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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科75巻4号

2021年04月発行

雑誌目次

特集 第74回日本臨床眼科学会講演集[2] 特別講演

緑内障からQOLを守るためのストラテジー

著者: 福地健郎

ページ範囲:P.425 - P.434

 日本緑内障学会による緑内障診療ガイドライン第4版において,「緑内障治療の目的は,視覚の質(quality of vision:QOV)と,それに伴う生活の質(QOL)を維持することである」と明記された1)。第3版までの「患者の視機能の維持することである」と意図するところは同じだが,より患者の立場に立った表現がされている意味でこの違いは大きい。緑内障でQOLがどのように障害されるのかは,疾患の本質にかかわる問題であるが,まだ十分には理解されていない。QOLという観点から緑内障治療を進めていくために,視野障害とQOLの関連,緑内障による黄斑部障害・中心窩障害を中心に講演した。

原著

ドライアイ患者の自覚症状の季節変化および重症度に関する検討

著者: 田中孟 ,   宮前美智 ,   井上千鶴 ,   中川聡子 ,   阿部英樹 ,   武蔵国弘

ページ範囲:P.493 - P.499

要約 目的:ドライアイ患者の自覚症状の季節変動と重症度に関連する項目を後ろ向きに検討した。

対象と方法:2017年3月〜2019年2月に当院を受診したドライアイ患者を対象とした。質問表はDry Eye related Quality of life Score(DEQS)を使用し自覚症状を検討した。

結果:検討対象症例は,全体で延べ593名。DEQSの結果は自覚症状の強さを示すサマリースコアでは秋に最大,冬に最小であったが季節によって有意差はなかった。設問1「目がゴロゴロする(異物感)」,設問3「目が痛い」を自覚する割合は季節により有意差があったが,他の設問では有意差はなかった。症状を自覚する割合が最も少なかったのは,設問14「目の症状のため外出を控えがち」であった。設問14の症状を自覚する患者のサマリースコアは,この症状を自覚しない患者よりも有意に高く,点眼治療を行っても自覚症状が改善しにくい傾向であった。

結論:ドライアイの自覚症状は,季節間で有意差はなかった。設問14の自覚症状を有する患者は治療に難渋する傾向があり,従来の点眼治療だけでなく中枢神経系の異常や全身的な疾患も考慮し治療にあたる必要があると考えられる。設問14の自覚症状は,ドライアイの治療方針を考える1つの指標になると考えられる。

OCTセグメンテーションエラー検出にFollow-Upモードが有用であった緑内障例

著者: 平林博 ,   平林一貴 ,   若林真澄 ,   村田敏規

ページ範囲:P.500 - P.507

要約 目的:光干渉断層計(OCT)により緑内障の進行評価が行われているが,セグメンテーションエラー(SE)による誤評価が問題とされる。NIDEK社製のOCTに搭載されたFollow-Up(FU)モードが,SE検出に有用であった症例を経験したので報告する。

症例:55歳,男性。2008年に正常眼圧緑内障を指摘され治療を開始した。2012年よりNIDEK RS3000 OCT,2017年より同advanceにて黄斑部網膜神経節細胞複合体(m-GCC)厚による緑内障の経過観察を開始した。

経過:右眼においてOCT検査開始時のベースラインBスキャンではSEは認めず,緑内障(G)チャート(上半円,下半円セクターm-GCC平均厚μm)はそれぞれ(66,73)であった。m-GCC厚は当初不変であったが,2017年FUモード検査を導入したところ,m-GCC厚がベースラインより2016年7月(+5,+0),10月(+8,+0),2017年7月(+11,+4)と改善を示していたが,視野はこの間変化はなかった。SEが疑われ,改善を示していた時点の網膜層のセグメンテーションを検討したところ,内網状層/内顆粒層ラインのSEが発見された。

