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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻10号

2022年10月発行

雑誌目次

特集 第75回日本臨床眼科学会講演集[8] 原著

白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(iStent inject W)とMicrohook線維柱帯切開術の術後短期成績

著者: 武川修治 ,   北原潤也 ,   知久喜明 ,   柿原伸次 ,   榑沼大平 ,   若林真澄 ,   朱さゆり ,   今井章 ,   平野隆雄 ,   村田敏規

ページ範囲:P.1387 - P.1392

要約 目的:白内障手術併用眼内ドレーン挿入術(iStent inject W)と,白内障手術にMicrohookを用いた線維柱帯切開術(μLOT)を併施した緑内障症例の短期術後成績と術後合併症について検討する。

対象と方法:2019年1月〜2021年6月の間に初回の緑内障手術として白内障手術を併用したiStent inject WあるいはμLOTを行い,6か月以上の経過観察ができた患者59例70眼(iStent inject W群27例34眼,μLOT群32例36眼)を後ろ向きに調査した。評価項目として術前後の眼圧と点眼スコアの変化,術後合併症などを検討した。

結果:患者の平均年齢はiStent inject W群で76.3±7.0歳であり,μLOT群で68.3±12.0歳であった。術前,術後1か月,3か月,6か月の眼圧は,iStent inject W群で14.6±3.6mmHg,11.2±2.6mmHg,10.6±3.3mmHg,10.9±3.0mmHg(術後1,3,6か月vs術前,p<0.001,ダネットの多重比較検定)であり,μLOT群で15.6±4.5mmHg,10.7±3.2mmHg,10.1±2.7mmHg,10.0±2.6mmHg(術後1,3,6か月vs術前,p<0.001,ダネットの多重比較検定)であり,両術式とも術後のいずれの時点においても術前と比較して有意に眼圧は下降した。術後合併症の比較では,ニボーを形成する前房出血を呈したのはiStent inject W群では1眼(3%),μLOT群では9眼(25%)であり,iStent inject W群で有意に頻度が低かった(p<0.05,χ2検定)。

結論:iStent inject WとμLOTはともに,術前と比較して有意に眼圧を下降させた。術後の前房出血の頻度はiStent inject Wのほうが有意に低かった。

小児のReis-Bücklers角膜ジストロフィ上皮びらん再発に対する角膜搔爬治療が有効であった1例

著者: 出口絵梨子 ,   大中恵里 ,   中坪弥生 ,   佐々木香る

ページ範囲:P.1394 - P.1400

要約 目的:小児のReis-Bücklers角膜ジストロフィ(RBCD)の再発性角膜上皮びらんに対する処置として,使い捨てソフトコンタクトレンズ(DSCL)装用前に角膜を搔爬することの有用性を報告する。

症例:7歳,女児。3歳時から再発性角膜上皮びらんに対しDSCL装用にて上皮治癒を図り,不正乱視に対してはハードコンタクトレンズ装用で弱視治療を行い,5歳時には良好な視力を得ていた。今回,角膜上皮びらん再発時に細菌培養のために角膜搔爬を施行したところ,角膜上皮びらんの治癒後に同部の混濁が改善する所見が得られた。そのため,以後,角膜上皮びらん再発時の対処として,DSCL装用前にびらん底および周囲の上皮の搔爬を追加したところ,その都度,搔爬部の透明性が向上し,前眼部OCTでも沈着物の減少が確認された。

結論:小児期のRBCDでは,ボウマン層に沈着したヒアリン様の沈着物質が搔爬することにより除去できる可能性がある。角膜上皮びらん再発時には,軟膏と閉瞼で沈着物を残したまま治癒を図るより,びらん底および周囲上皮を搔爬したうえでDSCL装用にて創傷治癒を図るほうが,沈着物を減少させ電気分解など外科的加療までの期間を長く保つことができる可能性があると考える。

視力を基準に抗VEGF薬導入期加療を行った網膜静脈分枝閉塞症の12か月治療成績

著者: 川野浩輝 ,   山切啓太 ,   上村昭典

ページ範囲:P.1401 - P.1407

要約 目的:網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫(ME)に対する抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体内注射治療において,注射前最高矯正視力(BCVA)を基準として導入期注射回数を決定した治療プロトコールの注射後12か月間の治療成績を報告する。

