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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻6号

2022年06月発行

雑誌目次

特集 第75回日本臨床眼科学会講演集[4] 原著

0.05%オキシブプロカイン塩酸塩点眼の有効性が示唆された三叉神経障害性疼痛の1例

著者: 植谷忠通 ,   鈴木崇弘 ,   佐藤由紀 ,   鈴木康之

ページ範囲:P.759 - P.764

要約 目的:頭蓋内の腫瘍や血管による三叉神経の圧迫により三叉神経神経障害性疼痛(TNP)を生じることはよく知られている。今回筆者らは,三叉神経近傍の脳腫瘍摘出術後に,残存した腫瘍に伴うTNPに関連した眼症状が疑われた症例に対し,0.05%オキシブプロカイン塩酸塩点眼の有効性が示唆された1例を経験したので報告する。

症例:患者は38歳,女性。頭重感を主訴に近医脳神経外科を受診し,脳腫瘍と診断された。その後東海大学医学部付属病院(以下,当院)脳神経外科へ紹介され,右視神経近傍の脳腫瘍に対して摘出術を試みるも全摘出はできず,一部の腫瘍は残存した状態で手術終了となった。術後5日目より右眼に眼痛および羞明が出現したため,残存した腫瘍に伴うTNPとの関連を疑い,脳神経外科にてプレガバリンとカルバマゼピンが処方されたが効果はなかった。当院眼科での診察においても眼科的異常所見を認めず,内服薬の継続,鎮痛薬の頓用などによる対症療法のみで退院となった。その後も改善なく眼痛・羞明の増悪,就業不可などの日常生活の制限も認めたため近医眼科を受診となった。TNPに伴う角膜知覚異常の可能性に加え流涙も認めていたため,0.05%オキシブプロカイン塩酸塩点眼を処方したところ,症状は著明に改善し,就業も可能となった。

結論:術後の残存腫瘍に伴うTNPに関連した眼症状が疑われる症例において,0.05%オキシブプロカイン塩酸塩点眼が有効な可能性が示唆された。

小児におけるオルソケラトロジー治療後の角膜内皮細胞形態の長期的変化

著者: 松村沙衣子 ,   檀之上和彦 ,   上村景子 ,   嵯峨朋未 ,   富岡真帆 ,   堀裕一

ページ範囲:P.765 - P.772

要約 目的:小児に対するオルソケラトロジー(OK)治療が角膜内皮に与える長期的な影響と眼軸変化を後ろ向きに評価する。

方法:2013〜2019年にだんのうえ眼科にてOK治療を受けた小児のなかで,3年以上の追跡調査が可能であった14名28眼を対象とした(男児20眼,平均年齢11.93±2.09歳)。光干渉式眼軸長測定装置にて眼軸長を測定,角膜鏡面顕微鏡観察で平均角膜内皮細胞密度(ECD),細胞面積変動係数(CV),六角形細胞出現率(%SIX)を測定し,治療前後で比較検討した。サブ解析で,処方開始年齢で分けた2群〔小学生群(9〜12歳),中学生群(13〜15歳)〕間で比較した。

結果:OK治療期間は4.50±2.11年であり,治療前後でECDは3,005.74±192.5個/mm2から2,893.21±190.12個/mm2(p<0.001)へと減少し,CVは22.00±2.67から23.36±1.80(p<0.01)と増加したが,年間ECD減少率は0.33±0.15%であり,既報の健常小児の年間ECD減少率(1.1±0.8%)以下であった。治療前後で%SIXの有意差はなかったが,眼軸長は24.86±0.52mmから25.32±0.61mmと伸長を認めた(p<0.001)。小学生群と中学生群の2群間で角膜内皮変化に有意差はなかった。

結論:平均4.5年間の小児へのOK治療における角膜内皮細胞形態変化は治療開始年齢による差異はなく,生理的変化の範囲内と考えられた。

連続焦点型眼内レンズ挿入眼における自覚屈折値と他覚屈折値

著者: 太田友香 ,   南慶一郎 ,   中村邦彦 ,   ビッセン宮島弘子

ページ範囲:P.773 - P.778

要約 目的:エシェレット回折格子を用いた焦点深度拡張型眼内レンズ(EDF IOL)と回折型2焦点IOLの技術を融合した連続焦点型IOL挿入眼において,自覚・他覚屈折値が一致するかを後ろ向きに検討した。

対象と方法:東京歯科大学水道橋病院にて連続焦点型IOL(DFR00VまたはDFW150, 225, 300, 375)が挿入された症例に対し,術後1か月の自覚屈折値(球面度数・円柱度数・等価球面度数)と,オートレフラクトメータ(TONOREF®Ⅱ)で測定した他覚屈折値との差,相関関係,系統誤差の有無を評価した。

