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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科74巻3号

2020年03月発行

雑誌目次

特集 第73回日本臨床眼科学会講演集[1] 原著

眼窩に浸潤した慢性リンパ性白血病/小細胞性リンパ腫の2症例

著者: 野田遼太郎 ,   児玉俊夫 ,   小川佳華 ,   田原壮一朗 ,   上甲武志 ,   大城由美

ページ範囲:P.269 - P.276

要約 目的:リンパ球由来の悪性疾患のうち,リンパ球増加が主体であれば慢性リンパ性白血病(CLL),リンパ節病変が主体であれば小細胞性リンパ腫(SLL)であるが,同一疾患としてCLL/SLLと診断されることもある。今回筆者らは,眼窩に浸潤したCLL/SLLの2症例を報告する。

症例:症例1:78歳,男性。4年前にCLLと診断されて他院内科にて経過観察中,両下眼瞼皮下に腫瘤を生じたために紹介され受診した。当科初診時にリンパ球数は18,452/μlと高値を示し,画像診断で両眼窩腫瘍と著明な脾腫を認めた。摘出した腫瘍は異型性の乏しい小型リンパ球様細胞が浸潤し,細胞表面マーカーではCD5とCD23がいずれも陽性で,CLL/SLLと診断された。術後2年間腫瘍の再発は認めなかった。症例2:62歳,男性。左上眼瞼腫脹を認めたために当科を紹介され受診した。リンパ球数は8,789/μlで,摘出腫瘍は症例1と同様,小型リンパ球様細胞が浸潤し,CD5とCD23がいずれも陽性で,CLL/SLLと診断された。術後,右眼窩腫瘍の残存と右鎖骨上窩のリンパ節腫脹および脾腫を認めたため,イブルチニブ治療を行って腫瘍はほぼ消失した。

結論:CLL/SLLは,その診断において細胞表面マーカーの検索は有用であった。2症例とも術後は良好な経過を示したことより,CLL/SLLは低悪性度リンパ腫であることが確認された。

放射線治療とベバシズマブ硝子体注射が奏効した乳癌原発転移性脈絡膜腫瘍の1例

著者: 高綱陽子 ,   千葉晃大 ,   安藤貴章 ,   石井奈津美 ,   笠川隆玄 ,   安田茂雄 ,   北橋正康 ,   馬場隆之 ,   山本修一

ページ範囲:P.277 - P.282

要約 目的:乳癌原発の転移性脈絡膜腫瘍に対し,放射線治療とベバシズマブ硝子体注射を行い,約2年間良好な視力を維持できた1例を経験したので報告する。

症例:患者は40歳,女性。腰痛と呼吸困難を主訴に当院を受診し,肺,骨,肝転移のあるstage Ⅳ乳癌と診断された。化学療法が施行され,約1年間全身状態は安定していた。乳癌診断から1年後に,左眼の視力低下と視野異常を主訴に眼科を初診した。視力は,両眼1.2であったが,両眼底に黄白色の隆起病巣が散在し,左眼では漿液性網膜剝離を伴っていた。蛍光眼底造影で,造影後期に拡大する多発点状過蛍光を認めた。同時に多発脳転移があり,転移性脈絡膜腫瘍と診断した。左眼の漿液性網膜剝離が急速に拡大した。両眼を含め頭部に放射線治療35Gy/14回/3週で,腫瘍は縮小し,漿液性網膜剝離は速やかに消退した。9か月後に左眼に新たな病巣が生じ,ベバシズマブ硝子体内注射を2回施行した。診断後約2年間にわたり両眼1.2の視力が維持できた。

結論:転移性脈絡膜腫瘍は稀で予後不良とされてきたが,放射線治療とその後のベバシズマブ注射は,本症の治療に有効であった。

前房水腫瘍マーカーが原発巣の診断に有用であったS状結腸癌の虹彩毛様体転移

著者: 笠松広嗣 ,   京本敏行 ,   星山健 ,   柴田壮一郎 ,   佐々木茂 ,   伊藤以知郎

ページ範囲:P.283 - P.289

要約 目的:結腸癌の虹彩毛様体転移は稀である。S状結腸癌の虹彩毛様体転移の補助診断として,前房水腫瘍マーカーの測定が有用であった症例の報告。

症例:多発転移巣を伴うS状結腸癌の既往のある60歳男性が,右眼の白濁を主訴に受診し,右虹彩毛様体腫瘤を認めた。S状結腸癌の虹彩毛様体転移が疑われたが,全身状態が悪く,患者の同意が得られなかったため直接生検は行わなかった。放射線療法を施行したが効果は認められず,腫瘍は徐々に増大し,視力が低下した。35病日に患者の同意を得て,より低侵襲な検査として前房水中の腫瘍マーカーを測定したところ,CEAは553.7ng/mlと著明な上昇を認め,S状結腸癌の虹彩毛様体転移と診断した。しかし,全身状態は徐々に増悪し,39病日に不帰の転帰をとった。