対象と方法:対象は,2017年7月〜2020年3月の間に以下の基準で導入期注射回数を決定し,以降は必要時投与(PRN)とした中心窩を含むMEを伴うBRVO症例21例21眼(男性9例,女性12例,平均年齢69歳)。導入期注射回数は,BCVA(小数視力)0.5以上では1回(1+PRN群),0.2〜0.4では2回(2+PRN群),0.15以下では3回(3+PRN群)と定めた。各群におけるBCVAの変化,導入期終了後再注射までの期間,初回注射後12か月間の総注射回数,中心窩網膜厚(CMT)の変化を調査した。

結果:21例のうち,1+PRN群が9例,2+PRN群が9例,3+PRN群が3例であった。初回注射後12か月間の総注射回数は平均3.6回(1+PRN群:2.8回,2+PRN群:3.9回,3+PRN群:5.0回)であった。各群ともに導入期終了時点でBCVAおよびCMTは改善し,初回注射後12か月まで維持できた。また,全例で導入期終了1か月後のBCVAは初回注射12か月後のBCVAと有意に相関していた(p<0.01,r=0.79)。

結論:注射前BCVAに基づいて導入期の抗VEGF薬硝子体内注射の回数を決定する方法は,BRVOに伴うME症例におけるBCVAおよびCMTの改善および維持に有用であった。

読書用ロービジョンエイドの選定に関するアウトカム研究

著者: 新井千賀子 ,   小田浩一 ,   尾形真樹 ,   平形明人

ページ範囲:P.1408 - P.1415

要約 目的:ロービジョンエイド(LVA)の選定はロービジョンケアの中心を担うものであるが,患者の約30%は選定したLVAに不満があるという報告がある。LVAの選定方法では,臨界文字サイズ(CPS)を基準とした拡大率計算の有効性やLVAでの読書速度(以下,LVA読書速度)の評価の有効性を示した報告がある。これらの先行研究ではLVAの選定と生活の質(QOL)との関連は検討されていない。本研究では,LVA読書速度の指標が患者のQOLにも関連があるかを調べ,読書用LVAの選定のアウトカムを検討した。

対象と方法:2018年2月〜2020年3月の期間中に読書用LVA選定を希望した13例。LVA選定前に杏林QOL評価,読み書きのニーズ聴取,MNREAD-J(読書評価)を実施し,LVA選定後にQOL評価を行い,LVA読書速度を測定した。

結果:10例がLVA読書速度で最大読書速度(MRS)の95%信頼区間の下限以上(MRS-2SD)の速度を示し,かつ読み書き領域のQOL(RW-QOL)が有意に改善した(p<0.05)。MRS-2SD未満の3例のうち2例はRW-QOLが改善せず,1例は速度が重要でないスポットリーディング目的であったためRW-QOLは改善した。

結論:より有効な読書用LVAを選定するためには,読書評価から得られたCPSをもとに拡大率を決定することに加えて,LVA読書速度とRW-QOL評価という2つのアウトカム指標が有効であることが示唆された。

リパスジル塩酸塩水和物点眼による眼圧およびシュレム管変化の検討

著者: 植木麻理 ,   豊川紀子 ,   柴田真帆 ,   黒田真一郎

ページ範囲:P.1416 - P.1421

要約 目的:リパスジル塩酸塩水和物点眼(以下,リパスジル点眼)による眼圧下降およびシュレム管(SC)の変化を検討する。

対象・方法:2020年2月〜2021年3月の間に6週間以上,片眼にリパスジル点眼を追加した開放隅角緑内障患者22例を対象とした。リパスジル点眼追加前後で眼圧のほか,前眼部OCTで耳側,鼻側のSCの大きさを評価した。ImageJにてSC断面の長径(SCL)および断面積(SCA)を算出し,追加眼と非追加眼で比較検討した。

結果:22例中3例は副作用にて投与中止となった。リパスジル点眼継続が可能であった19例の追加眼で,追加前17.7±4.5mmHgから追加後16.4±4.6mmHgと有意な眼圧下降があった(p<0.05)が,非追加眼では有意な変化はなかった。SCLとSCAは追加前後の比較で両群とも有意な変化はなかった。追加眼のうち10眼は2mmHg以上の眼圧下降(下降群)があったが,9眼は下降しなかった(非下降群)。下降群,非下降群ともSCL,SCAともに有意な変化はなかった。

