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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科75巻3号

2021年03月発行

雑誌目次

特集 第74回日本臨床眼科学会講演集[1] 特別講演

白内障:予防と治療への新しいアプローチ

著者: 佐々木洋

ページ範囲:P.287 - P.301

 疫学調査結果と計算機シミュレーションから熱帯・亜熱帯地域では高度の紫外線に加え,高温環境が白内障の大きなリスクになることが明らかになった。白内障はいまだ世界における失明原因第1位の疾患であり,途上国では人口増多と急激な長寿化に伴い,今後も失明者数は増加することが予想されている。環境要因は一次予防が可能であり,啓発による予防法の普及と抗白内障薬の開発が求められる。一方,白内障手術療法の進歩は目覚ましく,白内障副病型を含めた正確な診断と視機能評価,Vision Simulatorによる最適な眼内レンズ選択により,屈折矯正・老視矯正手術としてさらに満足度の高い治療が期待される。

原著

ブラウ症候群に伴う難治性ぶどう膜炎に対してアダリムマブが有効であった1例

著者: 大橋和広 ,   親富祖さやか ,   下地貴子 ,   那須直子 ,   冨山浩志

ページ範囲:P.339 - P.344

要約 目的:ブラウ症候群に伴う難治性ぶどう膜炎に対してアダリムマブが有効であった1例の報告。

症例:17歳男性が近医でぶどう膜炎を指摘され当院を紹介され受診した。両眼に前房内炎症細胞,右眼に虹彩後癒着とテント状周辺虹彩前癒着,左眼に隅角結節を認めた。両眼に硝子体混濁と多発する網脈絡膜萎縮病巣を認めた。サルコイドーシスを疑い全身精査を行ったが,診断基準を満たす所見を認めなかった。原因不明のぶどう膜炎と診断し,前眼部炎症に対してベタメタゾン点眼,硝子体混濁に対してトリアムシノロン後部テノン囊下注射を行った。その後,前眼部炎症および硝子体混濁の悪化があり,プレドニゾロンおよびシクロスポリンAの内服を開始した。初診から3年7か月後,左眼視力低下と網膜出血を伴う網膜滲出斑,漿液性網膜剝離を伴った黄斑浮腫が生じた。ぶどう膜炎の鑑別診断のため改めて詳細な問診をしたところ,乳幼児期に皮疹や手足の腫脹があったことが判明した。これらの関節・眼所見と経過よりブラウ症候群を疑い遺伝子解析を行った結果,NOD2遺伝子変異が確認され,ブラウ症候群と診断した。既存治療で効果不十分な難治性ぶどう膜炎であるためアダリムマブを導入したところ,網膜滲出斑,黄斑浮腫および漿液性網膜剝離は消失し,視力も回復した。

結論:ブラウ症候群に伴う難治性ぶどう膜炎に対して,アダリムマブは有効であった。

早期の抗菌薬硝子体注射が良好な視力回復につながったと考えられる細菌性転移性眼内炎の1例

著者: 髙綱陽子 ,   東栄子 ,   千葉晃大 ,   林裕子 ,   田波貴彬 ,   池田義和

ページ範囲:P.345 - P.351

要約 目的:眼科初診時から細菌性転移性眼内炎を疑い,早期に抗菌薬硝子体注射を開始したことによって良好な視力改善が得られた症例の報告。

症例:76歳女性。3日前からの急激な視力低下を主訴に当院へ初診となった。左眼に前房内細胞浮遊,びまん性硝子体混濁,眼底下方に網膜出血斑と滲出斑があり,左視力は(0.01)と不良であった。血中CRPの上昇,白血球増多と,多くの基礎疾患があったことから,細菌性転移性眼内炎が疑われ,同日にセフタジジム/バンコマイシンの硝子体注射が施行された。翌日から39℃台の発熱を認め,セフトリアキソン1gの全身投与が開始された。第4日病日に血液・尿培養でEscherichia Coliが検出され,腰椎化膿性脊椎炎も合併していると診断され,セファゾリン3gに変更された。第5病日にセフタジジム硝子体注射が追加された。眼病変は治療に良く反応し,治療開始2か月時点では眼底にわずかな萎縮巣を残すのみとなり,左視力は(0.9)へと改善した。

