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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻7号

2022年07月発行

雑誌目次

特集 第75回日本臨床眼科学会講演集[5] 原著

潰瘍性大腸炎治療中に発症した両眼性の内因性Listeria眼内炎の1例

著者: 平沼優悟 ,   齊間至成 ,   田中克明 ,   御任真言 ,   髙木理那 ,   榛村真智子 ,   髙野博子 ,   梯彰弘 ,   蕪城俊克

ページ範囲:P.915 - P.919

要約 目的:潰瘍性大腸炎に対して免疫抑制薬で加療中に発症した,両眼性のListeria眼内炎の1例について報告する。

症例:84歳,男性。潰瘍性大腸炎に対して免疫抑制薬を使用中,ペースメーカー挿入術後に両眼の霧視と眼痛を自覚した。前医で両眼虹彩炎と硝子体混濁を認めたためステロイドの点眼および内服を開始され,発症1週間後に当科へ紹介となった。初診時,両眼とも光覚弁であった。前房蓄膿,硝子体混濁で眼底透見不能,全眼球炎の状態であった。同日全身麻酔下で両眼白内障・硝子体同時手術(シリコーンオイル充塡)を施行した。右眼球優位に両眼の周辺網膜の白色化,フィブリン膜形成,網膜全周の白鞘化血管を認めた。硝子体液培養からListeria菌を検出した。術後徐々に炎症は鎮静化したが,全身状態不良により伏臥位姿勢が取れず,術後4週目に右網膜剝離を発症した。強膜バックリング術+硝子体手術を2回行ったが,網膜剝離が再発した。全身状態を考慮し,以降の手術は行わなかった。左眼には網膜剝離を認めず,術半年後時点での視力は,右指数弁,左(0.15)である。

結論:免疫抑制状態や高齢者などハイリスク患者の内因性眼内炎の起炎菌としてListeria菌も念頭に置く必要がある。

ブリモニジンによる角膜混濁が疑われた1例

著者: 宮久保朋子 ,   戸所大輔 ,   秋山英雄

ページ範囲:P.921 - P.925

要約 目的:ブリモニジン酒石酸塩点眼液の副作用として点状表層角膜炎,眼瞼炎,濾胞性結膜炎が知られているが,近年ブリモニジン点眼中に角膜混濁をきたした症例が複数報告されている。今回筆者らは,ブリモニジンを含む緑内障点眼多剤併用中に角膜混濁をきたした症例を経験したので報告する。

症例:73歳,女性。2016年12月に両眼の開放隅角緑内障と診断され,近医でタフルプロスト,ブリモニジン,ヒアルロン酸ナトリウム点眼を処方されていた。2020年10月に右角膜混濁に気づき,当院を紹介され受診した。初診時,両眼の結膜充血と結膜濾胞を認めた。また,右角膜周辺部に血管侵入を伴う扇形の角膜実質混濁を認めた。血液検査で結核および梅毒の感染はいずれも否定され,前房水の網羅的PCR検査では単純ヘルペスウイルス,水痘帯状疱疹ウイルスを含む全項目が陰性であった。ブリモニジンによる角膜混濁の既報と所見が類似していたことからブリモニジンによる角膜混濁を疑って点眼を中止し,ベタメタゾン点眼を開始した。ブリモニジン中止後,両眼の結膜充血と結膜濾胞は改善したが,角膜実質混濁は残存した。

結論:緑内障点眼多剤併用中に角膜周辺部の実質混濁をきたした症例を経験した。ブリモニジンによる角膜混濁の既報と所見が類似していること,結膜充血と結膜濾胞がみられたことから,ブリモニジンによる慢性の結膜充血から角膜新生血管を生じ,角膜実質内に脂質沈着をきたしたものと思われた。

