大阪病院でBm点眼を使用したUG 341例のうち,Bm点眼追加以外に治療内容を変更しなかった,追加前眼圧22mmHg以上のUG 38例43眼(男性21例,女性17例,平均年齢53.1±17.1歳)を対象とした。白内障手術を除く内眼手術の既往症例,6か月以内の白内障手術・ステロイド注射施行例,ポスナーシュロスマン症候群の症例は除外した。投与前併用薬,投与前と投与後1か月の眼圧,隅角所見などについて後ろ向きに検討した。

結果:投与前平均眼圧は28.1±5.7mmHgであった。投与前の眼圧下降薬の平均薬剤スコアは1.9±0.8(0〜5)であり,眼圧下降薬としてβ遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の合剤のみが処方されていた症例が28眼(65.1%)であった。1か月以内に治療効果不十分のために他治療を追加した症例は5眼(11.6%)であり,4眼はステロイド点眼の減量,1眼は選択的レーザー線維柱帯形成術により眼圧下降が得られた。残る38眼の投与1か月後平均眼圧は20.5±7.0mmHgであり,Bm点眼の単独追加により平均6.5±7.7mmHgの眼圧下降が得られた。投与前に比して30%以上の眼圧下降を得られた症例は17眼(39.5%)であった。Bm点眼によると思われる眼所見の悪化はなかった。

結論:Bm点眼は,少なくとも短期的には約4割の症例で30%以上の眼圧下降が得られた。

定額の選定療養費導入義務化に伴う眼科時間外受診状況の変化

著者: 髙田幸尚 ,   住岡孝吉 ,   石川伸之 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.463 - P.467

要約 目的:和歌山県立医科大学附属病院では2016年7月1日より定額(5,000円)の選定医療費徴収が開始され,選定療養費導入前後の眼科時間外受診状況の変化について検討を行った。

対象と方法:2016年7〜11月(平日102日,休日51日)の当院眼科の時間外受診患者(導入後群)(平日53人,休日93人)と,2015年7〜11月(平日102日,休日51日)の当院眼科の時間外受診患者(導入前群)(平日88人,休日112人)を対象として,1日平均受診患者数(平日,休日),12歳以下の割合について,それぞれ後ろ向きに統計学的に比較検討を行った。

結果:1日平均患者数は,選定療養費導入前後で平日はそれぞれ0.89±0.98人,0.54±0.78人,休日はそれぞれ2.08±1.47人,1.73±1.30人であり,平日の受診患者数は有意に減少(スチューデントのt検定,p<0.01)したが,休日の受診患者数は有意差がなかった。休日の12歳以下の受診は導入前後でそれぞれ9人と16人であり,導入後で有意な割合増加(χ2検定,p<0.05)がみられた。

結論:定額の選定療養費導入により患者の時間外受診数は減少したが,休日の12歳以下の受診割合は増加した。

初診時に増殖糖尿病網膜症と診断された患者の心血管イベントの発生頻度と危険因子の検討

著者: 荒井宣子 ,   小野浩一 ,   梅屋玲子 ,   國分孝道 ,   村上晶

ページ範囲:P.469 - P.475

要約 目的:眼科初診時,増殖糖尿病網膜症(PDR)を認めた糖尿病患者における心血管イベント発生頻度とその危険因子の解析。

対象と方法:対象は,眼科受診歴がなく,順天堂東京江東高齢者医療センター眼科初診時にPDRと診断された患者36名(男性25名,女性11名,平均年齢61.4±10.5歳)。診療録をもとにした後ろ向き非介入・観察研究。冠動脈疾患(狭心症,心筋梗塞)の発症をdeadと定義し,累積罹患率・罹患率を計算した。次いで,カプラン・マイヤー曲線を描き,5年・10年生存率を計算した。さらに,吹田スコアと吹田スコアの各因子について,冠動脈疾患発症との関連をコックス比例ハザードモデルを用いて計算した。

結果:累積罹患率は19.4%〔95%信頼区間(CI)6.5-32.4〕,罹患率は34.3/1,000人年(95%CI 16.3-71.9)であった。また,生命表による5年生存率は87.7%(95%CI 70.0-95.2),10年生存率は67.6%(95%CI 34.7-86.6)であった。各因子のハザード比は,女性は男性に比し0.01(95%CI:0.00-0.65)と統計学的有意にハザードが低かった。また,LDL-C値,HDL-C値のハザード比はそれぞれ0.96(95%CI 0.93-1.00),1.14(95%CI 1.03-1.26)となった。

