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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻5号

2022年05月発行

雑誌目次

特集 第75回日本臨床眼科学会講演集[3]

結膜腫瘤を生じたIgG4関連眼疾患の1例

著者: 中山馨 ,   上甲覚 ,   木谷匡志

ページ範囲:P.613 - P.616

要約 目的:結膜腫瘤を生じたIgG4関連眼疾患の1例の報告。

症例:当院初診時61歳の女性。好酸球性副鼻腔炎,気管支喘息にて治療中であった。

所見と経過:3か月前より右眼の腫瘤を自覚し,近医を受診した。精査・加療目的にて当院に紹介された。当院初診時,右上眼瞼の肥厚と結膜に充血を伴う腫瘤病変があった。眼窩部CT画像では右外直筋・下直筋と一塊になった涙腺腫大があり,血液検査では血清IgG4が高値であった。ステロイド点眼にて充血は軽減したものの腫瘤は縮小しなかったため,診断も兼ねて結膜病変を摘出し,病理検査を実施した。病理組織診断では形質細胞の浸潤を認め,IgG4陽性/IgG陽性細胞比は50%以上であった。悪性リンパ腫を疑う所見はなかった。臨床所見と病理所見から総合的にIgG4関連眼疾患と診断し,プレドニゾロン30mgから内服を開始した。開始から17か月時点で1mgまで減量したが,再発は認めていない。

結論:結膜腫瘤を生じたIgG4関連眼疾患の1例を経験した。ステロイド内服で涙腺と眼窩部病変は改善し,結膜病変も短期的には再発はなかった。

両眼人工虹彩挿入後に水疱性角膜症を発症した1症例

著者: 馬嶋一如 ,   神野安季子 ,   白川雄一 ,   福澤憲司 ,   瓶井資弘 ,   稲富勉

ページ範囲:P.617 - P.621

要約 目的:整容目的で行う人工虹彩挿入術の合併症として虹彩炎,続発緑内障,角膜内皮障害,白内障などさまざまな合併症が報告されている。今回,海外にて整容目的で両眼に人工虹彩を挿入後,両眼性の水疱性角膜症に至った症例を経験したので報告する。

症例:46歳,男性。2017年にインドで整容目的で両眼に前房留置型人工虹彩挿入術を受けた。2020年12月上旬より両眼の霧視,視力低下,眼痛が出現し,視力低下が悪化したため前医を受診した。初診時矯正視力は右0.2,左0.03,眼圧は右12mmHg,左13mmHg,細隙灯顕微鏡検査で両眼性の角膜浮腫を認め,虹彩上に人工虹彩が挿入されていた。角膜内皮細胞密度は両眼ともに測定不能であった。前眼部光干渉断層計では中心角膜厚は右698μm,左747μm,前房深度は右3.23mm,左3.17mmで,人工虹彩が角膜内皮に接触していたことから,人工虹彩による両眼性の水疱性角膜症と診断した。両眼に対して人工虹彩摘出術および角膜内皮移植術(DSAEK)を施行し,術後矯正視力は右0.6,左0.4と改善を認めた。

結論:整容目的での人工虹彩挿入後に発症した両眼性の水疱性角膜症を経験した。前房留置型人工虹彩による物理的な組織障害と慢性炎症により角膜内皮細胞の減少を生じたと考える。安易な海外での整容的治療には不可逆的な合併症を引き起こす可能性がある。

BRVOに対するSTTA注射後にScedosporiumによる真菌性強膜炎を生じた1例

著者: 永江朗人 ,   昌原英隆 ,   佐藤宏樹 ,   麻生健一朗 ,   矢田圭介 ,   橋本りゅう也 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.622 - P.626

要約 目的:真菌性強膜炎はトリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射(STTA)施行後などに発症する稀な疾患である。網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)に伴う黄斑浮腫に対するSTTA後にScedosporiumによる真菌性強膜炎を生じた1例を経験したので報告する。

症例:62歳,男性。左眼BRVOに伴う黄斑浮腫に対してSTTAを施行した。STTA施行78日後に充血・疼痛を自覚し,84日後には結膜浮腫が出現し,急激な視力低下を認めた。90日後には前房内炎症とSTTA施行部位に一致した下鼻側の結膜下に黄色病変を認め,眼窩MRIでは後部テノン囊内に膿瘍の所見を認めた。培養検査結果でScedosporiumが検出された。抗真菌薬治療を開始するも,経過中に漿液性網膜剝離が出現した。外科的デブリードメントは困難であった。ミコナゾールテノン囊下注射を開始してから病勢は改善した。治療1年で膿瘍は消退し漿液性網膜剝離の所見は消失したが,視力は手動弁となった。

