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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻13号

2022年12月発行

雑誌目次

特集 ゲノム解析の「今」と「これから」—解析結果は眼科診療に何をもたらすか

企画にあたって

著者: 西口康二

ページ範囲:P.1639 - P.1639

 これまで,ゲノム医療すなわちゲノム情報の臨床応用は診断学の分野に限定されていた。代表的なものが眼遺伝性疾患のゲノム診断であり,古典的な解析手法を用いて,レーベル遺伝性視神経症の特定の遺伝子変異解析や網膜芽細胞種などの染色体検査が行われてきた。最近では,マルチプレックスPCRによる眼感染症の診断法が開発され,徐々に遺伝子解析技術の進歩が診療に反映されつつあるのが実感される。

 しかし,実際のところは,日本の眼科のゲノム診療は国内外の医療のなかで大きく遅れをとっている。網羅的ゲノム解析技術として遺伝解析に革命的な進歩をもたらした次世代シーケンスの臨床実装は,欧米などの海外諸国ではかなり前から眼科領域で進んでおり,日本でも耳鼻科を含めた眼科外の多くの分野ではすでに始まっている。また治療に関しても,遺伝子診断による抗がん薬の選択や,遺伝性疾患の病因遺伝子に対する遺伝子治療などの治療の臨床実装も行われはじめている。眼科領域では,2017年にレーベル先天盲に対する遺伝子治療薬であるLuxturnaTMが米国で認可されたのは記憶に新しい。しかし同治療は,韓国をはじめ世界各国ですでに実臨床に導入されているが,日本で治療が行われるのは何年か先になる見込みである。このようなゲノム医療の発展の遅れは,日本の国民皆保険をベースとした柔軟性に乏しい医療システムに問題の一端があると思われるが,われわれにも問題がある。とにかく,日本で眼科のゲノム医療を推進するには,学会を主体としたアカデミアと関連企業が戦略的に手を組んで自ら国に働きかけを行う必要がある。

感染症診断とPOCT遺伝子検査

著者: 中野聡子

ページ範囲:P.1640 - P.1646

●感染症検査では,臨床現場即時検査(POCT)化が進んでいる。

●眼感染症に対する遺伝子検査には,マルチプレックスPCR,次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析などがある。

●イムノクロマト法(角結膜炎,VZV・HSV),マルチプレックスPCR法(ぶどう膜炎,ヒトヘルペスウイルス1〜6型,HTLV-1,トキソプラズマ,梅毒)の保険適用化のための全国多施設共同試験参加施設募集が開始されている。

日本人の網膜色素変性遺伝子解析と課題

著者: 後藤健介 ,   小栁俊人

ページ範囲:P.1647 - P.1651

●現在,わが国の遺伝性網膜変性疾患患者の多数例に対する病因遺伝子変異探索を遂行中である。

●ACMGガイドラインに基づく変異の病原性判定と問題点を検証する。

●RP病因遺伝子のVUSの機能評価のため網膜特異的mRNA発現解析法を開発中である。

ぶどう膜炎のゲノム解析による病態解明

著者: 竹内正樹 ,   水木信久

ページ範囲:P.1652 - P.1657

●遺伝解析研究の進歩により非感染性ぶどう膜炎の発症に関与する遺伝子が同定され,病態の理解が深まった。

●非感染性ぶどう膜炎では,HLA遺伝子が病態の中心であり,各疾患でMHCクラスⅠ,クラスⅡのどちらか一方と強く相関している。

IL23Rに対する感受性が主要な非感染性ぶどう膜炎で共通して同定されており,病態におけるIL-23/Th17経路の重要性が示唆される。

●遺伝学的知見に基づいた臨床症状の予後予測や,特定の分子を標的とした生物学的製剤による新規治療法の確立につながることが期待される。

緑内障ゲノム解析と病態解明・リスク評価

著者: 志賀由己浩

ページ範囲:P.1658 - P.1664

●開放隅角緑内障の遺伝背景は変異の頻度と遺伝的影響度によって2種類に大別される。

●原因遺伝子変異として,ミオシリン,オプチニューリン,TBK1の遺伝子変異が知られており,遺伝子改変動物や患者由来の細胞を用いた機能解析により各遺伝子変異における病態理解が進んでいる。