結論:緑内障経過の評価を誤ると,その後の治療に大きな影響が出るためSEに対する認識は重要である。毎回検査時にSEの有無を検査することが重要であるが,毎回できない場合は,ベースラインとなる初回検査時には必ずSEがないことを確認し,FUモード上m-GCC厚の急激な変化に注意する。特に改善を認めた場合はSEを疑う必要があり,FUモードはSE発現の検索に有用である。

リネゾリドによる視神経症が疑われた多剤耐性肺結核の1例

著者: 本田聡 ,   山本学 ,   中尾拓貴 ,   本田茂

ページ範囲:P.508 - P.513

要約 目的:多剤耐性肺結核に対し,リネゾリド(LZD)が使用されることがある。多剤耐性肺結核治療中にLZDが原因と思われた視神経症を発症した1例を経験したので報告する。

症例:症例は61歳,女性。2017年11月に肺結核と診断され,エタンブトールを含む多剤併用療法を開始した。この間副作用はなかったが,多剤耐性菌であることが判明したため2018年4月にLZDを含む別の4剤を用いた多剤併用療法に変更された。投薬開始5か月後から両眼の視力が低下し,矯正視力は両眼とも0.04,限界フリッカ値(CFF)右13Hz,左14Hz,ゴールドマン動的視野計にて中心暗点を認めた。前眼部,眼底,頭部MRIでは明らかな異常所見は認めなかった。LZDによる薬剤性視神経症を疑い,LZDの投薬を中止したところ,その2か月後に視力は右1.0,左1.2,CFFは右22Hz,左17Hzと改善した。その後,LZD以外の抗結核薬を再開したが,LZD中止11か月後には視力は左右ともに1.2,CFF右30Hz,左27Hzとさらに改善がみられていた。

結論:LZDは薬剤性視神経症を引き起こすことがあり,特にその使用が長期にわたる場合には注意を要する。

強膜内固定術で使用する7.0mmレンズと6.0mmレンズの臨床結果の比較

著者: 水戸毅 ,   小林武史 ,   白石敦

ページ範囲:P.514 - P.520

要約 目的:眼内レンズ強膜内固定術で使用する光学部径が7.0mmと6.0mmの眼内レンズによる臨床結果の比較検討を行う。

対象と方法:愛媛大学医学部附属病院で2017年8月〜2019年7月に,同一術者がエタニティNX70(参天製薬)とアバンシィ(興和)を用いたフランジ法による強膜内固定術を施行し3か月以上経過観察ができた31例31眼を対象とし,眼内レンズの偏位・傾斜・前房深度・角膜内皮細胞減少率・手術時間・術後合併症などについて後ろ向きに検討した。

結果:対象患者の内訳はNX70群14眼,アバンシィ群17眼。NX70群とアバンシィ群の比較において術後のレンズの傾斜はそれぞれ7.18±2.71°,5.79±2.05°,偏心は0.43±0.25mm,0.42±0.15mm,前房深度は4.54±0.54mm,4.37±0.47mmといずれも有意差はなかった。角膜内皮細胞減少率は,NX70群で9.14±18.5%,アバンシィ群で3.57±24.0%と有意差はなかったが,手術時間(強膜内固定に要する時間のみを抽出)はNX70群で593.6±116.0秒,アバンシィ群で469.4±118.6秒と有意な差があった(p=0.007)。術後合併症としてNX70群で1眼,アバンシィ群で2眼の術後虹彩捕獲を認めた。また,支持部露出はNX70群で2眼,術後囊胞様黄斑浮腫はNX70群で1眼,アバンシィ群で2眼認められた。

結論:強膜内固定術において光学部径の異なる2種類の眼内レンズはいずれも固定位置は良好であり安全に手術を施行することができたが,一定の頻度で出現する術後合併症には注意が必要である。

