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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科73巻7号

2019年07月発行

雑誌目次

特集 第72回日本臨床眼科学会講演集[5] 原著

近視性脈絡膜新生血管に対するラニビズマブ硝子体内注射の2年経過

著者: 末廣久美子 ,   塩瀬聡美 ,   狩野久美子 ,   橋本左和子 ,   和田伊織 ,   大島裕司 ,   園田康平

ページ範囲:P.871 - P.877

要約 目的:近視性脈絡膜新生血管(mCNV)に対するラニビズマブ硝子体内注射(IVR)後2年間の治療成績の報告。

対象と方法:対象は2013年9月〜2016年8月に九州大学病院でmCNVと診断し,IVR開始後24か月以上経過観察が可能であった21例21眼。IVR前後の視力,中心窩網膜厚(CRT),病巣部網膜厚,病巣厚,CNV関連黄斑部萎縮面積について後ろ向きに検討した。CRT,病巣部網膜厚,病巣厚の測定には光干渉断層計(OCT)を,黄斑部萎縮面積の測定には眼底写真を用いた。

結果:平均年齢は68.9歳,平均投与回数は5.7回であった。平均視力は投与前と比べ,1か月後から24か月後まで有意に改善したが(1,3,6,12か月後p<0.01,18,24か月後p<0.05),12か月後から徐々に低下した。平均CRT,病巣部網膜厚,病巣厚はいずれの時点も有意に改善した(p<0.01)。平均黄斑部萎縮面積は6か月後に有意に拡大し(p<0.01),観察期間中は徐々に拡大した。2年後の視力と相関がみられた項目は治療前の視力と2年後の黄斑部萎縮面積であった。2年後の黄斑部萎縮面積の変化量と相関がみられた項目は投与回数であった。

結論:IVRはmCNVに対して網膜形状の改善,病巣の退縮に有用であるが,長期的には黄斑部萎縮の拡大がみられた。投与回数が多い症例は黄斑部萎縮面積が拡大する傾向がみられた。

糖尿病黄斑浮腫に対する閾値下レーザーの短期成績

著者: 高間奏映 ,   笠井暁仁 ,   小島彰 ,   石龍鉄樹

ページ範囲:P.878 - P.883

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)に対して,照射位置の記録が可能な577nmレーザー光ナビゲーションレーザーを用いて閾値下レーザーを行った症例の治療成績と合併症を後ろ向きに検討した。

対象と方法:対象は血管内皮増殖因子阻害薬など既存治療後にも浮腫が遷延した14例16眼。Navilas® 577+を用いて閾値下レーザーを行い,3か月後の視力,中心窩網膜厚(CFT)を評価した。レーザー照射による網膜変化を光干渉断層撮影と眼底自発蛍光を用いて評価した。

結果:平均logMAR視力は治療前0.3±0.3,初回閾値下レーザー照射3か月後0.3±0.4で,有意差はなかった(p=0.51)。平均CFTは治療前412.5±152.3μm,治療3か月後342.4±189.3μmで,有意に減少した(p=0.02)。CFTの20%以上減少は,16眼中10眼(63%)に認めた。レーザー照射部位に照射によると見なされる眼底自発蛍光の変化はなかった。

結論:既往治療に抵抗を示すDMEに対する閾値下レーザー治療は,形態学的な改善効果を示した。閾値下レーザー治療は照射条件と併用療法を検討することにより治療抵抗性のDMEの治療選択肢の1つになりうる。

バルベルト®緑内障インプラント挿入後眼内炎の3例

著者: 木佐貫祐揮 ,   小菅正太郎 ,   木崎順一郎 ,   和田悦洋 ,   吉野正範 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.884 - P.889

