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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科76巻9号

2022年09月発行

雑誌目次

特集 第75回日本臨床眼科学会講演集[7] 原著

Nocardia arthritidisによる播種性ノカルジア症に合併したと考えられる内因性網膜下膿瘍の1例

著者: 野崎耀平 ,   松田英伸 ,   黒澤史門 ,   福地健郎

ページ範囲:P.1233 - P.1239

要約 目的:ノカルジア肺炎を契機に,播種性ノカルジア症による内因性網膜下膿瘍を発症した1例を経験したので報告する。

症例:72歳,女性。2017年から尋常性天疱瘡に対しステロイドと免疫抑制薬の内服で加療されていた。2020年6月,ノカルジア肺炎を契機に播種性ノカルジア症による脳膿瘍と左内直筋膿瘍を発症した。同時期に,近医の眼底検査で,左眼の後極部耳側の網膜下に黄白色の隆起病変が認められた。

所見:当科再診時の矯正視力は右0.2,左は0.8で,両眼とも前眼部や中間透光体に炎症細胞の浸潤はなかった。眼底検査では,左眼の後極部耳側の網膜下に境界明瞭な黄白色の隆起病変を認めた。肺胞洗浄液の細菌培養検査でNocardia arthritidisが同定されていたことから,左眼の網膜下病変は同細菌による内因性網膜下膿瘍であると推定した。抗菌薬の全身投与を開始したところ左眼の網膜下膿瘍は著明に縮小し,最終受診時の左矯正視力は1.2まで改善し,良好な経過をたどった。

結論:免疫不全宿主のノカルジア症は血行性に播種することがあり,眼病変にも注意する必要がある。ノカルジア内因性眼内炎の診断は,肺胞洗浄液の細菌培養検査など眼以外の組織の培養が手がかりとなることがある。

落下眼内レンズの水晶体囊を用いて意図的網膜裂孔の閉鎖を行った網膜剝離の1例

著者: 山本瑠璃 ,   金子寛幸 ,   高瀬公陽 ,   田中公二 ,   北川順久 ,   中静裕之

ページ範囲:P.1240 - P.1246

要約 目的:網膜下索状物を伴う網膜剝離(RD)に対する硝子体手術では,意図的網膜裂孔を作製することが索状物摘出に有用であるが,RD再発や増殖性変化の原因となりうる。落下眼内レンズ(IOL)の水晶体囊を用いて意図的網膜裂孔を閉鎖し,良好な結果を得られたRDの1例を報告する。

症例:72歳,女性。右眼は18歳時に外傷により失明。左眼は30年以上前にRDに対し輪状締結術,22年前に白内障に対して超音波乳化吸引術とIOL挿入術を施行した。1年以上前から左眼視力低下と飛蚊症の悪化があり,近医で左RDの診断となり,当院を紹介され受診した。初診時視力は右(光覚なし),左(0.1)で,左眼のIOL振盪を認めた。鼻側から下方にかけて網膜下索状物を伴う原因裂孔不明のRDを認め,25G硝子体手術を行った。手術開始後,IOLが眼内に落下したため摘出し,水晶体囊を眼外に保管した。意図的網膜裂孔を作製し,網膜下索状物を除去した。その後,水晶体囊を眼内に持ち込み網膜上に留置し,保管した。IOL強膜内固定を行った後,液空気置換を行い,輪状締結部辺縁および意図的網膜裂孔辺縁に網膜光凝固を施行した。空気置換下で水晶体囊を移動させ,意図的網膜裂孔を閉鎖した。眼内を20% SF6ガスで置換し,腹臥位とした。網膜復位は得られ,光干渉断層計では水晶体囊により意図的網膜裂孔が良好に閉鎖されていることが確認された。

結論:落下IOLの水晶体囊は網膜裂孔の閉鎖に使用できた。

質量分析法にてNocardia veterana角膜炎と診断された1例

著者: 小林瞳 ,   福岡秀記 ,   松本佳保里 ,   上田真由美 ,   外園千恵

ページ範囲:P.1247 - P.1251

要約 目的:質量分析法(MALDI-TOF MS)にてNocardia veterana角膜炎と診断された1例を報告する。

症例:78歳,男性。濾胞性リンパ腫に対してレナリドミドとリツキシマブで治療され,安定していた。7か月前に左眼の視力低下,異物感を自覚し近医を受診した。ヘルペス角膜炎と診断され,アシクロビル眼軟膏が開始されたが改善がみられず,4か月後に近医へ紹介となった。バラシクロビル内服,ベタメタゾン点眼,プレドニゾロン50mg内服を追加したが眼所見は改善せず,当院へ紹介となった。当院初診時の左視力は指数弁で,左角膜の実質浅層に特徴的な花弁様の白色沈着を認め,前房炎症と前房蓄膿も認められた。角膜感染を疑い角膜擦過物の検鏡と培養検査を施行し,グラム陽性桿菌が検出され,ガチフロキサシン点眼,セフメノキシム点眼,エリスロマイシン・コリスチン眼軟膏を開始したところ,感染巣の縮小と前房蓄膿の消失がみられ,自覚症状も改善した。培養検査および質量分析法にて原因菌はN. veteranaと同定され,薬剤感受性試験ではニューキノロン系抗菌薬に高度耐性を認めた。

