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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻12号

2022年11月発行

雑誌目次

特集 眼疾患を起こすウイルスたちを知る

企画にあたって

著者: 井上幸次

ページ範囲:P.1513 - P.1513

 新型コロナウイルスの猛威により,全世界の人々がウイルス疾患の重要性と恐ろしさを認識して3年になろうとしているが,皮肉なことにそれでウイルス感染症が非常に高い注目を集めている。眼科においてももちろん,ウイルス疾患が重要であるが,眼感染症という小さい領域の中の,さらに細菌感染症よりもマイナーな領域であり,専門家も少ない分野である。しかし,ウイルス性眼疾患は決して小さな分野ではない。アデノウイルス角結膜炎の患者数は非常に多く,眼科医として遭遇せずにすませるということはできない。また,ヘルペスウイルス科のウイルスは我々の体内に潜伏しているがために,いろいろな眼疾患を診ていくうえで,鑑別疾患として必ず俎上に載ってくる。思わぬ症例が実はヘルペスであったということは実は日常臨床で結構な頻度で起こっているし,起こっていて気づかずに過ごされている場合もある。そして,サイトメガロウイルス虹彩炎・角膜内皮炎,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎のように,ウイルス疾患であることが最近になって判明してきたものもある。また,従来は感染の部類には入らなかったような感染細胞自体が悪玉となる疾患,具体的にいうと乳頭腫やHAU(HTLV-1-associated uveitis)も広い意味でのウイルス性疾患として包括されるようになってきている。おそらく,今後,原因不明の疾患が実はウイルス性であったということが次々と明らかにされてくると思われるし,我々にとって未知のウイルスもまだまだ多いことから,ウイルス性眼疾患の領域はますます広がっていくことと思われる。

 本特集は,このパンデミックの時代にひとまず現状でのウイルス性眼疾患をまとめて勉強していただこうと企画したものである。新型コロナウイルスに人間社会がこれだけ翻弄されている様子を俯瞰すると,まるで,ウイルスたちに頭脳があって,我々のことを嘲笑っているかのようにも見える。ウイルスのなかには我々の体内に潜伏感染したり,なかには染色体に組み込まれたりして,人類が滅びない限り滅びないような共生の戦略をとっている優れものもあり(仮にウイルスたちの国があれば,核兵器禁止条約に署名したいところであろう),一筋縄では対処できない。この文字通り,獅子身中の虫ともいうべき強く賢い敵にどう対処していけばよいのか? 答えは簡単には見出せないが,我々も賢くならなければとても太刀打ちできないのは必定である。本特集がそれに向けての一つのきっかけとなれば幸いである。

アデノウイルス

著者: 北市伸義

ページ範囲:P.1514 - P.1519

●流行性角結膜炎(EKC)では眼瞼結膜瞼縁部の小出血点,7日目以降の多発性角膜上皮下浸潤が特徴的である。

●迅速診断キットでEKCの従来型および新型,さらに咽頭結膜熱の型も検出可能である。

●塩素系マルチパーパス消毒薬が安全かつウイルス不活化に有効である。

エンテロウイルス

著者: 内尾英一

ページ範囲:P.1520 - P.1524

●エンテロウイルス結膜炎は,エンテロウイルス70とコクサッキーウイルスA24変異株によって生じ,わが国では過去4回大流行を生じている。

●短い潜伏期でほとんど両眼性となり,結膜出血が特徴であるが,約1週間で自然治癒し,アデノウイルス結膜炎よりは軽症である。

●RT-PCR法を用いないと正確な病因診断ができず,特異的治療薬はまだない。

単純ヘルペスウイルス

著者: 宮﨑大

ページ範囲:P.1525 - P.1532

●単純ヘルペスウイルス(HSV)は成人になると既感染者が多くを占める。HSVは,眼瞼結膜炎,角膜炎,ぶどう膜炎,網膜炎など多様な眼疾患の原因となる。

●HSVは再活性化が起こりやすく,HSV既感染者においては眼疾患の管理上HSVの関与を常に考慮しておく必要がある。

水痘帯状疱疹ウイルス

著者: 岩橋千春

ページ範囲:P.1534 - P.1538

●前房水からのヘルペスウイルスDNAの検出が有用である。

●Hutchinson徴候を呈している場合には,注意深く観察する。

●抗ウイルス薬だけでなく,ステロイドの併用が必要な場合もある。

サイトメガロウイルス

著者: 川口龍史

ページ範囲:P.1539 - P.1545

●幼児期に不顕性感染した後に潜伏感染に移行し,生涯にわたって体内に保持される。

●免疫能が低下するとウイルスの再活性化が生じ,日和見感染症を引き起こす。

●近年,免疫健常者における角膜内皮炎・虹彩毛様体炎の原因となることが判明した。

その他のヘルペスウイルス属(EBV,HHV6,HHV7,HHV8)