強膜内陥術時の排液部からの感染が疑われた眼内炎の1例

著者: 岡部穂奈美 ,   横山康太 ,   恩田秀寿 ,   當重明子 ,   浅野泰彦

ページ範囲:P.927 - P.932

要約 目的:強膜内陥術後に眼内炎をきたした報告は少ない。今回,強膜内陥術時の排液部からの感染が疑われた眼内炎の1例を経験したので報告する。

症例:49歳,男性。手術日X日の1〜2週間前から右眼の飛蚊症を自覚した。X−3日から右眼の耳下側に影が見えるとの訴えで前医を受診した。右眼網膜剝離を認めたために,精査加療目的に当院を紹介され受診となった。X日に強膜内陥術を施行した。X+3日目に眼痛が増強し,前眼部炎症が著明になり,毛様充血,結膜浮腫,眼瞼腫脹を認めたため,眼底透見は困難であった。術後眼内炎と診断し,同日硝子体手術を施行した。セフタジジム20mgとバンコマイシン塩酸塩10mgを500mlの灌流液に混注した。排液部に一致した網膜下に黄色滲出斑と膿瘍を認めたことから,排液部から感染したと考えた。バックルを摘出せずに,膿瘍部の網膜を切開して排膿を行った。セフタジジム20mg/mlとバンコマイシン塩酸塩10mg/mlを結膜下注射して終了した。後日,前房水と硝子体液の培養では陰性が報告されたが,急速に進行した経過から細菌性眼内炎が疑われた。X+13日に網膜剝離が再発した。X+14日に硝子体手術とシリコーンオイル注入術を施行した。X+4か月後にシリコーンオイル抜去術と眼内レンズ挿入術を施行した。X+7か月後,網膜剝離の再発はない。

結論:強膜内陥術時の排液部からの細菌性感染が疑われた術後眼内炎に対し,網膜を切開して排膿することで良好な視力を得られた症例を経験した。

多焦点眼内レンズ挿入後に網膜硝子体疾患のために硝子体手術を要した5症例の検討

著者: 近江正俊 ,   山田晴彦 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.933 - P.938

要約 目的:多焦点眼内レンズ(mIOL)挿入後に,網膜硝子体疾患のために硝子体手術を行った5症例について検討した。

対象と方法:2017年1月〜2020年12月の間に関西医科大学附属病院眼科を受診した症例のうち,mIOLがすでに挿入されている眼に硝子体手術を行った5症例(裂孔原性網膜剝離2例,黄斑上膜1例,黄斑円孔1例,増殖糖尿病網膜症1例)について,網膜硝子体疾患発症のタイミング,硝子体手術前後の視力,手術時の眼底の見え方や問題点について検討した。

結果:網膜硝子体疾患は,mIOL挿入前からあったと考えられるものが2例(黄斑上膜,増殖糖尿病網膜症),mIOL挿入時の後囊破損を契機に生じたと考えられる網膜剝離が2例,mIOL挿入後に発症したと考えられる黄斑円孔が1例であった。硝子体手術によって術前平均logMAR 0.52から術後平均logMAR 0.04(p=0.21)へと全例で視力は改善し,術中合併症や再手術を要した症例はなかった。硝子体手術は広角観察システム下で行う限りは,眼内の視認性がわずかに低下するだけで手術手技に大きな影響はなかった。しかし,術中観察用接触型レンズ下の直像観察ではフォーカシングしても視野内のすべてで像がぼやけ,視認性は著明に低下していた。

結論:mIOLを挿入する際には,他の眼疾患がないか確認してその適応を守り,術後に網膜硝子体疾患が生じて手術が必要な場合には,熟練者が治療にあたるべきと考える。

眼窩内容除去術を施行した眼瞼悪性腫瘍の3例

著者: 飯渕顕 ,   小幡博人 ,   田中崇広 ,   小泉宇弘 ,   阿部竜三郎 ,   山田布沙絵 ,   星太 ,   山﨑厚志

ページ範囲:P.939 - P.944

要約 目的:4か月の短期間に進行した眼瞼悪性腫瘍のため眼窩内容除去術を施行した3例の報告。

症例:症例1は83歳,女性。1年前から右上眼瞼に腫瘤を自覚した。半年前から徐々に増大していたが,コロナ禍で受診の機会を失っていた。初診時,右上眼瞼全体に腫瘍性病変があり,球結膜の充血も認めた。球結膜を含む5か所のmapping biopsyを行ったところすべて脂腺癌で,球結膜にも浸潤していた。症例2は83歳,女性。2か月前から右上眼瞼の腫脹,疼痛,出血が出現した。初診時,右上眼瞼縁に大きな潰瘍を伴う硬い腫瘍性病変を認め,生検を行ったところ脂腺癌であった。眼窩MRIでは上眼瞼挙筋や涙腺への浸潤が疑われた。全身CTでは右頸部リンパ節転移を認めた。症例3は74歳,男性。2年前,右下眼瞼に腫瘤を自覚したものの放置していた。初診時,下眼瞼全体に大きな潰瘍を伴う硬い腫瘍性病変を認め,生検を行ったところ基底細胞癌であった。眼窩CTで腫瘍は眼窩に浸潤し,眼球や外眼筋に接していた。症例1〜3に対して眼窩内容除去術を施行した。症例2は右頸部に放射線治療も行った。

