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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻3号

2022年03月発行

雑誌目次

特集 第75回日本臨床眼科学会講演集[1] 特別講演

加齢黄斑変性の治療:より良いQuality of Lifeを目指して

著者: 大路正人

ページ範囲:P.271 - P.282

 加齢黄斑変性(AMD)は失明原因として重要な疾患の1つであり,社会の高齢化に伴って今後も増加が予測されている。AMDの診断および治療は,過去20年程度の間に飛躍的に進歩したが,いまだ十分に満足できるものではない。患者の求めるものは,良好な視力と少ない負担を含めたトータルとしての良好なQuality of Life(QOL)である。AMD患者におけるQOLを向上させるためになされてきた研究のなかで,治療法に関するこれまでの歩みと現状について,自験例を中心に呈示する。

原著

広範囲に網膜下索状物を伴う胞状網膜剝離を認めた劇症型中心性漿液性網脈絡膜症の1例

著者: 猪本尚毅 ,   村尾史子 ,   三田村佳典

ページ範囲:P.318 - P.324

要約 目的:若年女性の片眼に発症した,広範囲にわたる網膜下索状物と胞状網膜剝離を伴う劇症型中心性漿液性網脈絡膜症(CSC)を経験したので報告する。

症例:28歳,女性。半年前から右眼の視力低下を自覚。3か月前から扁桃炎,口内炎を認めた。IgA腎症と診断され,ステロイド内服前の眼科検査目的にて当科を受診した。視力は右(0.1),左(1.5)。右眼眼底の上方から下耳側にかけて広範囲に胞状網膜剝離を認め,剝離部の網膜下全体に網膜下索状物を認めた。左眼眼底には異常を認めなかった。蛍光眼底造影検査にて右眼上耳側に複数の漏出点を認め,同部に網膜光凝固を施行した。IgA腎症の治療としては,ステロイド内服は行わず,扁桃摘出を行った。漿液性網膜剝離は徐々に吸収され,治療4か月後に完全に吸収され,再燃を認めていない。En face OCTにて黄斑部の脈絡膜血管構造を検討したところ,右眼は非対称的な血管走行を,左眼は分水嶺に対称的な血管走行を認めた。

結論:若年者の片眼に網膜下索状物を伴う網膜剝離を認めた場合,劇症型CSCとの鑑別を要する。また,劇症型CSCの片眼発症には脈絡膜血管構造の左右差が関与している可能性があると思われた。

免疫抑制剤導入後にEBV関連のぶどう膜炎,リンパ増殖性疾患が疑われた強膜炎の1例

著者: 中江泰之 ,   松木考顕 ,   渡辺健 ,   秋山邦彦 ,   野田徹

ページ範囲:P.326 - P.332

要約 目的:関節リウマチ(RA)に伴う強膜炎に対して腫瘍壊死因子(TNF)α阻害薬を導入し,サイトメガロウイルス(CMV)やエプスタイン・バーウイルス(EBV)関連の眼内炎症を呈した症例を報告する。

症例:69歳,女性。

所見と経過:RAを契機に発症した左強膜炎に対しステロイド内服・局所注射で症状の再燃と眼圧上昇を繰り返し,強膜菲薄化が進行したためアダリムマブ(ADA)を導入したところ,左強膜炎は軽快したが虹彩炎を発症した。前房水からCMV-DNAが検出され,CMV虹彩炎と診断し,バルガンシクロビル内服とガンシクロビル点眼により消炎を得た。半年後に左虹彩炎が再発,前房蓄膿とびまん性硝子体混濁を伴い,前房水からEBV-DNAが検出された(8.36×105copies/ml)。EBV関連ぶどう膜炎と診断して抗ウイルス薬を再開したが,眼内炎症はいったん軽快した後に再燃し硝子体混濁が悪化した。診断治療目的に硝子体手術を行ったところ,硝子体液からもEBV-DNAが検出され(4.00×105copies/ml),細胞診では少数の異型リンパ球がみられた。EBV関連のリンパ増殖性疾患/リンパ腫が疑われADAの中止を検討したが,眼内炎症を制御できないまま全身の日和見感染を生じ敗血性ショックで死亡した。