所見:矯正視力は右0.7,左1.0。眼圧は右10mmHg,左12mmHgであった。細隙灯顕微鏡検査では右眼の耳側虹彩に3mm×5mm大の新生血管を伴う黄白色の腫瘤を認めた。

結論:虹彩毛様体への転移の診断と,その後の治療を選択・施行するための根拠に前房水腫瘍マーカーの測定が有用であった。

オルソケラトロジーで角膜潰瘍を生じ視力障害が残存した1例

著者: 太田博之 ,   小菅正太郎 ,   和田悦洋 ,   塚越美奈 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.291 - P.295

要約 目的:オルソケラトロジー(オルソK)の目的でミラクルレンズ®を使用し,角膜潰瘍を生じ視力障害を残した症例の報告。

症例:24歳,男性。10年前より近医にてミラクルレンズ®によるオルソKを開始した。オルソKを開始した当初は定期的な外来受診を継続していたが,最終受診は2年前であった。左眼疼痛,角膜混濁に伴う視力低下を自覚し,前医を受診し,角膜感染症の診断となり,2日後に当院を紹介され受診となった。細菌感染性角膜潰瘍の診断にて,同日より緊急入院した。抗菌薬頻回点眼,散瞳薬点眼,抗菌薬,ステロイド内服,抗菌薬点滴より加療を開始した。約2週間の入院加療にて感染傾向は消失したものの角膜上皮下混濁が残存していた。その後約6か月の経過で中央部角膜上皮下混濁が残存し,視力(0.3)にとどまっている。

結論:オルソKは,安全性の確認の取れている承認レンズの使用が求められる。また,レンズの適正使用の徹底した指導,外来管理が必要である。

Kahook Dual Blade®による線維柱帯切開術の術後成績

著者: 柿原伸次 ,   今井章 ,   榑沼大平 ,   朱さゆり ,   村田敏規

ページ範囲:P.296 - P.300

要約 目的:Kahook Dual Blade®(KDB)を用いた線維柱帯切開術の術後成績と合併症の報告。

対象と方法:信州大学医学部附属病院で2019年3月までの2年間にKDBによる線維柱帯切開術を行い,3か月以上の経過観察ができた患者39例46眼を対象に後ろ向き調査を行った。術前後の眼圧と点眼スコアの変化,術後合併症を検討した。

結果:平均年齢71.1±12.7歳。病型の内訳は,原発開放隅角緑内障13眼,原発閉塞隅角緑内障9眼,落屑緑内障14眼,その他の続発緑内障10眼であった。白内障同時手術は40眼であった。手術前の平均眼圧(mmHg)および点眼スコアは21.5±8.2および4.6±1.5であり,術後1,3,6か月ではそれぞれ10.8±3.3および3.7±1.2,10.8±3.1および3.7±1.2,11.0±3.3および3.6±1.3となり,術後有意に低下した(p<0.05,Dunn's test)。術後合併症は,一過性高眼圧が12眼(26.1%)でみられ,遷延性前房出血により前房洗浄を要した症例が1眼,術後に濾過手術を要した症例が1眼あった。

結論:KDBによる線維柱帯切開術は,有意に眼圧と点眼スコアを下げた。重篤な術後合併症はなかった。

妊娠高血圧腎症に伴った下垂体炎の1例

著者: 粕谷友香 ,   佐野一矢 ,   牧野伸二 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.303 - P.308

