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雑誌目次

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臨床眼科75巻8号

2021年08月発行

雑誌目次

特集 第74回日本臨床眼科学会講演集[6] 原著

3次元モデルを用いた脈絡膜血管構造の加齢性変化

著者: 前田駿介 ,   菅野幸紀 ,   辻真伍 ,   岡本正博 ,   深津有佳里 ,   関向秀樹 ,   石龍鉄樹

ページ範囲:P.1043 - P.1049

要約 目的:脈絡膜血管3次元モデルを用いて脈絡膜血管構造を数量的解析し,年齢や脈絡膜厚との関連を検討した。

対象と方法:眼軸長を調整した屈折異常以外の眼科的疾患のない66例100眼を対象とした。Swept-source OCTを用いて撮影を行った。既報に基づき脈絡膜3次元モデルを作製し,脈絡膜体積,脈絡膜血管容積,脈絡膜血管密度を算出,年齢や脈絡膜厚との関連をそれぞれ検討した。

結果:年齢と脈絡膜体積,脈絡膜血管容積とは,中心窩中央,傍中心窩ともに負の相関があった。年齢と脈絡膜血管密度とは,中心窩中央では相関性はなかったが,傍中心窩では負の相関があった。中心窩下脈絡膜厚と脈絡膜血管密度とは中心窩中央,傍中心窩ともに正の相関があった。

結論:3次元モデルの使用により,より詳細な脈絡膜構造解析が可能となった。脈絡膜血管は,その部位により加齢による構造変化が異なる可能性がある。

樹氷状網膜血管炎の2症例

著者: 光畑みずほ ,   井上賢治 ,   阿部竜三郎 ,   海老原伸行

ページ範囲:P.1051 - P.1060

要約 目的:樹氷状網膜血管炎(FBA)を呈した2症例を経験したので報告する。

症例:症例1は58歳,男性。急激な右眼の視力低下を自覚し眼科を受診した。視力は右(0.5),左(1.2)であった。視神経乳頭浮腫と後極網膜血管の樹氷状変化を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)では,樹氷状変化を示す血管からの蛍光漏出と血管壁への組織染,視神経乳頭の過蛍光を認めた。プレドニゾロンの内服により樹氷状変化は軽快し,矯正視力は左右とも1.5に回復した。背景疾患を認めず,特発性FBAと考えられた。

 症例2は29歳,男性。不明熱の精査で神経内科に入院中に霧視を自覚し眼科を受診した。視力は右(0.3),左(0.08)であった。両眼に網膜血管の樹氷状変化,網膜前出血を認めた。FAでは網膜前出血によるブロッキングと,周辺部網膜では網膜血管の充盈欠損と無灌流領域を認めた。神経スウィート病疑いにてステロイドパルス療法が施行され,網膜血管の樹氷状変化の改善を認め,矯正視力は左右とも1.0に回復した。しかし,回復期の光干渉断層血管撮影(OCTA)では,両眼の耳側網膜に無血管野が残存していた。スウィート病による続発性FBAと考えられた。

結論:FBAの活動期にFAやOCTAを用いて血管閉塞の状況を捉えることで,視力・視野の予後についてある程度予測することができる。

眼球運動制限が軽度な強度近視性斜視に対して横山法による手術を行った2例

著者: 渡辺このみ ,   渡辺一彦

ページ範囲:P.1061 - P.1065

要約 目的:眼球運動制限が軽度な強度近視性内斜視に対して横山法による手術を行った2例の報告。

症例1:71歳,女性。視力は両眼とも(1.2)で,眼軸長は右29.24mm,左28.76mm。眼位は遠見40△内斜視(ET),近見で35△ETだった。明らかな眼球運動制限はなかった。横山法施行後の眼位は遠見正位,近見5△外斜位(XP)となった。Titmus Stereo Test(TST)は,Fly(+),Animal(3/3),Circle(6/9)であった。

症例2:69歳,男性。視力は右(1.2),左(1.0)。眼軸長は右30.05mm,左30.52mm。眼位は遠見25△ ET,5△右上斜視(RHT)で,近見30△ ET,5△RHTだった。両眼とも軽度の外転運動制限があった。横山法施行後の眼位は遠見正位,近見4△XPとなった。TSTは,Fly(+),Animal(3/3),Circle(8/9)であった。

