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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科75巻10号

2021年10月発行

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特集 第74回日本臨床眼科学会講演集[8] 原著

患者・市民参画を取り入れた花粉症用スマートフォンアプリケーション“アレルサーチ”による双方向性研究実現に向けた基盤研究

著者: 藤尾謙太 ,   猪俣武範 ,   中村正裕 ,   岩上将夫 ,   海老原伸行 ,   中村真浩 ,   藤澤空見子 ,   武藤香織 ,   岡野光博 ,   奥村雄一 ,   井出拓磨 ,   野尻宗子 ,   赤崎安序 ,   長尾雅史 ,   藤本啓一 ,   村上晶

ページ範囲:P.1328 - P.1338

要約 目的:一貫した患者・市民参画(PPI)を実施し,花粉症用スマートフォンアプリケーション(スマホアプリ)へ多角的な視点の導入と双方向性研究実現に向けた基盤を構築する。

対象と方法:2019年11月〜2020年1月にPPI委員を公募・採用し,2020年2〜9月に意見交換会を開催した。PPI委員,研究者に対し意見交換会の双方向性評価を実施した。PPIによるスマホアプリへの多角的な意見の取り入れと,研究結果の迅速なフィードバックによる双方向性の研究基盤の開発を行った。

結果:PPI委員は3名(男性1名,女性2名)が採用され,意見交換会は5回実施された。意見交換会による研究計画やスマホアプリの調査項目の追加・変更は93項目であった。意見交換会の双方向性評価から,PPI委員の発言機会の確保,研究班が求める役割の明確化などの意見を収集した。スマホアプリで収集した情報がリアルタイムで閲覧可能なウェブページを2020年3月に作成した。2020年8月にPPIを取り入れた花粉症用スマホアプリをリリースした。

結論:研究開発から研究成果の公表までPPIを一貫して行ったわが国初の花粉症スマホアプリ研究を実施し,花粉症用スマホアプリへの多角的な視点の導入と双方向性研究実現に向けた基盤を構築した。一貫したPPIの取り組み事例の研究コミュニティへの共有は将来の研究の効果的な推進と社会構築へ貢献できる可能性がある。

ゴルフボールによる外傷性網膜剝離に対して硝子体手術を施行した1例

著者: 岡雅美 ,   佐藤孝樹 ,   大須賀翔 ,   水野博史 ,   喜田照代 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1339 - P.1343

要約 目的:ゴルフボールによる眼外傷は眼球破裂に至り視機能予後が不良とする報告が多い。今回,ゴルフボールによる眼球破裂例に対して硝子体手術を施行し,比較的良好な経過をたどった1症例を経験した。

症例:53歳,男性。自分で打ったゴルフボールが跳ね返り至近距離で左眼直撃,左眼の視力低下を主訴に大阪医科大学病院眼科を受診した。左眼は眼瞼腫脹,結膜下出血,前房出血を認め,眼底は透見不能であった。超音波Bモード検査で硝子体出血を認めた。眼球破裂の可能性が高いと判断し硝子体手術を施行した。前房洗浄後,水晶体亜脱臼を認めた。眼球破裂を疑う部位はテノン囊で被覆されていた。眼底は網膜剝離と網膜壊死を認め,硝子体切除後に,気圧伸展網膜復位術,眼内光凝固,シリコーンオイルタンポナーデを施行した。後日,シリコーンオイル抜去,眼内レンズ毛様溝縫着,瞳孔形成を行い,視力は(0.2)まで回復した。

結論:ゴルフボールは他の競技の球よりも小さく眼窩内に嵌入しやすく,打球のスピートも早いため眼球破裂をきたしやすいが,本症例は眼球破裂部位が小さく凝血塊で被覆され,後方に生じたため眼球内容の脱出が少なかったことが予後良好の一因と考えられた。

血管新生緑内障をきたした小児網膜中心静脈閉塞症

著者: 竹内正興 ,   千原智之 ,   嶋千絵子 ,   盛秀嗣 ,   大中誠之 ,   日下俊次 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1344 - P.1350

