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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科74巻13号

2020年12月発行

雑誌目次

特集 黄斑円孔/偽円孔手術を極める!

企画にあたって

著者: 寺﨑浩子

ページ範囲:P.1485 - P.1485

 黄斑円孔ならびに黄斑偽円孔または分層黄斑円孔は,硝子体手術の対象となる頻度の高い疾患である。近年の画像診断の進歩により,中心窩付近の網膜構造が詳細に分離して観察されるようになり,新たな病因病態が解明されてきた。手術をするものとしては,その病態をよく知ったうえで治療することが,より良好な解剖学的,また機能的成果を得ることにつながるものと思う。

 本特集においては,最近の画像診断の進歩が大きく寄与している3つの病態,すなわち,強度近視眼の牽引黄斑症,分層黄斑円孔・黄斑偽円孔,外傷性黄斑円孔を解説として御執筆いただいた。そのなかでは新しい術式の評価についても触れられ,強度近視眼で近年行われている,内境界膜(ILM)のfovea non peeling法の評価についても述べられている。次には,分層黄斑円孔と黄斑偽円孔の新しい定義が提唱されているが,その両者の違いについてのわかりやすい説明で読者の先生方も納得できるであろう。さらに,外傷性黄斑円孔では自然閉鎖の可能性と手術の適応時期について多数の症例が提示されている。

【黄斑円孔・偽円孔の病因病態について】

特発性黄斑円孔

著者: 寺﨑寛人 ,   山下敏史

ページ範囲:P.1486 - P.1490

●特発性黄斑円孔は65歳以上の女性に好発する網膜硝子体界面症候群の1つである。

●光干渉断層計の進化により特発性黄斑円孔の病態が明らかになった。

●後部硝子体剝離の発生機序を理解することが特発性黄斑円孔の病態理解に重要である。

強度近視に伴うもの

著者: 﨑元晋 ,   生野恭司

ページ範囲:P.1491 - P.1497

●黄斑円孔の前段階として,網膜分離,中心窩剝離が重要であり,黄斑円孔網膜剝離となると円孔閉鎖は難治である。

●上記以外に,黄斑上膜ないしは網膜分離を合併し,分層黄斑円孔を経て,全層円孔に進展する病型も存在する。

●強度近視眼における手術では,術後黄斑円孔に対しても留意が必要である。

分層黄斑円孔・黄斑偽円孔

著者: 的場亮 ,   森實祐基

ページ範囲:P.1498 - P.1504

●牽引型分層黄斑円孔と黄斑偽円孔の病態は黄斑前膜による網膜牽引である。

●変性型分層黄斑円孔の病態における網膜牽引の関与は低い。

●2020年に分層黄斑円孔と黄斑偽円孔の新しい定義が提唱された。

外傷性黄斑円孔

著者: 井上真

ページ範囲:P.1505 - P.1509

●外傷性黄斑円孔は外力による眼球の変形によって生じる。

●脈絡膜破裂,網膜色素上皮萎縮,外傷性白内障,水晶体脱臼,続発性緑内障,網膜剝離を合併することがある。

●外傷性黄斑円孔は1〜3か月で自然閉鎖することがある。

【手術適応と基本手技】

特発性黄斑円孔に対する硝子体手術

著者: 厚東隆志

ページ範囲:P.1510 - P.1515

●Inverted ILM flap法など手術手技の向上に伴い,stageを問わず手術適応となった。

●後部硝子体未剝離の症例が大半であり,医原性裂孔の合併なども生じやすい。定型的な手術ではあるが丁寧な手術手技が求められる。

●フレックスループや自分に合った鑷子の選択など,器具の選択にも気を配るとよい。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月)。

強度近視性黄斑円孔網膜剝離の手術適応と手術方法

著者: 柿木雅志

ページ範囲:P.1516 - P.1522

●手術計画と準備を的確に行う。

●初回手術は硝子体手術,再手術は硝子体手術+強膜短縮術を施行する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月)。