結論:STTA施行数か月後に発症した強膜炎は真菌性を疑うべきであると考えられた。また,本症例ではSTTA施行時に針先にScedosporiumが付着していた可能性を考えるが,直接の原因は不明であった。しかし,STTAの清潔操作には注意する必要がある。

眼球摘出を併用した腫瘍切除術が適切であった結膜由来眼表面腫瘍の2症例

著者: 白川雄一 ,   福澤憲司 ,   長谷川正規 ,   米田亜規子 ,   上田幸典 ,   稲富勉

ページ範囲:P.627 - P.633

要約 目的:眼表面腫瘍は比較的悪性度の低い腫瘍が多いが,進行例や色素性上皮腫瘍では外科治療方法の選択に迷うことが少なくない。今回,眼球摘出を併用した腫瘍全切除術が適切な治療選択であった眼表面腫瘍2症例を経験したので報告する。

症例1:89歳,男性。前医で右結膜腫瘍切除後,病理検査で結膜上皮内新生物と診断されたが,再発疑いで当院を紹介され受診した。初診時,右眼に結膜充血,角膜表層への高度血管侵入および角膜炎を認め,生検を実施した。扁平上皮癌と診断でき,強膜浸潤が危惧され,眼球摘出併用眼表面悪性腫瘍全切除術を施行した。術後の病理診断で強膜および毛様体組織への眼内腫瘍浸潤を認めた。PET/CTでは遠隔転移がなく,経過良好である。

症例2:54歳,男性。左角膜輪部全周に色素沈着を,角膜半周に有色素性の上皮分布を,また球結膜および眼瞼結膜に色素病変を,円蓋部に隆起性腫瘍を認めた。悪性黒色腫を疑い,予後を考慮してマッピング生検は施行せず眼窩内容除去術を施行した。病理診断は悪性黒色腫であり,結膜断端は陰性であり,脈管浸潤は認めなかった。PET/CTでも遠隔転移はなく,経過良好である。

結論:眼表面深部への進行性腫瘍は比較的稀であるが,臨床像や経過から適切に悪性度や進行度を推測することが重要であり,深部浸潤や眼内浸潤が疑われる症例では適切なタイミングで眼球摘出を選択する必要がある。

片眼の視力障害をきたした小児のうっ血乳頭後視神経萎縮におけるOCTによる網膜内層厚解析

著者: 増田有寿 ,   三木淳司 ,   後藤克聡 ,   三戸裕美 ,   家木良彰 ,   桐生純一

ページ範囲:P.635 - P.642

要約 目的:うっ血乳頭による視機能予後は良好とされるが,頭蓋内圧亢進が長期間続くと両眼の視神経萎縮に至ることがある。今回,片眼のみの視力障害をきたしたうっ血乳頭後の視神経萎縮の1例を経験したので,光干渉断層計(OCT)の網膜内層厚解析結果と併せて報告する。

症例:9歳,男児。2019年10月に近医を受診したときは両眼とも視力は正常であった。11月から集中時に急にぼやけるようになり,2020年2月に別の近医を受診した。右視力低下,両眼の視神経乳頭の腫脹を指摘され当科を紹介された。初診時視力は右0.03,左1.2,限界フリッカ値(CFF)は右21Hz,左40Hz,ゴールドマン動的視野検査では右中心暗点,左傍中心暗点を示した。OCTによる神経節細胞複合体(GCC)厚は58.2/71.6μm,乳頭周囲網膜視神経線維層(cpRNFL)厚は測定不能/175.9μm,視神経乳頭は両眼とも浮腫状でやや蒼白であった。頭部MRI検査で大脳鎌髄膜腫および水頭症を認め,腫瘍による視神経を含む視路への圧迫がないことから,視神経乳頭浮腫はうっ血乳頭と診断された。2週間後に当院脳神経外科で開頭腫瘍摘出術が行われた。術後4か月の視力は右0.05,左1.2,CFFは両眼とも36Hzに改善し,GCC厚は49.8/57.3μm,cpRNFL厚は74.6/90.0μmで両眼の視神経乳頭腫脹は軽減した。術後5か月が経過すると,視力は右0.05,左1.2,GCC厚は48.3/56.2μm,cpRNFL厚は68.6/79.3μm,両眼の視神経乳頭は蒼白となった。

