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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科75巻6号

2021年06月発行

雑誌目次

特集 第74回日本臨床眼科学会講演集[4] 原著

視神経乳頭の発赤腫脹を主徴としたサイトメガロウイルス網膜炎の1例

著者: 新留翔一朗 ,   臼井嘉彦 ,   毛塚剛司 ,   柳田千鉱 ,   森秀樹 ,   後藤浩

ページ範囲:P.761 - P.766

要約 目的:濾胞性リンパ腫の患者に併発した視神経乳頭の発赤腫脹を主徴としたサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の1例を経験したので報告する。

症例:62歳,女性。左眼の視力低下を主訴に東京医科大学病院(当院)眼科に紹介となった。初診時の矯正視力は右眼1.2,左眼0.6で,左眼に視神経乳頭の発赤腫脹がみられた。

 前医で経過観察を行っていたが,MRIで左視神経にわずかな造影効果を認めたため,特発性視神経炎の診断のもと,ステロイドパルスを施行されたが視力の改善がなく,当院を再紹介され受診となった。当科再診時,視神経乳頭の発赤腫脹は改善していたが視神経萎縮と網膜滲出斑を認めたため,診断的治療目的で硝子体手術を行った。採取された硝子体液中のCMV-DNAが陽性となり,CMV網膜炎の診断に至った。

結論:悪性リンパ腫の治療後など,免疫能の低下した患者ではCMVによって視神経乳頭の発赤腫脹から始まる網膜炎を生じることがあり,鑑別疾患の1つとして留意する必要がある。

オミデネパグイソプロピル点眼液の効果と安全性の検討:平均10か月成績

著者: 金森章泰 ,   金森敬子 ,   若林星太

ページ範囲:P.767 - P.774

要約 目的:0.002%オミデネパグイソプロピル点眼液(オミデネパグ)の中期眼圧下降作用と安全性について検討した。

対象:かなもり眼科クリニックにてオミデネパグを投与した両眼有水晶体の緑内障連続94例である。

結果:有効性は点眼開始後6か月以上経過を追えた3群(新規群n=62,追加群n=7,変更群n=13)から解析を行い,中止例n=12についても検討した。投与前と6か月後の眼圧は,それぞれ新規群で17.1±2.2,13.9±2.4mmHg,追加群で15.9±3.2,14.1±2.3mmHgであり,有意な眼圧下降が得られた(mixed effect model,p<0.01)が,変更群では有意差はなかった。角膜厚は新規群と変更群で有意に肥厚化した(対応のあるt検定,p<0.05)。中止例のうち,4例はノンレスポンダーと判断したもの,8例は1例の虹彩炎と1例の黄斑浮腫を含む副作用発現症例であり,これらの副作用はすべて点眼中止により軽快した。

結論:オミデネパグは6か月以上にわたり有意に眼圧を下降させる。忍容性もあり,有水晶体眼には第一選択薬の緑内障点眼薬と位置づけてよいと考える。

診察券いらずの顔認証カメラシステム

著者: 眞鍋洋一 ,   岩崎明美

ページ範囲:P.775 - P.778

要約 目的:診察券の代わりに顔認証カメラを用いて,受付業務の簡略化および患者間違いを防ぐシステムを作る。

方法:ジオビジョン社製の顔認証カメラJVS-AVD01を使用して患者の顔を認識させ,電子カルテの受付入力を自動でできるシステムを構築した。①iPadにインストールした顔認証カメラへの入力ソフトを使用して患者のIDと名前を入力する。②iPadで患者の顔を何枚か撮影し,登録する。③顔認証カメラを患者に見てもらい,顔認証を行う。④電子カルテと連携して,顔認証を行うと自動的に電子カルテの受付が完了する。

結果:初診の場合,IDと名前の登録,写真撮影を行うのと,診察券の代わりであることを患者に説明するのに数分を要した。再診時は,顔認証カメラを見てもらうだけなので受付が数秒で可能であった。患者間違いは,調査期間中にはなかった。認証用のカメラは据置型なので,乳幼児の場合は適切な位置まで抱き上げる必要はあるが,認証は可能であった。撮影した写真は画像ファイリングソフトでも使用することが可能であり,診察室でも顔写真で本人であることを確認しやすかった。