結論:眼科初診時,すでにPDRにまで至っている患者の心血管イベントのリスクは特に男性で高い。低LDL-C値・高HDL-C値のほうがハザード比が高い結果を得たが,これはPDR診断前に積極的な内科的治療の介入と生活習慣の改善が進んだことで,本来のベースラインを反映していない可能性が考えられた。

複数回の再発を繰り返した翼状片の1例

著者: 小森翼 ,   土至田宏 ,   朝岡聖子 ,   大谷洋揮 ,   市川浩平 ,   林雄介 ,   松崎有修 ,   太田俊彦

ページ範囲:P.477 - P.482

要約 目的:翼状片術後に再発を繰り返し,合計10回の手術を要した症例の報告。

症例:患者は58歳,男性。右眼の再発を繰り返す翼状片に対して過去5年間に2眼科医院で計5回の手術歴あり,精査加療目的で当院に紹介された。

所見と経過:右眼の初診時矯正視力は0.3で,鼻側角膜に再発翼状片を認めた。当院での初回手術術式は翼状片切除+羊膜移植術であったが3か月後に再発した。3年後に当院で2回目の手術となる翼状片切除+有茎弁移植+マイトマイシンC(MMC)塗布を施行するも2か月後に再発した。1年後に翼状片切除+表層角膜移植術を施行するも2か月後に移植片融解と再発を生じた。1年後に無切除Z型切開回転術を施行するも4か月後に再発した。8か月後に当院5回目,通算10回目の手術を翼状片切除+Host結膜反転縫合法(反転法)併用有茎弁移植術+MMC塗布の術式で計画するも,結膜下組織の癒着が強く有茎弁作製を断念。翼状片頭部と体部の一部を切除後MMC塗布し,洗浄後に翼状片断端を反転させ強膜に縫着した。術後は1年6か月間再発がなく,右眼術後視力は0.7(矯正不能)を維持している。全手術後の投薬内容は0.1%ベタメタゾン点眼4回/日,0.5%レボフロキサシン点眼4回/日,ブロムフェナクナトリウム点眼2回/日であった。

結論:翼状片が複数回再発した本例では,翼状片切除+反転法+MMC塗布により術後1年6か月間再発がない。

顆粒状角膜ジストロフィのため治療的レーザー角膜切除術を必要とした6歳女児の1例

著者: 春木智子 ,   唐下千寿 ,   大谷史江 ,   小松藍子 ,   蔵増亜希子 ,   井上幸次

ページ範囲:P.483 - P.489

要約 目的:顆粒状角膜ジストロフィは常染色体優性遺伝の進行性の疾患であるが,通常成人になって発見,治療されることが多い。今回,6歳ですでに重症の顆粒状角膜ジストロフィを呈し,治療的レーザー角膜切除術(PTK)を要した症例を経験したので報告する。

症例:6歳,女児。3歳児健診で弱視の疑いを指摘され,近医を受診し,両遠視,顆粒状角膜ジストロフィを認めた。完全矯正眼鏡にて遠視治療を開始され,4歳時に当科紹介初診となった。初診時の視力は右(0.8),左(0.7),両親は親近婚ではないが,両眼ともに顆粒状混濁を認めた。4歳という年齢を考慮し,混濁がさらに進行するまでは経過をみることとした。徐々に混濁は増強し,6歳時に視力が右(0.3),左(0.4)まで低下してきたため,全身麻酔下にて両眼PTKを施行した。PTK後の診察は疼痛のため困難であったが,3か月後には,右(0.8),左(0.8p)まで回復した。

考按:顆粒状角膜ジストロフィは通常heterozygousの状態で発症するが,稀にhomozygousとなったときは重症化し,若年発症となり,かつPTK後早期に再発することが知られている。6歳でPTKを必要とする例はきわめて珍しい。今後数年以内に再発することが予想されるが,各々の眼の治療期間を空け,可能な限り角膜移植を行う時期を遅らせるために,今後は片眼ずつのPTK治療を行っていくことを考慮している。

心因ストレスが関与したvisual snow syndromeの1例

著者: 松浦一貴 ,   寺坂祐樹 ,   今岡慎弥

ページ範囲:P.491 - P.495

要約 目的:雪視症(visual snow)では,視野全体に雪が降っているような感覚が視野全体に持続する。片頭痛や耳鳴に加え,不安やうつ状態も本症に併発する。Visual snowの診断には,内視現象の強化,反復視,羞明,夜間視の障害が3か月以上持続する必要がある。心因性ストレスが先行するvisual snowの1例を報告する。