ブリモニジン/チモロール配合点眼薬の処方パターンと短期的効果

著者: 小森涼子 ,   井上賢治 ,   國松志保 ,   石田恭子 ,   富田剛司

ページ範囲:P.521 - P.526

要約 目的:ブリモニジン酒石酸塩(ブリモニジン)/チモロールマレイン酸塩(チモロール)配合点眼薬(BTFC)処方症例の特徴と短期的効果を後向きに調査する。

対象と方法:2019年12月〜2020年7月に井上眼科病院でBTFCが新規投与された64例を対象とした。患者背景を調査した。前投薬へ追加症例,変更症例に分け,変更症例では変更前後の眼圧を比較した。

結果:男性31例,女性33例,平均年齢68.7±11.0歳であった。原発開放隅角緑内障43例,続発緑内障13例などであった。眼圧は16.9±5.2mmHg,使用薬剤数は3.6±1.4剤であった。追加症例は4例,変更症例は60例であった。変更症例はブリンゾラミド/チモロール配合点眼薬+ブリモニジン点眼薬からBTFC+ブリンゾラミド点眼薬へ変更(A群)32例,β遮断点眼薬からの変更(B群)11例,ブリモニジン点眼薬からの変更5例などであった。眼圧は,A群では変更前16.6±4.3mmHgと変更後16.7±4.6mmHgで同等(p=0.962),B群では変更前15.8±3.2mmHgに比べて変更後14.4±2.8mmHgに有意に下降した(p<0.05)。

結論:BTFCは同成分同士の変更,β遮断薬やブリモニジン点眼薬からの変更で使用される頻度が高かった。眼圧は同成分同士の変更では変化なく,眼圧下降効果は良好であった。

PDE6A遺伝子変異による網膜色素変性症の1例

著者: 藤井爽平 ,   倉田健太郎 ,   細野克博 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.527 - P.533

要約 目的:PDE6A遺伝子ホモ接合性変異による網膜色素変性症を経験したので報告する。

症例:67歳,女性。両親は近親婚である。弟が5歳時に網膜色素変性症と診断されている。10歳時から夜盲を自覚し,15歳時に近医眼科で網膜色素変性症と診断を受けた。遺伝子検査を希望し,60歳時に当院を紹介され受診した。当院初診時の矯正視力は左右ともに0.1であった。両眼底に骨小体様色素沈着や網膜血管狭窄,視神経萎縮などの典型的な網膜色素変性症の所見に加えて黄斑部の萎縮を認めた。視野検査では,両眼ともに耳側視野が残存した求心性視野狭窄を認めた。光干渉断層計では網膜は全体的に菲薄化し,ellipsoid zoneは高度に障害されていた。同意を得たうえでターゲットシークエンス解析による遺伝子検査を施行し,PDE6A遺伝子にc.1957C>T:p.(R653)をホモ接合性変異で検出した。7年の経過で矯正視力は右0.1,左0.07へ低下し,求心性視野狭窄は進行し,中心10°となった。

結論:PDE6A遺伝子変異による本症例では典型的な網膜色素変性症の眼底所見を示し,視機能障害は比較的重篤で,既報の臨床像と類似していた。

増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に傍中心窩急性中間層黄斑症を生じた1例

著者: 田中彩乃 ,   倉田健太郎 ,   山﨑智幸 ,   堀田喜裕

ページ範囲:P.534 - P.541

要約 目的:増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術後に傍中心窩急性中間層黄斑症(PAMM)を生じた1例を経験したので報告する。

症例:49歳,女性。術前矯正視力は左0.5であった。左眼増殖糖尿病網膜症による硝子体出血に対して硝子体手術を施行したところ,術後に黄斑部に淡い斑状の混濁がみられた。光干渉断層計(OCT)で同部位の網膜内顆粒層付近に帯状の高輝度反射領域を認めたため,PAMMと診断した。En face OCTでは,高輝度病変は黄斑部の鼻側から耳上側にかけて広範囲に認め,OCT血管造影(OCTA)では網膜深層毛細血管網における血流が減少していた。静的量的視野検査では傍中心暗点を認めた。術後1か月ほどで淡い黄斑部の混濁は消失し,OCTにおける高輝度反射も目立たなくなったが,OCTAでは網膜深層毛細血管網における血流の減少は残存した。術後2か月時に黄斑局所網膜電図を行ったところ,左眼ではb波の減弱が認められた。その際の矯正視力は左1.2で,傍中心暗点は残存した。

