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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科74巻9号

2020年09月発行

雑誌目次

特集 第73回日本臨床眼科学会講演集[7] 原著

片側顔面痙攣に対するA型ボツリヌス毒素の硝子体腔誤投与の1例

著者: 横塚奈央 ,   永田万由美 ,   松島博之 ,   妹尾正

ページ範囲:P.1103 - P.1108

要約 目的:片側顔面痙攣に対しA型ボツリヌス毒素(BTX-A)注射を施行した際,誤って角膜水晶体を穿通し,硝子体腔へBTX-Aが注入された可能性のある症例の報告。

症例:71歳の女性が近医内科で左片側顔面痙攣に対しBTX-A注射を施行された。注射直後より左眼の霧視を自覚し,同内科より当院を紹介され受診した。初診時視力は左(0.8),眼圧は16mmHgであった。角膜穿孔創,前囊亀裂,前囊下混濁白内障を認め,眼底は透見困難であった。前眼部光干渉断層計でも角膜穿孔創と前囊亀裂が確認され,BTX-A注射針による外傷性白内障と判断し,水晶体再建術を施行した。超音波水晶体乳化吸引術中,後囊破損および破損部直下の硝子体腔に浮遊する白色の硝子体混濁を認めた。BTX-A注射針が水晶体を貫通し硝子体腔まで穿孔し,さらに薬液が注入された可能性があると判断し,同時に硝子体切除術も施行した。術中網膜に裂傷は認めなかった。術後矯正視力は(1.2)まで改善し,術後の網膜電図においても異常所見はなかった。

結論:眼瞼痙攣や片側顔面痙攣に対するA型ボツリヌス毒素の眼瞼注射は,眼科医以外の医師によって施行される場合があるが,施行方法を誤ると重篤な合併症を引き起こす可能性がある。安全で確実な手技習得の必要性や,眼球穿孔の危険性について啓発していく必要がある。

遺伝子検査により1歳でBlau症候群と診断され2歳でアダリムマブを導入した1例

著者: 武林響子 ,   山根敬浩 ,   石原麻美 ,   竹内正樹 ,   山田教弘 ,   水木信久 ,   伊藤秀一

ページ範囲:P.1109 - P.1114

要約 緒言:遺伝子検査により診断され,2歳時にTNF阻害薬であるアダリムマブを導入することができたBlau症候群の1例を報告する。

症例:3歳1か月,女児。生後7か月で原因不明の周期性発熱,および慢性炎症により他院小児科および眼科を受診した。眼科受診時に両眼の虹彩結節および視神経乳頭浮腫を認めたため,精査加療目的で当院を紹介され受診となった。父親にも関節炎,周期性発熱,ぶどう膜炎,および視神経乳頭浮腫がみられたため,遺伝子検査を実施した。父娘ともにNOD2 pArg587Cys hetero(R587C)のミスセンス変異が認められ,Blau症候群と診断された。その後,患児の視神経乳頭浮腫は軽減したが,虹彩後癒着は抗炎症薬点眼および散瞳薬点眼を使用しても徐々に進行した。また,周期性発熱,CRP高値などの全身所見に改善傾向がないため,2歳2か月でアダリムマブ導入となった。導入後は眼所見,全身所見ともに落ち着いている。

結論:Blau症候群は常染色体優性遺伝形式をとる全身性肉芽腫性炎症性疾患である。本症例は2歳でアダリムマブを導入したが,視力予後は不良な疾患であるため,今後も注意深い経過観察が必要である。