結論:眼球運動制限が軽度である両眼性の強度近視性斜視に対して横山法が有用であると思われた。

アーメド緑内障バルブ挿入術の短期成績

著者: 沼尾舞 ,   平井鮎奈 ,   權守真奈 ,   町田繁樹

ページ範囲:P.1067 - P.1071

要約 目的:アーメド緑内障バルブ(AGV)挿入術を行った症例の短期術後成績を評価した。

対象と方法:2018年3月から当院においてAGV挿入術を施行し,1年以上観察できた32例36眼を対象とした。平均経過観察期間は16か月(12〜21か月)であった。原因疾患は血管新生緑内障が26眼(増殖糖尿病網膜症25眼,網膜中心静脈閉塞1眼),その他の続発緑内障が6眼(外傷1眼,ぶどう膜炎1眼,裂孔原性網膜剝離3眼,落屑緑内障1眼),原発開放隅角緑内障が4眼であった。術前後の眼圧,点眼・内服スコアおよび合併症の有無を評価した。

結果:術前および術1年後の眼圧は,それぞれ31.9±15.0mmHgおよび16.8±6.5mmHgであり有意に低下した。術前および術1年後の点眼・内服スコアは,それぞれ3.5±1.5および1.5±1.4であり有意に減少した。術後の合併症はプレート露出・脱出6例(17%),硝子体出血4例(11%),高眼圧3例(8%)および前房出血2例(6%)であった。

結論:術1年後の成績において,眼圧および点眼・内服スコアはともに改善した。しかし,プレートの露出・脱出を高頻度で認め,注意が必要と考えられた。

マイラゲル®を用いた強膜内陥術後にマイラゲル®除去が必要となった5例の検討

著者: 二階堂裕士 ,   和田悦洋 ,   齋藤雄太 ,   木崎順一郎 ,   安達まい ,   恩田秀寿

ページ範囲:P.1073 - P.1077

要約 目的:強膜内陥術に用いられたマイラゲル®は術後に変性・膨化することによりさまざまな晩期合併症の原因となることが知られている。当院において過去20年間にマイラゲル®除去を要した5症例について検討した。

対象と方法:マイラゲル®の膨化が原因と思われる合併症に対してバックル除去を施行した5例について,強膜内陥術後の期間,除去手術前の症状,除去手術に伴う合併症,除去手術後の症状改善の有無などについて検討した。

結果:患者の年齢は58〜76歳で,男性3例,女性2例であった。強膜内陥術からバックル除去手術までの期間は20〜36年であった。術前の症状として眼球運動障害(4例),眼圧上昇(2例),眼瞼下垂(1例),眼瞼腫脹(1例),眼瞼腫瘤(1例)(症状の重複あり)がみられた。除去手術に伴う合併症は,術後低眼圧(1例),手術後の上脈絡膜出血(1例)がみられた。バックル除去後に緑内障濾過手術を要した症例では,濾過手術中に上脈絡膜出血を生じるという合併症もあった。除去手術後に症状が改善した症例は3例であったが,症状改善が得られなかった2例はともに眼圧上昇を合併している症例であった。

結論:マイラゲル®による合併症に対しては除去手術を行うことにより症状改善が期待できる。しかしながら,除去手術に伴う合併症の可能性もあり,これを念頭に置いて治療計画を立てることが重要である。

ポリープ状脈絡膜血管症に対するPDT併用アフリベルセプトによるmodified TAEの1年成績

著者: 小沢優輝 ,   広江孝 ,   田中裕一朗 ,   木住野源一郎 ,   小林純一 ,   戸田和重 ,   小沢忠彦

ページ範囲:P.1079 - P.1086

要約 目的:ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)に対し,光線力学療法(PDT)併用アフリベルセプト硝子体注射(IVA)によるmodified treat and extend(mTAE)の1年成績を検討する。

対象と方法:2019年4月〜2020年3月に小沢眼科内科病院を受診した,未治療のPCV症例16例16眼のうち,IVA×3+PDTで導入期治療を行い1年以上経過を追うことができた11例11眼を対象とし,治療前後の視力,中心窩網膜厚,中心窩下脈網膜厚,1年間の注射回数を後ろ向きに検討した。導入期治療として4週ごとに3回連続IVAを施行し,初回のIVAの2日後にPDTを施行した。維持期はmTAEを行い,滲出性変化がなければ投与間隔を4週延長し,滲出性変化があれば4週短縮し,最大投与間隔を12週とした。

