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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科75巻7号

2021年07月発行

雑誌目次

特集 第74回日本臨床眼科学会講演集[5] 原著

群馬県3歳児眼科健診における手引きに準じた屈折検査導入の成果

著者: 板倉麻理子 ,   板倉宏高 ,   大平陽子 ,   長濱萌

ページ範囲:P.891 - P.897

要約 目的:群馬県では2017年に「3歳児健康診査の眼科検査に関する検討会議」を設置し,手引きを作成して屈折検査導入など,全県下統一で取り組んできた。その結果,要治療児の検出率が改善したので報告する。

対象と方法:対象は2018年度の3歳児健診でフォトスクリーナー装置による屈折検査を施行した26市町村の受診者10,798名。屈折検査の判定基準は検討会議で設定した。屈折検査は手引きに準じて視能訓練士5市町村,眼科研修を受けた保健師20市町村,眼科医1町が実施し,結果を屈折検査導入前の2016年度と比較した。

結果:10,798名のうち,視力検査で異常あり273名(2.5%),検査不可2,688名(24.9%),屈折検査で異常あり1,039名(9.9%),検査不可45名(0.4%)であった。二次検査での要精検は1,398名(12.9%)であった。精検結果は,要治療193名(13.8%),要観察643名(46.0%),異常なし213名(15.2%),精検未受診349名(25.0%)であった。全受診者のうち,要治療は248名(2.3%)となり,屈折検査導入前の2016年度の要治療検出率0.1%と比べて有意に改善した。

結論:屈折検査は視力検査に比べて検査可能率,異常検出率が高かった。手引きに準じた屈折検査導入により,全県下で弱視など要治療児発見の精度が向上し,早期治療につながった。

ベンダムスチンを含む抗がん剤治療に伴いサイトメガロウイルス網膜炎を生じた2症例

著者: 今井彩乃 ,   高瀬博 ,   大野明子 ,   鴨居功樹 ,   香西康司 ,   大野京子

ページ範囲:P.898 - P.903

要約 目的:ベンダムスチンは2016年12月に未治療の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫およびマントル細胞リンパ腫に対する追加承認を受けた抗がん剤であるが,投与後にCD4陽性T細胞が減少することでサイトメガロウイルス(CMV)感染症リスクの増加が報告されている。今回,ベンダムスチン投与後にCMV網膜炎(CMVR)を生じた2症例を経験したので報告する。

症例1:68歳,男性。濾胞性リンパ腫に対してベンダムスチンとリツキシマブの投与を開始し,9か月後に網膜血管に沿った出血を伴う黄白色の網膜病変が両眼に出現した。前房水PCRでCMV-DNAが検出され,CMVRと診断した。ガンシクロビルの硝子体注射および全身投与で軽快した。バルガンシクロビルの内服を継続したが,再発を繰り返した。

症例2:83歳,男性。MALTリンパ腫の再燃に対してベンダムスチンとリツキシマブの投与を開始した。抗がん剤治療による骨髄抑制とその軽快を繰り返し,免疫回復期に左眼前房蓄膿と硝子体混濁が出現した。前房水PCRでCMV-DNAが検出され,CMVRと診断した。ガンシクロビルの硝子体注射および全身投与により炎症は改善し,バルガンシクロビルの内服を継続した。

結論:ベンダムスチン投与後にCD4陽性T細胞の抑制によりCMVRが生じることがある。抗がん剤による骨髄抑制が軽快する時期には,強い炎症反応を伴うCMVRを生じる可能性がある。

多発血管炎性肉芽腫症に合併した角膜周辺部潰瘍に対する結膜肉芽腫切除の有効性

著者: 深瀬紗綾 ,   海老原伸行

ページ範囲:P.904 - P.911

要約 目的:多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は,肉芽形成と細・中血管炎を認める全身性炎症疾患である。GPAの約半数が眼症状を認め,その約10%に周辺部角膜潰瘍(PUK)を合併する。GPAの治療は点眼による局所療法だけでは難しく,シクロホスファミド,リツキシマブなどの全身投与,ステロイドパルス療法の有効性が報告されている。今回,結膜肉芽腫を切除後にPUKが著明に改善した症例を報告する。また,結膜肉芽腫の病理組織学的検討よりPUK発症メカニズムについて考察した。