要約 緒言:小児に網膜中心静脈閉塞症(CRVO)から血管新生緑内障を生じた稀な症例の報告。

症例:6歳,男児,双生児の弟。左眼視力低下と飛蚊症を訴え関西医科大学附属病院眼科を紹介され受診した。初診時左眼矯正視力は1.5,左眼圧は15mmHgで左眼底には視神経乳頭浮腫,網膜静脈の拡張蛇行と広範囲の網膜血管吻合,網膜出血,網膜静脈の白鞘形成,網膜のびまん性浮腫,黄斑の不完全な星芒斑を認めた。原因検索のため全身検査を行ったが異常はなかった。乳頭血管炎を疑いプレドニゾロン20mg/日内服を開始したが,網膜前出血が拡大したため1か月後にフルオレセイン蛍光眼底造影検査を施行したところ,網膜静脈と視神経乳頭部からの強い蛍光漏出と広範な網膜無灌流領域を認めた。出血はCRVOによる乳頭上新生血管が原因と考え,1.5か月後全身麻酔下に汎網膜光凝固とベバシズマブ硝子体内注射(IVB)を施行したが,網膜前出血がさらに拡大したため,5か月後に近畿大学病院にて硝子体手術とIVBを施行した。網膜復位2か月後に左眼圧52mmHgと上昇し血管新生緑内障を発症したため,再度光凝固追加とIVB,毛様体レーザー,トリアムシノロンテノン囊下注射を施行した。術後眼圧は下降し,現在眼圧の再上昇は認めないが,左眼視力は光覚弁となった。

結論:小児の乳頭血管炎を疑う場合でも,重篤な虚血型CRVOが発症しうることに注意し,早急な網膜虚血への対策が重要である。

内因性細菌性眼内炎に対し硝子体手術を施行した4例

著者: 安達まい ,   木崎順一郎 ,   齋藤雄太 ,   和田悦洋 ,   浅野泰彦 ,   小菅正太郎 ,   和田清花 ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.1351 - P.1357

要約 目的:内因性細菌性眼内炎に対し硝子体手術を施行した4症例を報告する。

症例:症例1は83歳,女性。左眼内炎で初診時左眼視力は10cm指数弁であった。同日より抗菌薬の点滴静注を施行し,第3病日に硝子体内注射を,第11病日に硝子体手術を施行した。左眼視力は最終的に(0.5)を得た。血液培養からAggregatibacter actinomycetemcomitansが検出された。

 症例2は51歳,男性。両眼眼内炎で初診時矯正視力は右0.02,左10cm指数弁であった。同日抗菌薬の両眼硝子体注射と点滴静注を,第4病日に右眼硝子体手術を施行したが両眼失明に至った。肝膿瘍ドレナージにてKlebsiella pneumoniaeが検出された。

 症例3は46歳,女性。右眼内炎で初診時右眼矯正視力は0.01であった。同日より抗菌薬の点滴静注を開始した。第53病日に硝子体手術を施行し,右眼手術から3か月で右眼視力は0.3まで改善した。尿路感染,左腸腰筋膿瘍が疑われ,血液培養からStreptococcus agalactiaeが検出された。

 症例4は73歳,女性。肺炎と意識障害で入院し,各種培養からK. pneumoniaeが検出され,抗菌薬の全身投与が行われていた。意識回復後に左眼痛を訴え当科を受診し左眼視力は光覚弁であった。硝子体手術施行したが,失明に至った。

結論:内因性細菌性眼内炎は抗菌薬の全身投与が第一であり,早急な治療開始を要する。経時的な悪化や網膜剝離などの合併が疑われた際には手術に踏み切り,手術困難な場合は硝子体注射の頻回投与を考慮すべきである。