症例:25歳男性が受診した。大学卒業後2年間就職が決まらず,3か月前から視界に砂嵐が見え,眼内に残像が出る感覚と羞明が持続している。耳鳴が最近強くなった。片頭痛はない。

症状と経過:眼科と神経学的に異常はない。Wide-range assessment of vision-related essential skillsでは,視覚情報が手を介して出力される目と手の協力は正常であり,図形を認知する視知覚に著しい低下があった。羞明と夜間視の障害の併発があった。無治療で12か月経過を観察し,症状は残っているが,生活には支障がない。

結論:本症例では,ストレスに伴う視覚的認知障害が生じ,その結果としてvisual snowが発症したと考えられる。

第1期梅毒の早期神経梅毒に伴う視神経網膜炎の1例

著者: 山川百李子 ,   日下真実 ,   田口朗 ,   秋元正行

ページ範囲:P.497 - P.502

要約 目的:視神経乳頭腫脹と漿液性網膜剝離を呈し,視神経網膜炎との鑑別を要した第1期梅毒の神経梅毒の症例を報告する。

症例:51歳,男性が右眼の視力低下で受診した。3か月前に風俗店で性交渉の機会があった。

所見と経過:矯正視力は右0.9,左1.5であった。中心フリッカ値は右28Hz,左43Hzで,右眼の相対的瞳孔求心路障害(RAPD)は陽性であった。右眼に乳頭の顕著な腫脹と乳頭に連続する漿液性網膜剝離があった。視野検査で盲点と連続する中心比較暗点があった。造影MRIで球後の視神経に異常はなく,血液の梅毒反応は強陽性であった。左眼に異常所見はなかった。神経内科での髄液検査で梅毒反応が強陽性であり,陰部潰瘍があったが,皮膚症状はなかった。第1期梅毒の神経梅毒として,ペニシリンの大量投与を行った。19日後に右眼の網膜剝離は消失し,視力は1.5に回復した。

結論:梅毒の眼症状は第2期以降に生じることが多いが,本症例のように早期の梅毒でも急性の神経網膜炎が発症することがある。

正常妊娠中に発症した中心性漿液性脈絡網膜症の1例

著者: 松下愛 ,   白井久美 ,   岡田由香 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.503 - P.508

要約 目的:正常妊娠中に発症した中心性漿液性脈絡網膜症の1例の報告。

症例:35歳,女性が第2子の妊娠25週に右眼視力低下を自覚し,その翌週に当科を受診した。

所見と経過:矯正視力は右0.7,左1.5で,右眼黄斑部に漿液性網膜剝離があり,光干渉断層計でこの所見が確認された。産婦人科で妊娠高血圧症候群は否定された。妊娠中なので,蛍光眼底造影などの侵襲性のある検査は控えた。妊娠36週で右眼の自覚症状は改善し,漿液性網膜剝離は消失して矯正視力は0.9になった。妊娠37週6日に帝王切開で正常な男児を出産した。出産1か月後,漿液性網膜剝離の再発はなく,右眼の矯正視力は1.0に回復した。

結論:正常妊娠中に中心性漿液性脈絡網膜症と思われる黄斑症が発症し,妊娠後期に自然寛解した。

正常眼圧緑内障において視神経乳頭周囲に網膜分離および中心窩剝離を生じた1例

著者: 簗麻理子 ,   岩崎優子 ,   篠原宏成 ,   大野京子

ページ範囲:P.509 - P.514

要約 目的:正常眼圧緑内障の片眼に網膜分離と黄斑部の網膜剝離が併発した症例の報告。

症例:71歳の女性が右眼の視力低下で紹介され受診した。15年前から両眼の緑内障として他医で加療中であり,当初の矯正視力は左右とも1.2であったという。

所見と経過:矯正視力は右0.3,左0.7であった。光干渉断層計で右眼の黄斑部に網膜剝離と,乳頭周囲に網膜分離があった。網膜の内層分離は,視神経線維層欠損部位から鼻側に広がり,網膜外層分離の範囲は乳頭の下方を中心に鼻側と耳側に均等に広がっていた。Optic disc pit maculopathyに類似する疾患と考え,硝子体手術を実施した。術後に黄斑円孔が生じたが,内境界膜の自家移植とガスタンポナーデにより円孔は閉鎖し,右眼視力は0.5に改善した。

