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雑誌目次

雑誌文献

臨床眼科77巻3号

2023年03月発行

雑誌目次

特集 第76回日本臨床眼科学会講演集[1] 特別講演

網膜静脈閉塞症の病態理解と治療戦略

著者: 辻川明孝

ページ範囲:P.286 - P.295

 長らく網膜静脈閉塞症の評価は眼底検査,フルオレセイン蛍光眼底造影が中心であり,20世紀後半に行われたBVO studyからのエビデンスに基づいた診療が基本となってきた。しかし,今世紀に入って,光干渉断層計をはじめとした新しい眼底検査機器,治療が導入されたことにより,網膜静脈閉塞症の病態理解には劇的な進歩がみられ,治療戦略も一変した。

原著

肝炎医療コーディネーター導入による肝炎ウイルス陽性者対応の適正化

著者: 戸所大輔 ,   戸島洋貴 ,   柿﨑暁 ,   是永匡紹 ,   秋山英雄

ページ範囲:P.329 - P.334

要約 目的:医療機関での術前検査時に肝炎ウイルス陽性が発見されることがある。筆者らは眼科病棟に肝炎医療コーディネーター(肝Co)を養成し,ウイルス肝炎検査の陽性者対応の適正化を試みた。

対象と方法:肝Co設置前後の33か月間に術前検査としてHBs抗原とHCV抗体検査を行い,いずれかが陽性であった96名を対象とした。診療録をもとにウイルス肝炎の治療歴,HCV抗体価,陽性者対応の有無,眼疾患の種類を調べた。

結果:HBs抗原陽性が新規に発見された4例のうち,肝Co配置前の1例は未対応であった。HCV抗体陽性の新規発見は37例あった。肝Co配置前の新規発見は22例あり,うち16例が未対応であった。B型とC型を合わせた未対応17例のうち9例は検査結果を待たずに緊急手術を行っていた。肝Co配置後の未対応はなかった。

結論:肝Coの導入は肝炎ウイルス検査の結果説明と陽性者対応の適正化に有効であった。

ペムブロリズマブ投与中止後に両眼のVogt-小柳-原田病様ぶどう膜炎を認めた1例

著者: 半田満野 ,   忍足俊幸 ,   和田啓伸 ,   吉田成利 ,   臼井智彦

ページ範囲:P.335 - P.341

要約 背景:免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブはPD-1/PD-1リガンド経路を阻害し,がん細胞によるT細胞の抑制を解除するため,免疫関連の副作用対策が必要となる。

症例:74歳,男性。主訴は両眼の霧視,飛蚊。初診時視力は右/左=(1.2p/0.2),左眼の視力不良は陳旧性外傷性黄斑変性による。角膜に豚脂様角膜後面沈着物を認め,前房細胞2+であった。両瞳孔縁にKoeppe結節を認め,隅角結節も認めた。両眼とも硝子体混濁は認めず,光干渉断層計で脈絡膜肥厚と網膜色素上皮ラインの波打ちを認めた。受診1か月前まで非小細胞肺癌に対する術後化学療法にてペムブロリズマブを投与されており,間質性肺炎のため休薬中であった。精査中に前眼部炎症の増悪を認めたが,ベタメタゾン0.1%点眼にて速やかに軽快した。4か月の経過中に夕焼け状眼底を呈するようになり,Vogt-小柳-原田病(VKHD)様ぶどう膜炎の診断となった。

結論:免疫チェックポイント阻害薬の副作用は投与中止後にも発現増悪することがあり,使用歴の問診と投与中止後の慎重な観察が必要である。また,本邦では免疫チェックポイント阻害薬関連VKHDの報告が散見されるが,2022年6月時点のPubMed論文検索における該当は19例であり,うち12例が本邦報告である。日本人を含む一部の有色人種ではVKHDの有病率が高く,薬剤関連VKHDにおいても注意が必要である。

Air Bubble Technique Full View Vitrectomy

著者: 松岡貴大

ページ範囲:P.343 - P.346

要約 緒言:硝子体手術では,周辺部郭清や状態把握に圧迫操作を必要とするが,疼痛や術後炎症を招きうる。空気置換により周辺部観察は可能となるが,時間延長,網膜乾燥,光障害を引き起こしうる。眼底観察システムと極小空気注入を合わせたair bubble techniqueによる超広角硝子体手術を用いた症例を報告する。

