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雑誌目次

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臨床眼科73巻9号

2019年09月発行

雑誌目次

特集 第72回日本臨床眼科学会講演集[7] 原著

ポリープ状脈絡膜血管症における抗VEGF薬治療前後の光干渉断層血管撮影画像の検討

著者: 横田開人 ,   大中誠之 ,   千原智之 ,   木村元貴 ,   永井由巳 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1143 - P.1151

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性の抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法において,維持期再発の早期検出は大きな課題である。本研究の目的は,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の光干渉断層血管撮影(OCTA)画像の変化から滲出性の再発を予測できるかを検討することである。

対象と方法:対象は関西医科大学附属病院にて未治療PCVに対してアフリベルセプト硝子体内投与による導入期治療後に滲出の再発を認めた症例のうち,再発の1か月前にOCTAを撮影していた4例4眼である。導入期治療前後,滲出再発前後のOCTA画像を後ろ向きに比較検討した。

結果:4例すべてで,滲出再発前に異常血管網およびポリープ状病巣部内において,en face OCTA血流信号に変化を認めた。2例は治療開始後5か月目に滲出が再発したが,その1か月前に異常血管網部に微細な血流信号を認めた。そのうち1例はen face OCTAで,導入期治療後に消失したポリープ状病巣部の血流信号の部分回復を認めた。治療開始後6か月目に滲出が再発した1例は,5か月目に異常血管網部に微細な血流信号とポリープ状病巣部の信号強度の増加を認め,治療開始後8か月目に再発した1例は7か月目に異常血管網部に微細な血流信号を認めた。

結論:PCVに対する抗VEGF療法後の滲出再発前には,異常血管網部に微細な血流信号が出現することがen face OCTAにおいて確認できた。OCTAを頻回に行い,血流信号の変化に着目することで滲出性所見の再発を予測できる可能性がある。

陳旧性の外傷性虹彩離断を有する白内障に対して水晶体再建術と虹彩整復術を施行した2症例

著者: 高橋鉄平 ,   松島博之 ,   永田万由美 ,   妹尾正

ページ範囲:P.1153 - P.1158

要約 目的:陳旧性外傷性虹彩離断を有する白内障に対して,アイリスリトラクターを活用して白内障手術施行後に虹彩整復術を施行した2症例の報告。

症例:症例1は75歳,男性。12時に約30°の陳旧性虹彩離断があり,離断した虹彩をアイリスリトラクターで固定しながら白内障手術を施行した。アセチルコリン希釈液で縮瞳後に強角膜創を作製し,虹彩根部を陥頓させた後に10-0ナイロン糸を通糸し,眼粘弾剤(ヒーロン®)で虹彩を前房内に戻してから縫合した。症例2は70歳,男性。12時に約20°の虹彩離断があり,症例1と同様の術式で手術を行った。

結論:外傷性虹彩離断を伴った白内障に対しては工夫して手術を行うことで,安全に白内障手術と虹彩整復が可能であった。

眼瞼結膜下に黒色真菌感染を再燃した1例

著者: 深澤優輝子 ,   佐々木悟 ,   鈴木博義 ,   針谷春菜 ,   野呂充

ページ範囲:P.1159 - P.1162

要約 目的:眼瞼結膜下に黒色真菌感染を再燃した症例を報告する。

症例:47歳,男性。37歳時にHIV感染症と診断され,40歳時よりAIDSとして加療が開始された。44歳時に左眼の充血と左下眼瞼結膜に黒色腫瘤が出現し,精査加療目的で当科へ紹介され初診となった。47歳時に所見が再燃したと訴え再来した。

所見:初診時,左下眼瞼結膜の著明な充血を認め,瞼結膜下に黒色腫瘤を認めた。腫瘤の周囲には結膜下結石を多数認め,黒色腫瘤は一部が瞼結膜から露出していた。黒色腫瘤は細菌検査および鏡検の結果,黒色真菌と判明した。再燃時,原因となった黒色真菌はExophiala dermatitidisであると同定された。