黄斑偽円孔・分層黄斑円孔

著者: 馬場隆之

ページ範囲:P.1523 - P.1527

●黄斑偽円孔では視力の低下は緩徐であるが,手術により視力改善する症例が多い。

●分層黄斑円孔では,tractional typeが主に手術の適応となる。

●Degenerative typeの分層黄斑円孔でも手術により視力は多少改善することが多いが,視力改善が得られない可能性も説明する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月)。

外傷性黄斑円孔

著者: 鈴木幸彦

ページ範囲:P.1528 - P.1534

●外傷性黄斑円孔はスポーツなどの鈍的眼外傷によるものが多く,若年者が多いという特徴がある。網膜振盪症などの網膜損傷が視力予後にかかわる場合もある。

●約10〜40%で発症早期に自然閉鎖するといわれているが,円孔径が大きい例・円孔周囲に囊胞形成を伴う例では自然閉鎖しにくいと考えられる。

●硝子体手術をする場合は,硝子体剝離を確実に作製し,内境界膜剝離とガス・タンポナーデによって比較的高率に復位が得られる。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月)。

【合併症と難治例】

合併症と予防

著者: 秋山英雄

ページ範囲:P.1535 - P.1539

●術後視野障害の原因はさまざまであるが,液空気置換によるもの,生体染色によるもの,内境界膜剝離によるもの,光傷害によるものは予防が可能である。

●低侵襲硝子体手術においては,結膜常在菌の迷入などによる眼内炎の発症に注意が必要である。

合併症に対する処理

著者: 國方彦志

ページ範囲:P.1540 - P.1546

●黄斑円孔の術後非閉鎖には,まずはガス注入を試みる。

●ガス注入後にも円孔閉鎖が得られない場合は,追加手術を行う。

●術後の裂孔原性網膜剝離には早期の追加手術を行う。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月)。

ケース・レポート 難治例に対する手術

術前リスク評価が重要であった近視性牽引黄斑症の2症例

著者: 武内潤

ページ範囲:P.1547 - P.1552

●近視性牽引黄斑症の術後合併症として黄斑円孔や黄斑円孔網膜剝離がある。

●手術を行う前には術後合併症のリスク評価を詳細に行うことが重要である。

●高リスク例に対しては手術適応を適切に判断するとともに,手術を行う際には必要な予防策を講じる必要がある。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年12月)。

近視性牽引黄斑症に対しFSIP施行後に黄斑円孔網膜剝離をきたした1例

著者: 石田友香

ページ範囲:P.1553 - P.1557

●近視性牽引性黄斑症に対するfovea-sparing internal limiting membrane(FSIP)は,術後黄斑円孔の予防に有用である。

●しかし,なかにはFSIPを用いても術後黄斑円孔をきたす症例もあり注意を要する。

連載 今月の話題

遺伝性網膜疾患に対する遺伝子治療

著者: 藤波芳 ,   藤波優 ,   ,   ,   鈴木泰賢 ,   ,  

ページ範囲:P.1472 - P.1483

 遺伝性網膜疾患(IRD)は,現在先進国最大の失明原因となっている。わが国では,根本治療アプローチが存在せず,IRDに対する正確な診断および新規根本治療の導入が急務である。このような状況のなか,近年では欧米を中心としたIRDに対する治療法の開発が目覚ましい。本稿では,IRDの基礎知識,遺伝子治療・その他の治療,診断から治療へのアプローチについて,最新の知見を含めて紹介する。

Clinical Challenge・9

両眼に同時発症した角膜浮腫の症例

著者: 鈴木崇

ページ範囲:P.1469 - P.1471

症例

患者:77歳,女性

主訴:急な両眼の視力低下,疼痛

既往歴:眼科既往として,10年前に両眼とも白内障手術を施行している。また,全身既往症として,糖尿病,パーキンソン病の治療を受けている。

家族歴:特記すべき事項なし

現病歴:20XX年10月に起床時に急に両眼の視力低下,疼痛を自覚した。しばらく,市販薬で経過観察をしたが症状が改善しないため,当院を受診した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・3