結論:リパスジル点眼追加により眼圧は有意に下降したが,SCの大きさに変化はなかった。

兵庫県立こども病院における先天性外眼筋線維症4例の手術成績

著者: 中野由美子 ,   野村耕治 ,   牧仁美 ,   河原佳奈

ページ範囲:P.1422 - P.1426

要約 目的:兵庫県立こども病院(以下,当院)にて斜視手術を行った先天性外眼筋線維症(CFEOM)4症例について報告する。

対象と方法:当院にて斜視手術を行ったCFEOM 4症例を対象とした。診療録より家族歴,手術時期および術式を抽出し,視力,眼位,頭位異常,両眼視機能の経過を術前後で比較した。

結果:症例1は術前,術後ともに眼瞼下垂は軽度であり保存的に経過を診ている一方,症例2〜4はCFEOMとして先に眼瞼下垂手術を行っていた。症例2と3は双胎児であり,眼瞼下垂手術,両下直筋後転術の手術時期は同じであったが,症例3の弱視はより高度であった。症例2は両下直筋後転術後,内斜視も改善した一方,症例3は45Δ以上の内斜視が残存し,両内直筋後転術が必要であった。症例4は両下直筋追加後転術後,内斜視も改善した。4症例すべてに術前の眼球の下方固定による顎上げ頭位を認めたが,いずれも手術後に改善した。全例で両眼視機能は改善しなかった。

結論:内斜視の推移は術前眼位に依存していた。眼球の下方固定による顎上げ頭位はすべての症例で認めたが,手術後に全例改善した。両眼視機能の改善は4症例ともにみられず,これは既報通りであった。

急性網膜壊死の臨床像

著者: 塚本浩介 ,   上本理世 ,   伊藤沙織 ,   竹内正樹 ,   水木信久

ページ範囲:P.1427 - P.1433

要約 目的:急性網膜壊死(ARN)の臨床像について検討したので報告する。

対象と方法:横浜市立大学附属病院眼科にて2009年1月〜2020年12月の間に前房水の検査,眼所見および経過から診断基準に基づきARNと診断した連続症例39例44眼の視力,原因ウイルス,眼底造影検査について診療録に基づきretrospectiveに検討を行った。

結果:平均発症年齢は53.0±17.4歳。視力(logMAR値)は治療前0.45±0.54,治療後0.38±0.69であり,有意差はなかった。網膜剝離に至った症例は44眼中18眼であり,その原因ウイルスは水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)16眼,単純ヘルペスウイルス2眼であり,VZV罹患率が有意に高かった。網膜剝離症例(n=13)は,治療後視力(logMAR値)0.71±0.69も有意に不良であった。治療後視力(logMAR値)は,治療前に後極部の網膜に血管閉塞がある症例(n=4)で1.56±0.52であり,血管閉塞がない場合(logMAR値)0.68±0.60に比べ有意に低かった。網膜剝離が発生しなかった26眼の視力(logMAR値)は,治療前0.35±0.44と比較し治療後−0.03±0.10と有意に改善した。

結論:ARNにおいて,網膜剝離に至らない症例は治療により視力改善が期待できることがわかった。一方,網膜剝離症例はVZV罹患例が多く,視力予後も悪いことを確認した。また,治療前に後極部の網膜に血管閉塞所見が認められる場合は,視力予後が悪いことが示された。

アートメイクにより角結膜障害を生じた1症例

著者: 戎谷さくら ,   松澤亜紀子 ,   林泰博 ,   吉村雅弘 ,   工藤昌之 ,   高木均

ページ範囲:P.1434 - P.1439

要約 目的:アートメイクは,皮膚に色素を注入することで眉やアイラインなどを整えられるため,美容目的での施術が普及している。施術には医師免許が必要だが,無資格者が行っている施設が多く,不適切な施術による皮膚障害や眼障害の報告も多い。筆者が経験した,アイラインのアートメイク施術後に両眼の角結膜びらんを生じた症例を報告する。

症例:40歳,女性。アートメイク施術直後の両眼痛と流涙を主訴に来院した。矯正視力は右0.5p,左0.5であった。前眼部所見では両眼に角膜びらんを認めた。中間透光体および後眼部に異常はなかった。皮膚に使用した外用局所麻酔薬による薬剤性角結膜障害と診断し,0.3%トスフロキサシントシル酸塩点眼および0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム点眼各4回/日にて加療を開始し,1週間で後遺症なく改善した。

結論:近年アートメイクの需要は増加しているため,今後合併症が増えることが予想される。眼科医として,アートメイクによる眼障害に遭遇する可能性があることを念頭に置く必要がある。