結果:治療前の平均logMARは0.32±0.12,12か月後0.11±0.10と有意に改善した(p<0.01)。治療前の中心窩網膜厚は377±48μm,12か月後172±11μmと有意に改善した(p<0.01)。治療前の中心窩下脈絡膜厚は249±33μm,12か月後209±38μmと有意に菲薄化した(p<0.05)。

 12か月間でのIVA回数は導入期の3回を含めて平均3.5回(3〜6回)であり,82%の症例で維持期に追加のIVAを必要としなかった。

結論:PCVに対するPDT併用IVAによるmTAE治療は1年後の視力および網膜形態を有意に改善し,また,注射の回数を従来のTAEよりも減らすことができる可能性がある。

眼窩内異物摘出に際し外眼角切開が有用であった1例

著者: 近藤広宗 ,   四宮加容 ,   山中千尋 ,   香留崇 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.1087 - P.1091

要約 緒言:眼窩内異物は,摘出するにあたりその深達度によりさまざまなアプローチが考えられる。今回,外眼角切開を加えた結膜切開アプローチにより深部の異物を摘出した1例を経験したので報告する。

症例:68歳,男性。ドリルでコンクリートを剝がす作業中に破片が右眼に飛入した。右眼視力低下を主訴に救急外来を受診した。右眼視力は光覚弁。右眼に角膜裂傷,硝子体脱出,外傷性白内障を認め,CTにて右眼窩外方比較的深部で外直筋に接する状態の異物を認めた。受傷当日に角膜縫合,白内障手術,硝子体手術を施行した。術後経過良好であり,患者より異物除去の希望があったため,受傷127日後に眼窩内異物除去を施行した。はじめに外眼角切開を行った。前房穿刺し眼圧を下げたのち,外直筋付着部で結膜を切開し,斜視鈎で外直筋を牽引しながらアプローチした。異物は外直筋付着部から後方18mmの位置にあり,灰色の固い肉芽に包まれていた。異物は磁性体であり,サイズは3.0mm×2.5mm×1.0mmであった。術後は眼球運動障害などの合併症はなく経過している。

考察:眼窩内異物は術中,位置の確認が困難になる場合や骨切り術の併用が必要な場合がある。今回その対策として術中ナビゲーションシステム,骨切り術の準備をしていたが,外眼角切開を加えた結膜切開アプローチで通常よりも深部の外直筋にアプローチでき,異物が明瞭に確認できた。外眼角切開は外直筋近傍の眼窩内異物の摘出に有用であった。

シャンデリア照明を併用した強膜内陥術後の急性感染性眼内炎の1例

著者: 石野雅人 ,   山田晴彦 ,   久次米佑樹 ,   永井由巳 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1092 - P.1097

要約 目的:シャンデリア照明を併用した強膜内陥術後に急性感染性眼内炎を生じた症例を報告する。

症例:55歳,女性。20XX年4月上旬から右眼の飛蚊症を自覚し,近医を受診したところ,右眼の裂孔原性網膜剝離を指摘され関西医科大学附属病院(当院)を紹介され受診となった。当院初診時の右眼矯正視力は0.8,下方周辺部の限局性網膜剝離であったため,受診の翌日に広角観察システム,シャンデリア照明を併用した強膜内陥術を施行した。シャンデリアは上方に設置し,術中合併症はなかった。術後1日目は上方に結膜浮腫を認めていたが,網膜は復位していた。術後2日目に黄白色の眼脂,上方結膜浮腫の増悪と硝子体腔にフィブリンの析出を認めたため,術後感染性眼内炎と判断して同日に水晶体摘出併用硝子体手術を施行した。バックルは除去せずに硝子体を切除し,シリコーンオイル注入を行った。眼内レンズは挿入しなかった。硝子体液からは塗抹培養にてメチシリン感受性表皮ブドウ球菌が検出された。術後,徐々に眼底の透見性は改善し,6日目には透見明瞭となった。再手術から約3か月後に,シリコーンオイルを抜去し,眼内レンズ挿入術を施行した。術後6か月後の現在,右眼矯正視力は1.2と改善しており,経過は良好である。