結論:免疫能低下状態にある患者において,眼瞼結膜下に黒色真菌感染を繰り返す症例が存在する。

顔面肩甲上腕型筋ジストロフィ1型に合併したCoats様病変に硝子体手術を施行した1例

著者: 袖野貴弘 ,   坂本理之 ,   吉田いづみ ,   酒井麻夫 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.1163 - P.1168

要約 目的:顔面肩甲上腕型筋ジストロフィ(FSHD)にCoats様病変が合併することがある。多種多様な網膜病変が報告されているが,アーケード血管内に新生血管(NV)と線維血管膜(FVM)を発生した症例の報告はない。FSHD1型に合併したCoats様病変に対し,硝子体手術を施行した1例を報告する。

症例:66歳,男性。4か月前から神経内科でFSHDと診断され,2か月前からの右眼視力低下を主訴に近医を受診し,手術目的で当科へ紹介となった。初診時の右眼矯正視力は0.2であった。右眼の眼底に,中間周辺部から周辺部にかけて無血管野およびNVを,アーケード血管内を中心としてFVMとこれに伴う牽引性網膜剝離を認めた。経瞳孔的に汎網膜光凝固した後に,白内障同時硝子体手術を施行した。黄斑近傍のNVより発生するFVMを認めた。術後10か月で矯正視力は0.5に改善し,血管新生緑内障などの合併症はなく,経過良好である。

結論:FSHDのCoats様病変に対してアーケード内にFVMがある症例では,黄斑近傍にNVが存在する可能性があるため,増殖膜処理を行う際には,医原性黄斑円孔などに注意する必要があると考えられた。

眼窩先端部症候群と顔面神経麻痺を生じた悪性リンパ腫の1例

著者: 岸本典子 ,   藤井千晶 ,   古瀬尚 ,   大山明子 ,   宍戸奈美 ,   大山矩史 ,   新谷大悟 ,   大月洋

ページ範囲:P.1169 - P.1174

要約 目的:眼窩初発で経過中に中枢神経系以外の臓器(頸部リンパ節)に生じた,びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)の症例報告。

症例:88歳,女性。左側動眼神経不全麻痺による複視と眼瞼下垂が出現するも自然軽快した。数か月後に,左側の外転神経,動眼神経,滑車神経,三叉神経,視神経,顔面神経障害による症状が出現した。造影T1強調MRI画像で左眼窩,海綿静脈洞,中頭蓋窩に病変が検出された。右鎖骨上窩リンパ節生検による病理組織検査で,DLBCL(アン・アーバー病期分類:Stage ⅡA)と診断され,化学療法が施行されたが,間質性肺炎を併発し死亡した。

結論:多発脳神経障害をきたす眼窩および海綿静脈洞病変では,悪性リンパ腫も念頭に置き,積極的に全身病変の検索を行うべきである。

難治性視神経炎に単純血漿交換が著効した1例

著者: 三戸裕美 ,   三木淳司 ,   後藤克聡 ,   荒木俊介 ,   石田順子 ,   家木良彰 ,   桐生純一

ページ範囲:P.1175 - P.1181

要約 目的:ステロイド抵抗性の難治性視神経炎に単純血漿交換が著効した症例の報告。

症例:既往に糖尿病のある47歳,女性。4日前からの右眼視力低下,眼痛を主訴に当院を受診した。視力は右手動弁,左(1.5),限界フリッカ値(CFF)は右測定不能,左39Hzで,RAPDx®によるRAPD amplitude scoreは10.55と右相対的瞳孔求心路障害(RAPD)陽性であった。右視神経乳頭は軽度の発赤・腫脹を認め,左眼に異常所見はなかった。造影MRIでは右視神経全長の造影効果を認め,重篤な右球後視神経炎と診断した。髄液検査では蛋白増加を認め,視神経炎初発の多発性硬化症・視神経脊髄炎の可能性が示されたが,頭部・脊髄MRIで異常所見はなく,抗アクアポリン4抗体などの自己抗体は陰性であった。第7病日からステロイドパルス療法を2クール施行したが,視機能・造影MRI所見に変化なく,ステロイド抵抗性であった。光干渉断層計(OCT)で右網膜内層の明らかな菲薄化がなかったため,血漿浄化療法が有効ではないかと考え,第19病日より合計6回の単純血漿交換を実施した。第30病日の造影MRIの造影効果は消失し,第88病日には右視力(1.5),右CFF 27Hz,RAPD amplitude score 2.27と著明な視機能の改善を認めたが,OCTによる網膜内層は進行性に菲薄化した。発症から10か月間,再発や脊髄炎の発症はない。