円形の難治性角膜潰瘍を呈しreal-time PCRで診断できた角膜ヘルペスの1例

著者: 森尾倫子 ,   宮﨑大 ,   井上幸次 ,   清水由美子 ,   三木統夫

ページ範囲:P.1115 - P.1119

要約 目的:水疱性角膜症の経過中に円形の難治性角膜潰瘍を認め,real-time PCRによって角膜ヘルペスと診断できた1例を経験したので報告する。

症例:86歳,男性。角膜ヘルペスの既往なし。左眼は複数回の緑内障手術歴があり,視機能は不良で,201X年秋頃より水疱性角膜症を呈し,ステロイド点眼を使用されていた。翌年1月頃より左眼の眼痛と視力低下があり,2月に角膜潰瘍を指摘された。細菌性としてモキシフロキサシン塩酸塩点眼とトブラマイシン点眼で治療されたが改善せず,4月に鳥取大学医学部附属病院眼科を紹介され受診となった。初診時,左眼の角膜中央に4mm×5mm大の淡い浸潤と同部位に一致して円形の上皮欠損を認め,前房蓄膿も伴っていた。初診時の角膜擦過物からreal-time PCRで240万コピーと多量のHSV-DNAが検出されたため,角膜ヘルペスと診断できた。アシクロビル眼軟膏のみで治療したところ,2週間ほどで角膜潰瘍は改善した。

結論:本症例は,臨床所見のみからは角膜ヘルペスとは考えられず,念のため行ったreal-time PCRが診断に非常に有用であった。抗菌薬治療に抵抗する角膜潰瘍を診察した場合は,特徴的な所見を呈していなくとも,角膜ヘルペスを鑑別に挙げる必要がある。

TGFBI遺伝子p.(L527R)変異による格子状角膜ジストロフィの1例

著者: 八角光起 ,   野嶋計寿 ,   細野克博 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.1120 - P.1125

要約 目的:左右差のある格子状角膜ジストロフィにしては前眼部所見が比較的重篤で,遺伝子検査にてTGFBI遺伝子のp.(L527R)変異が原因と認められた1例の報告。

症例:78歳,男性。近医での右眼水晶体再建術後,視力改善が乏しいことを主訴に複数の眼科を受診するも,経過に納得ができず,総合病院眼科を受診した。右眼優位に格子状の角膜混濁が認められ,精査加療目的に当科を紹介された。初診時視力は右(0.7),左(0.8)で,右眼に格子状角膜混濁を認め,左眼の角膜実質深層にもごく軽度の混濁を認めた。右眼は眼内レンズ挿入眼,左眼は核白内障grade 2程度(Emery-Little分類)を認めた。左右差のある格子状角膜混濁につき,TGFBI遺伝子のp.(L527R)変異の可能性が疑われたため,十分なインフォームドコンセントによる同意を得たうえで,末梢血を用いて遺伝子検査を施行した。本研究は浜松医科大学臨床研究倫理委員会の承認を得ている。

結果:TGFBI遺伝子のp.(L527R)変異をヘテロ接合体で認めた。

結論:TGFBI遺伝子のp.(L527R)変異は比較的軽症で,視力低下をきたすことは稀であるが,高齢者においては視力低下の原因になると考えられる。

リウマチ性多発筋痛症によって引き起こされた眼合併症の1例

著者: 小林奈美江 ,   遠井朗 ,   小林健太郎 ,   金子知香子 ,   山本悌司

ページ範囲:P.1126 - P.1131

要約 目的:リウマチ性多発筋痛症(PMR)によって引き起こされた眼合併症の1例の報告。

症例:74歳女性が,左頭痛,左顔面,左頸部から肩の疼痛,両眼視力低下を自覚し受診した。

所見と経過:初診時の矯正視力は右0.4,左光覚弁で,両眼底に慢性中心性網脈絡膜炎様の所見を認め,MRIでは,両眼視神経周囲に高信号を認めた。赤沈の上昇,症状より,左眼視神経周囲炎と慢性中心性網脈絡膜炎が合併したPMRと診断した。ステロイドパルス療法を施行し,1か月後には右視力は不変であったが,左眼視力は0.03に改善した。

結論:重症な眼虚血症候群の際には,巨細胞動脈炎も念頭に置いてPMRなど全身疾患の精査が重要である。

経毛様体扁平部挿入型Baerveldt緑内障インプラント手術の長期成績

著者: 沼尾舞 ,   忍田栄紀 ,   町田繁樹 ,   石塚匡彦 ,   西村智治

ページ範囲:P.1132 - P.1136

要約 目的:硝子体手術既往眼あるいは硝子体手術と同時に,経毛様体扁平部挿入型Baerveldt緑内障インプラント挿入チューブシャント手術(BGI手術)を行った症例の長期術後成績を評価した。