ぶどう膜炎既往のある強皮症の男性に白内障手術を施行した1例

著者: 中山馨 ,   上甲覚

ページ範囲:P.1358 - P.1363

要約 目的:ぶどう膜炎を併発した強皮症の男性患者で,両眼の白内障に超音波水晶体乳化吸引術(PEA)と眼内レンズ(IOL)挿入術を施行した症例の報告。

症例:手術時69歳の男性。

所見と経過:57歳時に,他施設で両眼に眼底病変を伴うぶどう膜炎と続発緑内障を認めた。ステロイド点眼でぶどう膜炎と高眼圧は改善した。61歳時に当科に紹介された。その後,再燃はなかったが,白内障が進行し,視力は右0.7,左0.6まで低下した。69歳時,両眼にPEAとIOL挿入術を施行した。術中,特記すべき合併症はなかった。術後10か月,炎症の再燃もなく眼圧も安定していた。術後の最高視力は両眼とも1.2であった。

結論:10年以上前に,ぶどう膜炎と続発緑内障を併発した強皮症患者の白内障にPEAとIOL挿入術を行った。短期的には,術後合併症は起こさなかった。

Lポケット切開法による計画的囊外摘出術が有効であった小角膜症3例

著者: 鈴木幹崇 ,   森春樹 ,   松島博之 ,   永田万由美 ,   妹尾正

ページ範囲:P.1364 - P.1371

要約 目的:小角膜症例の核硬度の高い白内障に対しLポケット切開法を応用することで水晶体囊外摘出術(ECCE)を効果的に行えた3症例を報告する。

方法と症例:小角膜症例では角膜径が小さい一方で水晶体は正常の大きさであることが多く,白内障手術が困難である。今回,太田らによって報告されたLポケット切開法を応用して切開創を拡大してECCEを行い良好な結果が得られたので報告する。方法は太田らの報告したLポケット切開を横9mm,縦切開2mmを作製し,連続環状囊切開(CCC)作製後2か所減張切開を作製して,水晶体核の娩出を行った。症例1は64歳,女性。ペータース異常を指摘され,角膜縦径6.7mm,横径7.4mmであった。術前視力は左30cm指数弁(矯正不能),エメリー・リトル分類Grade 4の白内障に対してECCEを行い,術後視力は左(0.01)であった。症例2は78歳,女性。小眼球と非定型コロボーマを認め,角膜縦径7.7mm,横径8.0mmであった。術前視力は右(0.01)で,エメリー・リトル分類Grade 4の白内障に対しECCEを行い,術後視力は右(0.08)であった。症例3は63歳,女性。小眼球とコロボーマを認め,角膜縦径8.2mm,横径8.8mmであった。術前視力は左30cm手動弁で,エメリー・リトル分類Grade 5の白内障であった。核が大きく硬く娩出が困難であり,横切開を拡大した。術後視力は左0.02(矯正不能)であった。