症例:83歳,女性。GPAに対して内科にてメチルプレドニゾロン(メドロール® 4mg/日)で加療されていた。両眼の充血・痛み・視力低下を主訴に受診したところ,右眼角膜上方周辺部に強い細胞浸潤を伴った潰瘍と強膜炎,左眼角膜上方周辺部に血管侵入を伴った潰瘍と結膜に肉芽腫を認めた。内科と連携し,全身の免疫抑制療法を強化すると同時に,左眼結膜の肉芽腫を外科的に切除したところPUKの改善を認めた。病理検査では多数のMMP-9陽性好中球の浸潤を認めた。

結論:GPAによるPUK治療の基本は全身の免疫抑制である。しかし,角膜融解のメカニズムとして周辺部角膜に結膜側より浸潤している多くの炎症系細胞より産生・放出される蛋白分解酵素が原因になっていると思われ,PUKに隣接する肉芽腫を切除することはそれらの源を断つ可能性が示唆された。

パラコート・ジクワット液剤(プリグロックス® L)による角膜化学外傷の1例

著者: 田村彩 ,   曽我部由香 ,   宇野敏彦 ,   都村豊弘

ページ範囲:P.913 - P.918

要約 目的:一般的な角結膜化学腐蝕とは異なる臨床経過をたどったパラコート含有除草剤による化学外傷の1例について報告する。

症例:79歳,女性。除草剤が左眼に入り,充血を主訴に受診した。軽度の点状表層角膜炎を認めるのみであったが,4日後に増悪を訴え再診した。角膜全面の上皮欠損,全周性の強い結膜充血と瞼結膜の偽膜形成を認めたが,疼痛の訴えはほとんどなかった。洗浄や偽膜の除去,抗菌薬の点眼,ステロイドの点眼と内服による治療を行ったが,所見の改善はみられなかった。受傷9日目に除草剤がパラコート含有と判明し,抗酸化作用のあるレバミピド点眼を追加した。数日おきに洗浄と壊死組織の除去を行ったが,上皮欠損は縮小しなかった。受傷20日をすぎてから徐々に上皮化した。経過中,前房内炎症や眼圧上昇はなかった。受傷40日頃に上皮欠損は消失し,角膜の実質混濁や内皮異常,知覚低下を生じることなく治癒した。最終矯正視力は1.2であった。

結論:パラコートによる化学眼外傷では,受傷直後は軽微な所見にもかかわらず,数日後に急速に組織壊死と炎症が増悪する特異的な経過をたどる。報告例は少なく,成書にも記載が乏しいため,化学外傷の初療時には注意が必要である。

内境界膜半側翻転と遊離自家移植を併用した後極部裂孔併発黄斑円孔網膜剝離の1例

著者: 吉岡千紗 ,   佐藤孝樹 ,   大須賀翔 ,   水野博史 ,   喜田照代 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.919 - P.924

要約 緒言:黄斑円孔網膜剝離(MHRD)に対する治療は,内境界膜(ILM)翻転併用硝子体手術により,黄斑円孔閉鎖率および網膜剝離復位率が飛躍的に向上した。今回,後極部裂孔を併発したMHRDに対してILM半側翻転および遊離自家移植を併用し,復位を得た症例を経験したので報告する。

