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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科75巻5号

2021年05月発行

雑誌目次

特集 第74回日本臨床眼科学会講演集[3] 原著

トリアムシノロンテノン囊下投与が有効であったと考えられたIRVAN症候群の1例

著者: 吉田直子 ,   小坂拓也 ,   柴田優 ,   玉井一司

ページ範囲:P.615 - P.622

要約 目的:IRVAN症候群の軽症例で,トリアムシノロンテノン囊下注射(STTA)に反応したと考えられる症例の報告。

症例:69歳,女性。右眼視力低下を主訴に受診した。

所見と経過:矯正視力は右0.5,左1.2で,両眼とも前房に軽度の炎症と硝子体中細胞を認め,両眼底に網膜細動脈瘤が多発し,右眼は網膜細動脈瘤から黄斑部への滲出を認めた。1か月後に右眼の黄斑部の滲出がいったん吸収され,右眼視力1.2となった。その1か月後に新たな網膜細動脈瘤が出現し,右眼は黄斑部の滲出により視力が0.5に低下した。軽減傾向がみられないためSTTAを行ったところ,右眼の黄斑部の滲出は吸収され,右眼視力は0.7に改善,STTA後10か月の時点で再発を認めていない。

結論:IRVAN症候群の軽症例で,黄斑部の滲出性病変にSTTAが奏効したと考えられる。

両眼に梅毒性視神経網膜炎をきたした後天性梅毒の1例

著者: 本庄純一郎 ,   伊勢重之 ,   石龍鉄樹

ページ範囲:P.623 - P.628

要約 背景:梅毒による眼感染症(ocular syphilis)は多彩な所見を呈し,早期の診断は難しい。今回,後天性梅毒の初診時所見が両眼視神経乳頭浮腫であった症例を経験したので報告する。

症例:35歳,男性。約2か月前からの左眼羞明感を主訴に当科を初診となった。矯正視力は右1.5,左1.2。前眼部に特記所見なし。眼底検査で両眼視神経乳頭浮腫と左眼黄斑部漿液性網膜剝離があった。光干渉断層計検査(OCT)では網膜色素上皮の不整などはみられなかったが,硝子体腔内にわずかに点状高信号がみられた。視野検査で両側マリオット盲点の拡大を認めた。頭部画像検査で異常はなかった。初診時の血圧は160/90mmHgであった。フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)で,両眼視神経乳頭および乳頭周囲血管,左眼周辺網膜血管から蛍光漏出がみられた。炎症性疾患を疑い血液検査を行ったところ,梅毒抗体が強陽性であった。髄液にも梅毒抗体陽性が証明された。梅毒感染に伴う視神経網膜炎と診断し,神経梅毒の治療に準じてベンジルペニシリン1800万単位/日を2週間点滴した。治療後,自覚症状と乳頭所見は軽快し,治療7か月半後のFAで乳頭からの漏出所見は消失した。

結論:Ocular syphilisは梅毒感染の第2期以降でみられる。OCT所見では特徴的な網膜外層や網膜色素上皮異常がみられると報告されているが,発症初期では乳頭浮腫のみで典型的なOCT所見を示さない例があり,診断にあたっては注意を要する。

水痘・帯状疱疹ウイルスぶどう膜炎による続発緑内障にバルベルト緑内障インプラントが奏効した1例

著者: 山田靖之 ,   坂本理之 ,   昌原英隆 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.629 - P.634

要約 目的:近年,難治性緑内障に対してバルベルト緑内障インプラント(BGI)の有効性は報告されているが,水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によるぶどう膜炎の続発緑内障(SG)に対するBGI施行の報告はほとんどない。今回,VZVによるSGに対してBGIを施行し,良好な眼圧コントロールを得られた1例を経験したので報告する。