対象と方法:対象はBGI手術を施行し2年以上経過観察できた51例57眼。原因疾患は血管新生緑内障が49眼,続発性緑内障が4眼,原発開放隅角緑内障が3眼,原発閉塞隅角緑内障が1眼であった。術前後の眼圧および点眼・内服スコア,そして合併症の有無を評価した。

結果:術前,術後1および2年の平均眼圧は,それぞれ39.1±13.1,14.6±5.5,14.3±5.1mmHgと術前に比較し有意に低下した。術前,術後1および2年後の点眼・内服スコアは,それぞれ4.3±1.4,1.7±1.4,1.9±1.5であり,有意に減少した。術後の合併症は,脈絡膜剝離10眼(18%),硝子体出血14眼(25%),高眼圧14眼(25%),低眼圧3眼(5%),虹彩後癒着4眼(7%),前房出血3眼(5%),角膜上皮障害1眼(2%),チューブ関連合併症(Hoffman elbow露出5眼:9%,チューブ露出2眼:4%)で,これに伴って眼内炎を2眼(4%)で認めた。

結論:経毛様体扁平部挿入型BGI挿入チューブ手術により長期的な眼圧コントロールを得られたが,チューブの露出に伴う眼内炎など重篤な合併症をきたす症例も散見された。

両側涙腺炎を契機に発見された伝染性単核球症の1例

著者: 村上博美 ,   井上麻衣子 ,   北嶋遥子 ,   佐藤新兵 ,   門之園一明

ページ範囲:P.1137 - P.1140

要約 目的:両側涙腺炎を契機に発見された伝染性単核球症の報告。

症例:21歳,女性。両上眼瞼腫脹を主訴に横浜市立大学附属市民総合医療センター(当院)を紹介され受診した。初診時の矯正視力は両眼1.2,眼球運動障害はなく,両上眼瞼腫脹がみられた。前眼部と眼底に特記所見はなかった。MRIで両側の涙腺腫大がみられ,涙腺炎の診断となった。血液検査で肝障害と異型リンパ球が検出されたため,当院血液内科へ紹介となった。血清ウイルス抗体価ではEpstein-Barrウイルス(EBV)のVCA-IgM 20倍,VCA-IgG 640倍,EBNA 10倍以下で,EBVの初感染による伝染性単核球症と診断された。約2週間の経過観察のみで肝障害および上眼瞼腫脹は改善した。

結論:若年者の涙腺炎においては,鑑別疾患として伝染性単核球症を念頭に置いた診察が必要であると思われる。

眼窩蜂窩織炎との鑑別が困難であった後部強膜炎型特発性眼窩炎症

著者: 山名祐司 ,   秋山邦彦 ,   渡辺健 ,   成尾麻子 ,   野田徹

ページ範囲:P.1141 - P.1144

要約 目的:眼窩蜂窩織炎に類似した臨床像を呈し,鑑別に苦慮した後部強膜炎型特発性眼窩炎症(IOI)の症例を報告すること。

症例:25歳,男性。右上眼瞼腫脹と疼痛が出現し,他院で眼窩蜂窩織炎と診断された。抗菌薬内服で改善しないため,当院を受診した。初診時の右矯正視力は1.2。右上眼瞼発赤腫脹と眼球突出,CRP値の軽度上昇(0.45mg/dl)と造影CT所見から眼窩蜂窩織炎と診断し,抗菌薬の全身投与を開始したが効果はなかった。その後,視神経乳頭発赤腫脹,網膜下液,脈絡膜皺襞,強膜充血と強膜肥厚が出現し,歪視と視力低下(0.3)が生じ,11日目には37.4℃の熱発とともにCRPが1.80mg/dlに上昇した。経過から診断を後部強膜炎型IOIに見直し,治療法をステロイド内服に切り替えたところ,所見の著明な改善がみられ,視力は1.2に回復した。

結論:本症例は治療開始時点には眼窩蜂窩織炎に矛盾しない病態を呈したが,治療経過中に後部強膜炎型IOIの診断に至った。CRPが0.43mg/dl以上であれば眼窩蜂窩織炎の可能性が高いとの既報があるが,本症例はその基準に合致せず,両者の鑑別には注意を要する。