症例:75歳,女性。右眼の急激な視力低下のため近医を受診し,網膜剝離と診断され当院に紹介され受診となった。右眼には高度の近視性網脈絡膜萎縮を認め,ほぼ全象限の胞状網膜剝離を伴っていたため原因裂孔の特定が困難であった。眼底所見より強度近視に伴うMHRDと考え,シャンデリア照明併用の25ゲージ4ポートシステムで硝子体手術を施行した。硝子体を可能な限り郭清し,後極部を確認したところ,MHおよび黄斑下方の網膜血管に沿った近視性網脈絡膜萎縮の辺縁に2か所の網膜裂孔を認めた。ILMをブリリアントブルーGで染色後,MHには耳側よりILM半側翻転を行い,2か所の後極部網膜裂孔には黄斑耳側上部よりILM遊離自家移植を行った。後極部へ液体パーフルオロカーボンを注入し,網膜を復位させ,周辺部に作成した意図的裂孔部から液-空気置換を行った。MHを含めて後極部裂孔には光凝固を施行しなかった。術後4か月経過しているが,網膜は復位しており,経過は良好である。

結論:後極部裂孔を伴う網膜剝離に対するILM翻転法とILM自家移植法を併用した本法は,裂孔周囲への光凝固による視野障害を回避できる有用な術式と考えられた。

Proteus mirabilisColletotrichum fructicolaの混合感染による角膜炎の1例

著者: 春木智子 ,   高梨菜穂 ,   清水由美子 ,   宮﨑大 ,   井上幸次 ,   室田博美 ,   槇村浩一

ページ範囲:P.925 - P.931

要約 目的:細菌と真菌の混合感染による角膜炎は決して珍しくないが,両者が分離同定され確定診断されることは稀である。今回筆者らは,Proteus mirabilisColletotrichum fructicolaを同定することができた混合感染による角膜炎を経験したので報告する。

症例:70歳,男性。2019年10月下旬,米の荷受けをしていた際に,右眼にゴミが入ったような感じがあった。2〜3日後より眼痛を生じたが,手持ちの点眼で様子をみていた。11月上旬,視力低下を伴ってきたため,近医を受診した。右眼に角膜潰瘍と前房蓄膿を認めたため,当科に紹介となった。細菌性角膜炎としてレボフロキサシン点眼,セフメノキシム点眼,セファゾリン点滴にて加療を開始し,前房蓄膿が減少した。しかし,塗抹検鏡にて,グラム陰性桿菌とともに糸状菌も認めたため,ピマリシン点眼を追加して加療した。後日,培養にて細菌と真菌が分離され,細菌はProteus mirabilis,真菌は帝京大学に送付し,PCRダイレクトシークエンスによる分子生物学的解析を行うことで,Colletotrichum fructicolaと同定された。ピマリシン点眼で効果を認め,約1か月半で瘢痕化を得ることができた。

結論:植物や作物による外傷が原因の感染性角膜炎の場合,細菌と真菌の混合感染を考慮する必要がある。今回のように,特に真菌は培養検査で検出されるまでに時間がかかるため,塗抹検鏡を行うことで,その合併をより早く知ることができる。なお,筆者らの知る限り,Colletotrichum fructicolaによる真菌性角膜炎の報告は初めてのものである。