結論:TNFα阻害薬導入の際には,全身だけでなく眼局所においても日和見感染症やリンパ増殖性疾患の可能性を念頭に置かなければならない。

単独の動眼神経麻痺で初発した悪性リンパ腫の1例

著者: 中林奈美子 ,   雪竹基弘 ,   久富崇 ,   江内田寛

ページ範囲:P.333 - P.339

要約 目的:単独の動眼神経麻痺(ONP)で初発した悪性リンパ腫の症例報告。

症例:74歳女性が右眼の眼瞼下垂,複視を主訴に初診した。高血圧,心房細動の既往があり,左眼は先天ぶどう膜欠損により生来弱視で白内障手術歴があった。視力は右(0.9),左(0.09)。右眼は眼瞼下垂,内転・上転・下転の運動障害があり,瞳孔異常のないpupil sparing型のONPを呈していた。眼内は初発白内障の他に特記すべき所見はなかった。左眼はぶどう膜欠損による瞳孔の下方偏位と眼内レンズ挿入眼を認めた。頭部単純MRIとMRAで異常はなかった。熱発,全身倦怠感,食欲不振が生じ,採血で胆道系酵素とC反応性蛋白の上昇を認めた。胸腹部の精査にて多発リンパ節腫大,左扁桃腫大,胃壁肥厚,右副腎腫大,肝腫瘤,子宮と膀胱の腫大,左大腿骨骨幹部の軟部陰影を認め,悪性疾患の多発転移が疑われた。扁桃と胃の生検からびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断された。髄液検査で異常細胞はなく,頭部造影MRIで右海綿静脈洞に増強効果を認めた。化学療法(R-THP-COP療法)とメトトレキサートの髄腔内注射を行った。治療後,ONPは軽快し寛解が得られたが,初診から14か月目に再発し4か月後に死亡した。

結論:単独のONPを初発とした悪性リンパ腫の1例を経験した。頭蓋内に器質的異常を認めないONPに遭遇した場合も,悪性リンパ腫を念頭に置く必要があると思われた。

PR3-ANCA陽性潰瘍性大腸炎に合併した汎ぶどう膜炎の1例

著者: 岸本七生 ,   林孝彰 ,   小川まいこ ,   中田達也 ,   有廣誠二 ,   中野匡

ページ範囲:P.340 - P.347

要約 目的:PR3-ANCA陽性潰瘍性大腸炎(UC)に合併した汎ぶどう膜炎の1例を報告する。

症例:患者は37歳女性。1年前から続く下痢で苦しんでいた。1か月前から右眼の充血と眼痛を自覚し受診した。

所見:矯正視力は右0.6,左1.0,眼圧正常,両眼前房に1+の炎症細胞と微細な角膜後面沈着物を認めた。右眼には硝子体混濁に加え,眼底に黄斑浮腫が確認できた。フルオレセイン蛍光眼底造影検査で両眼にシダ状蛍光漏出を認め,網膜血管炎と診断した。血液検査でCRPの上昇に加え,PR3-ANCAの高値(49.4U/ml)を認めた。下部消化管内視鏡検査が施行され,UCと診断された。UCに合併した非肉芽腫性汎ぶどう膜炎と診断し,5-アミノサリチル酸製剤に加え,ステロイド点眼および内服による加療を行ったところ,前眼部炎症と黄斑浮腫は消失し,矯正視力も両眼1.5に改善した。

結論:PR3-ANCA高値を伴うUCでは,両眼性・非肉芽腫性の汎ぶどう膜炎を発症する可能性がある。

ステロイド局所投与によって軽快した樹氷状血管炎の1例

著者: 中井美穂 ,   盛秀嗣 ,   山田晴彦 ,   藤原亮 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.348 - P.353

