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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻2号

2022年02月発行

雑誌目次

特集 眼瞼疾患の「切らない」治療 vs 「切る」治療

企画にあたって

著者: 野田実香

ページ範囲:P.139 - P.139

 眼瞼疾患は,外来診察において実に多く遭遇する疾患である。手術適応が明らかであればそれ相応の手術を行うか,または手術のできる施設に紹介する。それにはおよばない軽度の症例はどうするべきか。はたまた患者が本格的な手術を希望しない場合にどの程度の治療を行うか。そんな場面で検討したいのが「切らない治療」である。「切らない治療」とは,点眼と内服の使い分け,保存的治療,糸を通す程度の侵襲の少ない治療,処置室でできる簡便な処置など,症状や病状によって使い分けられるべき治療法のことである。「切る治療」に比べて消極的な処置と思われがちだが,「まずは症状を改善させたい」などの患者の声が最も反映される治療でもあると考える。軽症の段階で行うべき治療をしっかりと知っておくと治療の幅も広がるのである。ただ「切らない治療」をやみくもに行うだけが回復への道ではない。患者に「切る治療」をタイミングよく勧めることも一般眼科医に求められる技量の1つである。「切らない治療」で効を奏さない,もしくは治療の途中で進行が進んだ場合は,「切る治療」へ切り替える。適宜最適な治療を提供するためにも「切る治療」「切らない治療」どちらの知識も得ておくのが重要と考える。

 本企画は,1つの病状に対して「切らない治療」と「切る治療」で,別の専門医にそれぞれ治療方針の特徴や利点,手技やタイミングなどを紹介していただいた。同じ症状でも「切らない治療」と「切る治療」のアプローチの違いを読み比べていただくことで,さらにその症状についての知識が深まることと考える。

麦粒腫の「切らない」治療

著者: 白川理香

ページ範囲:P.140 - P.143

●麦粒腫は眼瞼に付属する腺組織の急性細菌感染症であり,主な起炎菌は黄色ブドウ球菌である。

●軽症例は温罨法および抗菌薬点眼,眼軟膏で治療を行う。

●重症例は抗菌薬内服を検討する。第1世代セフェム系抗菌薬が第1選択である。第3世代セフェム系抗菌薬内服は,抗菌薬の適正使用の観点および小児におけるピボキシル基含有抗菌薬の低血糖誘発リスクのため推奨されない。

●明らかに膿点がある場合は,注射針で穿刺して圧出・排膿すると改善が早い。

霰粒腫の「切らない」治療

著者: 福岡詩麻

ページ範囲:P.144 - P.148

●霰粒腫の「切らない」治療によりマイボーム腺の形態を守ることで,機能も守ることができる。

●温罨法,リッドハイジーンは,霰粒腫の治療だけでなく再発予防にもなる。

●ステロイド注射による治癒率は手術と同等である。複数回の注射で改善しなければ手術を行う。

霰粒腫のIPLによる「切らない」治療

著者: 有田玲子

ページ範囲:P.151 - P.156

●Intense pulsed light(IPL)治療により,切らずに霰粒腫を治療することができる。

●特に多発霰粒腫や再発霰粒腫には有効である。

●IPL治療を行うことで再発の予防に結びつく可能性がある。

霰粒腫に対する外科的治療

著者: 松村理世

ページ範囲:P.158 - P.164

●霰粒腫において切開術は,異物肉芽腫を除去するという観点から一般的な治療法である1)

●限局型や皮膚が厚い場合は結膜側から,びまん型で皮膚が薄い場合は皮膚側から,切開摘出する。

●特に小児で炎症が著明な症例は,後遺症を残す前に切開に踏み切る。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

加齢性眼瞼内反症の「切らない」治療—埋没法

著者: 林憲吾

ページ範囲:P.165 - P.171

●埋没法は,出血が少なく,手技が簡便で,短時間で,低侵襲である。

●水平方向の弛緩の程度をpinch testで確認する。

●水平方向の弛緩の有無により,everting sutureとwide everting sutureの2種類の埋没法を使い分ける。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