結論:本症例では,初診時の眼所見と血液検査所見から積極的に細菌性転移性眼内炎を疑い,全身精査を行いながら,直ちに抗菌薬硝子体注射を開始したことが良好な視機能予後につながったと考えられる。

難治性緑内障に対する経毛様体扁平部アーメド緑内障バルブの手術成績

著者: 御任真言 ,   武島聡史 ,   高木理那 ,   田中克明 ,   榛村真智子 ,   木下望 ,   髙野博子 ,   蕪城俊克 ,   梯彰弘

ページ範囲:P.352 - P.358

要約 目的:難治性緑内障に対する経毛様体扁平部アーメド緑内障バルブの手術成績を検討した。

対象と方法:対象は2016年11月〜2019年11月の3年間で当院においてアーメド緑内障バルブ(AGV)の手術を受けた緑内障患者50例60眼(男性38眼,女性22眼)。平均年齢は63.6±12.9歳(29〜89歳)。緑内障病型は続発緑内障30眼,血管新生緑内障21眼,原発開放隅角緑内障9眼であった。インプラントチューブは全例で毛様体扁平部から硝子体腔内へ挿入した。

結果:平均眼圧は術前34.2±13.3mmHgから術後1か月17.3±7.1mmHg,3か月15.0±5.3mmHg,6か月14.6±5.9mmHg,12か月15.3±4.9mmHgといずれの期間でも有意に下降した(p<0.0001)。26眼(43.3%)で合併症が出現し,その内訳は硝子体出血16眼(26.7%),脈絡膜剝離10眼(16.7%),前房出血5眼(8.3%),低眼圧黄斑症,網膜剝離,脈絡膜下出血,プレート露出,術後眼内炎はそれぞれ1眼(1.7%)であった。追加手術を要したのは5眼で,前房洗浄術2眼,硝子体手術1眼,脈絡膜下出血排液1眼,プレート摘出術1眼,眼球内容除去術1眼(重複症例あり)であった。

結論:AGVは手術後1年間にわたり眼圧を有意に下降させ,難治性緑内障において有用な手術であるが,術後合併症に注意する必要がある。

可逆性白質脳症(PRES)により一過性視野障害を呈した1例

著者: 市川伊那子 ,   廣川貴久 ,   戸成匡宏 ,   松尾純子 ,   奥英弘 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.359 - P.364

要約 目的:可逆性白質脳症(PRES)により同名半盲を呈し,血糖コントロールにより改善を認めた1例の報告。

症例:36歳,男性。2週間前からの閃輝性暗点に引き続き,2日前からの急激な視野異常,発熱,頭痛,嘔気のため2018年6月上旬に受診した。

所見:前眼部,中間透光体,眼底に異常を認めなかった。血液検査にて血糖258mg/dl,HbA1c 11.1%と未治療の糖尿病が認められた。頭部MRI拡散強調画像で,右後頭葉皮質から皮質下を中心に淡い拡散異常を認め,T2強調画像およびFLAIR画像で同部位に高信号を呈した。脳病変に一致して左同名半盲を認め,画像所見と合わせて可逆性白質脳症と診断された。脳神経外科に入院し,抗血小板薬および抗痙攣薬の投与と,血糖コントールが開始された。治療により徐々に視野異常は改善し,治療から16日後の視野検査で同名半盲の消失が確認された。8月にはMRI所見も正常化した。

結論:PRESの発症機序は,血管内皮障害による透過性亢進と血液脳関門の破綻が主要な原因とされ,抗癌剤などの薬剤や著しい高血圧が原因として挙げられている。本症例では,血糖コントロールで改善しており,高血糖も原因となりうると考えられた。本疾患は治療により可逆的に症状が改善するため,画像所見,視野所見をもとにした早期診断が重要と考えられた。

マイクロフックによる線維柱帯切開術の術後短期成績

著者: 知久喜明 ,   柿原伸次 ,   今井章 ,   榑沼大平 ,   若林真澄 ,   朱さゆり ,   村田敏規

ページ範囲:P.365 - P.369

要約 目的:マイクロフックを用いた線維柱帯切開術(μLOT)の短期術後成績と合併症についての検討。

対象と方法:2019年1〜12月に初回の緑内障手術としてμLOTを行い,3か月以上の経過観察ができた患者76例89眼を対象に後ろ向き調査を行った。平均年齢は68.5±12.0歳であり,病型の内訳は,原発開放隅角緑内障32眼,原発閉塞隅角緑内障16眼,落屑緑内障17眼,その他の続発緑内障24眼であった。白内障同時手術は61眼であった。術前後の眼圧と点眼スコアの変化,術後合併症を検討した。