MALTリンパ腫との鑑別を要した限局性結膜アミロイドーシスの1例

著者: 足立瑛美 ,   福岡秀記 ,   吉岡誇 ,   植田光晴 ,   外園千恵

ページ範囲:P.1440 - P.1444

要約 目的:MALTリンパ腫との鑑別を要した限局性結膜アミロイドーシスを経験したので報告する。

症例:82歳,男性。半年前からの左眼の異物感を主訴に前医を受診し,結膜腫瘍疑いで京都府立医科大学附属病院へ紹介され受診となった。初診時の視力は両眼(0.4)で,左眼の下眼瞼結膜円蓋部に黄色の隆起性病変を認めた。腫瘍部分切除を施行し,病理検査でcongo red染色で橙赤色のアミロイド沈着を認めた。前駆蛋白から病型を診断したところ,ALアミロイドーシスλ型であったため,全身性アミロイドーシスの有無を精査したが結膜以外の病変はなく,限局性結膜アミロイドーシスと診断した。

結論:眼科領域のアミロイドーシスは限局性の報告が大半で,上眼瞼への沈着を認める場合には,患眼の眼瞼下垂の要因となる。本症例では,結膜円蓋部への沈着が優位であったため,MALTリンパ腫との鑑別を要した。また,アミロイドーシスと診断された場合には,内科的に全身性アミロイドーシスを除外することが重要である。

糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬硝子体注射導入時1回投与と連続3回投与の経過比較

著者: 倉岡大希 ,   上田哲生 ,   和田大史 ,   水澤裕太郎 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.1445 - P.1450

要約 目的:糖尿病黄斑浮腫(DME)の抗VEGF薬治療において,実臨床では導入期の投与回数が統一されていないため,導入期の投与回数による治療成績を比較検討する。

対象と方法:奈良県立医科大学附属病院眼科でDMEと診断され,2013年3月〜2018年1月の間に抗VEGF薬を初回投与し,2年以上経過観察が可能であった46眼を対象とした。初回投与時に1回のみ投与し,その後pro re nata(PRN)レジメンで投与を行った症例を1+PRN群(20眼),導入期に連続3回,その後PRNレジメンで投与を行った症例を3+PRN群(26眼)とした。各群において,最高矯正視力(logMar換算)および中心窩網膜厚(CMT)の変化を初回投与前と初回投与12か月後,24か月後で統計学的に比較検討した。

結果:平均年齢は両群間で有意差はなく,初回投与前の最高矯正視力(logMar)は1+PRN群0.46±0.32,3+PRN群0.44±0.27であった(p=0.81)。初回投与12か月後,24か月後の最高矯正視力は,それぞれ1+PRN群が0.48±0.29,0.47±0.27,3+PRN群が0.35±0.34,0.31±0.26と両群間に有意差はなかったが,初回投与24か月後の3+PRN群で良好な傾向であった(p=0.06)。また,初回投与前のCMTは1+PRN群411.03±140.39μm,3+PRN群491.50±113.34μmであり,3+PRN群が有意に大きかった(p=0.023)。初回投与12か月後,24か月後のCMTは,1+PRN群が421.23±185.56μm,403.58±149.79μm,3+PRN群が441.58±142.89μm,371.20±89.37μmと,3+PRN群で有意に減少した(p=0.001)。

結論:DMEに対する抗VEGF薬治療は導入期に連続3回投与するほうが効果的であると考えられた。

長期経過観察できた黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)type 2の3例

著者: 十河江梨子 ,   逢坂理恵 ,   山下彩奈 ,   小野葵 ,   小嶌洋和 ,   三好由希子 ,   杉田江妙子 ,   鈴間潔

ページ範囲:P.1451 - P.1458

要約 目的:黄斑部毛細血管拡張症(MacTel)type 2に対して長期経過観察ができた3症例を報告する。

症例と結果:症例1は42歳,女性。視力は両眼とも(0.4)。両眼黄斑部に網膜内層の囊胞様変化,両眼中心窩耳側に毛細血管拡張を認め,両眼MacTel type 2非増殖期と診断した。初診後6年が経過したが視力低下はない。症例2は65歳,女性。視力は両眼とも(1.0)。右眼中心窩から傍中心窩にかけてのellipsoid zoneの欠損,蛍光眼底造影で両眼中心窩耳側に蛍光漏出を認め,両眼MacTel type 2非増殖期と診断した。初診後8年が経過したが右眼に色素沈着のわずかな増加はあるものの,両眼とも視力低下はない。症例3は33歳,男性。視力は右(0.9),左(0.1)。左眼に網膜下新生血管(SRNV)を認め,右眼はMacTel type 2非増殖期,左眼は増殖期と診断した。左眼SRNVに対してベバシズマブ硝子体内投与(IVB)を計2回施行した。経過中に右眼にもSRNVが出現し,右眼SRNVに対してもIVBを施行した。その後,両眼とも再発はなく,早期に治療を開始できた右眼は良好な視力を維持できている。