要約 目的:バルベルト®緑内障インプラント(BGI)挿入後に眼内炎を引き起こした3症例の報告。

症例:症例1は50歳,男性。アトピー性皮膚炎に伴う右続発性緑内障に対しBGI前房内挿入術を施行した。6か月後にチューブ露出と眼内炎を認め,BGI温存,結膜縫合術,硝子体手術を施行した。術後は眼内炎の再発はなく6年が経過し,矯正視力0.07,眼圧13mmHgであった。症例2は69歳,男性。糖尿病網膜症に伴う左新生血管緑内障に対しBGI前房内挿入術を施行した。2か月後にチューブ露出と眼内炎を認めBGI摘出術,前房洗浄術を施行した。術後は眼内炎の再燃はなく経過したが,高眼圧が持続し失明した。症例3は36歳,男性。アトピー性皮膚炎に伴う続発性緑内障で,両眼に複数回の緑内障手術の既往がある。左BGI前房内挿入後,チューブ露出にて再挿入術を2回施行した。再度の露出に対しチューブ埋没術を検討中に眼内炎を発症,硝子体手術,BGI後房に再挿入した。術後は眼内炎の再発はなく4年が経過し,眼圧23mmHg,矯正視力20cm指数弁であった。

結果:BGI挿入後の眼内炎を3例経験した。いずれも手術加療で眼内炎は治癒したが,BGI抜去した1例は失明した。

結論:BGI挿入後の眼内炎に対しBGIを除去するかどうかについて検討を要する。アトピー性皮膚炎の既往のある2症例ではチューブ露出からの感染が推定された。

黄斑下血腫にt-PAと空気を注入した3症例

著者: 遠藤貴美 ,   薄井隆宏 ,   友寄英士 ,   摺木友美 ,   藤澤邦見

ページ範囲:P.890 - P.895

要約 目的:近年,黄斑下血腫に対し,組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)と空気を網膜下に注入し,良好な結果が得られている。今回筆者らは,黄斑下血腫3症例の手術を経験し,良好な成績を得たため報告する。

対象と方法:対象は2017年9月〜2018年4月に,当院で黄斑下血腫に対してt-PAと空気を網膜下に注入した3症例3眼。診療録より後ろ向きに検討した。

結果:症例1:網膜細動脈瘤による黄斑下血腫に対し,網膜下にt-PAと空気を注入した。術中合併症で黄斑円孔が生じたが,二期的に内境界膜の自家移植を行い,円孔閉鎖に至った。症例2:加齢黄斑変性症(AMD)の黄斑下血腫に対し,網膜下にt-PAと空気を注入し,血腫の移動ができた。術後に網膜色素上皮剝離(PED)が残存したため,アフリベルセプト硝子体内注射を3回行い,PEDの縮小を認めた。症例3:AMDによる黄斑下血腫に対し,t-PAと空気を網膜下に注入して血腫の移動ができた。術後にPEDが残存したため,アフリベルセプト硝子体内注射を3回行い,PEDの縮小を認めた。

結論:黄斑下血腫に対し,網膜下にt-PAと空気を注入することで,全症例に視力改善が得られた。注入の際には脆弱な中心窩に一定の圧がかかり,黄斑円孔が生じることがあるので注意が必要である。また,AMDによる黄斑下血腫の場合,根本的な新生血管の根絶ではないため,術後に無硝子体での抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体の注入が必要になる。

頭痛を伴わない上矢状静脈洞血栓症の1例

著者: 井関萌 ,   澤村裕正 ,   大崎雅央 ,   松田彩 ,   田岡梨奈 ,   森樹郎 ,   相原一

ページ範囲:P.897 - P.904

要約 目的:視覚異常のみで発症し,非可逆的な視力と視野障害をきたした上矢状静脈洞血栓症の1例の報告。

症例:43歳,男性。両眼の見えづらさを自覚し,近医を受診した。矯正視力は両眼(1.5),両眼の視神経乳頭腫脹を指摘され,脳外科で頭部MRI撮影されるも異常は指摘されなかった。半年後に前医で視野障害を指摘され,当院を紹介され受診した。経過中頭痛の訴えは一度もなかった。既往歴は高血圧のみで,服薬歴としては発症3か月前からミノキシジルの内服歴があった。