結論:眼瞼悪性腫瘍で視機能を失わないために,眼瞼悪性腫瘍は早期に発見し,小さいうちに治療することが大切である。新型コロナウイルス感染症が流行するなかで受診抑制とならないように,医療界で必要な受診を促すことは大切と思われた。

強化インスリン療法中に週単位の経過で増悪寛解した水晶体混濁の1例

著者: 志水悠一郎 ,   飯田悠人

ページ範囲:P.945 - P.948

要約 目的:急性糖尿病白内障は血糖是正で改善することが知られている。今回筆者らは,血糖是正中に両側性一過性白内障を発症した1例を経験したので報告する。

症例と所見:45歳,男性。5か月前から口渇・嘔気・体重減少を認めた。HbA1c 20.0%,空腹時血糖(FPG)876mg/dlと高値であったため,強化インスリン療法を開始した。6日目以降FPGは200mg/dl以下で安定したが,10日目に両眼に後囊下混濁が出現した。18日目には後囊下混濁は消失傾向となった。

結論:高血糖状態からの急激な血糖低下により水晶体混濁をきたし,良好な血糖調整により水晶体混濁が消失したと考えられた。本症例のような可逆性水晶体混濁を認識することで,不要な白内障手術を回避できる。

ペムブロリズマブ投与中に脈絡膜剝離とVogt-小柳-原田病様のぶどう膜炎を生じた1例

著者: 松野賢人 ,   鎌尾浩行 ,   三木淳司 ,   桐生純一

ページ範囲:P.949 - P.956

要約 目的:免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ投与中に脈絡膜剝離とVogt-小柳-原田病様のぶどう膜炎を生じた1例の報告。

症例:82歳,女性。右鼻腔悪性黒色腫に対しペムブロリズマブ5クール投与中に両眼痛と視力低下を自覚し,近医で眼内隆起性病変を指摘され当科を紹介受診した。初診時の視力は右(0.3),左(0.5),眼圧は右9mmHg,左11mmHg。両眼に硝子体混濁と脈絡膜剝離を認め,網膜光干渉断層計で漿液性網膜剝離と脈絡膜皺襞を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影検査で両眼の斑状蛍光漏出と視神経乳頭の過蛍光を,インドシアニングリーン蛍光眼底造影検査で両眼の低蛍光斑を認めた。同時期より耳鳴と難聴が出現し,髄液検査ではリンパ球優位の細胞増加がみられ,HLA-DR4は陽性であり,ペムブロリズマブの副作用によるVogt-小柳-原田病様のぶどう膜炎と診断した。同薬を中止し脈絡膜剝離は消失したが,両眼の低眼圧,球結膜充血,虹彩炎,豚脂様角膜後面沈着物が認められ,本人の希望により副腎皮質ステロイド全身投与は行わず,点眼とテノン囊下注射にて治療を開始した。その後ぶどう膜炎は消失し,初診より14週間後の視力は両眼(1.0)に改善し,眼圧も正常化した。

結論:ペムブロリズマブによる汎ぶどう膜炎の治療には副腎皮質ステロイド全身投与が推奨されているが,本症例のような脈絡膜剝離を伴う強い汎ぶどう膜炎であっても同薬の中止と局所投与にて寛解したため,局所治療が全身治療に代用できる可能性がある。

無水晶体眼のアトピー緑内障に対して4-0プロリーン®ステント併用アーメド緑内障バルブ挿入術を施行した2例

著者: 東千晶 ,   浅田洋輔 ,   鈴木貴英 ,   小森翼 ,   春日俊光 ,   松田彰

ページ範囲:P.957 - P.963

要約 目的:ワンコンパートメントアイ(無水晶体眼)の緑内障では,チューブシャント手術後に低眼圧や硝子体嵌頓を経験することがある。今回,無水晶体眼の緑内障に対して,ステント併用アーメド緑内障バルブ(AGV)を挿入し,良好な成績を収めた2症例について報告する。

症例1:55歳,男性。アトピー白内障術後の無水晶体眼で,上方結膜の瘢痕化と前房内への硝子体脱出を認めた。左眼圧上昇に対して緑内障点眼薬で眼圧下降するも,通院自己中断を繰り返し,視野障害が進行したため,4-0プロリーン®ステント併用AGV挿入術と前部硝子体切除術を施行した。

症例2:55歳,男性。アトピー白内障術後の無水晶体眼で,前房内への硝子体脱出を認めた。通院自己中断を繰り返し,左眼圧コントロール不良で当院を受診。4-0プロリーン®ステント併用AGV挿入術と前部硝子体切除術を施行した。