要約 目的:妊娠高血圧腎症に伴う下垂体炎を報告する。

症例:35歳,女性。妊娠高血圧腎症の管理目的に入院した。妊娠30週に緊急帝王切開術が施行された。妊娠25週頃より頭痛,左眼の霧視を自覚していたが分娩1週後,眼科的精査目的に紹介され受診した。視力は右0.05(1.2),左0.02(0.9),前眼部に異常はなかった。眼底は両眼とも高血圧に伴う軟性白斑,網膜出血がみられた。ゴールドマン視野検査では不規則な両耳側半盲がみられた。頭部MRIにて,トルコ鞍から鞍上部にかけてT2強調画像で軽度高信号を呈し,造影により均一に増強される腫瘤性病変が確認された。基礎値で下垂体機能低下症はなかったが,高張食塩水負荷試験+デスモプレシン負荷試験では部分型中枢性尿崩症の所見であった。下垂体後葉炎の疑いとして,ステロイド内服が開始された。内服1か月後の左眼視力は(1.2)に改善し,下垂体病変は経時的に縮小した。発症から1年後,右眼の視野は不変であるが,左眼の視野はほぼ正常に改善した。

結論:妊娠中の視力・視野障害の原因に下垂体炎があることを念頭に置く必要がある。

サイトメガロウイルスによるChronic Retinal Necrosisの3例

著者: 張本亮 ,   田中理恵 ,   蕪城俊克 ,   伊沢英知 ,   中原久恵 ,   川島秀俊 ,   相原一

ページ範囲:P.309 - P.315

要約 目的:Chronic Retinal Necrosis(CRN)患者の臨床像について検討する。

対象と方法:2012年3月〜2015年12月に東京大学医学部附属病院眼科ぶどう膜炎外来を受診したCRN患者3例の臨床像を後ろ向きに検討した。

結果:症例は65歳女性,66歳女性,67歳男性で,2例は片眼性,1例は両眼性であった。経過観察期間はそれぞれ47か月,15か月,66か月であった。免疫不全因子は免疫抑制薬内服中1例,糖尿病1例であった。HIV感染例は認めなかった。全例前房水PCR検査でサイトメガロウイルスDNAが陽性であった。全例に白色小型角膜後面沈着物,硝子体混濁,網膜動脈白鞘化,網膜動静脈炎,網膜出血を認めた。網膜滲出斑は2例に認めた。治療としてガンシクロビル硝子体注射(3例),バルガンシクロビル内服(2例)などの抗ウイルス療法を施行した。全例に網膜無灌流領域を認め,1例に網膜光凝固を施行した。最終観察時の矯正視力は全例1.0以上であった。

結論:CRNの3例を経験した。抗ウイルス療法を終了するまで長期間要する症例もあったが,視力予後は良好であった。ウイルス性を疑う閉塞性網膜血管炎に対しては,治療最初期に眼内液PCR検査とぶどう膜炎精査を施行したうえで適切な抗ウイルス治療を行う必要がある。CRN患者に対しては,抗ウイルス療法だけではなく,網膜無灌流領域の確認と治療を行い,新生血管発生の予防に努めなければならない。

焦点深度拡張型眼内レンズ挿入眼における他覚屈折値と自覚屈折値の差

著者: 滝澤菜摘 ,   南慶一郎 ,   平沢学 ,   大木伸一 ,   ビッセン宮島弘子

ページ範囲:P.317 - P.322

要約 目的:エシェレット回折デザインを用いた焦点深度拡張型(EDOF)多焦点眼内レンズ(IOL)では,1次回折光により遠方焦点が得られる。本IOL挿入眼における,他覚屈折値と自覚屈折値が一致するか前向きに検討した。

対象と方法:対象は,ZXR00V(J & J Vision)を挿入した42例63眼とし,術後3か月の他覚屈折値,矯正遠方視力,自覚屈折値を検討した。他覚屈折値は,オートレフケラトメータ(オートレフ)と波面収差計を用いて測定した。他覚検査における球面度数,円柱度数,等価球面(SE)度数が,自覚検査値と一致するかを評価した。

結果:術後の平均矯正視力は,−0.14±0.05logMAR,自覚屈折値は球面度数−0.03±0.43D,円柱度数−0.42±0.43D,SE度数−0.24±0.65Dであった。他覚の球面,円柱度数において,機器間で差はなかった(p=0.51,0.79)。オートレフによる他覚屈折値は,球面度数−0.69±0.43D,円柱度数−0.70±0.41D,SE度数−1.04±0.42Dであった。自覚屈折値と有意な差(p<0.001)がみられ,その値は球面度数−0.65±0.24D,円柱度数−0.28±0.22D,SE度数−0.80±0.22Dだけ近視側にずれていた。