Spontaneous hyphemaを生じた小児の1例

著者: 吉見翔太 ,   小菅正太郎 ,   和田悦洋 ,   和田清花 ,   嶌嵜創平 ,   木崎順一郎 ,   齋藤雄太 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.1145 - P.1149

要約 目的:明確な外的誘因がなく発症する前房出血はspontaneous hyphemaと呼称される。今回,外傷や手術侵襲などの既往がなく前房出血を生じた小児の症例を経験したので報告する。

症例:7歳,男児。右結膜充血と突然の眼痛を自覚し,近医を受診した。右前房出血の診断で,精査加療目的で当院を紹介され受診となった。初診時の右矯正視力は光覚なし,右眼圧は60mmHgであった。右前眼部所見上,前房内を出血が充満し,瞳孔および虹彩紋理は透見不能であった。外傷歴はなく,家庭環境も良好であり,四肢体幹に外傷痕がないため虐待の可能性は否定的であった。全身検査でも出血性素因などの異常はなかった。入院にて,安静・薬物加療を行うも,出血の消退および眼圧の下降が得られなかったため,入院3日後に前房内血腫除去術を施行した。術後角膜染血症などの合併症はなく,右矯正視力は1.2まで改善し,前房出血の再発もなかった。

結論:小児に発生したspontaneous hyphemaでは,早期に前房内血腫除去術を施行したことで不可逆的障害を残さず,良好な視力を得ることができた。

漿液性網膜剝離を伴う網膜細動脈瘤に対する炭酸脱水酵素阻害薬の治療成績

著者: 千田奈実 ,   佐藤敦子 ,   福井えみ ,   太田浩一

ページ範囲:P.1151 - P.1155

要約 目的:炭酸脱水酵素阻害薬の網膜細動脈瘤に伴う漿液性網膜剝離(SRD)に対する効果につき検討したので報告する。

対象と方法:2008年4月〜2019年3月に当院を受診した網膜細動脈瘤患者のうち,炭酸脱水酵素阻害薬内服のみで3週間以上経過観察可能であった,SRDを伴う連続症例5例(男性2例,女性3例)5眼(平均年齢74.2±10.9歳)につき,後ろ向きに内服前後の視力,中心窩網膜厚を比較した。

結果:SRDはすべての症例で消失し,消失までの期間は平均3.2±0.8か月であった。視力はlogMAR値で内服前0.32±0.07,SRD消失時0.04±0.09と有意に改善していた(p<0.01)。中心窩網膜厚は内服前469.2±111.7μm,SRD消失時182.4±19.7μmと有意に減少していた(p<0.01)。

結論:炭酸脱水酵素阻害薬は網膜細動脈瘤に伴うSRDの改善効果,視力改善効果があることが示唆された。

白内障術後モノビジョンが誘因と思われる大角度恒常性外斜視の1例

著者: 林麗如 ,   沼尾舞 ,   林振民 ,   相馬睦 ,   鈴木利根 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.1156 - P.1159

要約 目的:白内障術後のモノビジョンが誘因と思われる大角度恒常性外斜視の1例に対して手術を施行したので報告する。

症例:65歳,女性。白内障手術を受ける際にモノビジョンを選択した。術後に複視を自覚し,外斜視が認められたため,当科を紹介され受診となった。初診時,視力は右1.0(1.2×−0.50D),左0.4(1.2×−2.00D()cyl−1.00D 180°)であった。眼位は45Δ交代性恒常性外斜視がみられ,融像はできなかった。眼球運動に異常はみられなかった。両眼の内直筋短縮および左眼の外直筋後転術を行った。術後1か月で戻りがみられたため,屈折矯正の遠用眼鏡を処方した。その後,眼位は正位に保たれている。