結果:症例は23例33眼(平均年齢:62.7±11.3歳)で,球面度数,円柱度数,等価球面度数は,平均自覚屈折値で0.15±0.47D,−0.23±0.36D,0.03±0.46D,平均他覚屈折値は−0.30±0.52D,−0.52±0.33D,−0.56±0.52Dであった。他覚屈折値が有意に近視化しており(p<0.001:t検定),屈折値の差は,それぞれ−0.45±0.28D,−0.28±0.23D,−0.59±0.30Dであった。両者に有意な相関があり(p<0.001,R2=0.71,0.63,0.67,β=−0.44,−0.35,−0.59:単回帰分析),ブランド・アルトマン分析で系統誤差が存在した。

結論:連続焦点型IOL挿入眼における等価球面度数の自覚および他覚屈折値の差は0.59Dで,EDF IOLの結果とは異なった。

間欠性外斜視の術後成績—両眼外直筋後転術と片眼外直筋後転術の比較

著者: 秋山澄 ,   後藤美和子

ページ範囲:P.779 - P.784

要約 目的:小児の間欠性外斜視に対して行った両眼外直筋後転術(以下,両眼後転術)と片眼外直筋後転術(以下,片眼後転術)の術後成績と,それらに影響する因子について明らかにする。

対象と方法:福岡市立こども病院で間欠性外斜視に対し両眼後転術もしくは片眼後転術を行い,術後3〜6か月の間に術後評価を行うことができた小児184例を対象とした。手術は基本的に斜視角30Δ以下を片眼後転術とし,それ以上は両眼後転術を選択した。検討項目は,術前眼位,後転量,年齢,術後眼位,矯正効果,整容的治癒(≦15Δ)とし,手術効果に影響する因子について後ろ向きに検討した。

結果:両眼後転術群と片眼後転術群で有意差があったのは,術前眼位,術後眼位,片眼あたりの後転量,矯正効果であった。術後眼位は,両眼後転術群は9.4Δ,片眼後転術群は12.6Δであった。矯正効果は,両眼後転術群は2.1Δ/mm,片眼後転術群は1.5Δ/mmであり,両群とも年齢による影響は認めなかった。整容的治癒率に有意差はなかったが,片眼手術の場合には整容的治癒に至らなかった群は,治癒群と比較して術前斜視角が有意に大きかった。

結論:両眼後転術群と片眼後転術群の整容的治癒率は同等であったが,片眼後転術の適応をより小さい斜視角の症例とすることで,より良い成績が得られると考えられた。

間欠性外斜視に対する内直筋plication術の術後屈折変化

著者: 櫻井藍子 ,   後関利明 ,   市邉義章 ,   庄司信行

ページ範囲:P.785 - P.791

要約 目的:間欠性外斜視(IXT)に対する外直筋後転術および内直筋前転術は術後に近視化するとの報告がある。しかし,外直筋後転術および内直筋plication術の報告はない。そこで今回筆者らは,IXTに対する外直筋後転術および内直筋plication術の術後屈折変化について後ろ向きに検討した。

対象と方法:2016年2月〜2020年12月の間にIXTに対し片眼の外直筋後転術および内直筋plication術を施行し,術後1週,1か月,3か月時点での診察が可能であった47例47眼(男性27例・女性20例,平均年齢50.5±20.1歳)を対象とした。術前後の斜視角,等価球面度数(SE),乱視成分(power vector:J0,J45),平均角膜屈折力(mean K)を比較した。また,術前SEと術前後のSE変化量の相関(有水晶体眼のみ)と,plication量と術前後のSE変化量の相関を検討した。

結果:斜視角(近見/遠見)は術後有意に改善した(p<0.001)。SE,J0,J45,mean Kは,術後3か月まで各観察時点で有意な変化はなかった。また,術前SEと術前後のSE変化量,plication量と術前後のSE変化量の間には各観察時点で相関はなかった。

結論:IXTに対する外直筋後転術および内直筋plication術は,有意な術後屈折変化はなかった。

ラニビズマブ併用光線力学療法後に再発した滲出型加齢黄斑変性に対してブロルシズマブが効果を示した1例

著者: 木川智博 ,   大西純司 ,   渡邉佳子 ,   立石守 ,   岡田浩幸 ,   竹内正樹 ,   水木信久

ページ範囲:P.792 - P.799

要約 目的:ブロルシズマブは加齢黄斑変性(AMD)に対して新たに承認された抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬であり,維持期には12週という長い投与間隔で有効とされている。今回,ラニビズマブ0.5mg併用光線力学療法(PDT)後に再発した滲出型AMDに対してブロルシズマブ6mgが単独で効果を示した症例を経験したので報告する。