考察:PAMMの視力予後は比較的良好とされているが,傍中心暗点が残存することで患者のQOL低下につながると考えられるため,硝子体術者はこの合併症を常に認識しておく必要がある。

上眼瞼手術後に長期経過して生じた角結膜障害の臨床的特徴

著者: 石本敦子 ,   佐々木香る ,   嶋千絵子 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.543 - P.547

要約 目的:重瞼手術の縫合糸あるいは上眼瞼手術後の瘢痕性肉芽腫が角結膜障害の原因であった5症例の臨床的特徴を報告する。

症例:年齢は67.0±5.7歳で,全例難治性再発性の角結膜障害として近医より紹介された。5症例中4例は美容形成外科にて埋没法重瞼術,1例は幼少期に上眼瞼手術の既往があった。

所見:角膜所見は潰瘍,白色小隆起性病変,擦過創様の線状角結膜障害(角膜障害に対して治療用コンタクトレンズを使用した例では装用中止後に出現),上輪部炎,糸状角膜炎と多様であったが,全例角膜上半分の部位に位置していた。上眼瞼は硬く,翻転が困難で,上眼瞼結膜には陥凹を認めたため,上眼瞼結膜の縫合糸や瘢痕性肉芽腫が原因と判断した。発症は眼瞼術後平均28±13年であった。全例,縫合糸が透明なことや出血により糸の検出が困難で,複数回の摘出試行を要した。重瞼術例の4例では縫合糸抜去により速やかに治癒し,幼少時眼瞼手術例は,保存的加療で上眼瞼肉芽腫の改善とともに角膜所見も治癒した。

結論:原因不明の再発性の角結膜障害をみた場合,疑うべき疾患の1つに重瞼縫合糸や瘢痕性肉芽腫による障害がある。再発する角膜上半分の部位の線状病変を含む多様な所見と上眼瞼結膜の硬化,結膜陥凹が特徴と思われた。注意深い問診と,複数回におよぶ上眼瞼の観察,治療用コンタクトレンズの中止,速やかな抜糸が診断と治療に肝要である。

10年後に僚眼に発症しウイルス定量を行った急性網膜壊死の1例

著者: 佐藤伊将 ,   松田英伸 ,   野崎耀平 ,   黒澤史門 ,   佐々木藍季子 ,   福地健郎

ページ範囲:P.549 - P.554

要約 目的:片眼の水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による急性網膜壊死(ARN)の発症10年後に僚眼にも同ウイルスによるARNが発症し,初発眼および10年後の再発眼ともPCR定量を行った症例の報告。

症例:66歳,男性。前医にて10年前に右眼にVZV(前房水にて6.8×106copies/ml)によるARNを罹患し,網膜剝離を発症した。治療として,抗ウイルス療法や硝子体手術により加療されていた。左眼のARNの疑いで当院を受診した。当院受診時の矯正視力は右(0.1),左(0.5)であり,左眼の角膜後面沈着物,眼底上方の黄白色滲出斑を認めた。臨床所見と反対眼の経過から,僚眼にARNが発症したと判断した。即日入院とし,アシクロビルの点滴とステロイドの全身投与を行った。当院受診時に採取した前房水からは6.8×104copies/mlのVZVが検出され,10年前に測定した初発眼に比べて1/100であった。治療後,左眼の硝子体混濁は増悪なく,最終視力は左(0.6)であった。現時点でも網膜剝離の発症はない。