症例:35歳,男性。右眼充血,霧視を主訴に前医を受診,ぶどう膜炎の疑いで当科を紹介され受診。初診時の右眼矯正視力は0.9,右眼眼圧は42mmHg,前房内細胞,角膜後面沈着物を認めた。前房水PCR検査の結果,VZV虹彩毛様体炎によるSGと診断した。バラシクロビルの全身投与,アシクロビル眼軟膏および眼圧下降薬の点眼で眼圧下降を認めたが,来院3週目に眼圧36mmHg,血管新生緑内障が併発し,ベバシズマブ硝子体投与(IVB)を施行した。IVB後,いったん眼圧は下降するも,その後は高眼圧が続き,結膜および毛様充血が持続したため,線維柱帯切除術の効果が期待できないと判断し,前房挿入型BGIを施行した。術1年後,眼圧下降薬点眼下で眼圧は15mmHg程度である。

結論:VZVに起因するSGに対して,BGIは短期的には有効であった。今後,長期経過観察が必要であると考えられる。

経過観察中に退縮傾向がみられた両眼の硝子体血管系遺残の1例

著者: 中村彩 ,   宮城麻衣 ,   川野健一 ,   野々部典枝

ページ範囲:P.635 - P.639

要約 目的:水晶体後面の赤色混濁を伴う両眼の硝子体血管系遺残(PFV)が経過観察中に退縮し,手術を延期した1例の報告。

症例:在胎31週2日,体重1,175gで出生した女児。出生病院でPFVを指摘され,生後2か月時に名古屋大学医学部附属病院眼科を初診。

所見:右眼は水晶体後面に広範囲の線維血管組織による赤色混濁を認め,眼底は周辺部網膜のみ透見できた。左眼は水晶体後面中央に軽度白色混濁を認めたが,眼底は透見可能であった。両眼のPFVと診断し,右眼の水晶体切除術および前部硝子体切除術を予定したが,生後3か月時に水晶体後面の混濁が白色化して減少し,眼底の視認性が著明に改善したため手術を中止した。両眼とも徐々に視力が上昇した。しかし,生後1歳をすぎた頃から視力向上が乏しくなり,生後1歳9か月時に右眼の手術を施行した。

結論:水晶体後面に高度な混濁を伴うPFVでは,形態覚遮断弱視を防ぐため早期の手術を検討する。しかし,赤色混濁の場合は出生後でも自然退縮して視認性が改善し,外科的介入を延期できる可能性があるため,適切な評価を行い,手術時期を慎重に決定する必要がある。

3焦点と焦点拡張型の多焦点眼内レンズにおける術後視機能特性

著者: 西島有衣 ,   ビッセン宮島弘子 ,   太田友香 ,   中村邦彦 ,   南慶一郎

ページ範囲:P.641 - P.647

要約 目的:回折型3焦点眼内レンズ(IOL),焦点深度拡張型(EDOF)IOLを両眼に挿入した症例における術後の見え方の特性と患者満足度を後ろ向きに検討した。

対象と方法:対象は,当院にて2019年末までに白内障手術時に3焦点あるいはEDOF IOLが両眼挿入され,術後自覚屈折値が±1.0D以内の症例である。術後1〜3か月の両眼視下での裸眼・遠方矯正下視力(距離:0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,1.0,5.0m),眼鏡装用,コントラスト感度,満足度,光障害の有無を調べた。

結果:3焦点群は37例,EDOF群は64例であった。各群において,裸眼・遠方矯正下視力とも0.5m以遠,0.7m以遠で平均1.0以上が得られ,3焦点群は0.3〜0.5mで,EDOF群は1.0m以遠で有意に良好であった。眼鏡装用は,各群86.5%,42.1%で不使用であり,EDOF群の49.1%は手元視用であった。コントラスト感度は空間周波数12cpd,18cpdにおいてEDOF群が良好であった。満足度,光障害の有無については,EDOF群は49.1%が手元での見え方に不満,71.9%はコントラスト低下がないと回答した。

結論:3焦点群は遠中近距離で生活に必要な視力が得られ,EDOF群は中間以遠でより良好な視機能が得られた。各IOLの特性を理解し,症例に適したIOLの選択が重要と考える。