症例:患者は71歳,男性。他院にてアフリベルセプト2mg硝子体内注射を6回施行するも網膜下液(SRF)が軽快しないため,2019年11月PDT目的で当科を紹介され受診した。2019年12月中旬にラニビズマブ0.5mg併用PDTを施行したがSRFが再発し,2020年5月下旬に再度ラニビズマブ0.5mg併用PDTを施行した。2回施行後にSRFが再発したため,2020年9月,12月,2021年3月,7月,9月にブロルシズマブ6mg硝子体内注射を施行した。

結果:ブロルシズマブ6mg投与によりSRFの消退と漿液性網膜色素上皮剝離の軽快を認めた。ぶどう膜炎,網膜血管炎,網膜血管閉塞など,ブロルシズマブで報告されている有害事象はみられていない。

結論:近年PDTには抗VEGF療法が併用されることが多い。今回ラニビズマブ併用PDTを2回施行後にSRFが再発した滲出型AMDに対して,ブロルシズマブが単独で効果を示した症例を経験した。ブロルシズマブは抗VEGF薬併用PDT後に再発した滲出型AMDに対して,単独療法でも有効である可能性がある。

視神経網膜炎を呈した感染性ぶどう膜炎の4症例

著者: 濱野結貴 ,   眞下永 ,   祖父江茜 ,   梅本弓夏 ,   春田真実 ,   南高正 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.800 - P.806

要約 目的:視神経網膜炎の主要な原因として猫ひっかき病がよく知られている。今回,ネコとの接触歴も前駆症状もみられなかった感染性視神経網膜炎の4症例を経験したので報告する。

症例:症例1はベトナムから来日した32歳の男性。左眼の霧視と疼痛を自覚し,近医を受診のうえVogt-小柳-原田病(VKH)疑いとしてJCHO大阪病院眼科(当科)へ紹介された。症例2は65歳の女性。左眼の疼痛,霧視,歪視を自覚したため近医を受診し,VKH疑いとして当科へ紹介となった。症例3は76歳の男性。左眼の暗点を自覚したため近医を受診し,VKH疑いとして当科へ紹介された。症例4は72歳の女性。左眼の疼痛と視野異常を自覚したため近医を受診し,眼内悪性リンパ腫疑いにて当科へ紹介となった。

 4症例ともに前房炎症はなく,黄斑から視神経乳頭近傍にかけて白色の脈絡膜浸潤病巣があり,脈絡膜の肥厚および黄斑部の網膜下液がみられた。ミノサイクリン塩酸塩とスルファメトキサゾール・トリメトプリム製剤の内服により自覚症状や他覚的所見は速やかに改善した。4症例のうち3症例では網膜下液が消退する過程で星芒状白斑がみられた。また,4症例のうちBartonella henselae抗体の検査を行ったのは1症例で,結果は陰性であった。

結論:前駆症状やネコとの接触歴がない視神経網膜炎の診断に際しても,B. henselae抗体価測定による猫ひっかき病の除外が必要であり,治療に関しては抗菌薬による治療の有用性が示された。

眼球陥凹をきたした乳癌眼窩転移の1例

著者: 寺田佳子 ,   吉鷹真理子 ,   奥田聖瞳 ,   梶原友紀子 ,   谷口恒平 ,   原和之

ページ範囲:P.807 - P.813

要約 目的:眼瞼下垂の自覚から明らかになった乳癌の眼窩転移をもつ患者に対し放射線治療および化学療法を行い,長期経過観察が可能であったため報告する。

症例:患者は53歳,女性。2015年頃から右眼の開きづらさを自覚した。初診時の矯正視力は左右ともに1.0,眼圧は右16mmHg,左13mmHgであった。複視の自覚はなかったが,右眼は全方向に運動が制限されており,左上斜視を認めた。右眼球陥凹を認め,眼窩開口部から頰骨前面の皮下にかけて圧痛のない弾性硬のびまん性構造物を触れた。眼窩CTでは,右頰骨前皮下から眼球周囲にかけて外眼筋とほぼ同等の放射線吸収を示す境界不鮮明な構造物を認めた。2010年に左乳癌(ステージⅢC)に対する乳房全摘および化学療法,放射線照射の既往があったが,その他の転移所見はなかった。しかし,右眼窩病変の生検で乳癌眼窩転移と診断した。局所への放射線照射,アロマターゼ阻害薬の内服を施行したところ増悪なく経過した。2020年,右視力低下をきたし,右視神経乳頭腫脹を認めた。眼窩病変の増大による圧迫と診断し,化学療法を強化したところ,右視神経乳頭腫脹は改善した。