結論:両眼視機能が低下している高齢者に対して白内障手術時にモノビジョンを選択する場合には,術後両眼視機能の低下や斜視の誘発を念頭に置くべきである。

フェムトセカンドレーザーとマニュアル法による白内障手術術後屈折誤差の比較

著者: 小山達夫 ,   福岡秀記 ,   上野盛夫 ,   稗田牧 ,   小室青 ,   山崎俊秀 ,   木下茂 ,   外園千恵

ページ範囲:P.1160 - P.1164

要約 目的:フェムトセカンドレーザー使用の有無により白内障術後屈折誤差に違いがあるかどうかを調査すること。

対象と方法:2017年1月〜12月にバプテスト眼科クリニックおよび四条烏丸眼科小室クリニックで実施された白内障単独手術症例430例562眼を対象とした。内訳はフェムトセカンドレーザー白内障手術(FLACS)が100眼,マニュアル法白内障手術(MCS)が462眼であり,術後1か月における屈折誤差(自覚屈折値から算出された等価球面度数と術前予測屈折値との差)を比較した。術後1か月の屈折誤差を従属変数とし,FLACSとMCSによってt検定およびχ2検定を行った。術後1か月での屈折誤差を目的変数とし,眼軸長,平均角膜曲率半径,眼内レンズの種類,フェムトセカンドレーザー使用の有無を説明変数として重回帰分析を行った。

結果:術後1か月における絶対値屈折誤差平均値はFLACS群0.48±0.36D,MCS群0.43±0.44Dであり,統計学的に有意差はなかった(p=0.36,t検定)。±0.5D,±1.0D以内に入った割合はFLACS群65.0%,89.0%,MCS群68.6%,92.6%であり,統計学的に有意差はなかった(p=0.22,0.48,χ2検定)。重回帰分析において角膜曲率半径が説明変数として有意であったが,フェムトセカンドレーザーの使用や他の変数は有意でなかった。

結論:フェムトセカンドレーザー使用の有無は白内障術後の屈折誤差に影響しなかった。

連載 今月の話題

AIの角膜形状解析への応用

著者: 神谷和孝

ページ範囲:P.1077 - P.1083

 近年,人工知能(AI)による画像診断が注目されており,眼科診療でも画像診断補助や遠隔地診療への応用が期待されるが,網膜疾患や緑内障診断が主体であり,前眼部疾患におけるAIの応用は十分でない。本来,円錐角膜の診断は角膜形状解析が主体となっており,画像診断を得意とするAIが他疾患より応用しやすいと考えられる。本稿では,円錐角膜診断における角膜形状解析へのAI応用について概説したい。

Clinical Challenge・6

両眼眼底に多発性白斑を認めたぶどう膜炎症例

著者: 工藤朝香 ,   丹藤利夫 ,   目時友美 ,   中澤満

ページ範囲:P.1072 - P.1075

症例

患者:30代,女性

現病歴:両眼の霧視と充血があり,近医眼科を受診したところ,両眼の炎症と高眼圧を認め,副腎皮質ステロイド(以下,ステロイド)薬と眼圧下降薬の点眼にて治療された。その後,眼圧は正常化し炎症も沈静化したため,眼圧下降薬のみ中止して経過観察となった。5か月後に左眼の炎症が悪化したため,同じ医療圏の中核病院眼科へ紹介となった。両眼に散在性の白斑に加え,左眼に前眼部炎症所見と硝子体混濁がみられた。採血検査と胸部X線撮影を行うもののぶどう膜炎の原因が特定できなかったため,弘前大学医学部附属病院眼科(以下,当科)に紹介され受診した。

初診時所見:矯正視力は,右1.2,左1.0で,両眼ともに混合性乱視であり,眼圧は正常範囲内であった。両眼底に散在性に円形の白斑病巣がみられ,さらに左眼には硝子体混濁を認めた(図1)。隅角には両眼にテント状の周辺虹彩前癒着を認め,眼底の白斑病巣はフルオレセイン蛍光眼底造影(fluorescein angiography:FA)では過蛍光,インドシアニングリーン蛍光眼底造影(indocyanine green angiography:IA)では低蛍光となった(図2)。

 臨床検査所見としては,アンギオテンシン変換酵素16U/ml(正常範囲:8.3〜21.4),リゾチーム10.9μg/ml(正常範囲:5.0〜10.2),可溶性インターロイキン-2レセプター(soluble interleukin-2 receptor:sIL-2R)1,170U/ml(正常範囲:145〜519)であり,そのほかに異常はなかった。