結論:裂孔原性網膜剝離に対するシャンデリア照明を併用した強膜内陥術では,急性感染性眼内炎のリスクを念頭に置いて手術を行う必要がある。

生体内共焦点顕微鏡で観察したinterstitial keratitisの1例

著者: 鈴木亮太 ,   鈴木崇 ,   糸川貴之 ,   齋藤智彦 ,   柿栖康二 ,   岡島行伸 ,   堀裕一

ページ範囲:P.1099 - P.1104

要約 目的:生体内共焦点顕微鏡で観察することができたinterstitial keratitisの1例を経験したので報告する。

症例:43歳の男性。他院にて原因不明の右眼の角膜混濁のため,0.1%リン酸ベタメタゾン点眼による加療を受けていたが,徐々に角膜混濁が悪化したため東邦大学医療センター大森病院眼科に紹介され受診となった。初診時の右眼の視力は0.08(0.7),眼圧は11mmHgであった。細隙灯顕微鏡にて角膜全体の実質深層を中心に混濁を認め,前眼部光干渉断層計で実質混濁に一致して信号強度の増強を認めた。臨床所見より,interstitial keratitisと診断し前房水のPCR検査を行うも,ウイルスDNAは陰性であった。ステロイド点眼を継続したが眼圧上昇を認め,ステロイドレスポンダーを疑いステロイド点眼を漸減したところ,眼圧は低下するも角膜混濁は増強した。生体内共焦点顕微鏡で病巣部角膜の観察を行い,角膜実質深層に高輝度な炎症細胞像と角膜上皮基底細胞下の角膜神経の減少が認められた。現在,0.5%ガンシクロビル点眼と0.1%フルオロメトロン点眼,0.1%タクロリムス点眼を継続して,眼圧は正常化し角膜混濁も増強していない。

結論:Interstitial keratitisの病理像として角膜上皮下神経の減少を認め,病因としてウイルス感染の可能性も考えられた。

血液透析患者で総胆管拡張と総胆管結石に続発したビタミンA欠乏症の1例

著者: 中田大介 ,   岡田浩 ,   島田佳明 ,   谷川篤宏 ,   堀口正之

ページ範囲:P.1105 - P.1110

要約 目的:総胆管拡張と総胆管結石を有する透析患者にみられたビタミンA欠乏症の1例を経験したので報告する。

症例:65歳,女性。主訴は数か月前からの夜盲。2年前から消化器内科で総胆管拡張および総胆管結石を経過観察され,また近医にて血液透析中であった。視力は両眼とも(1.0),眼底には小白斑を認めた。ゴールドマン視野検査では異常なく,網膜電図(ERG)ではa波およびb波の著明な振幅低下を認めた。光干渉断層計(OCT)ではellipsoid zone(EZ)とinterdigitation zone(IZ)の不整を認めた。血清亜鉛は54μg/dlと低下し,血清ビタミンAは19IU/dlと著明に低下していた。総胆管拡張と総胆管結石患者に伴ったビタミンA欠乏症と診断し,ビタミンAの経口投与を開始した。血清ビタミンAは531IU/dlに上昇,夜盲の自覚も消失し,ERGも改善した。血液透析中であり,ビタミンAの蓄積を考慮し,漸減投与としたが最終視力は左右ともに(1.0)に保たれ,夜盲の再発はない。

結論:血液透析に伴う低亜鉛血症に加え,総胆管拡張と総胆管結石による胆汁酸の異常をきたし,ビタミンAの吸収障害により夜盲をきたしたと考えられた。透析患者ではビタミンAの投与にも慎重を要する。