結論:一般に眼窩腫瘍では眼球突出をきたすことが多いが,乳癌の一部では眼球陥凹となるため注意が必要である。完治は困難であるが,加療により視機能の維持を図ることができる。

眼窩膿瘍を合併した急性涙囊炎の1例

著者: 山中悠平 ,   藤本雅大 ,   中西悠太 ,   村上智昭 ,   木戸愛 ,   浦佐和子 ,   辻川明孝

ページ範囲:P.814 - P.818

要約 背景:急性涙囊炎では眼窩隔膜より前方の蜂窩織炎を伴うことが多く,眼窩内へと炎症が波及することは非常に稀である。しかしいったん眼窩内へと炎症が波及すると膿瘍を形成することも多く,通常の涙囊炎より治療に難渋する。今回筆者らは,眼窩膿瘍を合併した急性涙囊炎の1例を経験したので報告する。

症例:患者は90歳,女性。1週間前にベッドから転落して以降,発赤を伴うが疼痛のない左眼瞼腫脹を自覚するようになり,しばらくは増悪,軽快を繰り返していたが,開瞼困難となり当院を受診した。全方向に左眼球運動障害,左眼球運動時痛を認め,左矯正視力0.3,左眼圧3mmHgであった。CTでは眼窩内方,筋円錐外に低吸収域,等吸収域の混在した占拠性病変を認め,眼球は圧排され変形し,耳側前方への偏位を認めた。抗菌薬投与を開始し,翌日には結膜円蓋部鼻側より多量の排膿を認めた。同部位を切開して,さらに排膿を行った。眼瞼腫脹は徐々に軽快し,7日後には眼窩膿瘍はほぼ消失し,眼球運動障害は改善し,左矯正視力も0.6と改善を認めた。

結論:涙囊炎に合併して眼窩膿瘍を認めた場合,早期にドレナージの検討をする必要があり,抗菌薬の投与のみでは改善せずに不可逆的な視力障害をきたした報告も散見される。本症例では,結膜円蓋部鼻側からの排膿で良好な経過を得ることができた。

トリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射後に発症したノカルジアによる眼窩蜂巣炎の1例

著者: 天内清 ,   得居俊介 ,   戸所大輔 ,   柳澤邦雄 ,   徳江豊 ,   秋山英雄

ページ範囲:P.819 - P.826

要約 目的:トリアムシノロンアセトニドテノン囊下注射(STTA)施行後に稀に感染性強膜炎を発症することがある。今回筆者らは,STTA後のノカルジアによる眼窩蜂巣炎を経験したので報告する。

症例:患者は74歳,男性。前医で左眼の加齢黄斑変性に対しブロルシズマブ硝子体内注射およびSTTA施行後に膿性眼脂を伴う結膜炎を発症し,眼脂培養でNocardia farcinicaが検出された。抗菌薬点眼で改善せず,眼瞼腫脹も出現したため群馬大学医学部附属病院眼科を紹介され受診した。矯正視力は右1.2,左0.15pであった。左眼の強膜充血,上眼瞼腫脹,眼球運動障害を認めた。眼脂のグラム染色よりノカルジアによる眼窩蜂巣炎と診断し,点眼に加えスルファメトキサゾール・トリメトプリム配合剤の内服を開始した。しかし,腎機能の悪化により内服の継続が困難となり,最終的に週2回のアミカシン硫酸塩結膜下注射およびイミペネム・シラスタチンナトリウム点滴静注に変更した。症状改善があり一時退院としたが,全身治療終了後約1か月で眼脂,眼瞼腫脹が再燃し,再入院のうえイミペネム・シラスタチンナトリウム点滴静注を再開した。MRIで眼窩膿瘍を認め専門医療機関で膿瘍摘出術を施行した。その後再燃なく,点滴治療をアモキシシリン・クラブラン酸カリウム内服へ切り替え退院とした。

結論:本症例はSTTA施行後に感染性強膜炎から眼窩蜂巣炎,眼窩膿瘍へ至ったと思われた。ノカルジアに対しては有効な抗菌薬が限られ,治療薬選択に難渋した。STTA施行後は感染にも注意が必要である。

肥厚性硬膜炎による多発脳神経障害を呈した多発血管炎性肉芽腫症の1例

著者: 近藤拓馬 ,   大田啓貴 ,   曽根隆志

ページ範囲:P.827 - P.832

要約 目的:多発血管炎性肉芽腫症(GPA)は全身に多彩な症状を呈する可能性があり,眼部においても同様である。肥厚性硬膜炎による多発脳神経障害を呈したGPAの1例を経験したので報告する。