著者: 杉田直

ページ範囲:P.1547 - P.1552

●眼疾患との関連がいまだ不明なヒトヘルペスウイルス属として,Epstein-Barrウイルス(EBV),ヒトヘルペスウイルス6型(HHV6),7型(HHV7),8型(HHV8)がある。

●眼局所検体のPCR検査が診断に役立つ。

●高コピー数のウイルスゲノムが同定される場合は治療を考慮する必要がある。

ヒトパピローマウイルスと眼疾患

著者: 小幡博人

ページ範囲:P.1553 - P.1558

●ヒトパピローマウイルス(HPV)は,皮膚や粘膜の上皮細胞に接触により感染する。

●結膜の乳頭腫はあらゆる年齢層にみられ,HPVは発症に関与する。

●Ocular surface squamous neoplasiaは高齢の男性に多く,HPVの関与には議論がある。

ルベラウイルス

著者: 後藤浩

ページ範囲:P.1559 - P.1563

●RNAウイルスであるルベラウイルスは風疹の原因ウイルスとして知られる。

●妊娠初期の妊婦の感染によって生じる先天性風疹症候群では先天白内障を引き起こす。

●Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の病因ウイルスとしてルベラウイルスが注目されている。

HTLV-1

著者: 中尾久美子

ページ範囲:P.1564 - P.1568

●HTLV-1は主にCD4陽性Tリンパ球に感染し,HTLV-1キャリアとなった感染者のごく一部が成人T細胞白血病(ATL)やHTLV-1関連脊髄症(HAM)を発症する。

●HTLV-1による眼疾患にはHTLV-1関連ぶどう膜炎(HAU)やATLの眼合併症がある。

●甲状腺機能亢進症で治療中のHTLV-1キャリアはHAUを発症しやすく,またHAUを発症したHTLV-1キャリアは無症候性キャリアに比べてHAMの発症率が高い。

連載 今月の話題

COVID-19ワクチン接種後の網膜関連疾患

著者: 池上靖子 ,   沼賀二郎

ページ範囲:P.1504 - P.1512

 新型コロナウイルスワクチンは,世界を震撼させたCOVID-19の収束に向けて,急速に普及した。一方,膨大な数のワクチン接種が進むにつれ,稀ではあるが副反応が報告されている。本稿では,ワクチン接種後に発症した眼疾患のなかで網膜に関連するものをまとめた。

Clinical Challenge・32

若年者にみられた両眼性の原因不明の網膜浮腫

著者: 鈴村文那 ,   上野真治

ページ範囲:P.1500 - P.1503

症例

患者:14歳,女性

主訴:両眼の視力低下

既往歴・家族歴:特記事項なし

現病歴:眼鏡処方のため近医を受診した際に視力低下と両眼の網膜分離を指摘され,先天網膜分離症の疑いとして精査目的で当院を紹介され受診した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・26

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—緑内障の進行

著者: 齋藤瞳 ,   相原一

ページ範囲:P.1569 - P.1573

◆強度近視眼は,明らかな緑内障性変化がなくても視野障害を呈することがある。

◆近視は緑内障のリスクファクターであるが,必ずしも進行のリスクファクターではない。

◆病的近視眼のなかには進行する症例があるので,注意が必要である。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・1【新連載】

流涙症総論

著者: 白石敦

ページ範囲:P.1576 - P.1580

●流涙には分泌性流涙(lacrimation)と導涙性流涙(epiphora)がある。

●眼不快感や視機能異常を伴う。

●総合的に診断・治療する必要がある。

臨床報告

緑内障チューブシャント眼に対するDSAEKにおいて空気注入後の眼圧変動を追えた1例

著者: 青木雄一 ,   後藤田知邦 ,   柿栖康二 ,   岡島行伸 ,   鈴木崇 ,   堀裕一

ページ範囲:P.1585 - P.1590

要約 目的:緑内障術後患者に対する角膜内皮移植(DSAEK)では空気注入時に前房圧が上がりにくく,移植片の接着に苦慮することが多い。今回,チューブシャント術後眼に対するDSAEK術後の移植片接着不良において再度空気注入を行った際,注入後の眼圧変動を経時的に計測できた1症例を経験したので報告する。