結果:2症例とも術後良好な眼圧コントロールを得られ,合併症は認めなかった。

結論:ワンコンパートメントアイの緑内障に対して,ステント併用AGV挿入術は有効な術式であると考えられた。

転移性脈絡膜腫瘍を疑う眼所見から診断に至った悪性リンパ腫の1例

著者: 小玉裕加里 ,   篠崎和美 ,   古田実 ,   都築馨太 ,   吉永健太郎 ,   長谷川泰司 ,   飯田知弘

ページ範囲:P.964 - P.970

要約 目的:ドーム状の隆起性病変を呈し,転移性脈絡膜腫瘍を疑う眼底所見から悪性リンパ腫の診断に至った1例を経験したので報告する。

症例:75歳,女性。メトトレキサート治療歴のある関節リウマチ患者で,他院で発熱,血球減少,多発肺結節,脾臓内の多発腫瘤を指摘された。精査目的で当院内科に転院となり,サルコイドーシス,悪性リンパ腫などの鑑別目的で当科初診となった。

所見:初診時視力は両眼(1.2)で,両眼に虹彩炎と網膜出血の散在がみられた。0.1%ベタメタゾン点眼液の開始2週間後には,虹彩炎は消退し,網膜出血も吸収傾向を示した。内科で施行した骨髄穿刺で悪性リンパ腫を示唆する所見はなく,全身状態も改善がみられた。2か月後に右眼底下鼻側に転移性脈絡膜腫瘍を疑う約10乳頭径大の黄白色隆起性病変が出現した。内科に依頼したPET/CTにより脾臓,肺結節部,眼球後壁に異常集積がみられ,脾臓の生検が施行された。High-grade B-cellリンパ腫(Stage Ⅳ)の診断に至り,R-EPOCH療法開始となった。治療開始時には右視力は(0.7)に低下し,黄斑部に及ぶ下方2象限の漿液性網膜剝離へと拡大していたが,化学療法開始2週間後には改善を示した。化学療法開始6か月後に完全寛解となり,病変部に萎縮は残存するが視力も(1.2)に回復した。

結論:眼内リンパ腫の眼所見の多様性,悪性リンパ腫を念頭に置いた経過観察の重要性が示唆された。

Lamellar hole-associated epiretinal proliferationにembedding techniqueを用いた硝子体手術を行った1例

著者: 守屋穣 ,   新井悠介 ,   坂本晋一 ,   長岡広祐 ,   高橋秀徳 ,   牧野伸二 ,   川島秀俊

ページ範囲:P.971 - P.975

要約 目的:Lamellar hole-associated epiretinal proliferation(LHEP)を伴う分層黄斑円孔に対し,embedding techniqueを用いた硝子体手術を行った症例を報告する。

症例:76歳,女性。初診8年前より右眼の分層黄斑円孔に対し経過観察されていた。右眼の視力低下が進行したため,手術目的に当科を紹介され受診した。右視力は(0.7)で,LHEPを伴う分層黄斑円孔を認めた。術前の中心窩網膜厚(CRT)は183μmで,ellipsoid zone(EZ)は不連続であった。27G白内障手術併施硝子体手術を施行した。円孔周囲に広範なepiretinal proliferationを認めたため,一部トリミングを行い,EPを翻転し円孔内に埋め込むembedding techniqueを行った。術翌日,黄斑部の組織間隙は修復されたが,埋め込みによりCRTは肥厚していた。その後,CRTは徐々に薄くなり,術後12か月で371μmとなり,不連続であったEZも回復傾向で,視力は(1.2)まで改善した。

結論:LHEPを伴う分層黄斑円孔に対するembedding techniqueでは術後網膜厚が増加しても,良好な術後視力が得られる可能性がある。

抗菌薬治療で良好な経過をたどった急性網膜内層炎の2例

著者: 祖父江茜 ,   岩橋千春 ,   濱野結貴 ,   梅本弓夏 ,   春田真実 ,   南高正 ,   眞下永 ,   大黒伸行

ページ範囲:P.976 - P.982

要約 目的:抗菌薬治療で良好な経過をたどった急性網膜内層炎の2例の報告。

症例:症例1は79歳,女性。右眼の飛蚊症を自覚し,近医で前房炎症,硝子体混濁を指摘され,ステロイド点眼を開始されるも右眼の眼底出血と軟性白斑が出現したため,当院へ紹介となった。右眼の矯正視力0.6,眼底にびまん性硝子体混濁,網膜白色病巣,出血を認め,光干渉断層計(OCT)で白斑部位に一致して網膜内層病変を認めた。1か月のミノサイクリン200mg/日の内服により白斑は消失し,視力は0.9まで改善した。