結論:エシェレット回折デザインを用いたEDOF IOL挿入眼の他覚的屈折値はSE度数で約1D近視側になることに留意して,自覚的屈折検査を行うことが必要と考えられた。

シクロスポリン併用経口ステロイド療法が有効であった特発性外眼筋炎の1例

著者: 土井祐介 ,   木下博文 ,   三島一晃 ,   北岡隆

ページ範囲:P.323 - P.328

要約 目的:原因不明の良性かつ非感染性炎症性疾患である特発性眼窩炎症のうち,炎症の首座が外眼筋にあるものを特発性外眼筋炎という。治療はステロイドを使用することが一般的であるが,再発を繰り返す難治症例も多い。今回筆者らは,ステロイドだけでは再発を繰り返す難治性の特発性外眼筋炎に対して,ステロイドパルス療法後の経口ステロイド療法にシクロスポリンを併用することで再発を抑えることができた症例を経験したので報告する。

症例:38歳,女性。38歳時に右外直筋炎を発症した。経口ステロイド療法でいったん改善したが,39歳時に左内直筋炎(経口ステロイド療法とステロイドパルス療法で加療),40歳時に左外直筋炎を発症した。経口ステロイド療法だけではコントロールがつかず,41歳時にステロイドパルス療法を施行した。後療法として経口ステロイド療法に切り替えた直後に再発したため,追加のステロイドパルス療法を施行した後に経口ステロイド療法にシクロスポリンを併用したところ,再発することなく経過した。

考察:特発性外眼筋炎に対してシクロスポリンを使用した症例は既報に乏しい。本報告は,再発性の特発性外眼筋炎に対して,難治性ぶどう膜炎の治療と同様,ステロイドに加えてシクロスポリンを併用することが治療の一選択肢として有用である可能性を示すものである。

滲出型加齢黄斑変性に対するアフリベルセプト硝子体内投与の長期成績

著者: 吉田紀子 ,   柳平朋子 ,   田中正明 ,   榑沼大平 ,   平野隆雄 ,   村田敏規

ページ範囲:P.329 - P.334

要約 目的:滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対するアフリベルセプト硝子体内投与(IVA)の長期成績について検討する。

対象と方法:対象は未治療の典型AMD,ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)と診断され,初回治療としてIVAを単独で行い,3年以上経過観察できた52例54眼。IVAは3回の導入期の後,症例ごとの状況を踏まえた維持期投与を行った。IVAの1年後,3年後,最終受診時の視力および中心窩網膜厚(CRT),IVA施行回数,合併症について検討した。

結果:症例は,典型AMD22眼,PCV32眼。平均経過観察期間はそれぞれ,46.0±11.6か月,52.4±10.8か月。1年後,3年後,最終視力は,典型AMDではすべて治療前と比較して有意差がなく,PCVでは3年目までは有意に改善していたが,最終受診時には治療前と有意差がなくなった。平均CRTは典型AMD,PCVともにすべての時期で,治療前より有意に減少していた。平均IVA施行回数はそれぞれ16.1±10.0回,15.1±9.6回であった。経過中,感染や網膜剝離,脳梗塞などの合併症は認められなかった。

結論:初回治療としてIVAを選択し,3年以上にわたり経過観察ならびにIVAで治療できた症例において視力の維持ができた。

両眼に発症したintrapapillary hemorrhage with adjacent peripapillary subretinal hemorrhageの1例

著者: 坂井貴三彦 ,   春田雅俊 ,   石橋有美 ,   青木剛 ,   吉田茂生

ページ範囲:P.335 - P.339

要約 目的:Intrapapillary hemorrhage with adjacent peripapillary subretinal hemorrhage(IHAPSH)は,視神経乳頭部の出血に加えて視神経乳頭の周囲に網膜下出血を生じる症候群である。出血は自然吸収し,視力予後は比較的良好とされているが,両眼発症の報告は少ない。今回,両眼にIHAPSHをきたした1例を報告する。

症例:36歳,女性。主訴は左眼の飛蚊症。

所見:初診時の眼底検査で左眼の乳頭腫脹,視神経乳頭部の出血,視神経乳頭の鼻側に網膜下出血を認めた。左眼には後部硝子体剝離があり,軽度の硝子体出血があった。初診より2か月後,自覚症状はなかったが,眼底検査で右眼の視神経乳頭部の出血,視神経乳頭の鼻側に網膜下出血を認めた。両眼の視神経乳頭部とその周囲の出血,左眼の乳頭腫脹と硝子体出血は徐々に吸収された。

