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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻13号

2023年12月発行

雑誌目次

特集 知って得する白内障と屈折矯正の最新情報

企画にあたって

著者: 黒坂大次郎

ページ範囲:P.1531 - P.1531

 やっとのことでコロナ禍から抜け出し,リアルで参加できる通常の学会が戻ってきました。2023年の第77回日本臨床眼科学会の参加者は12,000人を超えたそうです。皆様情報に飢えていたのではないでしょうか。振り返ってみますと,コロナ流行下のオンラインでの学会は移動がなく,好きな時間に自分のペースで参加できるなどいろいろなメリットがありました。しかし,逆の面からはアクセスしないといろいろな情報は入ってこないという欠点がありました。白内障や屈折矯正の分野を専門にされる先生方はいろいろな情報にアクセスされていたでしょうが,他分野の先生方はこの間あまり最新情報に触れられなかった方も多いのではないかと思います。かねてより積極的には情報を収集していなかったという先生も,きっとランチョンセミナーが盛んな分野ですので,コロナ禍前にはその際にいろいろと情報を得られていたのではないでしょうか? コロナはそんな機会も奪ってしまいました。私も,耳学問やちょっとした立ち話などが結構情報のアップデートには重要であったことを改めて認識させられました。

 さて,白内障と屈折矯正分野です。この数年間にどのような変化があったのでしょうか? 現状の問題点などを整理し,アップデートできるように企画してみました。多焦点IOL(老視矯正IOL)も近方視力とコントラスト感度のどちらに重きを置くか,さらに効果を得るためには術後の度数ずれや乱視をいかに抑えるかがポイントですが,これらがわかりやすく解説されていると思います。屈折矯正はやらないという先生方も保険適用のIOLが登場するなどその評価・立ち位置を認識しておくことは重要です。さらには,MIGSの普及につれて,緑内障点眼を使用している人の白内障手術の際には同時手術を考えられる時代となりました。ICLは,かなり安定し良好な成績を得られていると思います。

老視をどう捉えるか

著者: 根岸一乃

ページ範囲:P.1532 - P.1535

●老視は世界の視覚障害の原因の第2位で,先進国においても生活の質にかかわる。

●老視の診断基準は確立されていない。

●老視への適切な介入のため定量的な診断基準の確立が必要である。

老視矯正眼内レンズの現状と課題

著者: 佐々木洋

ページ範囲:P.1536 - P.1543

●3焦点IOLのPanOptix,連続焦点IOLのTECNIS Synergyは遠方から近方まで広い明視域が得られるためほとんどの患者で術後眼鏡は不要になるが,コントラスト感度の低下,不快光視現象,軽度の屈折ずれ・残余乱視に対する許容性が低いなどのデメリットもある。

●EDOF-IOLにはTECNIS Symfony,Clareon Vivity,LENTIS Comfortがあり,中間距離から遠方まで良好な視力が得られる。いずれもコントラスト感度は良好だが,不快光視現象はIOL間で差がある。Micro-monovisionやmix & matchにより眼鏡依存度を低減することができる。

●視機能の質と明視域の広さはトレードオフの関係にあり,現状では回折型とEDOFの利点を備えた理想のIOLがないことが課題である。コントラスト感度を維持しつつ焦点深度をさらに拡大した理想のEDOF-IOLの登場が待たれる。

●老視矯正IOLの大きな課題は長期での屈折安定性で,角膜の倒乱視化,眼軸長の延長により裸眼視力の低下を生じる可能性が高い。今後は,入れ替え可能なmulticomponent IOLの国内での使用が待たれる。

保険適用屈折矯正眼内レンズ

著者: 木澤純也

ページ範囲:P.1544 - P.1548

●テクニスアイハンスは,疎水性アクリル素材の単焦点高次非球面眼内レンズである。加入度数は非公表であるが個人的には+0.5〜0.75D程度と推測され,Cループ形状である。

●レンティスコンフォートは,保険収載されている親水性アクリル素材の低加入度数の分節状屈折型多焦点眼内レンズであり,加入度数は+1.5D,プレート形状である。

●乱視矯正モデルは,レンティスコンフォートでは円柱度数1.5〜3.0Dの3モデル,テクニスアイハンスでは円柱度数1.5〜6.0Dの7モデルがある。

●両IOLは焦点深度拡張型眼内レンズに分類されている。

トーリック眼内レンズの現状と課題

著者: 西恭代 ,   鳥居秀成

ページ範囲:P.1549 - P.1556

●トーリック眼内レンズを用いた手術を行う際,角膜前面のみならず角膜後面乱視も実測して角膜全面乱視を矯正する方法が現在主流になりつつあるが,角膜後面乱視を実測できない場合にはノモグラムやトーリックカリキュレータを用いて推測する方法がある。