 症例2は60歳,男性。前医で右眼の前房炎症,両眼の網膜動脈分枝閉塞症,両眼の網膜白色病巣,さらに蛍光眼底造影検査で右眼の網膜血管炎を指摘され,精査加療目的で当院へ紹介となった。矯正視力は右1.2,左0.8であった。症例1と同様に,OCTで左眼の黄斑近傍の白斑部位に一致して網膜内層病変を認めた。デキサメタゾン結膜下注射およびミノサイクリン200mg/日とクラリスロマイシン400mg/日の内服により,2か月半で炎症は消失し,両眼とも1.2まで視力改善を得た。

結論:網膜内層に白色病巣を伴うぶどう膜炎に対して抗菌薬治療が奏効する可能性がある。

照射エネルギー減量光線力学的療法後30か月安定した多発性後極部網膜色素上皮症の1例

著者: 中尾拓貴 ,   三澤宣彦 ,   居明香 ,   平山久美子 ,   山本学 ,   河野剛也 ,   本田茂

ページ範囲:P.984 - P.990

要約 緒言:高度な漿液性網膜剝離を伴った多発性後極部網膜色素上皮症(MPPE)に対して照射エネルギー減量光線力学的療法(RF-PDT)後に長期間安定した1例を経験したので報告する。

症例:63歳,男性。IgA腎症に対して2018年5月よりステロイド投与されていた。2018年10月頃より右視力低下を自覚し,同年11月に近医で網膜剝離を指摘されて当科に紹介された。初診時視力は右(0.7),左(0.9)で,黄斑部から耳下側にかけて網膜皺襞を伴う広範な漿液性網膜剝離を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影で黄斑部下方および耳側の網膜色素上皮病変から著明な蛍光漏出を認めた。MPPEと診断し,RF-PDTを1回行った。PDT後3か月で網膜剝離は一部を残し消失した。PDT後12か月の造影検査では脈絡膜血管透過性亢進を認めるものの滲出性変化はなく,その後も30か月時点まで再発はみられず,最終視力は右(0.9)まで改善した。

結論:高度な漿液性網膜剝離を伴うMPPEに対してRF-PDTは長期間にわたり有効な治療であった。

Visual snow syndromeの2例

著者: 田村佳菜子 ,   國吉一樹 ,   堀田芙美香 ,   松本長太 ,   日下俊次

ページ範囲:P.991 - P.996

要約 目的:Visual snow syndrome(VSS)は1995年にLiuらにより最初に報告された症候群で,視界に小雪や砂嵐のようなノイズを常時感じる疾患である。病因は不明で,発症時期は約3割が小児期である。症状は自然軽快することもあるが,軽快しないことが多い。筆者らは,VSSの2例を経験したので報告する。

症例1:17歳,男性。主訴は「15歳時より視野に暗い所と明るい所があり,砂嵐が舞っているような細かな白点が視野一面に見える」というものであった。物を見ると残像が残り,羞明があった。視力は左右とも2.0(矯正不能)で,前眼部,中間透光体,眼底,視野,光干渉断層計検査(OCT),視覚誘発電位(VEP)の結果は正常であった。網膜電図(ERG)ではフラッシュERGがnegative型であったが,杆体ERGと錐体ERGは正常であった。

症例2:21歳,男性。主訴は「幼稚園の頃から,天気の悪い日や寝る前に部屋の電気を消すと視野一面に砂嵐のような細かい白点が見える」というものであった。物を凝視すると残像が残り,羞明があった。視力は右0.06(1.5),左1.5で,前眼部,中間透光体,眼底,視野,OCT,ERG,VEP所見は正常であった。

結論:VSSは特徴的な症状を有するので,診断基準(Schankin et al 2014)を把握して病状をよく聴取することが重要である。

ステロイドパルス療法を行ったVogt-小柳-原田病患者の病型別検討

著者: 近藤千尋 ,   川村朋子 ,   小林彩加 ,   原田一宏 ,   上野智弘 ,   内尾英一

ページ範囲:P.997 - P.1002

要約 目的:Vogt-小柳-原田病(VKH)症例について病型別の臨床所見の検討を行った。

対象と方法:2007年1月1日〜2020年12月31日に福岡大学病院で初発VKHと診断され入院治療を行った37症例を乳頭炎型と剝離型に分け,入院時年齢,初診時視力,入院期間,体重当たりプレドニゾロン(PSL)換算ステロイド総投与量,ステロイド全身投与期間,ステロイド30mgに減量するまでの期間,最終視力,再発の有無について検討した。