症例:患者は45歳,女性。2か月前から肺炎でJA尾道総合病院(当院)呼吸器内科によりフォロー中であった。耳鼻咽喉科で顔面神経麻痺として治療を開始されていた。経過中にめまいが増悪するようになり,当院に救急搬送された。頭部単純MRIで異常信号はなく,右眼瞼下垂および視力低下をきたしていたことから当院眼科に紹介となった。右視力は30cm手動弁で,相対的瞳孔求心路障害は右陽性であった。両眼瞼下垂のほか,右眼は全方向で眼球運動障害があった。蛍光眼底造影検査,眼窩部単純MRI検査で右視神経周囲炎と診断し,ステロイド治療開始となった。抗好中球細胞質プロテイナーゼ3抗体が高値であったことからGPAと確定診断され,高次医療施設へ転院となった。転院後の造影MRI検査で肥厚性硬膜炎も認められた。治療により眼瞼下垂や眼球運動障害は改善したが,右視力は改善しなかった。

結論:頭痛をきたした多発脳神経障害では,肥厚性硬膜炎を鑑別するために単純MRIではなく,造影MRIが必須であると考えられる。

Uveal effusionに対して25Gトロカールを用いて脈絡膜の良好な復位を得た1例

著者: 青木真一 ,   竹内正樹 ,   剣持瑞樹 ,   蓮見由紀子 ,   山田教弘 ,   水木信久

ページ範囲:P.833 - P.837

要約 目的:uveal effusion(UE)に対しては通常,強膜開窓術が第一選択となる。しかし,強膜開窓術は経験を要する術式である。また,合併症として脈絡膜出血や脈絡膜穿孔がある。今回筆者らは,UEに対するより簡便な術式として,経毛様体扁平部硝子体切除術を併用し,25Gトロカールを用いた脈絡膜下液の排出を行った。その結果,脈絡膜の良好な復位を得ることができたので報告する。

症例:58歳,男性。1週間前より視力低下を自覚し近医を受診したところ,横浜市立大学附属病院眼科に紹介となった。初診時の左視力は(0.6),左眼底に全周性の脈絡膜剝離,裂孔を伴わない漿液性網膜剝離,移動性のある網膜下液がみられた。また,蛍光眼底造影検査では,網膜下への蛍光漏出はみられず,leopard spot patternと思われる顆粒状の過蛍光がみられた。超音波断層検査で強膜の肥厚を認め,左眼軸長が22.27mmであったことから,湖崎・宇山分類Ⅱ型のUEの診断となった。1か月後に25Gトロカールの先端を毛様体下に位置するように調整しつつ留置し,トロカールから脈絡膜下液を排液したうえで硝子体切除術を施行した。速やかに脈絡膜下液は消失し,網膜下液は徐々に減少した。術後6か月で網膜下液は完全に消失し,脈絡膜剝離の再発もない。

結論:UEにおいて,経毛様体扁平部硝子体切除術を併用した25Gトロカールによる排液が有効かつ安全であると考えた。

眼科受診から診断に至った若年女性の間質性腎炎ぶどう膜炎症候群の1例

著者: 安藤誠 ,   速水安紀 ,   久保賢哉 ,   城卓之 ,   大下貴志

ページ範囲:P.838 - P.844

要約 目的:間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(TINU症候群)は急性間質性腎炎にぶどう膜炎を合併する症候群である。今回,眼科受診を契機にTINU症候群と診断した若年女性の1例を経験したので報告する。

症例:患者は16歳,女性。右眼の結膜充血,羞明,眼痛を認め近医内科および眼科を受診した。内科では頭部MRIを施行するも異常なく,眼科では右眼結膜炎の診断で点眼加療行うも改善なく市立東大阪医療センター(当院)眼科へ紹介となった。

所見と経過:初診時視力は両眼とも(1.5),眼圧は両眼とも12mmHgであった。右眼に結膜充血,両眼に角膜後面沈着物,前房内炎症細胞を認めた。眼底は特記所見を認めなかった。心電図と胸部X線撮影に異常はなかった。血液検査では血清クレアチニン1.89mg/dl,CRP 2.04mg/dlと高値を認めた。尿検査で尿蛋白と尿糖が陽性で,尿中β2-MG 49,600μg/lと著明な高値を認めたためTINU症候群を疑い,当院腎臓内科を紹介した。腎生検で尿細管間質へのリンパ球などの炎症細胞の密な浸潤を認め急性間質性腎炎と診断され,眼所見と併せてTINU症候群と診断した。眼科ではステロイド点眼の強化,腎臓内科ではステロイド内服を開始したところ,前眼部炎症や結膜充血は消退し,腎機能も改善を認めた。