蛍光眼底造影検査にてIRVAN症候群の診断に至った2例

著者: 武斯斌 ,   田中理恵 ,   蕪城俊克 ,   南貴紘 ,   伊沢英知 ,   外山琢 ,   白濱新多朗 ,   小野久子 ,   曽我拓嗣

ページ範囲:P.933 - P.939

要約 目的:IRVAN症候群は特発性の網膜血管炎,網膜血管瘤,視神経網膜炎をきたす疾患である。2例経験したので報告する。

症例:症例1は76歳,男性。X年8月に視力低下,飛蚊症を主訴に前医を受診し,閉塞性血管炎を指摘され,9月に東京大学医学部附属病院眼科(当科)へ紹介され受診した。初診時の矯正視力は右0.8,左0.6,眼圧は正常,両眼前房内細胞,両眼視神経乳頭からの白線化した網膜動脈,網膜出血,硝子体混濁を認めた。その後,両眼虹彩新生血管,左眼硝子体出血を発症した。眼内液PCR検査,全身精査をするも明らかな原因疾患を認めず,蛍光眼底造影検査で広範な無灌流域,血管分岐部に多数の血管瘤を認め,IRVAN症候群と診断した。ステロイド内服,両眼汎網膜光凝固術,左眼抗VEGF薬硝子体注射を施行した。左眼硝子体出血に対しては硝子体手術を施行した。症例2は60歳,女性。Y年1月に右眼視力低下をきたし,同月に当科を紹介され受診した。初診時の矯正視力は右0.3,左1.0,眼圧は正常,両眼底に黄斑前膜,視神経乳頭付近に白線化した動脈血管,網膜出血,右眼に黄斑浮腫,硝子体混濁を認めた。蛍光眼底造影検査で両眼視神経乳頭過蛍光,右眼優位に網膜動脈分岐部の複数の血管瘤,周辺部無灌流域を認め,IRVAN症候群と診断した。右眼に対しトリアムシノロンテノン囊下注射,網膜光凝固術を施行した。以後,病変の活動性を認めなかった。

結論:IRVAN症候群には早期診断と適切なレーザー治療が重要である。

片眼性網膜色素変性症に合併した黄斑円孔が自然閉鎖した1例

著者: 岸野祥子 ,   長堀克哉 ,   河越龍方 ,   堀田一樹

ページ範囲:P.940 - P.946

要約 目的:片眼性網膜色素変性症(RP)に囊胞様黄斑浮腫,その後黄斑円孔(MH)を生じ,自然閉鎖を認めた症例の報告。

症例:35歳女性が左眼の視力低下を主訴に受診した。

所見:矯正視力は右1.2,左0.2で,眼圧は右16mmHg,左13mmHgであった。左眼眼底にのみ骨小体様色素沈着および囊胞様黄斑浮腫を認め,左眼の網膜電図が平坦で,片眼性RPと診断した。左眼に1%ブリンゾラミドの点眼を1日2回行ったが,7か月後に全層MHを生じ,MH発生2か月後にMHは自然閉鎖した。その後,MHの再発は認めず,左矯正視力は0.4と軽度の上昇を認めた。

結論:若年の片眼性RPのMHでは,経過観察で自然閉鎖を期待しうる可能性が示唆された。硝子体手術による介入は慎重であるべきと考えられる。

MRIにて発見された鉄片異物による遅発性眼内炎の1例

著者: 新田文彦 ,   國方彦志 ,   西口康二 ,   阿部俊明 ,   中澤徹

ページ範囲:P.947 - P.952

要約 目的:金属が体内に留置されている患者にはMRIは禁忌であり,その画像の報告は稀有である。今回,MRI撮影を契機に眼内鉄片異物が発見され,眼内炎に対して硝子体手術を行った症例を経験したので報告する。

症例:40歳,男性。コンクリートを鏨で叩く作業中に左眼に違和感を自覚した。受傷翌日,近医を受診したが異常は認めなかった。受傷2か月後に左眼の羞明を自覚し,同近医を再診した。左眼の瞳孔散大を認め,近医神経内科へ紹介となった。MRIにて左眼とその周辺の画像が大きく変形したことから金属片の迷入が疑われ,CTにて左眼内に金属片を認めたため当院に紹介となった。

所見:左眼は視力(0.8),前房と水晶体は清明,虹彩は上鼻側が一部萎縮,眼底は軽度硝子体混濁と周辺部を圧迫して観察することで12時方向の鋸状縁付近に金属片を認めた。自覚症状,他覚的所見が乏しいため経過観察としたが,受傷2か月半後に眼内炎を発症したため,硝子体手術と水晶体乳化吸引術(眼内レンズは挿入せず)を施行した。硝子体の培養からはCutibacterium acnesが検出された。抗菌薬の点滴,点眼加療などを行い眼内炎は治癒した。受傷6か月後に眼内レンズを挿入し,左視力(1.2)となった。

