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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科75巻2号

2021年02月発行

雑誌目次

特集 前眼部検査のコツ教えます。

企画にあたって

著者: 井上幸次

ページ範囲:P.151 - P.151

 前眼部は後眼部と違って直接見ることができるし,直接触れることができるので,いろいろな手法の検査を,しかも手軽に行うことができるという利点がある。そのため,さまざまな検査が開発され日常臨床で活用されている。

 ひとことで前眼部検査といっても千差万別であり,塗抹検鏡や培養のようなサンプルを採取する検査もあれば,スペキュラーマイクロスコープやコンフォーカルマイクロスコープのような直接細胞や組織をみる検査,そして,前眼部OCTや波面収差計のようなデジタル化を強力に使用する検査もある。塗抹検鏡や培養のような古典的な検査では,技術的なハードルが高く修練を積む必要があるが,最近開発された検査は特別の技術がなくても容易にできそうではある。しかし,技術的なハードルが高そうな検査にも,こうすればうまくいくという秘訣があるはずであるし,容易にできそうな検査といえども,実際にたくさんの検査を行っている人にはそれぞれの密かなコツがあるはずである。また,検査がたくさんできて,情報が多いのはよいことではあるが,逆に情報が過多になると,得られたデータのどこを見てどう解釈するかということ,そしてこれをどのように診療に生かしていくかということが難しくなり,これらのポイントを熟知するには実は大変経験を要する。そして,そのポイントを知らずに誤った解釈を行ってしまうと,折角得られたデータが無駄になるだけでなく,逆に診断の足を引っ張ることにもなりかねない。

角膜形状解析

著者: 平岡孝浩

ページ範囲:P.152 - P.162

●3種類のマップ(Axial powerマップ,Instantaneous powerマップ,Refractive powerマップ)と2種類のスケール(absolute scale,normalized scale)の違いを理解することが重要である。

●カラーコードマップで定性的に読影したあとに,さまざまな指数をチェックする。各指数を理解すると情報量が格段に増加する。

●フーリエ解析や円錐角膜スクリーニングなどのアプリケーションソフトを有効活用する。

●シャインプルーク方式では3次元的な評価が可能となる。特に角膜後面形状評価は近年重要視されるようになり,白内障診療においても不可欠の要素となってきた。

前眼部OCTの使い方

著者: 神谷和孝

ページ範囲:P.163 - P.170

●前眼部OCTは,角膜のみならず,隅角,虹彩,水晶体など前眼部に特化した断面形状を,非侵襲的かつ高精度に計測可能である。

●前眼部OCTによって,白内障手術における高付加価値眼内レンズ選択,白内障術後評価,円錐角膜スクリーニング,進行評価,有水晶体眼内レンズサイズ選択,角膜内皮移植,隅角計測,濾過胞解析などが可能である。

●現状における角膜形状解析検査,角膜曲率半径計測以外の保険適応としては,急性緑内障発作を疑う狭隅角眼,角膜移植術後,外傷後毛様体剝離に対する前眼部3次元画像解析がある。

