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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻12号

2023年11月発行

雑誌目次

特集 意外と知らない小児の視力低下

企画にあたって

著者: 稲谷大

ページ範囲:P.1389 - P.1389

 「小児の診療」って,みなさんお得意でしょうか? 小児の患者さんは,なかなか診察に協力的ではないですし,視力を測ろうにも相手が乳児だと視力検査もできません。「見えにくいの?」と尋ねても,初対面の私に心を開いて「見えにくいです」と言ってくれることは稀で,たいていは「……」です。親御さんも優柔不断なわが子を見てイライラし始めますし,周りにいるコメディカルも,私が困惑しているのを察してかソワソワし始めて,ぬいぐるみを取り出して,「アンパンマンいるよ〜!」とか,この子がアンパンマン好きなのかどうなのかもわからないのに,診察する前からカオスなのが臨床現場の実情ではないでしょうか? ちなみに私は,アンパンマンよりもラムちゃんのフィギュアのほうが好きです!

 話が脱線してしまいましたが,「もうちょっと大きくなって,視力を測れるようになったら,また来てください」みたいなことを言ってしまい,とりあえず問題を先送りするだけの診察になってしまうことも多々あります。

小児・発達障害児・心因性視力障害の視力検査のコツ

著者: 中山百合

ページ範囲:P.1390 - P.1396

●小児では,年齢や精神発達に応じて適切な視力検査方法を選択する。対光反射,嫌悪反応,PL法,Teller Acuity Cards®,森実式ドットカード,絵視標,ランドルト環ハンドルなどを用いていく。

●正常発達児では,大まかには3歳0か月で視力0.5,3歳8か月で視力0.8,4歳8か月で視力1.2に発達していく。

●発達障害児の検査は追い詰めずに関心を引き出せる方法を選び,心因性視力障害の疑いがあればレンズ打消し法や他覚的な所見から保有視力を測定する。

乳幼児健診とスポットビジョンスクリーナー

著者: 輪島良太郎

ページ範囲:P.1398 - P.1404

●乳幼児健診では,SVSの導入により今までよりも屈折異常の検出がしやすくなった。

●SVSにはスクリーニング機能が付いているが,検査値の評価には注意が必要である。

乳幼児の視覚スクリーニング

著者: 彦谷明子

ページ範囲:P.1406 - P.1410

●新生児期からの先天白内障,先天緑内障,網膜芽細胞腫や先天眼底疾患の早期発見を目標とする。

●Red reflex法では,眼球の器質的疾患や高度な屈折異常の検出が可能である。

●3歳未満の乳幼児の視反応は,固視・追視検査,眼位・眼球運動検査で確認する。

眼振と先天異常

著者: 林孝雄

ページ範囲:P.1413 - P.1419

●乳児眼振症候群や潜伏眼振は,眼底や中枢などに器質的疾患のないものをいう。

●これらは,眼振が弱まったとき,あるいは止まっているときには視力が良好である。

●視力不良性眼振は,器質的疾患があり,そのために眼振が生じているものをいう。


*本論文中,動画マークのある箇所につきましては,関連する動画を見ることができます(公開期間:2026年11月).