結論:今回の症例から,視力低下をきたしたうっ血乳頭ではOCTによる網膜内層厚解析が視機能予後の予測に有用である可能性が示唆された。

緑内障点眼アレルギー症状が涙囊鼻腔吻合術後に改善し点眼再開が可能となった1例

著者: 延吉章 ,   田邊益美 ,   木村将 ,   越猪早織 ,   川村知子 ,   橋本大

ページ範囲:P.643 - P.647

要約 目的:緑内障点眼薬の副作用のため,継続した点眼治療に難渋することがある。緑内障点眼によると思われたアレルギー症状が涙囊鼻腔吻合術(DCR)を施行後に改善し,点眼再開が可能になった症例を1例経験したので報告する。

症例:68歳,女性。前医で両眼緑内障のため両眼点眼加療中,右眼にアレルギー症状および表層角膜炎が出現し,緑内障点眼薬の変更を繰り返していた。両眼トラボプロスト点眼に変更後も同症状のため右眼点眼中止となり,緑内障点眼治療に難渋し当科へ紹介となった。初診時,眼圧は右14mmHg,左12mmHgで,右眼に軽度表層角膜炎と瞼結膜充血を認め,前眼部,隅角に異常所見は認めなかった。涙液メニスカス高は正常であったが,涙囊洗浄検査で右通水不可,血性逆流と多量の膿の排出を認めた。涙囊造影CT検査を施行し,右拡張した涙囊が造影され,右慢性涙囊炎と診断した。右結膜炎の一因と考え,右DCR鼻内法を施行した。

結果:術後右涙囊洗浄検査で通水可能になり,眼症状も改善した。右眼トラボプロスト点眼を再開したが,再発なく経過している。

結論:点眼アレルギー症状のため緑内障点眼が継続困難な症例では,慢性涙囊炎も原因の1つとして考えられる。

新しいトーリック眼内レンズの軸ずれの検討

著者: 西村知久 ,   古賀和歌子 ,   中尾陽子 ,   大坪貴子 ,   樋田太郎 ,   美川優子

ページ範囲:P.649 - P.653

要約 目的:最近使用可能となったトーリック眼内レンズ(IOL)術後の軸ずれを後ろ向きに評価した。

方法:2017年11月〜2021年12月の期間に,同一の術前検査,術者,手術,術後検査下で水晶体再建術を施行し,XY1AT3-7(HOYA,XY1),ZCW150/225/300/375(Johnson & Johnson Surgical Vision,ZCW),SN6AT3-9(Alcon,SN)が挿入された各70眼を対象とした。IOLの軸位置はサージカルガイダンスを用いて決め,術翌日のIOL軸マーカー位置の回転と目標軸位置との差(絶対値)を算出し,比較検討した。

結果:平均軸ずれ量は,XY1群が4.5±4.8°,ZCW群が3.0±2.2°,SN群が2.4±1.7°と,XY1群はSN群より大きかった(p=0.016)。また,10°以上の症例はそれぞれ7眼,1眼,0眼であった。

結論:ZCW群とSN群は,XY1群に比べて軸ずれが少なかった。ZCW群は,支持部の摺りガラス形状が軸ずれへの抑制に有効であることが示唆された。SN群の軸ずれが最も少なく,高度な軸ずれもなかった。

難治性の上眼瞼腫脹に対し皮膚生検にて肉芽腫性眼瞼炎と診断された1例

著者: 松浦智之 ,   中川美知子 ,   宮澤理恵子 ,   池上靖子 ,   寺田裕紀子 ,   山本裕樹 ,   福田祥子 ,   野田拓也 ,   種井良二 ,   沼賀二郎

ページ範囲:P.655 - P.659

要約 目的:肉芽腫性眼瞼炎は,眼瞼の持続性腫脹と病理組織学的に類上皮細胞性肉芽腫を特徴とする疾患である。今回筆者らは,難治性の上眼瞼腫脹に対して皮膚生検にて肉芽腫性眼瞼炎と診断した1例を経験したので報告する。

症例:77歳,女性。皮膚弛緩症に対して上眼瞼皮膚切除術が施行された後,右上眼瞼腫脹が増悪し,改善しないため当科へ紹介となった。

所見:右上眼瞼より皮膚生検を施行し,病理検査で真皮内に浮腫と血管・付属器周囲にリンパ球主体の炎症細胞浸潤,類上皮細胞性肉芽腫を認めたため,肉芽腫性眼瞼炎と診断した。トラニラストの内服投与を行い,症状は軽快した。