要約 目的:樹氷状血管炎は何らかの感染症に伴うアレルギー性の炎症反応による網膜血管炎であると考えられ,通常ステロイド薬の全身投与が著効する。今回,若年女性のウイルス感染症を契機に発症した樹氷状血管炎に対してステロイド薬(メチルプレドニゾロン酢酸エステル懸濁注射液)のテノン囊下注射とベタメタゾンリン酸エステルの点眼治療により改善に至った1例を経験したので報告する。

症例:19歳,女性。高熱,頭痛,眩暈,嘔気を認め,他病院でウイルス感染症と診断され入院加療中であった。抗菌薬および抗ウイルス薬の投与開始後に両眼の視力低下を自覚し,関西医科大学附属病院を紹介され受診となった。矯正視力は右0.01,左0.02であった。両眼とも広範囲に網膜静脈の白鞘化を,また黄斑部に浮腫と漿液性網膜剝離を認めた。フルオレセイン蛍光造影眼底検査では,樹氷状血管炎に特徴的な網膜静脈からの蛍光漏出を認めた。血液検査を含む全身検査では有意な所見はなく,前房水PCRでヘルペスウイルス属は検出されなかった。以上の所見から,樹氷状血管炎と確定診断した。両眼に前述のステロイド薬のテノン囊下注射と点眼治療を行い,治療後3か月時点で両眼ともに網膜静脈の白鞘化の色調ならびに黄斑部の異常所見は消失した。治療数か月後に矯正視力は両眼とも1.0に改善した。

結論:樹氷状血管炎にはステロイド薬の全身投与が著効するが,局所投与であっても治療効果が良好な症例がある。

夜盲症状を有する若年症例に対する暗所視支援眼鏡を用いた歩行調査

著者: 井上賢治 ,   鶴岡三惠子 ,   石井祐子 ,   石原純子

ページ範囲:P.355 - P.360

要約 目的:暗所視支援眼鏡HOYA MW10 HiKARI(MW10)を用いて夜盲症状を有する若年症例に対して歩行調査を行い,MW10の有効性と問題点を検討した。

対象と方法:夜盲症状を有する若年社会人5例(男性2例:女性3例,年齢38.0±7.0歳)を対象とした。MW10非装用時と装用時で,暗所(1〜2ルクス程度)の室内を決められたルートに従って歩行する調査を行い,遂行の可否と所要時間を検討した。対照として健常人5例(男性1例:女性4例,年齢37.8±10.4歳)に同様の調査を行い,比較した。夜盲症例にはMW10の見え方や装用感のアンケート調査を実施した。

結果:夜盲症例はMW10非装用では1例のみが,装用では5例全員が歩行調査を遂行できた。健常人は5例全員が非装用時,装用時ともに歩行調査を遂行できた。所要時間に関しては,夜盲症例では非装用時に遂行できた1例は,装用時(39秒)は非装用時(105秒)に比べ大幅に短縮した。装用時の所要時間は夜盲症例104±78秒で,健常人24±5秒に比べて有意に長かった(p<0.01)。アンケートでは,全員からMW10は見え方の補助になると思うが,装用感として重い,大きいなどの感想が挙がった。

結論:MW10は夜盲症状を有する若年症例に対して暗所での見え方や歩行に役立つ可能性があるが,携帯性やデザイン性の改善が求められる。

井上眼科病院のロービジョン専門外来を受診した患者の介護保険の利用状況

著者: 鶴岡三惠子 ,   永沼加代子 ,   井上賢治

ページ範囲:P.362 - P.367

要約 目的:井上眼科病院のロービジョン(LV)外来を受診した患者の介護保険の利用状況を調査したので報告する。

対象と方法:2019年1月から2年間にLV外来を受診した65歳以上の患者96例を対象とした。介護保険の利用状況等について後ろ向きに調査を行った。

結果:年齢は65〜92歳(平均75±7歳)であった。性別は男性39例であった。原因疾患は緑内障が最多で43例であった。視力はFunctional Visual Score(FVS)の機能的視力スコア(FAS)に換算すると,平均53±30(小数視力で0.1程度)であった。視覚の身体障害者手帳(手帳)の利用率は99%,介護保険利用率は28%であった。井上眼科病院からの申請は5例で,要支援2が2例,要介護1が2例,要介護2が1例であった。5例すべてが手帳は2級以上の重度障害であり,FVSは0〜26(平均スコア6±10:盲の範囲)であった。