症例:81歳,女性。糖尿病網膜症に対して,水晶体再建術と硝子体手術を施行した。中心部硝子体切除後,圧迫下で硝子体切除を行うも疼痛の訴えが非常に強く,結膜下麻酔を追加したが体動のため手術安全性の確保が難しい状況にあった。非圧迫下で可能な範囲で網膜光凝固し,2mL程度の空気を硝子体腔内に注入したところ,術野が広がり,非圧迫下で容易に光凝固追加が可能となった。その後,疼痛の訴えもなく,安全に汎網膜光凝固を完成させ終了とした。

考察:眼底観察システムを使用した状態に少量の空気を注入することで超広角術野を獲得し,硝子体切除,光凝固が可能となる。追加特殊器具を要さず,操作は非常に容易である。すなわち,誰でも,いつでも,どの患者に対しても行うことができる。また,圧迫による術後炎症を軽減することにもつながり,圧迫操作に不安を感じる術者や圧迫困難症例に対しても有用な方法である。

結論:このテクニックにより,超広角周辺網膜観察,硝子体処理が可能となる。

ブリモニジン酒石酸塩点眼薬の使用が原因と思われた角膜混濁を生じた2症例

著者: 須磨﨑さやか ,   柿栖康二 ,   岡島行伸 ,   鈴木崇 ,   堀裕一

ページ範囲:P.347 - P.351

要約 目的:近年,緑内障点眼薬の1つであるブリモニジン酒石酸塩点眼液(BT)により角膜混濁が生じることが報告されている。筆者らは,原因不明の重篤な角膜混濁において,問診にてBTの使用歴があった2症例について報告する。

症例1:73歳,女性。当科初診時,左眼角膜鼻側から中央にかけて血管侵入を伴う脂肪沈着による角膜混濁および角膜浮腫をきたし,視力は指数弁(矯正不能)であった。副腎皮質ステロイド薬点眼による治療で角膜混濁および炎症所見は徐々に減少し,視力は(0.6)まで回復した。当初角膜混濁の原因は不明であったが,問診により数年前より充血改善のためにBT点眼を1日3回程度使用していたことが判明した。

症例2:67歳,女性。右眼角膜に血管侵入を伴う脂肪沈着による角膜混濁を認め,視力は(0.5)であった。数か月前まで4年間程度BTとビマトプロスト点眼液を使用していた。侵入血管に対して血管焼灼術を施行したが混濁は残存したため,全層角膜移植術および白内障手術を施行し,視力は(1.2)まで回復した。

結論:BTの使用歴がある重篤な角膜混濁を生じた2症例を経験した。2症例とも角膜へ侵入した血管から漏出した脂肪沈着が混濁の原因となっていた。原因不明の角膜混濁に遭遇した際は,緑内障点眼薬の使用歴の確認も重要であると思われた。

サトラリズマブを導入した抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の高齢女性の1例

著者: 篠原大輔 ,   林孝彰 ,   徳久照朗 ,   須田真千子 ,   中野匡

ページ範囲:P.352 - P.360

要約 目的:視神経脊髄炎スペクトラム障害に対する再発予防を目的として,抗IL-6受容体阻害薬(サトラリズマブ)が導入された抗アクアポリン4(AQP4)抗体陽性視神経炎の高齢女性の1例を報告する。

症例:81歳女性が突然の左眼視野障害を自覚し,発症第7病日に精査目的で受診した。

所見と経過:視力は右(0.9),左光覚なしで,相対的瞳孔求心路障害は左眼で陽性であった。頭部・眼窩MRI検査によるSTIR画像で左視神経の高信号を認めた。抗AQP4抗体陽性が確認され,抗AQP4抗体陽性視神経炎と診断された。ステロイドセミパルス療法に加え,免疫吸着療法が施行され,左視力は(0.07)に改善した。後療法としてステロイド内服漸減後,維持期治療として低用量内服治療を1年9か月間続け終了した。その1年4か月後,右眼の発症と左眼の再発がみられ,再度同様の急性期治療が施行され,ステロイド内服漸減中にサトラリズマブの投与が開始された。その後,経過観察可能であった5か月間再発はなかったが,さらにその約5か月後,既存の腸閉塞と心疾患が悪化し死亡した。