眼底所見が正常な網膜疾患

著者: 林思音

ページ範囲:P.1420 - P.1426

●眼底検査では異常が認められない疾患として,先天網膜分離症,先天停在性夜盲,錐体機能不全,青錐体(S錐体)1色覚および常染色体顕性(優性)視神経萎縮がある。

●眼底に異常があるにもかかわらず見落としやすい疾患として,視神経低形成と家族性滲出性硝子体網膜症がある。

●眼底検査に加えて,OCT,ERGおよび色覚検査が診断の一助となる。

小児の視神経炎の診断と治療

著者: 上田香織 ,   中西(山田)裕子

ページ範囲:P.1427 - P.1432

●小児の典型的な視神経炎では,両眼の乳頭の著明な炎症所見を呈する。

●乳頭腫脹を見た場合は,視神経炎かうっ血乳頭かの鑑別が必要である。

●抗AQP4抗体,抗MOG抗体の検索をはじめ,全身疾患の関与を十分に検索する。

●原因に応じた適切な治療法を選択し,小児科との連携を密にする。

弱視・斜視のフォロー

著者: 三原美晴

ページ範囲:P.1433 - P.1438

●片眼弱視は再発することがあるので,遮閉時間は漸減して中止する。

●弱視治療中は,眼鏡装用や遮閉が正しく行われているか常に確認する。

●小児の共同性斜視の完治は難しく,長期的な視点でフォローする。

近視進行抑制治療をひも解く

著者: 木下望

ページ範囲:P.1439 - P.1446

●強度近視になると,眼軸長の伸展によりさまざまな眼疾患の発症リスクが高まる。

●小児の近視は年齢が低いほど進行が速いので,幼少期からの治療が重要である。

●近視進行抑制治療の発展により,近視を矯正する時代から抑制する時代へ移行した。

眼瞼下垂と乱視

著者: 今川幸宏

ページ範囲:P.1448 - P.1452

●先天性眼瞼下垂と乱視を中心とした屈折異常の関係,および先天性眼瞼下垂のマネジメントについて解説する。

●先天性眼瞼下垂が乱視を有する割合は約20%であり,乱視の軸は直乱視と斜乱視が多い。

小児の眼鏡処方のコツ

著者: 四宮加容 ,   直江幸美

ページ範囲:P.1453 - P.1459

●小児への眼鏡処方では,弱視や斜視の有無,調節麻痺薬の選択,適切な度数と瞳孔間距離の測定が重要である。

●本人と保護者の理解と協力が不可欠である。

●処方した後も定期的に装用状態の確認を行う。

先天白内障の術前評価と術後ケア

著者: 田中三知子

ページ範囲:P.1461 - P.1464

●先天白内障は生後早期に手術を要する疾患である。

●視軸にかかる3mm以上の白内障は手術の適応である。

●術後の屈折度数は眼軸長の成長とともに大きく変化する。

未熟児網膜症治療後の視力発達

著者: 福嶋葉子

ページ範囲:P.1466 - P.1472

●未熟児網膜症に対する初回治療は,主に網膜光凝固と抗VEGF薬のいずれかが選択される。

●治療の種類によって,その後の屈折への影響や視力発達は異なる。

●抗VEGF薬は光凝固に比較して近視化が少なく,良好な視機能獲得への期待がある。

●視力発達以外にも長期経過してから種々の異常がみられることがあり,適切な管理が必要となる。

全身疾患を伴う小児の視力低下

著者: 杉原友佳

ページ範囲:P.1473 - P.1478

●小児においても,視力低下をきっかけに全身疾患が見つかることがある。

●眼皮膚白皮症は皮膚科,中隔視神経異形成症は小児科など必要に応じて他科と連携する。

●疾患ごとに出現する可能性のある所見を念頭に置いて診察を行う。

ロービジョン児のための公的支援と盲学校

著者: 稲葉純子

ページ範囲:P.1479 - P.1487

●障害者手帳は小児でも認定でき,公的支援の入り口としてメリットが大きい。

●公的支援の活用には視覚障害児支援の専門職(福祉機関や盲学校)と連携するとよい。

●各都道府県にあるロービジョンネットワークなどを活用したい。

今月の話題

バイスペシフィック抗体医薬品ファリシマブの陰と陽

著者: 武内潤

ページ範囲:P.1383 - P.1388

 滲出型加齢黄斑変性の治療においては,抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬が中心的役割を担っている。近年,新たな抗VEGF薬が次々と使用可能となり治療選択肢が増えている。本稿では,2022年5月から使用が可能となったバイスペシフィック抗体医薬品であるファリシマブの現時点の臨床成績について自験例を含め考察する。

連載 Clinical Challenge・44

裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術後の体位制限について再考する

著者: 後沢誠 ,   高村佳弘

ページ範囲:P.1378 - P.1382

症例

患者:60歳,男性

既往歴:双極性感情障害,身体表現性障害

現病歴:上記精神疾患のため,他院精神科に入院中。発症時期不明の視力低下を訴え,当院を紹介され受診となった。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・12

急性涙囊炎

著者: 三谷亜里沙

ページ範囲:P.1489 - P.1492

●初回治療では広域抗菌薬を処方するが,投与前に眼脂を培養検査に提出しておき,臨床経過や薬剤感受性の結果によって変更できるよう準備しておく。

●稀に眼窩蜂巣炎や,眼窩内膿瘍など重篤な病態に進展する場合がある。治療初期は効果判定ができるまで頻回に診察を行い,抗菌薬開始後も症状改善が得られない場合は,CT検査などで眼窩隔膜より後方(眼窩側)への波及がないかを見きわめ,外科的ドレナージの適応時期を逃さないよう注意する。