結論:顔認証カメラは,診察券の代わりに使用でき,受付業務の簡略化,患者間違い防止に貢献する。

VERION®によるトーリックIOL挿入術においてPurkinje像を一致させる必要性の検討

著者: 柳川俊博

ページ範囲:P.779 - P.784

要約 目的:VERION®にてトーリック眼内レンズ(IOL)の軸合わせを行う際に,Purkinje像を一致させる必要があるか検討した。

対象と方法:対象はトーリックIOLを挿入した24眼。挿入したirrigation and aspiration(I/A)でPurkinje像を一致させた。その状態のまま,I/A先端でIOLの軸合わせを行い,VERION®にて撮影した(A群)。I/A抜去後,自由眼位の状態で再度撮影した(B群)。A群,B群の画像から,VERION投影線と軸マークの角度を測定した。両者の角度差の分布やウィルコクソンの符号付順位和検定を行い検討した。

結果:A群とB群の角度差は0〜1.7°(平均0.77±0.54°)であった。1°未満が15/24(62.5%)であった。A群とB群に有意差はなかった(p=0.121)。

結論:VERION®によるトーリックIOLの軸合わせは,Purkinje像を一致させなくてもよい可能性がある。

白内障および白内障同時硝子体手術での術前後の角膜屈折値の検討

著者: 藤田雄己 ,   坂本理之 ,   吉田いづみ ,   昌原英隆 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.785 - P.790

要約 目的:白内障同時硝子体手術では,術前予測屈折値に対する術後屈折値の近視化が報告されている。今回,筆者らは白内障手術および白内障同時硝子体手術において術前後の角膜屈折値を検討したので報告する。

対象と方法:東邦大学医療センター佐倉病院で2019年4月〜2020年3月の間に,術後1か月後に眼軸および角膜屈折値を測定できた白内障手術群(34例50眼,平均年齢74.4±6.8歳),白内障同時硝子体手術群(52例52眼,平均年齢66.2±8.3歳)に対して,術前および術後1か月後のIOLMaster®により測定した角膜屈折値を検討した。

結果:白内障手術群は,術前平均角膜屈折値44.2±1.2D,術後平均角膜屈折値44.2±1.3D,術後屈折誤差−0.01±0.56Dであった。一方,白内障同時硝子体群は,術前平均角膜屈折値43.8±1.4D,術後平均角膜屈折値44.0±1.3D,術後屈折誤差−0.72±0.62Dであった。術前後の角膜屈折値の差を白内障群および白内障同時硝子体群で比較したところ有意差があった(p<0.05)。

結論:白内障同時硝子体手術における術後角膜屈折値の変化が,術後近視化の要因の1つと推察された。

硝子体注射による後囊破損から生じた外傷性白内障に対し水晶体再建術を施行した5例

著者: 竹下百合香 ,   中尾功 ,   江内田寛

ページ範囲:P.791 - P.796

要約 目的:抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体注射後に後囊破損および外傷性白内障を生じ,水晶体再建術を行った5例を経験したので報告する。

対象と方法:2015〜2019年の間に佐賀大学医学部附属病院眼科にて,抗VEGF薬硝子体注射後の外傷性白内障に対し水晶体再建術を施行した5例を後ろ向きに調査した。

結果:術前に明らかな後囊破損が確認できたのは3例で,他は術中に確認された。成熟白内障の1例は,hydrodissection直後に核落下を生じた。Hydrodissectionを省略した3例において核落下を生じた症例はなかった。核落下を認めた1例と前房への硝子体脱出を認めた2例は硝子体手術を併施した。術後は,硝子体手術を併施した3例のうち1例で増殖硝子体網膜症を生じ,2例は抗VEGF薬硝子体注射への反応が不良となり光線力学療法やトリアムシノロンアセトニド(TA)テノン囊下注射を併用した。硝子体手術を併施しなかった2例では,抗VEGF薬硝子体注射やTAテノン囊下注射を継続した。