結論:金属片迷入が否定できない症例へのMRIは慎重に検討し注意すべきであるが,期せずして得られたそのMRI検査では,金属による特徴的な画像を呈することがある。

眼窩骨折を伴った眼窩先端部症候群の1例

著者: 宮澤和基 ,   恩田秀寿 ,   嶌嵜創平

ページ範囲:P.953 - P.958

要約 目的:外傷による眼窩先端部症候群に対し治療が奏効した症例を報告する。

症例:44歳,男性。自宅で家具を製作中に脚立から転落し,床に置いてあった鉄製パイプの側面に右眼を打撲し受傷した。初診時の所見として,視力は右(0.7),左(1.2),眼圧は右18mmHg,左17mmHg,右相対的瞳孔求心路障害陽性を疑い,眼球突出度は右27mm,左22mmであった。強制開瞼下でのHess赤緑試験で右動眼神経麻痺を認めた。また,眼窩CTでは右開放型眼窩下壁および内側壁骨折,眼窩内出血を認めた。右眼窩先端部症候群と診断し,受傷後2日目に入院した。抗炎症目的に副腎皮質ステロイド(ステロイド)の点滴静注,止血目的にカルバゾクロムスルホン酸の点滴静注,眼圧下降目的にアセタゾラミドの内服を開始した。ステロイドは漸減投与し,受傷後16日目には両眼の眼球突出度が23mmで左右差が消失し,視力は右(1.0)と改善した。眼球運動も改善傾向にあったが,右眼の上転障害が残存していたため右眼窩下壁骨折によるものと判断し,受傷後31日目に右眼窩下壁骨折整復術を施行した。その後の経過は良好で,受傷後60日目に自覚複視は消失していた。

結論:外傷を契機とした眼窩先端部症候群に対して,早急な薬物加療によって,視力の回復と自覚複視の軽減を認めた。

ボツリヌス治療中の本態性眼瞼痙攣患者のQOLとその影響因子

著者: 嶋田祐子 ,   大北陽一 ,   木村亜紀子 ,   岡本真奈 ,   五味文

ページ範囲:P.959 - P.965

要約 目的:兵庫医科大学病院眼科のボツリヌス(BTX)外来に通院中の本態性眼瞼痙攣患者(EB)のquality of life(QOL)と,その影響因子について調査する。

対象と方法:対象は2019年10月からの4か月間にBTX治療を1年以上継続しているEB患者のうち,The 25-item National Eye Institute Function Questionnaire(VFQ-25)によるQOL評価が可能であった例である。QOLの影響因子として,年齢,投与回数,治療期間,EBの程度,遮光眼鏡とBTX治療に対する満足度(5段階評価)の関与を,重回帰分析を用いて検討した。EBの程度判定はJankovic評価スケール(重症度+頻度:0〜8点)を用いた。

結果:EB患者58例(平均年齢69.4歳:39〜83歳,男性12例,女性46例)で検討を行ったところ,VFQ-25は45.7〜85.8点に分布し,年齢は心の健康と,治療期間は眼の痛みの軽減と正の相関を認めた。EBの程度は一般的見え方,心の健康,自立で負の相関を認めた。遮光眼鏡の満足度は,一般的見え方,目の痛みの軽減で正の相関を認め,BTX治療の満足度は自立,運転,色覚を除く9項目で正の相関を認めた。

結論:BTX治療の満足度がQOLの改善に最も関与していた。EBでは遮光眼鏡も併用し,BTX治療を長く続けられることが重要である。

脳梗塞を合併したテルソン症候群に対して硝子体手術を施行した1例

著者: 許勢文誠 ,   鈴木浩之 ,   宮本麻起子 ,   清水一弘 ,   佐藤孝樹 ,   喜田照代 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.967 - P.973

要約 目的:くも膜下出血の発症後早期に,脳血管攣縮により脳梗塞を併発することがあるが,脳梗塞がテルソン症候群の視機能に影響を及ぼしたとする報告は少ない。今回,脳梗塞を併発したテルソン症候群の1例に対して硝子体手術を施行したので報告する。