結論:片眼のARN発症から10年後に僚眼に再発することがあり,右眼に比べてウイルス量が少ない左眼は予後が良好であった。

眼球内に長期間鉄片異物が存在した眼球鉄錆症の1例

著者: 山本優一 ,   盛秀嗣 ,   山田晴彦 ,   久次米佑樹 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.555 - P.562

要約 目的:長期間眼内に鉄片異物が放置されたが,手術加療によって視力を維持できた眼球鉄錆症の症例を経験したため報告する。

症例:22歳男性。X年2月,仕事中に鉄片が右眼を直撃したためすぐに近医眼科を受診したが,眼内炎症が軽微で刺入口が明らかでなかったためか経過観察となった。同年9月,右眼の眼痛と羞明が増強し,10月に関西医科大学附属病院を紹介され受診となった。初診時視力は右1.2,左1.5で,右眼の角膜周辺部に白色線状混濁,水晶体表面に多数の細かい褐色の沈着物がみられた。右眼は硝子体混濁を認めたが眼底に異物は発見できなかった。病歴や検査所見から眼内異物を疑い,眼窩X線撮影とCT撮影を施行したところ,水晶体後方に異物と考えられる高吸収域を認めた。以上から,右眼眼内異物および眼球鉄錆症と診断した。右眼白内障手術併用硝子体手術を施行したところ,術中,網膜周辺部鼻下側に約8mm×3.5mmの鉄片異物を認めた。後囊切開を追加し,白内障手術の強角膜創から摘出を行った。術後1年目の右眼光干渉断層計は,続発性黄斑上膜,hyperreflective foci,interdigitation zoneの不鮮明化,フラッシュ網膜電図ではsubnormalな波形をそれぞれ認めたが,右眼矯正視力は0.9を維持していた。

結論:病歴や経過から異物飛入の可能性がある場合は,必ずX線撮影やCT撮影を行って眼内異物滞留の有無を判断する必要がある。眼球鉄錆症は鉄片異物除去後も視機能低下をきたす可能性があるため,慎重な経過観察が必要である。

連載 Clinical Challenge・13

前房出血を合併した緑内障の1例

著者: 盛崇太朗

ページ範囲:P.420 - P.423

症例

患者:72歳,男性

主訴:右眼視力低下

既往歴:特記すべき事項なし

家族歴:特記すべき事項なし

現病歴:X−2年,右眼視力低下を自覚し近医眼科を受診した。近医初診時の視力は,右(0.8),左(1.2)で,右眼の後期原発開放隅角緑内障(primary open angle glaucoma:POAG)と診断された。以後は緑内障点眼にて眼圧10〜14mmHg程度にコントロールされていた。

 X年,右眼の視力低下を自覚し,近医を受診したところ,右眼の顕著な結膜充血と前房出血を認め,緑内障点眼および炭酸脱水酵素阻害薬内服を追加するも,右眼圧41mmHgと眼圧コントロール不良にて当院を紹介され受診となった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・7

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児の近視の進行抑制—オルソケラトロジー

著者: 平岡孝浩

ページ範囲:P.435 - P.439

◆オルソケラトロジーの眼軸長伸長抑制効果は広く確認されるようになり,アジア諸国では近視進行抑制法の中心的役割を担っている。

◆中長期データも徐々に報告数が増加し,有効性と安全性が確認されている。

◆低濃度アトロピン点眼との併用療法が注目されている。

眼科図譜

クリスタリン黄斑症の1例

著者: 岡本紀夫 ,   渡邉淳士 ,   中井慶

ページ範囲:P.485 - P.488

緒言

 クリスタリン黄斑症(crystalline maculopathy:CM)は稀な疾患で,中毒性,遺伝性および変性によると報告されている1)。2003年にSarrafら2)が,西アフリカで発見された中心窩に黄色もしくは緑色の沈着物を呈する疾患を西アフリカクリスタリン黄斑症(West Africa crystalline maculopathy:WACM)と呼称した2)。その後に西アフリカ以外でも同様の報告が散見された3)。今回,筆者らはWACMに類似した眼底所見を呈した1例を経験したので報告する。