退行性下眼瞼内反症の「切る」治療

著者: 松田弘道

ページ範囲:P.172 - P.176

●切開法では,病態に即した治療法の選択が再発を防ぐうえで重要である。

●切開法は重症度によらず適応可能である。

●Lower eyelid retractors' advancement(LER advancement)は垂直方向の強力な短縮効果と水平方向の短縮効果も期待できる。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

眼瞼下垂症の「切らない」治療—経結膜眼瞼下垂手術

著者: 緒方有香

ページ範囲:P.177 - P.183

●経結膜眼瞼下垂手術では,経結膜的に挙筋腱膜およびミュラー筋を瞼板に固定する。

●軽度の眼瞼下垂に対し,ダウンタイムが短く自然な仕上がりを期待できる。

●手術手技,通糸法のポイントについて説明する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

眼瞼下垂症の「切らない」治療—ナイロン糸眼瞼前頭筋吊り上げ術の有用性

著者: 酒井成貴

ページ範囲:P.184 - P.191

●眉毛上のstab incisionのデザインは等間隔である必要はない。

●糸が透見しないように眼輪筋下を通す。

●前頭筋の固定は極力頭側で行う。

眼瞼下垂の「切る」治療

著者: 北口善之

ページ範囲:P.192 - P.196

●退行性眼瞼下垂に対しては「切る」手術が主流である。

●眼瞼を挙上する筋肉は,上眼瞼挙筋とミュラー筋から構成される。

●ほとんどの症例に適応できる「上眼瞼挙筋群短縮術」をマスターしておきたい。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

上眼瞼内反症の「切らない」治療—埋没重瞼術による上眼瞼内反症の治療

著者: 奥村仁

ページ範囲:P.197 - P.203

●瞼の症状に合わせて,切開法と埋没法の術式を選択する。

●ブジー・シミュレーションでデザインを決定する。

●計画した位置(層)に糸を入れるテクニックを身につける。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

上眼瞼睫毛内反症の「切る」治療

著者: 尾山徳秀

ページ範囲:P.204 - P.209

●閉瞼時の睫毛上皮膚を伸展させた状態で切開ラインをデザインする。

●皮膚切除は,皮膚弛緩の程度を術中に適宜確認して切除量を決定する。

●睫毛の外反具合と通糸位置は,術前と術中確認で程度と場所を決定する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

睫毛乱生の「切らない」治療

著者: 吉田真人

ページ範囲:P.210 - P.213

●睫毛乱生の「切らない」治療としては,睫毛抜去や電気分解などによる毛根焼灼が挙げられる。

●毛根焼灼により睫毛根が完全に破壊できれば再発までの期間の延長が可能である。

●毛根焼灼は根治療法ではない。そのことを患者にはきちんと説明し共通認識とすべきである。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

睫毛乱生や睫毛内反症の「切る」治療

著者: 加藤桂子

ページ範囲:P.214 - P.219

●睫毛根切除は少数の乱生から多数の乱生まで対応可能である。

●毛根を残さないために皮下組織をできるだけ切除する。

●残存した毛根はバイポーラ鑷子で焼灼する。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2025年2月)。

連載 今月の話題

円錐角膜診療の最近の動向

著者: 加藤直子

ページ範囲:P.132 - P.137

 角膜クロスリンキングによって進行を停止させることができるようになったことで,円錐角膜は早期発見・早期介入が可能な疾患になった。また,さまざまなコンタクトレンズや屈折矯正手術の発達により,視力矯正の手段も増えた。円錐角膜が軽度のうちに角膜クロスリンキングにより進行を停止させることができれば,屈折矯正の手段は多く残され,患者のクオリティ・オブ・ライフも良好に保たれる。