波面センサー

著者: 藤本聡子 ,   高静花

ページ範囲:P.171 - P.177

●波面センサーは不正乱視を客観的かつ定量的に評価できる有益な解析装置である。

●屈折矯正手術前や白内障手術前の乱視の評価に有用である。

●見え方のシミュレーションができ,患者説明にも役立つ。

スペキュラーマイクロスコープの原理と実際

著者: 藤井祥太

ページ範囲:P.178 - P.182

●スペキュラーマイクロスコープは,細隙灯顕微鏡の鏡面反射法の原理を応用した機械である。

●短時間かつ非侵襲的に,角膜内皮の状態を把握することが可能である。

●撮影条件や症例によっては,細胞密度が誤って計測される場合があり,自動解析結果が妥当であるかを確認する必要がある。

コンフォーカルマイクロスコープ

著者: 横川英明

ページ範囲:P.183 - P.189

●コンフォーカルマイクロスコープを用いると,スリットランプでは見えないような細胞レベルの解像度でen-face画像が得られる。

●感染性角膜炎(アカントアメーバ角膜炎や真菌性角膜炎)において,病原体が観察されるため,早期診断が可能となる。

●角膜ジストロフィや角膜混濁において,混濁の性状や混濁の存在するレベルが詳細に判別されるため,診断の補助となる。

マイボグラフィ

著者: 有田玲子

ページ範囲:P.190 - P.196

●非侵襲的マイボグラフィでさまざまなocular surface疾患のマイボーム腺形態変化が観察できる。

●マイボーム腺機能不全の早期診断,早期治療達成につながる。

●撮影時には反射を避けるよう顔の角度を調整する。

●マイボーム腺の正常な脂が白く反射されるので,黒く映る場合は,量だけでなく質の低下も示唆される。

インターフェロメトリー

著者: 横井則彦

ページ範囲:P.198 - P.204

●ビデオインターフェロメーターにより涙液油層像を得ることができるが,その動態や破壊像から,直下の液層の量的情報や涙液層の安定性についての情報を得ることができる。

●涙液油層の伸展動態は涙液の量的指標となり,涙液減少型ドライアイのスクリーニングや重症度評価に有用である。

●ビデオインターフェロメトリーによりソフトコンタクトレンズ(SCL)表面の涙液層の厚みや安定性についての情報を得ることもでき,SCL関連ドライアイの診療や研究に活用できる。

光学式眼軸長測定装置

著者: 須藤史子

ページ範囲:P.206 - P.213

●眼内レンズ(IOL)度数計算では,①生体計測の精度を上げること,②適切な計算式を選択すること,③最適化されたIOL定数を使用することの3つが重要となる。

●生体計測は現在ではフーリエドメイン方式搭載装置が主流となり測定は簡便化しているが,得られた測定値が適切であるかを見極める力が逆に要求されている。

●標準解剖を逸脱した特殊解剖眼が約15%に存在することから,盲目的にIOL度数計算をしていると術後屈折サプライズが起こりやすいため要注意である。

塗抹検鏡と培養検査—両者の本質的違いは?

著者: 秦野寛

ページ範囲:P.215 - P.220

●角結膜炎症診断の最終教師は教科書や熟練医師ではない。顕微鏡である。

●“真菌こそ塗抹”である。大きく形態も解りやすく,未治療例が多い。

●最終的起炎菌診断は,塗抹と培養の整合的所見による。培養だけだと雑菌をつかむ。

連載 今月の話題

線維柱帯細胞による房水流出抵抗の制御

著者: 本庄恵

ページ範囲:P.143 - P.149

 房水は毛様体で産生され,線維柱帯流出路(主経路)とぶどう膜強膜流出路(副経路)から排出されるが,開放隅角緑内障での眼圧上昇は主に主経路の流出抵抗増加によるとされる。流出抵抗制御のメカニズムにおける線維柱帯細胞の役割について研究が進められており,本稿では房水流出抵抗増加の病態と線維柱帯細胞の関係について考察する。

Clinical Challenge・11

幼少時からの低視力と夜盲の症例

著者: 國吉一樹

ページ範囲:P.139 - P.142

症例

患者:33歳,男性

主訴:幼少時からの夜盲,視力障害と近視

既往歴:両眼の網膜円孔に対するレーザー網膜光凝固

家族歴:母方の叔父が強度近視で視力が悪い。血族結婚なし。

現病歴:生来視力が低く,弱視と診断されていた。小学校低学年から近視の眼鏡をかけており,近視は徐々に進行している。また,物心がついたころから暗いところが見づらかった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・5

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児の近視の眼鏡処方

著者: 福下公子

ページ範囲:P.221 - P.229

◆成長に伴い近視は進行するが,生活環境・社会環境もその要因となっている。

◆小児の屈折度の決定には,調節麻痺薬使用による他覚的屈折検査を必要とする。

◆小児の眼鏡処方には,過矯正にならぬよう,また眼精疲労を避けるため,装用テストを行う。

眼科図譜

落屑症候群の囊内眼内レンズ脱臼例の超音波像

著者: 柊山剰 ,   上岡弥生 ,   森高ルミ

ページ範囲:P.257 - P.260

緒言

 高齢者の診察において,虹彩の瞳孔縁にふけ様の白い物質が付着しているのを時折見かけることがある。散瞳してみると,あまり開きがよくないが,水晶体の中心にも瞳孔径の大きさほどの円形のふけ様物質,さらに周辺部には膜様にその物質が沈着しているのを認める。偽水晶体前囊落屑である。これらは房水の流路を取り囲む組織,すなわち,毛様体,チン小帯,水晶体,虹彩,角膜,隅角などに沈着するといわれるが,結膜や眼瞼皮膚など眼外にも存在することが証明されており,落屑症候群(pseudoexfoliation syndrome:PEX)と呼ばれる1)。毛様体やチン小帯は,散瞳しても通常の細隙灯顕微鏡検査では観察困難であるが,手術中に内視鏡を用いて観察し,偽落屑物質が多量に沈着しているのを認めたという報告がある2)