結論:TINU症候群は本症例のように若年者に多いとされている。若年者の前眼部ぶどう膜炎ではTINU症候群を鑑別に入れ,血液検査および尿検査での腎機能の確認と他科との連携が有用である可能性がある。

視神経脊髄炎スペクトラム障害加療中にCOVID-19を発症した1例

著者: 岡あゆみ ,   永吉美月 ,   髙木宣典 ,   鈴木脩司 ,   海津嘉弘 ,   津川潤 ,   衛藤聡 ,   池田貴登 ,   石井寛 ,   久冨智朗

ページ範囲:P.845 - P.850

要約 目的:抗アクアポリン(AQP)4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)に対するステロイドパルス療法および血漿交換療法施行中に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発症した1例を経験したので報告する。

症例:患者は65歳,女性。8年前より抗AQP4抗体陽性の左眼発症のNMOSDと診断され,過去に3度のステロイドパルス療法を施行されていた。今回,右視力低下を自覚し,福岡大学筑紫病院眼科を再診した。著明な右視力低下(光覚なし)と抗AQP4抗体価40U/ml以上の上昇を認め,集学的な治療が必要と判断し,ステロイドパルス療法および血漿交換療法を開始した。ステロイドパルス療法2コース,血漿交換療法5コースを施行した時点で,スクリーニング目的のPCR検査にてCOVID-19陽性が判明した。

経過:同日より個室への隔離を開始し,血漿交換療法を終了し,ステロイドパルス療法はプレドニゾロン内服漸減療法へ移行した。COVID-19陽性判明時は無症状であったが,陽性判明から4日後より発熱・咳嗽の症状が出現し,7日後から胸部単純X線写真で右肺上下葉の陰影が出現し血中酸素濃度の低下を認めたため,同日より酸素・ファビピラビルの投与を開始した。治療開始後13日で両肺野の陰影は改善し,14日間でファビピラビル投与を終了し,その後肺炎の再燃はなかった。抗AQP4抗体価は減少し,第76病日には矯正視力は右1.2,左0.2と改善した。プレドニゾロン10mg/日維持療法を行い,以降現在まで再発はない。

結論:NMOSDおよびCOVID-19に対し早期より集学的治療を行い,良好な経過を得た。今後も感染症を併発する症例の発生が予測され,早期発見・治療が重要と考えた。

ステロイドパルス療法を施行した強膜炎の2例

著者: 山本昭成 ,   吉田章子 ,   永井遼司 ,   三河章子

ページ範囲:P.851 - P.856

要約 目的:強膜炎の約30%には関節リウマチなど全身性の自己免疫疾患を伴うことが知られており,原疾患がわかればそれに準じて治療を行うことになる。しかし,実際には強膜炎の約50%は原疾患が不明で,なかには治療に難渋する症例もある。今回,原因不明の強膜炎に対してステロイドパルス療法を行った2例を経験したので報告する。

症例:症例1は後部強膜炎で,ステロイドパルス療法への反応が良好で早期に寛解が得られた。症例2は眼科手術を契機として発症した壊死性強膜炎で,免疫抑制薬の内服・点眼に加えてステロイドパルス療法を行うも角膜真菌感染を生じ,最終的に角膜穿孔のため眼球摘出に至った。

結論:重症な強膜炎の治療選択は,明確な診断基準や治療指針がないため,病状経過や診察医師の経験で判断せざるをえないことが問題である。難治症例もあるため,治療開始時点から強力な治療が必要となる場合もある。

連載 今月の話題

緑内障診療ガイドライン(第5版)のつぼ

著者: 木内良明

ページ範囲:P.723 - P.730

 診療ガイドラインは臨床上の疑問に対する「お答え」を掲載する文書である。その回答の作成には科学的根拠(論文,総説,教科書など)を参考にする。研究手法,統計方法,対象者などからその科学的根拠を系統的に評価する。そして,その信頼性と確からしさをグレード化して結果とともに発表する。エビデンスに基づいた医療を側面から支援するものである。

Clinical Challenge・27

眼球外傷の鑑別診断

著者: 恩田秀寿

ページ範囲:P.718 - P.721

症例

患者:28歳,男性

主訴:右球結膜出血,眼痛,視力低下

既往歴:特になし

家族歴:特になし

現病歴:化学の蒸留の実験中にフラスコが爆発し,顔面に薬液とフラスコの破片が飛散した。保護眼鏡は着用していなかった。複数箇所の顔面裂傷とともに右球結膜の出血を認めた。さらに,右眼の痛みに伴う流涙を自覚した。救急搬送中に眼科医の指示で大量の生理食塩水で洗眼を行い,事故から1時間12分後に眼科外来を受診した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・21