臨床報告

アデノウイルス角結膜炎迅速診断キットの検出感度の比較検討

著者: 橋爪芽衣 ,   青木功喜 ,   八幡信代 ,   ,   石田晋 ,   大野重昭 ,   佐藤精一 ,   高岡晃教 ,   北市伸義

ページ範囲:P.442 - P.447

要約 目的:現在,ヒトアデノウイルス(HAdV)を検出する迅速診断キットが臨床現場で使用されているが,各キットやウイルス型による感度の違いは明らかではない。近年では,新型ウイルスによる流行性角結膜炎(EKC)も流行し,これらに対する各キットの評価も必要である。今回筆者らは,EKCの原因となるウイルス型に対する各キットの検出感度をin vitroで比較検討した。

方法:EKCの原因となるD種8,37,53,54,56,64型と,咽頭結膜熱(PCF)の原因となるB種3型のウイルスDNAコピー数による段階希釈液を作製し,わが国で広く使用されている3種類のキット(A,B,C),および米国のキット(D)の型別検出限界を検討した。さらに,各ウイルス型液でウイルスDNAコピー数あたりのウイルス蛋白濃度を測定してウイルス型間で比較検討した。

結果:検出感度はキット間で異なり,C,B,D,Aの順で高かった。新型の53,54,56型は他の型と比較していずれのキットでも高感度で検出された。これらの新型ウイルスでは,ウイルスDNAコピー数あたりのウイルス蛋白濃度が他の型より10倍以上と有意に高かった。しかし,8型はウイルス蛋白濃度が他の型の1/5以下であるにもかかわらず,検出感度は他の従来型ウイルス型とほぼ同等であった。

結論:ウイルス検出感度はキットにより,またウイルス型により異なる。ウイルス型による検出感度の差は,ウイルスDNAコピー数あたりの蛋白濃度の違い,および抗体との親和性の違いによって生じると考えられた。

カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液(ミケルナ®配合点眼液)の使用実態下における安全性と有効性—特定使用成績調査の中間解析結果

著者: 山本哲也 ,   真鍋寛 ,   冨島さやか ,   鈴木亜紀子 ,   芹生卓 ,   山重裕子 ,   福田泰彦

ページ範囲:P.449 - P.461

要約 目的:カルテオロール塩酸塩2%とラタノプロスト0.005%を含有する配合点眼液(ミケルナ®配合点眼液:以下,本剤)を使用実態下で長期使用したデータに基づき,本剤の安全性と有効性を検討した中間報告をすること。

対象と方法:全国80施設において,初めて本剤が投与された緑内障および高眼圧症の患者を対象とした特定使用成績調査を2017年4月1日から調査を開始し2019年9月27日までに調査票が回収された325例のうち,295例を安全性解析対象,275例を有効性解析対象とした。安全性では,副作用種類別ならびに患者背景因子別の副作用報告状況を,また有効性では,平均眼圧の推移,投与前の眼圧別ならびに対象疾患別の眼圧の推移,眼圧下降値の推移,投与前からの眼圧下降率および眼圧下降値別の眼数推移,本剤使用理由別の眼圧の推移を評価した。

結果:副作用は34例報告され,主なものは角膜障害8例,視野検査異常4例,眼瞼炎3例,視野欠損,霧視,結膜充血が各2例であった。そのうち視野検査異常の4例中3例,および視野欠損の2例が原疾患の悪化も原因と考えられると報告された。眼圧下降値は12か月後で1.9±2.9mmHg(平均±標準偏差)であった。

結論:本剤の長期使用実態下において,安全性の面で本剤によると思われる未知の重篤な副作用や新たに懸念すべき点はみられず,添付文書の使用上の注意を改訂する必要は認められなかった。また有効性では,眼圧の平均値が投与前に対して投与12か月後まで低かった。