結論:眼窩MRIで造影効果のあるステロイド抵抗性視神経炎に対し,単純血漿交換が有用であった。

脈絡膜新生血管を合併した散弾様網脈絡膜炎の1症例

著者: 西村英里 ,   小池直子 ,   三木克朗 ,   尾辻剛 ,   西村哲哉 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1182 - P.1190

要約 目的:散弾様網脈絡膜炎(BC)は欧米人に多くみられる,多数の黄白色滲出斑を特徴とするぶどう膜炎の1型である。約10%に脈絡膜新生血管(CNV)が発生するとされているが,本邦でCNVが合併した報告は過去に1例しかない。筆者らは,本症の経過中にCNVをきたした症例を経験したので報告する。

症例と経過:54歳,男性。主訴は両眼霧視,初診時所見は両眼視神経乳頭発赤,網膜静脈の拡張・蛇行,黄白色滲出斑が後極部に多発していた。ステロイド点眼と内服による治療を開始したが,ぶどう膜炎が再発し,両眼眼底周辺部全体に多数の黄白色滲出斑が出現した。眼所見が本症に特徴的で,全身検査で他のぶどう膜炎が否定的であったため,BCと診断した。その後寛解と増悪を繰り返したが,初診より1年3か月後に右眼,その2か月後には左眼にもCNVが発生した。抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射および,トリアムシノロンテノン囊下注射(STTA)を必要時投与で行ったところ,CNVは徐々に拡大したものの,瘢痕化した。

結論:本例のCNVはぶどう膜炎の慢性炎症により発生したと思われた。治療にはSTTAと抗VEGF薬硝子体内注射が有効であったが,CNVは拡大し視力が低下したため,より積極的な治療が必要であると思われた。

ラタノプロスト・チモロール配合剤の角膜上皮障害の頻度—ラタノプロスト単剤との比較

著者: 小林博 ,   杉本琢二

ページ範囲:P.1191 - P.1196

要約 目的:添付文書上で添加物が同様であるラタノプロスト0.005%とラタノプロスト・チモロール配合剤による角膜上皮障害を比較して,チモロールによる影響を調査した。

対象と方法:対象は,ラタノプロスト(以下,単剤)およびラタノプロスト・チモロール配合剤(以下,配合剤)を単独に点眼している緑内障患者380名(74.0±10.7歳,男性159名,女性221名)および90名(70.6±13.1歳,男性38名,女性52名)である。1年間にわたり,2か月ごとに角膜上皮障害を観察した。両眼に点眼している場合は,右眼を対象とした。

結果:1年間の調査を,単剤で342名(90.0%),配合剤で84名(93.3%)の患者が完了した。点状表層角膜症が単剤で127名(37.1%),配合剤で34名(40.5%)で,少なくとも1回以上がみられた(p=0.6)。そのうち,単剤で113名(33.5%),配合剤で30名(35.7%)が軽症であった。単剤では,70歳未満で27名(24.1%),70〜79歳で42名(35.6%),80歳以上で58名(51.8%)に角膜上皮障害がみられたのに対して,配合剤では,8名(26.7%),12名(42.9%),14名(53.9%)であった。両患者群において,頻度は年齢と有意に相関していたが(p<0.0001),いずれの年齢層でも,配合剤群と単剤群との間に有意差はなかった(p=0.5〜0.9)。