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—近視性牽引黄斑症—経過観察時の注意点・手術適応

著者: 大杉秀治

ページ範囲:P.732 - P.737

◆視力検査,アムスラーチャート・Mチャート,OCTで経過観察する。

◆視力の悪化,歪視の出現・悪化,網膜外層の欠損や黄斑剝離があれば手術を考慮する。

◆併発疾患の有無・程度を詳細にチェックする。

臨床報告

COVID-19により診断と治療開始が遅れたVogt-小柳-原田病の1例

著者: 武藤哲也 ,   町田繁樹 ,   今泉信一郎

ページ範囲:P.741 - P.746

要約 目的:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により診断と治療開始が遅れたVogt-小柳-原田病(VKH)の1例を経験したので報告する。

症例:患者は59歳,男性。両眼の視力低下と頭痛を自覚し近医を受診した。原因不明のぶどう膜炎と診断され,点眼液が処方された。その後COVID-19陽性が判明し,2週間の自宅隔離となった。隔離が解除になり,前医を再診したところ悪化していたのでプレドニゾロン20mg/日の内服を追加処方され,獨協医科大学埼玉医療センター眼科に紹介され受診となった。初診時視力は右0.2(0.5),左0.3(0.5)で,両眼ともほぼ全周に水晶体と虹彩癒着があり,右眼底に脈絡膜剝離,両眼に脈絡膜肥厚を生じていた。VKHと診断し,ステロイドパルス療法を行った。当初は治療によく反応したが,治療開始4か月後からプレドニゾロン内服を時折休薬していた。治療開始5か月後に前房内炎症が再燃した。治療開始10か月後の視力は左右とも(1.2)であり,夕焼け状眼底を呈している。

考按:COVID-19陽性が判明し隔離が必要となり治療開始が遅れたこと,不適切なプレドニゾロン内服などが,再燃に結びついた可能性がある。

慢性涙囊炎を背景とした大腸菌感染により角膜穿孔を呈した1例

著者: 伊藤大 ,   山田健司 ,   重安千花 ,   柳沼重晴 ,   久須見有美 ,   山田昌和

ページ範囲:P.747 - P.752

要約 目的:大腸菌(E. coli)は,感染性角膜炎の起炎菌としては非常に稀である。今回,慢性涙囊炎を背景としたE. coliによる角膜穿孔を生じた1例を経験したので報告する。

症例:82歳,女性。5年前に近医で左鼻涙管狭窄症と診断されていた。左眼の視力低下,眼瞼腫脹,膿性眼脂の増量を自覚し近医を受診した。感染性角膜炎と診断され0.5%モキシフロキサシン塩酸塩点眼,0.5%セフメノキシム塩酸塩点眼を開始したが,角膜の菲薄化が進行したため杏林アイセンターに紹介され受診となった。初診時矯正視力は左0.01,左眼の角膜傍中心部にデスメ膜瘤を伴う円形潰瘍がみられた。眼脂の細菌学的検査よりフルオロキノロン耐性E. coliが同定され,0.5%アルベカシン硫酸塩点眼(自家調製)に変更した。感染は沈静化したものの,角膜切迫穿孔に対し表層角膜移植術(LKP)を施行した。術後の経過は良好であったが,0.5%アルベカシン硫酸塩点眼の中止後に角膜移植片の融解が生じたため同薬剤を再開した。慢性涙囊炎のために涙道から眼表面に病原菌が供給されていると推測し,根治療法として涙道内視鏡下涙管チューブ挿入術を施行した。涙囊炎は改善したものの,術後1週目に角膜菲薄部の穿孔を生じたためLKPを再度施行し,その後は安定している。

結論:E. coliは涙道の常在菌であり,涙囊炎の起炎菌としても知られている。本症例では長期にわたる細菌の涙囊内への滞留により眼表面の細菌叢に変化が生じ,E. coliが角膜炎の起炎菌になったと考えられる。