Clinical Challenge・23

片側の眼部腫脹を生じた乳児症例

著者: 鈴木茂伸

ページ範囲:P.129 - P.131

症例

患者:生後1か月,男児

主訴:右眼部腫脹

既往歴:特記事項なし,正期産・正常分娩

家族歴:特記事項なし

現病歴:出生時から,右眼があまり開瞼していなかった。生後1週で開瞼するようになると,瞳孔が白く見えたことがあった。生後3週,右の眼部腫脹を生じ近医を受診し抗菌薬点眼を処方されるが改善せず,当科へ紹介され受診となった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・17

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—Lacquer cracks and patchy atrophy

著者: 大西由花

ページ範囲:P.221 - P.226

◆Lacquer cracksとpatchy atrophyはいずれも成因にBruch膜の断裂・欠損が関与している。

◆Lacquer cracksそのもので視機能が低下することは稀であるが,lacquer cracksが発生に関与するとされる近視性脈絡膜新生血管やpatchy atrophyは,視機能障害の原因として重要である。

◆Patchy atrophyは近視進行に伴い経年的に拡大・癒合し,同部位は絶対暗点となる。

眼科図譜

近視進行期に発症したintrapapillary hemorrhage with adjacent peripapillary subretinal hemorrhage(IHAPSH)の1例

著者: 高橋京一

ページ範囲:P.241 - P.244

緒言

 視神経乳頭部の出血は,高血圧網膜症,緑内障,乳頭浮腫,乳頭部網膜細動脈瘤などの疾患で観察されるが,特発性で自然寛解する良性の乳頭出血がある。1975年にCibisら1)が最初に報告し,わが国では廣辻ら2)が10眼の良性乳頭出血例をまとめ,近視性乳頭出血として報告した。最近では2004年にKokameら3)が10例の基礎疾患のはっきりしない予後良好な乳頭部出血をまとめ,intrapapillary hemorrhage with adjacent peripapillary subretinal hemorrhage(IHAPSH)という疾患名を提唱した。しかし,いまだIHAPSHの報告例は少なく,病態は依然として不明のままであり,眼科医も十分にこの疾患を認知していない。今回,筆者は近視進行期の若年女子の片眼に発症した典型的なIHAPSHの1例を経験したので報告する。

臨床報告

パクリタキセル投与中に両眼性囊胞様黄斑浮腫を認め休薬により自然軽快した1例

著者: 丸山司 ,   中村彩 ,   兼子裕規

ページ範囲:P.230 - P.235

要約 目的:抗癌薬による眼合併症として角結膜上皮障害,涙道障害,網膜障害などがあり,臨床上問題になることが多い。パクリタキセルを代表とするタキサン系抗癌薬の稀な副作用として囊胞様黄斑浮腫(CME)を認めることがある。今回,乳癌に対してパクリタキセルを投与中に両眼性CMEを認め,同薬剤の中止によって自然軽快した症例を経験したので報告する。

症例:61歳,女性。肝臓転移を認めた乳癌に対し,パクリタキセルとベバシズマブの併用療法を開始した。パクリタキセル使用開始から5か月後に両眼の視力低下が出現し,豊橋市民病院眼科に受診となった。

所見:初診時の視力は右(0.6),左(0.5)であった。前眼部や中間透光体には特記すべき所見はなく,光干渉断層計(OCT)で両眼のCMEを認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)では異常はなかった。パクリタキセルの投与を中止したところ,休薬6週後には両眼のCMEは消退し,視力は左右ともに(1.5)と改善を認めた。

結論:タキサン系抗癌薬によるCMEは,同薬剤の中止のみで改善が期待される。早期診断を必要とし,OCTとFAを併用することが有用である。

緑内障点眼薬を投与されているドライアイを合併した緑内障患者におけるジクアホソルナトリウムの効果

著者: 小林博

ページ範囲:P.236 - P.240

要約 目的:緑内障点眼薬を投与されている,ドライアイを合併している緑内障患者に対するジクアホソルナトリウム(ジクアホソル)の効果を調査した。

対象と方法:対象は,緑内障薬を投与される緑内障患者367名(年齢74.0±10.7歳,女性211名,男性156名)である。ドライアイの症状を訴えた患者にジクアホソル点眼液を処方し,6か月にわたり,ドライアイの自覚症状および他覚症状を観察した。両眼施行例では,先に右眼を解析に用いた。自覚症状はocular surface disease index,角膜上皮障害はOxford schemeで評価した。