結論:MacTel type 2は比較的視力が保たれる疾患だが,SRNVを合併すると急激な視力低下をきたすことがあるため,定期的な経過観察が必要である。

白内障手術中に角膜断裂が生じ創口拡大のため手術に難渋した脆弱角膜症候群の2症例

著者: 山口万里奈 ,   髙宮美智子 ,   國方彦志 ,   中澤徹

ページ範囲:P.1459 - P.1464

要約 目的:Ehlers-Danlos症候群の1つの病型である脆弱角膜症候群(BCS)の2症例を提示し,白内障手術における問題点とその対策について検討した。

症例:2症例とも,白内障に対する超音波水晶体乳化吸引術中に,メインポートおよびサイドポートが断裂し,創口の拡大を認め手術に難渋した。2症例とも,菲薄化角膜(中心角膜厚<400μm),輪状白色強膜および青色強膜を有しており,BCSの特徴を認めた。

結論:術前検査でBCSと考えられる患者の白内障手術の際は,虹彩脱出・嵌頓のリスクを低減するべく,メインポートは強角膜切開で創口トンネルを長く作製し,灌流や吸引は低灌流圧で行うなど,手術手技に関して慎重な対応が求められる。

抗VEGF治療により漿液性網膜剝離の改善が得られた両眼脈絡膜骨腫の1例

著者: 山田武叶 ,   小山雄太 ,   中野裕貴 ,   藤村貴志 ,   鈴間潔

ページ範囲:P.1467 - P.1474

要約 目的:脈絡膜骨腫によって生じた漿液性網膜剝離(SRD)に対して抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬硝子体注射を施行し改善が得られた症例を経験したので報告する。

症例:18歳,女性。2016年12月に学校健診で視力低下を指摘されたため近医を受診した。両眼に網脈絡膜変性,右眼にSRDを認め,2017年1月に香川大学医学部附属病院眼科へ紹介となった。

所見:視力は右(1.0),左(1.5),眼底写真と光干渉断層計で両眼に脈絡膜病変を認め,右眼はSRDを伴っていた。眼窩部単純CTにて右眼脈絡膜に沿った高吸収域を認め,両眼脈絡膜骨腫と診断した。経過中右視力は(0.7)まで低下するも,病変が黄斑部を含む広範囲に及んでいること,左眼は視力良好で日常生活に支障がないことより,経過観察の方針としていた。2020年1月,左眼にSRDが出現した。左視力(1.5)ではあったが,自覚的にも中心暗点を認めたため治療適応ありと判断した。病態に脈絡膜新生血管が関与していると考え,両眼にベバシズマブ硝子体注射(IVB)を施行した。その結果,左眼のみSRDの減少を認め,右眼は不変であった。残存しているSRDに対し,さらにIVBを2回,アフリベルセプト硝子体注射を1回施行するも,それ以上の改善は得られなかった。

結論:脈絡膜骨腫のSRDに対して抗VEGF治療は有効であった。

視神経障害を伴う後部強膜炎にトリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射が奏効した1例

著者: 高風那々子 ,   前川有紀 ,   遠藤未紗 ,   北岡隆

ページ範囲:P.1475 - P.1481

要約 目的:視神経障害を伴う後部強膜炎に対してトリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射(STTA)が奏効した1例を報告する。