結論:小角膜症の核硬度が高い症例に対してLポケット切開法を応用することで,安全にECCEを施行することが可能であった。

急性網膜壊死治療後のアシクロビル予防量投与中に僚眼に発症した1例

著者: 鈴木映美 ,   岩西宏樹 ,   安田慎吾 ,   細井裕樹 ,   雑賀司珠也

ページ範囲:P.1372 - P.1377

要約 目的:片眼急性網膜壊死治療後のアシクロビル予防量投与中に僚眼に急性網膜壊死を発症した症例を経験したので報告する。

症例:66歳,女性。2019年7月に急性骨髄性白血病に対して造血幹細胞移植を施行された。アシクロビル200mg/日内服中に左視力低下を主訴に和歌山県立医科大学附属病院眼科を受診した。初診時視力は右(0.8),左(0.09)。右眼は異常なく,左眼に前房内炎症細胞,網膜周辺の白色病変,裂孔原性網膜剝離を認め同日入院した。入院日から抗サイトメガロウイルス薬,翌日からアシクロビルの点滴治療を施行し,入院6日目に網膜剝離に対して手術を行った。前房水と硝子体液から水痘・帯状疱疹ウイルスが検出され,急性網膜壊死と診断した。アシクロビル点滴(5mg/kg×3回/日)2週間,バラシクロビル内服3,000mg/日2週間の全身投与後,病勢が鎮静化したと判断し,アシクロビル200mg/日を継続したが,約1か月後に右眼に白色病変が出現,その後裂孔原性網膜剝離が発症し左眼と同様の治療を行った。バラシクロビル3,000mg/日内服を3週間継続するも副作用のためアメナメビルに変更したが,血球減少のため再度バラシクロビル1,000mg/日に変更したところ症状は改善,以降再発はない。

結論:造血幹細胞移植の患者を対象とした研究で,アシクロビル200mg/日の有用性が報告されているが,免疫不全状態にある患者の急性網膜壊死の発症および僚眼発症に対する予防はアシクロビル200mg/日では不十分の可能性がある。

角膜内皮移植後の移植片接着不良に対しROCK阻害薬の有効性が示唆された2例

著者: 増田有寿 ,   藤本久貴 ,   三戸裕美 ,   家木良彰 ,   桐生純一

ページ範囲:P.1378 - P.1384

要約 緒言:角膜内皮移植術(DSAEK)後の移植片接着不良に対しROCK阻害薬である0.4%リパスジル塩酸塩水和物(リパスジル)点眼を2回/日にて追加した。その後,外科的追加処置なしで良好な移植片接着となった症例を2例経験した。

症例:症例1は65歳,女性。フックス角膜内皮ジストロフィおよび落屑緑内障により内皮減少を認め,近医で白内障術後に水疱性角膜症(BK)を発症,川崎医科大学附属病院(当院)でDSAEKを施行した。DSAEK直後に空気瞳孔ブロックを起こしたため空気を抜去した。移植片接着不良を生じたため,空気再注入術を予定していたが,リパスジル点眼を行い36時間後に移植片は自然接着を認めた。症例2は75歳,男性。落屑緑内障に対し当院で複数回緑内障手術を施行した後,BKを発症したためDSAEKを施行した。線維柱帯切除後の低眼圧が一因となり移植片接着不良が遷延した。空気や10%SF6ガスを注入するも移植片は接着せず。再移植予定としていたが,リパスジル点眼を投与した1か月後に移植片は自然接着を認めた。

考按:今回,DSAEK後の移植片接着不良に対しROCK阻害薬であるリパスジル点眼が有効であった可能性のある2例を経験した。作用機序は,ROCK阻害によって内皮細胞脱落部への創傷被覆が促進しバリア機能およびポンプ機能が回復したためと推察される。ROCK阻害薬は角膜内皮移植術後の移植片接着不良に対し有用である可能性がある。

若年女性の涙腺に生じた多形腺腫の1例

著者: 中島勇魚 ,   溝渕朋佳 ,   井口みつこ ,   戸井慎 ,   辻英貴 ,   福島敦樹

ページ範囲:P.1385 - P.1389

要約 目的:若年女性に発生した涙腺多形腺腫の報告。

症例:17歳,女性。13歳頃より右上眼瞼外側の腫れを自覚していた。徐々に増大し,高知大学医学部附属病院に紹介され受診した。

所見と経過:右上眼瞼外側深部に弾性硬の腫瘤を触れMRIではT1強調で低〜等信号,T2強調にて等〜高信号を呈する,境界明瞭な径10mmの腫瘍を認めた。視力低下や複視などの視機能障害はなかった。前方アプローチによる腫瘍全摘を施行した。病理結果は多形腺腫で,腺管構造の増生と,間質の粘液腫様および軟骨様変化を呈していたが,細胞異形成は認めなかった。術後経過は良好で,術6か月後に紹介元へ逆紹介とした。

