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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科74巻2号

2020年02月発行

雑誌目次

特集 日常臨床でのロービジョンケアの勘どころ

企画にあたって

著者: 中澤満

ページ範囲:P.133 - P.133

 新元号に改まって2年目を迎えた今年,平成時代の30年を振り返って,眼科医療の進歩だけを取り上げても刮目すべきものが多々みられます。特に各種眼疾患に対する画像診断や治療法には格段の進歩がみられ,平成初期には全く予想されていなかった診断法や薬物治療法,そして手術治療法が開発されて実践されてきました。しかし,それらの進歩によってもなお,有効な治療法が見いだされていない疾患や,視覚障害という後遺症を残してしまう患者はいまだ数多いのが現状です。特に平成12年の日本ロービジョン学会の設立を契機として,視覚障害を抱えながら社会生活を送ることを余儀なくされている患者の診療も眼科医療が積極的に担当するべき大きな分野であるとして日常臨床を担う眼科医の間でも認識されてきています。しかし,ロービジョンケアと一口に言っても,その実践のノウハウはこれまで眼科医が研修を積み上げてきた眼科医療の特に治療的側面とはやや趣を異にしているため,主として眼科治療のために多忙な日々を送る臨床眼科医にとっては,その必要性は認識しつつも実際には扱いにくい分野であることも否定できません。

 このような理想と現実との乖離を認識しつつ,ロービジョンケアの需要に少しでも眼科医が応えられるような社会を実現するためには,日本中の眼科医が患者に提供できる「引き出し」の数を少しでも増やす努力をし続けることが求められるのではないかと思われます。単なる情報提供であっても,それを契機に患者がロービジョンケアの存在に気づき,自ら積極的にさまざまな制度や補助具を利用する方向へと動き出せる例も経験されます。その「引き出し」にはどのような種類があるのか,その現時点におけるスタンダードをタイムリーな「勘どころ」として一覧するために今回の特集は企画されました。

「ロービジョン難民」を作らないために

著者: 加藤聡

ページ範囲:P.134 - P.138

●視覚障害による身体障害者手帳取得の基準を熟知しておくことは,指定医のみならず全眼科医に必要である。

●都道府県ごとにロービジョンケアネットワークが構築されつつある。

●患者がどこに住んでいようとロービジョンケアを受けることができるようにする必要がある。

●視覚障害者を医療機関だけでなく,さまざまな組織,機関と連携させることが全眼科医に求められている。

ロービジョンケアの必要性をいかに認識するか—スタートポイントの勘どころ

著者: 吉田雅子

ページ範囲:P.140 - P.147

●ロービジョン患者の日常生活困難を知るためには暮らしの様子を患者に聞くこと,および疑似体験が役に立つ。

●日常診療がロービジョンケアのスタートラインである。所見から患者の見えにくさや困難を見いだすことを心掛けた診察が肝要である。

●的確なロービジョン視機能評価には,眼科一般検査とは異なるコントラストや照度,視距離の工夫が必要となる。

●チャートや改造検眼鏡は,日常生活空間における見え方を具体的に可視化する手段として有用である。可視化により医療者と患者が見え方を共有し,患者自身の保有視機能理解を容易とする。