眼炎症外来の事件簿・Case25

片眼性網膜中心動脈閉塞症で紹介された患者

著者: 原田陽介

ページ範囲:P.1084 - P.1088

患者:83歳,女性

主訴:右眼視力低下

既往歴:11年前に両眼白内障手術,糖尿病,乳癌術後(現在,化学療法中)

現病歴:単純糖尿病網膜症に対して,近医眼科で定期的に眼底検査を受けていた。1か月前から右眼の飛蚊症が出現したため近医を受診したところ右眼虹彩炎があり,非ステロイド性消炎鎮痛薬点眼を処方された。その1週間後から右眼視力低下を自覚するも眼科を受診しなかった。さらに1週間後(飛蚊症出現から2週間後)に近医を再診したところ,右眼網膜血管白線化および耳下側網膜に滲出斑がみられた。右眼網膜動脈閉塞症(central retinal artery occlusion:CRAO)と診断され,眼球マッサージおよび亜硫酸アルミニウムを3日間処方されるも症状が改善しないため広島大学病院眼科に紹介され受診となった。

臨床報告

眼瞼外毛根鞘腫の2例

著者: 向坂親蔵 ,   高木健一 ,   吉川洋 ,   田邉美香 ,   喜多岳志 ,   熊野誠也 ,   中山正道 ,   園田康平

ページ範囲:P.1092 - P.1096

要約 目的:眼瞼に外毛根鞘腫を認めた2例の報告。

症例:症例1は78歳,女性。2年前から存在する眼瞼腫瘍切除目的に初診した。左上眼瞼外側皮膚に3.5mm×4.0mmの黄白色調,中央部には陥凹を伴い,同部位に角質様の付着物を伴う腫瘤を認めた。全摘出したところ,切除組織は,HE染色で胞巣の一部に淡明な腫瘍細胞が柵状配列を呈しており,外方増殖と内方増殖を同時に示していた。表層には錯角化を認め,腫瘍細胞の一部に核周囲のhaloを伴っており,外毛根鞘腫と確定診断した。切除後3か月において,明らかな腫瘍の再発はない。症例2は74歳,女性。1年半前,右上眼瞼内側に腫瘤を自覚し,初診した。初診時,右上眼瞼内側皮膚に大きさ7mm×5mm,色調は黄色,中央部には陥凹し,付着物と軽度の睫毛禿を認める腫瘍を認めた。腫瘤を生検し,切除組織はHE染色で症例1と同様の所見を認め,外毛根鞘腫と確定診断した。残存腫瘍を余剰皮膚とともに切除し,切除後半年において再発はない。

結論:外毛根鞘腫は眼瞼にも生じうるため,鑑別診断の1つに挙げておく必要がある。

外傷性の眼窩内骨膜下血腫に対して手術を行い視力改善した1例

著者: 武田莉沙 ,   石戸岳仁 ,   渕野恭子 ,   小島一樹 ,   藤井晶子 ,   井上克洋

ページ範囲:P.1097 - P.1102

要約 目的:眼窩内骨膜下血腫は比較的稀な疾患であり,重篤な場合に視力低下をきたすことがある。手術により視力改善が得られた症例について報告する。

症例:17歳,男性。兄弟喧嘩で左眼窩部を受傷した。初診時の左眼視力は(1.2),左眼圧47mmHgと高値であった。薬物治療により翌日には左眼圧28mmHgに降圧されたが,4日後に左眼窩内骨膜下血腫が増大し,左眼視力は0.01(矯正不能)に低下した。眼窩内骨膜下血腫による圧迫性視神経症と診断し,緊急で眼窩内血腫洗浄ドレナージ術を施行した。術後翌日,左眼視力は0.1(矯正不能)に改善された。術後3日目には左眼視力0.7(矯正不能)とさらに改善がみられ,頭部CTでは術後眼窩内骨膜下血腫は著明に改善した。

結論:治療は観血的治療と保存的治療があるが,網膜や視神経に不可逆的な循環障害を生じると,血腫を除去しても視力予後が不良な場合がある。そのため,眼窩内骨膜下血腫がみられた場合,慎重に視力検査や眼底診察を行い,頭部CTや頭部MRIで血腫の大きさを評価することで観血的治療を行うタイミングを逃さないことが肝要であると考えられた。