●これまで100以上の開放隅角緑内障にかかわる疾患感受性遺伝子変異が同定されており,個人の発症リスクを予測するリスクスコアの算出に用いられている。

中心性漿液性脈絡網膜症とゲノム

著者: 細田祥勝

ページ範囲:P.1665 - P.1671

●CSCを含めたパキコロイド関連疾患は,AMDとは遺伝的に異なる。

●これまでAMDとされてきた疾患群の中には,パキコロイド関連疾患が多く含まれている。

●パキコロイドの定義と分類は今後重要な課題である。

加齢黄斑変性症のゲノム解析とリスク評価および治療開発への布石

著者: 本田茂

ページ範囲:P.1672 - P.1679

●加齢黄斑変性症は遺伝要因が大きく絡む疾患である。

●ゲノム解析によって疾患の発症予測や病態解明が可能となった。

●疾患の分子病態解明により新たな治療薬開発や個別化医療の発展が期待できる。

重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群のゲノム解析による病態解明

著者: 上田真由美

ページ範囲:P.1680 - P.1690

●重篤な眼合併症・眼後遺症を伴うSJS/TEN(広義のStevens-Johnson症候群)の原因候補薬としては,アセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を含んだ感冒薬が最も頻度が高い。

●日本人感冒薬関連眼合併症型SJSの発症にはHLA-A0206HLA-B4403が関連する。

●その他の疾患関連遺伝子にTLR3PTGER3IKZF1などがあり,それらの遺伝子間相互作用が病態につよく関与している。

黄斑ジストロフィ病型と遺伝子診断

著者: 藤波芳 ,   藤波(横川)優 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.1692 - P.1705

●黄斑ジストロフィの疾患原因・関連遺伝子は40以上存在し,他の表現型(臨床型)とのオーバーラップがあるため,網羅的な遺伝子解析がメカニズムの理解に有用となる。

●黄斑ジストロフィは想定される病態を理解し,一般的眼科検査に加え,電位生理学的なアプローチが網膜機能評価に有効となる。

●遺伝性網膜疾患に対する遺伝子補充治療治験がわが国においても展開されており,黄斑ジストロフィに関しても,治療導入を見据えた診療体制の構築が重要である。

小児網膜ジストロフィの遺伝子解析

著者: 倉田健太郎

ページ範囲:P.1706 - P.1711

●小児網膜ジストロフィでは遺伝子治療の臨床試験が進行している。

●次世代シークエンサーは原因遺伝子の同定に有効であるが,注意すべき点も多い。

●遺伝子検査の需要が今後高まることが予想されるため,知識を深めていく必要がある。

連載 今月の話題

翼状片—今,考えるべきこと

著者: 宮田和典

ページ範囲:P.1631 - P.1638

 翼状片は比較的軽症の疾患と軽視されがちであるが,角膜表面にあるため,視機能に与える臨床的影響は大きい。また,再発すると周辺組織と癒着して,視機能障害に加えて眼球運動障害を生じることや,悪性化して再発を繰り返すことも稀ではない。翼状片という疾患の特性を十分理解した治療方針を立てるべきである。

Clinical Challenge・33

左右差を認める浅前房の白内障症例

著者: 西村栄一

ページ範囲:P.1626 - P.1630

症例

背景:後輩のクリニックへ手術指導に行った際に遭遇した症例である。ちなみに,当該クリニックには硝子体手術装置を備えつけていない。

患者:52歳,男性

主訴:右眼の視力低下

既往歴:気管支喘息

現病歴:3年前より右眼の視力低下を自覚し,近医を受診し白内障を指摘されるも経過観察されていたが,さらなる白内障の進行を認めたため,手術目的にて紹介され受診となった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・27