結論:肉芽腫性眼瞼炎は本邦ではこれまで主に皮膚科から報告されている。難治性の眼瞼腫脹は鑑別疾患の1つとして本症を検討する必要があり,眼科医も留意すべき疾患と考えた。

短期間に左右の同名半盲が交互に観察されたミトコンドリア脳筋症の1例

著者: 新留絵里菜 ,   成松明知 ,   大多和太郎 ,   本橋良祐 ,   安田佳奈子 ,   野間英孝 ,   渡邊由祐 ,   石田悠 ,   後藤浩 ,   志村雅彦

ページ範囲:P.660 - P.666

要約 目的:脳卒中様発作を契機として,一過性の同名半盲を左右交互に生じたミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)の症例報告。

症例:14歳,男児。痙攣と意識障害を主訴に当院小児科を受診した。経過観察により症状は軽快したが,その2か月後に発熱,頭痛,左視野障害が出現し,小児科から眼科へ紹介となった。

所見:矯正視力は両眼ともに1.2で,前眼部,中間透光体,眼底に異常はなかったが,視野検査で左同名半盲を認めた。頭部MRIで右後頭葉に異常信号を,血液検査や髄液検査で乳酸値の上昇を,さらにミトコンドリア遺伝子検査でA3243G変異を認めたことから,MELASと診断された。加療後に症状は軽快し退院となったが,その2か月後に頭痛,右視野欠損のため小児科を再度受診し,入院となった。頭部MRIで今度は左後頭葉の異常信号を呈し,右同名半盲を認めた。小児科で前回と同様の治療を行ったところ,症状が改善したため退院となり,2か月後の当科再診時には両眼とも同名半盲は消失していた。

結論:MELASでは,頭蓋内病変の部位の変化によりさまざまな視野障害を呈することがあるため,慎重な経過観察を要する。

前部円錐水晶体合併Alport症候群の水晶体再建術にトーリック眼内レンズが奏効した1例

著者: 中村麻里恵 ,   京本敏行 ,   笠松広嗣 ,   宮坂英樹 ,   金児由美 ,   鳥山佑一 ,   里見英俊 ,   伊藤以知郎

ページ範囲:P.667 - P.672

要約 目的:前部円錐水晶体を伴ったAlport症候群に対して,角膜直乱視矯正目的でトーリック眼内レンズ(IOL)を選択して水晶体再建術を行った症例報告。

症例:52歳,男性。Alport症候群で近医内科に通院中であった。両視力低下を主訴に近医眼科を受診し,前部円錐水晶体を指摘され手術目的に当科を紹介され受診した。

所見:初診時視力は右0.1(0.2×−3.50D()cyl−2.00D 170°),左0.1(0.3×−4.50D()cyl−1.50D 15°)。白内障はほぼ認めなかったが,両眼に前部円錐水晶体およびそれに起因する異常な近視化を認めた。眼底には明らかな異常を認めなかった。前部円錐水晶体による屈折異常が視力低下の原因と考え,両眼の屈折異常の改善目的に水晶体再建術を施行した。右−3.00D,左−2.75Dの角膜直乱視を認めたため,トーリックIOLを選択して囊内固定した。術後視力は右0.5(0.9×−0.50D()cyl−1.50D 130°),左0.5(0.9×−0.75D()cyl−0.50D 130°)と良好であった。

結論:前部円錐水晶体を伴ったAlport症候群の水晶体再建術に対して角膜直乱視の矯正目的でトーリックIOLを選択し,視機能の改善を得た。

複視が初発で発症した自己免疫性小脳失調症の1例

著者: 渡辺このみ ,   渡辺一彦 ,   松岡ちひろ ,   山田徹 ,   林智弘 ,   中辻裕司

ページ範囲:P.673 - P.676

要約 目的:複視が初発で発症した自己免疫性小脳失調症の1例の報告。

症例:78歳,女性。複視が出現し,当科を受診した。眼位は遠見で左上斜視,近見は外斜視および左上斜視であった。頭部MRIでは明らかな異常を認めなかった。その後,ふらつきやめまい,悪心,嘔吐,歩行障害および構音障害が出現した。2型糖尿病であったが,抗GAD抗体が再検査にて陽性であり,富山大学附属病院脳神経内科で自己免疫性小脳失調症と診断された。ステロイドパルス療法,大量ガンマグロブリン療法および血漿交換療法が行われたが,症状の改善はみられなかった。複視には,最終的に左眼に弱視治療用眼鏡箔®(LP)を貼った眼鏡装用で対応することとなった。