角膜擦過物の検鏡が治療効果判定に役立った真菌性角膜潰瘍の1例

著者: 杉田丈夫 ,   土至田宏 ,   朝岡聖子 ,   市川浩平 ,   林雄介 ,   松崎有修 ,   平井麻紀 ,   太田俊彦

ページ範囲:P.1111 - P.1116

要約 目的:感染性角膜潰瘍における培養検査結果が陰性であったが,塗抹検鏡による真菌の検出が治療効果判定に役立った1例を報告する。

症例:15歳,女性。毎日交換型ソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用を開始も,翌月には頻回交換型SCLに処方変更となった。その際にレンズケア方法の説明はされなかった。同月中に右眼の視力低下,充血,眼痛,流涙,羞明が出現したため近医を受診し,アカントアメーバ角膜炎が疑われ順天堂大学医学部附属静岡病院に紹介され初診となった。右眼の初診時矯正視力は0.02,右眼の角膜中央部に混濁と浸潤を伴う角膜潰瘍を認め,角膜擦過物の培養検査と塗抹検鏡を行った。当科における検鏡で糸状菌を確認,入院のうえ抗真菌薬の点眼と点滴中心の治療内容とした。培養検査結果は陰性で菌種の特定はできなかったが,糸状菌が検出されなくなるまで角膜擦過を継続,2か月後には角膜混濁を残すものの角膜上皮欠損が消退し退院となった。その後,非ステロイド系抗炎症薬の点眼を追加し,右眼矯正視力は加療開始5か月後に0.7,1年半後には0.8まで改善した。

結論:角膜潰瘍例の角膜擦過物の培養結果が陰性であっても,塗抹検鏡による病原体検出は治療薬の選択のみならず効果判定にも有用であった。また,コンタクトレンズの種類の安易な変更や,ケア方法の未習得は避けるべきである。

連載 今月の話題

加齢黄斑変性診療の最近の動向

著者: 齋藤昌晃

ページ範囲:P.997 - P.1017

 滲出型加齢黄斑変性に対しては抗VEGF療法が主流であるが,長期的なstudyでは網膜色素上皮萎縮と視力低下の関連性が重要視されている。そのため視力を長期的に維持するためには,抗VEGF薬の選択や維持期の投与方法の工夫が必要になってくる。わが国でのこの先の超高齢化社会に向け,さらにはコロナ禍における診療を踏まえ,加齢黄斑変性診療のあり方を考えたい。

Clinical Challenge・17

角膜線状病変を呈した症例の鑑別診断

著者: 井上智之

ページ範囲:P.993 - P.995

症例

患者:42歳,女性

主訴:左眼眼痛と視力低下

既往歴:何回か異物感や充血を自覚し眼科治療歴あり。眼外傷歴はなし

家族歴:特記すべきことなし

現病歴:1週前より左眼に突然の眼痛および充血を認めた。2週間終日装用型使い捨てコンタクトレンズを常用している。夜間装用や期限を超えての使用など管理が不十分であった。激しい眼痛および視力低下のためいのうえ眼科を受診した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・11

—成人の近視にはどうしたらよいか?—成人の近視の屈折矯正

著者: 十河亜梨紗

ページ範囲:P.1018 - P.1023

◆成人近視とは,20歳以上の年齢で発症した近視であり,その原因としては調節の残効,眼軸延長などが考えられる。

◆老視とは,加齢に伴って調節力が減退し,調節しても近方視が困難な状態を指す。

◆成人近視の屈折矯正法として保存療法と手術療法があるため,それぞれの利点と欠点を正しく理解する必要がある。

臨床報告

遺伝子解析を行った結膜寄生の東洋眼虫症の2例

著者: 石部智也 ,   日野翔太 ,   岸大地 ,   横山勝彦 ,   瀬戸陽子 ,   飛彈野真也 ,   小林隆志 ,   長谷川英男 ,   久保田敏昭

ページ範囲:P.1026 - P.1030

要約 目的:東洋眼虫が結膜囊に寄生した2症例の虫体の遺伝子解析の結果を報告する。

症例:症例1は78歳,男性。眼脂を主訴に受診した。症例2は80歳,男性。寝たきりの状態で入院中に看護師が偶然結膜囊に虫体を発見した。

所見:症例1は両眼の結膜囊に蠕動する虫体が確認され摘出,計6隻摘出した。症例2は両眼に1隻ずつ確認し左眼より1隻を摘出,以後いずれも確認されなくなった。光学顕微鏡で東洋眼虫と同定し,症例1では雄1隻,雌5隻,症例2は雄であった。症例1の雌1隻と症例2の虫体についてmtDNAのcox1遺伝子塩基配列を解析すると既報の東洋眼虫ハプロタイプ10と一致した。