ロービジョンケアの実践—初歩から応用まで

著者: 斉之平真弓

ページ範囲:P.148 - P.157

●ロービジョンケアは入門から応用までの3つのステップで実践していく。

●読み書きはハンフリー視野,歩行や移動はゴールドマン視野や両眼開放エスターマンテストで評価する。

●補助具やICT機器の最新情報を入手し情報提供していく。

【疾患ごとの勘どころ】

網膜色素変性のロービジョンケアの勘どころ

著者: 三浦玄

ページ範囲:P.158 - P.164

●網膜色素変性には,夜盲,羞明,求心性視野狭窄などの特徴的な症状があり,それらに対応したロービジョンケアが必要とされる。

●網膜色素変性は遺伝性の難病であり,遺伝相談やメンタルケアも重要である。

●治療法の開発が進んでいるが,いずれの治療法にもロービジョンケアの併施が必要となるため,ロービジョンケアの重要性は今後も高まると考えられる。

緑内障のロービジョンケアの勘どころ

著者: 奈良井章人 ,   川瀬和秀

ページ範囲:P.166 - P.172

●緑内障患者のロービジョンケアにおいては,ニーズの調査をしっかりと行い,適切な補装具や福祉制度,当事者団体についての情報提供を行う必要がある。

●1つの施設でのケアにこだわらず,視覚障害者施設などとの協力体制を構築しておくことが大切である。

●小児緑内障患者は発達遅延を伴う場合もあり,羞明の訴えがなくても早期の遮光および矯正眼鏡の処方を行う必要がある。

●緑内障のロービジョンケアは,病型・病気の違いなどによって多様なニーズが生じるので,それらに対して柔軟に対応していく必要がある。

加齢黄斑変性のロービジョンケアの勘どころ

著者: 陳進志

ページ範囲:P.174 - P.179

●加齢黄斑変性患者の生活は個人差が大きい。

●保有視機能に即するだけでなく,家族や生活環境に応じたケアが必要である。

角膜疾患のロービジョンケアの勘どころ

著者: 新井三樹 ,   小野眞史

ページ範囲:P.180 - P.184

●角膜混濁があっても屈折矯正を行う。

●コントラスト感度の向上が有効なのでiPadなどデジタル機器を利用する。

●羞明の頻度は高い。照明に注意し,遮光眼鏡を考慮する。

●片眼のみの変性でもロービジョンケアが必要になる場合がある。

【生活を守るための勘どころ】

ロービジョン者の自動車運転—眼科医としての勘どころ

著者: 永田竜朗

ページ範囲:P.186 - P.192

●自動車運転免許を更新するうえで必要な視機能の適正基準を把握する。

●ロービジョン者の運転について海外の状況とわが国の現状について述べる。

●ロービジョンケアとしての実際の介入方法について説明する。

社会資源の最大利用

著者: 藤田京子

ページ範囲:P.194 - P.198

●身体障害者手帳は,視力障害・視野障害の認定基準に該当すれば市町村から交付される。

●身体障害者手帳を取得すると,公的に税金の控除,補装具の給付を受けることができる。

●鉄道,バス,通信など民間企業が提供する割引制度がある。

ロービジョンケアと地域連携の利用

著者: 平塚義宗 ,   佐渡一成

ページ範囲:P.200 - P.207

●ロービジョンケア関連情報を必要とする患者に,すべての眼科医が情報を提供できるよう考え出された。

●ロービジョンケアへのアクセス確保に向けて役立つように育てる必要がある。

●眼科医療から福祉へのスムーズな連携促進の取り組みである。

連載 今月の話題

ドライアイと慢性眼疼痛

著者: 山西竜太郎 ,   内野美樹

ページ範囲:P.126 - P.132

 わが国におけるドライアイの患者数は2000万人以上ともいわれており,パソコンやスマートフォンの普及やコンタクトレンズ装用者の増加などによって,その患者数は急増している。治療に難渋するドライアイは慢性眼疼痛(eye pain:アイペイン)の原因となることがあり,本稿では,その分類や治療について考察する。

症例から学ぶ 白内障手術の実践レクチャー・術後編25

白内障術後に生じた眼内レンズ混濁

著者: 松島博之

ページ範囲:P.210 - P.214

Q 白内障手術後しばらく来院されなかった患者さんが,視力低下を主訴に来院されました。細隙灯で観察すると,眼内レンズ(intraocular lens:IOL)が混濁しているように見えます(図1)。どうすればよいでしょうか?

眼炎症外来の事件簿・Case18

緩徐に進行する中心視野異常を自覚する50代女性

著者: 楠原仙太郎

ページ範囲:P.216 - P.220

患者:50代,女性

主訴:左中心視野異常

既往歴:両白内障手術

家族歴:特記事項なし

現病歴:10年前に左眼の視力低下を自覚し,神戸大学医学部附属病院眼科(以下,当科)を紹介され受診となった。両眼ともに黄斑部の網膜色素上皮異常と光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)での網膜外層障害が強く,多局所網膜電図で同部位に一致した応答密度の低下が認められたことから,自己免疫網膜症として副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)内服で加療されていた。経過中に両白内障が進行したため手術が施行されている。ここ2年間はステロイド内服が漸減されており,現在はプレドニゾロン(PSL)8mg/日で経過観察中である。視力検査結果に変化はないが,患者は左眼の中心の見えにくさが徐々に悪化していると訴えていた。