症例:76歳,男性。右眼の視野異常を主訴に前医を受診したところ右眼に漿液性網膜剝離(SRD)が認められたが,その後自然消退した。前医受診1か月後,視力は両眼とも(1.2)と保たれていたが,左眼にSRDが出現した。さらに1か月後には左視力が光覚弁へ低下したため,長崎大学病院へ紹介となった。両眼の結膜・強膜充血,前房炎症,硝子体混濁のほか,左眼の視神経乳頭腫脹や脈絡膜皺襞など多様な所見を認め,MRIで左眼強膜の肥厚を認めまた左視神経への炎症波及が疑われたため,両強膜炎,左視神経障害を伴う後部強膜炎と診断した。関節リウマチと間質性肺炎を基礎疾患として有していた。入院後5日間の左眼デキサメタゾン結膜下注射により左眼の結膜および強膜充血は改善し,入院7日目にSTTAを施行したところ,速やかに脈絡膜皺襞の著明な改善とSRDの軽減がみられ,退院後1か月で左視力は(0.6)まで改善した。

結論:視神経障害を伴う後部強膜炎に対してSTTAが有効である可能性が示唆された。

連載 今月の話題

低侵襲な緑内障濾過手術

著者: 本庄恵

ページ範囲:P.1341 - P.1349

 近年,流出路再建術を中心に低侵襲緑内障手術が広く行われるようになってきた。加えて,濾過手術についても低侵襲なデバイスの開発が進められ,わが国でも臨床使用可能となるため,今後はさらに手術の選択肢が増える見込みである。

Clinical Challenge・31

好酸球性副鼻腔炎,好酸球性重症気管支喘息を伴った上眼瞼結膜増殖性病変

著者: 福島敦樹

ページ範囲:P.1336 - P.1339

症例

患者:53歳,男性

主訴:瘙痒感,眼脂

現病歴:好酸球性副鼻腔炎,好酸球性重症気管支喘息を指摘され,好酸球が20〜70%台と高値であったため,抗IL-5受容体α鎖抗体(ファセンラ®)で治療を開始した。治療開始前より結膜充血を認めていたが,ファセンラ®治療開始後3か月目頃より瘙痒感,眼脂を自覚するようになった。ファセンラ®治療開始後9か月目に近医を受診し結膜増殖性変化を指摘され,当院へ紹介され受診した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・25

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—緑内障の診断

著者: 長岡奈都子

ページ範囲:P.1350 - P.1354

◆病的近視は,さまざまな形状の視神経乳頭や乳頭周囲の構造変化を伴い,時に特徴的な視野異常を呈し,また近視性黄斑症に伴う視野障害との鑑別にも注意を要する。

◆検眼鏡所見に加え,眼底写真やOCT解析を活用した視神経乳頭および網膜神経線維層の評価と,静的視野検査とともに動的視野検査やマイクロペリメータを併用した視野所見との総合的な評価が重要である。

臨床報告

線維柱帯切除術の手術成績

著者: 嵜野祐二 ,   横山勝彦 ,   田村弘一郎 ,   木許賢一 ,   久保田敏昭

ページ範囲:P.1358 - P.1364

要約 目的:多数例のマイトマイシンC併用線維柱帯切除術における眼圧下降効果および術後合併症などについて報告する。

対象と方法:術後6か月以上経過観察した455例529眼を対象とした。観察期間は6〜36か月。術後成績の評価はカプラン・マイヤー生命表解析を行い,死亡の定義は,緑内障治療薬使用の有無にかかわらず,眼圧が2回以上18mmHgを超えたものを基準1,2回以上15mmHgを超えたものを基準2とし,かつ基準1,2に共通で追加手術を施行したものを死亡とした。

結果:全病型で術後全期間において有意な眼圧下降(p<0.01)がみられた。3年生存率は基準1で86.3%,基準2で68.4%であった。合併症はステロイド緑内障,小児緑内障,原発閉塞隅角緑内障,血管新生緑内障で発生率が高く,前房出血と脈絡膜剝離が多かった。

結論:手術成績は比較的良好であった。

レンティス®コンフォートトーリック挿入眼の屈折値の特性と軸ずれ

著者: 高須逸平 ,   高須貴美 ,   貝原懸斗 ,   星原徳子

ページ範囲:P.1365 - P.1371

要約 目的:レンティス® コンフォート トーリック(LCT)の術後屈折の特性や軸ずれについて報告する。

対象と方法:対象は,2020年7月から当院で白内障手術を施行しLCTを挿入した,連続する31名40眼である。全例,屈折異常と白内障以外の眼科疾患はなく,角膜乱視が−1.00D以上の症例を対象とした。術前と術翌日,術1週間後と術1か月後にオートレフ値とトポグラフィを測定し,レンズ交換法に基づく視力検査(遠方5m,中間1m,近方40cm)を施行した。また,術1週後の軸ずれと相関する要因をピアソンの積率相関係数の有意性検定を用いて検討した。