結論:井上眼科病院のLV外来を受診した65歳以上の患者では,緑内障が多く,手帳の利用率は高いが,介護保険の利用率は28%と低かった。介護保険は患者や家族の助けになる制度で啓発が必要である。

片眼発症の滲出型加齢黄斑変性治療中に僚眼にも発症した患者の臨床的特徴

著者: 小坂拓也 ,   加藤亜紀 ,   桑山創一郎 ,   平原修一郎 ,   鈴木識裕 ,   木村雅代 ,   小椋祐一郎 ,   玉井一司 ,   安川力

ページ範囲:P.368 - P.375

要約 目的:片眼発症の滲出型加齢黄斑変性(AMD)の治療中に僚眼にも滲出型AMDを発症した患者の臨床的特徴の検討。

対象と方法:2009年4月〜2019年3月に名古屋市立大学病院で片眼の滲出型AMDと診断され,血管内皮増殖因子阻害療法または光線力学的療法を開始した症例のうち,経過観察中に僚眼にも滲出型AMDを発症し,治療を開始した患者33例の視力,中心網膜厚,眼底所見,眼底自発蛍光,網膜光干渉断層像を後ろ向きに検討した。

結果:検討した33例は,男性24例,女性9例,平均年齢76.0歳。僚眼の病型は典型AMD 11例,ポリープ状脈絡膜血管症15例,網膜血管腫状増殖(RAP)7例であった。僚眼のlogMAR視力は初発眼発症時0.02,僚眼発症時0.23,僚眼発症1年後0.24,最終受診時0.42であり,僚眼発症1年後(p<0.05),最終受診時(p<0.01)において悪化していた。また,初発眼発症時に軟性ドルーゼンを認めた症例および網膜色素上皮(RPE)色素異常を認めた症例は,認めなかった症例と比較して最終視力が悪化していた(p<0.01,p<0.05)。RAPでは7例いずれも軟性ドルーゼン,RPE色素異常を認めた。

結論:滲出型AMD加療中の僚眼は早期に滲出型AMDが発見され治療されるが,長期的に視力の改善が得られにくい可能性があるため,滲出型AMD加療中の僚眼に軟性ドルーゼンやRPE色素異常を伴う場合は,視力が良好でも注意深い観察が必要である。

眼窩先端部症候群で失明後に残存する疼痛に対しステロイド局所投与が奏効した1例

著者: 藤盛莉乃 ,   佐藤宏樹 ,   橋本りゅう也 ,   昌原英隆 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.377 - P.381

要約 目的:視機能を喪失した眼窩先端部症候群の眼周囲疼痛に対して,ステロイド局所投与で疼痛管理できた1例を経験したので報告する。

症例:80歳,女性。複視と左眼視力低下を主訴に前医にて眼窩先端部症候群と診断され,精査中に急激に悪化し左眼は失明した。結核感染が判明したためステロイド全身投与は中止し,疼痛治療目的で当院へ紹介となった。初診時に左眼窩深部から頭頂部にかけての疼痛の症状があり,左眼の眼瞼下垂,全外眼筋麻痺を認めた。トリアムシノロンアセトニド(TA)40mgの球後注射を計5回施行後も残存する左前額部痛に対して,TA 12mgの皮下注射とTA 28mgの球後注射を3回ずつ追加し疼痛は消失した。その後,2回ずつ投与を追加し疼痛の再発は認めていない。