所見と経過:当院初診時の矯正視力は右(0.4),左(0.8),両眼に視神経乳頭腫脹があった。MRIで両側視神経周囲にshort-TI inversion recovery(STIR)高信号を認めたが,造影MRIで視神経の増強効果はなかった。血液検査で血栓性素因はなかった。髄液検査では脳圧42cmH2Oと高値であり,磁気共鳴静脈造影(MRV)により上矢状静脈洞血栓症が疑われた。ヘパリンによる抗凝固療法,脳血管造影下での血栓回収術が施行されたものの改善が乏しく,脳室腹腔シャント術が施行された。両視神経乳頭腫脹は改善したが,矯正視力は右(0.01),左(1.2)で,非可逆的な視力と視野障害をきたした。

結論:脳静脈洞血栓症では頭痛を伴うことが多いが,本症例のように頭痛などの神経学的所見に乏しくとも両側乳頭浮腫を認めた場合には,脳静脈洞血栓症の鑑別が必須である。

当院における下垂体腫瘍の視機能に関する検討

著者: 西晃佑 ,   白井久美 ,   岩西宏樹 ,   住岡孝吉 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.905 - P.911

要約 目的:非機能性下垂体腺腫症例で光干渉断層計(OCT)の有用性を後ろ向きに検討すること。自覚症状と視機能,術前後における視機能の変化とOCT所見の関連性に注目した。

対象と方法:2011年4月〜2017年12月の間に当科を受診し,下垂体腫瘍が摘出され,病理学的に確定診断された初発の非機能性下垂体腺腫30例を対象に,後ろ向きに検討を行った。

結果:眼症状を訴えた症例は22例,視力低下15例,視野異常4例,視力低下+視野異常2例,複視1例であった。当科で経過を追えた視力低下症例は15例,視野障害例は22例であった。術後視力は12例で改善したが,3例で改善を認めなかった。術後視野は15例が改善したが,7例で視野異常が残存した。術前にOCTを施行していた8症例中2例で,乳頭周囲網膜神経線維層の水平成分の菲薄化を認め,黄斑部解析で鼻側半網膜のganglion cell complexの菲薄化を認めた。この2症例の術後視機能予後は不良であった。OCTで異常が検出されなかった6例の術後視機能予後は良好であった。

結論:下垂体腺腫摘出術前にOCTで網膜構造を評価することは視機能の予後予測に有用である。

滲出型加齢黄斑変性に対するアフリベルセプトtreat-and-extendの最大投与間隔延長の検討

著者: 新井陽介 ,   松本英孝 ,   森本雅裕 ,   向井亮 ,   高橋牧 ,   永井和樹 ,   中村孝介 ,   高山真祐子 ,   三村健介 ,   得居俊介 ,   宮久保朋子 ,   秋山英雄

ページ範囲:P.913 - P.919

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性に対するアフリベルセプト硝子体内注射を用いたtreat-and-extend(TAE)の最大投与間隔延長について検討する。

対象と方法:2013年12月〜2015年1月に群馬大学医学部附属病院にて,アフリベルセプト硝子体内注射(IVA)によるTAEで2年間治療を継続できた未治療の典型加齢黄斑変性(tAMD)およびポリープ状脈絡膜血管症(PCV)127例129眼を対象とした。最初の2年間は最大投与間隔を12週とし,2年間再燃がない症例については3年目に最大投与間隔を16週に延長した。最大投与間隔を16週に延長できた症例の3年目の再燃の有無,視力,滲出性変化の推移,治療回数を評価した。