結論:N. veteranaは,免疫不全患者において呼吸器感染症を引き起こすことが報告されているが,角膜炎を起こした症例は本邦では報告はない。本症例では角膜擦過物の検鏡と培養検査に加え,質量分析法を行うことが原因菌の同定に有用であった。

白点症候群様の所見を呈し診断に苦慮した原発性硝子体網膜リンパ腫の1例

著者: 長田頼河 ,   石原麻美 ,   竹内正樹 ,   蓮見由紀子 ,   澁谷悦子 ,   河野慈 ,   水木信久

ページ範囲:P.1253 - P.1258

要約 目的:原発性硝子体網膜リンパ腫(PVRL)は,多彩な所見を呈し,その診断の困難さから眼内炎症として加療されることも多く,仮面症候群と呼ばれている。今回,病初期に白点症候群様の所見を呈し,診断に苦慮したPVRLの症例を経験したので報告する。

症例:50歳,女性。左眼の見えにくさを主訴に受診した。初診時視力は両眼とも(1.2),左眼に前部硝子体細胞および眼底中間周辺部に散在する白点を認めた。6か月間ベタメタゾン点眼で加療したが,眼内炎症および白点の改善はみられなかった。トリアムシノロン後部テノン囊下注射を施行後,プレドニゾロン内服を開始したところ,網膜滲出斑の出現と硝子体混濁の急激な増悪を認めた。PVRLを疑ったが,真菌などによる感染性ぶどう膜炎の可能性も考え,フルコナゾール点滴を行った。左視力がさらに低下したため硝子体生検を施行し,IL-10/IL-6>1,IgH遺伝子再構成を認めた。全身精査にて眼外病変はなく,PVRLと診断した。メトトレキサートの硝子体注射および全身投与を開始した。現在まで左視力の改善はないものの,右眼の発症はなく,脳・中枢神経播種もみられていない。

結論:PVRLはぶどう膜炎や白点症候群に類似の所見を呈することがあるため,その可能性を念頭に置く必要があると考えられた。

西葛西・井上眼科病院における職業運転手の運転機能評価

著者: 高橋佑佳 ,   國松志保 ,   平賀拓也 ,   小原絵美 ,   黒田有里 ,   田中宏樹 ,   井上賢治

ページ範囲:P.1259 - P.1264

要約 目的:西葛西・井上眼科病院の運転外来にて,視野障害のある職業運転手2例に対して,アイトラッカー搭載ドライビングシミュレータ(DS)を施行した。

症例1:59歳,男性(緑内障)。運送会社のトラック運転手。視力は右(1.0),左(0.4)。Humphrey視野計 中心24-2 SITA standard(HFA24-2)にて,MD値は右−15.42dB,左−26.49dB。中心を含む上半視野障害を認めた。DSを施行したところ,15場面中2場面で事故を起こした(赤信号無視,左からの飛び出し)。リプレイ映像では,上方視野障害により,信号が黄色から赤色に変化していることに気づきにくいことを理解した。

症例2:49歳,男性(網膜色素変性)。ガス会社の営業職。視力は右(1.0),左(1.2)。HFA24-2でのMD値は右−27.46dB,左−27.89dB。輪状暗点を認め,中心視野は10°以内であった。上司の立ち合いのもと,DSを施行したところ,15場面中4場面(すべて左右からの飛び出し)で事故を起こした。求心性視野狭窄により左右の飛び出しに対応できなかったことを理解した。

結論:DSを施行したことで,患者本人や職場の関係者に視野障害による運転の危険性について理解し,納得してもらうことができた。

視神経-視交叉部脳動静脈奇形により視神経症をきたした1例

著者: 藤戸達彦 ,   大野晋治 ,   伊東雅基 ,   大前恒明

ページ範囲:P.1265 - P.1270

要約 目的:脳動静脈奇形(AVM)は,胎生20週頃に動静脈に短絡が形成されて生じる先天性脳血管異常である。脳のさまざまな部位に生じるが,視交叉部に認められることは稀で,既報も少ない。今回,左視神経-視交叉部AVMにより視神経症をきたした症例を経験したので報告する。