結語:単剤および配合剤ともに,発症率と年齢の間に有意な相関があった。配合剤の発症率は単剤と差異がなかった。

学童期の眼軸長の変化

著者: 森隆史 ,   西戸知佳 ,   渡辺愛美 ,   鈴木美加 ,   柿沼光希 ,   佐藤千尋 ,   笠井彩香 ,   石龍鉄樹

ページ範囲:P.1197 - P.1201

要約 目的:小学校1年生と4年生の眼軸長を経年的に計測し,学童期における変化を検討した。

対象と方法:対象は2015年度小学校入学児童26名52眼(低学年児童)と4年生児童31名62眼(高学年児童)である。毎年4月の学校健診での眼科検査に加えて,光学的生体測定装置(IOLマスター®)による眼軸長測定を行い,低学年児童を3年間(1〜4年生),高学年児童を2年間(4〜6年生)追跡した。

結果:低学年児童の眼軸長は,1年生時22.48±0.77mm(平均値±標準偏差),2年生時22.89±0.80mm,3年生時23.14±0.96mm,4年生時23.40±1.09mmであった。低学年児童の眼軸長の変化は,1年目+0.41±0.21mm,2年目+0.26±0.25mm,3年目+0.25±0.19mmであった。高学年児童の眼軸長は,4年生時23.51±1.11mm,5年生時23.74±1.20mm,6年生時23.94±1.24mmであった。高学年児童の眼軸長の変化は,1年目+0.23±0.17mm,2年目+0.20±0.15mmであった。

結論:高学年では眼軸の伸長は鈍化し,ばらつきは拡大した。

アバンシィTM YP2.2R(NS1)の術後屈折値の経時的変化

著者: 桃﨑加央里 ,   岩切亮 ,   中尾功 ,   江内田寛

ページ範囲:P.1203 - P.1209

要約 目的:新しい眼内レンズ(IOL)のより正確な選択のために術後屈折誤差について検討し,パーソナルA定数を算出する。

対象と方法:対象は2017年2月〜12月の10か月間にアバンシィプリロード1P(YP2.2R:NS1)を使用し,白内障手術を行った32例56眼。眼軸長はUD-6000のAモードで測定した。度数計算式はSRK/T式を使用し,A定数は118.6を用い,目標屈折値を算出した。完全矯正の等価球面度数と,目標屈折値の差を屈折誤差とした。術後1週間,1か月,3か月の各時期における屈折誤差を算出し,3群間に有意差がないか検討した。統計学的解析には,クラスカル・ウォリス検定を用いた。術後各時期における等価球面度数と目標屈折値との間に有意差があるかを検討した。統計学的解析には,ウィルコクソンの符号付順位和検定を用いた。また,術後1か月の値を用いてパーソナルA定数を算出した。

結果:平均眼軸長は23.35±1.0mmであった。NS1の術後屈折誤差平均値(絶対値平均値)は術後1週間−0.43±0.43(0.50±0.35)D,術後1か月−0.41±0.46(0.49±0.37)D,術後3か月−0.36±0.47(0.48±0.34)Dとなり,それぞれ3群間に有意差はなかった。目標屈折値と術後の等価球面度数を比較すると,3群とも有意差をもって近視化していた(すべてp<0.01)。パーソナルA定数は118.28であった。

結論:新しいIOLのより正確な選択を行うためには,推奨A定数を使用し,挿入した場合誤差が生じることもあるため,術後の検証による補正も重要である。

未熟児網膜症の斜視の研究.第2報.瘢痕期分類別斜視発症率と発症時期

著者: 前田亜希子 ,   太刀川貴子 ,   上野里都子 ,   三田哲子 ,   譲原大輔 ,   勝海修 ,   野田徹

ページ範囲:P.1211 - P.1218

要約 目的:出生体重1,500g未満児における未熟児網膜症(ROP)の厚生省瘢痕期分類および3歳時における斜視の発症について検討する。

対象:2009年1月〜2014年12月に東京都立大塚病院新生児集中治療室へ入院した出生体重1,500g未満児478例のうち生存退院した445例中,3歳まで経過観察可能であった248例を対象とした。