結果:全症例は37例で,平均年齢(±標準偏差)は50.9±17.4歳(12〜82歳),男性13例,女性24例で,女性に多かった。乳頭炎型10例,剝離型27例で,それぞれの平均年齢は60.5歳と47.4歳であり,有意に乳頭炎型で高かった。再発は全体の9例(24.3%)であり,乳頭炎型の3例(33%),剝離型の6例(22%)で再発した。病型別再発率は剝離型で22%,乳頭炎型で30%であった。初診時視力,入院期間,体重当たりPSL換算ステロイド総投与量,ステロイド全身投与期間,ステロイド30mgに減量するまでの期間,最終視力については両群に有意差はなかった。

結論:乳頭炎型は発症年齢が高く,剝離型に比べ再発も多い傾向にあり注意が必要である。VKHに対するステロイド全身投与は,年齢や病型ごとに考慮すべきことが示唆された。

裂孔原性網膜剝離に対する強膜バックリング術後に特異な炎症反応を生じたアトピー性皮膚炎の2例

著者: 野中椋太 ,   馬詰和比古 ,   曽根久美子 ,   朝蔭正樹 ,   馬詰朗比古 ,   山本香織 ,   後藤浩

ページ範囲:P.1003 - P.1008

要約 緒言:アトピー性皮膚炎(AD)では,2.3〜8%に裂孔原性網膜剝離(RRD)が合併するとされる。重度ADに伴うRRDに対して強膜バックリング(SB)術を施行後,特異な炎症反応を呈した2例を経験したので報告する。

症例:症例1は28歳,女性。アトピー白内障術後の経過観察中に左眼下方のRRDを生じた。シリコーンタイヤを用いたSB術を施行したところ,術翌日から眼痛と結膜充血を認めた。ステロイド薬の内服で一時的に結膜充血は改善したが徐々に結膜が融解し,局所感染も合併し,シリコーンタイヤが露出した。抗菌薬治療および結膜縫合を試みたが再度離開したため,シリコーンタイヤを部分的に切除した。民間療法施設での精査によってシリコーンタイヤに対する過敏反応を指摘されたため,最終的にすべてのシリコーンタイヤを摘出したところ,炎症所見は消退した。

 症例2は47歳,男性。左眼の網膜萎縮円孔を原因とする下方のRRDに対してSB術を施行した。術後の経過は良好であったが,5日目に突然,左眼視力が手動弁まで低下し,高度な結膜浮腫と前房蓄膿,硝子体混濁が観察された。術後感染性眼内炎の治療プロトコールに沿って薬物療法を施行したが,反応は限定的であった。治療開始3日目からステロイドの点滴静注を施行したところ,速やかに結膜充血は改善し,前房蓄膿も消失し,眼底も透見可能となった。

結論:SB術後に特異な局所炎症反応を生じた2症例を経験した。原因は不明であるが,いずれも重度のADが背景にあり,その関与が推定された。

連載 今月の話題

ソフトコンタクトレンズ最新情報

著者: 土至田宏

ページ範囲:P.884 - P.890

 ソフトコンタクトレンズ(SCL)は屈折矯正の手段としてすっかり定着した一方,技術革新により新たな価値が付加された新しい種類が続々と登場し,いまだ進化し続けている。本稿では,2018年以降に日本初登場となった画期的ともいえる5種類のSCL,不正乱視対応特殊デザインSCL,遠近両用トーリックSCL,焦点深度拡張型(EDOF)遠近両用SCL,調光機能付きSCL,抗アレルギー薬含有SCLに焦点を当てて解説する。

Clinical Challenge・28

黄斑部に白色病変を呈した症例

著者: 中尾久美子

ページ範囲:P.877 - P.880

症例

患者:73歳,女性

主訴:左眼の視力低下

既往歴・家族歴:特記事項なし

現病歴:X年11月,左眼の視力低下で近医を受診した。左視力(0.4)で,左眼中心窩の下耳側に1/3〜1/2乳頭径大の白色病変と囊胞様黄斑浮腫があり,加齢黄斑変性の診断でアフリベルセプト硝子体注射をX年12月から1か月ごとに計3回施行され,白色病変と黄斑浮腫は消失して左視力(1.2)に改善した。X+1年9月から左眼黄斑浮腫が悪化したが,本人の了解が得られずにアフリベルセプト硝子体注射は追加されず,その後左眼黄斑部に白色病変が再発して左視力(0.04)に低下し,X+1年11月に当科を紹介された。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・22