結果:手術前の平均眼圧(mmHg)は18.5±7.0であり,術後1,3,6か月ではそれぞれ11.5±3.9,10.7±3.3,11.2±4.4と術後有意に低下した(p<0.0001,Dunnett's test)。点眼スコアは,術前4.1±1.4であり,術後1,3,6か月ではそれぞれ3.4±1.3,3.3±1.2,3.2±1.0で,術前と比較して有意に低下した(p<0.05,Dunn's multiple comparison test)。術後合併症は,予防的アセタゾラミド投与下に術後1週間以内に眼圧が30mmHg以上となるような一過性高眼圧が7眼(7.9%)で認められた。また,2眼で前房出血の遷延により手術加療を要した。うち1眼は前房洗浄後に高眼圧をきたし濾過手術を要し,他方の1眼では,前房出血が硝子体腔に及び硝子体出血となり,早期の視力改善のために硝子体手術を施行した。

結論:μLOTは,短期的には有意に眼圧と点眼スコアを下げた。重篤な術後合併症の発症率は低かった。

眼科専門病院への緑内障患者の紹介

著者: 井上賢治 ,   國松志保 ,   石田恭子 ,   富田剛司

ページ範囲:P.371 - P.376

要約 目的:井上眼科病院に眼科医療機関から紹介された緑内障患者の特徴の調査。

対象と方法:2019年4〜9月に眼科医療機関より井上眼科病院に初めて紹介された緑内障患者225例225眼を対象とした。性別,年齢,緑内障病型,眼圧,視野障害度,使用中の緑内障薬剤数,紹介形態,紹介目的,診察後の治療方針を診療録から後ろ向きに調査した。

結果:男性99例,女性126例,年齢61.1±15.5歳,18〜88歳であった。正常眼圧緑内障86例,原発開放隅角緑内障77例,続発緑内障34例などであった。眼圧は16.3±7.0mmHg,1〜53mmHgであった。使用薬剤数は2.4±1.7剤,0〜7剤であった。紹介形態は転医191例,セカンドオピニオン34例であった。診察後の治療方針は転医のうち治療方針の是非判断(101例)では方針変更なし68.3%,手術依頼(34例)では手術施行73.5%が多かった。セカンドオピニオンのうち治療方針確認22例では治療方針変更なし86.4%,手術の是非判断8例では手術適応62.5%が最も多かった。

結論:眼科専門病院への緑内障紹介患者は転医症例が85%を占め,目的は治療方針の是非判断,手術依頼の順で,それぞれ治療方針変更なしと手術施行が多かった。

多施設による緑内障患者の実態調査2020年版—薬物治療

著者: 黒田敦美 ,   井上賢治 ,   井上順治 ,   國松志保 ,   石田恭子 ,   富田剛司

ページ範囲:P.377 - P.385

要約 目的:緑内障患者の実態を調査し,さらに2016年に行った前回調査との比較を行うこと。

対象と方法:本調査の趣旨に賛同した78施設に2020年3月8〜14日に外来受診した緑内障,高眼圧症患者5,303例5,303眼を対象とした。緑内障病型,手術既往歴,使用薬剤を調査した。

結果:病型は正常眼圧緑内障51.1%,原発開放隅角緑内障30.9%,続発緑内障8.2%などであった。使用薬剤数は平均1.8±1.3剤で,無投薬10.2%,1剤41.5%,2剤23.0%,3剤14.2%などであった。1剤使用例はプロスタグランジン(PG)関連薬66.7%,β(αβ)遮断薬22.1%などであった。2剤使用例はPG/β配合剤42.8%,PG関連薬とβ(αβ)遮断薬併用13.3%,炭酸脱水酵素阻害薬/β遮断薬配合剤12.0%などであった。