●角膜乱視を矯正する場合,直乱視や倒乱視ではなく斜乱視の場合や,日によって軸や乱視の程度が変わる場合には注意が必要である。

●近年,トーリックカリキュレータはバイオメトリー機器に搭載されることで,入力業務の効率化など多くの利点を得られるようになった。

●乱視の評価には,乱視量と向きを考慮した倍角座標法が近年多く用いられている。

ICLの実際

著者: 中村友昭

ページ範囲:P.1557 - P.1564

●ICLは後房型の有水晶体眼内レンズであり,生体適合性のよいcollamerという素材でできている。

●白内障手術に準じた手術で,特別な機器は必要とせず,一定技量のある術者であれば,安全に手術を施行することができる。

●術中合併症はICLサイズと手技に起因するものがあるが,健康な眼に対する手術のため,低侵襲を心がける必要がある。

眼内レンズ度数計算

著者: 神谷和孝

ページ範囲:P.1565 - P.1572

●国内における眼内レンズ度数計算式として依然SRK/T式が最も頻用されているが,Barrett Universal Ⅱ式が急速に支持を伸ばしている。

●LASIK後の白内障手術は遠視化を生じやすいが,近年予測性は向上しており,Barrett True-K式が最も頻用されている。

●軽度円錐角膜の症例に対する白内障手術は,通常の計算式を用いてもほぼ問題ないが,重度になると予測性は低く,遠視化を生じやすい。

緑内障の同時手術の適応判断—MIGSのどれを選ぶか

著者: 杉原一暢

ページ範囲:P.1573 - P.1578

●白内障手術は緑内障加療の良い介入タイミングである。

●MIGSはローリスクな手術であるが,全くリスクがないわけではない。

●線維柱帯切開における切開範囲は術後の出血量や乱視と関連がある。

強度近視と白内障手術

著者: 中村邦彦

ページ範囲:P.1579 - P.1582

●IMSの発症に注意。

●前房圧を術中に上昇させないことが重要。

●トーリックIOLは回転しやすいので注意。

水晶体囊拡張リングの現状と限界

著者: 後藤憲仁

ページ範囲:P.1584 - P.1588

●水晶体囊拡張リング(CTR)はわが国において2014年に認可され,2016年から保険収載され,広く使用されるようになった。

●CTR使用ガイドラインを遵守し,販売業者の講習会を受講することで使用できる。

●CTRには水晶体囊拡張作用があるものの,囊支持作用はなく,CTR挿入眼においては注意深い長期観察が重要である。

今月の話題

The dead bag syndrome

著者: 小早川信一郎

ページ範囲:P.1525 - P.1530

 新しい疾患概念であるthe dead bag syndromeは白内障術後晩期にみられ,水晶体囊は透明,囊内に水晶体上皮細胞がほとんど存在しない状態となる眼内レンズ偏位の一病態である。本稿ではthe dead bag syndromeについて概説するとともに偽落屑症候群と水晶体真性落屑についても併せて述べる。

連載 Clinical Challenge・45

角膜混濁による視力低下をきたした1例

著者: 松村健大

ページ範囲:P.1521 - P.1523

症例

患者:68歳,男性

主訴:右眼のかすみ

既往歴・家族歴:特記事項なし

現病歴:右視力低下で前医を受診。右角膜混濁による視力低下を指摘され,精査・加療目的で当院へ紹介となった。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・13

涙道腫瘍性疾患

著者: 三村真士

ページ範囲:P.1589 - P.1592

●涙道腫瘍は稀であるが,生命を脅かすことも多く,常に疑ってかかる必要がある。

●涙道内視鏡で涙道上皮の変化を早期に捉えると同時に,上皮下および周囲組織からの影響をCTもしくはMRIで判断する。

●確定診断後の涙道再建の際には,腫瘍を播種しないように注意が必要である。

臨床報告

3度にわたる組織学的検索により診断に至った眼窩異型脂肪腫様腫瘍の1例

著者: 小山恵里 ,   小松紘之 ,   松林純 ,   後藤浩

ページ範囲:P.1593 - P.1600

要約 目的:異型脂肪腫様腫瘍(高分化型脂肪肉腫)の眼窩における発生はきわめて稀である。切除部位は異なるが3度の生検および切除で,それぞれ異なる病理所見を呈し,最終的に眼窩異型脂肪腫様腫瘍の診断に至った症例を報告する。