症例:32歳,女性。コンタクトレンズ作成時に左眼視力不良を指摘され,当科を受診。

所見:矯正視力は右1.0,左0.1であった。左眼に相対的瞳孔求心路障害を認め,限界フリッカー値は右46Hz,左12Hzと左眼で低下していた。左視神経乳頭は蒼白化しており,OCTで網膜神経線維層の広範な菲薄化を認めた。視野検査では左眼のみ求心性視野狭窄に加え,マリオット盲点拡大と傍中心暗点を呈していた。造影MRIで左視神経から視交叉部にかけて蛇行拡張した血管像を認め,脳血管造影でAVMが確認されたことから,左視神経-視交叉部AVMによる視神経症と診断した。視交叉など神経機能的重要部位の未破裂AVMは開頭摘出術や血管内治療の適応とならず,定位放射線治療が検討されたが,視機能以外に異常がなく,治療効果は不明瞭で,晩期合併症も危惧されたことから経過観察の方針となった。現在,当科初診から1年3か月が経過しているが,症状の進行は認めていない。

結論:視神経-視交叉部AVMによる視神経症の1例を経験した。同疾患の症例報告は少なく,将来の予後予測が難しいため,さらなる症例の蓄積が望まれる。

ノカルジア感染による結膜下膿瘍の臨床的特徴

著者: 石本敦子 ,   佐々木香る ,   釼祐一郎 ,   中坪弥生 ,   藤原亮 ,   城信雄 ,   髙橋寛二

ページ範囲:P.1271 - P.1278

要約 目的:治療に難渋したノカルジア感染による結膜下膿瘍の2例を報告し,その臨床的特徴を検討する。

症例1:76歳,女性。左鼻涙管閉塞の既往があった。2か月前から左眼充血で近医にてレボフロキサシン点眼とステロイド点眼で加療されていたが悪化し,当院へ紹介された。左鼻側に結膜下膿瘍と周辺部角膜潰瘍を認めた。自壊膿の塗抹鏡検から放線菌が検出された。膿瘍部では強膜壊死によるぶどう膜露出を認めたため,角膜菲薄部も含め表層角膜移植を行った。質量分析によりNocardia novaと同定されたため,抗菌薬点眼に加え,ST合剤内服,シクロスポリン内服にて約3か月で消炎を得た。その後,涙管チューブ挿入術を行い,完治した。

症例2:71歳,女性。右黄斑浮腫に対しトリアムシノロンアセトニドのテノン囊下注射を近医で受けた2か月後に充血をきたし,レボフロキサシン点眼とステロイド点眼で改善せず,当院へ紹介された。右鼻下側に結膜下膿瘍を認め,自壊膿の塗抹鏡検から放線菌が検出され,16S rRNA遺伝子解析でNocardia aobensisと判明した。MRIで結膜下膿瘍に続く眼窩膿瘍が認められ,スルバクタム/アンピシリンの全身投与とテノン囊下注射,トブラマイシン点眼で寛解・増悪を繰り返し,約9か月で消炎を得た。

結論:涙道閉塞やテノン囊下注射後に生じた難治性の隆起性結膜病変では,ノカルジア感染の鑑別が必要である。早期診断には排膿物の塗抹鏡検・培養検査が重要である。

渦静脈浸潤がみられたぶどう膜悪性黒色腫の2例

著者: 安樂晶子 ,   大湊絢 ,   塩崎直哉 ,   張大行 ,   福地健郎 ,   大橋瑠子 ,   谷優佑

ページ範囲:P.1279 - P.1285

要約 目的:渦静脈浸潤がみられたぶどう膜悪性黒色腫2症例の経過を報告する。

症例1:67歳,女性。右眼内腫瘍の診断で当科を紹介され初診。右眼毛様体付近に腫瘍高12mm大の黒色腫瘤を認めた。ぶどう膜悪性黒色腫と診断し,初診から20日後に眼球摘出術を施行。病理診断はぶどう膜悪性黒色腫で,渦静脈浸潤がみられた。眼球摘出後7か月で結膜下に局所再発を生じたため腫瘤のみを一塊にして摘出し,後療法としてインターフェロンβ(IFN-β)結膜下注射を施行した。眼球摘出後9か月で肝転移が生じ,肝動脈化学塞栓療法および免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による加療が行われたが,肝転移診断後7か月で死亡した。