結論:小児の眼窩腫瘍では類皮囊腫などが多いが,本症例のように多形腺腫の可能性についても留意が必要であると考えられた。

視覚障害者の就労支援ツールの開発 第2報 改良支援ツールと輪状暗点

著者: 高橋広 ,   氏間和仁 ,   岩井克之 ,   村上美紀 ,   山田敏夫 ,   吉田治 ,   山田信也 ,   落合信寿 ,   近藤寛之

ページ範囲:P.1390 - P.1396

要約 目的:視覚障害者の就労支援において,視覚障害者の見え方の理解が鍵である。これまでタブレット端末で視野障害の状況を共有できるツールを開発したが,輪状暗点の理解は不十分であった。そこで,改良を加えた試作版を開発したので,その有用性を紹介する。

対象と方法:北九州市立総合療育センター眼科を2020年1〜4月に受診した輪状暗点を呈する視野障害者の支援者10名に対し,タブレット端末の新旧支援ツール試作版を見せ,見え方がイメージできるかどうかを質問し,イメージできた人数を比較した。

結果:「イメージできない」と回答した支援者は新旧バージョンともいなかったが,旧バージョンでは「少しできた」と回答した支援者が1名で,「できた」と回答したのは8名で,「非常にできた」としたのは1名であった。一方,新バージョンでは2名が「できた」と答え,他の8名は輪状暗点のイメージが「非常にできた」と回答し,有意に違いがみられた。

結論:新バージョンは操作が容易で,輪状暗点をイメージしやすくなり,眼疾患の理解を深めることもできた。このことにより,就労場面において,多くの支援者と共通認識ができる可能性が示唆された。

ロービジョン外来を受診した黄斑部萎縮の8症例におけるFunctional Vision Score評価

著者: 鶴岡三惠子 ,   井上賢治

ページ範囲:P.1397 - P.1403

要約 目的:当院のロービジョン(LV)外来を受診した近視性黄斑症の8例についてFunctional Vision Score(FVS)の評価を行ったので報告する。

対象と方法:対象は2019年1月〜2020年3月にLV外来を受診し,カルテの眼底写真より近視性黄斑症の国際分類のカテゴリー3,4と判定した8例を対象とした。平均年齢は77.0±11.1歳(55〜91歳),性別は全8例が女性であった。合併疾患は緑内障が2例4眼,角膜変性が1例2眼,黄斑円孔が1例1眼であった。視力・視野,身体障害者手帳(手帳)の等級,FVS,LVケアについて後ろ向き調査を行った。

結果:視力良好眼の視力は0.02〜0.3であった。視野は,5例で両眼の中心暗点もしくは傍中心暗点を,3例で片眼の中心暗点もしくは傍中心暗点を認めた。視覚の手帳は全員が取得しており,等級は1級2例,2級3例,4級2例,5級1例であった。FVSは4〜43(平均24±15)で,American Medical Association classを用い判定すると,class 4の全視覚障害が3例,class 3bの極度視覚障害が2例,class 3aの重度視覚障害が3例であった。LVケアでは4例で補助具が必要で音声図書・音声グッズの使用が適用となった。

結論:FVS判定では3例が全視覚障害に該当し,音声補助具が必要で,他5例もclass 3の極度視覚障害もしくは重度視覚障害に該当し,音声補助具が必要であった。

LS-313 MF15を挿入する白内障手術併用黄斑前膜手術

著者: 高須逸平 ,   高須貴美 ,   貝原懸斗 ,   星原徳子

ページ範囲:P.1404 - P.1409

要約 目的:LS-313 MF15(Oculentis社)眼内レンズ(IOL)を挿入する白内障手術併用黄斑前膜(ERM)手術について報告する。

対象と方法:対象は,2019年5月〜2020年8月に高須眼科でLS-313 MF15を挿入する白内障手術併用ERM手術を施行した連続20名22眼である。全例,白内障と屈折異常,特発性ERMの他に眼科疾患はなく,術中合併症はなかった。術前と術後1か月に中心窩網膜厚(CMT),M-CHARTS®,遠方視力,中間(1m)視力,近方(40cm)視力を測定した。