視覚関連補装具に関する全国の市区町村と更生相談所の現況

著者: 清水朋美 ,   堀寛爾 ,   山﨑伸也

ページ範囲:P.649 - P.655

要約 目的:視覚関連補装具に関する全国の市区町村と更生相談所の認識と対応の現況を把握すること。

対象と方法:全国の市区町村と更生相談所を対象に調査票を郵送し,回答依頼を行った。

結果:市区町村は781/1,741か所(44.9%),更生相談所は70/77か所(90.9%)の回答を得た。市区町村での眼鏡(弱視用)の決定件数は少なかった。暗所視支援眼鏡と最新技術を盛り込んだ高機能白杖については,いずれも「知らない」の回答が60%台で最多であった。更生相談所では,「市区町村から視覚関連補装具に関する相談(判断に悩むケースなど)が入った場合に相談する先」は,理学療法士,看護師が多く,眼科医,視能訓練士は1件ずつであった。「視覚障害関連業務にかかわる更生相談所の常勤職員の視覚関連補装具に関する知識習得の機会」については,「ある」が30件(42.9%),「なし」が41件(58.6%)であった。「なし」の理由としては,「必要だと思うが,他業務の割合が多く,視覚関連の時間が取りにくい」が26件(61.9%)で最多であった。視覚関連の特例補装具については,「問い合わせもなく,全く判定したことはない」が47件(67.1%)で最多であった。

結論:市区町村,更生相談所ともに視覚関連補装具に関する最新情報,専門性の担保に課題があると考えられた。

小児猫ひっかき病の1例

著者: 和田大史 ,   西智 ,   後岡克典 ,   伴裕美子 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.656 - P.661

要約 目的:典型的なリンパ節腫脹を伴わない視神経網膜炎を呈した猫ひっかき病(CSD)の症例を報告する。

症例:頭痛と視力低下を呈した12歳の女児。視神経網膜炎を呈し,抗Bartonella henselae IgG抗体・IgM抗体は陽性であった。CSDに対し抗菌薬とステロイドパルス療法を施行した。治療後,炎症と視力は改善した。

結論:視神経網膜炎に対する抗菌薬治療とステロイドパルス療法は有効であった。視神経網膜炎の原因疾患としてCSDを考慮に入れ,ペット飼育歴を含む詳細な問診および全身検索を行うことが重要である。

あけお眼科医院に車いすを用いて来院する患者の眼科臨床所見と全身疾患

著者: 明尾潔 ,   明尾庸子 ,   明尾慶一郎 ,   加藤帝子

ページ範囲:P.662 - P.667

要約 目的:車いすを用いてあけお眼科医院に来院する患者の視機能〔矯正視力(以下,視力),ハンフリー視野検査(HFA)〕を調べ,眼疾患と全身疾患について検討した結果の報告。

対象と方法:過去91か月間に受診した26症例を解析した。男性9例,女性17例であり,年齢は54〜94歳(平均77歳)であった。

結果:視力0.5以上の視力低下の著しくない例は右眼20例(83.3%),左眼14例(58.3%),HFAにおけるMD値についても,−15dB以上の視野障害の著しくない例は右眼12例(92.4%),左眼9例(69.3%)と視力低下の著明でない例と同様にほぼ80%であった。眼科疾患として白内障9例(34.6%),正常眼圧緑内障9例(34.6%),網膜疾患7例(26.9%)であった。全身疾患として脳出血,脳梗塞などの脳血管疾患が10例(38.5%),認知症,パーキンソン病などの脳神経疾患は8例(30.7%)と頭蓋内疾患が多かった。

結論:車いす使用の患者は視機能が温存され,頭蓋内疾患を伴う症例が多いため,HFA検査による精査のために来院を容易にさせるためにも,バリアフリーを施設に取り入れる必要があると思われた。