症例2:69歳,女性。右眼内腫瘍の診断で当科を紹介され初診。右眼内に腫瘍高8.5mmの黒色腫瘤を認めた。ぶどう膜悪性黒色腫と診断し,初診から13日後に眼球摘出術を施行。術中所見で黒色に変色した渦静脈が認められた。病理診断はぶどう膜悪性黒色腫で,渦静脈として提出した検体にも腫瘍細胞が認められた。後療法としてIFN-β結膜下注射を施行した。眼球摘出後12か月で多発肝転移を生じ,ICIによる加療が行われたが,肝転移診断後12か月で死亡した。

結論:ぶどう膜悪性黒色腫の渦静脈浸潤例は局所再発・肝転移の高リスク症例であり,後療法の確立が望まれる。

最近3年間の未熟児網膜症の治療における変化

著者: 萬代恵美 ,   西智 ,   倉石隆弘 ,   水澤裕太郎 ,   峯正志 ,   緒方奈保子

ページ範囲:P.1286 - P.1290

要約 目的:当院での最近3年間の出生体重2,000g未満の新生児における未熟児網膜症(ROP)の治療における変化を検討する。

対象と方法:対象は2018年1月〜2020年12月に,奈良県立医科大学附属病院新生児集中治療室(NICU)にて診察した出生体重2,000g未満の新生児180症例。ROP発症群と非発症群,治療群と非治療群間で在胎週数,出生体重に関する有意差の有無,ROPの重症化因子,抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体硝子体内投与併用療法の効果を検討した。

結果:平均在胎週数は発症群27.6週,非発症群32.0週,平均出生体重は発症群926.1g,非発症群1,519.0gであった。在胎週数,出生体重ともに発症群で有意に小さかった。全体として発症率30.0%,治療群の割合11.1%で,脳室内出血がROPの重症化因子であった。治療は網膜光凝固術(PC)を基本としたが,重症例に対して2018〜2019年はベバシズマブ硝子体内注射とPCの併用療法,2020年以降はラニビズマブ硝子体内注射(IVR)とPCの併用療法がそれぞれ1例ずつ行われた。治療1年後,全例厚生省瘢痕期分類1度で収まり,stage Ⅳへ至った症例はなかった。2020年には治療群の割合は5.8%と低下し,IVRとPCで治療した重症例は1例であった。

結論:在胎週数,出生体重が小さいことがROPの発症因子であり,脳室内出血がROPの重症化因子であった。抗VEGF抗体硝子体内投与の併用により,stage Ⅳに至る症例はなく,1年後に全例厚生省瘢痕期分類1度で収まった。

新たなストッパー付き涙点拡張針の使用経験“宮崎式涙点拡張針”

著者: 宮崎千歌 ,   澤明子 ,   廣瀬美央 ,   長谷川麻里子 ,   竹谷太

ページ範囲:P.1291 - P.1295

要約 目的:涙道内視鏡検査において,一定の挿入位置で停止するストッパー付き涙点拡張針の使用経験を報告する。

対象と方法:2021年3〜4月に,兵庫県立尼崎総合医療センター眼科において涙道内視鏡検査を施行した成人17例37涙点,小児7例10涙点に対し,ストッパー付き涙点拡張針(以下,ストッパー付き),涙点拡張針1.8/5.0mm目盛付き(以下,目盛付き),ウィルダー氏涙点拡張針(以下,ウィルダー)を使用した。ストッパー付きは成人7例17涙点,小児5例7涙点に,目盛付きは成人8例18涙点,小児2例3涙点に,ウィルダーは成人2例2涙点に対し使用した。

結果:ストッパー付きと目盛付きでは,1回の涙点拡張で涙道内視鏡のファイバースコープを挿入することが可能であった。ウィルダーでは,3回の拡張が必要であった症例があった。

結論:涙道内視鏡検査において,ストッパー付きは1回の手技で確実かつ十分な涙点拡張が得られた。

進行性網膜外層壊死の僚眼にサイトメガロウイルス網膜炎を発症した1例

著者: 髙橋理恵 ,   松本拓 ,   尾崎弘明 ,   小林彩加 ,   内尾英一

ページ範囲:P.1296 - P.1301

要約 目的:腎移植後の片眼に水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)による進行性網膜外層壊死(PORN)を発症し,その後僚眼にサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎を発症した1例を経験したので報告する。