結論:硝子体注射後の破囊例でも術中操作に留意すれば硝子体手術を併用せずに水晶体再建術が可能である。硝子体手術を併用した場合,術後経過やその後の原疾患の経過にも影響することがあり,可能な限り水晶体再建術のみで終了することが望ましい。

術中虹彩緊張低下症候群の白内障手術後に残存した水晶体小片により角膜内皮の減少をきたした1例

著者: 落彩花 ,   昌原英隆 ,   矢田圭介 ,   永岡卓 ,   坂本理之 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.797 - P.802

要約 目的:術中虹彩緊張低下症候群(IFIS)を伴う白内障手術中に水晶体核片が残存し再手術にて除去したが,短期間で角膜内皮の著明な減少をきたした1例を報告する。

症例:85歳,男性。東邦大学医療センター佐倉病院(当院)にて左眼白内障手術を受けたが,術中にIFISを発症した難症例であった。術後早期は視力良好であったが,術後29日目に左眼視力低下を訴え近医を受診し,眼内炎の疑いで当院に紹介となった。

所見:左眼視力は(0.04)と低下し,前房内の残存水晶体とそれに隣接した限局性の角膜全層浮腫が認められた。左眼角膜内皮細胞数は術前2,641個/mm2から1,434個/mm2まで減少していた。術後40日目に再手術にて残存水晶体を摘出した。核片除去手術後86日目には左眼視力は(0.9),角膜浮腫は改善したが,角膜内皮細胞数は510個/mm2と著明に減少した。

結論:残存した水晶体が機械的接触をすることや,炎症を惹起し角膜へ波及することによって角膜内皮が減少するため,IFISを伴う白内障手術は,水晶体の一部が残存しないように注意しながら行う必要がある。また,たとえ小片であっても早急に除去するべきであると考えられた。

CHARGE症候群に合併した網膜剝離を硝子体手術で治療した1例

著者: 武島聡史 ,   齊間至成 ,   西島崇敬 ,   御任真言 ,   渡邊未奈 ,   田中克明 ,   髙野博子 ,   蕪城俊克 ,   梯彰弘

ページ範囲:P.803 - P.809

要約 目的:CHARGE症候群はコロボーマ,先天性心疾患,後鼻孔閉鎖,成長障害,外陰部低形成,耳奇形・難聴を主症状とする先天性形態異常である。今回CHARGE症候群に伴うコロボーマに網膜剝離を合併し硝子体手術で治療した症例を経験したので報告する。

症例:患者は41歳,男性。幼少期よりコロボーマと先天性白内障による弱視があった。急激な左眼視力低下を自覚したため近医を受診した。左眼網膜剝離を指摘され自治医科大学附属さいたま医療センター眼科を紹介され受診となった。

所見:矯正視力は右0.02,左0.03,眼圧は右26mmHg,左14mmHg。両眼に虹彩コロボーマ,黄斑部と視神経乳頭を含む広範囲の脈絡膜コロボーマがみられ,左眼はコロボーマの部位以外は網膜全剝離の状態であった。虹彩および脈絡膜コロボーマ,難聴,精神発達遅滞,顔面神経麻痺,外陰部低形成などからCHARGE症候群と考えられた。同日,超音波乳化吸引術,眼内レンズ挿入術,経毛様体扁平部硝子体切除術,網膜光凝固術,シリコーンオイルタンポナーデを施行し,網膜復位を得た。術中所見からコロボーマ外の網膜上方に裂孔を認め,原因裂孔と思われた。半年後にシリコーンオイル抜去術を施行したが網膜再剝離はなく,最終観察日の左眼視力は0.15(矯正不能)であった。

結論:CHARGE症候群症例に伴う脈絡膜コロボーマに合併した網膜剝離に対してシリコーンオイルタンポナーデ併用硝子体手術が有効であった。

外傷性毛様体解離に著明な浅前房を合併し治療に難渋した1例

著者: 森山芹香 ,   坂本理之 ,   昌原英隆 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.810 - P.817

要約 目的:毛様体解離における部位の同定は超音波生体顕微鏡(UBM)や前眼部光干渉断層計(OCT)が有効であるが,設置している機関は少ない。今回,筆者らは外傷性毛様体解離に著明な浅前房を合併したために解離部位や範囲が同定できず治療に難渋した症例を経験したので報告する。