外傷性涙小管断裂の手術成績

著者: 草野真央 ,   上松聖典 ,   北岡隆

ページ範囲:P.668 - P.672

要約 目的:外傷性涙小管断裂症例の手術成績についての検討。

対象と方法:2012年4月〜2019年12月の間に,長崎大学病院眼科にて涙小管断裂と診断され,手術加療を行った9例9側(男性6例,女性3例,平均年齢32.6±29.5歳,平均経過観察期間3.6±3.5か月)を対象とした。各症例において,受傷原因,部位,受傷から手術までの期間,手術合併症,術後経過について診療録をもとに後ろ向きに調査した。涙小管再建術では全例で涙管チューブを留置した。

結果:受傷原因は鋭的外傷5側,鈍的外傷4側であった。受傷部位は,下涙小管断裂が6側,上涙小管断裂が2側,上下涙小管断裂が1側であった。受傷から手術までの期間は,受傷後24時間以内が4側,3日以内が4側,10日が1側であった。前医で眼瞼縫合後のものが3側あった。全身麻酔下で手術を施行したものが3側,局所麻酔が6側であった。涙小管および眼瞼の再建は全例で可能であった。術中・術後合併症は全例で認めなかった。チューブ抜去は術後1週間〜3か月で施行し,最終受診時には全例で流涙症状は改善した。

結論:当院での涙小管断裂に対する再建術の手術成績は良好であった。涙小管断裂は比較的緊急性があるとされているが,当院では早期に手術加療を施行できており,可能な限り早期の手術により良好な結果が得られると思われた。

アフリベルセプト硝子体内注射後に生じた再発性眼内炎の1例

著者: 福与波音 ,   森樹郎

ページ範囲:P.673 - P.676

要約 目的:アフリベルセプト硝子体内注射後に再発性の眼内炎を生じ,原因として免疫反応が疑われる症例を経験したので報告する。

症例:74歳,女性。左加齢黄斑変性に対してアフリベルセプト硝子体内注射を15回受けた後,ラニビズマブ硝子体内注射を6回受けた。網膜下出血をきたしたため,再びアフリベルセプトに変更したところ,2回目の注射直後から左眼痛を生じ,霧視が増悪した。左眼に前房内細胞,微細な角膜後面沈着物と硝子体混濁を認めた。感染性眼内炎を疑い硝子体手術を施行し,抗菌薬の点眼と静脈内投与を行った。翌日より眼痛と炎症所見は改善した。硝子体の培養結果は陰性であった。炎症が完全に消退した後,左眼アフリベルセプト硝子体内注射を行ったところ再び眼痛を生じ,前回と明らかに同様の炎症所見を認めた。アフリベルセプトに対する免疫反応を疑い,ステロイドと抗菌薬の点眼加療を行った。炎症は軽快し,その後のラニビズマブの注射では,炎症の再発は認めなかった。

結論:アフリベルセプトに対する免疫反応が原因と考えられる再発性の眼内炎の症例を経験した。

動的視野と静的視野による日本の視野等級,Functional Field Score classの比較

著者: 原田亮 ,   濱田悠太 ,   加茂純子

ページ範囲:P.677 - P.686

要約 目的:2018年7月に改正された視覚障害認定基準の視野等級判定について,ゴールドマン視野計(GP)による等級と,自動視野計による両眼開放エスターマンテスト(ET),10-2プログラム(10-2)の等級を比較すること。Functional Field Score(FFS)classとの比較を行うこと。

対象と方法:対象は本研究について同意を得た88名で,男性52名,女性36名,平均年齢70.1±12.5歳であった(緑内障60例,糖尿病網膜症11例,網膜色素変性3例,網脈絡膜萎縮2例,同名半盲5例,その他7例)。GPⅢ/4e,Ⅰ/4e,Ⅰ/2eで,左右眼の測定を行い,動的視野等級,FFS classを求めた。OCTOPUS 900視野計で両眼開放ETと,10-2を左右眼で行い,静的視野等級を求めた。