症例:58歳,男性。左眼球突出を主訴に東京医科大学病院眼科へ紹介となった。画像検査で左内直筋周囲に腫瘤様病変が確認され,鼻側結膜から生検を行ったところ,紡錘形細胞脂肪腫と診断された。定期的に観察を行っていたところ,初診から3年後に腫瘍の増大を認め,再度,経結膜的に眼窩深部まで増殖組織を切除した。線維性結合組織とリンパ球や形質細胞の浸潤が主体であったため臨床的に炎症性疾患を疑いステロイドの内服を開始したが,効果は限定的であった。1年後,再び病変の増大に伴い著しい眼球突出と偏位を生じたため,下方円蓋部から眼窩内病変の可及的切除を試みた。術中,大量に切除された脂肪様組織の中には脂肪細胞とともに脂肪芽細胞様の異型細胞や紡錘形細胞が散見され,免疫染色でMDM2が陽性,さらにfluorescence in situ hybridization解析でシグナルの増幅が確認され,異型脂肪腫様腫瘍の診断に至った。その後は保存的に経過観察を継続中であるが,術後2年以上にわたって局所再発や転移はない。

結論:3度の組織学的検索が行われ,診断に難渋した眼窩異型脂肪腫様腫瘍を経験した。眼窩内病変の可及的切除によって現在まで再発などは生じていないが,今後も長期にわたる経過観察が必要である。

特異な角膜上皮下混濁を呈したocular surface squamous neoplasiaの2例

著者: 山下佳織 ,   島田龍一 ,   林孝彰 ,   郡司久人 ,   田聖花 ,   中野匡

ページ範囲:P.1601 - P.1606

要約 目的:眼表面扁平上皮新生物(OSSN)の多くは,角膜輪部の球結膜から発生する腫瘍性病変とされ,角膜へ浸潤するものもある。今回,特異な形状で角膜浸潤をきたしたOSSNの2症例を報告する。

症例:症例1は79歳,男性。右眼鼻側に偽翼状片と,末端に円形膨大部を伴って樹枝状に枝分かれした角膜上皮下混濁を認めた。症例2は72歳,男性。右眼鼻側に瞼裂斑様の隆起性病変を認め,そこから2方向に枝分かれした表層血管侵入を伴う円形でやや隆起した角膜上皮下混濁を認めた。また,鼻側角膜の広範囲に隆起を伴わない淡い上皮下混濁と,特異なフルオレセイン染色像を認めた。

結果:両例に対し,角膜表層切除および瞼裂斑様病変切除を施行し,再発なく経過している。両例とも病理組織学的検査で角膜上皮内に異型細胞がみられ,細胞増殖マーカーであるMIB-1標識率が上昇しており,OSSNと診断された。

結論:特異な角膜上皮下混濁を呈したOSSNの2症例を経験した。外科的切除は有効な治療であり,組織学的検査は確定診断に有用であった。特異な形状の角膜上皮下混濁は,OSSNの可能性があることが示唆された。

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目次

ページ範囲:P.1518 - P.1519

欧文目次

ページ範囲:P.1520 - P.1520

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.1608 - P.1611

アンケート用紙

ページ範囲:P.1616 - P.1616

次号予告

ページ範囲:P.1617 - P.1617

あとがき

著者: 鈴木康之

ページ範囲:P.1618 - P.1618

 月日が経つのは早いもので,令和5年も終わりに近づきました。雑誌「臨床眼科」12月号をお届けします。今号の特集は「知って得する白内障と屈折矯正の最新情報」で,今月の話題が「The dead bag syndrome」ということで白内障手術大特集のような形になっています。the dead bag syndromeとは原因がはっきりしていないにもかかわらず眼内レンズが偏位してくる病態で,現状有効な対策はないということで,不思議な疾患概念だと思いますが,今後,他の研究者による,より詳細な検討や疾患の厳密な定義などがされてくることと思いますので白内障術者の1人として注意してfollowしていきたいと思います。

 また,特集では近年の白内障手術関連の状況についてさまざまな情報を得ることができます。最近では多焦点眼内レンズのことを老視矯正眼内レンズというのは知りませんでした。患者さんにはわかりやすいかもしれませんね。その佐々木先生のレビューですが,国内で使用可能なそれぞれの眼内レンズの特徴や適応について,具体的なデータを示されて歯に衣着せぬ評価をされていて大変参考になりました。他の先生方も具体的な眼内レンズ名を出され,それぞれの特徴について客観的な立場から評価されていて学会の企業セミナーではなかなか入らない情報が得られる貴重な特集だと思います。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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