臨床報告

ヒドロキシクロロキン投与前眼科スクリーニングの意義

著者: 齊藤令名 ,   横川直人 ,   吉野幸夫 ,   小川智美 ,   大野明子

ページ範囲:P.225 - P.230

要約 目的:ヒドロキシクロロキン硫酸塩(HCQ)の投与開始前の眼科スクリーニングの意義を検討する。

対象と方法:東京都立多摩総合医療センター(当院)に通院中の全身性エリテマトーデス(SLE)患者で,2010年2月〜2017年3月にHCQ投与開始前の眼科スクリーニングを当院眼科および連携眼科クリニックで受けた全症例を対象とした。院外の眼科で詳細な情報が得られない症例は除外した。後ろ向きに電子カルテより,年齢,性別,身長,体重,HCQ投与開始量,併用薬,矯正視力,眼圧,細隙灯顕微鏡検査,眼底検査,光干渉断層計検査,視野検査,色覚検査の情報を収集した。

結果:対象は210例で,当院眼科161例,連携眼科クリニック49例であり,男性16例,女性194例であった。197例(93.8%)でHCQ投与は開始されたが,13例(6.2%)は開始されず,うち5例(2.4%)はHCQ網膜症の初期の変化を検出しにくい眼状態であったため投与を開始されなかった。SLE網膜症は3例(1.4%)に認めたが,全例でHCQが投与された。

結論:投与開始前の眼科スクリーニングは重要であるが,ほとんどの例で開始が可能であった。

海外留学 不安とFUN・第50回

モントリオールからBon jour !!・1

著者: 畑匡侑

ページ範囲:P.222 - P.223

 私は2018年5月末より,カナダはケベック州モントリオールにあるLabo Sapiehaでポスドクとして研究生活を送っています。

Book Review

蛍光眼底造影ケーススタディ—エキスパートはFA・IA・OCTAをこう読み解く

著者: 髙橋寛二

ページ範囲:P.215 - P.215

 近年,眼底疾患に対してさまざまな原理に基づいた画像検査法が発達してきており,一つの眼底疾患に対して多面的に種々の画像検査を行うことによって,より確かに,そして精密に臨床診断を行うmultimodal imagingが主流となってきている。眼底疾患に対して造影剤を用いて異常を検出する蛍光眼底造影は,フルオレセイン蛍光眼底造影ではおおよそ60年,インドシアニングリーン蛍光眼底造影では約40年の歴史を持つ画像検査であるが,これらの造影は,現在まで実に多くの眼底疾患の疾患概念の確立や病態解明,治療評価に深く寄与し,眼底画像診断のgold standardとしての歴史を誇ってきた。しかし近年,精度の高い光干渉断層計(OCT)や光干渉断層血管撮影(OCT angiography)をはじめとする新しい画像診断に目を奪われ,蛍光眼底造影の読影の系統的な学習はなおざりにされる傾向がある。

 本書では,蛍光眼底造影の基礎が学べる総論に続き,25項目の疾患・病態について,「point」,「疾患の概要」,「ケースで学ぶ所見の読み方」,「押さえておきたい読影ポイント」,「バリエーションとピットフォール」の6つの面から蛍光眼底造影の読影ポイントと知識がエキスパートの筆者の先生方によって要領よくまとめられている。呈示症例とその造影写真,その他の画像検査写真は全て文句のつけようがない典型的で綺麗な画像である。このテキストを通読することによって,見事な写真と解説を基に,極めて実践的な形で蛍光眼底造影の知識を自然に学ぶことができる。さらにかなりの項目では,眼底自発蛍光や最新のOCT angiographyの画像も解説の中に組み入れられており,multimodal imagingの観点から病態の新しい解釈を学ぶこともできる。