結論:本症例は両眼に発症したIHAPSHと考えられ,既報と同様に視力予後は比較的良好であった。

緑内障患者のゴールドマン視野検査による視野障害別quality of lifeの評価

著者: 井上賢治 ,   鶴岡三惠子 ,   國松志保 ,   石田恭子 ,   富田剛司

ページ範囲:P.341 - P.348

要約 目的:緑内障患者の生活の質quality of life(QOL)の評価をゴールドマン視野計による視野障害別にVFQ-25を用いて行う。

対象および方法:原発開放隅角緑内障129例を対象とした。自己記入式VFQ-25を患者に評価してもらった。25項目とコンポ7,コンポ11の点数を算出した。ゴールドマン視野検査の視野障害を湖崎分類に従い,視野良好眼の視野障害を早期症例(Ⅱa,Ⅱb),中期症例(Ⅲa,Ⅲb),晩期症例(Ⅳ,Ⅴb,Ⅴb)の3群に分けた。3群間の患者背景とVFQ-25の点数を比較した。

結果:視力は晩期症例で有意に低下していた。使用点眼薬数は中期症例で有意に多かった。VFQ-25の一般的見え方,近見視力による行動,遠見視力による行動,社会生活機能,心の健康,役割機能,自立,色覚,周辺視野,コンポ7,コンポ11は,晩期症例が早期症例,中期症例よりも,中期症例が早期症例よりも点数が有意に低かった(p<0.01)。一般的健康感,目の痛みは中期症例,晩期症例が早期症例よりも点数が有意に低かった(p<0.01)。

結論:緑内障患者ではVFQ-25の一般的健康感,目の痛みはゴールドマン視野検査による視野障害中期まで低下するが,それ以外の項目は視野障害が進行するに伴い,徐々にQOLが低下する。

連載 今月の話題

Pachychoroid neovasculopathy—新たな疾患概念とアジアにおける重要性

著者: 玉城環 ,   古泉英貴

ページ範囲:P.252 - P.257

 近年,pachychoroidという新しい概念の登場により,AMD診療において,新たな診断基準の確立や治療方針を見直す動きが出始めている。本稿ではpachychoroid neovasculopathyについて,現時点での解釈について概説する。

眼炎症外来の事件簿・Case19

黄斑前膜を伴った肉芽腫性汎ぶどう膜炎

著者: 楠原仙太郎

ページ範囲:P.258 - P.261

患者:50代,男性

主訴:両視力低下

既往歴:高血圧,口内炎,B型肝炎キャリア

家族歴:母親に緑内障

現病歴:X年9月に右飛蚊症を自覚し,その後に両眼の霧視と光視症が出現したため同年12月に近医眼科を受診した。その際に両眼のぶどう膜炎および高眼圧症を指摘され,某総合病院眼科を紹介され受診した。両眼に虹彩炎,瞳孔および隅角結節,硝子体混濁,網膜の滲出性変化が認められたためサルコイドーシスを疑われた。両眼ともにトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射が施行されたが,眼底所見が悪化したため,精査加療の目的で神戸大学医学部附属病院眼科(以下,当科)を紹介され受診となった。

臨床ノート

視交叉圧迫除去前後に局所黄斑部網膜神経節細胞複合体厚を測定した2例

著者: 平林博 ,   平林一貴 ,   若林真澄

ページ範囲:P.265 - P.268

緒言

 視交叉を圧迫する下垂体腫瘍により両耳側半盲が生じるが,手術により圧迫が除去されると,視野が回復することが知られている。これまで術前に術後の視機能の改善の有無を予測するさまざまな検査法が検討されてきたが,有効な方法はなかった。今回筆者らは,視交叉圧迫解除前の局所黄斑部網膜神経節細胞複合体(macular ganglion cell complex:mGCC)厚と術前後の視機能との関連を検討した2症例を経験したので報告する。

今月の表紙

Terson症候群

著者: 山口純 ,   中澤満

ページ範囲:P.251 - P.251

 症例は45歳,女性。2018年4月下旬にくも膜下出血を発症し,翌日,他院にて開頭クリッピング術を施行された。手術後に意識が戻ってから両眼の視力低下を自覚し,5月上旬に近医を受診した。精査・加療目的にて当院へ紹介され受診となった。