結果:全症例129眼(tAMD 68眼,PCV 61眼)のうち,2年間で再燃したのは86眼(66.7%),再燃しなかったのは43眼(33.3%)であった。再燃がなかった43眼のうち,アフリベルセプトの最大投与間隔を16週に延長し,3年間経過を追えた症例は40眼(tAMD 14眼,PCV 26眼)であった。その40眼中6眼(15%,tAMD 2眼,PCV 4眼)で3年目に再燃がみられたが,投与間隔を短縮することによって滲出性変化を抑えることができた。視力(logMAR平均±標準誤差)は,再燃なし群で2年時0.15±0.06,3年時0.17±0.18,再燃あり群で2年時0.17±0.18,3年時0.21±0.18と,視力変化量は両群間に有意差はなかった。3年目の平均治療回数は,再燃なし群が3回,再燃あり群が3.7回であった。

結論:IVAによるTAEの3年目の最大投与間隔を16週に延長した。再燃した症例もあったが,投与間隔を短縮することによって視力と滲出性変化の悪化を防ぐことができた。

非強度近視眼における黄斑円孔網膜剝離

著者: 佐藤侑紀 ,   盛秀嗣 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.920 - P.924

要約 目的:非強度近視眼に発症した黄斑円孔網膜剝離の報告。

症例:76歳,女性。右眼の霧視,変視を主訴に受診した。初診時右眼視力は0.02(矯正不能),眼軸長はIOLマスターで22.94mm,1/2乳頭径大の黄斑円孔とその周囲に約3乳頭径大の網膜剝離を認めた。光干渉断層計では黄斑円孔縁に厚い後部硝子体膜の癒着および前後方向への牽引を示す所見を認めた。白内障手術併用硝子体手術を行って黄斑部周囲に強く癒着していた後部硝子体膜と内境界膜を除去して,20%SF6ガスタンポナーデを行った。術後黄斑円孔は閉鎖せず,わずかに網膜下液も残存していたため,再度硝子体手術を行った。黄斑円孔から残存していた粘稠な網膜下液の排液を行い,再び20%SF6ガスタンポナーデを注入した。再手術後,黄斑円孔の閉鎖と網膜復位を確認し,右眼視力は0.1(矯正不能)まで改善した。

結論:非強度近視眼に黄斑円孔網膜剝離が発生する場合がある。黄斑部への強い牽引と粘稠な網膜下液が原因と考えられた。

眼瞼結膜に認められたマントル細胞リンパ腫の1例

著者: 永井達也 ,   岩西宏樹 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.925 - P.930

要約 目的:眼瞼結膜に認められたマントル細胞リンパ腫の1例の報告。

症例:67歳,男性。右下眼瞼結膜に約25mm大の隆起した腫瘤と円蓋部にやや隆起した表面平滑なピンク色の腫瘤があり,精査加療目的で近医から紹介され受診した。

経過:右下円蓋結膜腫瘍を生検し,病理組織診断,フローサイトメトリーにてCD5陽性,CD20陰性,cyclin D1の発現を認め,マントル細胞リンパ腫(MCL)と診断した。PET-CTで,右下眼瞼以外に,骨髄,前立腺,頸部に集積を認め,骨髄生検でMCLが検出され,stage Ⅳと病期診断した。右眼病変に対し放射線療法(18回計36Gy)を施行し,腫瘍は消失した。以後3年間再発はない。