急性網膜壊死に対する硝子体手術を施行後10か月で再発した1例

著者: 松本拓 ,   尾崎弘明 ,   小林彩加 ,   大塩毅 ,   内尾英一

ページ範囲:P.463 - P.468

要約 目的:急性網膜壊死(ARN)に対する硝子体術後に10か月経過してから再発を生じた症例の報告。

症例:58歳の女性。右眼の視力低下と霧視を自覚し,近医にて右眼のARNの疑いにて福岡大学病院眼科に紹介された。視力は右(0.5),左1.5。右眼の角膜裏面に豚脂様沈着物を認め,前房内炎症,眼底には乳頭腫脹,周辺部網膜の白濁を認めた。PCR検査により水痘帯状疱疹ウイルスを認め,ARNと診断。硝子体手術,シリコーンオイル注入術を2回行い炎症は鎮静化した。その10か月後にシリコーンオイル抜去の予定であったが入院時に右眼の霧視を自覚。視力は手動弁に低下し,前眼部に高度の炎症所見を認めた。ARNの再燃と判断し,バラシクロビル内服,プレドニゾロン内服にて炎症所見は軽快し,視力は(0.1)に改善した。

結論:ARNに対する硝子体手術およびシリコーンオイル注入術を施行してから10か月後に再発を生じる例は稀である。ARNでは硝子体術後も注意深い経過観察を要する。

病状評価に光干渉断層計が有用であった特発性頭蓋内圧亢進症の1例

著者: 畑中彬良 ,   木下貴正 ,   今泉寛子

ページ範囲:P.469 - P.477

要約 目的:病状評価に光干渉断層計(OCT)が有用であった特発性頭蓋内圧亢進症の1例の報告。

症例:42歳,女性。3か月前より起立時に両眼が数秒間暗くなる症状が続いたため,市立札幌病院眼科を初診した。両眼に視神経乳頭の著明な腫脹,網膜静脈の拡張および蛇行を認め,右眼の視神経乳頭耳側縁に網膜皺襞(Paton's line)を伴っていた。OCTでは両眼の視神経乳頭の腫脹に加え,乳頭鼻側縁に漿液性網膜剝離,右眼視神経乳頭耳側縁に網膜皺襞を認めた。視神経乳頭周囲の網膜は内層だけでなく外層も肥厚していた。両眼の乳頭周囲の強膜,脈絡膜,網膜色素上皮は前方へ突出,変形していた。各種検査から特発性頭蓋内圧亢進症と診断した。腰椎穿刺およびアセタゾラミドの内服後,視神経乳頭の腫脹は軽減し,再発なく経過している。

結論:本症例では視神経乳頭周囲の網膜は内層だけでなく外層も肥厚し,治療としては短期的には腰椎穿刺が,長期的にはアセタゾラミド内服が有効であった。特発性頭蓋内圧亢進症においてOCTは乳頭腫脹のみならず,治療前後の層別の網膜厚変化を非侵襲的に定量化することができ,病状評価に有用であると思われた。

白内障術後の複視の発生頻度とその特徴

著者: 矢崎香菜 ,   後関利明 ,   戸塚悟 ,   龍井苑子 ,   庄司信行

ページ範囲:P.479 - P.484

要約 目的:1990年代の白内障手術術後の複視の発生率は2〜3%であった。しかしながら,近年の白内障手術は低侵襲となり,術後複視の発生率は減少していることが予想される。そこで筆者らは,白内障術後の複視の発生頻度とその特徴について検討を行った。

対象と方法:対象は北里大学病院眼科にて2014年7月〜2016年6月に点眼麻酔下にて水晶体再建術を施行した3,017例とした。眼位は遠方の交代プリズム遮閉試験の結果を使用し,後方視的に検討した。

結果:術後に複視の訴えがあったのは31例(1.03%)であった。内訳は術前からの複視を訴えていた15例(0.50%),術後に初めて複視を訴えた16例(0.53%)であった。術前複視群では,術前後で斜視角に有意な変化はなかった。術後複視群の7例は斜視の手術歴や既往歴があった症例で,9例は斜視の既往がない症例であった。