症例:33歳,男性。ラグビーの試合中に右眼を鈍的に受傷した。1週間後に当科を紹介され受診し,右眼視力は0.8,右眼圧8mmHg,水晶体の前方移動に伴う浅前房を認め,毛様体解離が疑われた。

結果:自然治癒を期待し経過観察したが,低眼圧の持続,視力低下,浅前房,脈絡膜皺襞の悪化を認め,受傷後1年半後に毛様体解離部分を正確に同定できないまま硝子体手術,経毛様体扁平部水晶体切除術,ガスタンポナーデを施行し,術後仰臥位安静の治療を行った。初回手術後,眼圧は8mmHgと依然低値であった。前房深度が正常化し隅角検査にて下方を中心に約90°に毛様体解離が同定できたため,二期的に眼内レンズ挿入および術中隅角鏡を用いた毛様体縫着術を施行した。手術3か月後,視力は1.0へと向上し,隅角は一部周辺虹彩前癒着を認めるものの,毛様体解離は改善し,眼圧は15mmHg,脈絡膜皺襞の改善が認められた。

結論:鈍的外傷が原因で発症した水晶体偏位を伴い著明な浅前房を合併した外傷性毛様体解離で,解離範囲の同定ができない場合は,治療に難渋する可能性がある。

視神経炎を呈した抗MOG抗体関連疾患の小児2例

著者: 大槻早紀 ,   前川有紀 ,   原田史織 ,   里龍晴 ,   大石明生 ,   北岡隆

ページ範囲:P.818 - P.825

要約 目的:視神経炎を呈した抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体関連疾患の小児2例の報告。

症例1:13歳,女児。左眼の視力低下を主訴に近医を受診し,左視神経乳頭浮腫のため総合病院に紹介となった。MRIで左視神経の腫大を認め,視神経炎を疑われ当科を受診した。初診時の矯正視力は右1.0,左0.01,左視神経乳頭の発赤・浮腫を認めた。視神経炎と診断し,初診日よりステロイドパルス療法を開始した。1クール終了時に左眼矯正視力は1.2まで回復した。

症例2:7歳,女児。右眼視野欠損,発熱を主訴に近医眼科を受診し,両視神経乳頭浮腫のため近医脳外科に紹介となった。髄液細胞数の増加のため髄膜炎を疑われ,総合病院小児科でのMRIで両側の視神経の腫大を認め,当院小児科へ転院となった。初診時の視力は右光覚弁,左1.0で,著明な右眼視野狭窄と,右優位な視神経乳頭の発赤・浮腫を認めた。視神経炎と診断し,ステロイドパルス療法を3クール施行し,初診から64日後には右眼矯正視力1.0まで回復した。

所見:2症例ともステロイド治療が著効した。治療前血清・髄液より抗MOG抗体陽性が判明した。

結論:小児の抗MOG抗体陽性視神経炎2例を経験し,ステロイド治療が著効した。

長期ひきこもり者の重症増殖糖尿病網膜症

著者: 遠谷寛人 ,   二瓶亜樹 ,   森秀夫

ページ範囲:P.827 - P.831

要約 目的:今日,中高年の長期ひきこもりが社会問題となっている。今回重篤な増殖糖尿病網膜症(PDR)の40歳台のひきこもり男性2例を経験したので報告する。

症例:2例とも2018年に腎不全などで内科に緊急入院となった。健診の受診歴はなく原因不明のため腎生検が行われ,糖尿病が判明し透析導入となった。眼科では2例とも片眼は硝子体出血(VH)により眼底透見不能,視力は眼前手動弁であったため硝子体手術(VIT)を施行した。僚眼の小数視力は症例1が0.4,症例2は1.0であり,汎網膜光凝固を施行した。症例1は2か月後VHのため視力0.1となりVITを施行した。

結果:2例とも片眼のVIT後の視力は手動弁または光覚弁に終わった(症例2は2回手術)。症例1の僚眼は,VIT中に精神的不穏となり中止に至った。視力は0.3に改善したが,全身麻酔下での再手術を計画中に自宅で高カリウム血症による心肺停止となり,搬送された後は受診が途絶えた。症例2の僚眼は0.8の視力を保っている。