結果:本IOL挿入下での硝子体手術中,焦点が2つに分かれて見えたが,意図する範囲のERM剝離および内境界膜剝離が可能であった。術前の裸眼logMAR視力(矯正logMAR視力)は,遠方0.67±0.49(0.10±0.15),中間0.48±0.34(0.10±0.10),近方0.51±0.22(0.15±0.14)に対して,術1か月後のlogMAR視力は,遠方0.15±0.20(0.00±0.08),中間0.08±0.13(0.03±0.06),近方0.24±0.15(0.12±0.16)であった。術前に比して術後1か月で遠方と中間視力は裸眼・矯正ともに有意に改善した。CMTとM-CHARTS®に有意差はなかった。

結語:本IOLを挿入する白内障手術併用ERM手術は術中視認性に問題なく,術1か月後に遠方から中間まで視力は有意に改善した。

連載 今月の話題

眼科領域初の再生医療製品としてのヒト(自己)角膜輪部由来角膜上皮細胞シート

著者: 大家義則

ページ範囲:P.1287 - P.1292

 角膜上皮幹細胞疲弊症に対する治療として,患者の健常眼由来の角膜輪部を原材料として角膜上皮細胞を培養し,患眼に移植する自家培養角膜上皮細胞シート移植が開発されている。今回,治験によってその有効性および安全性が検証され,眼科領域における国内初の再生医療製品であるネピック®として承認を得たので,本稿で紹介する。

Clinical Challenge・19

緑内障治療中に強い角膜混濁を生じた症例

著者: 中澤満 ,   原藍子

ページ範囲:P.1282 - P.1285

症例

 患者は80歳,男性。近医にて緑内障と白内障のため点眼治療を続けていた。それまでは特に自覚症状はなかったが,半月くらい前から右眼の異物感を自覚していた。最近,他人から右眼が白くなっていると指摘されることがあり,心配になり近医を受診したところ,右眼角膜の混濁を指摘されて,同日弘前大学医学部附属病院眼科(当科)へ紹介となった。眼脂はない。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・13

—成人の近視にはどうしたらよいか?—成人の近視に対するphakic IOL

著者: 北澤世志博

ページ範囲:P.1293 - P.1302

◆Phakic IOL(有水晶体眼内レンズ)は後房型のICLが中心になってきた。

◆屈折矯正手術はLASIKが減少し続けている一方で,LASIKの欠点を補完でき,抜去すれば元に戻せるICLが急速に増加している。

◆ICLはレンズの中心に房水貫通孔の役割があるホールにより術後合併症は危惧されなくなり,残された課題であったサイズの問題も解決されつつある。

臨床報告

特発性黄斑円孔自然閉鎖例の臨床的特徴

著者: 佐藤孝樹 ,   大須賀翔 ,   水野博史 ,   河本良輔 ,   福本雅格 ,   小林崇俊 ,   喜田照代 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.1307 - P.1313

要約 目的:特発性黄斑円孔(IMH)自然閉鎖症例の特徴について検討したので報告する。

対象と方法:2016年1月〜2018年12月に大阪医科大学眼科でIMHと診断された110例112眼のうち,自然閉鎖した6例6眼について,初診から閉鎖までの期間,黄斑円孔(MH)のステージ,円孔径,閉鎖前,閉鎖直後の円孔底径,視力,視神経乳頭縁から黄斑耳側血管および鼻側血管までの距離を後ろ向きに検討した。