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児の近視の環境因子

著者: 五十嵐多恵

ページ範囲:P.1558 - P.1565

◆エビデンスに基づく有効な近視予防対策が,東アジア・東南アジアの先進諸国では迅速に講じられている。

◆国際基準に基づいた適切な視環境整備が日本で推進されるためには,エビデンスに基づく正しい近視の予防法を理解する必要がある。

◆クラウクリップや電子機器に内蔵されたアプリなどの客観的なデータを用いた研究から,近視予防のための視環境整備への理解が深まることが期待されている。

文庫の窓から

『大同類聚方』

著者: 安部郁子

ページ範囲:P.1585 - P.1588

 この「文庫の窓から」では,2007年より岡西為人の『中国醫書本草考』の案内に従って所蔵の中国医書の紹介をしてきた。現代中医学に通じる医学のできあがった金元時代の医書の紹介をし終わったところで,今回からはわが国の医書について紹介していこうと思う。初回は,平安時代に書かれた『大同類聚方』(808)を取り上げる。

 天保2年(1831)に刊行された『奇魂』(くしみたま)1)(文政7年 丹波頼理:序)の一之巻の「総論」に,佐藤方定(のりさだ)はわが国に古くから伝わる医術や医薬について,次のように述べて「神典(カミノミフミ)」を尊ぶべきであると主張する。

臨床報告

サイトメガロウイルス網膜炎20例27眼の臨床像の検討

著者: 蓮見由紀子 ,   石原麻美 ,   澁谷悦子 ,   近藤由希帆 ,   河野滋 ,   木村育子 ,   竹内正樹 ,   山根敬浩 ,   水木信久

ページ範囲:P.1569 - P.1575

要約 目的:サイトメガロウイルス網膜炎(CMVR)は通常,後天性免疫不全症候群(AIDS)や免疫抑制療法中の免疫低下状態の患者に発症する。CMVRの晩期合併症のうち網膜剝離は重篤な視機能障害の原因となる。今回,横浜市立大学附属病院において診断されたCMVR 20例の臨床像を検討した。

方法:2009〜2018年にCMVRと診断された20症例27眼につき,患者背景,基礎疾患,眼合併症,治療,視力予後などを診療録より後ろ向きに調査した。

結果:発症時平均年齢は60.2±10.1歳,男女比は13:7。PCRにより14例(70%)にCMVゲノムが検出された。HIV/AIDS 3例(15%)のほか,悪性リンパ腫,関節リウマチ,白血病などに対する免疫抑制療法中の患者に発症した。眼合併症として裂孔原性網膜剝離7例8眼(29.6%),硝子体出血4例4眼(14.8%),網膜裂孔2例2眼と白内障の進行2例2眼(いずれも7.4%)がみられた。治療として,15例に抗ウイルス薬の全身投与,4例に抗ウイルス薬の硝子体注射,7例8眼に硝子体手術,2例2眼に網膜光凝固術を行った。27眼中9眼(33.3%)が最終視力0.1未満であり,網膜剝離合併症例で視力予後が悪かった。

結論:CMVR後の網膜剝離を予防するためには網膜炎に対する適切な治療に加え,定期的な眼底検査を施行することが重要である。

線維柱帯切除術後の視神経乳頭血流波形と構造変化の関連

著者: 髙橋由衣 ,   榎本暢子 ,   石田恭子 ,   内匠哲郎 ,   正井智子 ,   安樂礼子 ,   富田剛司

ページ範囲:P.1576 - P.1584

要約 目的:開放隅角緑内障における線維柱帯切除術(TLE)前後の視神経乳頭血流波形と構造変化の関連を検討した。

対象と方法:術後3か月の時点で,眼圧下降率20%以上の28例28眼を対象とした。術前および術後3か月にスペクトラルドメイン光干渉断層計を用いてブルッフ膜開口端から内境界膜までの最小リム幅(BMO-MRW),乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFLT)を,レーザースペックルフローグラフィを用いて視神経乳頭血流の組織領域(MBRT)と血流波形を測定した。術前後の変化はウィルコクソンの符号付順位検定,BMO-MRW,RNFLTと血流,血流波形の関連は重回帰分析にて検討した。