結論:眼瞼結膜に発症したMCLに対し,放射線療法が奏効した。

全眼筋麻痺を合併した眼部帯状疱疹の1例

著者: 政岡未紗 ,   林勇樹 ,   大庭啓介 ,   福島敦樹

ページ範囲:P.931 - P.938

要約 目的:眼部帯状疱疹に全眼筋麻痺を合併した1例の報告。

症例:45歳,男性。右三叉神経第一枝領域の帯状疱疹による右前頭部皮疹を発症し,近医内科でビダラビンの点滴治療を受けた。1週間後に右眼瞼下垂が生じ,近医眼科と脳神経外科を受診した。右眼球運動障害も認めたため頭部MRI検査を受けたが,異常はなかった。その2週後に右眼虹彩炎も発症し,眼瞼腫脹,眼球運動障害も持続するため当科へ紹介となった。初診時視力は右(0.2),左(1.2),右前頭部の皮疹,右眼瞼腫脹,眼瞼下垂,瞳孔散大,角膜後面沈着物および虹彩炎を認めた。右眼球運動は外転以外の全方向で制限されていた。さらに2週間後には,右眼の上下内転制限に加え,外転制限も進行してきたため頭部MRIを再度施行したところ,右海綿静脈洞部から眼窩先端部にかけて造影増強効果ならびに外眼筋の軽度腫脹を認め,さらに同側の三叉神経脊髄路核の位置に相当する延髄から上位頸髄にかけての部位に連続性の高信号も認められた。そのため,アシクロビル点滴追加とステロイドパルス療法を施行し,治療1か月後には右視力は(0.9)に,右眼瞼下垂と眼球運動障害も改善した。

結論:本症例の全眼筋麻痺は,海綿静脈洞部における三叉神経から動眼神経および外転神経への炎症波及が主な原因であると考えられた。

後天性共同性内斜視に対する固視眼へのボツリヌス毒素投与

著者: 宇井牧子 ,   折笠智美 ,   岡島嘉子 ,   今井達也 ,   井口聡一郎 ,   迫野卓士 ,   佐藤美紗子 ,   加藤徹朗 ,   根岸貴志

ページ範囲:P.939 - P.945

要約 緒言:後天性内斜視に対してボツリヌス毒素(BTX)療法は治療の選択肢となるが,斜視眼への投与が一般的である。麻痺性の要素のない後天性共同性内斜視(輻湊痙攣疑い含む)に対する,固視眼内直筋へのBTX注射について検討した。

対象と方法:2016年8月〜2018年8月に横浜労災病院で内直筋にBTX注射を受けた後天性共同性内斜視8例(男性7例,女性1例,平均年齢28.0±14.2歳)に対し,後ろ向きに調査した。各注射を斜視眼注射群と固視眼注射群に分け,注射1か月後の斜視角,近見立体視,眼位,頭位異常,合併症を比較した。

結果:斜視眼注射は9回,固視眼注射は10回であった。注射前斜視角は斜視眼注射群31.9±10.2Δ,固視眼注射群32.6±8.2Δで有意差はなかった(p=0.83)。注射後斜視角は斜視眼注射群5.4±9.5Δ,固視眼注射群11.6±14.2Δで有意差はなかった(p=0.41)。注射後立体視の中央値はそれぞれ100秒,40秒であった。立体視50秒以下の割合は22.2%,90%で,固視眼注射群で有意に高かった(p=0.003)。注射後の眼位について,遠見斜位の割合は55.6%,60%で有意差はなかったが(p=0.845),近見斜位の割合は55.6%,100%で固視眼注射群で有意に高かった(p=0.018)。注射後異常頭位を認めた割合は斜視眼注射群44.4%,固視眼注射群0%と固視眼注射群で有意に少なかった(p=0.018)。合併症として,一過性眼瞼下垂を斜視眼注射群44.4%,固視眼注射群30%に認めたが,有意差はなかった(p=0.515)。

結論:固視眼注射による重大な合併症はなかった。後天性共同性内斜視に対して,BTXの固視眼投与が注射後早期の立体視回復と複視消失に効果的である可能性が考えられた。

本邦におけるFunctional Vision ScoreとThe 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaireとの関連

著者: 小野峰子 ,   鈴鴨よしみ

ページ範囲:P.947 - P.954

要約 目的:Functional vision score(FVS)は米国のロービジョン者において,視覚関連QOL尺度The 25-item National Eye Institute Visual Function Questionnaire(NEI VFQ-25)との相関が大きく,他の視覚指標(視力,視野)よりもQOLをより良く予測することが報告されている。本研究は,本邦のロービジョン者におけるFVSとNEI VFQ-25の関連を確認することを目的とした。

対象と方法:4大学病院と1眼科医院に通院中の20歳以上のロービジョン者176名を対象とした。視力,視野検査の結果からFVS,FAS(視力評価スコア),FFS(視野評価スコア)を算出し,NEI VFQ-25との相関を求め,先行研究との比較,およびFVS,FAS,FFSとNEI VFQ-25との相関の強さを比べた。