結論:複視を訴える患者を診た際には,本疾患も鑑別診断の1つとして念頭に置く必要がある。

硝子体手術により腫瘍摘出を行った網膜血管増殖性腫瘍の1例

著者: 新田文彦 ,   國方彦志 ,   古田実 ,   阿部俊明 ,   中澤徹

ページ範囲:P.677 - P.683

要約 目的:網膜血管増殖性腫瘍(RVPT)にはさまざまな治療法があるが,硝子体手術で直接腫瘍を摘出生検した症例は少ない。今回,硝子体手術を行い,腫瘍を摘出し,病態を安定させ,病理診断もできた症例を経験したので報告する。

症例:23歳,女性。左眼の視野狭窄を自覚し,近医受診を経て当院に紹介となった。

所見:初診時,左矯正視力は0.7で,前眼部に異常はなく,眼底は上鼻側に6×4乳頭径大の赤褐色腫瘤と黄斑部以外の広範囲に滲出性変化(網膜剝離,硬性白斑)を認め,網膜血管増殖性腫瘍と診断した。トリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射,ベバシズマブ硝子体内注射を行うも効果は乏しかった。その後,黄斑部まで網膜の滲出性変化が進行したため,受診9か月後に硝子体手術と超音波水晶体乳化吸引術(眼内レンズは毛様溝固定)を施行した。冷凍凝固術,網膜光凝固術を併施し腫瘍の大部分を摘出し,終術時にはシリコーンオイルを注入した。病理所見では,血管内皮に裏打ちされた脈管構造が増生し,一部に肉芽組織様の組織を示した。術後,徐々に滲出性変化は消失し,受診15か月後にシリコーンオイルを抜去した。受診22か月後に続発緑内障を認め,眼内レンズ強膜内固定術,マイクロフックトラベクロトミーを施行した。受診28か月後の現在,左矯正視力0.2,眼圧9mmHgで,病態は安定している。

結論:進行するRVPTの制御には硝子体手術による腫瘍摘出が有効であり,病理診断も可能とした。

単焦点および多焦点眼内レンズにおける距離別コントラスト感度の検討

著者: 甘利裕明 ,   鈴木恵奈 ,   平田憲史 ,   渡邊智人 ,   中塚秀司 ,   伊藤博隆 ,   杢野久美子

ページ範囲:P.684 - P.688

要約 目的:多焦点眼内レンズ(IOL)の明視域評価として,主に全距離視力検査が用いられているが,視力検査だけでは評価困難な患者満足度に関連する視覚の質の評価方法としてコントラスト感度検査がある。従来,コントラスト感度検査の検査距離は一定であり,複数の距離における感度測定が困難であった。今回筆者らは,複数距離でコントラスト感度測定が可能なaccu-pad®(ジャパンフォーカス社)を用いて,単焦点IOL挿入眼と多焦点IOL挿入眼における距離別のコントラスト感度を比較検討した。

対象と方法:対象は,多焦点IOL(LENTIS® Comfort)を両眼に挿入した15例(男性7例,女性8例,平均年齢73.3±3.8歳)と単焦点IOL(VivinexTM iSert® 11例,AvanseeTM Preset 3例,AcrySof® IQ 1例)を両眼に挿入した15例(男性9例,女性6例,平均年齢77.0±4.9歳)である。accu-pad®を用いて,検査距離5mと1mにおける5つの空間周波数〔1.5cycles/degree(cpd),3cpd,6cpd,12cpd,18cpd〕について,コントラスト感度を測定した。

結果:検査距離5mのコントラスト感度は,多焦点IOLと単焦点IOLの両群間においてすべての空間周波数で有意差は認められなかった。検査距離1mのコントラスト感度は,中〜高空間周波数領域(12cpd,18cpd)において多焦点IOL群が有意に高値を示した(p<0.01)。

結論:多焦点IOLの視機能評価として,複数の距離におけるコントラスト感度検査の有用性が示唆された。

トシリズマブが有効と考えられた動脈炎型前部虚血性視神経症の1例

著者: 後藤拓磨 ,   廣川貴久 ,   柊山友里恵 ,   戸成匡宏 ,   奥英弘 ,   喜田照代 ,   和田裕美子

ページ範囲:P.689 - P.693

要約 目的:動脈炎型前部虚血性視神経症(aAION)の発症率は10万人あたり1.3人とされ,比較的稀な疾患である。予後不良で僚眼発症の危険性も高い。今回,ステロイドパルス療法後,トシリズマブ(TCZ)を使用し,僚眼発症を抑制できたと考えられた1例を経験したので報告する。

