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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科74巻12号

2020年11月発行

雑誌目次

特集 ドライアイを極める!

企画にあたって

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.1345 - P.1345

 ドライアイは,日常診療で多くの患者を診療する機会のある疾患であるが,私のように,ただ漠然と患者の主訴を中心に点眼治療を続けている眼科医が多いのではないだろうか? しかし,2019年5月に,眼科では初めてのMinds形式に沿ったよりエビデンスに基づいたドライアイ診療ガイドラインが作成されており,今後は確かな知識と根拠をもってドライアイ患者の診療にあたっていく必要がある。ドライアイ診療ガイドラインは,日本眼科学会のサイトからも無料でダウンロードできるので,ぜひご一読いただきたい。しかし実際のところ,本ガイドラインはかなりの分量があり,今回の特集の総論「ドライアイ診療ガイドラインを読み解く」を事前に読んでいただければ,その理解を助けることできると思う。

 ドライアイの病態を深く理解するために,眼表面の涙液層と角結膜表層上皮の層別診断/層別治療(TFOD/TFOT)を今一度復習して押さえていただきたい。ドライアイは単なる眼不快感だけでなく,視機能低下をきたすことが定量的な検査で裏づけられており,ドライアイの治療が白内障手術後の視機能を左右してしまうことも指摘されている。ドライアイが点眼治療で改善しているにもかかわらず,患者の症状が持続する現象を経験することがある。最近では,この矛盾した現象が神経因性疼痛(アイペイン)として,その病態が明らかになってきている。また,涙液中のガレクチン3濃度とドライアイの重症度に相関関係があるといった新たな分子メカニズムが解明されたことなど,ドライアイの病態の最新知見も特集に盛り込んだ。