結論:中高年の長期ひきこもりでは,糖尿病など全身疾患が放置され,重篤化して初めて医療が開始される場合がある。眼科的難症例では長時間の手術が必要なため,精神的脆弱さが懸念されれば全身麻酔を選択すべきと思われた。

アデノウイルス結膜炎の臨床症状の検討

著者: 大坪瑞季 ,   松澤亜紀子 ,   花田真由 ,   山田瑛子 ,   林泰博 ,   工藤昌之 ,   高木均

ページ範囲:P.833 - P.837

要約 目的:アデノウイルス(Adv)結膜炎の経年的な臨床症状の変化を検討する。

対象と方法:2014〜2019年に都内のクリニックを受診し,Adv迅速診断キット陽性となった213例349眼を対象とした。臨床症状,使用薬剤,多発性角膜上皮下浸潤(MSI),結膜偽膜(PM)の発生について,後ろ向きに検討した。

結果:年別のAdv結膜炎症例数は,2014年18例28眼,2015年42例70眼,2016年49例79眼,2017年30例49眼,2018年42例71眼,2019年32例52眼であった。MSI発生率は,2014年は0%であったが全体では18.3%であった。PM発生率は,2014年14.3%,2015年12.9%と高率に認めたが,以後は一桁台で推移し,全体では6.6%であった。結膜炎両眼発症例では,MSI発生率が21.7%と片眼発症例よりも有意に多く(p=0.041),PM発生率も結膜炎両眼発症例では8.1%と有意に多かった(p=0.034)。MSI発生率は,フルオロメトロン使用群30.2%,ベタメタゾン使用群10.5%と,ベタメタゾン使用群でMSI発生率が有意に低い結果となった(p<0.001)。PM発生率は,フルオロメトロン使用群6.5%,ベタメタゾン使用群10.1%と有意差はなかった(p=0.397)。

結論:Adv結膜炎による合併症の発生は流行する型により大きく異なるが,両眼に結膜炎を生じている場合にはMSIの発生に注意が必要である。ただし,ステロイド点眼の使用に関しては,Adv結膜炎の流行している型や臨床症状を考慮し,慎重に検討すべきである。

連載 今月の話題

レーザースペックルフローグラフィで得られた眼血流の新知見

著者: 柴友明

ページ範囲:P.723 - P.730

 レーザースペックルフローグラフィ(LSFG)は,わが国発の眼底循環測定装置であり,眼底の血流動態を非侵襲的かつ再現性良好に測定が可能である。LSFGから得られる病態の知見は多岐にわたる。しかしながら,LSFGを用いた眼血流研究は歴史が浅く,多くの不明点が存在する。本稿では,LSFGで得られた新知見として眼血流の性差に焦点をあてて考察したい。

Clinical Challenge・15

視覚障害による身体障害者等級の判定

著者: 加藤聡

ページ範囲:P.716 - P.721

症例

患者:53歳,男性

主訴:視覚障害による身体障害者意見書記入を希望

既往歴:糖尿病,高血圧,腎機能低下,狭心症

家族歴:特記すべきことなし

現病歴:X年11月に視力低下を主訴に前医眼科を受診した。増殖糖尿病網膜症の診断のもと汎網膜光凝固を施行したが,4回施行したところで受診を自己中断した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・9