症例:78歳,女性。左眼の急激な視力低下で紹介され受診となった。視力は右(0.6),左(手動弁)で,左眼に相対的瞳孔求心路障害を認めた。動的視野検査では,左眼視野は耳側に島状に残存するのみで,右眼も耳側視野に楔状欠損を認めた。眼底は,左眼で視神経乳頭の蒼白腫脹と線状出血を,右眼で乳頭周囲に白斑を認めた。蛍光眼底造影検査では,左眼の視神経乳頭と脈絡膜の充盈遅延を認めた。血液検査ではCRP 14.25mg/dl,赤沈(1時間値)110mmと高値であった。側頭動脈生検で多核巨細胞を認めたため,aAIONと確定診断できた。ステロイドパルス療法で左眼視神経乳頭腫脹は軽減したが,視力と視野の改善は乏しく,視力は手動弁にとどまった。発症から4か月を経過したが,ステロイド漸減時のTCZ皮下注射併用で,僚眼の右視力は(0.7)を維持できている。

結論:aAIONの予後はきわめて不良で,本症例でも患眼の視機能はほとんど回復しなかった。しかし,初診時にsub-clinicalな異常を認めた僚眼の発症を抑制できた。TCZはIL-6阻害薬で,aAIONにおいてステロイド減量時に有用であると考えられた。

ブリモニジン酒石酸塩・ブリンゾラミド配合点眼薬の有効性について

著者: 山田雄介 ,   徳田直人 ,   重城達哉 ,   塚本彩香 ,   豊田泰大 ,   北岡康史 ,   高木均

ページ範囲:P.695 - P.699

要約 目的:緑内障薬物治療の多剤併用時おけるブリモニジン酒石酸塩(BMD)・ブリンゾラミド(BZM)配合点眼薬の有効性と副作用を検討する。

対象と方法:緑内障点眼薬を2剤以上併用している開放隅角緑内障患者を対象に,使用している緑内障点眼薬のうち,BMDとドルゾラミド(DRZ)の併用またはBMDとBZMの併用をBMD/BZM配合点眼薬に変更した群(切り替え群)と,BMDまたはBZMをBMD/BZM配合点眼薬に変更した群(追加群)に分けて6か月間観察した。

結果:切り替え群は21眼,追加群は15眼であった。眼圧は,切り替え群では変更前12.9±2.1mmHgが切り替え後6か月で12.6±1.7mmHgと有意差を認めなかった。追加群では,変更前17.0±4.3mmHgが変更後6か月で13.3±2.9mmHgと有意な眼圧下降が認められた。BMD/BZM配合点眼薬使用前の点眼内容別の眼圧推移は,BZMとBMDの併用からBMD/BZM配合点眼薬に切り替えた15眼の眼圧下降率は2.3%であった。DRZとBMDの併用からBMD/BZM配合点眼薬に切り替えた6眼の眼圧下降率は−5.5%であった。一方,BMDからBMD/BZM配合点眼薬に切り替えた11眼の眼圧下降率は18.6%であった。BZMからBMD/BZM配合点眼薬に切り替えた4眼の眼圧下降率は22.9%であった。両群ともに点眼継続が困難となる重篤な副作用は発現しなかった。

結論:BMDまたはBZMからBMD/BZM配合点眼薬への切り替え,BMD+BZMまたはBMD+DRZからBMD/BZM配合点眼薬への変更は眼圧下降効果において有効である。

連載 今月の話題

抗VEGF薬に関連した感染性/非感染性眼内炎症

著者: 安藤亮 ,   石田晋

ページ範囲:P.581 - P.588

 2020年5月,待望の滲出型加齢黄斑変性に対する新しい薬剤が販売された。しかし,これには網膜血管炎,網膜血管閉塞という今までにない副作用があった。実は,硝子体内注射には無菌性眼内炎という炎症性有害事象が以前からあった。本稿では,忌むべき感染性眼内炎を含めて,これらの炎症性有害事象について述べていきたい。

Clinical Challenge・26

スギ花粉症が遷延,重症化した症例の診断

著者: 庄司純

ページ範囲:P.576 - P.579

症例

患者:41歳,女性

主訴:両眼の眼搔痒感,充血,眼脂

現病歴:スギ花粉飛散時期から,鼻炎症状(くしゃみ・鼻汁)に加えて眼搔痒感が出現したため,近医を受診したところ,スギ花粉症と診断された。眼搔痒感,充血,および眼脂は5月以降も症状が続き,6月から両眼の症状が増悪したため,日本大学医学部附属板橋病院アレルギー外来に紹介された。以前から,豆乳・キウイ・サクランボ・ナシ・リンゴを食べると,口の中が痒くなることがあった。