結論:乳頭にpitがなくても,正常眼圧緑内障では,経過中にoptic disc pit maculopathy様の網膜分離や網膜剝離が生じうることを本症例は示している。

順天堂大学医学部附属静岡病院における過去10年間の開放性眼外傷の検討

著者: 市川浩平 ,   大谷洋揮 ,   朝岡聖子 ,   林雄介 ,   松﨑有修 ,   土至田宏 ,   太田俊彦

ページ範囲:P.515 - P.521

要約 目的:順天堂大学医学部附属静岡病院における過去10年間の開放性眼外傷例の治療成績について検討する。

対象と方法:2007〜2017年の10年間に,開放性眼外傷により当院を受診して加療した94例94眼の治療成績についてレトロスペクティブに検討した。眼球破裂例の視力予後ならびに視力予後因子についても検討を行った。

結果:男性61例61眼,女性33例33眼,年齢は3〜98歳(平均54.9歳)であった。眼球破裂52眼(55.3%),穿孔42眼(44.7%)であり,穿孔の内訳は,裂傷28眼(29.8%),眼内異物14眼(14.9%),二重穿孔0眼(0%)であった。視力転帰は,眼球破裂群では不良例が多く,穿孔群では良好例が多かった。硝子体手術を施行した眼球破裂例では,術前に光覚弁だった14眼のうち11眼(78.6%)に視力改善を認め,術前に光覚なしの5眼のうち3眼(60.0%)に視力改善が得られた。年齢が高いこと,網膜剝離を伴うことが眼球破裂例の視力予後不良因子と考えられた。

結論:一般に視力予後が不良な眼球破裂例においても,早期の積極的な硝子体手術の重要性が示唆された。

全身麻酔手術中にラテックスアレルギーによるアナフィラキシーショックをきたした1例

著者: 山田将之 ,   四宮加容 ,   大串陽子 ,   富山芳信 ,   鉄谷真由 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.523 - P.527

要約 目的:全身麻酔下での眼科手術中にラテックスアレルギー(LA)によるアナフィラキシーショックに陥った症例の報告。

症例:5歳,男児。水平眼振とそれによる左へのface turnを認める先天眼振に対し,全身麻酔下での手術の方針となった。

所見と経過:全身麻酔導入の際に問題はなかったが,手術を開始して10分後,動脈血酸素飽和度が急激に低下した。原因精査のため一時手術を中断した。挿管チューブトラブルは否定的であったが,血圧低下と腹部皮膚の発赤を認め,アナフィラキシーショックに陥ったと判断した。対応としてアドレナリン,ステロイド,抗ヒスタミン薬の静脈投与を行った。その後,動脈血酸素飽和度と血圧が改善したため,再ドレーピングを行い予定通りの眼振手術を終了した。後日,原因精査のため皮内テストやプリックテスト,特異的IgE抗体検査などを施行し,検査結果からLAによるアナフィラキシーショックと判断した。

結果:LAの眼科領域の報告はほとんどない。しかし,本症例のように眼科手術でもLAによるアナフィラキシーショックをきたすことがある。発症予防のため,患者がLAのハイリスク群ではないか事前に丁寧な問診を行い,ハイリスク群であれば天然ゴム含有の医療用品の使用回避など,ラテックスフリーの環境で医療を進めることが重要である。

連載 今月の話題

DMEK—より安全に,より確実に

著者: 親川格 ,   林孝彦

ページ範囲:P.405 - P.414

 角膜内皮機能不全に対する治療法としてデスメ膜角膜内皮移植術(DMEK)は高い視機能を提供する最も有効な手段である1〜4)。しかし,その習得・導入においてきついDMEKラーニングカーブがあるのも事実である。本稿では,筆者らが経験した課題や対処法を提示し,これから始める術者にとって,より安全により確実に導入するための一助となるエッセンスを紹介したい。

症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー・術中編15

浅前房症例

著者: 飯田嘉彦

ページ範囲:P.415 - P.421

Q 浅前房症例に対して白内障手術を行う際に,前房のスペースを確保しようとして粘弾性物質(ophthalmic viscosurgical device:OVD)を注入したところ,虹彩脱出を生じてしまいました(図1)。このような場合の対処法や注意しておくべきことについて教えてください。