方法:445例を瘢痕期分類に基づいて分類した。また,3歳時における斜視発症率および種類,発症時期を瘢痕期分類別(ROP未発症群,瘢痕期1度群,瘢痕期2度群)に検討した。

結果:生存退院した445例における瘢痕期分類は,ROP未発症192例(43.1%),瘢痕期1度233例(52.4%),瘢痕期2度19例(4.3%),瘢痕期5度1例(0.2%)であった。3歳時に受診した248例では,ROP未発症61例(25.0%),瘢痕期1度170例(68.0%),瘢痕期2度16例(6.5%),瘢痕期5度1例(0.4%)であった。瘢痕期5度は光覚(−)で視力・屈折・眼位いずれも測定不能であり,検討から除外した。斜視発症は52/247例(21.1%)であり,ROP未発症群5/61例(8.2%),瘢痕期1度群34/170例(20.0%),瘢痕期2度群13/16例(81.3%)であった。瘢痕期2度群が他の群よりも有意に斜視発症率が高く,内斜視が多かった。瘢痕期2度群では8/13例(61.5%)が1歳未満に斜視を発症しており,これら早期発症例は全例が内斜視であった。

結語:ROP瘢痕期2度群において斜視発症率は高く,フォローアップ中の眼位を含めた視機能管理が重要と考えられた。

連載 今月の話題

細菌性転移性眼内炎—多施設スタディからわかったこと

著者: 戸所大輔

ページ範囲:P.1115 - P.1121

 細菌性転移性眼内炎は,菌血症や肝膿瘍などの重篤な細菌感染が血行性に眼に転移し眼内炎を生じたもので,患者の多くは基礎疾患をもっている。眼科的な診察を行うだけでなく,詳細な問診,体温測定,血液検査を行い,適切な診療科と連携して治療する必要がある。

症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー・術後編20

グレア・ハロー・dysphotopsia

著者: 鳥居秀成

ページ範囲:P.1122 - P.1127

Q 右眼白内障術後に図1のような見え方(耳側の三日月状の部分が視野欠損)を訴える患者が来た場合,何が起こっているのでしょうか? また,どのように対処すればよいのかも教えてください。

眼炎症外来の事件簿・Case13

網膜剝離を伴う視神経乳頭炎

著者: 長谷川英一 ,   園田康平

ページ範囲:P.1128 - P.1131

患者:44歳,男性

主訴:左歪視・視力低下

既往歴:陳旧性脳梗塞

現病歴:3週間前に左眼歪視と霧視を自覚し左側頭部痛もあった。近医眼科を受診し,視神経乳頭黄斑間の網膜浮腫を指摘された。1週間後の再診時には,左視神経乳頭発赤・腫脹も出現し視力低下と中心暗点を認めた。左視神経乳頭血管炎の診断にてステロイド局所投与をされたが改善がみられないため,精査加療目的に当科に紹介され受診となった。

臨床報告

視力低下と眼球偏位を伴ったdacryocystoceleの1例

著者: 常吉沙帆理 ,   大友一義 ,   芝原勇磨 ,   坪田裕喜子 ,   譚雪 ,   間山千尋 ,   田邉樹郎 ,   藤野雄次郎

ページ範囲:P.1135 - P.1140

要約 目的:Dacryocystocele(DCC)が眼窩後方に伸展し,眼球偏位と視力低下をきたした1例の報告。

症例:61歳,女性。20歳台から右急性涙囊炎を繰り返し,抗菌薬投与や自身で涙囊マッサージを行い排膿することで経過観察されていた。受診2か月前から右側の顔貌の変化を周囲に指摘され近医を受診し,精査加療目的で当科を紹介され受診となった。