 さて,高齢者の白内障手術中の合併症の1つとして,後囊破損とともに,頻度はさほど多くはないがチン小帯断裂がある。これが,術中には起こらず,術後時間をかなり経てからも起こることがあり,その最大の原因がPEXであると報告されている3〜5)。眼内レンズ(intraocular lens:IOL)が水晶体囊内に収まっていれば,囊はチン小帯で毛様体から吊り下げられており,これが断裂するとIOLは囊ごと脱臼する。

臨床報告

眼疾患患者に対する暗所視支援眼鏡MW-10 HiKARIの有用性についての自覚的印象による評価

著者: 木内克治

ページ範囲:P.232 - P.238

要約 目的:眼疾患のある患者に対して,視覚補装具であるHOYA社製の暗所視支援眼鏡MW-10HiKARI(以下,MW-10)の有用性について自覚的印象による評価を行った。

対象と方法:視野狭窄や夜盲,視力低下がある患者25例(男性14例,女性11例)49眼,年齢(平均値±標準偏差)71±12歳(31〜88歳)に対し,MW-10に通常レンズと広角レンズをそれぞれ装着して院内の風景の観察や歩行をしてもらい,使用感について5段階で評価,長所,短所を自由形式で回答してもらった。使用アンケート評価は,①全症例での評価,②網膜色素変性症例での評価,③平均年齢71歳で分類した場合の評価,の3種類で解析した。

結果:①症例全体での検討,および,③平均年齢71歳を境界とした検討では,通常レンズ使用と広角レンズ使用での評価に有意差はなかった。②網膜色素変性患者7例での検討では,広角レンズ使用での評価は通常レンズ使用より有意に高かった(p<0.05)。使用アンケート評価では,「明るく見える」との回答が半数以上を占めたが,短所として「画面が小さい」,「距離感・立体感がつかみにくい」などがあった。

結論:短所に対して改善の余地はあるが,視野狭窄や夜盲がある患者では有用なデバイスであると考えられた。

原因不明の両眼球結膜浮腫をきっかけにクッシング症候群と診断された1例

著者: 渕野恭子 ,   石戸岳仁 ,   武田莉沙 ,   小島一樹 ,   井上克洋

ページ範囲:P.239 - P.243

要約 目的:遷延する原因不明の両眼球結膜浮腫および両眼球結膜充血からクッシング症候群と診断し,原疾患の治療により眼症状の改善が得られた1例について報告する。

症例:53歳,女性。

病歴:6か月前から持続する両眼球結膜浮腫,両眼球結膜充血を主訴に藤沢市民病院眼科を受診した。0.1%ベタメタゾン点眼を使用したが症状は改善しなかった。眼症状の発症と同時期から高血圧,顔面浮腫や両下腿浮腫もみられ胸腹部CT検査を施行したところ,左副腎腫瘍がみられた。血液検査で副腎皮質刺激ホルモンが低値,尿中コルチゾルが高値であり副腎性クッシング症候群と診断され,左副腎摘出術が施行された。手術後速やかな結膜浮腫,結膜充血の改善が得られた。

結論:眼症状を契機に最終的にクッシング症候群の診断に至った症例を経験した。局所の治療に反応せず遷延する両眼の眼球結膜浮腫,眼球結膜充血がみられた場合,全身疾患の1症状として眼症状が起きている可能性があるため他科と連携して精査を進めることが肝要であると考えられた。

広範な網膜下増殖組織を伴った若年性増殖性硝子体網膜症に対し強膜内陥術を施行した2例

著者: 藤岡直樹 ,   産賀真 ,   麻生健一朗 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.244 - P.250

要約 目的:網膜下増殖組織を伴った若年性の増殖性硝子体網膜症(PVR)に対し,強膜内陥術を施行し,網膜復位が得られた2症例の報告。

症例:症例1は18歳の男性。右眼に黄斑剝離を伴う網膜剝離を認めた。原因裂孔は不明であったが,下方150°に及ぶ網膜下増殖索を伴った網膜剝離を認め,PVR新分類grade CP4-9 type 3であった。症例2は25歳の男性。左眼に網膜全剝離を認めた。5時方向に原因裂孔を認め,全象限に及ぶ網膜下増殖索を伴っており,PVR新分類grade CP1-12 type 3であった。2症例とも後部硝子体剝離を認めなかったため強膜内陥術を施行した。網膜下増殖索は残存しているが,バックルによる隆起で裂孔が閉鎖していることを確認し,手術終了とした。症例1では術後6か月後に,症例2では術後1か月後には網膜下液は消失し,網膜復位が得られている。