結果:FVSは,NEI VFQ-25の「一般的健康感」「目の痛み」以外の9領域と総合得点と有意な相関を示した。最も相関が強かった領域は「遠見視力による行動」であり,次いで総合得点であった。FVSは,FAS,FFSと比較して,最も多くの領域(「周辺視力」「色覚」「心の健康」「社会生活機能」「役割制限」「自立」「遠見視力による行動」)および総合得点と強く相関していた。

結論:本邦のロービジョン者において,FVSとNEI VFQ-25の関連は,先行研究と同じ傾向の相関関係であることが確認され,FVSは視機能関連QOLを予測する指標であることが示された。

前眼部光干渉断層装置CASIA2を用いた水晶体の傾斜と偏心の検討

著者: 五藤智子 ,   鄭暁東 ,   中岡弓 ,   白石敦 ,   本山真希

ページ範囲:P.955 - P.961

要約 目的:前眼部光干渉断層装置CASIA2の応用によって生体における水晶体の形態解析が可能となった。白内障手術症例における水晶体の傾斜と偏心について報告する。

対象と方法:はなみずき眼科において,白内障手術連続症例120例230眼(平均年齢73.2±8.4歳)を検討した。術前視力,眼圧,等価球面,眼軸長(OA-2000,Tomey)を計測した。また,CASIA2(Tomey)は白内障術前モードにて撮影し,前房深度,前房幅,水晶体厚,水晶体の傾斜と偏心を計測した。水晶体の傾斜と偏心への関与因子について多変量相関解析(JMP ver. 14)を行った。

結果:男性54例102眼,女性66例118眼を検討した。性差は,眼軸において男性が有意に長かった(p=0.015)。水晶体の平均傾斜は4.6±1.5°で,方位は231.1±98.7°であった。傾斜は年齢と有意に正の相関(Spearman's rank correlation coefficient r=0.211,p=0.034),眼軸長と負の相関(r=−0.3475,p=0.004)を示した。水晶体の平均偏心は0.15±0.08mmで,方位は188.9±100.4°であった。偏心は年齢と有意に正の相関(r=0.2401,p=0.016),前房深度と負の相関(r=−0.222,p=0.025)を示した。傾斜度と偏心量とが有意に正の相関を示した(r=0.451,p<0.001)。

結論:CASIA2による水晶体の形態解析が可能であった。水晶体の傾斜と偏心は加齢によって増加する一方,眼軸長および前房深度にも相関する可能性を示唆した。

連載 今月の話題

未熟児網膜症診療のbig change

著者: 野々部典枝

ページ範囲:P.841 - P.847

 早産児の生存率が世界一のわが国では,全国のNICUの整備・増加に伴い,小児を専門としない眼科医が未熟児を診察する機会も多い。熟練者でなくても診断や治療を確実に行えるよう,新しい眼底撮影の方法やOCTなどの検査機器の導入,抗VEGF薬による治療などの取り組みが行われている。本稿では,最近の未熟児網膜症診療の変化について解説する。

症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー・術後編18

トーリック眼内レンズの固定位置と回旋

著者: 野口三太朗

ページ範囲:P.848 - P.855

Q 図1のように,トーリック眼内レンズ(intraocular lens:IOL)を移植しましたが,回旋してしまいます。レンズの位置を何度補正しても,回旋してしまいます。トーリックIOLの固定位置や固定方法について教えてください。そもそもトーリックIOLは必要なのでしょうか?