結果:自然閉鎖率は112眼中6眼(5.35%)。初診から閉鎖までの期間は平均18.2±8.8日。MHのステージは2が1眼,3が2眼,4が3眼であった。黄斑上膜併発例が2眼あった。初診時の円孔径は70.7±17.0μm,円孔底径は閉鎖前341.7±243.6μm,閉鎖直後266.0±334.6μmで閉鎖直後も円孔底に空隙が残存し閉鎖前後で有意差はなかった。logMAR視力は閉鎖前0.24,閉鎖後0.06で閉鎖前後で有意差はなかった(p=0.11)。視神経乳頭縁から黄斑鼻側血管までの距離は閉鎖前3,607.2±301.7μm,閉鎖後3,647.0±304.2μm(p=0.26),黄斑耳側血管までの距離は閉鎖前5,024.8±301.1μm,閉鎖後5,101.7±327.2μm(p=0.06)と,閉鎖前後で有意差はなかった。

考按:円孔径が小さな症例では自然閉鎖する可能性があるため3週間程度は経過観察するのがよいと思われた。円孔閉鎖後も円孔底に空隙を認めることが多く,閉鎖前後で黄斑部周囲の明らかな網膜血管走行の移動は認められなかった。

後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)術後に神経障害性疼痛が疑われた1例

著者: 鄭有人 ,   柿栖康二 ,   岡島行伸 ,   糸川貴之 ,   堀裕一

ページ範囲:P.1315 - P.1320

要約 目的:後房型有水晶体眼内レンズ(ICL)術後に神経障害性疼痛が疑われた1例を報告する。

症例:40歳,男性。20歳時にLASIKを両眼に施行。近医でICL手術を1年前に行った。術後3か月の間に2回虹彩毛様体炎を発症し,ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼液とレボフロキサシン点眼液4回/日,両眼で治療を行った。虹彩炎が寛解しても左眼に眼痛,羞明感,眼乾燥感が出現した。ICLのリサイジングのため,2回ICLを交換する手術を施行したが症状が改善せず,東邦大学医療センター大森病院眼科を受診した。

 初診時にドライアイ,再診時にICLの虹彩刺激と診断し,レバミピド点眼液,ジクアホソルナトリウム点眼液,トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩点眼液により治療を開始した。症状は緩和したが,疼痛が残存したためICLを他院で抜去した。ICL抜去後も一部点眼治療で緩和されない疼痛が残存し,神経障害性疼痛と診断し,プレガバリン内服で治療を開始した。これにより,残存していた疼痛は減少し,自制範囲内とすることに成功した。

結論:LASIKなどの角膜手術やICL手術を契機として,ドライアイ以外の疼痛原因となる神経障害性疼痛を発症している可能性がある。そのような事例では早急な原因検索と診断加療を行う必要がある。

線維柱帯手術後に生じた上脈絡膜出血

著者: 尾崎弘明 ,   鈴木脩司 ,   藤田皓 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1321 - P.1327

要約 目的:上脈絡膜出血は内眼手術における最も重篤な合併症であり,線維柱帯手術後に稀に生じる。今回筆者らは,緑内障術後の早期に生じた上脈絡膜出血の2例を経験したので報告する。

症例:症例1は38歳,男性。既往歴としてアトピー性皮膚炎に合併した網膜剝離に対して強膜輪状締結術,硝子体手術,白内障手術。視力は右(0.9),眼圧は右38mmHg。右眼は人工的無水晶体眼であった。右眼に線維柱帯切除術を行ったところ術後2日目に高度の上脈絡膜出血を認めた。視力は手動弁で,網膜はkissingの状態であった。即日に硝子体手術,シリコーンオイル注入術を行い,計3回の手術を行った。最終視力は(0.2)に改善した。症例2は62歳,女性。左眼の高度近視,人工的無水晶体眼でぶどう膜炎,続発緑内障にて加療されていた。視力は左手動弁(矯正不能),眼圧は28mmHg。左眼に対して線維柱帯切除術を施行したところ術翌日から上脈絡膜出血を認めた。経過観察を行うも改善なく,2週間後に経強膜的血腫除去術,硝子体手術を施行したところ,出血は消失し眼圧も下降したが視力は光覚弁となった。

結論:上脈絡膜出血の危険因子を複数有する症例では,線維柱帯手術後に上脈絡膜出血が生じることがあり注意を要する。上脈絡膜出血が出現した際には適切な時期での手術加療を要する。