既往歴:幼少期にアトピー性皮膚炎の治療歴がある。40歳のときに出産している。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・20

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—近視性牽引黄斑症—TMDU分類

著者: 島田典明

ページ範囲:P.590 - P.593

◆TMDU分類では,網膜分離・網膜剝離の進行度とその他の合併病変から近視性牽引黄斑症を分類している。

◆網膜分離から網膜剝離に至るステージには外層分層黄斑円孔が関与している。

◆網膜萎縮は網膜分離や網膜剝離の様相に影響する。

臨床報告

上眼瞼Merkel細胞癌の1例

著者: 野元翔平 ,   上笹貫太郎 ,   田畑和宏 ,   谷本昭英 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.597 - P.602

要約 目的:上眼瞼Merkel細胞癌の症例について報告する。

症例:83歳,男性。

所見:左上眼瞼の腫瘤を主訴に来院した。細隙灯顕微鏡検査では,左上眼瞼に8×9mm大の赤色調の球状腫瘤を認めた。急速に増大したためMerkel細胞癌を疑い,初診から6日後に左上眼瞼悪性腫瘍拡大切除術を施行した。腫瘍辺縁から5mmのsafety marginをとって拡大切除を行い,術中迅速病理診断で断端の腫瘍細胞が陰性であることを確認した。その後,switch flap法を用いて欠損した眼瞼を再建した。免疫組織学的検査の結果はMerkel細胞癌であった。術翌日に抗凝固薬を再開したところ,創部より多量の出血を認めたため,術後5日目および6日目に止血術を行った。2か月後に同部位に再び腫瘤を認めたが,切除したところ化膿性肉芽腫の診断で再発ではなかった。

結論:上眼瞼のMerkel細胞癌を経験した。術後に再度腫瘤を認めたが,再発ではなかった。ただし,再発しやすい腫瘍であるため,今後も慎重な経過観察が必要である。

直接作用型抗凝固薬継続下での白内障術後に創部出血が遷延した1例

著者: 上田祥太郎 ,   小島祥 ,   井上俊洋

ページ範囲:P.603 - P.606

要約 目的:高齢者はさまざまな全身疾患を有し,抗凝固薬や抗血小板薬内服による抗血栓療法を受けていることも少なくない。アピキサバンは抗凝固薬のうち,直接作用型抗凝固薬(DOAC)に分類されるものである。DOACには凝固能についてのモニタリング指標が存在しない。今回,アピキサバン内服継続下での白内障手術後に,術創からの出血が遷延した症例を経験したので報告する。

症例:82歳,女性。心房細動のためアピキサバン2.5mg/日を内服中であった。術前検査では凝固能はプロトロンビン時間でわずかな延長があったが,その他の指標はすべて基準値内であった。左眼白内障に対し,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を施行した。切開創は強角膜3面切開で作成した。術後約2時間の時点で術創からの出血を確認しタンポンガーゼで経過をみたが,術翌日も出血が遷延していた。アピキサバン内服を中止した後,止血を確認した。

結論:白内障手術時に抗血栓療法を継続することは望ましいとする報告は多いが,抗血栓療法継続下での眼科手術時の出血性合併症の報告も複数ある。術後の創部出血の遷延は視機能には影響しないが,患者などの不安を煽る可能性もあり,周術期における出血リスクには十分留意する必要があると考えられる。

線維柱帯切除術単独と水晶体再建併用線維柱帯切除術の手術成績の比較

著者: 石部智也 ,   嵜野祐二 ,   久保田敏昭

ページ範囲:P.607 - P.612

要約 目的:開放隅角緑内障に対して線維柱帯切徐単独手術(単独手術群)と白内障手術を併用した場合(同時手術群)の術後成績について比較検討をした。

方法:対象は2011〜2018年に初回手術として線維柱帯切除術単独および白内障手術を併施した原発開放隅角緑内障97眼と落屑緑内障64眼の計161眼。術前後の視力,眼圧(術前,術後1週,1か月,3か月,6か月,12か月,24か月),角膜内皮細胞減少率(術前,術後1〜3か月),点眼スコア(術前,術後12か月,24か月)を比較した。眼圧は2回外来受診時に連続して基準値を超えた場合,点眼再開もしくは追加手術をした場合を死亡と定義し生存曲線を作成した。また,線維柱帯切除単独手術後に白内障手術を追加した6眼についても同様に比較検討した。