結論:前回調査と比較し,1剤使用例はPG関連薬が有意に減少し,2剤使用例はPG/β配合剤が有意に増加し,PG関連薬とβ遮断薬併用が有意に減少した。

Laser in situ keratomileusis(LASIK)後回折型焦点深度拡張眼内レンズ挿入眼の視機能

著者: 中村邦彦 ,   ビッセン宮島弘子 ,   太田友香 ,   西島有衣 ,   南慶一郎

ページ範囲:P.387 - P.392

要約 目的:回折型焦点深度拡張(EDOF)眼内レンズ(IOL)は,遠方から距離約70cmまでの連続した良好な視力が得られ,コントラスト感度の低下は軽度とされているが,今回laser in situ keratomileusis(LASIK)術後眼に挿入された症例の視機能を後ろ向きに検討した。

対象と方法:対象は,+1.75D加入EDOF IOL(ZXR00V,AMOジャパン社)を挿入した症例のうち,近視LASIK施行後に白内障を発症した14症例23眼(LASIK群)で,非LASIK施行眼に同IOLを挿入した11症例18眼をコントロール群とした。術後3か月以降に視力(距離5m,1m,0.5m)とコントラスト感度を検討した。

結果:裸眼(矯正)logMAR視力は,LASIK/コントロール群で5m:−0.09(−0.14)/−0.04(−0.17),1m:0.04(−0.01)/−0.05(−0.05),0.5m:0.16(0.04)/0.13(0.06)で,logコントラスト感度は両群とも正常範囲内だが,コントロール群がLASIK群より18cpdの高周波数領域で有意に良好であった(p=0.03,対応のないt検定)。

結論:+1.75D加入EDOF IOLは,LASIK後眼でも良好な明視域拡大が得られ,コントラスト感度低下の懸念は小さいと思われた。

眼軸長と角膜屈折力を考慮した度数計算式3種の白内障術後屈折誤差精度の検討

著者: 都村豊弘 ,   田村彩 ,   曽我部由香

ページ範囲:P.393 - P.401

要約 目的:眼内レンズ(IOL)度数計算式において,眼軸長(AL)だけでなく角膜屈折力(K)も考慮してIOL度数計算式3種の精度を比較した。

対象と方法:対象は2018年10月〜2020年2月に当院で白内障手術を施行した190例329眼である。使用IOLはSZ-1(ニデック),生体計測はIOLMaster® 500で測定した。ALは22mmと26mm,Kは42Dと46Dを境に対象を9群に分類した。IOL定数はULIB値(A:119.5,a0:0.943,a1:0.243,a2:0.161)を用い,SRK/T(S)式,Barrett Universal Ⅱ(B)式,Haigis(H)式に使用した。同じIOL度数における予測屈折値を各式で算出した。術後1か月に他覚屈折値をもとに自覚屈折値を算出し,それぞれの予測屈折値と比較した。

結果:術後1か月における屈折誤差平均値(A値)と絶対値平均値(AA値)のうち有意差があったのは,AL 22〜26mmのうちK 46D以上群のA値でS式,H式〔p=0.002,ANOVA(AN)〕,K 42〜46D群のA値とAA値でS式,H式〔p<0.001,AN,p=0.03,Kruskal-Wallis検定(KW)〕,K 42D未満群のA値でH式(p=0.04,AN),そしてAL 26mm以上K 46D以上群のA値とAA値でB式,H式であった(p=0.04,AN,p=0.04,KW)。また,±0.5D以内に入った割合で有意差があったのはAL 22〜26mm,K 42〜46D群でS式とH式,AL 26mm以上,K 46D以上群でB式とH式であった(p<0.001,p=0.04,Cochran's Q検定)。

結論:IOL度数計算時にALとK別に9群に分けて各計算式の術後屈折誤差精度を比較したところ,各群で精度が異なることが判明した。このことから,誤差軽減のために両者を考慮して最適な計算式を選択するか,各群でIOL定数を最適化したうえで度数計算を行う必要があると思われた。