症例:48歳,男性。腎移植後の拒絶反応抑制のため免疫抑制薬を内服していた。2010年12月に帯状疱疹が出現し,アシクロビル点滴によって改善した。その後,右眼の視力低下を自覚し,当院に紹介された。矯正視力は右0.15,左1.2であった。右ぶどう膜炎を認めた。前房水PCR検査でVZVによるPORNと診断した。アシクロビルおよびステロイド全身投与を開始し,2011年1月に右眼に対し硝子体手術,水晶体切除術,シリコーンオイル注入術を行った。同年11月に右眼に対し硝子体手術とシリコーンオイル再注入術を施行し,その後経過観察されていた。2019年10月に左眼の視力低下を自覚した。網膜中心静脈閉塞症による黄斑浮腫を認め,抗血管内皮増殖因子薬硝子体注射を行った。同年12月に左眼に硝子体混濁と網膜滲出性病変が出現した。PORNを疑い,左眼に対し硝子体手術とシリコーンオイル注入術を施行した。硝子体液からCMVが検出され,CMV網膜炎と診断した。現在,矯正視力は右0.07,左0.7である。

結論:免疫抑制薬内服中の患者では両眼にそれぞれ異なるウイルスによる網膜炎を生じることがあり,その都度しっかりした原因検索が必要である。

高齢発症の抗アクアポリン4抗体陽性視神経脊髄炎に免疫グロブリン大量静注療法を施行した1例

著者: 森山芹香 ,   橋本りゅう也 ,   昌原英隆 ,   前野貴俊

ページ範囲:P.1302 - P.1307

要約 目的:抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経脊髄炎(NMO)はステロイド抵抗性を示すことがある。今回,高齢発症の抗AQP4抗体陽性NMOに対して免疫グロブリン大量静注(IVIG)療法を施行した1例を経験したので報告する。

症例:77歳,女性。両眼性複視と左視野狭窄を主訴に他院を受診し,動的視野検査にて左水平下半盲を認めたため当院へ紹介され受診となった。初診時,矯正視力は右0.9,左0.04であった。左対光反射が減弱しており,相対的瞳孔求心路障害陽性であった。ゴールドマン動的視野検査で左水平下半盲と上耳側の視野欠損を,MRIにて左球後視神経に高信号域を認めた。

結果:左球後視神経炎を疑いステロイドパルス療法を1クール施行するも,左視力は光覚なしとなった。発症12日目に抗AQP4抗体陽性が確認され,MRIで3椎体にわたる脊椎病変を認めたため,抗AQP4抗体陽性NMOと診断した。また,髄液検査ではオリゴクローナルバンド(OCB)陽性であった。高齢のため血漿交換療法は選択せずに,ステロイドパルス療法2クール目およびIVIG療法を施行した。その後,視野はある程度改善し,左矯正視力は0.1とわずかに改善し,以降1年間は再発なく経過している。

結論:高齢発症,OCB陽性と稀な特徴を有する抗AQP4抗体陽性NMOに対してIVIG療法は効果的である可能性が示唆された。

眼内レンズ強膜内固定術後に毛様体解離が遷延し低眼圧黄斑症を発症した1例

著者: 鶴井雅美 ,   浅野泰彦 ,   恩田秀寿 ,   吉野正範 ,   小菅正太郎 ,   権昭致

ページ範囲:P.1309 - P.1314

要約 目的:眼内レンズ(IOL)強膜内固定術後に遷延した毛様体解離に伴い低眼圧黄斑症を発症し,小切開強膜毛様体縫合術が奏効した症例の報告。

症例:58歳,男性。X−3年に右眼IOL亜脱臼に対してIOL摘出術を施行後,X年3月に経毛様体扁平部硝子体切除術および眼内鑷子法によるIOL強膜内固定術を施行した。術中合併症はなく,術後視力は0.3(1.2×()cyl−2.50D 5°)を得たが,術後眼圧は4〜8mmHgで推移した。紹介元にて経過観察するも,低眼圧と歪視が遷延したため強膜内固定術後9か月目のX年12月に再度紹介受診した。再診時の右視力は0.07(0.9×+5.25D()cyl−1.75D 15°),眼圧は8mmHg,光干渉断層計(OCT)にて網脈絡膜皺襞,前眼部OCTで全周性の毛様体解離を認め,同月,強膜毛様体縫合術を行った。手術は2時・4時・8時・10時の4か所に強膜小切開を作製し,毛様体下液を排液後,同部位より6-0バイクリル®糸の針を眼内に穿刺し,幅約3mmで強膜-毛様体-強膜と通糸・結紮し,眼内を18%SF6ガスで置換した。毛様体解離と低眼圧黄斑症は軽快し,術後17か月で視力は0.8(1.5×+1.50D()cyl−1.50D 135°),眼圧は15mmHgであった。

結論:強膜内固定術後合併症として,毛様体解離に留意する必要がある。小切開強膜毛様体縫合術+SF6ガス置換術は有用な治療法であった。

硝子体術後に黄斑円孔を生じ自然閉鎖した2例

著者: 本澤孝樹 ,   山脇佳子 ,   西島義道 ,   德久照朗 ,   小松功生士 ,   渡邉友之 ,   小川俊平 ,   神野英生 ,   渡邉朗 ,   中野匡