結果:眼圧基準値を14mmHgとした場合,原発開放隅角緑内障,落屑緑内障のいずれの病型においても同時手術群で術後24か月での生存率は有意に低かった(原発開放隅角緑内障群:p=0.02,落屑緑内障群:p=0.03)。視力,角膜内皮細胞減少率,点眼スコアに差はなかった。白内障手術を追加した群では,平均32.3か月(24〜72か月)後に手術が行われており,術後視力は有意に改善し(p<0.01),眼圧に変化はなかった。術後合併症では,同時手術群にレーザー切糸やニードリングといった追加処置が多く,単独手術群には浅前房や脈絡膜剝離が多かった。

結論:白内障合併の緑内障患者には同時手術が行われるが,術後眼圧は高めになる点に注意する。

今月の表紙

Asteroid hyalosis

著者: 柿沼光希 ,   坂本泰二

ページ範囲:P.580 - P.580

 症例は84歳,女性。2005年に人間ドックにて周辺部網膜変性を指摘され,前医を受診した。眼底カラー写真とOCTを施行したところ,右眼にasteroid hyalosisを認め,左眼に黄斑前膜を認めた。2013年11月頃から変視症が出現し,精査加療目的のため当院を紹介され受診した。当院初診時の視力は右(1.0),左(0.9)。M-CHARTS(Inami社)の変視量は右(縦0°横0°),左(縦0.3°横0.6°)であった。左眼の黄斑前膜に対しての手術希望はなかったため経過観察となり,その後も視力と変視症の程度は変わりなく経過している。

 撮影は超広角走査型レーザー検眼鏡のCalifornia(Optos社)で行った。無散瞳下で撮影可能な機器であるが,本症例は散瞳下で撮影を行った。固視点は正面軸上とし,患者に注視を促した。撮影時は睫毛が写り込まないように,サージカルテープで下眼瞼を下げて,硝子棒を使用して上眼瞼を挙上した。また,頭部位置を安定させるため,ハンドコントロールを持ちながら,手の甲で頭部を支えて撮影をした。

海外留学 不安とFUN・第76回

ボストン研究留学のすゝめ・3

著者: 富田洋平

ページ範囲:P.594 - P.595

COVID-19と留学生活

 順調な研究生活も2年が経った頃にCOVID-19のパンデミックで一変しました。ご存知のようにアメリカは世界で最も感染者,死者数が多く(2021年8月現在),われわれの生活の多くに制限がかかりました。ラボのシャットダウンも突然で,COVID-19関連の研究とどうしても中断できない研究以外は中止になり,ラボの出入りも限られた人のみとなりました。個人間のやり取り,ミーティングはすべてZoomを通してでしたが,不便も多く,対面で話せることのありがたさを痛感しました。

 子どもたちの学校も閉鎖し,親が自宅で仕事をしながら見ることになりました。レストランも映画館も閉まり,また,州外に出ることも規制され,旅行の予定はすべてキャンセル。友人たちとも会うことができず,文字通り隔離生活が始まりました。全く予期せぬ事態でしたので,異国にいることの不安を強く覚えました。

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目次

ページ範囲:P.572 - P.573

欧文目次

ページ範囲:P.574 - P.575

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.700 - P.704

アンケート用紙

ページ範囲:P.710 - P.710

次号予告

ページ範囲:P.711 - P.711

あとがき

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.712 - P.712

 「臨床眼科」76巻5号をお届けいたします。本号は,第75回日本臨床眼科学会講演集の第3回目です。第76回の臨眼は,COVID-19が落ち着いていたこともあり,福岡での現地開催とバーチャルのハイブリッド開催で行われました。会場では感染対策が完璧に行われており,皆さん安心して学会に参加でき,久しぶりのリアルでの学会の良さを満喫されたことだと思います。また,隅々まで心配りをされた会場でのホスピタリティの高さに,学会長の坂本泰二先生(鹿児島大学)の臨眼に対する熱い思いが伝わってきました。坂本先生をはじめ鹿児島大学眼科学教室の関係の方々のご尽力に心から感謝申し上げたいと思います。

 今号に掲載している学会原著は15本であります。どれも興味深いご発表です。投稿してくださった先生方,査読をしてくださった先生方,本当にありがとうございました。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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