今月の表紙

真性小眼球

著者: 後藤肇 ,   森隆三郎 ,   川村昭之 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.1286 - P.1286

 患者は51歳,女性。視力低下の自覚があり近医を受診した。視力は右0.03(0.5×+16.50D()cyl−0.50D 95°),左0.02(0.2×+18.00D()cyl−1.00D 130°),眼圧は右10mmHg,左15mmHgであった。前眼部・中間透光体に異常はなかった。眼底は両眼とも偽乳頭浮腫,網膜襞,周辺部網膜血管の走行異常を認めた。眼軸長は右15.58mm,左15.61mmであり強度遠視であったため真性小眼球と診断した。

 光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)では中心窩陥凹は消失し,内層遺残,網膜襞を認めた。また網膜厚・脈絡膜厚は肥厚がみられ中心窩脈絡膜厚は420μmであった。OCT血管撮影(OCT angiography:OCTA)では,網膜浅層(superficial)および深層(deep)において中心窩無血管域(foveal avascular zone area:FAZ)の消失がみられた。家族歴として54歳の兄も強度遠視を伴う真性小眼球である。

海外留学 不安とFUN・第69回

SERIでの留学を経験して・3

著者: 松村沙衣子

ページ範囲:P.1304 - P.1305

家族との生活

 留学をする決め手として,タイミングの問題があると思います。現在の仕事や研究が手を離せない,家族特に子どもの教育計画など悩みの種はたくさんあります。私の場合は国立シンガポール大学に留学した主人に合わせて家族の移住を決めましたが,最初は小さい子どもたちの学校探しやメイドの手配など,生活環境を整えるのに時間がかかりました。現地の日本人のネットワークがとても役立ち,有用な情報を得ることができました。

 家族を連れた留学のFUNは家族との時間の確保と子どもの教育でしょうか。日本で夫婦ともに臨床生活をしていた頃と比べると,研究生活はフレキシブルですので,長期休暇を使用したくさん家族旅行に行くこともできました。娘たちは驚異的なスピードで英語を吸収し,世界中にたくさんの友人を作っていました。帰国後の現在も母国はいまだにシンガポールと思って過ごしているようです。今でも家に飛び交う姉妹間の英語での会話を聞きながら,留学にかけたお金はプライスレスだったはずと信じながら留学の余韻に浸っている毎日です。

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目次

ページ範囲:P.1278 - P.1279

欧文目次

ページ範囲:P.1280 - P.1281

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1410 - P.1413

アンケート用紙

ページ範囲:P.1418 - P.1418

次号予告

ページ範囲:P.1419 - P.1419

あとがき

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.1420 - P.1420

 第75回日本臨床眼科学会の開催が近づいてきました。「あとがき」の執筆時点では,現地開催とWEBを併用する形で準備が進んでいます。今年の臨眼のプログラム委員長を拝命しております私は,現地に入って学会出席を予定しております。学会長の坂本泰二先生,ご心配なく! 絶対に福岡国際会議場に参上いたします!(笑)

 ところで,施設によっては禁止命令が出ているところもあるそうですが,私はこのような禁止命令には疑問を抱いています。日本国憲法の第22条には「何人も,公共の福祉に反しない限り,居住,移転及び職業選択の自由を有する」とあり,第21条には「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由は,これを保障する」とありますから,学会に行ったり,みんなで集まって議論したりすることを禁じることはできないはずです。「公共の福祉に反しない限り」とあるので,感染拡大防止は適用されるという意見もありますが,憲法解釈が必要なので,大学や病院レベルで判断することは無理です。裁判所で判断してもらうか,国会で憲法を改正していただかなくてはなりません。職員だからその施設の規則に従う必要はあるという意見もあります。でも有給休暇や土日に自費で学会現地参加する場合はどうなのでしょう? そこまで禁止するのは,人権侵害のように私には思えてなりません。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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