結果:視野等級に該当した症例数は88例中39例であった。動的と静的が同じ等級であったのは18例(46.2%)であった。動的よりも静的のほうが視野等級は重いと判定された症例のうち,1級重かったのは13例(33.3%),2級重かったのは3例(7.7%),3級重かったのは2例(5.1%)であった。静的よりも動的が1級重かったのは3例(7.7%)であった。動的視野等級とFFS classのいずれかに該当したのは88例中30例であった。動的視野等級とFFS classが同じであったのは19例(63.3%),動的視野等級よりもFFS classが1重かったのは6例(20.0%),FFS classよりも動的視野等級が1重かったのは5例(16.7%)であった。

結論:日本の基準では,動的と静的で同じ等級に分類されたのは46.2%のみであった。動的視野等級とFFS classの比較では,判定が一致する症例は63.3%であった。

自然閉鎖した後に再発したstage 4特発性黄斑円孔の1例

著者: 藤原徳雄 ,   内田望 ,   本田博英 ,   髙橋由衣 ,   宮本昌典 ,   八木文彦

ページ範囲:P.687 - P.690

要約 目的:特発性黄斑円孔の自然閉鎖は稀であり,3〜5%と報告されているが,再発した症例の報告は数例のみである。今回,特発性黄斑円孔が自然閉鎖した後に再発した1例を経験したので報告する。

症例:手術時65歳,男性。右眼視力低下と歪視を主訴に近医を受診し,右眼黄斑円孔を指摘され,手術目的で紹介となる。初診時の右眼視力は(0.5),stage 4特発性黄斑円孔を認め,手術予定となったが,その後自然閉鎖し,手術せずに経過観察となった。右眼視力(1.2)まで改善したが,3年後に右眼視力は(0.2)へと低下し,stage 4特発性黄斑円孔の再発を認めた。白内障および硝子体同時手術を行い,内境界膜剝離と六フッ化硫黄ガスタンポナーデを併施した。術翌日,円孔閉鎖を認め,術後6か月の右眼視力は(0.4)であった。

結論:特発性黄斑円孔の自然閉鎖後に再発した例は稀であるが,自然閉鎖後も経過観察が必要と考えられた。

術中光干渉断層計(OCT)併用で傍中心部角膜穿孔に層状角膜移植術を施行した1例

著者: 西山武孝 ,   辻中大生 ,   慶田真喜子 ,   丸岡真治 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.691 - P.695

要約 目的:術中光干渉断層計(OCT)併用で傍中心部角膜穿孔に層状角膜移植術を施行した1例を経験したので報告する。

症例:70歳台の女性。40歳台から関節リウマチを発症し,当科へはドライアイ,上強膜炎で通院中であった。1週間前からの左眼の疼痛,急速な視力低下を主訴に20XX年2月Y日に当科を受診した。

所見:矯正視力は0.2まで低下しており,7時方向傍中心部に角膜穿孔と,虹彩の脱出を認めた。リウマチ性の傍中心部角膜穿孔と診断し,抗菌薬,ステロイド点眼にて保存的加療を試みたが,閉鎖しないため第7病日に術中OCT(EnFocus:ライカマイクロシステムズ製)を用いた保存角膜による層状角膜移植術を施行した。術中OCTによって,虹彩前癒着や虹彩嵌頓の状態,創部周辺角膜の厚み,さらには角膜縫合糸の深さを客観的に評価できた。また,患者視軸にかかりにくいよう移植角膜をデザインするうえでも有用であった。術後,矯正視力は0.5まで回復し,現在まで前房水の漏出はなく経過している。

結論:角膜穿孔症例に対して術中OCTを用いた角膜移植術を施行することで,術中の虹彩嵌頓の解除,移植角膜のデザイン,角膜厚の確認など,OCTによるメリットを経験することができた。

連載 今月の話題

多焦点眼内レンズによる白内障手術の現状と今後

著者: 大鹿哲郎

ページ範囲:P.589 - P.594

 多焦点眼内レンズ(IOL)は,2020年4月から,選定療養の枠組みで使用されることになった。医療技術が選定療養として認められたのは初めてである。これにより,「通常の水晶体再建術」に相当する費用は保険で,「多焦点IOLと単焦点IOLの差額」と「追加の検査代」に相当する部分が自己負担となった。眼科医療の将来のためにも,本制度を適切に運用していきたい。