眼炎症外来の事件簿・Case11

多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)を合併した重篤な遷延型原田病症例

著者: 竹内大

ページ範囲:P.856 - P.859

患者:66歳,女性

主訴:両眼の霧視

現病歴:3か月前に頭痛,その後に両眼の霧視を自覚し,近隣の大学病院眼科を受診した。両眼に汎ぶどう膜炎,漿液性網膜剝離を呈し,HLA-DR4陽性,髄液細胞増多がみられたことからフォークト-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Harada disease:VKH)の診断で,ステロイドパルス療法が2クール施行された。パルス療法後,プレドニゾロン30mg/日の内服が継続されたが,漿液性網膜剝離は残存した。骨粗鬆症,糖尿病,満月様顔貌の合併を認めたため,シクロスポリン250mg/日の併用にてプレドニゾロン20mg/日へ漸減したところ,漿液性網膜剝離は胞状網膜剝離に悪化したため,加療目的で当科を紹介され受診となった。

臨床報告

抗血栓薬継続下で施行した線維柱帯切開術の検討

著者: 小林かおり ,   井原力哉 ,   永岡了 ,   溝口周作 ,   岡安隆 ,   岡田守生

ページ範囲:P.865 - P.870

要約 目的:抗血栓薬服用継続下での線維柱帯切開術の手術成績と合併症を,抗血栓薬非服用例と比較検討した。

対象と方法:対象は初回手術として線維柱帯切開術を施行した111例で,男性68例,女性43例,年齢は平均69.0±14.2歳である。抗血栓薬服用症例(服用群)は抗血栓薬を休薬せずに線維柱帯切開術を施行した。抗血栓薬を服用していない患者(非服用群)と,術後眼圧,合併症を比較した。

結果:抗血栓薬服用群は23例(20.7%),非服用群は88例(79.3%)であった。術前眼圧および最終眼圧は,服用群23.3±5.4mmHg,14.9±3.6mmHg,非服用群26.5±8.4mmHg,16.1±5.4mmHgであり,両群の最終眼圧に有意差はなかった(p=0.6)。術後1mm以上の前房出血が生じた症例は,服用群15例,非服用群40例で,両群に有意差はなかった(p=0.2)。前房出血の消退期間は,服用群6.0±4.0日,非服用群4.0±3.0日で,服用群は前房出血消退までの期間が有意に長かった(p=0.0154)。術後に前房出血が多く,前房洗浄が必要となった症例は,服用群3例(13.0%),非服用群1例(1.1%)で,服用群が有意に多かった(p=0.0275)。

結論:抗血栓薬服用継続下に行う線維柱帯切開術は,非服用者に対する手術に比べて,前房出血消退に要する期間が長く,前房出血除去のために前房洗浄を要する頻度が増えるが,術後眼圧に有意差はなかった。

今月の表紙

角膜新生血管

著者: 内田強 ,   井上幸次

ページ範囲:P.840 - P.840

 症例は57歳,女性。1年前から左眼の視力低下を自覚したが,眼科未受診であった。今回,右眼の視力低下を自覚し,近医を受診した。高眼圧を認め,眼圧コントロール不良のため当院に紹介され受診となった。初診時視力は,右0.3(0.4×−0.25D()cyl−1.00D 150°),左光覚(−),眼圧は右22mmHg,左48mmHg。前眼部所見では右白内障グレードⅡ,左角膜新生血管,虹彩新生血管,全周虹彩後癒着,過熟白内障を認めた。眼底所見は右糖尿病網膜症 福田分類BⅢ,左過熟白内障により透見不能であった。

 血糖コントロールのため糖尿病内科へ入院し,インスリン治療を導入した。並行して,両緑内障点眼治療を開始し,右汎網膜光凝固術を施行した。

海外留学 不安とFUN・第43回

ロンドン留学記・3(40歳を過ぎての留学編)

著者: 栂野哲哉

ページ範囲:P.860 - P.861

衰えと経験値

 Garway-Heath教授のラボには各国から留学生が来ていたが,40過ぎの中年ど真ん中は私1人だった。彼らのほとんどが私よりひと回り以上若く,将来自国の緑内障診療を背負って立つであろう非常に優秀な若手眼科医でもあった。彼らのバイタリティと適応力には常に圧倒され,自分との差には劣等感どころか清々しささえ感じた。