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—緑内障—強度近視眼における緑内障手術

著者: 吉田武史

ページ範囲:P.1714 - P.1717

◆通常の緑内障とは異なる視野パターンと視野進行スピードに注意する。

◆中心視野障害パターンでは眼圧下降目標を低く設定する。

◆MIGSやExPRESS®を用いた低侵襲かつ術中眼圧変動を考慮した術式が有効である。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・2

流涙症診療の流れ

著者: 鎌尾知行

ページ範囲:P.1718 - P.1723

●流涙症をきたす疾患は,眼表面疾患,眼瞼疾患,涙道疾患,鼻腔疾患とさまざまあるため,涙液動態に関与する涙腺,眼表面,眼瞼,涙道,鼻腔とすべての部位について丁寧に診察する必要がある。

●流涙症の原因は単一であることは少なく,いくつかの要因が複雑にかかわりあって起こることがほとんどである。

●検査は侵襲性の低い検査から行う必要があり,その順番には細心の注意を払う必要がある。

臨床報告

15年間引きこもり後に見つかった増殖糖尿病網膜症の1例

著者: 武藤哲也 ,   町田繁樹 ,   今泉信一郎

ページ範囲:P.1725 - P.1729

要約 目的:15年間の引きこもり後,発見された増殖糖尿病網膜症の1例を経験したので報告する。

症例:35歳,男性。引きこもり中に右下腿蜂窩織炎を生じ,近医内科を初診した。未治療糖尿病と右下腿蜂窩織炎の診断を受け,獨協医科大学埼玉医療センター糖尿病内科を初診した。糖尿病網膜症精査のため,眼科に紹介となった。視力は両眼とも(0.6)と若干低下していた。前眼部および中間透光体に異常はなかったが,両眼底に軟性白斑としみ状出血が散在していた。黄斑浮腫はわずかであった。蛍光眼底造影を行い,両眼ともに視神経乳頭外の新生血管が確認できたので汎網膜光凝固を行った。光凝固後,黄斑浮腫が悪化したので両眼にアフリベルセプト硝子体内注射を3回行い,経過観察中である。左眼に硝子体出血も生じたが,汎網膜光凝固が行われていたのでほどなくして吸収された。初診から14か月後の視力は両眼とも(0.4)である。引きこもりの理由については不明のままである。

結論:15年間の引きこもり中,医療機関を受診しておらず,重症化して初めて診断され治療を開始できた。眼科受診をきっかけとして社会との継続的な接点ができ,通院が引きこもり自体の治療になっていると考えられた。

HLA-B51陽性を示し網膜毛細血管炎を合併した急性後部多発性斑状色素上皮症の1例

著者: 市原巧介 ,   林孝彰 ,   溝渕圭 ,   中野匡

ページ範囲:P.1730 - P.1739

要約 目的:HLA-B51陽性を示し網膜毛細血管炎を合併した急性後部多発性斑状色素上皮症(APMPPE)の1例を報告する。

症例:患者は25歳,女性。突然の右視力低下を自覚し受診した。視力は右(0.6),左(2.0),眼圧は両眼とも正常であった。両眼の前房および前部硝子体に軽度の炎症細胞を認め,眼底に多数の黄白色斑状病巣を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影検査で,斑状病巣は造影早期に低蛍光を示し,中期以降は過蛍光を示したことからAPMPPEと診断した。また,両眼の耳側周辺部にシダ状蛍光漏出を認めた。血液検査でHLA-B51が陽性であった。光干渉断層血管撮影(OCTA)の脈絡毛細血管板層で,病巣はdark spotsとして描出された。斑状病巣が右眼中心窩に及んでいたため,ステロイド内服治療を開始した。その後,斑状病巣は消退傾向を示し,治療開始2か月後に右視力は(1.2)まで回復した。その後,OCTAにおけるdark spotsの範囲も縮小した。