【総論】

ドライアイ診療ガイドラインを読み解く

著者: 山田昌和

ページ範囲:P.1346 - P.1351

●Minds形式で作られた眼科領域で初めての診療ガイドラインである。

●ガイドラインは最先端を呈示するものではなく,その時点で臨床的に確からしいもの,実臨床で使われているものの総まとめである。

●ドライアイの疾患概念の変化とドライアイのコアメカニズム,病因別分類の考え方などのトピックスを知ることができる。

【病態理解のために】

TFOD/TFOT

著者: 加藤弘明

ページ範囲:P.1352 - P.1359

●TFOD/TFOTは,涙液層の動態とブレイクアップパターンを観察することで,ドライアイのサブタイプを診断して治療法を決める考え方である。

●涙液層の形成過程には2段階ある。

●7種類のブレイクアップパターンを判別することで,ドライアイの病態をより精細に評価できる。

アイペインとドライアイ

著者: 山西竜太郎 ,   内野美樹 ,   川島素子

ページ範囲:P.1360 - P.1365

●ドライアイが慢性化すると治療に難渋する。

●DEWSⅡのドライアイの定義に「知覚異常」が追加された。

●角膜神経に限局した痛みを中枢に広げないためには早期に痛みを取り除くことが大切である。

ドライアイによる視機能低下

著者: 高静花

ページ範囲:P.1366 - P.1374

●ドライアイの視機能変化は従来の視力検査では検出できない。

●ドライアイでは,涙液安定性の低下,角膜上皮障害により視機能低下を生じる。

●ドライアイは術前検査,術後成績に影響を与える。

ドライアイにおける涙液中ガレクチン3の変化

著者: 内野裕一

ページ範囲:P.1376 - P.1381

●眼表面には膜型ムチンが発現しており,水濡れ性に寄与する。

●眼表面のグライコカリックスバリアは,主にMUC16とガレクチン3によって構築されている。

●ドライアイにおけるグライコカリックスバリアの破綻は,涙液中ガレクチン3濃度で評価できる可能性がある。

【ドライアイのリスクファクター】

瞬目摩擦とドライアイ

著者: 山口昌彦

ページ範囲:P.1382 - P.1390

●瞬目により眼表面に働く摩擦(眼表面摩擦)は,ドライアイや眼瞼疾患によって亢進する。

●眼表面摩擦関連疾患には,上輪部角結膜炎,lid-wiper epitheliopathy,糸状角膜炎などがある。

●治療では,摩擦を亢進させる原因を的確に見極め,除去あるいは軽減させることがポイントになる。

炎症とドライアイ

著者: 高橋浩

ページ範囲:P.1392 - P.1397

●炎症を重視する米国流の考え方を紹介する。

●ドライアイでは涙液の浸透圧上昇が起こる。

●涙液浸透圧上昇により眼表面細胞に炎症が起こる。

●ドライアイに対し抗炎症薬は有効である。

全身疾患とドライアイ

著者: 細谷友雅

ページ範囲:P.1398 - P.1403

●全身疾患が隠れている可能性を疑って,十分な問診を。

●結膜の変化にも注目。結膜上皮障害,瞼球癒着を見逃してはいけない。

●他科との連携を図り,患者の全身状態を把握しよう。

結膜弛緩症とドライアイ

著者: 小室青

ページ範囲:P.1404 - P.1408

●結膜弛緩症は,瞬目時の摩擦の増強,涙液安定性の低下,涙液クリアランスの障害,結膜表面の乾燥など,ドライアイのリスクファクターとなり,多彩な症状を示す。

●診断には,フルオレセイン染色で涙液を染色後,瞬目させながら涙液メニスカスおよび弛緩結膜の観察を行い,涙液安定性や角結膜上皮障害も評価する。

●まずドライアイ治療に準じた点眼治療を行い,症状が改善しない場合には手術治療を考慮する。

マイボーム腺機能不全とドライアイ

著者: 天野史郎

ページ範囲:P.1409 - P.1413

●マイボーム腺機能不全(MGD)は瞼の疾患であるが,涙液の油層成分が減少することで涙液安定性低下が引き起こされ,ドライアイの原因となる。

●MGDの診断のポイントは,①自覚症状,②マイボーム腺開口部周辺の異常所見,③マイボーム腺開口部閉塞所見の3つである。

●MGDは50歳以上のドライアイの原因の40%程度を占める。

VDTとドライアイ

著者: 内野美樹

ページ範囲:P.1414 - P.1419

●VDT作業者の約2/3がドライアイになっている。

●VDT作業者のドライアイは涙液蒸発型ドライアイが主である。

●VDT作業者でドライアイに罹患している人は労働生産性が有意に低い。

連載 今月の話題

術前,術後抗菌薬点眼はもはや不要なのか?

著者: 松浦一貴

ページ範囲:P.1338 - P.1344

 抗菌薬の乱用による耐性菌の爆発的な増加が懸念され,2015年5月の世界保健機関(WHO)総会では薬剤耐性菌に対するグローバル・アクション・プランが採択された。加盟国は2年以内に自国の行動計画を策定することを要求され,本邦でも翌年4月に抗菌薬減少の目標値が設定された。今後は,明確なエビデンスをもたない抗菌薬投与に厳しい目が向けられる。これからの白内障術者は,予防的抗菌薬を減量したうえで感染リスクを減らさねばならない。

Clinical Challenge・8

移植片対宿主病に伴う重症ドライアイに涙囊炎を併発した症例

著者: 佐々木次壽 ,   竹森勇人

ページ範囲:P.1335 - P.1337

症例

患者:48歳,女性

主訴:両眼眼痛,両眼脂

既往歴:左弱視

家族歴:特記すべき事項なし

現病歴:2015年に慢性骨髄性白血病急性転化に対する骨髄移植前の眼科精査目的にて受診した。BUT両眼とも3〜4秒,両眼鼻下側に点状表層角膜炎(superficial punctate keratopathy:SPK)+の軽度ドライアイを認めた以外は異常所見を認めなかった。2016年に寛解状態となった。2018年5月より両眼脂を自覚し,慢性移植片対宿主病(chronic graft versus host disease:cGVHD)の精査目的で再診した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・2

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児の近視の遺伝子

著者: 山城健児

ページ範囲:P.1420 - P.1423

◆小児の近視は将来的な病的近視による失明のリスクがある。

◆近視の遺伝子と病的近視の遺伝子が同じかどうかはまだ不明である。

◆CCDC102Bが病的近視の感受性遺伝子であることが最近発見された。

臨床報告

鈍的外傷で剝離した角膜深層側実質に感染病巣を認めた1例

著者: 山藤香子 ,   芳原直也 ,   尾辻太 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1427 - P.1432