Clinical Challenge・14

漿液性網膜剝離の原因を考える

著者: 柳靖雄

ページ範囲:P.583 - P.587

症例

患者:72歳,男性

主訴:右眼視力低下,中心暗点

既往歴:高血圧(内服にてコントロール良好)。糖尿病(−),高脂血症(−)。

生活歴:機会飲酒,喫煙(20歳時から1日10本程度)。

現病歴:1か月前にたまたま片目をつぶってみたところ右眼が見えづらいのに気がついた。目覚めたときに天井を見るとシミのように汚れて見えた。症状に気がついてから経過をみていたが,あまり変化はなかった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・8

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児の近視の進行抑制—多焦点ソフトコンタクトレンズ

著者: 二宮さゆり

ページ範囲:P.595 - P.601

◆世界的には近視抑制治療用の多焦点SCLの処方割合が増えつつある。

◆多焦点SCLは近視度数が強い子どもにも処方可能である。

◆累進屈折型多焦点SCLでは,周辺加入度数と近視抑制効果の相関関係も報告されている。

臨床報告

大腸憩室出血に対する抗血小板薬休薬後に非動脈炎性前部虚血性視神経症と急性冠症候群を発症した1例

著者: 原藍子 ,   工藤孝志 ,   工藤朝香 ,   中澤満

ページ範囲:P.604 - P.608

要約 目的:消化管出血に対し,抗血栓薬の中止後に左非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)を発症した1例を経験したので報告する。

症例:60歳台,男性。2009年,心筋梗塞発症後よりクロピドグレル硫酸塩とバイアスピリンを内服していた。2019年1月,下血にて当院救急外来を受診,多量の大腸憩室出血による出血性ショック状態のため緊急入院,抗血栓薬を中止し輸血が開始された。入院3日目の午後より左眼全視野での霧視が出現し,さらに4日目の未明に左眼の著明な視力低下を自覚し当科紹介となった。視力は右0.6,左光覚なし。視神経乳頭は左眼のみ蒼白浮腫状で,蛍光眼底造影検査では左眼視神経乳頭の充盈が不良のため,NAIONと診断した。同日よりステロイドパルス療法を開始するも,翌日には急性冠症候群からの心室頻拍を発症し,緊急治療を要した。全身状態を考慮し,ステロイドパルス療法は中止した。その後は視力の改善はみられなかった。

考按:アスピリンの中止により心血管イベント,脳梗塞が約3倍に増加するとされ,脳梗塞の発症はアスピリンの休薬後10日以内が70%を占めるといわれている。本症例は透析中,小乳頭,低血圧,冠動脈疾患既往などNAION発症のリスクを有しているが,発症の翌日に急性冠症候群を発症していることなどを考慮すると,抗血小板薬の休薬がNAION発症の要因の1つであった可能性も考えられた。

成人アトピー性皮膚炎患者の結膜に伝染性軟属腫が生じた1例

著者: 鈴木貴文 ,   北本昂大 ,   吉田絢子 ,   森川鉄平 ,   豊野哲也 ,   臼井智彦 ,   宮井尊史

ページ範囲:P.609 - P.614

要約 目的:伝染性軟属腫は伝染性軟属腫ウイルスの感染による皮膚疾患である。眼科領域では易感染性患者において,皮膚病変に伴い眼瞼に病変が生じることはあるが,成人で結膜に伝染性軟属腫の病変を認めた報告は少ない。今回,成人の球結膜に伝染性軟属腫を生じた症例を経験したため報告する。

症例:アトピー性皮膚炎でステロイド外用薬にて治療中の46歳男性。左眼の異物感で近医を受診し,左眼の角膜輪部8時方向に2mm大の円形で白色の腫瘤が認められ,切除・病理検査目的に当科へ紹介となった。