結論:網膜毛細血管炎を合併したAPMPPEの報告例はほとんどない。HLA-B51陽性者に発症したAPMPPEでは,網膜毛細血管炎を合併する可能性がある。

臨床ノート

アジスロマイシン点眼によりマイボーム腺機能不全に伴う流涙感と皮膚症状が改善した3症例

著者: 原田有理 ,   沼朝代

ページ範囲:P.1740 - P.1744

緒言

 マイボーム腺機能不全(meibomian gland dysfunction:MGD)を呈したドライアイ患者にはしばしば「会話中,悲しくないのに涙が出て困る」「いつも涙をぬぐっているので,ハンカチが手放せない」などの訴えがあり,流涙感はquality of life(QOL)の低下を招いている。

 蒸発亢進型ドライアイの診断を行う際には,フルオレセイン試験紙を用いて涙液を染色する涙液層破壊時間(break-up time:BUT)の測定が必要であるが,その際に低倍率のスリットランプで眼瞼縁周囲の皮膚を確認すると,染色された涙液が粘膜皮膚移行部を越えて流出し,皮膚割線や皮溝に沿って広がっている様子を確認することがある。

オキシブプロカイン塩酸塩0.4%(ベノキシール®)点眼麻酔薬による,眼科医の左手指にできたアレルギー性接触皮膚炎の1例

著者: 岩瀬光

ページ範囲:P.1745 - P.1747

緒言

 オキシブプロカイン塩酸塩0.4%(ベノキシール®点眼液0.4%;以下,ベノキシール)は,点眼麻酔薬として眼科の検査,治療,手術で必要不可欠なものである。副作用は,添付文書ではアナフィラキシーショックおよび角膜びらんの報告のみであるが,眼科論文の報告では角膜障害や角膜穿孔の報告もある1〜5)。また,皮膚科の論文では,緑内障眼圧検査後の患者の眼瞼における接触皮膚炎の報告がある6,7)。今回,眼科医の左手指にできたアレルギー性接触皮膚炎の症例を経験したので,眼科医には重要であると考え報告する。

海外留学 不安とFUN・第83回

人生の夏休み・2

著者: 寺尾亮

ページ範囲:P.1712 - P.1713

留学でしか得られないつながり

 海外留学のメリットについてですが,世界のトップ研究者たちの研究を間近で目にすることも非常に大きなことであると思います。国内では巡り会えない研究者と一緒に仕事をすることは眼科医・研究者としての技術の向上や,研究に対する考え方の洗練につながると考えます。

 海外の土地を訪れるだけなら旅行でもできますし,国外の研究者と知り合いになりたいのなら海外で行われる学会でもつながるチャンスはあります。しかし,実際に研究プロジェクトを共にすることで,論文を読むだけではわからない研究に対する考え方や戦略を直に見ることができます。

Book Review

眼科臨床エキスパート 所見から考えるぶどう膜炎 第2版

著者: 平野耕治

ページ範囲:P.1724 - P.1724

 眼球は,大ざっぱに言えば膠原線維の膜(角膜・強膜),血管の膜(虹彩・毛様体・脈絡膜),神経の膜(網膜)の3枚で構成されている。血管の膜は暗紫色を呈しているため,眼球から膠原線維の膜を取り去った際の外観から,虹彩・毛様体・脈絡膜を合わせて「ぶどう膜」と呼ぶ。このぶどう膜は血管が豊富な故,炎症を起こしやすく,膠原病や自己免疫疾患,がん,感染症などの全身疾患に由来した異常所見を見ることも多い。

 眼科医師として,このぶどう膜の炎症を苦手と感じるのは,何だかよくわからないこと,治療に終わりが見えないこと,最近話題の生物学的製剤は高価で安易に使えないこと,眼科医だけでは解決できない疾患が多い,といった高いハードルを感じるからである。

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目次

ページ範囲:P.1622 - P.1623

欧文目次

ページ範囲:P.1624 - P.1624

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1749 - P.1752

アンケート用紙

ページ範囲:P.1758 - P.1758

次号予告

ページ範囲:P.1759 - P.1759

奥付

ページ範囲:P.1760 - P.1760

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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