黄斑円孔網膜剝離に自然発症した上脈絡膜出血の1例

著者: 安藤拓海 ,   上田恵理子 ,   渡邉航太 ,   寺島浩子 ,   吉田博光 ,   宮島誠 ,   福地健郎

ページ範囲:P.753 - P.758

要約 目的:強度近視眼に自然発症の上脈絡膜出血と黄斑円孔網膜剝離を合併した1例を報告する。

症例:患者は76歳,女性。両眼に強度近視あり。3週間前より左視力低下を自覚したため,近医を受診し脈絡膜剝離を指摘され新潟大学医歯学総合病院眼科に紹介となった。

所見:左視力は手動弁で,左眼圧は3mmHgと低眼圧であり,眼軸長は29.17mmだった。全周に高度な脈絡膜剝離を認めるものの,網膜剝離や網膜裂孔は明らかではなく,超音波検査では上脈絡膜出血が疑われた。25Gシステムのトロカールカニューラとベントチューブによる上脈絡膜出血の排液と硝子体手術を行い,術中に黄斑円孔網膜剝離を認めた。初回手術から2か月後,円孔閉鎖と網膜復位を得た。

結論:黄斑円孔網膜剝離は自然発症の上脈絡膜出血の原因となりうる。また,トロカールカニューラとベントチューブによる脈絡膜出血の排液は簡便で有用であった。

今月の表紙

アトピー性白内障

著者: 坂本正明 ,   髙橋次郎 ,   西口康二

ページ範囲:P.722 - P.722

 患者は47歳,男性。アトピー性皮膚炎の既往があり,他院にて20代の頃から白内障を指摘されていた。その後,徐々に白内障が進行し,視力障害が生じたため,手術目的で当院に紹介され受診となった。初診時の視力は右0.2(0.3×+1.5D),左0.5(1.0×+0.5D()cyl−2.5D 10°),眼圧は右14mmHg,左19mmHgであった。細隙灯顕微鏡で両眼の前囊下と後囊下に白内障所見が認められ,右眼は眼底が透見困難な状態であった。両眼の白内障に対し超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術を施行した。術後経過は良好で,矯正視力は両眼とも(1.2)に改善した。

 撮影には,TOPCON社製スリットランプSL-D7にNikon社製デジタル一眼レフカメラD300を取り付けた装置を使用した。撮影条件は,スリット長14mm,幅10mm,背景照明なしとした。混濁部の立体感を強調できるように,スリット光を大きく耳側へ振り,斜照明での撮影を行った。被検者の眩しがる様子が強かったため,スリット光の角度,光量,ピントにも留意しながら撮影した。

海外留学 不安とFUN・第77回

ボストン研究留学のすゝめ・4

著者: 富田洋平

ページ範囲:P.738 - P.739

幅広い経験

 ボストンは歴史の古い都市で,文化も成熟しており,バレエ,ミュージカル,オペラといった舞台芸術に触れる機会が多く,さまざまな美術館も身近にあります。スポーツも野球,サッカー,アイスホッケー,バスケット,アメフトなどメジャーなスポーツの本拠地があり,応援の際の一体感は言い知れぬ高揚を味わえます。

 また,医療に関してはMassachusetts Eye and Ear(MEE)に勤めていらっしゃった米川能弘先生の網膜硝子体手術を見学させていただきました。午前7時半には加刀で,時間内に終わらせるのが慣例のようです。私たちは,小児のコーツ病患者の手術をNGENUITY®越しに見学しました。実際の手術を見ていると,早く自分も臨床に戻りたいという気持ちも高まりました。

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目次

ページ範囲:P.714 - P.715

欧文目次

ページ範囲:P.716 - P.717

第40回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.731 - P.731

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.857 - P.861

アンケート用紙

ページ範囲:P.866 - P.866

次号予告

ページ範囲:P.867 - P.867

あとがき

著者: 黒坂大次郎

ページ範囲:P.868 - P.868

 本号の「今月の話題」は広島大学の木内良明先生による「緑内障診療ガイドライン(第5版)のつぼ」です。緑内障ではガイドラインが適時に改訂され,今回の記事を読んでいただければ実感されると思いますが,まさに今知りたい内容がまとまっています。OCTをはじめとするさまざまな検査機器の発達など,それによる新しい知見など,この分野が目覚ましく進歩していることを実感します。いずれはAIなども登場してくるのでしょうか?

 さて,この原稿を書いているのは2022.4.23です。ここ数年は,COVID-19によるパンデミックで世の中は大きく変わり,学会にもオンライン化が一気に広まりました。4.11には岩手県宮古市が31℃と真夏日を記録するなど,温暖化はますます実感されるようになりました。東日本大震災から11年目ですが,3月の福島沖での地震で東北新幹線は福島-仙台間で不通となり,今もダイヤは乱れたままです。そして,ロシアがウクライナに武力侵攻し約2か月たちますが,TVでは戦況報告が連日のトップニュースです。経済面では,欧米ではインフレが顕在化し,金利が上昇し,その影響によってか20年ぶりの円安となっています。世界が大きく変化しています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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