結果:同病変の切除を施行し,病理検査で好酸性の封入体構造をもつケラチノサイトが認められ,伝染性軟属腫と診断された。切除後は再発,悪化なく経過している。

考按:これまで後天性免疫不全症候群やステロイド全身投与などによる免疫低下状態の患者において,結膜に伝染性軟属腫を生じた症例が報告されている。本症例では,アトピー性皮膚炎に対して眼瞼にステロイド軟膏の使用歴があった。アトピー性皮膚炎において,皮膚に病変がなくとも眼表面に伝染性軟属腫が生ずる可能性があることが示唆された。

今月の表紙

虹彩腫瘍

著者: 水澤剛 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.582 - P.582

 症例は70歳台,男性。飛蚊症を自覚し,糖尿病網膜症の定期健診で近医を受診したところ,右眼底耳側に隆起病変を認め,他院を紹介され受診した。その際,眼底病変に加え,虹彩に赤色隆起性病変を認め,精査目的で当科へ紹介され受診となった。既往歴は,腎細胞癌に対してニボルマブを使用した化学療法中であり,他に上部消化管出血,高血圧,糖尿病,心疾患の加療中である。両眼ともに水晶体再建術が施行されている。

 当院初診時の矯正視力は右1.2,左1.2,眼圧は右17mmHg,左16mmHgであった。前眼部所見は,右眼の虹彩7時方向に白色で若干赤みを帯びた隆起性病変を認め,眼底所見は,下耳側1/2象限にわたる隆起性病変が観察された。当院初診時より3か月は眼病変に変化はなかったが,その後,骨転移が発覚し,初診から半年後に再受診となった。写真はそのときの前眼部写真で,虹彩の隆起病変は増大し,さらに赤みが強くなっている。撮影にはライト製作所のRS-1000を用い,撮影倍率は16倍で撮影している。疾患の凹凸が再現できるように幅広のスリットを60°から照射して陰影を出したのち,赤みが忠実に再現できるように光量を設定して撮影した。

海外留学 不安とFUN・第64回

アイオワ波瀾万丈?! 留学体験記・2

著者: 橋本りゅう也

ページ範囲:P.602 - P.603

 米国中西部のアイオワ大学病院眼科にて約2年半の研究留学を終えて4月に帰国いたしました。渡米し,アイオワでの留学生活が1年半ほど経過した頃,COVID-19パンデミックが始まり,BLM運動,サンダーストームによる避難生活,大統領選挙などを米国内で経験できたことは人生の大きな財産となりました。

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目次

ページ範囲:P.578 - P.579

欧文目次

ページ範囲:P.580 - P.581

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.697 - P.702

アンケート用紙

ページ範囲:P.708 - P.708

次号予告

ページ範囲:P.709 - P.709

あとがき

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.710 - P.710

 臨床眼科5月号をお届けいたします。本号は第74回日本臨床眼科学会講演集の第3回目です。今回は13本の学会原著が掲載されました。第74回の臨眼はCOVID-19の影響で完全Web開催となりましたが,学会長の杉山和久先生(金沢大学)の素晴らしいアイディアと実行力で歴史に残る学会になりました。個人的にはプログラム委員長を仰せつかったこともあり,大変感慨深い学会でした。演題も素晴らしいものが多く,やはりコロナ禍でも学術活動は皆さんしっかりと行っておられました。投稿してくださった先生方,査読してくださった先生方,その他,今回の臨眼の関係各位に心から御礼申し上げたいと思います。

 「今月の話題」は大鹿哲郎先生による「多焦点眼内レンズによる白内障手術の現状と今後」です。2020年4月より選定医療となった「多焦点眼内レンズによる白内障手術」は,12年間にわたり先進医療の枠組みの中で検討され,結局,医療技術としては初めての「選定医療」となりました。大鹿先生はこの12年間に,日本眼科学会,日本眼科医会,厚労省,政治家,日本医師会,中医協など,さまざまなステークホルダーの間に入って調整をなさってこられました。まさしく大鹿先生しか書けないドキュメンタリーを読んでいるようでした。文章に書けないようなご苦労もたくさんあったと思います。機会があれば,そのあたりの詳しい話もじっくりと聞いてみたいものです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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