要約 背景:鈍的眼外傷による眼外傷の程度は,鈍的外力の強さ,受傷眼の状態によってさまざまである。

目的:鈍的外傷で広範囲に剝離した角膜の深層側実質に,感染病巣を認めた1例を経験したので報告する。

症例と所見:症例は77歳,男性。20XX年3月,自宅で作業中にペンチが眼に飛んできて右眼眼球を打撲し,近医で経過観察されていたが所見の改善はなく,5日後に鹿児島大学病院へ紹介され初診となった。初診時右眼視力(0.05)で,角膜の上方約半分に実質深層まで及ぶ角膜実質の剝離を認めた。明らかな穿孔はなかったが,剝離した角膜深層側実質に浸潤病巣を認め,前房蓄膿を伴う前房内炎症も認めた。剝離した角膜の上皮には明らかな欠損は認めなかった。原因菌同定には至らず,前医から開始されていたセフメノキシム点眼およびレボフロキサシン点眼の頻回点眼と剝離した角膜深層側実質の洗浄を数回行ったが,改善は乏しかった。30日後,剝離した角膜深層側実質の浸潤病巣を広範囲に可能な限り搔爬し,洗浄した。その後の検鏡でグラム陽性球菌が確認でき,治療を継続したところ,感染は次第に終息し,最終的に右眼視力(0.6)まで改善した。

結論:本症例のように剝離した角膜の深層側実質に感染病巣がある場合,積極的な病巣の搔爬が有用である可能性が示された。

OCT Angiographyを用いた強度近視眼における緑内障判定の有用性

著者: 楯日出雄 ,   谷口良輔 ,   山田一樹 ,   舘奈保子

ページ範囲:P.1433 - P.1442

要約 目的:従来の網膜神経節細胞複合体(GCC)解析や乳頭周囲網膜神経線維層(cpRNFL)解析で評価が難しい強度近視眼にOCT Angiography(OCTA)を用いた緑内障判定の有用性を検討した。

対象と方法:当院を受診した眼軸長26mm以上かつ屈折値−6.0Dを超える強度近視眼で,GCCおよびcpRNFL解析の上下半mapで差がない,もしくは判定不能例であった緑内障疑い29例49眼を対象とした。方法は,AngioVueTMを用いて4.5×4.5mmで乳頭周囲を撮影し,取得画像のうち放射状乳頭周囲毛細血管(radial peripapillary capillaries:RPC)と脈絡膜(choroid:Ch)の2層からmicrovasculature dropout(MVD)所見の有無を質的判定した。次に乳頭中心を水平に2分割し,上方・下方いずれかにMVDを伴う場合,ハンフリー24-2 SITA-Standardで病変側に対応する緑内障性視野異常を認める割合と異常所見なしの場合,正常視野の割合を算出した。

結果:OCTAによる質的判定は,分類①RPC MVD+/Ch MVD+;19眼,分類②RPC MVD+/Ch MVD−;12眼,分類③構造異常なし;18眼の3群に分類した。MVD所見を伴う分類①と分類②は,緑内障性視野異常を全例で認め,分類③は全例正常であった。

結論:従来の緑内障解析で評価が難しい強度近視眼の緑内障判定にOCTAが診断の一助になりうる。

加齢に関連した斜視の非典型例4例

著者: 大平明彦

ページ範囲:P.1443 - P.1448

要約 目的:加齢に関連して発症した斜視(加齢関連斜視)の非典型例を通して,本疾患の病態を考察する。

症例:側臥位にて複視を自覚する高齢者3症例と,外方回旋斜視のため精確な両眼性融像はできていないが複視を自覚しない1症例。

所見:側臥位で複視を自覚した76,83,85歳の3症例には,1〜3°の上下斜位があった。上斜位側に頭部を傾斜すると複視が出現したが,他の注視・頭位状態では複視は自覚していない。外方回旋斜視の症例は81歳。自覚的外方回旋偏位角は右6°,左4°であり,眼底写真から測定した他覚的回旋偏位角は両眼とも19°であった。比較的良好な近見立体視を保っているが,Bagolini線条レンズで周辺視野は融像できていないことがわかった。