●感染症状の軽快後には,再発予防目的に鼻涙管閉塞の原因を検索し,根治的治療として涙囊鼻腔吻合術(DCR)に代表される涙道手術を検討する。

臨床報告

硝子体手術により治療した網膜色素変性症に伴う黄斑円孔の2症例

著者: 清水桃 ,   水口忠 ,   矢田宏一郎 ,   木全正嗣 ,   関戸康祐 ,   伊藤逸毅 ,   谷川篤宏 ,   堀口正之

ページ範囲:P.1493 - P.1501

要約 目的:網膜色素変性症に合併する黄斑円孔2症例を硝子体手術で治療したので報告する。

症例1:64歳,男性。右眼視力低下にて近医より紹介。右視力は0.05(0.1)。眼底には両眼とも周辺部に骨小体様色素沈着所見を認め,自発蛍光眼底検査では全周性に蛍光の乏しい斑状所見を認めた。Goldmann視野検査では両眼とも求心性視野狭窄を認めた。網膜電図(ERG)では両眼とも消失していた。光干渉断層計(OCT)所見では右眼に黄斑円孔(直径578μm)を認めた。Phacovitrectomyをhead-up surgery systemを用いて行った。Modified inverted ILM flap-techniqueを施行し,SF6を注入した。術後6か月で円孔の閉鎖を認め,視力は(0.5)に改善した。

症例2:43歳,女性。左眼視力低下にて近医より紹介。左視力は0.3(0.4)であった。眼底は両眼とも黄斑部以外の骨小体様色素沈着を認めた。自発蛍光眼底検査では,網膜全周に斑状色素脱失斑を認めた。Goldmann視野検査では両眼とも求心性視野狭窄および斑状視野欠損を認めた。ERGでは両眼とも消失していた。OCT所見では右眼に黄斑円孔(直径284μm)を認め,左眼phacovitrectomyを行った。ILMを剝離し,SF6を注入した。術後6か月の左視力は(0.8)と改善し,OCTにて円孔の閉鎖を認めた。

結論:網膜色素変性症に対する光毒性を軽減するためhead-up surgery systemは有用であり,難治と考えられるものではmodified inverted ILM flap-techniqueが奏効すると考えた。

臨床ノート

パネル法バージョン4によるトーリック眼内レンズの軸合わせ

著者: 竹下哲二 ,   古島京佳 ,   岩崎留己 ,   福田莉香子 ,   松本栞音 ,   蕪龍大

ページ範囲:P.1502 - P.1504

緒言

 トーリック眼内レンズ(以下,T-IOL)の普及が進まない理由の1つとして,サージカルガイダンスシステムが高価なことが挙げられる。上天草市立上天草総合病院眼科(以下,当科)ではT-IOLの軸合わせにパネル法と呼ぶ独自の方法を用いて,デジタルデバイスの発達とともに改良を重ねてきた1,2)。今回バージョン4(以下,ver. 4)といえる改良を行い,サージカルガイダンスシステムがなくても簡単で短時間にT-IOLの軸合わせが可能になったため紹介する。

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目次

ページ範囲:P.1374 - P.1375

欧文目次

ページ範囲:P.1376 - P.1376

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1506 - P.1509

アンケート用紙

ページ範囲:P.1514 - P.1514

次号予告

ページ範囲:P.1515 - P.1515

あとがき

著者: 堀裕一

ページ範囲:P.1516 - P.1516

 臨床眼科2023年11月号(77巻12号)をお届けいたします。今回の特集は,稲谷大先生ご企画,柏井真理子先生ご監修の「意外と知らない小児の視力低下」です。今話題のスポットビジョンスクリーナーから心因性視力障害や視神経炎,眼瞼下垂や先天白内障など,幅広い話題が満載です。専門医志向の先生方からベテランの先生方まで幅広い層に役立つと思います。「小児は苦手」と思われる読者の先生方,これを読んで是非とも明日からの臨床にお役立てください。

 「今月の話題」は,新しい抗VEGF抗体であるファリシマブについて,発売1年以上が経過した現時点での実態について,杏林大学の武内潤先生にわかりやすく解説いただいております。AMDの患者さんにとって治療薬の選択肢が増えることは大変嬉しいことであり,我々はしっかりと情報を収集して患者さんに伝えていかないといけません。各薬剤の特性をしっかり理解することが大切だと思います。「Clinical Challenge」では,福井大学の後沢誠先生に裂孔原性網膜剝離術後のタンポナーデや体位制限について興味深い症例を提示していただきました。是非ご一読ください。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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