今月の表紙

200V電線による眼部電撃症

著者: 曽谷育之 ,   中澤満

ページ範囲:P.1071 - P.1071

 患者は57歳,男性。作業中に誤って200Vの電流が流れる電線を切断したところ,電撃症により眼部を受傷した。直後から強い眼痛および視力低下をきたし,当院受診となった。初診時,両眼の視力はいずれも指数弁であり,角膜は広範囲の熱凝固がみられ,その表面に焼けた睫毛もしくは鉄片と思われる黒色物が付着していた(上段・両眼)。生理食塩水500mlにて洗浄したところ,熱凝固した角膜上皮は一塊として剝離し広範囲のびらんとなった(下段・両眼)。明らかな角膜輪部や角膜実質の障害はなかった。洗眼処置後は点眼,眼軟膏,内服で感染予防と消炎ならびに角膜の正常な上皮化に努めたところ,3日目には角膜の上皮化が得られ,最終的な矯正視力は右1.0,左1.2となった。撮影には3CMOSカメラSP-321 FRex2(JFCセールスプラン)を用いた。接眼部の視度調整を厳密に行い,ディフューザーを使用し,角膜全体が写るように撮影した。熱凝固した角膜上皮のみが境界鮮明に剝離している様子が観察でき,印象的であった。

海外留学 不安とFUN・第56回

オレゴンから留学便り・3

著者: 坪井孝太郎

ページ範囲:P.1090 - P.1091

 ここまでラボの紹介,留学準備と話をさせてもらいましたが,最終回は留学の良さについて書きたいと思います。

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目次

ページ範囲:P.1066 - P.1067

欧文目次

ページ範囲:P.1068 - P.1069

第38回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1089 - P.1089

べらどんな ハイフン

著者:

ページ範囲:P.1150 - P.1150

 日本では男女が結婚すると,同じ姓を名乗らなければならない。ほとんどが男性の名字を使うことになるが,例外はある。

 隣国の中国では男女別姓が原則なので,こういう事態はあり得ない。有名なのが蒋介石で,中華民国の総統であった。蒋が姓で介石が名である。ところが,蒋介石夫人は宋家の出身なので,宋美齢の名を通した。

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1165 - P.1169

希望掲載欄

ページ範囲:P.1172 - P.1172

アンケート用紙

ページ範囲:P.1174 - P.1174

次号予告

ページ範囲:P.1175 - P.1175

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.1176 - P.1176

 新型コロナウイルス禍でさまざまな社会活動が制限されつつも,これまでの伝統的習慣や行事が省略・簡素化されながら新しい形態に移行しているのもひとつの時代の流れでしょうか。今年初め頃まではマスクと言えば白いものという固定観念がありましたが,今ではさまざまな色や模様の入ったものまであり,それぞれが個性を主張しているかのようです。最初はちょっと異様に思いましたが,次第に見る側も順応させられて違和感なく見られるようになりました。

 ところで,臨床眼科9月号の「今月の話題」は北里大学神谷和孝教授による「AIの角膜形状解析への応用」です。スリットランプで人間が定性的に観察したたけでは解析不可能な部分について,角膜形状解析装置やさらには前眼部OCTから出力されるさまざまなパラメータを人工知能(AI)が解析し,円錐角膜の診断に応用できる時代になってきたことが解説されています。AIによって人間の仕事の多くが取って代わられるようになり,やがて医師自身による診断が不要になる時代が来るのではと危惧される向きもありますが,現実の日常臨床の場では診断に苦慮する場面は実に多いものです。例えば,炎症性の病変を診たときに感染性なのか非感染性なのかの判断は,抗菌薬かステロイドかの異なる治療手段の選択を迫られますので,編集子などはその都度,目を皿のようにして所見を捕まえることを余儀なくされます。このようなときにAIの判定がもしあれば,我々もより安心して診療できるようになるのではという期待があります。おそらく,そのようなAI診断なら我々の順応も早いのではないでしょうか。今月号では,そのような診断に苦慮させられそうな症例の報告も学会講演原著として数多掲載されています。通読するだけで読者諸氏の診療レベルがアップデートされることは間違いなしでしょう。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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