 衰えはパレードでやってくる。40歳を超えてからというもの,立て続けに手術をすれば腰は痛み,スマートフォンの文字も読みづらくなった。人の名前だってすぐに思い出せない。最近は3歳の息子との片足立ち競争でもいい勝負だ。衰えは決して忍び寄って来ないと思う今日この頃だ。

Book Review

研究の育て方—ゴールとプロセスの「見える化」

著者: 二木立

ページ範囲:P.946 - P.946

 本書は医学書院の月刊誌『総合リハビリテーション』で2016〜17年に長期連載されて好評を博した集中講座「研究入門」を一書にまとめたものです。リハビリテーション医療の臨床研究から「健康の社会的決定要因」を中心とする社会疫学へと研究のウィングを広げつつ,現在も第一線で研究を続けている近藤克則氏が,自己の研究をいかに育ててきたか,大学院生や若い研究者をいかに育ててきたかを,系統的かつ具体的に紹介しています。

 全体は以下の4部(24章)構成です。第1部「総論」,第2部「構想・デザイン・計画立案」,第3部「研究の実施・論文執筆・発表」,第4部「研究に関わるQ & A」。各章の最後には,近藤氏オリジナルのさまざまな「チェックリスト」が付けられており,頭の整理に役立ちます。

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目次

ページ範囲:P.836 - P.837

欧文目次

ページ範囲:P.838 - P.839

ことば・ことば・ことば θ

ページ範囲:P.862 - P.862

 英語の医学用語には,ラテン語系,ギリシャ語系,その他があり,ギリシャ語には特にお世話になっています。

 しかし,ギリシャ語にはいろいろな癖があります。まず文字が変だし,アルファベットも英語より2文字少なく,24文字しかありません。

第37回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.864 - P.864

べらどんな 薬は毒

著者:

ページ範囲:P.912 - P.912

 イヌサフランの球根を食べて,北海道の高齢者が死んだという記事が新聞に出ていた。

 イヌサフランはユリに似た草で,豪華ではないが,藤紫色の花が咲く園芸用の植物である。球根がユリに似ているので,これを煮て食べ,その2日後に死亡した。司法解剖でコルヒチンが検出され,イヌサフランを食べたことが原因であると断定された。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.962 - P.965

希望掲載欄

ページ範囲:P.968 - P.968

アンケート用紙

ページ範囲:P.970 - P.970

次号予告

ページ範囲:P.971 - P.971

あとがき

著者: 井上幸次

ページ範囲:P.972 - P.972

 本号の「今月の話題」に掲載されている「未熟児網膜症診療のbig change」を興味深く読ませていただいた。正直言って,私のような前眼部の専門家には,未熟児網膜症は自分にはとてもできない遠い遠い話(in a galaxy far, far away)であったが,今回のbig changeは,それがさらに遠のくのではなく,少し近くなった(太陽系ぐらい)ように思われる喜ばしいchangeである。この変化はOCTや広角眼底カメラ,抗VEGF薬によって起こった網膜診療でのbig changeを受けて,さらに手持ち眼底カメラやスマホの応用なども加わって,広がってきたようであるが,特別な人にしかできなかった未熟児網膜症診療の敷居が下がるのは非常に歓迎すべきことである。その反面,低出生体重児の増加に伴ってケアの必要な患児は増えていくと思われ,しかも常によい結果を求められるようになるので,決して楽になったといえる状態ではなく,むしろより厳しくなったと言えるかもしれない。

 考えてみれば最近の医療の進歩はすべてそうで,やりやすくなっている反面,やることは多くなり,結果を求められる。抗VEGF薬硝子体注射をしているドクターは多かれ少なかれ,こんなに忙しいのに,眼内炎でも起こそうものならたちまち非難されるのは理不尽だと思っておられるのではないだろうか。そうは言っても,やはりbig changeにはcatch upしていかなければならない。そのためにも,しっかりと「臨床眼科」を読んで勉強したいものである。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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