結論:ステロイドの球後注射と皮下注射で全身への影響を最小限にし,良好な疼痛コントロールを得られる可能性が示唆された。

角膜混濁眼の白内障手術における自動前囊切開装置ZEPTO®システムの使用経験

著者: 加藤侑里 ,   須磨崎さやか ,   柿栖康二 ,   岡島行伸 ,   鈴木崇 ,   堀裕一

ページ範囲:P.382 - P.388

要約 目的:角膜混濁眼における白内障手術は眼内の視認性が悪く,難易度が高くなる。今回筆者らは,角膜混濁眼における白内障手術の前囊切開時に自動前囊切開術(ZEPTO®システム)を使用した2症例を経験したので報告する。

症例:症例1は78歳,女性。角膜輪部疲弊症による角膜の上皮障害および混濁があり,左眼にEmery-Little分類grade Ⅲ程度の白内障を認め手術適応となった。視力は左0.02(矯正不能),眼圧は左17mmHg,前房深度は2.5mmであった。粘弾性物質を前房に注入した後,ZEPTO®システムを2.7mmの強角膜切開から前房内に挿入し,センタリングの後に水晶体に吸引固定させ,通電し前囊切開を行った。その後,シャンデリア眼内照明を用いて超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ(IOL)挿入術を行った。術中合併症はみられなかった。症例2は64歳,男性。両眼の角膜混濁と白内障を認めた。視力は,右0.03(0.04×+5.00D),前房深度は2.8mmでありEmery-Little分類grade Ⅱ程度の白内障を認めた。症例1と同様にZEPTO®を用いて前囊切開を施行し,シャンデリア眼内照明を用いた超音波水晶体乳化吸引術およびIOL挿入術を行った。明らかな術中および術後の合併症を認めなかった。

結論:角膜混濁眼における白内障手術は,術者の負担も大きい。本システムを使って正確な前囊切開を自動で行えることは,術中合併症のリスクの軽減だけでなく,術者のストレス軽減にもつながるため,角膜混濁眼に対する白内障手術のオプションとして有用であると考える。

連載 Clinical Challenge・24

矯正が困難であった円錐角膜の1例

著者: 平岡孝浩

ページ範囲:P.266 - P.270

症例

患者:27歳,男性

主訴:視力低下

現病歴:5年前に近医で円錐角膜の診断を受けた。ハードコンタクトレンズ(HCL)を作成したが,痛くて使用できなかった。以降,眼鏡で矯正していたが,運転免許の取得のため自動車教習所に行ったところ,視力検査で引っかかり,視力矯正を希望して来院した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・18

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—Dome-shaped maculaの診断と合併症

著者: 三宅正裕

ページ範囲:P.284 - P.288

◆一般に,ドーム状隆起の両側外側の網膜色素上皮を結ぶ線上から計測して高さ50μm以上の膨らみがあることにより診断される。

◆通常は強度近視に合併するため近視性脈絡膜新生血管の合併が多いが,dome-shaped macula特有の合併症は漿液性網膜剝離である。

◆Dome-shaped maculaに合併する漿液性網膜剝離には,確立された治療法は現時点では存在しない。

眼科図譜

無症候性前頭洞炎から上眼瞼にPott's puffy tumorを形成した1例

著者: 高橋京一

ページ範囲:P.307 - P.310

緒言

 上眼瞼に腫脹,腫瘤をきたす疾患は多岐にわたる。代表的疾患は霰粒腫や麦粒腫であるが,その他にも涙腺炎,粉瘤,石灰化上皮腫,血管性浮腫,IgG4関連疾患,膠原病,外傷,耳鼻咽喉科疾患,悪性腫瘍などを鑑別していく必要がある。

 なかでも,副鼻腔炎が原発で顔面に腫脹,腫瘤をきたす病態をPott's puffy tumor(PPT)と呼ぶ。Percival Pottが1768年に外傷に起因した前額部骨膜下膿瘍として初めて報告し,その後は主に前頭洞炎に起因した前額部腫瘤の症例が報告されている。現在では前頭洞炎が原因で前頭洞前壁の骨に炎症が波及し前頭洞骨髄炎が生じ,それに伴い前額部骨膜下に膿瘍が形成され,前額部に腫瘍状の突出をきたす病態がPPTと考えられている1)