症例:52歳,男性。前大脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血を発症し,複数回のVPシャント手術を施行し,経過中に左側頭葉の梗塞をきたした。約1か月間意識不明の状態であったが,意識を回復した際に,両眼の高度の視力低下を訴え近医受診となった。両眼とも視力は手動弁で,上方の一部を除いて眼底透見困難であった。ゴールドマン動的視野検査では両眼とも左側〜下方周辺部のみイソプターを認め,出血による視野障害に加えて,脳梗塞による右同名半盲が疑われた。出血量の多い右眼から硝子体手術を施行し,術後矯正視力0.9を得た。左眼は硝子体手術後の視力が0.2にとどまった。その理由として,左眼では脳梗塞による中心視野障害が右眼よりやや大きかったこと,黄斑部近傍に線維増殖膜を認めたことなどが,視力不良の原因になった可能性が示唆された。

結論:脳梗塞を併発したテルソン症候群では,硝子体出血,網膜病変に加えて,脳梗塞によって視野障害が修飾されるため,視機能改善の予測が難しいと考えられた。

連載 今月の話題

ファージを用いた細菌性眼内炎治療

著者: 岸本達真 ,   福田憲

ページ範囲:P.863 - P.869

 多くの眼疾患のなかでも術後眼内炎は,われわれ眼科医にとっては最も避けるべき疾患の1つである。近年,薬剤耐性菌による眼内炎の報告もあり,抗菌薬とは異なる新しい治療薬の開発が求められる。本稿では,眼内炎に対する新規治療法として,バクテリオファージによる眼内炎治療の可能性について概説する。

Clinical Challenge・16

ソフトコンタクトレンズ装用中に両眼の視力低下感を訴えた若年女性例

著者: 﨑元暢

ページ範囲:P.858 - P.861

症例

患者:23歳,女性

主訴:両眼の視力低下感

既往歴・家族歴:特記すべきことなし

現病歴:インターネットで購入した1日使い捨てタイプのソフトコンタクトレンズ(SCL)装用中であった。1年前に左眼視力低下を自覚し,かかりつけ医で左眼角膜上皮障害を指摘されSCL中止を指示された。2か月後に症状軽快するも,両眼の視力低下感が再燃した。SCLを中止しても改善がなく,特に夕方になると見づらくなってきた。2か月前からは両眼に細かな眼脂が出現するようになった。かかりつけ医を再診し,両眼の角膜上皮障害を指摘されオフロキサシンゲル化点眼,レバミピド,フルオロメトロン点眼を処方されるも軽快せず,人工涙液(4〜10回/日),オフロキサシン眼軟膏点入(3〜4回/日)に変更したが,症状や所見に改善がないため杉浦眼科に紹介となった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・10

—小児の近視をみたらどうすればよいか?—小児期の学童近視の中で,将来の病的近視リスクを疑う要注意サインは何か?

著者: 五十嵐多恵 ,   大野京子

ページ範囲:P.870 - P.874

◆近視に特徴的な過度の眼軸伸展は,脈絡膜の菲薄化と関連している。

◆小児の近視患者における視神経乳頭周囲びまん性萎縮病変の存在は,将来の病的近視による眼合併症の発症を予測する重要なサインである。

◆広角OCTで同定される小児期の後部ぶどう腫の初期病変の特徴は,①後部ぶどう腫縁に向かう脈絡膜の菲薄化と,②強膜の後方変位である。

臨床報告

片側単直筋斜視手術を行った加齢関連遠見内斜視

著者: 大平明彦

ページ範囲:P.879 - P.884

要約 目的:遠見での同側性複視を主訴とする加齢関連遠見内斜視に対して,片側の前転法あるいは後転法を実施した。その手術結果を検討し,本内斜視の特徴を考察する。

対象と方法:初回手術として片眼の内直筋後転法あるいは外直筋切除前転法を行った,13名の加齢関連遠見内斜視患者。手術前後の斜視検査結果などを後ろ向きに検討した。

結果:手術時の平均年齢は74歳(59〜85歳)。後転法は5名に,前転法は8名に実施した。遠見内斜視角は術前平均9.9Δ(プリズムジオプトリー)(範囲:3〜18Δ),術後平均−0.2Δ(−3〜2Δ)であった。単位手術量(mm)当たりの矯正効果は,外直筋前転法が内直筋後転法よりもわずかに大きいと推測された。