所見と経過:視力は右(0.6),左(1.2)で,右涙囊部の腫脹と右眼球の上耳側への偏位および突出を認めた。総涙小管は閉塞していた。眼底検査では右眼の眼底後極部に脈絡膜皺襞と脈絡膜血管の拡張を認め,CT検査とMRI検査では右眼窩内,眼球の内下方に囊胞性腫瘤を認めた。右側DCCの診断にて涙囊鼻腔吻合術を施行した。術中所見では内腔から約5mlの白色膿性粘液を排液し,涙囊内の厚い粘膜が内総涙点を覆って閉塞していた。閉塞部組織の病理検査を施行したが,悪性所見は認めなかった。術後も軽度脈絡膜皺襞は残存したが,眼球偏位は早期から改善して右視力は(1.0),通水検査も良好となった。

結論:DCCは良性疾患であるが,眼窩内に伸展した場合に眼球を機械的に圧排して,強い症状を示すことがある。CT所見やMRI所見は他疾患の鑑別と眼球への影響を評価するために有用で,本症例では早期手術により圧迫を解除することで眼球偏位や視力の改善を得ることができた。

今月の表紙

外傷性脈絡膜断裂

著者: 名畑浩昌 ,   中澤満

ページ範囲:P.1114 - P.1114

 症例は44歳,女性。22年前,テニスボールによる眼打撲で左眼視力低下を訴え,近医を受診し,精査加療目的で当院へ紹介となった。その後,現在まで経過をみている症例である。初診時左眼視力は0.06(矯正不能),眼圧は17mmHgであった。

 検眼鏡所見では,両眼の視神経乳頭から放射状の網膜色素線条があった。左眼には視神経乳頭に同心円状の脈絡膜断裂がみられ,断裂部位からは多発する網膜下出血を伴っていた。また,皮膚科にコンサルテーションし,皮膚生検によって弾性線維性仮性黄色腫と診断された。その後は出血も消退し視力も回復したが,脈絡膜新生血管のリスクがあるため定期的にフォローしてきた。撮影画像は,受傷後22年経過したものである。このときの左眼視力は(0.4×−2.25D)であった。眼底は脈絡膜断裂部位が瘢痕化しており,それに伴う網膜萎縮がみられた。

海外留学 不安とFUN・第45回

—パリの空の下で働く・2—就労ビザ切り替えの不安とFUN

著者: 篠島亜里

ページ範囲:P.1132 - P.1133

ビザについて

 3か月を超えてフランスに滞在するためには,必要書類を揃え,フランス大使館とアポイントメントをとり,ビザを取得する必要があります。2016〜2017年にかけてビザの多様化が進み,私は研究者でありながら,PASSEPORT TALENT(パスポート・タラン)という,芸術・文化活動従事者・著名人・有能な青年学位取得者・投資家などに割り当てられるビザ(フランス大使館ホームページより)を取得することができました。その後,数か月が経過した頃に,Tadayoni教授の力添えで幸運にも給与を出してもらえることになりました。

Book Review

図説 医学の歴史

著者: 鈴木晃仁

ページ範囲:P.1210 - P.1210

 坂井建雄先生は多くの医学史研究者が敬愛する存在である。長いこと順大の解剖学の教授であり,解剖学者としての仕事だけではなく,解剖学の歴史を軸とした優れた業績を次々と発表されてきた。チャールズ・オマリーのヴェサリウス研究を『ブリュッセルのアンドレアス・ヴェサリウス1514-1564』(エルゼビア・ジャパン,2001)として翻訳したお仕事や,初期近代の解剖の歴史を検討した『人体観の歴史』(岩波書店,2008)などは,非常に重要な日本語の著作である。その坂井先生が『図説 医学の歴史』を出版した。さまざまな意味で,圧倒的な力と有用性を持つ仕事である。