局所的脈絡膜陥凹を伴ったtorpedo maculopathyと考えられた1例

著者: 高橋宏典 ,   反保宏信 ,   牧野伸二

ページ範囲:P.312 - P.314

緒言

 Torpedo maculopathyは黄斑耳側から中心窩に向かう特徴的な魚雷型病変を呈する先天性の比較的稀な疾患である1〜4)。偶然発見されることが多く,一般的に平坦で境界明瞭な低色素病変を呈し,中心窩を回避することが多い。胎生期における網膜色素上皮,脈絡膜の形成異常が推察されているが,病因は明らかではない。

 今回筆者らは,局所的脈絡膜陥凹(focal choroidal excavation:FCE)を伴ったtorpedo maculopathyと考えられた1例を経験したので報告する。

臨床報告

慢性期Stevens-Johnson症候群における角膜上皮障害による視力低下およびドライアイに対してスクレラルレンズ装用が有用であった1例

著者: 松岡麗 ,   岡島行伸 ,   糸川貴之 ,   柿栖康二 ,   鈴木崇 ,   堀裕一

ページ範囲:P.292 - P.298

要約 目的:慢性期Stevens-Johnson症候群(SJS)の視力低下およびドライアイに対してスクレラルレンズ(ScCL)装用が有用であった1例を報告する。

症例:30歳台,女性。幼少時にSJSの既往があり,ドライアイで近医にて加療されていたが,右眼の眼痛および視力低下を認めたため,当院へ紹介となった。初診時視力は右0.08(0.3×−3.00D()cyl−4.50D 180°),左0.08p(1.2×−5.00D()cyl−0.50D 180°)であった。両眼の結膜充血,右眼に角膜染色スコアA3D3の点状表層角膜症(SPK)を認めた。角膜への血管および結膜の侵入や瞼球癒着は認めず,SJSにおけるSotozonoらの分類による眼障害のスコアは右9/39点,左6/39点と比較的軽度であった。視力改善およびドライアイ症状の軽減のために,右眼に対してScCL(timeXL)を処方したところ,角膜上皮障害が改善し,レンズ上での右眼視力が(1.2)と向上した。またレンズ装用前後での角膜高次収差は,垂直コマ収差が0.10μmから0μm,水平コマ収差が−0.10μmから−0.10μm,球面様収差が0.20μmから0μm,全高次収差が0.47μmから0.10μmへと改善を認めた。

結論:眼所見が比較的軽度である慢性期のSJSに対してScCLを処方したところ,自覚症状および他覚的所見の改善がみられた。

全層角膜移植術後に感染症を生じた6例6眼の検討

著者: 岡田尚樹 ,   近間泰一郎 ,   三笘香穂里 ,   戸田良太郎 ,   井之川宗右 ,   木内良明

ページ範囲:P.299 - P.306

要約 目的:全層角膜移植術(PKP)後の感染症の特性と原因を分析すること。

対象と方法:広島大学病院眼科(当科)で2011年4月〜2016年3月の期間にPKPを行った190例208眼のうち,2021年3月までに術後感染症を生じた6例6眼をレトロスペクティブに検討した。

結果:4例が真菌,2例が細菌による感染であった。発症時の年齢が真菌群では72.0±8.4(65〜83)歳,細菌群では58.0±5.7(54〜62)歳で,PKPから発症までの期間は真菌群では613±494(237〜1,336)日,細菌群では1,263±240(1,093〜1,433)日であった。発症時に全例でステロイド点眼を使用し,5例で抗菌薬点眼を使用していた。

結論:当科でPKP後に観察された感染症は,真菌を起炎菌としたものが多かった。発症時期は真菌群が細菌群に比べて短期間で発症したが,真菌群の1例を除き,どちらも術後1年以内の発症はなかった。