症例:患者は60歳台,男性。左眼の緑内障に対して過去6回の緑内障手術(線維柱帯切除術2回,濾過胞形成術2回,チューブシャント術2回)を受けている。左眼の水疱性角膜症に対しDSAEKを施行したところ,術後に移植片接着不良を認め,角膜縫合および空気注入を施行するも接着せず,再度空気注入を行った。2度目の空気注入は処置室で行い,仰臥位のまま経時的に手持ち眼圧計(iCare®)で眼圧を計測した。空気注入直後は27mmHgであったが,35分後には19mmHgとなり,再度空気を注入し40mmHgとなった。さらに60分後には19mmHgとなり,空気を再注入した。合計160分仰臥位を続け,帰室した。その後,移植片は接着し,視力改善がみられたものの,術後1か月時の視野検査では術前と比べて周辺視野の狭窄が認められた。

結論:緑内障術後患者に対するDSAEKでは,空気注入後の比較的早期に眼圧が低下するため注意を要する。本症例では複数回の空気注入を要し,視力は向上したが,周辺視野に影響がみられた。

COVID-19ワクチンmRNA-1273接種後に急性前部ぶどう膜炎と視神経乳頭腫脹を発症した1例

著者: 大路怜奈 ,   前野紗代 ,   檀上幸孝

ページ範囲:P.1591 - P.1596

要約 目的:COVID-19ワクチンmRNA-1273接種後に急性前部ぶどう膜炎と視神経乳頭腫脹を発症した症例の報告。

症例と所見:17歳女性がmRNA-1273の1回目のワクチン接種翌日からの発熱および左眼の霧視,充血,眼痛を自覚し,近医から紹介され受診した。視力は右(1.5),左(1.0p)で,左眼に毛様充血,前房細胞,前房フレア,微細な角膜後面沈着物,視神経乳頭の発赤と腫脹を認めた。左眼の前部ぶどう膜炎および視神経乳頭腫脹と診断し,ステロイドと副交感神経遮断薬の点眼にて治療後,視神経乳頭の発赤と腫脹を除いて軽快した。1回目から4週後の2回目のmRNA-1273のワクチン接種の翌日にも同様に,発熱および両眼の充血,左眼の霧視を自覚し来院した。検査では,視力は右(1.5),左(1.2),左眼の前房細胞,前房フレア,前部硝子体細胞,前部硝子体フレア,視神経乳頭の発赤と腫脹を認めた。ステロイドと副交感神経遮断薬の点眼にて治療後,視神経乳頭の発赤と腫脹以外の所見は改善し,現在は無治療で経過観察中である。

結論:COVID-19ワクチンであるmRNA-1273接種が原因と考えられる急性前部ぶどう膜炎と視神経乳頭腫脹を発症した症例を報告した。

篩状板欠損とchoroidal microvasculature dropoutの関連性

著者: 楯日出雄 ,   須藤由美子 ,   袖山健伸 ,   大滝千智 ,   青柳明李 ,   植田芳樹

ページ範囲:P.1598 - P.1605

要約 目的:篩状板欠損とchoroidal microvasculature dropout(Ch MVD)の関連性および篩状板欠損が生じる要因について検討した。

対象と方法:当院で正常眼圧緑内障の診断を受けている33例37眼を対象とした。方法は,AngioVueTM(Optovue社製)を用いてAngio discモード4.5×4.5mm範囲で撮像し,取得画像のうちChoroid画像から上方・下方の乳頭内および乳頭周囲いずれかにCh MVD所見を認めるものだけを抽出した。Ch MVDに相当する部位を,SPECTRALIS® OCT(Heidelberg社製)によるenhanced depth imagingの手法を用いて,高解像度モードおよび100イメージ加算で撮影し,篩状板部を抽出した。篩状板欠損あり・なしの2群に分類し,篩状板欠損の割合と群間背景を比較した。

結果:Ch MVDに相当する部位に篩状板欠損を認めたのは37眼中12眼(32%)であった。篩状板欠損あり群・なし群の比較では,有意差のあった項目として,屈折値:あり群−7.31D/なし群−3.55D(p=0.02),眼軸長:あり群27.56mm/なし群25.30mm(p=0.01),乳頭楕円率:あり群0.75/なし群0.84(p<0.05)が挙げられ,篩状板欠損の多くは強度近視眼に認めた。