 坂井先生が打ち立てたのは「図説の」医学の歴史である。英語のタイトルが“The History of Medicine with Numerous Illustrations”であることが象徴している。歴史上のベーシックな事実,それを示す画像,そしてそれらの堅固な事実を整理して並べた一覧表の集大成である。このような画像や図表は全体で650点以上も集められ,一つひとつ丁寧に検討され,非常に見やすい形で表示されている。画像はカラーであり,医学の歴史が持つヒトや動物の活動が感じられる。とりわけ強力なものが,一覧表となった図表の利用である。著名な医師の著作の一覧表,それらの章立ての一覧表,生理学の概念の一覧表,ヨーロッパの薬草園の300年以上にわたる設立年次の一覧表,日本の医学校の設立年次の一覧表など,さまざまな史実が一覧の図表となっている。このような画像と図表の集積は,古代から現代までをつないでいくような効果を持つ。大きな図説プロジェクトに基づく書物は,英語のトータルな医学史の書物でも見たことがない。まさに圧倒的な力と有用性である。

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目次

ページ範囲:P.1110 - P.1111

欧文目次

ページ範囲:P.1112 - P.1113

ことば・ことば・ことば 義眼

ページ範囲:P.1134 - P.1134

 どこかの大学で「語尾が-oonで終わる英単語を5つ以上挙げよ」という問題が出たそうです。3つまでは楽で,soon,moon,noonと出てきますが,その先がちょっと困難です。Afternoonはルール違反なので,もちろん駄目です。Platoon「小隊」はよろしいのですが,中学や高校では教えていません。

 これがもし「pro-ではじまる英単語」ならずっと楽で,医学用語にもあります。だれでも知っているのがprognosis「予後」で,「事前に知る」という意味のギリシャ語prognostikonから来ているそうです。

第37回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1142 - P.1142

べらどんな AMDの原因

著者:

ページ範囲:P.1202 - P.1202

 加齢黄斑変性(AMD)の頻度が増加している。ここ30年前からのことではと思う。

 ずっと以前の日本では,AMDは「珍しい疾患」であった。昭和40年(1965)から7年間,東京の大学病院で眼底外来を開いた。主な眼底疾患はすべて診たつもりであるが,AMDは1件もなかった。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1220 - P.1224

希望掲載欄

ページ範囲:P.1228 - P.1228

アンケート用紙

ページ範囲:P.1230 - P.1230

次号予告

ページ範囲:P.1231 - P.1231

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1232 - P.1232

 臨床眼科9月号をお届けします。今月も連載,臨床報告に第72回日本臨床眼科学会講演集が続きますが,今月号の1つのトピックスに炎症性眼疾患が挙げられます。「今月の話題」では,戸所大輔先生に「細菌性転移性眼内炎」をご執筆いただきました。すでに全身症状を伴って他科から眼科へコンサルトされる場合は比較的診断は容易ですが,もし眼症状が初発で眼科を初診された場合には他のぶどう膜炎との鑑別が重要になるとのご指摘に,「なるほど」と思いました。「眼炎症外来の事件簿」では,長谷川英一先生が「網膜剝離を伴う視神経乳頭炎」を報告されています。臨床像は広範な乳頭炎を伴いますが,バルトネラ感染に伴う猫ひっかき病という診断名が頭に浮かぶかどうかが診断の鍵を握ります。猫ノミからバルトネラに感染した猫や稀に犬の引っ掻き傷や咬み傷からヒトに感染するようですので,その可能性の有無について検索を進める必要性が指摘されています。適切な治療によって非常に良い経過をたどるという点も眼科医の責任たるや重大というところです。もう1つは西村英里先生らの「脈絡膜新生血管を合併した散弾様網脈絡膜炎の1症例」です。この疾患は,RyanとMaumeneeによって1980年のAJOに初めて報告されたもので,欧米では教科書にもよく記載されていますが,本邦ではまだ15例程度しか報告されていない稀な疾患です。脈絡膜新生血管を伴った例は初めてということで,貴重な症例報告だと思います。「この病気は日本人にはみられないのではないか」と高を括っていると見逃してしまう可能性もありますので,注意しておく必要もあるでしょう。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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