結論:高齢者の小角度上下斜位患者には,頭部傾斜時のみ複視を自覚する例がある。高齢者の純粋回旋斜視患者は複視を自覚しないであろう。

硝子体内鉄片異物を経前房的に摘出した3例

著者: 長谷川綾華 ,   清水啓史 ,   野田航介 ,   廣岡季里子 ,   柴田有紀子 ,   石田晋

ページ範囲:P.1449 - P.1454

要約 目的:硝子体内鉄片異物に対して,術前に画像検査を用いてその径を計測し,強角膜創から経前房的に摘出した3症例を経験したので報告する。

症例:症例は43〜74歳。全例男性で,左眼球内に鉄片が飛入して受傷していた。症例1と2は前医受診時に結膜裂創は確認されないものの硝子体出血を認めており,その後に硝子体出血が吸収されてから眼球内の鉄片が確認されて当科へ紹介となった。症例3は受傷同日に結膜裂創と眼内組織の脱出に対して前医で強膜縫合術が施行されたが,網膜剝離が疑われたため受傷3日後に当科へ紹介となった。

所見:受傷眼の初診時矯正視力は,症例1は0.4,症例2は1.2,症例3は手動弁。鉄片サイズは光干渉断層計を用いて計測した症例1と2では約2×2mm,CTを用いた症例3では長径が約10mmであった。3症例とも経毛様体扁平部硝子体切除術を施行し,水晶体再建術を併施した。症例1と2は水晶体再建術で作成した強角膜切開創,症例3は鉄片サイズが大きかったため作成したフラウン切開創(8mm)を使用して,計画的後囊切開部から経前房的に鉄片を摘出した。術後矯正視力は,0.8〜1.2と良好であった。

結論:眼内鉄片異物症例に対して,異物の大きさを術前に計測して適切な強角膜創を作成することで低侵襲な眼内鉄片摘出が可能であった。

海外留学 不安とFUN・第58回

ボストン・マサチューセッツへ行く!・2

著者: 中川迅

ページ範囲:P.1424 - P.1425

ボストンという地

 ボストンはアメリカの北東部に位置し,日本から直行便で14時間,決して近くはない場所である。緯度は北海道の室蘭市と同程度に位置し,寒い。最初は寒いのが大の苦手であったので恐怖を感じていた。寒いのは予想どおりであった一方,歴史が古い地であり,歩くと風情のある教会や建築物,美しいレンガ調の町並みを眺めることができ,また治安も良く安全である。

 ボストンには日本人が多い。主にはハーバード大学,MITという世界レベルで優秀な施設があり,臨床医,研究者,大学院生などとして留学してきている。MBAやMPHなどの資格を取りに来ているというパターンもある。街へ行けば日本人と遭遇する確率は高く,勉強会,スポーツや趣味の会など数々の日本人のコミュニティが存在するので,こちらに来ても日本から遠のく感覚はなく,困ったことなども相談ができるため心強い。日本人がある一定のサイクルで循環しているため,住居や家具の引き継ぎもスムーズで,私も数々の恩恵を日本人コミュニティのつながりで受けることができた。

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目次

ページ範囲:P.1330 - P.1331

欧文目次

ページ範囲:P.1332 - P.1332

べらどんな Bruch膜

著者:

ページ範囲:P.1432 - P.1432

 眼科に入局したころ,上野駅のすぐ北に尾久(おぐ)という駅があった。

 これを覚えているのは,そこに列車区があったからで,東北本線や常磐線を来た車輛が折り返し,休んでいたからである。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1455 - P.1457

アンケート用紙

ページ範囲:P.1462 - P.1462

次号予告

ページ範囲:P.1463 - P.1463

あとがき

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.1464 - P.1464

 本年度から新しい編集委員の一人として参加させていただいております。歴史ある「臨床眼科」の編集の仕事に携われることを大変光栄に思います。一生懸命頑張りますので,皆様,どうぞよろしくお願いいたします。

 「臨床眼科」2020年11月号をお届けいたします。本号の特集は,「ドライアイを極める!」です。ドライアイ診療および研究に関して日本は世界をリードしており,多くの日本人研究者が第一線で活躍しています。以前よりわが国から提唱されてきた涙液層の不安定化を軸に置いた疾患の考え方は,TFOD/TFOTといった最先端の診断・治療につながっています。2019年にはドライアイ診療ガイドラインが作成され,わが国のドライアイ診療はますます盛んになっています。しかしながら,ドライアイと神経因性疼痛との関連など未解決な部分もあり,これからの研究の発展が期待されます。今回の特集を読んでいただければ,ドライアイ診療および研究の最先端に触れることができると思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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