結論:東洋眼虫症は九州に多いとされてきたが,近年は他の地域からの報告も多い。遺伝子解析は起源,感染の拡大経路を調べるうえで重要な所見である。本症例のハプロタイプ10はヒト感染の初の報告である。

眼窩内に寄生したマンソン孤虫症の1例

著者: 古江惠理 ,   上笹貫太郎 ,   平木翼 ,   小牧祐雅 ,   東裕子 ,   谷本昭英 ,   井戸章雄 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1031 - P.1036

要約 緒言:マンソン孤虫症は,マンソン裂頭条虫の幼虫であるプレロセルコイドがヒトに寄生する比較的稀な疾患である。皮下への感染報告がほとんどであり,眼窩内への寄生は,わが国での報告はわずかである。今回,眼窩内のマンソン孤虫症を経験したので報告する。

症例:33歳,男性。2017年7月に右眼瞼腫脹が出現し,近医で右眼の結膜炎の診断を受けた。点眼加療で改善しなかったため精査目的で2018年10月に鹿児島大学病院眼科を初診した。右上眼瞼に移動性の腫脹を認め,さらに2年後の造影MRIでは右上直筋付近に占拠性病変が出現した。特発性眼窩炎症の疑いでステロイド内服加療を開始したが,その後の皮膚生検の結果からIgG4関連疾患の診断となった。ステロイド内服を継続したが,改善・増悪を繰り返し寛解には至らなかった。2020年6月に右眼結膜に白色病変を認めたため,摘出術を施行した。摘出後,右眼瞼腫脹は改善した。摘出された白色病変は,病理組織学的検査および寄生虫抗体検査でマンソン孤虫症であると考えられた。

結論:眼窩内の寄生虫感染症は稀であり,特発性眼窩炎症やIgG4関連疾患と症状が類似しているため誤診されやすい。ステロイド抵抗性の繰り返す眼瞼腫脹や外眼筋炎の診断には寄生虫感染症も念頭に置くべきである。

臨床ノート

結膜小切開法で結膜下眼窩脂肪脱を治療した4例

著者: 高橋京一

ページ範囲:P.1037 - P.1041

緒言

 結膜下に生じる眼窩脂肪脱は外来診療でときどき遭遇するが,治療を受けずに放置されている症例もある。通常視機能障害を起こすことはないため治療の主な目的は整容である。壮年期以降の男性に好発するために整容目的の手術を患者側が希望しない場合もある。また,脂肪摘出後のヘルニア門閉鎖の際に手術操作が深部に及ぶため,眼球運動障害,眼球陥凹,球後出血などの合併症のリスクを考え,医師側も積極的に手術を勧めない場合も多いと考えられる。

 最終目標を整容と考えれば,開瞼時に正面で脂肪脱がほぼみられなくなればよいと考えられる。もし,患者負担が少なく安全な術式で結膜下の脂肪を摘出できれば,眼科医も積極的にこの疾患の治療を勧めるようになるであろう。今回,結膜下眼窩脂肪脱に対して結膜小切開法で,脱出した脂肪を単純摘出した4例5眼を経験し,安全かつ有効な術式であったために報告する。

今月の表紙

乳頭血管腫(von Hippel-Lindau病)

著者: 間瀬智子 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.992 - P.992

 患者は27歳の男性。初診時の2004年から2020年までの16年間にわたり経過観察できた乳頭血管腫の症例。母親がvon Hippel-Lindau病と診断され,本人も遺伝子保因者であることが確定したため旭川医科大学病院眼科に紹介となった。初診時矯正視力は両眼1.2。眼底所見上,両眼ともに明らかな異常はなかった。2007年の受診時,左眼の視神経乳頭上に血管腫様変化を認めた。その後,血管腫は徐々に大きくなり,乳頭を覆うほどになった。なお,初診時から本人には眼科的自覚症状はなく,現在までに視力と視野に変化は認めていない。

 撮影には眼底カメラTRC50-DX(TOPCON社)を用い,画角は35°を使用した。本症例の血管腫は,年々成長するに従い硝子体側に大きく隆起してきている。血管腫表層の血管に焦点を合わせることが必要であるが,血管腫側に焦点を合わせすぎると乳頭と網膜の血管がぼやけてしまい,乳頭を含む全体像がわかりにくくなるので,ある程度網膜側にも焦点を合わせて撮影することを意識した。撮影光もハレーションが起きないよう注意した。