図説 医学の歴史

著者: 北村聖

ページ範囲:P.224 - P.224

 同級生の坂井建雄教授が2年余りの歳月をかけて『図説 医学の歴史』(医学書院)という渾身の一冊を上梓した。坂井氏の本業は解剖学である。学生時代から解剖学教室に入りびたりの生粋の解剖学者である。卒業後,それぞれの道に専念し接点があまりなかったが,再度会合したのが医学史の分野であった。聞くところによると,ヴェサリウスの解剖学から歴史に興味を持ったそうであるが,私が読んだ「魯迅と藤野厳九郎博士の時代の解剖学講義」の研究は秀逸であった。2012年に坂井博士の編集による『日本医学教育史』(東北大学出版会)が出版されて以来,より親しくさせていただいている。坂井博士は恩師養老孟司先生と同様,博学であると同時に,好奇心に満ちている。自分の知りたいことを調べて書籍化していると感じる。

 さて,本書は表題が示している通り写真や図版が多い。特に古典の図版の引用が多いが,驚くなかれ,その多くは坂井博士自身が所有されている書籍からの引用である。2次文献ではなく,原則原典に当たるという姿勢は全編を貫く理念であり,それが読む者を圧倒する。まさしく「膨大な原典資料の解読による画期的な医学史(本書の帯)」である。また,史跡の写真も坂井博士自らが撮影したものが多く,医学史の現場にも足を運んだことがよくわかる。また,書中に「医学史上の人と場所」というコラムが挿入されており,オアシスのような味わいを出している。内容もさることながら,人選が面白く,医学史上の大家から市中の名医(荻野久作など)までが取り上げられている。

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目次

ページ範囲:P.122 - P.123

欧文目次

ページ範囲:P.124 - P.124

べらどんな ハシリドコロ

著者:

ページ範囲:P.157 - P.157

 医術は世界で二番目に古い職業であるという。「二番目である」と断定できないのは,イギリスのチャールズ皇太子が,どこかでこれを自称していたからである。医術が職業として成立していたのは,これが呪術とダブっていたことや,病気はときに自然に寛解することも関係していようが,生薬(ショウヤク)が昔からあったことも大きな理由になろう。

 生薬には植物性のものが多い。キナの皮からとれるキニーネはマラリアの特効薬であり,強心剤のジギタリスも3年草の草の葉から抽出される。ラテン語のdigitalisには「指」の意味があるが,これはドイツ語のFingerhut「指貫(ユビヌキ)」を英語に翻訳したからである。インカ時代の南米では,疲れたときにコカの葉を噛む癖があった。これからとれたのがコカインで,以前は点眼麻酔薬の代表であった。プロカインは「コカインの代用品」のことで,1918年に合成された。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.231 - P.236

希望掲載欄

ページ範囲:P.240 - P.240

アンケート用紙

ページ範囲:P.242 - P.242

次号予告

ページ範囲:P.243 - P.243

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.244 - P.244

 現在は2019年師走,今年も残すところ2週間になりました。便利な時代になったもので,現在インターネットを通じたFMテキサスのクリスマスチャンネルから流れる音楽を聴きながら,拙文をしたためています。

 今月号の特集はロービジョンについてです。1980年代までは,失明者発生数が今よりもはるかに多かったにもかかわらず,ロービジョンに関しての活動は活発ではありませんでした。眼科は目の病気を治すための診療科であり,失明後は本人自身の責任でどうにかすべきだという意見が強かったと聞きます。また,ロービジョン者に対する方策も限られており,眼科医はほとんど何もできなかったのも事実です。その結果,ロービジョン者や家族は,社会から離れてひっそりと生活していくことを余儀なくされていました。しかし,最近になって健常者と障碍者との共生社会の重要性が理解されるようになり,障碍を抱えた人々の社会適応方法の研究が進み始めました。ロービジョンへの対策もその一環です。今回の特集を読んでいただくとわかるでしょうが,ロービジョン者へのリハビリは,大きく進歩しています。また,社会適応の方法も広がっています。つまり,ロービジョン対策は,眼のリハビリといった技術的問題から,社会が患者を受け入れ,また患者がいかに社会に適応するかという広範な問題を含むのです。ある意味では,それぞれの社会の成熟度も問われるテーマであるともいえます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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