ページ範囲:P.1315 - P.1319

要約 目的:黄斑部網膜への硝子体牽引が存在しない硝子体術後眼にもかかわらず黄斑円孔(MH)を生じ,さらに自然閉鎖した稀な2症例を経験したので報告する。

症例:症例1は70歳,男性。眼軸長27.04mmの強度近視眼。右眼の網膜前膜(ERM)に対して硝子体手術を施行され,術後1年の矯正視力は0.9であったが,その後ERMは徐々に再発した。術後3年6か月に円孔底径1,100μm,最小円孔径80μmのMHを発症し矯正視力は0.2に低下したが,翌月に自然閉鎖し,その4か月後に矯正視力は0.4に改善した。しかし,術後4年1か月に円孔底径1,020μm,最小円孔径95μmのMHが再発し,さらに2か月後に矯正視力も0.2に低下した。術後4年4か月に硝子体手術にてERMおよび内境界膜の剝離に加えガスタンポナーデを行い,MHの閉鎖を得て矯正視力0.6まで改善した。

 症例2は55歳,男性。眼軸長は25.94mm。右眼の黄斑剝離を伴わない裂孔原性網膜剝離に対して白内障および硝子体の同時手術を施行され,術後矯正視力は1.5であった。しかし,術1年後に円孔底径550μm,最小円孔径140μmのMHを発症し,矯正視力は0.8に低下した。その2か月後にMHは自然閉鎖し,矯正視力は1.2に改善した。

 2例とも,MH発症時に円孔周囲網膜の囊胞様浮腫およびERMあるいは網膜前増殖組織の発生を認めた。

結論:硝子体術後眼におけるMHの発症にはERMによる接線方向の網膜牽引が,閉鎖には網膜内組織の架橋が関与している可能性がある。

連載 今月の話題

コンタクトレンズによる重篤な眼障害の全国調査より得たこと

著者: 重安千花 ,   山田昌和

ページ範囲:P.1193 - P.1199

 2016年4月〜2018年3月の間に生じたコンタクトレンズ(CL)による重篤な眼障害の全国調査を行った。42例が重篤例に該当し,すべて感染性角膜炎であった。平均年齢は44.1歳,CLの種類は2週間頻回交換型ソフトCLが19例と約半数を占めた。CL関連感染性角膜炎により失明に準じる視力障害を生じることがあり,病原微生物として緑膿菌とアカントアメーバが重要と考えられた。

Clinical Challenge・30

抗ヘルペス治療が奏効しない角膜炎

著者: 堀田芙美香

ページ範囲:P.1187 - P.1189

症例

患者:61歳,女性

主訴:左眼の眼痛,視力低下

既往歴:頻回交換型ソフトコンタクトレンズ(SCL)を使用していた。

現病歴:数日前から左眼に眼痛があり,近医を受診した。角膜ヘルペス(herpes simplex keratitis:HSK)の診断のもと,アシクロビル眼軟膏とレボフロキサシン点眼(それぞれ1日4回)で加療されたが改善しないため,0.02%フルオロメトロン点眼が追加された。その後,症状はいったん改善したが,再び悪化したため,近医での治療開始から1か月の時点で当院に転医した。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・24

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—緑内障—病的近視による乳頭およびその周囲の構造変化

著者: 赤木忠道

ページ範囲:P.1200 - P.1205

◆近視性変化によるストレスは乳頭内や乳頭周囲にさまざまな構造変化を生じる。

◆OCTによって病的近視の病態理解が急速に進んできた。

◆病的近視で生じる構造変化はしばしば視野障害の原因になる。

臨床報告

経過中に血清interleukin-6高値を認めた動脈炎性後部虚血性視神経症の1例

著者: 岸本七生 ,   林孝彰 ,   須田真千子 ,   鈴木正彦 ,   中野匡

ページ範囲:P.1209 - P.1217

要約 目的:経過中に血清interleukin-6(IL-6)値の高値を認めた巨細胞性動脈炎(GCA)に伴う動脈炎性後部虚血性視神経症(PION)の1例を報告する。

症例:75歳女性が右眼の一過性黒内障を認めた1.5か月後に右眼の視力低下と視野異常の精査目的で受診した。

所見:矯正視力は右0.07,左1.2で,相対的瞳孔求心路障害は右眼で陽性であった。眼底に異常はなく,蛍光眼底造影検査で右眼脈絡膜血管の充盈遅延を認めた。血液検査で炎症所見,頭部MRIで浅側頭動脈の肥厚と動脈壁の信号上昇を認め,GCAに合併した動脈炎性PIONと診断し,ステロイドセミパルス療法を行った。経過中に血清IL-6の高値を認めた。