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—近視性牽引黄斑症—手術方法と成績

著者: 高橋洋如 ,   渡辺貴士

ページ範囲:P.891 - P.895

◆近視性牽引黄斑症への硝子体手術は2000年代前半に普及し,機器の進歩により低侵襲化され,成績は向上してきている。

◆黄斑分離症への手術後に形成される黄斑円孔が視力不良の原因であったが,中心窩温存内境界膜剝離術の開発により,発症率が低下した。

◆黄斑円孔網膜剝離では内境界膜翻転法や自家網膜移植術によって黄斑円孔の閉鎖率が上がり,治療成績が改善した。

臨床報告

チューブシャント手術後の眼圧上昇に対して線維柱帯切開術が有効であった2例

著者: 角野晶一 ,   前田美智子 ,   植木麻理 ,   高田悠里 ,   根元栄美佳 ,   河本良輔 ,   小嶌祥太 ,   杉山哲也 ,   喜田照代 ,   池田恒彦

ページ範囲:P.899 - P.904

要約 目的:チューブシャント手術後の角膜内皮障害を有する眼圧再上昇例に対し線維柱帯切開術(LOT)を施行し,眼圧下降を得た2例を経験したので報告する。

症例1:75歳,男性。両眼原発開放隅角緑内障に対して左眼に2001年にLOT,2012年に白内障手術と線維柱帯切除術(LET)を施行するも眼圧再上昇し,2013年にバルベルト(BGI)によるチューブシャント手術を施行した。術3年後,眼圧は再上昇し,チューブフラッシュを行うも眼圧コントロールが不良であり,2019年に再手術となった。角膜内皮細胞密度(CECD)が1,181cells/mm2と減少しており,LOT眼内法およびチューブフラッシュを選択した。術2年後,眼圧は15mmHgで安定し,CECDは1,013cells/mm2で,角膜は透明性を維持している。

症例2:57歳,女性。右眼ぶどう膜炎続発緑内障に対し2015年にLET,2016年に濾過胞再建術,同年に別創よりLETを施行するも眼圧は再上昇し,同年に白内障手術およびBGIによるチューブシャント手術を施行した。術4年後に眼圧コントロール不良となり,2020年に再手術となった。CECDは1,162cells/mm2と減少しており,LOT眼内法および眼外法を施行した。術後,眼圧は11mmHgと下降したが,水疱性角膜症となった。

結論:角膜内皮の脆弱性が予想される症例では注意が必要であるが,チューブシャント手術後の眼圧上昇例に対しLOTは有効な可能性がある。

アトピー性皮膚炎を有する円錐角膜患者への角膜クロスリンキング後早期に発症した重篤な角膜感染症の1例

著者: 伏屋一樹 ,   岡島行伸 ,   柿栖康二 ,   加藤桂子 ,   鈴木崇 ,   堀裕一

ページ範囲:P.905 - P.909

要約 目的:円錐角膜の進行を予防する治療として角膜クロスリンキング(CXL)がある。CXLの重篤な合併症として,稀ではあるが感染症がある。今回筆者らは,アトピー性皮膚炎患者に対するCXL後に重篤な感染性角膜炎と思われる症例を経験したので報告する。

症例:24歳男性で,既往としてアトピー性皮膚炎がある。円錐角膜に対し前医にて角膜上皮剝離を行う標準法であるCXLを施行された。施行3日後に右眼眼痛を認め,感染性角膜炎が疑われ当科に紹介となった。初診時,右眼角膜全体の浮腫および中央部の角膜浸潤,上皮欠損を認め,右視力は30cm手動弁であった。検鏡および培養検査では起炎菌の同定はできなかった。抗菌薬点眼(バンコマイシン塩酸塩1時間ごと,レボフロキサシン水和物1.5%1時間ごと)および全身投与(ミノサイクリン塩酸塩200mg/日,セファゾリンナトリウム3g/日)にて加療を開始し,緩徐に上皮化を認めたため,ステロイドの内服および点眼を追加した。治療11日後には上皮化が得られたが,視力は指数弁であった。9か月後に全層角膜移植術を施行し,術後視力(1.2)と良好である。

結論:CXL後の起炎菌不明の重症角膜感染症と思われる症例を経験した。本症例のようにアトピー性皮膚炎を合併する症例では,黄色ブドウ球菌の検出率が高いことや耐性菌の問題が報告されており,角膜上皮剝離を行うCXLを行う際は,注意が必要であると考える。