結果:眼圧下降に伴い眼軸長は有意に減少し,眼灌流圧は有意に増加した(すべてp<0.05)。BMO-MRWは有意に増加した(p=0.001)がRNFLTは変化を認めなかった(p=0.294)。MBRTは有意な変化はなく,血流波形のfluctuation(p=0.020),flow acceleration index(FAI)(p=0.002)は有意に減少した。重回帰分析ではBMO-MRW変化率に対しresistivity index変化率が(p=0.045),RNFLT変化率に対しFAI変化率が有意な因子となった(p=0.037)。

結論:TLE術前後で視神経乳頭血流波形と構造は関連を認めた。

海外留学 不安とFUN・第59回

ボストン・マサチューセッツへ行く!・3

著者: 中川迅

ページ範囲:P.1566 - P.1567

ラボで感じた他国と日本との違い

 ラボで始めた研究はこれまで私が長年行ってきた感染症関連の研究ではなく,全く新たな学問を1から始めた状態であった。新しい知識を英語で習得するのは大変で,いまだに苦労している。最も辛いのは,あることに対して皆で議論している際に,話している内容が聞き取れないときだ。議論が白熱すればするほど会話も早くなり,よりわからなくなる。また,私と同じように他国からのラボのメンバーは,私と同じく母国語ではない第2か国語として英語を話している,にもかかわらず圧倒的に上手い。そういった現実と向き合い,自分の不甲斐なさを,悔しさを日々感じながら過ごしていた。

 現在は,少しずつではあるが,最初の頃に比べれば耳が慣れてきたと感じている。言い回しも,周囲の人の言い方を真似して取り入れていき,少しずつ進歩している。こういったエピソードはボストンの日本人研究者仲間と話すと,皆大体同じような経験をしており,やはり日本人の多くはさほど英語が得意ではないということ,裏を返せば英語が苦手でも留学に来ている人がそれなりにいる,ということを知ることができた。

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目次

ページ範囲:P.1466 - P.1467

欧文目次

ページ範囲:P.1468 - P.1468

べらどんな 戦争と疾患

著者:

ページ範囲:P.1522 - P.1522

 戦争をきっかけとして流行病が世界的に広がることがある。これにはいくつもの型があるとみている。もともとは地方病であったものが,戦争によって一挙に広がるのがその代表である。

 いわゆるスペイン風邪もそれであった。第一次世界大戦(1914〜1918)は,最初はドイツとフランスの戦いであったが,のちにはアメリカやロシアをも含む世界大戦になった。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1589 - P.1591

アンケート用紙

ページ範囲:P.1596 - P.1596

次号予告

ページ範囲:P.1597 - P.1597

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.1598 - P.1598

 2020年は世界中が新型コロナウイルスに振り回された1年でした。歴史に残る年だったと思います。日本でも2月に入ったあたりから警戒が出てきて,眼科関連ではまず角膜カンファランスがWeb開催となり,そして日本眼科学会総会もWeb開催が決まりました。大学,病院,診療所の眼科医師,眼科研究者もそれぞれ新型コロナウイルス感染および感染疑い患者の対応に追われ,診療でも教育でも研究でも大いに影響を受けました。その後の学会や講演会も次々と中止,延期,Web開催などに変更されています。

 現在も感染は収まらず,ヨーロッパではロックダウンが再開され,大統領選挙が行われたアメリカでも感染者が増加しています。日本でも東京こそやや下火になりましたが,大阪や北海道など各地で感染者の増加が報道されています。そのようななかで学会,講演会を対面で行うことはなかなか難しく,現時点でも臨床眼科学会,日本緑内障学会と日本神経眼科学会総会が同時にWeb開催されており,今後も年内だけでも日本産業・労働・交通眼科学会,日本網膜硝子体学会総会,日本眼科AI学会総会,日本眼科アレルギー学会学術集会,日本糖尿病合併症学会・日本糖尿病眼学会総会のWeb開催が続きます。海外に行くことも実質不可能になっていますが,AAOのWeb開催や各国際学会によるWebinarでも講演会が続々と開催されています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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