連載 Clinical Challenge・12

多発性硬化症に伴う肉芽腫性ぶどう膜炎の症例

著者: 高山圭

ページ範囲:P.282 - P.285

症例

患者:50歳,女性

主訴:右視力低下

現病歴:2019年3月下旬より右眼の視力低下が出現し,同年5月上旬に近医を受診したところぶどう膜炎を指摘されて当科を紹介され受診となった。数日後の当科初診時,矯正視力は右0.9,左1.2,眼圧は右13mmHg,左16mmHg,右眼に白色〜褐色の豚脂様角膜後面沈着物,前房内に炎症細胞浸潤2+,隅角に丈が低い周辺虹彩前癒着,前部硝子体に炎症細胞1+,下方に雪玉状混濁があった(図1,2)。左眼に炎症はみられなかった。レーザーフレアフォトメーター(laser flare photometry:LFP)値は右34.0pc/ms,左4.4pc/msと右眼が高値であり,フルオレセイン蛍光眼底造影検査では両眼に網膜静脈炎があった(図3)。鑑別として眼サルコイドーシスが挙げられ,眼所見は診断基準の7項目中4項目があった。しかし,ツベルクリン反応陽性,採血検査にてACE正常,胸部X線で肺門部リンパ節腫脹はみられず,臨床診断所見を満たさなかった。これらの結果と臨床経過から両眼性非感染性肉芽腫性ぶどう膜炎としてベタメタゾン点眼とプレドニゾロン内服を開始した。治療反応性は良好で速やかに炎症は寛解したが,プレドニゾロン内服を中止すると右眼ぶどう膜炎が再燃した。そこで,右眼にトリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射を行い,プレドニゾロン内服を中止した。8月下旬,突然左視力低下と眼球運動時痛が出現し,再診となった。

既往歴:2018年9月から,蕁麻疹にて皮膚科で内服加療中である。2年前から両足に軽い痺れ感あり。

家族歴:特記すべき事項なし

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・6

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児の近視の進行抑制—低濃度アトロピン

著者: 稗田牧

ページ範囲:P.302 - P.305

◆アトロピン点眼薬に近視進行抑制効果がないとはいえない。

◆1%アトロピン点眼はリバウンドがあり,中止すると近視進行が加速する。

◆投与濃度・時期・期間についての知見を広げる必要がある。

眼科図譜

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症に併発した視神経乳頭浸潤病変・前部虚血性視神経症の1例

著者: 近江正俊 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.326 - P.329

緒言

 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)は,気管支喘息などの素因がある患者に,末梢血中の好酸球増多と,全身性肉芽腫性血管炎を引き起こす疾患で,以前はChurg-Strauss症候群やアレルギー性肉芽腫性血管炎と呼ばれていた。眼症状として眼窩炎症性偽腫瘍,虚血性視神経症や網膜動静脈閉塞症などが報告されている1)

 今回筆者らは,ステロイド維持療法で寛解状態を得ていたEGPAの患者に,左眼優位の両眼の視神経乳頭への浸潤病変,および左眼の前部虚血性視神経症,網膜循環障害を認め,ステロイドテノン囊下注射で早期の改善を得た症例を経験したので報告する。

網膜色素線条症に多数のcomet lesionsを認めた1例

著者: 岡本紀夫

ページ範囲:P.330 - P.332

緒言

 網膜色素線条症(angioid streaks:AS)の眼底所見は1),視神経乳頭から放射状に伸びる色素線条を認めることが特徴である。また,後極部から中間周辺部にかけて梨地様眼底がみられることが多い。時として,脈絡膜血管新生を合併することがある。

 今回筆者は,ASの患者の視神経乳頭から周辺部にかけて,多数のクリスタリンがcomet lesionsとcomet tail lesionsを呈した症例を経験したので報告する。

臨床報告

生来健康な若年者の片眼に発症した内因性細菌性眼内炎の1例

著者: 有松真央 ,   芳野高子 ,   松田英伸 ,   松岡尚気 ,   黒澤史門 ,   福地健郎

ページ範囲:P.308 - P.312

要約 目的:生来健康な若年男性で,非感染性ぶどう膜炎との鑑別が困難であった内因性細菌性眼内炎の症例を経験したので報告する。

症例:18歳,男性。皮膚潰瘍の治療中に突然の右眼の眼痛・視力低下が生じた。

所見:右眼視力は指数弁で,前房に前房蓄膿,線維素析出があり,強い硝子体混濁を認めた。左眼に異常を認めなかった。非感染性ぶどう膜炎と感染性眼内炎との鑑別に難渋したが,抗菌薬硝子体内注射に反応し,皮膚病巣からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が検出されたため,内因性細菌性眼内炎を強く疑い,速やかに硝子体切除術を施行した。術中に採取した前房水からは細菌,真菌ともに培養されず,MRSAも検出されなかったが,硝子体手術後に炎症所見と視機能は改善した。