黄斑下血腫治療時に生じた黄斑円孔に対しILMフラップを翻転した1例

著者: 木佐貫祐揮 ,   薄井隆宏 ,   三浦瑛子 ,   和田清花 ,   菊池孝哉 ,   禅野誠 ,   遠藤貴美

ページ範囲:P.910 - P.914

要約 目的:近年,黄斑下血腫に対し組織プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)と空気を網膜下に注入する治療法が広く行われている。しかし,7.9〜9.1%の確率で注入時に黄斑円孔(MH)を生じることが報告されている。今回筆者らは,黄斑下血腫に対し同手技を施行したところ同様の合併症が起きたため,内境界膜(ILM)を剝離し翻転ILMフラップを作成し閉鎖した症例を経験したので報告する。

症例:78歳,男性。右眼中心暗点を主訴に発症後2日目に紹介され受診した。初診時の右視力は(0.04),2乳頭径大の黄斑下血腫を認めた。発症後11日目に水晶体再建術,経毛様体扁平部硝子体切除術を施行した。38Gエクステンダブルチップカニューレを使用し,t-PAと空気を圧出注入した。急な圧負荷のためか,中心窩より出血し空気が流出した。ILMフラップを作りMHに埋没させ,空気置換しSF6ガスを注入し手術を終了した。術後6日目に光干渉断層計にてMHは閉鎖していた。術1年後の視力は(0.07)であった。

結論:本症例では,圧制御を行ったにもかかわらずMHを生じた。出血により中心窩が脆弱化し,圧変動への耐久性が低くなった可能性がある。先にILM剝離などの処理を行うと,MHが生じた場合にILMフラップの作成ができなくなるため注意を要する。

今月の表紙

多焦点眼内レンズの前房内亜脱臼

著者: 赤岩沙織 ,   髙橋次郎 ,   堀裕一

ページ範囲:P.883 - P.883

 症例は48歳,男性。9年前に他院で両眼LASIK(laser in situ keratomileusis)施行の既往があった。その3年後に,前医で左眼白内障に対し,多焦点眼内レンズ(IOL)挿入を含む水晶体再建術が施行された。白内障手術から5年後にIOLの亜脱臼が生じたため,当院へ紹介され受診となった。初診時,視力は右0.8(1.2×−1.0D),左0.07×IOL(1.2×−3.5D()cyl−0.5D 70°),眼圧は右15mmHg,左23mmHgであった。細隙灯顕微鏡で左眼のIOLのハプティクスが前房内へ脱出した所見がみられた。このため,IOL摘出の後に硝子体切除術とIOL強膜内固定術を施行した。術直後に前房出血を認めたが,術後経過は良好であった。

 本撮影には,TOPCON社製スリットランプSL-D7にNikon社製デジタル一眼レフカメラD300を取り付けた装置を使用した。撮影中に被検者の視線の動きによりIOLからの虹色の反射が異なって観察されたため,スリットの光量と角度を調節しながら撮影を行った。IOL周囲の様子が把握できるようにスリット幅15mm,倍率10倍,マニュアルモードに設定し,多焦点IOLの回折格子にピントが合うよう撮影を行った。

海外留学 不安とFUN・第78回

カナダ・モントリオール大学での留学生活

著者: 志賀由己浩

ページ範囲:P.896 - P.897

 カナダのモントリオールに留学している志賀と申します。本稿では,私の留学体験談について,ご紹介させていただきます。

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目次

ページ範囲:P.872 - P.873

欧文目次

ページ範囲:P.874 - P.875

第40回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.882 - P.882

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1009 - P.1013

アンケート用紙

ページ範囲:P.1018 - P.1018

次号予告

ページ範囲:P.1019 - P.1019

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.1020 - P.1020

 本当にようやく新型コロナウイルス感染の終わりが見えてきたかと思われる昨今ですが,「臨床眼科」7月号をお届けします。本号は昨年福岡で開催された第75回日本臨床眼科学会の原著論文が主体の構成になっており,多くの症例報告を含む原著が掲載されています。

 昨年に文部科学省,厚生労働省,経済産業省から「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」が出され,人に関する研究についての倫理的妥当性や個人情報保護がさらに強く求められるようになりましたが,今年その一部が改正されました。正直なところ,指針とガイダンスを一通り読むだけでも大変ですし,それを理解するのはもっと大変で,日本語って難しいなぁと思い知らされています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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