海外留学 不安とFUN・第67回

SERIでの留学を経験して・1

著者: 松村沙衣子

ページ範囲:P.1024 - P.1025

はじめに

 私は2017年5月〜2020年7月までシンガポール眼研究所(Singapore Eye Research Institute:SERI)の近視疫学チームにClinical Research Fellowとして留学していました。この留学を通し,想像以上の貴重な体験と素晴らしい人脈を得ることができました。今後留学を検討している若手の先生への応援メッセージになればと思い,一個人の経験談を書かせていただきます。

Book Review

英和・和英 眼科辞典 第2版

著者: 辻川明孝

ページ範囲:P.1098 - P.1098

 人は外界からの80%以上の情報を視覚から得ているといわれており,視覚は眼球という器官で受容されます。眼球は直径24mmの小さな器官ですが,結膜,角膜,水晶体,ぶどう膜,硝子体,網膜,視神経などの多くの組織から構成され,独自の役割を持ち,協働しながら視覚情報を得るために機能しています。各組織にさまざまな臨床所見があり,病態があり,病気が生じ得ます。視覚情報に対して人は非常に敏感ですので,わずかな視力の低下,少しの像のゆがみ,色の違い,大きさの違い,目のかすみなどに,すぐに気が付きます。また,小さな異物が入っただけでも角膜の表面に傷がつき異物感を感じるなど,痛み,痒みなどの刺激にも敏感です。そのため,眼球には非常に多くの病気が存在し,詳細に分類されています。先人のたゆまない観察・研究の蓄積により多くの病気が発見され,病態が解明されてきたのです。

 また,眼科診療はものすごいスピードで進化しています。眼科は眼底写真,光干渉断層計,造影検査などの画像検査を多用するため,検査機器の進歩とともに新たな病態・所見が明らかになり,診療に生かされてきました。現在の診療レベルと20年前の診療とではまったく異なったモノになり,眼科の種々の分野別の専門化が進んでいます。そのため,恥ずかしながら,私も自分の専門分野以外のことはあまりわかりませんし,専門分野でも最新のことをすべて網羅できているとはいい難いです。

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目次

ページ範囲:P.988 - P.989

欧文目次

ページ範囲:P.990 - P.991

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1117 - P.1120

アンケート用紙

ページ範囲:P.1126 - P.1126

次号予告

ページ範囲:P.1127 - P.1127

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.1128 - P.1128

 今月の話題は,弘前大学の齋藤昌晃先生の「加齢黄斑変性の最近の動向」です。加齢黄斑変性は,抗VEGF薬の登場により治療方法が以前とは全く様変わりしました。その変化は治療だけにとどまらず,疾患の分類や病態の理解などまで拡がり,それらは急速に変化しています。本論文は,この点について最新の情報をわかりやすく解説された大変な力作です。網膜がご専門でない先生にとっても,大いに益する内容であるといえます。また,本号には昨年の第74回臨床眼科学会の講演も掲載されています。第74回臨床眼科学会は完全なWEB形式であったにもかかわらず,多くの学会発表がなされました。ただし,通常開催の年に比べると,その総数は減少したようです。やはり,学会の活性化にはオンサイト形式のほうがよいかもしれません。

 さて,この原稿を書いているのは,令和3年6月下旬です。報道によれば,新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が緩和されて,オリンピック,パラリンピックが開催される運びとなりそうです。ワクチン接種が進んでいるので,第4波のように厳しい状況にはならないと思う反面,夏休みとオリンピックが重なって人出が増えたら,さらに厳しい事態が起こるかもしれないという心配もあります。昨年1年間は,新型コロナウイルス感染の蔓延により,眼科関連の学会は実際に人が接する完全なオンサイト形式では開催されませんでした。今秋,福岡で開催される予定の臨床眼科学会は久しぶりにオンサイト形式で開催しようしておりますが,その可否は今年の夏の感染状況に左右されるでしょう。本誌は臨床眼科学会と密接な関係がありますので,この点は大いに気になるところです。本号が皆様のお手元に届くころには,結果が出ているかもしれませんが,良い結果であることを祈るばかりです。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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