結論:本研究の白内障術後に複視を訴えた割合は,既報より減少していた。そのうち,半数以上の症例が術後に初めて複視を訴えた。術後複視の発症を予測するために,術前に斜視の既往歴・治療歴の問診が必要である。しかしながら,白内障術前には予測不可能な複視患者も存在した。

臨床ノート

白内障術中の虹彩脱出時における虹彩縦切開

著者: 柊山剰 ,   橋之口かおり ,   津曲美幸

ページ範囲:P.489 - P.492

緒言

 白内障手術では,小切開であっても虹彩が脱失することがある。その際,脱失虹彩を切除するか整復するかのどちらかを選択せざるをえないが,一度脱失した虹彩は,元に戻そうとしても,その後の操作でまた再脱失しやすいので,切除を選択するほうが多いかと思われる。この際,筆者らは,脱失虹彩を切除はしないで,切開を加えるのみで良好な結果を得た症例を複数経験している。本稿では,そのなかの1症例を報告する。

今月の表紙

網膜振盪症

著者: 内田強 ,   中澤満

ページ範囲:P.424 - P.424

 症例は8歳,男児。サッカーの練習中に50cmの距離から蹴られたサッカーボールが左眼に直撃し見えなくなったとの訴えで当院を受診した。初診時の視力は右1.0(1.2×−0.25D),左指数弁,眼圧は左右ともに14mmHgであった。検眼鏡では後極を含む3時から9時までの広範囲な網膜振盪症,網膜出血,硝子体出血を認め,OCTにて左眼後極部の全体的な浮腫と黄斑円孔が観察された。

 写真は初診時の左眼底パノラマ撮影。小児のパノラマ撮影にあたり観察光を最小に設定した。周辺部までの広範囲な網膜振盪症と微細な網膜硝子体出血のコントラスト差に注意を払い,撮影光量を細かく調整しながら画角50°で全周のパノラマ撮影を行った。撮影はコーワ社製眼底カメラVX10i+600万画素CCD仕様で行い,ウェルシステム社製パノラマソフトでデジタル処理をした。

海外留学 不安とFUN・第63回

アイオワ波瀾万丈?! 留学体験記・1

著者: 橋本りゅう也

ページ範囲:P.440 - P.441

 「先生,聞いたよー!今度アイダホに留学するんだって? あれ,オクラホマだっけ?」と言われるぐらい日本人には馴染みがない米国アイオワ州アイオワシティにあるアイオワ大学病院眼科にて2018年12月から研究生活を始め,約2年が経過しました。コロナ・パンデミック,Black Lives Matter(BLM)運動,過去最大級のサンダーストームの襲来もあった波瀾万丈なアイオワでの研究生活について綴っていこうと思います。

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目次

ページ範囲:P.416 - P.417

欧文目次

ページ範囲:P.418 - P.419

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.563 - P.567

アンケート用紙

ページ範囲:P.572 - P.572

次号予告

ページ範囲:P.573 - P.573

あとがき

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.574 - P.574

 今月号では,「今月の話題」の代わりに福地健朗先生の第74回日本臨床眼科学会特別講演「緑内障からQOLを守るためのストラテジー」の総説が掲載されております。

 昨年の臨床眼科学会は,現地開催からハイブリッド開催へ,そして,オンデマンド配信に急遽変更になりました。今回掲載されている福地先生の特別講演も,オンデマンドで拝聴することができました。ネットでの視聴は,最初はなんだか物足りない気分がしましたが,ネットにはネットの良いところがあって,会場のスペースや座席数を気にする必要がないことや,後ろの席でスライドが見にくいといったことを気にする必要もありません。また,自分の時間の都合に合わせられることや,途中で中断して休憩できるところも魅力です。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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