結論:本検討では,Ch MVD部位に篩状板欠損を認めた割合は約3割で,そのうち篩状板欠損の多くは強度近視眼に認めた。部分欠損が生じる要因として,眼軸伸長による乳頭耳側牽引から篩状板付着部に断裂が生じて形成される可能性が考えられた。

マイクロパルス経強膜的毛様体光凝固後に調節力低下を生じた小児の1例

著者: 竹中彩乃 ,   岡田尚樹 ,   尾上弘光 ,   徳毛花菜 ,   奥道秀明 ,   廣岡一行 ,   木内良明

ページ範囲:P.1606 - P.1612

要約 目的:若年開放隅角緑内障(JOAG)の患者にマイクロパルス経強膜的毛様体光凝固術(MPCPC)を行った後に,可逆性の散瞳と調節力低下が出現した1例を経験したので報告する。

症例:13歳,男子。学校検診をきっかけに近医を受診した。眼圧が右34mmHg,左33mmHgと高値であったため,広島大学病院眼科を紹介されて受診した。両眼JOAGと診断し,右眼2回,左眼1回の線維柱帯切開術を行った。術後に十分な眼圧下降が得られなかったため,MPCPCを右眼2回,左眼1回行った。

所見:初回MPCPCから91日目の調節力は右眼3.7(D),左眼は63日目に4.1(D)であった。瞳孔径は5mm程度と中等度の散瞳をしていたので,MPCPCの影響と考えた。調節力は初回MPCPCから右眼は233日後,左眼は205日後に7〜8(D)に回復した。瞳孔径はMPCPC後に5mm程度と中等度の散瞳になったものの,経時的に3mm程度に回復した。右眼圧は初回MPCPC後91日に40mmHg,2回目を行った後も40mmHg台を推移した。左眼圧は初回MPCPC後63日に22mmHgと一時低下したが,147日後に37mmHgと再度上昇した。点眼治療を追加しても,右29mmHg,左27mmHgとなったため,両眼とも線維柱帯切除術を行った。以後眼圧は10mmHg台で安定している。

結論:若年者にMPCPCを行う際は一過性ではあるが調節力低下,散瞳の副反応を説明する必要がある。

海外留学 不安とFUN・第82回

人生の夏休み・1

著者: 寺尾亮

ページ範囲:P.1582 - P.1583

 日本の眼科分野のさらなる国際化の必要性が叫ばれるなか,海外留学を希望する医師が減少していると耳にします。海外留学経験のある眼科医が減っていくことは残念であると感じますし,充実した留学生活を現在過ごしている立場からすると1人でも多くの日本人眼科医師に海外留学を経験してほしいと感じています。

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目次

ページ範囲:P.1496 - P.1497

欧文目次

ページ範囲:P.1498 - P.1498

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1613 - P.1613

アンケート用紙

ページ範囲:P.1618 - P.1618

次号予告

ページ範囲:P.1619 - P.1619

あとがき

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.1620 - P.1620

 臨床眼科2022年11月号(76巻12号)をお届けいたします。さて,本号の特集は井上幸次先生にご企画いただきました「眼疾患を起こすウイルスたちを知る」です。北市伸義先生のアデノウイルスの解説から始まり,内尾英一先生のエンテロウイルス,宮崎大先生の単純ヘルペスウイルス,岩橋千春先生の水痘帯状疱疹ウイルス,川口龍史先生のサイトメガロウイルス,杉田直先生のその他のヒトヘルペスウイルス属,小幡博人先生のヒトパピローマウイルス,後藤浩先生のルベラウイルス,中尾久美子先生のHTLV-1と,大変ワクワクするラインナップとなっています。皆様,この機会にウイルスに対する知識のアップデートをなさってください。

 今回,さらにウイルス感染に関連した話題として,「今月の話題」にて池上靖子先生と沼賀二郎先生による「COVID-19ワクチン接種後の網膜関連疾患」のレビューをいただき,臨床報告にもCOVID-19ワクチン関連の報告(大路怜奈先生ら)があります。本誌の読者のなかにも,眼科通院中の患者さんから「私は新型コロナワクチン接種をして大丈夫ですか?」と外来で尋ねられたご経験がある先生方も多いかと思います。今秋からオミクロン株対応のワクチンの接種も開始されておりますので,我々は常に知識をアップデートしてCOVID-19にしっかりと対応していく必要があると思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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