結論:若年者の後部硝子体剝離のない網膜下増殖組織を伴った裂孔原性網膜剝離では,網膜下増殖組織を除去しなくても強膜内陥術で網膜復位は得られると考えられる。

白内障手術40年後に発見された水晶体核遺残の1例

著者: 市來美沙紀 ,   芳原直也 ,   中尾久美子 ,   平木翼 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.251 - P.256

要約 目的:虹彩囊腫を疑い摘出術を行った結果,40年前に行った白内障手術の遺残水晶体核片であった症例の報告。

症例:79歳,男性。40歳台に両眼の白内障手術を施行され人工的無水晶体眼となり,特に問題なく経過していたが,左眼は角膜内皮細胞が減少して数年前から水疱性角膜症を呈していた。4か月前から左眼に軽度の前部ぶどう膜炎を発症し,1週間前から虹彩面上に塊状病変が出現したため鹿児島大学医学部附属病院眼科に紹介となった。

所見:初診時,左眼は視力(0.06),6時部虹彩面上に腫瘤状の病変があり,角膜は進行した水疱性角膜症を認めた。左眼虹彩囊腫と臨床診断し,摘出術を行ったところ,病変は虹彩と連続性はなく,摘出病変は病理組織学的検査の結果,水晶体組織と診断された。術後,水疱性角膜症は改善しなかったが,ぶどう膜炎の再発はなかった。

結論:遺残した水晶体核片が後房にとどまっている場合,前房内に明らかな炎症所見を示さず,無症状のまま長期間経過することがある。白内障手術後,炎症所見が明らかでないにもかかわらず角膜内皮が徐々に減少する場合は,虹彩後面に水晶体核の遺残がないか検索する必要がある。

海外留学 不安とFUN・第61回

Doheny Eye Instituteへの留学報告・2

著者: 平野隆雄

ページ範囲:P.230 - P.231

家族との暮らしのFUN

 留学に際しての大きな不安の1つは,家族が安全に楽しく暮らせるかということでした。私の前にDoheny Eye Instituteへ留学されていた京都大学の宇治彰人先生や,鹿児島大学の寺﨑寛人先生の勧めもあり,South Pasadenaという町で住居を探しました。決め手は安全であることと,娘が通う小学校の評価が非常に高かったことです。

 カリフォルニア州では通える小学校が校区ごとに決まっています。学校はそれぞれ10段階で評価され,ネットで評価を簡単に確認できるようになっています。長女が入学したMarengo小学校は10段階評価で10点満点でした。校内もとてもきれいでいろいろな催しが行われ,ほとんど英語が話せない娘に対してもしっかりと対応してくださりました。帰国前に娘が友だちを呼んでホームパーティをした際,彼女が英語でしゃべっているのを見て,「ああ留学してよかったな…」と不覚にも泣きそうになりました。

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目次

ページ範囲:P.136 - P.137

欧文目次

ページ範囲:P.138 - P.138

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.261 - P.266

アンケート用紙

ページ範囲:P.272 - P.272

次号予告

ページ範囲:P.273 - P.273

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.274 - P.274

 原稿を書いている2020年師走,新型コロナウイルスCOIVD-19の感染第3波が全国に拡大し続けています。1日の新規感染者数が過去最高を記録したというニュースが毎日のように流され,沈鬱な気分になります。我々は既に新型コロナ後の世界に暮らしており,新型コロナ前の世界には戻れないという言葉が語られ始めました。少なくとも人々の心に刻まれたこの経験は,これからの社会の在り方に決定的な影響を与えるでしょう。それがどのようなものになるかは,若い世代にかかっています。

 さて今回の特集は,井上幸次先生のご企画による特集「前眼部検査のコツ教えます。」です。私が研修医の頃は,前眼部検査は細隙灯検査がほぼすべてであり,それを使いこなして前眼部の所見を取ることが肝要であると指導されました。むろんそのような方法では,所見の判断は検査者の主観に依存するため,今日のような病態解明にはつながりませんでした。しかし,その後の検査法の進歩は目覚ましく,新しい検査法が次々と臨床の場に導入されました。多くのものは客観的評価が可能であり,研究者間で情報交換が可能になり病態解明や治療法開発に大きく貢献しました。重要なことは,前眼部においては検査法や機械の開発に,当時の若い日本人研究者たちが大きく貢献したことです。井上先生もそのなかの1人です。そのことを考えながら今回の企画を拝読いたしますと,またいっそう味わい深いものになることをお伝えいたします。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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