結果:LCT挿入眼は,術翌日から遠方,中間,近方において,視力は裸眼・矯正とも有意に改善した(すべてp<0.001)。術1週間後のオートレフ値はS値−0.73±0.79D,C値−0.70±0.47Dであった。一方で自覚的屈折値はS値−0.21±0.63D,C値−0.22±0.45Dであり,オートレフ値との間にS値−0.52DとC値−0.48Dの有意な乖離を認めた(それぞれp<0.01,p<0.001)。術1週間後の軸ずれは8.0±10.8°であった。術1週間後において,軸ずれは術後残余乱視(r=−0.698,p<0.001)や裸眼の術後40cm logMAR視力(r=−0.493,p=0.001)と相関し,近視想定を除外した30眼の裸眼の術後5m logMAR視力(r=−0.530,p=0.003)とも相関していた。

結論:LCT挿入眼は,オートレフ値が自覚的屈折値に比して近視,乱視表示される。また,軸ずれが少ないほど裸眼視力は良い。

悪性黒色腫に対するダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法中に脈絡膜新生血管を生じた1例

著者: 藤原和樹 ,   寺崎寛人 ,   古江恵理 ,   椎原秀樹 ,   大井城一郎 ,   青木恵美 ,   園田祥三 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.1372 - P.1379

要約 目的:BRAF阻害薬のダブラフェニブメシル塩酸塩とMEK阻害薬のトラメチニブジメチルスルホキシド付加物の併用療法による加療中に脈絡膜新生血管(CNV)を発症した1例を経験したので報告する。

症例:52歳,女性。右下肢原発の悪性黒色腫に対して皮膚科で治療中であった。ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法の開始後から左眼の視力低下を自覚し,鹿児島大学病院眼科を受診した。視力は右(1.0),左(0.1)であった。両眼の眼底に斑状の白色病変を多数認め,左眼黄斑部には網膜下に白色の斑状病巣を伴う漿液性網膜剝離,網膜出血を認めた。光干渉断層計では,左網膜下にフィブリン,網膜下高輝度物質を伴う漿液性網膜剝離,網膜内浮腫を認めた。インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査では両眼とも斑状の低蛍光が多発していたが,フィブリンによる蛍光ブロックのためCNVは指摘できなかった。フルオレセイン蛍光眼底造影検査では左眼にclassic CNVパターンを認めた。光干渉断層血管撮影では左黄斑部鼻側にCNVを認めた。以上の所見から,ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法中に併発したCNVと診断した。抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法を複数回行ったところ,滲出性変化は消失し,視力の改善を認めた。

結論:悪性黒色腫に対してダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法での加療中に稀にCNVを発症することがある。本症例は抗VEGF薬による治療に良好な反応性を示した。

オミデネパグイソプロピル点眼液の1年後治療成績

著者: 尾崎弘明 ,   小林彩加 ,   横尾葉子 ,   加藤博彦 ,   尾崎恵子 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1380 - P.1386

要約 目的:選択的EP2受容体作動薬であるオミデネパグイソプロピル(以下,オミデネパグ)について,第一選択としての新規単独使用例と他のプロスタグランジン製剤からの変更例とで緑内障に対する投与後1年の治療成績を検証した。

対象と方法:オミデネパグを投与し,1年以上経過観察を行うことができた102例を対象とした。男性33例,女性69例で,平均年齢65.2±13.0歳であった。病型は正常眼圧緑内障77例,原発開放隅角緑内障17例,前視野緑内障8例であった。新規単独投与が75例,プロスタグランジン製剤からの切り替えが27例であり,オミデネパグ投与後の眼圧,視野および有害事象を評価した。

結果:新規単独投与群では投与前の平均眼圧は14.1±3.9mmHgで,投与6か月後11.6±2.9mmHg,1年後11.8±3.1mmHgと各時期において有意に低下した。切り替え群では切り替え前12.3±2.2mmHg,6か月後11.3±2.5mmHg,1年後12.1±2.0mmHgであり,有意な眼圧下降効果はなかった。有害事象は結膜充血が5例(4.9%)で,虹彩炎,黄斑浮腫,虹彩色素沈着などは認められなかった。新規単独投与群でのノンレスポンダーは26例(34.7%)であった。