眼炎症外来の事件簿・Case8

ステロイド抵抗性を示す高度な片眼性前眼部炎症がみられた13歳女児

著者: 竹内正樹

ページ範囲:P.422 - P.425

患者:13歳,女児

主訴:右眼眼痛,充血

既往歴:1歳時に川崎病,5歳時に滲出性中耳炎,10歳時に扁桃腺炎

家族歴:特記事項なし

現病歴:右眼充血,眼痛を自覚したため翌日に近医を受診した。流行性角結膜炎の疑いで抗菌薬点眼およびベタメタゾン点眼が開始された。その後も症状は増悪し,3日後より右虹彩炎が出現したため,プレドニゾロン30mg/日を投与された。しかし,症状の改善は得られず,総合病院を紹介され受診した。1時間ごとのベタメタゾン頻回点眼を行うも症状および所見の改善はみられなかった(図1)。難治性前眼部炎症の精査加療目的に当科を紹介され受診した。

眼科図譜

朝顔症候群の1例とその家族

著者: 岡本紀夫 ,   雲井弥生 ,   中井慶

ページ範囲:P.439 - P.442

緒言

 朝顔症候群は,1970年にKindler1)によってはじめて報告された視神経乳頭異常である。胎生期の眼杯裂後部の閉鎖不全が関与しているといわれている2)。検眼鏡所見がアサガオの花に似ていることからこの病名がつけられた1)。多くは片眼性である。

 今回筆者らは,朝顔症候群の女児の母親に下方にコーヌスを伴う傾斜乳頭を認めた症例を経験したので報告する。

臨床報告

心因性視覚障害における視覚関連基礎スキルアセスメント(WAVES)の応用

著者: 松浦一貴 ,   寺坂祐樹 ,   今岡慎弥 ,   唐下千寿 ,   奥村智人

ページ範囲:P.429 - P.437

要約 目的:心因性視覚障害は,一般的な眼科検査による評価が困難である。視知覚や視覚認知機能を評価するために開発されたwide-range assessment of vision-related essential skills(WAVES)を,2症例での心因性視覚障害の病態評価に応用した。

症例と所見:1例は10歳,女児で,矯正視力は右0.2,左0.1であり,求心性視野狭窄があった。1か月前から両親が別居していた。他の1例は9歳,女児で,矯正視力は右0.3,左0.3であり。求心性の視野狭窄とらせん状視野があった。母親が夜勤をするようになり,1人で留守番をすることが多かった。

経過:両症例とも眼科と脳神経科での検査では病変がなく,心因性視覚障害と診断された。WAVESでは,視覚情報を手を介して表現する「目と手の協応」は正常であったが,図形を認知する視知覚が著しく低下していた。両症例とも,視力,視野,WAVESは1年以内に正常化した。

結論:今回の2症例は,視覚認知機能の低下により心因性視覚障害が生じたことを示している。一般的に,心因性視力障害の診断は,視力低下や視野狭窄などの典型所見に加え,原因となるストレスがある状況下で,他の原因疾患を除外することで行われ,視覚認知は評価されない。WAVESが一般的な眼科検査で評価しにくい高次視機能障害の診断に使われることが期待される。

今月の表紙

近視性黄斑症による単純出血

著者: 谷生えり ,   稲谷大

ページ範囲:P.404 - P.404

 患者は18歳,女性。右眼の視力低下を自覚し,近医を受診したところ黄斑出血と診断され,当院へ紹介され受診した。

 初診時の右眼視力は,0.03(0.3×−6.50D()cyl−0.75D 130°)であった。眼底写真で中心窩に濃い網膜出血を認め,一部はヘンレ層に出血があり,放射状の分布を呈していた。蛍光眼底造影検査では脈絡膜新生血管は認めず,出血による蛍光ブロックを認めた。出血の吸収促進のため抗VEGF薬の投与なども考慮されたが,経過観察のみで1か月後には出血は消失したが,代わりに黄斑浮腫が出現した。6か月後には,黄斑浮腫も消失し,右眼の視力も0.05(0.8×−7.00D()cyl−1.00D 130°)まで改善した。

海外留学 不安とFUN・第40回

スタンフォード大学での研究生活

著者: 横田聡

ページ範囲:P.426 - P.427

全米一不動産が高い街で

 私は現在,スタンフォード大学へ留学しております。スタンフォード大学はアメリカのカリフォルニア州のサンフランシスコベイエリア,パロアルトにある大学で,シリコンバレーの中心地です。