結論:加齢関連遠見内斜視には,外直筋前転法も内直筋後転法もともに有効である。しかし,後転法では手術量を通常より増大することを考慮すべきである。

Nd:YAGレーザー虹彩切開術の虹彩出血に対する熱レーザーによる止血

著者: 小林博

ページ範囲:P.885 - P.889

要約 目的:レーザー虹彩切開術の虹彩出血に対して熱レーザーを用いて止血を試みた結果を報告する。

方法:対象は,原発閉塞隅角緑内障,原発閉塞隅症および原発閉塞隅症の疑いの患者で,Nd:YAGレーザー虹彩切開術を予定した119名(197眼)(年齢72.6±8.3歳,女性93名,男性26名)である。両眼施行例では,先に施行した眼を解析に用いた。虹彩切開部位を10〜15発で凝固し,Nd:YAGレーザー6.5mj/発を用いて切開した。用いたNd:YAGレーザーにかかわる因子を検討した。虹彩出血に対しては,2016年6月までは従来通り,アブラハムレンズによる圧迫で対応し,2016年7月から熱レーザーを用いて止血を試みた。

結果:32例(69.7±7.6歳,女性26名,男性6名)で虹彩出血がみられた。17名がアブラハムレンズによる圧迫で対応し,15名が熱レーザーで止血を試みた。熱レーザーの発数はアブラハムレンズ群では10.5±1.2発,熱レーザー群では11.6±1.2発であり(p=0.0148),Nd:YAGレーザー発数(エネルギー)は,アブラハムレンズ群では10.4±2.2発(67.2±13.2mj),熱レーザー群では5.6±1.7発(36.1±11.0mj)であった(p<0.0001)。1年間の眼圧の変化は両眼ともほぼ同様な推移がみられた(p=0.8)。角膜内皮細胞密度の減少率はアブラハムレンズ群では−1.1±0.2%,熱レーザー群では−1.2±0.3%であり,両群間に有意差はなかった(p=0.8)。

結語:レーザー虹彩切開術の虹彩出血の止血に熱レーザーを用いると,従来のアブラハムレンズによる圧迫に比較して,Nd:YAGレーザーの発数は有意に減少した。

今月の表紙

眼内レンズと後囊の間に迷入した粒状のパーフルオロカーボン(PFC)の超広角眼底写真への映り込み

著者: 名畑浩昌 ,   中澤満

ページ範囲:P.862 - P.862

 症例は55歳,男性。左眼の視野障害を自覚し近医を受診したところ,左眼裂孔原性網膜剝離と診断され,精査加療目的に当院へ紹介となった。初診時の左眼視力は(0.2×IOL()−2.00D),眼圧は17mmHgであった。

 下方基底部付近の小裂孔による広範囲な網膜剝離のため,パーフルオロカーボン(PFC)を使用して網膜下液の排出を行った。術後に右側臥位を継続していたが,術後17日目に前房にPFCの粒が出現し一度洗浄するも取りきれず,術後8か月目に3年前に挿入したIOLと後囊の間に残存PFCの粒が迷入していた(右図)。