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児の近視に対する近未来治療—眼圧下降薬

著者: 謝詩琪

ページ範囲:P.731 - P.735

◆眼圧下降薬は昔から近視をコントロールする方法として注目されている。

◆これまで眼圧と近視に対する臨床研究が多く行われてきたが,それらの関連についてはいまだに定論がない。

◆ラタノプロストやブリモニジンなどの眼圧下降薬は動物実験で近視抑制に有効と報告され,今後は臨床試験での検証が必要である。

臨床報告

後頭葉梗塞後,経時的に黄斑部網膜神経節細胞複合体厚菲薄化を検討した同名半盲の4例

著者: 平林博 ,   平林一貴 ,   若林真澄 ,   村田敏規

ページ範囲:P.739 - P.748

要約 目的:後頭葉梗塞後,黄斑部網膜神経節細胞複合体(GCC)厚菲薄化発現の形態と菲薄化率を検討した同名半盲4症例の報告。

対象と方法:後頭葉梗塞を生じ,同名半盲を認めた4例8眼を対象とした。年齢は57〜81歳(平均69.8歳)男3名,女1名,梗塞発症からの経過観察期間は平均2年3か月。光干渉断層計RS3000-advance(NIDEK社)の緑内障解析チャート(8セクター)とFollow-Up(progression)モードにてGCC厚の年菲薄化率を測定した。緑内障を合併した1例では,緑内障の菲薄化部位に相当するセクターを除いて解析した。

結果:GCC厚の菲薄化は,梗塞発症直後〜2年5か月(平均約9か月)で発現した。3例はほぼ両眼同時に発現したが,1例は片眼より2年弱遅れて発現した。緑内障眼に梗塞を発症した症例においても,緑内障の影響を認めない部位で梗塞によるGCC厚の菲薄化を確認できた。梗塞部位に関与した垂直半側網膜のセクター別GCC厚の平均菲薄化率(μm/年)は鼻側(上外側−1.78,上内側−2.80,下内側−2.97,下外側−2.18),耳側(−0.16,−2.08,−2.57,−0.34)であった。

結論:後頭葉梗塞後,1年以内の比較的早期にGCC厚の菲薄化が始まり,両眼同時に発現する場合と片眼のみ早期発現する場合があった。セクター別では垂直半側網膜の鼻側そして中心側に強い菲薄化率を認めた。緑内障眼においても緑内障の菲薄化部位でなければ判定可能であった。

冠状動脈検査用ファイバー型光干渉断層計を用いた豚眼網膜撮影

著者: 伊藤逸毅 ,   寺﨑浩子

ページ範囲:P.749 - P.752

要約 目的:眼科における光干渉断層計(OCT)撮影は,大きな装置本体から検査光を眼内に直接照射して行われる。一方,循環器内科領域ではファイバーを心臓まで挿入して冠状動脈の断層像撮影が行われる。今回,ファイバー型OCTの眼科領域での応用の可能性を検討するために冠状動脈用のファイバーを用いて豚眼の網膜撮影を行ったので報告する。

方法:豚眼3眼の硝子体腔に冠状動脈用のファイバーを挿入し網膜断層像を撮影した。

結果:冠状動脈用のファイバー型OCTにより網膜断層像の撮影が可能であった。しかし,ファイバー径が太いこと,ファイバーから直角に検査光が出るために後極部の撮影が難しいことなどから,眼科への直接的な応用は困難であると考えられた。

結論:冠状動脈用ファイバー型OCTによっても網膜断層像撮影が可能であった。細い直径の前方に検査光が出るタイプの眼科用ファイバーが開発されれば,硝子体手術時の網膜の評価が可能であると考えられた。

視神経乳頭腫脹と乳頭周囲の線状出血を認めたWeber-Christian病の1例

著者: 村上沙穂 ,   渡邊天翔 ,   石田政弘 ,   桒野嘉弘 ,   川北哲也 ,   今村裕

ページ範囲:P.753 - P.760

要約 目的:視神経乳頭腫脹と乳頭周囲の線状出血を認めたWeber-Christian病の1例を報告する。

症例:38歳,女性。発熱および両下肢の熱感と圧痛を伴う結節性紅斑で皮膚科を受診した。生検の結果Weber-Christian病と診断された。眼科的な自覚症状はなかったが,過去の文献より眼病変の合併も懸念され当科を受診となった。

所見と経過:矯正視力は両眼とも1.2であった。両眼に視神経乳頭腫脹,乳頭周囲の線状出血を認めた。光干渉断層計では視神経乳頭は腫脹し,硝子体側へと突出していた。眼科的自覚症状はなく,主科での抗菌薬治療にて皮膚所見も改善傾向にあったため経過観察としたが,本症は再燃を繰り返すこともあり,皮膚所見だけでなく眼所見も残存していることからインフリキシマブが投与された。皮膚所見は著明に改善,眼所見も徐々に改善を認め,以降寛解に至った。