結論:全身大血管に影響を及ぼすGCAの診断は重要である。GCAに合併する動脈炎性PIONでは,血清IL-6値は上昇する。

顕微鏡的多発血管炎にMPO-ANCA関連肥厚性硬膜炎を合併し右眼の光覚を消失した1例

著者: 西島麗美 ,   林孝彰 ,   倉重眞大 ,   丹野有道 ,   中野匡

ページ範囲:P.1219 - P.1225

要約 目的:顕微鏡的多発血管炎(MPA)の経過中にMPO-ANCA関連肥厚性硬膜炎を発症し,右眼の光覚を消失した1例を報告する。

症例:82歳,女性。9年前にMPO-ANCAが高値で腎生検の結果MPAと診断され,MPAの加療中であった。1か月前より右視力低下を自覚し受診した。

所見と経過:矯正視力は右光覚なし,左1.2で,相対的瞳孔求心路障害は右眼で陽性であった。眼底写真およびフルオレセイン蛍光眼底造影検査で,両眼ともに異常所見はなかった。血液検査で,MPO-ANCAは基準値内であり,CRPは陰性であった。頭部造影MRI検査で肥厚性硬膜炎の所見に加え,右眼窩先端部の造影増強がみられ,右眼窩先端部炎が視力障害の原因と考えられた。ステロイドセミパルス療法を2クール施行し,右視力は(0.7)に改善し,右眼ゴールドマン視野も中心約15°の中心暗点(I/3e〜I/4e視標)は残ったが,周辺視野は回復した。

結論:MPO-ANCAが基準値内であっても,MPAの経過中にANCA関連肥厚性硬膜炎を発症し,重篤な視力障害を引き起こす可能性がある。

角膜の菲薄化と前方突出がみられ穿孔をきたした続発性角膜アミロイドーシスの1例

著者: 二階堂貴文 ,   近間泰一郎 ,   岩川佳佑 ,   三笘香穂里 ,   戸田良太郎 ,   木内良明

ページ範囲:P.1227 - P.1231

要約 目的:病変部が角膜前後面ともに突出し,角膜穿孔に至った続発性角膜アミロイドーシス(SCA)の症例を報告する。

症例:26歳,女性。左眼の白色腫瘤と眼痛を主訴に受診し,睫毛乱生に続発したSCAと診断された。角膜病変は,局所的に角膜前後面ともに突出していた。経過中に角膜菲薄化が進行し,角膜穿孔に至ったため全層角膜移植術を施行した。病変部の病理所見では角膜全層がアミロイドに置換されており,正常な角膜構造は破壊されていた。

結論:本症例では病変部が角膜前後面ともに突出し,同部位は角膜全層にわたってアミロイドに置換されていた。全層にわたる病変を伴うSCAの症例は,菲薄化が急速に進行する可能性がある。

今月の表紙

サルコイドーシス

著者: 平田泰介 ,   山本素士 ,   西口康二

ページ範囲:P.1191 - P.1191

 症例は50歳,男性。両眼の飛蚊症を自覚し,近医にて両眼のぶどう膜炎,高眼圧を指摘され,当院へ紹介となった。初診時の視力は左右ともに(1.5)であった。前医初診時の眼圧は右53mmHg,左32mmHgであったが,処方されていたベタメタゾンリン酸エステルナトリウム・フラジオマイシン硫酸塩点眼液(RDA),アセタゾラミド内服により右19mmHg,左18mmHgまで低下していた。両眼とも前眼部に豚脂様角膜後面沈着物,前房内炎症細胞,眼底に雪玉状硝子体混濁,網膜血管炎を認めた。フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)で両眼とも後極から周辺にかけて,血管壁染と血管透過性亢進による蛍光漏出があり,網膜静脈周囲炎がみられ,眼サルコイドーシスと診断した。後日,呼吸器内科を受診し,血液検査でACE高値,胸部CTで両側肺門リンパ節腫脹,結節影などから肺サルコイドーシスと診断された。治療は,RDA点眼投与で眼内の炎症所見は鎮静化し,正常眼圧を維持した。

 撮影はHeidelberg Engineering社製のHRA2にUltra-Widefield moduleを取り付けてFAを行った。周辺部の網膜静脈周囲の過蛍光のコントラストに注意しつつ輝度を手動で調整し,ART(10 images averaged),Normalized,High resolutionで低ノイズかつ高精細に記録した。