海外留学 不安とFUN・第66回

ボストンに留学して・2

著者: 切通祥子

ページ範囲:P.876 - P.877

 今回は,留学に際しての苦労や,世界中の人々の生活を一変させたCOVID-19パンデミックについてお話をしたいと思います。

Book Review

英和・和英 眼科辞典 第2版

著者: 相原一

ページ範囲:P.932 - P.932

 待望の眼科辞典が出た! 23年ぶりの改訂である。この辞典は眼科の用語だけでなく,取り巻く関連分野の用語,略語も網羅しており,その簡潔な解説も秀逸である。著者のめざす「ことばの辞典」+「ことがらの事典」の融合を見事に具現化している。ご存じのようにこの20年余りの眼科学の進歩は目覚ましく,分子生物学の発展に伴う基礎研究,また眼光学,画像解析の発展に伴う臨床研究により,今や他分野と融合した眼科学が醸成の時期を迎えている。伴って眼科関連のことばは膨大な量となっており,初版では当然カバーできておらず正直いって最近は手に取ることがなかった。先輩の大鹿哲郎先生個人編さんである初版の事典のアップデートはそう容易ではないことは明白であったが,何と驚くべきことにこの第2版も先生個人編さんであった。目を疑う仕事量としかいいようがなく,あらためて大鹿先生個人の資質に脱帽する次第である。今回は約5000語を追加し,合計2万2000語以上を網羅している眼科関連用語のバイブルといえよう。いくらITを活用できるといってもそのご尽力は想像を絶する。

 内容を見てみよう。まず,最初の単語は重要だ。英和の初発は,A(axis)軸,とある。眼科専門用語ではないが清々しくてとても良い。ぶれない軸を感じさせる出だしで大鹿先生の姿勢が見て取れる。次はAA(amplitude of accommodation)調節幅,調節力,続いてAACG(acute angle closure glaucoma)急性閉塞隅角緑内障があるのがうれしい。そしてまた,学会名も入っている。AAOや私の分野のWGC(world glaucoma congress)も網羅されている。略語の多い眼科ではとても実用的だ。最後の単語は和英の締めくくりで,ワンピース眼内レンズ(one piece intraocular lens)である。最初と最後が,軸と眼内レンズなのだから,偶然かも知れないがひそやかな大鹿先生の拘りだと私は思っている。首尾一貫しての姿勢が垣間見えてうれしくなる。さらに付録が秀逸だ。実際にはここだけ抜けるようにポケット版でも良いと思うが,最新の法令も含んでおり大変役に立つ。

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目次

ページ範囲:P.854 - P.855

欧文目次

ページ範囲:P.856 - P.857

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.974 - P.978

アンケート用紙

ページ範囲:P.984 - P.984

次号予告

ページ範囲:P.985 - P.985

あとがき

著者: 井上幸次

ページ範囲:P.986 - P.986

 このあとがきを書いているのは5月中旬で,新型コロナウイルスの第4波が到来し,3回目の緊急事態宣言を出してもなかなかおさまらないという状況にあります。大阪の国際会議場でコロナワクチンの大規模接種をすることになったようで,今考えてみるとこの4月の日本眼科学会総会が曲がりなりにもon siteでできたことは幸運だったのではないかと思います。今年の日眼はon siteとライブ配信とオンデマンド配信の3つを組み合わせた形になっており,主管校であった関西医科大学のご苦労がしのばれます。ただ,部屋によっては,座長も演者も全員リモートで行われたところがあって,人数は少ないながらも実際に会場で聴いていたon siteの聴衆が置いてけぼりになっていた感じがありました。これだと家で視聴したほうがよいなと思ってしまいました。これからの半年でワクチン接種が進み,今秋開催の日本臨床眼科学会ではもう少しon siteでの参加者が増えて,そちらが主流になることを祈るばかりです。

 本号の「今月の話題」に岸本達真/福田憲先生の「ファージを用いた細菌性眼内炎治療」が掲載されています。細菌感染の治療は抗菌薬で行うという常識を覆して,細菌の天敵(?)であるバクテリオファージを利用しようとする面白い試みです。新型コロナウイルスへの対応(それはウイルスそのものに対する対応ももちろんですが,その影響で一変してしまったさまざまな社会的状況に対する対応も含まれます)にも,こういった発想の転換が必要なのかもしれないと思いつつ,面白く読ませていただきました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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