結論:オミデネパグの新規単独投与により1年にわたり眼圧の有意な下降が認められ,プロスタグランジン製剤からの切り替え症例においては切り替え前と比べて眼圧下降に差はなかった。オミデネパグによるプロスタグランジン関連眼窩周囲症の出現は皆無であった。

今月の表紙

眼皮膚白皮症(無散瞳下・徹照法)

著者: 八木治身 ,   堀裕一

ページ範囲:P.1340 - P.1340

 患者は68歳,女性。主訴は両眼の視力低下と羞明。精査および加療目的にて近医を受診し,両眼の白内障(エメリー・リトル分類グレード3)を指摘された。白内障手術の適応,可否の判断を含めた加療目的にて当科を紹介され受診となった。幼少期から眼皮膚白皮症を指摘されており,水平性眼振,黄斑低形成があった。初診時視力は左0.01(0.03×−16.0D()cyl−6.0D 180°)であった。白内障手術適応と判断し,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行した。術後視力は0.06(0.08×−3.75D()cyl−5.5D 170°)に改善した。白内障手術の1か月後に前眼部写真を撮影したところ,ディフューザー照明下では灰白色の虹彩が認められたが,徹照法にて撮影するとスリット光が虹彩を透過し,眼底からの反帰光によって眼内レンズが描出された。虹彩のメラニン色素が欠損しているため,透過しないはずのスリット光が無散瞳下でも眼底まで届いている。

 Righton社製デジタル細隙灯RS-1000を使用し,スリット長5mm,幅1mm,画角10°に設定し徹照法にて撮影した。水平眼振があるため振幅のパターンを予測しつつ,フレームアウトしないようセンタリングやフォーカスに注意しながら撮影を行った。

海外留学 不安とFUN・第81回

コロナ禍でのロンドンライフ・3 反省編

著者: 盛崇太朗

ページ範囲:P.1356 - P.1357

留学準備の不安

 留学に対する準備として重要なのが,語学力と資金の工面です。留学後は自然と英語が上達するであろう,というのは甘い考えです。私のLabには基本technician 1名しかおらず,しかも彼は常にイヤフォンをつけて仕事しているため,日常において英語で会話する機会がほとんどありません。学びも遊びも最大限享受するためには英語力は必須だと思います。

 金銭もまた重要なfactorです。私は無給の研究者として働いており,当初貯金と日本緑内障学会からいただいた留学助成金のみでの生活をすることとなり,腰を据えて研究を続けられるのか不安でした。留学後「grantが取れる人=仕事のできる人」という概念を強く意識するようになりました。ただ,イギリスは“hyper-competitive and stressful grant environment”と称されるほど学内の競争ですら熾烈です。幸い私は,妻がロンドンで就職活動に成功し定職を得るという予想外のファインプレーに助けられました。

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目次

ページ範囲:P.1332 - P.1333

欧文目次

ページ範囲:P.1334 - P.1335

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1483 - P.1486

アンケート用紙

ページ範囲:P.1492 - P.1492

次号予告

ページ範囲:P.1493 - P.1493

あとがき

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.1494 - P.1494

 2019年のカナダバンクーバーで開催されたARVO以来,もうかれこれ3年以上,海外渡航が途絶えています。そろそろ海外旅行か海外出張に行きたい気分が募っています。私が大学で教員をしているモチベーションの1つは,自由に仕事のスケジュールを組んで出張という理由で海外へ行けるチャンスがあることが大きいです。この「あとがき」を執筆している2022年8月現在,新型コロナウィルスの指定感染症の分類は5類への格下げが検討されていますが依然2類のままで,日本への入国者には出国前72時間以内のPCR検査の陰性証明書を義務付けられていますし,医学部の規定では依然帰国後5日間の出勤停止が課せられています。

 コロナによるフライト便の減少,世界的な物価高,原油高,ロシア上空の飛行規制などで,航空運賃がバカ高くなっています。格安航空チケットを検索するときに,私は,「スカイスキャナー」というサイトで検索しています。このサイトで行きたい都市を入力して,「どこを経由して値段いくらかなー?」って見るのにハマっています。8月現在,翌月の航空チケットで,大阪からパリまでのフライト最安値は,エコノミー往復便でアシアナ航空の15万円でした。ただし,仁川空港で21時間待ちで移動時間は合計37時間です! エールフランスの直行便ですと,エコノミー往復で55万7千円! アラスカ経由なのか15時間かかります。今の時期,留学に旅立たれた先生は大変な出費かと察します。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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