結論:両眼性の抗AQP4抗体陽性視神経炎に対してサトラリズマブを投与した高齢女性例を経験した。投与後は,治療効果だけでなく副作用についても十分なモニタリングが重要と考えられた。

後頭葉の梗塞による視覚保続および変形視の1例

著者: 松浦一貴 ,   寺坂祐樹 ,   今岡慎弥

ページ範囲:P.363 - P.367

要約 緒言:視覚保続とは,視覚対象が取り除かれた後にも視知覚が持続する現象であり,対象の除去後にもそれと同じ像が見える時間的視覚保続(palinopsia)と,対象があるべき範囲を超えて多数または拡散して見える空間的視覚保続(polyopia)とがある。筆者らは,左脳梗塞に伴い視覚保続,変形視を訴えた症例を経験した。

症例:78歳男性が,動く物体がストロボ写真のように見えると気づいた(polyopia)。動的量的視野検査にて左同名半盲が検出された。MRIでは右後頭葉に浮腫を伴う新鮮な梗塞巣が検出された。数日の間に,数時間前に見た車が見える(palinopsia)こと,人の顔が歪んで見える(変形視:metamorphopsia)ことを自覚した。

考按:視覚保続は稀な現象であり,主に後頭葉障害に伴い障害部位の対側に出現するとされるが,発現機構は十分に解明されていない。本症例では半側相貌変形視を伴った。その責任病巣は後頭葉から脳梁膨大部の障害とされる。

結論:高次視機能障害による“見えにくさ”の診断は,一般眼科医には不得手な領域であり,その診断および治療は神経内科医に委ねられてよい。しかし,一般の神経科医にとってもなじみのある病態ではないことから,適切なコメントとともに紹介する必要がある。

再改良された軟性アクリル眼内レンズにおける術後表面散乱

著者: 稲福勇仁 ,   子島良平 ,   本坊正人 ,   森洋斉 ,   南慶一郎 ,   宮田和典

ページ範囲:P.368 - P.372

要約 目的:特定の眼内レンズ(IOL)挿入後にみられた表面散乱の増加は,製造工程の改善(AcrySof® Q-code)により抑制されることが実験的かつ臨床的に確認されたが,表面粗さにより再改良が施された。しかし,再改良IOLでも同様に表面散乱の抑制効果が期待できるかは確認されていない。そこで今回筆者らは,前向き観察研究により挿入後3年までの表面散乱を評価した。

対象と方法:再改良されたSN60WF A-codeを45例46眼(平均年齢:72.7歳)に挿入し,術後1か月,1,2,3年時の表面散乱,矯正視力,コントラスト感度を測定した。表面散乱は,EAS-1000にてシャインプルーフ像を撮影し,IOL前面のデンシトメトリ値(単位:CCT)を計測した。コントラスト感度は,Optec 6500にて明暗視下で検査した。

結果:術後1か月,1,2,3年時の経過観察眼数はそれぞれ46,32,22,16眼であった。各時点の平均デンシトメトリ値は,18.0±3.0,16.9±2.6,19.0±2.9,20.4±4.5 CCTと,術後3年が1か月に対して有意に増加した(p=0.017,ダネット多重比較検定)。矯正視力,コントラスト感度は,術後1か月と3年間で有意な差はなかった。

結論:再改良IOLでは,術後3年まで表面散乱は良好に抑制され,それ以降で増加した。本結果は同Q-code IOLと同様であり,表面散乱抑制効果は維持されていると考えられた。

高齢患者のアイフレイル調査

著者: 藤嶋さくら ,   井上賢治 ,   天野史郎 ,   徳田芳浩 ,   塩川美菜子 ,   方倉聖基

ページ範囲:P.373 - P.378

要約 目的:アイフレイルとは加齢に伴って視機能が低下した状態を指す。今回,高齢者のアイフレイル状況を検討した。

対象と方法:井上眼科病院を受診した60歳以上の初診患者のうち,アイフレイル自己チェック10項目(質問①〜⑩)を実施した2,140例を対象とした。チェック数,各項目について男女別,年齢別(60歳台,70歳台,80歳以上)に比較した。