海外留学 不安とFUN・第80回

コロナ禍でのロンドンライフ・2 仕事編

著者: 盛崇太朗

ページ範囲:P.1206 - P.1207

仕事における不安

 COVID-19の感染拡大以降のイギリスではテレワークが一般化しており,研究室に常にいるのはtechnicianだけで,あとは各自の必要に応じて週1〜3回実験のときだけに出勤するという状況です。Bossは基本在宅勤務で連絡はweb meetingで行っており,私が初めて彼女に対面したのは渡英後2か月経ってから,という状況でした。

 研究生活における最初の関門が研究テーマの決定でした。週1回のmeetingで私が行いたい研究をpresentationするのですが,最初はbossが全く関心をもってくれず,また私のお粗末な英語力も手伝い,当初は何度も“Sotaro, can I just cut you off?”と最後まで喋らせてもらえず話を中断させられることがよくありました。そのときに実感したのが,英語力はビジネスにおいてマナーのようなもので最低条件であり,稚拙な英語でも話を聞いてもらえるのは地位がある人のみで,一介の研究者が拙い発音と文法で熱弁しても相手にされることはない,という現実でした。働き始めて自分の能力不足を痛感し,ロンドンでの仕事に不安がやってきた次第です。

Book Review

医学英語論文 手トリ足トリ いまさら聞けない論文の書きかた

著者: 戸口田淳也

ページ範囲:P.1232 - P.1232

 著者の堀内圭輔先生とは整形外科の臨床における専門領域を共有していることから,以前より親交を深めていただいている。同時に基礎生物学の研究にも従事されていることから,私が編集委員を務めている学術誌に投稿された論文の査読をしばしばご依頼申し上げている。大きな声では言えないが,査読者のreviewの質は,いわゆるピンキリである。その中で著者のreviewは,内容を十分理解した上で,研究の目的は論理的なものであるのか,実験計画に見落としがないのか,結果の解釈は妥当であるのか,そして結論は結果から推定されるものなのかという点について,毎回極めて適切なコメントをいただいている。たとえ最終的な意見がrejectであっても,投稿者にとって有用なアドバイスとなるコメントをcomfortable Englishで提示され,いつも敬服していた。本書を一読して,なるほど論文を書くということに対して,このような確固たる姿勢を持っておられるから,あのようなreview commentが書けるのだと納得した次第である。

 著者が述べているように,学術論文とは情報を他者と共有するためのツールである。SNSを介しての情報共有と異なる点は,情報の質,信頼性に関して,複数の専門家が内容を吟味した上で公開されることである。そして公開された情報に基づいてさらに深く,あるいは広く研究が行われ,その成果が再び学術論文として公開されていく。つまり学術論文を書くということは,小さな歩みであるかもしれないが,科学の進歩に貢献するということであり,自分の発見したことを,わくわくする気持ちで文章にするということである(私の大学院生時代のボスは,Nature誌に単独著者でI foundで始まる論文を書かれていた!)。

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目次

ページ範囲:P.1182 - P.1183

欧文目次

ページ範囲:P.1184 - P.1185

第40回眼科写真展 作品募集

ページ範囲:P.1190 - P.1190

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1320 - P.1323

アンケート用紙

ページ範囲:P.1328 - P.1328

次号予告

ページ範囲:P.1329 - P.1329

あとがき

著者: 西口康二

ページ範囲:P.1330 - P.1330

 本号の表紙はサルコイドーシス症例の蛍光眼底造影写真です。欧米の親しい友人は,OCTアンジオが世界的に急速に普及したのを背景に,蛍光眼底造影写真を撮る機会が激減したと言っていました。しかし,「生命の温もり」を感じる蛍光眼底造影には,OCTアンジオでは表現できない生きた血管の機能を反映する重要な側面があり,その重要性にあらためて気付かされます。

 さて,本号では,第75回日本臨床眼科学会講演集の7回目として14報の論文に加えて,「今月の話題」としては重安千花先生と山田昌和先生による「コンタクトレンズによる重篤な眼障害の全国調査より得たこと」,連載では,24回目を迎える「国際スタンダードを理解しよう!近視診療の最前線」に関しては赤木忠道先生による「緑内障 病的近視による乳頭およびその周囲の構造変化」が掲載されております。また,堀田芙美香先生による「Clinical Challenge」はとても示唆に富んだ角膜感染症の症例です。どの論文も読みごたえがありますが,特に目を引くのは,日本臨床眼科学会講演集のうち3報がNocardia感染による膿瘍の報告であることです。感染の首座は角膜,網膜下,結膜と様々であり,それぞれが迫力のある症例なので,比べながら読むことをお勧めします。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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