結論:眼内炎の診断では,感染性か非感染性かの鑑別は非常に大切である。

マイトマイシンC点眼にて軽快した脂腺癌の1症例

著者: 花田真由 ,   松澤亜紀子 ,   伊藤由香里 ,   戸部洋祐 ,   林泰博 ,   有泉泰 ,   高木均

ページ範囲:P.313 - P.318

要約 目的:脂腺癌は,再発や遠隔転移が多く悪性度が高いため,早期に診断し早期に切除する必要がある。今回,超高齢者のために外科的治療を望まない症例に対し,0.04%マイトマイシンC(MMC)点眼を使用し軽快した症例を経験したので報告する。

症例:97歳,女性。右眼瞼腫脹と眼脂を認め,近医で点眼加療を行っていたが改善を認めず,誤嚥性肺炎のため川崎市立多摩病院に入院し初診となった。初診時に上下眼瞼に乳頭腫様腫瘤と眼瞼肥厚を認め,病理所見と合わせ脂腺癌と診断し,0.04%MMC点眼による治療を開始した。1クール目施行時に腫瘍は縮小し軽快したものの,2クール目開始後に眼瞼皮膚炎を生じたため0.04%MMC点眼を休止した。中止6か月後に再び脂腺癌の増悪を認め,0.04%MMC点眼を再開したところ改善がみられた。

結論:高齢などの理由で積極的な治療が不可能な症例に対しては,副作用の発現に注意しながらMMC点眼で保存的な治療を行うことも,脂腺癌に対する治療の選択肢の1つであることが示唆された。

慢性骨髄性白血病の1症例における2階調化法による脈絡膜構造変化の検討

著者: 伊藤有希 ,   齋藤理幸 ,   遠藤弘毅 ,   加瀬諭 ,   高橋光生 ,   前森雅世 ,   加瀬学

ページ範囲:P.319 - P.325

要約 目的:慢性骨髄性白血病(CML)の1症例において,化学療法前後の脈絡膜構造の変化を脈絡膜EDI-OCT画像の2階調化法により検討を行った。

症例:30歳,男性。

所見:右眼視力低下と近医による眼底出血の指摘により当科を紹介され初診となった。網膜所見と白血球数の異常高値(501,310/μl),FISH検査結果からCMLの診断に至った。治療1か月後で脈絡膜厚と血管腔・間質面積は急激に減少したが,管腔脈絡膜面積比(L/C)は経過を通して約70%程度で推移し変動を示さなかった。

結論:本CML症例の経時的EDI-OCTの比較検討では,急性期に脈絡膜の管腔・間質面積はどちらも拡大していたが,L/C比には変化を認めず,治療1か月後には管腔・間質面積は急激に低下し,その減衰曲線は白血球数減少曲線に一致していた。

臨床ノート

新型コロナウイルス感染症による非常事態宣言下にZoomアプリを用いて行ったオンライン遠隔医療の経験

著者: 甘利達明 ,   森文彦 ,   加藤真央 ,   井上幸次 ,   藤野雄次郎 ,   江口秀一郎

ページ範囲:P.333 - P.335

緒言

 函館市は大学病院のある札幌市まで300km以上の距離がある。江口眼科病院(当院)は眼科単科病院で,さまざまな患者が来院するが,他院への紹介は地理的に困難であり,各分野に専門性の高い診療が必要とされる。したがって,当院では眼科各分野の高い専門性を有する経験豊富な指導医の出張による専門外来を行っている。しかし,今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による非常事態宣言により,それが困難となった。そこで筆者らは,遠隔診療による専門外来受診を承諾した患者に対して,ビデオ通話アプリ“Zoom”を用いたオンライン診療支援による遠隔医療を行ったので報告する。