 サンフランシスコは,全米一不動産が高いところとされており,まず1つめの不安は家賃の高さでした。住居に関しては,まず単身渡米後,家族が来るまでに見つけるということにし,シェアハウスのガレージを改装した部屋で生活をスタートしました。こちらに来てから車を個人売買で購入しましたが,その売主がちょうどスタンフォード大学管理のアパート在住で,入れ替わりでの入居をリーシングオフィスに掛け合ってくれていたおかげで,職員寮のようなアパートへ入ることができました。

Book Review

京都ERポケットブック

著者: 佐藤信宏

ページ範囲:P.476 - P.476

 「山椒は小粒でもぴりりと辛い」は,小さくても才能や力量が優れていて侮れないことを例えることわざです。『京都ERポケットブック』はまさにそのものです。

 ポケットに入る大きさにもかかわらず,主訴別アプローチ,診断の参考になるclinical prediction ruleに加えて,ABC-VOMITアプローチ,問診の大動脈AORTAやTUNA FISHなど数多くのmnemonic(このmnemonicが何を意味するのか気になる方は,ぜひ手に取ってみてください)など膨大な内容が収まっています。各情報に参考文献も載っていて,ただのマニュアル本でもありません。しかも,カラー,図表が多く,読みやすい!

トワイクロス先生の緩和ケア—QOLを高める症状マネジメントとエンドオブライフ・ケア

著者: 恒藤暁

ページ範囲:P.496 - P.496

 オックスフォード大学緩和ケア講座の初代主任教授であったトワイクロス先生が1984年に執筆し,武田文和先生が翻訳された『末期癌患者の診療マニュアル』(医学書院,1987)が出版されてから30年以上が経過した。当時,緩和ケアの実践に関する日本語の書物はほとんどなく,貪るように読んで診療に当たったことを思い出す。過去30年においてわが国での緩和ケアの知識と技術の普及には目覚ましいものがあるが,患者に対する心構えについての教示を受ける機会は乏しく,物足りなさを感じていたところに本書が世に出たことは時宜にかなっていると感じる。

 トワイクロス先生はセント・クリストファー・ホスピスの研究所の所長として招聘され,がん患者の痛みの治療法などの研究に励み,その後,「WHO方式がん疼痛治療法」(1986年)の作成会議の専門家委員として中心的な働きをされた。監訳者のお一人である武田文和先生とは,それ以来の深い親交があり,お二人は「WHO方式がん疼痛治療法」の普及活動と医療麻薬の管理規制の改善に取り組まれている。

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目次

ページ範囲:P.400 - P.401

欧文目次

ページ範囲:P.402 - P.403

ことば・ことば・ことば 食べるな

ページ範囲:P.428 - P.428

 ギリシャ文字を知っていると便利なことがあります。

 アテネの町を歩いていると,ΘΑΡΜΑΧΗΙΟΝという看板を出している店がよくあります。「なんだかさっぱり分からない」と思いますが,英語にも「私にはまるでギリシャ語みたい」という表現があります。It's Greek to me. がそれです。

第37回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.450 - P.450

べらどんな 少子化と眼病

著者:

ページ範囲:P.490 - P.490

 最近の日本では出生率が下がってきた。その結果として,将来の人口が減少すると予想されている。地域によって差があるとしても,まず幼稚園や小学校の生徒数が減り,それが中学,高校,大学に及んでくるであろう。

 医学部の定員が変わらなければ,人口に対する医師の数は当然増加する。これについては,インターネットが「医師の数」の項目で具体的に教えてくれる。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.528 - P.531

希望掲載欄

ページ範囲:P.534 - P.534

アンケート用紙

ページ範囲:P.536 - P.536

次号予告

ページ範囲:P.537 - P.537

あとがき

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.538 - P.538

 昨年の冬は「福井県は大雪になりました。」と,あとがきに書かせていただきました。ところが,今年の冬は,ちっとも雪が積もらず,とうとう春を迎えてしまいました。私が福井県に引っ越ししてから,毎年のように,「今年は雪が少ないね,こんなの初めて」と地元の人が言っておられましたが,そう思っていると去年は自衛隊まで出動するほどの大雪になってしまいました。

 この大雪を踏まえて,去年の暮れに,もし大雪が降った場合は,スタッドレスタイヤを履いていても,チェーンを携行していなければ罰金になるという規則を警視庁と国土交通省が決定しました。この規則が発令されたのち,県内のカーショップでは,チェーンが売れ切れ続出になりました。結局,チェーンは一度も使用されることなく,購入した人は空振りに終わったわけで,チェーン携行の義務化だけが呪いのごとく生き残ることになりそうです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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