結論:Weber-Christian病は稀であるが,本症例のように眼病変を合併することがあり,自覚症状がなくても眼科的検査を行うことは重要である。

今月の表紙

IOL後面へのシリコーンオイル付着

著者: 山口純 ,   堀裕一

ページ範囲:P.722 - P.722

 症例は45歳,女性。2013年7月に両眼白内障手術を行い,シリコーン製の眼内レンズ(IOL)が挿入されていた。2014年3月,右眼の裂孔原性網膜剝離を生じたため硝子体手術を行い,シリコーンオイル(SO)で置換した。術後,網膜は復位し,右眼の矯正視力と眼圧は(1.2×+2.75×IOL),22mmHgであった。3か月後,SOを抜去し,術中に後囊を切開した。その後,網膜剝離はなく,右眼の矯正視力は1.2と良好であった。

 術後1年の診察時,霧視を訴え,右眼の矯正視力は0.6と低下していた。乳化したSOが前房内と硝子体中を浮遊し,IOL後面にSOが付着していた。今回の写真はそのときのものである。さらに1年後,IOLの亜脱臼を認めIOL摘出を検討したが,本人の希望がなく経過観察となった。10か月後,IOLが脱臼したため摘出し,新たなIOLを縫着した。

海外留学 不安とFUN・第65回

ボストンに留学して・1

著者: 切通祥子

ページ範囲:P.736 - P.737

 2019年6月から現在に至るまで,米国ボストンにあるBrigham and Women's HospitalのFrank Labに留学させていただいております。元々夫の留学に伴う渡米だったこともあり,眼科医として3年目という専攻医研修の途中で留学することに大きな不安もありましたが,COVID-19蔓延下での生活も含め非常に多くの経験をすることができました。

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目次

ページ範囲:P.712 - P.713

欧文目次

ページ範囲:P.714 - P.715

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.838 - P.842

アンケート用紙

ページ範囲:P.848 - P.848

次号予告

ページ範囲:P.849 - P.849

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.850 - P.850

 高速画像処理や大規模データベース,AIなどの進歩により近年,生体認証システムがどんどん一般化してきています。スマホやパソコンなどではログインに指紋認証や顔認証を利用することが当たり前のようになっており,多くの製品に搭載されてきています。またインドでは虹彩認証,顔認証,指紋認証を含む生体認証IDが普及し,本人認証,キャッシュレス決済,補助金給付などにも使われているそうですし,その他,虹彩認証はシンガポールではパスポートに,中国でもキャッシュレス決済などに広く利用されているとのことです。さらに網膜血管走行認識による生体認証も非常に精度が高いとされ研究が続けられています。眼科関係者として角膜外傷が起きたり網膜中心静脈分枝閉塞症が起きたらどうすると素朴な疑問を抱くこともありますが,アベンジャーズのフューリー長官のように網膜認証が不可なら虹彩認証,それも駄目なら自動的に前眼部認証に即座に変化させて対応することも技術的には容易でしょう。

 これらのさまざまな生体認証システムの内,特に顔認証が,その画像取得の容易性から利用される場面が多くなってきています。中国では顔認証カメラが普及し,国家レベルはもちろん,民間レベルでもかなりの範囲で顧客管理として実際に使われているようですし,日本でも警察が利用を始めています。昨今の新型コロナウイルス禍によるマスク普及により,また状況は変化するとは思いますが,さらに一般化していく可能性は高いでしょう。一方で,これらの生体認証システム利用による個人情報保護に関する関心も高まっており,米国ではニューヨーク州,マサチューセッツ州など多くの州で規制する動きが出ています。眞鍋洋一先生による「診察券いらずの顔認証カメラシステム」論文は眼科外来診療への市販されている顔認証カメラの応用の報告であり,手軽に入手できる民生品による顔認証の認識率が100%であったと報告されています。これがよいことであるのか,憂慮すべきことであるのかに関しては議論があるとは思いますが,技術の進歩とその普及は驚くべき速度で進行しており,われわれも常にそれをfollowしていかなければいけないことが実感されます。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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