タブレット端末を用いたトーリック眼内レンズの軸合わせ

著者: 川下晶 ,   蕪龍大 ,   岩崎留己 ,   竹下哲二

ページ範囲:P.336 - P.338

緒言

 トーリック眼内レンズ(intraocular lens:IOL)は術後の裸眼視力の向上に有用であるが,軸ずれは術後視力に影響を与える1,2)。当科ではこれまで,画像撮影法の変法としてパネル法と名付けた方法で術中の軸合わせを行ってきた3,4)。紙に前眼部写真を印刷していたが,不鮮明であるうえにインク代がかかるという欠点があった。今回筆者らは,タブレット端末を用いることでこれらの問題を解決し,良好な成績を得たので報告する。

今月の表紙

落屑症候群の毛様突起 走査電子顕微鏡写真

著者: 杉田新 ,   稲谷大

ページ範囲:P.286 - P.286

 本写真は米国留学時代に得られた落屑症候群の剖検眼を赤道部で半切して,毛様突起の外表面(毛様体無色素上皮の基底面)を硝子体側から走査電子顕微鏡(SEM)で見たものであるが,毛様突起の外表面に,特徴的な形態の落屑物質が観察される。SEMは組織の表面,自由表面と基底面の観察に優れており,毛様突起と落屑物質の三次元的位置関係がよくわかる。

 毛様突起にみられる落屑物質を高倍率で観察すると,細線維の集合から成っており,変性した毛様体無色素上皮基底膜の細線維との間に連続性が認められたことから,落屑物質は変性した基底膜に由来することが示唆される。

海外留学 不安とFUN・第62回

コロナ禍での留学生活—サンディエゴより

著者: 西田崇

ページ範囲:P.306 - P.307

サンディエゴ,Shiley Eye Institute

 2020年1月より,アメリカのカリフォルニア大学サンディエゴ校の眼科学教室で留学生活を送っています。ボスのDr. Robert N. Weinrebは緑内障分野の著名人で,施設からは数多くの研究者・臨床家を輩出しており,緑内障について系統立てて学習できる良い環境にあります。また,雨量が少なく温暖で治安も良いため,リタイア後に移り住む人も多い人気の都市です。

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目次

ページ範囲:P.278 - P.279

欧文目次

ページ範囲:P.280 - P.281

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.402 - P.407

アンケート用紙

ページ範囲:P.412 - P.412

次号予告

ページ範囲:P.413 - P.413

あとがき

著者: 中澤満

ページ範囲:P.414 - P.414

 臨床眼科3月号がお手元に届く頃は,新型コロナウイルスに対するワクチン接種が日本でもそろそろ開始される頃でしょうか。昨年の緊急事態宣言の後に一時的に下火になったかと思われた感染者数ですが,その後の第2波と第3波の感染者数の大幅増加をみると,人間の油断と楽観がコロナウイルスに上手くつけ込まれているかの様相を呈しています。逆を言えば,人間は他人との交流や社会との関係性をこよなく愛する種族なのであるとも言えるのではないでしょうか。それが感染症で制限されることが多くの人にとって苦痛であることは新発見でした。そして,なぜか今冬はインフルエンザの流行の声を聞かないのも,マスク着用や手指洗浄,三密回避といったコロナ対策がインフルエンザにも特効的に予防効果があることなのかもしれません。そう言えば,EKCも私は1年以上お目にかかっていませんが,同様な傾向があるのでしょうか。

 その辺の解析は専門家にお任せするしかありませんが,一方で本誌に目を転じますと今月も新発見が満載です。佐々木洋教授の第74回日本臨床眼科学会特別講演の「白内障:予防と治療への新しいアプローチ」では白内障が今後の温暖化による外気温の上昇とともに発生率が上昇する可能性が論じられていますし,白内障発症を予防できるかもしれない薬物の研究も進んでいるとのことで,それが実現すれば世界の失明者数の大幅な減少が見込めることになります。連載「国際スタンダードを理解しよう! 近視治療の最前線」では,稗田牧先生の「小児の近視の進行抑制」と題するアトロピン点眼による近視進行予防効果の解説も非常に興味深い内容です。小児期での近視進行予防は緑内障,網膜剝離,黄斑変性,黄斑萎縮など,壮年期や老年期の眼疾患の予防にもつながります。両者はいずれも「俯瞰的,総合的」な視点から見て,疫学上非常に重要な意義のある課題です。さらに,「Clinical Challenge」も頭の体操と知識の整理には格好の症例が記載されており,毎月眼が離せそうにありません。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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