結果:緑内障薬を投与されている緑内障患者367名中54名(年齢77.8±8.3歳,女性37名,男性17名)がドライアイの症状を訴えた。症状を訴えた患者は,訴えなかった患者に比較して有意に高齢であり(p=0.0054),点眼している緑内障薬剤数は多かった(p=0.0004)。角膜上皮障害がなかった患者は95%が緑内障薬点眼回数が1回/日であったのに対して,角膜上皮障害がみられた患者では66%が緑内障薬点眼回数が複数回/日であった(p<0.0001)。ジクアホソル投与後6か月間ではいずれの症例においても眼圧に変化はなかった。調査開始時,2か月後,4か月後,6か月後の全症例の涙液層破壊時間は,2.1±1.0秒,4.2±1.0秒,4.4±0.9秒,4.3±0.9秒であり,有意に改善していた(p<0.0001)。全症例の角膜上皮障害スコアは2.9±2.9,0.4±0.8,0.3±0.6,0.2±0.4で有意に減少していた(p<0.0001)。調査開始時,6か月後の全症例の自覚症状スコアは22.1±6.1,19.8±6.1であった(p=0.0420)。

結語:緑内障薬を点眼しているドライアイ患者に対してジクアホソルを投与すると,自覚症状および他覚症状は有意に改善し,有効であった。眼圧に有意な変化はなかった。

海外留学 不安とFUN・第73回

サンフランシスコでの留学生活・2

著者: 北澤耕司

ページ範囲:P.228 - P.229

はじめに

 前回は留学先決定から現地での生活基盤の確立までの不安とFUNをご紹介しました。今回はCOVID-19感染症蔓延下での留学生活における不安とFUNについて書いていきたいと思います。

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目次

ページ範囲:P.126 - P.127

欧文目次

ページ範囲:P.128 - P.128

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.245 - P.250

アンケート用紙

ページ範囲:P.256 - P.256

次号予告

ページ範囲:P.257 - P.257

あとがき

著者: 坂本泰二

ページ範囲:P.258 - P.258

 本稿を執筆している現在は2022年1月です。昨年暮れ,本誌の発展に長年貢献された清水弘一先生のご逝去の報に接しました。清水先生は,蛍光眼底造影法の有用性を世界に先駆けて明らかにして,多くの眼科疾患の病態を解明されました。それだけではなく多くの活動を通じて日本の眼科の力を世界中に示され,「世界の清水」と称賛されたことは,我々の誇りとするところです。ご退官の後も,学会報告や本誌の論文について細やかなご指導をいただきました。清水先生のご功績は後程本誌で述べさせていただきますが,大変残念なことです。ご冥福をお祈り申し上げます。

 さて,今回の特集は『眼瞼疾患の「切らない」治療 vs 「切る」治療』です。歴史を振り返ると,眼科学は外科学の一分野として発展してきたので,「切る」治療は当然のことと考えられてきました。ただし,「切る」治療への患者側の心理的抵抗感や恐怖は無視できないものであり,「切らない」治療の必要性は年々増大してきました。これは他の外科領域でも同様で,消化器外科では開腹手術の割合が減少し,腹腔鏡手術の割合が増加していることはご承知のことだと思います。つまり,社会全体ができるだけ「切らない」治療を求めているのです。とは申すものの,日常眼科診療ではかつては「切る」治療であったものが,現在は「切らない」治療になったことの具体的例を思い浮かべることは簡単ではないでしょう。そこで,今回はその特集を組みました。「切らない」治療に越したことはありません。しかし,その限界や問題点も少なくはありません。今回の特集で,その点を理解されて,明日の診療につなげていただければと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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