結果:チェック数は,男性(826例)3.4±2.2個は女性(1,314例)3.8±2.2個より有意に少なかった。60歳台(940例)3.4±2.1個,70歳台(841例)3.8±2.2個,80歳以上(359例)4.2±2.4個で,年齢とともに有意に増加した。60歳台では,①疲れやすい63.6%,⑤眼鏡をかけてもよく見えない51.7%,③新聞や本を長時間見ない48.7%,70歳台では,①疲れやすい62.2%,⑤眼鏡をかけてもよく見えない58.1%,③新聞や本を長時間見ない57.3%,80歳以上では,①疲れやすい64.3%,⑤眼鏡をかけてもよく見えない64.3%,③新聞や本を長時間見ない62.4%の順でチェックした人が多かった。

結論:アイフレイル症状は女性の高齢者に多く,年齢とともに増加していた。高齢者でのチェック項目は,年齢にかかわらずほぼ同等であった。

井上眼科病院のロービジョン専門外来を受診した患者の同行援護の利用状況

著者: 鶴岡三惠子 ,   永沼加代子 ,   井上賢治

ページ範囲:P.379 - P.384

要約 目的:井上眼科病院のロービジョン(LV)外来を受診した患者の同行援護の利用状況を調査したので報告する。

対象と方法:2021年1月からの1年間にLV外来を受診した206例とした。同行援護の利用状況等について後ろ向きに調査を行った。

結果:LV外来受診者の年齢は9〜97歳(平均59.0歳)であった。性別は男性114例,女性92例であった。このうち,同行援護利用者は25例(12%)であった。年齢は19〜90歳(平均61.3歳)で,性別は男性11例,女性14例であった。65歳以上の利用者は10例であった。同行援護利用者の原因疾患は網膜色素変性9例,緑内障6例,視神経疾患5例,網脈絡膜萎縮1例,その他4例であった。視覚の身体障害者手帳(手帳)の取得状況は1級11例,2級10例,4級2例,5級2例であった。一方,LV外来受診者の歩行訓練の利用は49例で,同行援護サービスとの併用利用は12例であった。また,65歳以上の介護保険利用は25例で,同行援護利用は10例であった。

結論:井上眼科病院のLV外来を受診した患者の同行援護の利用率は12%で,手帳は1・2級の重度障害が84%であった。一方,歩行訓練の利用率は24%,介護保険の利用率は27%であった。同行援護は,患者や家族に助けになる制度で,当院のLV外来受診患者へのさらなる啓発が必要と考えた。

顕微鏡的多発血管炎に伴う眼窩先端症候群の1例

著者: 酒見郁圭 ,   梅屋玲子 ,   杉崎良親 ,   松平蘭 ,   小野浩一

ページ範囲:P.385 - P.390

要約 目的:抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎の治療中に眼窩先端症候群の症状のみで再燃をきたした症例を報告する。

症例:顕微鏡的多発血管炎に対し維持療法中の50代男性。1週間前からの視力低下および側方視時の違和感で眼科を受診。視力は右(0.7),左(0.7)で明らかな異常所見は認めなかった。14日後の再診時も視力は右(0.8),左(0.9)で散瞳下の検査でも異常所見は認めなかった。22日後,視力は右(0.2),左(1.0)と右眼視力低下および両眼の中心フリッカー値の低下,右全眼球運動障害,左外転障害,両視野障害を認め,精査加療目的に入院となる。診察所見および頭部造影MRIにて両側の眼窩先端部および視神経周囲に造影効果を認めたことからANCA関連血管炎に伴う眼窩先端症候群と診断した。治療としてはステロイドパルス療法2クールおよびリツキシマブ投与を4回行った。途中で汎発性帯状疱疹も発症し,アシクロビル点滴治療を2週間行った。退院時には右(1.2),左(1.2)に改善し,眼球運動障害,視野障害ともに改善がみられた。現在も再燃なく経過観察中である。