臨床ノート

白内障術後惹起乱視の変化について

著者: 竹下哲二 ,   蕪龍大 ,   川下晶 ,   岩崎留己 ,   大城莉香子 ,   郷明日香 ,   松本栞音

ページ範囲:P.315 - P.317

緒言

 トーリック眼内レンズ(toric intraocular lens:T-IOL)の乱視度数および挿入軸の決定には,レンズ製造各社のWEBカリキュレーターを用いるのが一般的である。その際,入力が必要な項目に術後惹起乱視(surgically induced astigmatism:SIA)がある。SIAは切開創の幅や位置,術式や手術器具によって術者ごとに異なるが,同じ術者でもT-IOL挿入時に使用するインジェクターによって違う可能性がある。したがって,WEBカリキュレーターへの入力のためにインジェクターごとのSIAをあらかじめ求めておくことが望ましい。

 今回筆者らは,現在T-IOLのない製品も含め,10種のインジェクターについてSIAをレトロスペクティブに調査したので報告する。

今月の表紙

格子状角膜ジストロフィ

著者: 山口純 ,   井上幸次

ページ範囲:P.283 - P.283

 症例は81歳,男性。2021年1月に視力低下を主訴に前医を受診し,白内障と格子状角膜変性を認めた。両眼の白内障手術を施行したものの視力が改善せず,角膜の状態について加療目的にて当院を紹介され受診となった。当院初診時の視力は,右0.4(矯正不能),左0.5(矯正不能)。角膜実質のやや深層まで混濁がみられたため治療的レーザー角膜切除術(PTK)では治療困難と判断し,深層層状角膜移植術(DALK)や全層角膜移植術(PKP)を検討したが患者からの希望はなく,そのまま経過観察となっている。

 撮影はトプコン社製スリットランプSL-D7にニコン社製デジタル一眼レフカメラD300を搭載して行った。角膜病変に対しては強膜散乱法を用いて撮影することが多いが,今回は撮影時に散瞳されていたため徹照法を選択した。視線を動かしてもらい,眼底からの反帰光が均一に最も明るくなる位置を探し,格子状角膜変性の太さや形状,濃淡などをシルエットとして記録した。また,角膜頂点にピントを合わせてしまうと周辺部がぼやけてしまうため,被写界深度を考慮してジョイスティックをやや押し込み,中央から周辺部までピントが合うように調整をした。

海外留学 不安とFUN・第74回

ボストン研究留学のすゝめ・1

著者: 富田洋平

ページ範囲:P.290 - P.291

 私は2018年4月より米国マサチューセッツ州ボストンのHarvard Medical School,Boston Children's Hospitalに留学をしています。私が行っている研究の話と,アメリカ留学の現状(2021年8月現在)について4回に分けてご報告させていただきます。

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目次

ページ範囲:P.262 - P.263

欧文目次

ページ範囲:P.264 - P.265

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.390 - P.394

アンケート用紙

ページ範囲:P.400 - P.400

次号予告

ページ範囲:P.401 - P.401

あとがき

著者: 西口康二

ページ範囲:P.402 - P.402

 本号から第75回日本臨床眼科学会での原著論文の掲載が始まり,「特別講演」以外に10報が掲載されました。「特別講演」は滋賀医科大学の大路正人先生に「加齢黄斑変性の治療:より良いQuality of Lifeを目指して」というタイトルでご寄稿いただきました。大路先生は加齢黄斑変性の治療の大きな変遷を自ら体験し,抗VEGF治療の時代ではALTAIR研究を通じて非常に重要な知見を発信されてきました。本誌の論文を読むと再度,同研究を正確に理解することが,同疾患の治療に携わる者にとって非常に大切であるということに気づかされます。

 今回で18回目を迎える「国際スタンダードを理解しよう!近視診療の最前線」の連載では,近視の専門家である京都大学の三宅正裕先生の「Dome-shaped maculaの診断と合併症」という論文が掲載されました。論文では,強度近視に伴うdome-shaped maculaの重要な合併症である漿液性網膜剝離や脈絡膜新生血管などについてわかりやすく解説されています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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