 初診時の視力は右0.05(0.2×−5.50D()cyl−1.50D 165°),左0.03(0.1×−4.25D()cyl−3.00D 180°)で,眼圧は右20mmHg,左17mmHgであった。眼底所見は,両眼ともに写真のように視神経乳頭周囲の網膜出血,アーケード血管付近まで広がる斑状の網膜下出血,黄斑部にかかる内境界膜下出血と複数の層にわたって出血が認められた。中心窩下には硬性白斑様の白色変化がみられ,OCTでは測定光のブロックにより詳細は不明であるが,網膜色素上皮から外顆粒層へ広がる高反射像が確認された。

海外留学 不安とFUN・第51回

モントリオールからBonjour !!・2

著者: 畑匡侑

ページ範囲:P.262 - P.263

一番の不安 過酷な寒さ

 モントリオールに留学するに当たって,言葉の壁と同じくらいに不安があったのは,−30℃になるという冬を生まれたばかりの乳児連れで無事に過ごすことができるのか,ということでした。

 私がカナダに渡った5月の終わりは,まだまだスプリングコートが必要な気候ではありましたが,日も長く朝5時頃から夜は9時頃まで明るく,とても過ごしやすいものでした。来た当初はもちろん生活の立ち上げや,日本との研究環境の相違に戸惑うことも多くありましたが,モントリオールは治安も良く,人も親切で,また「北米のパリ」と呼ばれるだけあって食事もおいしく,日本の食材も意外と何でも手に入るので,特に困ることもありませんでした。何よりも気候が良く,週末ごとに街中の至る所でイベントが開催され,街全体が夏を楽しんでいる,という雰囲気で溢れていました。

Book Review

ジェネラリストのための眼科診療ハンドブック 第2版

著者: 中西重清

ページ範囲:P.340 - P.340

 本書は内科開業医のための眼科知識を高める必読書である。「眼科医がいない状況で非専門医がどこまで診療するのか,どの時点で紹介するか」が的確に解説されており,自信を持ってお薦めしたい。

 眼症状の相談を受けると,総合病院ではなく,近くの信頼できる眼科開業医に紹介するのが常であろう。それは普段から顔見知りで,疑問点を何でも相談できる関係だからである。著者の石岡みさき先生は,内科開業医がどんな眼科疾患に困り,何を知らないかを熟知している。外来患者さんは高齢化し多疾患を併存し専門以外の知識が必要で,ポリファーマシー(多剤処方)を併せ持っている。「目が悪い」と言えばすぐに眼科紹介,「腰が痛い」と言えば整形外科紹介では,患者ニーズに応えることができない。経過観察ができそうなら「様子をみましょう」と伝え,「こういう眼科疾患なので薬を出しておきますね」と答えられるようになりたい。

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目次

ページ範囲:P.246 - P.247

欧文目次

ページ範囲:P.248 - P.249

第38回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.290 - P.290

べらどんな ヘルムホルツの検眼鏡

著者:

ページ範囲:P.316 - P.316

 検眼鏡は1850年に発明された。これは大きな出来事であり,眼底が見えるようになったことで,眼科が外科から独立するきっかけになった。

 発明したのは,ケーニヒスベルク大学の生理学教授であったヘルムホルツ(Hermann von Helmholtz, 1821-1894)である。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.350 - P.356

希望掲載欄

ページ範囲:P.360 - P.360

アンケート用紙

ページ範囲:P.362 - P.362

次号予告

ページ範囲:P.363 - P.363

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.364 - P.364

 2019年度の最後の月となり,卒業シーズンを迎えました。謝恩会で卒業生から「仰げば尊し」など歌われますと,「果たして自分はその歌の内容に見合う教育はできたか?」と何とも気恥ずかしい思いで内心忸怩たるものがあります。医学の進歩に遅れないような生涯学習,自己研鑽の必要性を自覚させられる季節でもあります。

 臨床眼科では今月から恒例の第73回日本臨床眼科学会で発表された演題の原著論文の掲載が始まります。各施設で経験された貴重な症例報告を本誌の論文としてともに経験することで,自分が勤務する場でいつ遭遇するかも知れない難症例の診断や治療のヒントを得ることができるのではないかと思います。診断や治療の選択肢を数多く保持できるかどうかが日々の診療のコツでもあります。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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