結論:ANCA関連血管炎の治療中に視力低下が先行し発症した眼窩先端症候群の症例を経験した。治療中に汎発性帯状疱疹を発症したが,治療により良好な経過を得た。

連載 Clinical Challenge・36

ステロイド治療に躊躇するぶどう膜炎の症例

著者: 牛田宏昭

ページ範囲:P.282 - P.285

症例

患者:74歳,男性

主訴:両眼の視力低下

既往歴:高血圧,狭心症,脂質異常症,胆囊炎

家族歴:特記すべきことなし

現病歴:X月Y日に左眼の充血と疼痛にて近医眼科を受診した。毛様充血と角膜後面沈着物を認め,ベタメタゾン点眼1日4回,トロピカミドフェニレフリン塩酸塩点眼1日3回が開始された。Y+4日後に左眼は改善傾向であるものの,右眼にも前房内に炎症が出現していたため,ベタメタゾン点眼を右眼にも開始した。Y+7日後頃には頭痛も自覚した。Y+11日後には両眼の視神経乳頭腫脹があり,左眼の炎症も増悪,前房内フィブリンの析出,虹彩後癒着も出現した。Y+17日後に精査加療目的で当院へ紹介され受診となった。

国際スタンダードを理解しよう! 近視診療の最前線・30

—近視そのものが失明を起こす—病的近視—後部ぶどう腫—3D MRI

著者: 森山無価

ページ範囲:P.296 - P.301

◆近視の本態は眼球形状変化である。

◆代表的な眼球形状変化は後部ぶどう腫である。

◆全眼球の形状変化を調べるには3D MRIが有用である。

イチからわかる・すべてがわかる 涙器・涙道マンスリーレクチャー・5

涙道検査 涙液クリアランス測定

著者: 鄭暁東

ページ範囲:P.303 - P.308

●涙液クリアランス解析は涙道疾患のみならず,眼表面異常の診断,治療にも重要である。

●細隙灯顕微鏡の定性観察から専用機器による定量計測までさまざまな解析法が考案されてきた。

●1つとして完璧な計測法はなく,より簡便,より低侵襲の計測法が求められる。

臨床報告

裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術後に発症した黄斑円孔の1例

著者: 武藤哲也 ,   今泉公宏 ,   佐藤久生 ,   今泉信一郎

ページ範囲:P.313 - P.317

要約 目的:裂孔原性網膜剝離に対する硝子体手術後に発症した黄斑円孔を経験したので報告する。

症例:66歳,男性。右眼の視力低下を自覚し,10日後当院を受診した。視力は右(0.5),左(1.0)であった。右眼内レンズ挿入眼,右黄斑円孔と診断され,硝子体手術を予定した。入院日にコロナウイルス抗原検査を施行したところ陽性であったので,いったん手術を延期した。2週間後に黄斑円孔周囲の内境界膜剝離と液空気置換,20%六フッ化硫黄ガスを注入し,7日間腹臥位を保ったところ,黄斑円孔は閉鎖した。術後3か月の時点で右視力は(0.6)である。右眼は,4年10か月前に裂孔原性網膜剝離に対する右白内障+硝子体手術を受けていた。

考按:通常,黄斑円孔は,有硝子体眼において加齢により硝子体が収縮し,中心窩に前方への牽引がかかることで生じると考えられている。稀ではあるが,硝子体手術の既往がある場合でも,黄斑円孔を生じることがあるので,発症の可能性を念頭に置く必要がある。

10代女性の点状脈絡膜内層症の1例

著者: 平井真理子 ,   西脇弘一 ,   近藤峰生

ページ範囲:P.318 - P.323

要約 目的:10代女性に発症した点状脈絡膜内層症(PIC)の症例を経験したので報告する。

症例:患者は17歳,女性。1週間前からの右眼視力低下を主訴に近医を受診し,精査目的に天理よろづ相談所病院を紹介受診した。

所見:視力は右(0.5p),左(1.5)と右眼の視力低下を認めた。右眼底には黄斑部に多発する黄白色病変と傍中心窩に網膜出血を認めた。脈絡膜新生血管(CNV)を伴うPICと診断し,プレドニゾロン15mg/日の経口投与を開始した。同時にCNVに対してアフリベルセプト硝子体注射を施行し,1か月ごとに計3回施行した。右眼視力は治療開始1か月後で(0.9),2か月後に(1.0)と改善傾向を認めた。治療開始から5か月後の現在,右眼視力は(1.0)を維持し,黄白色点状病巣は残存しているが,一部は色素沈着を伴い瘢痕化を認めている。

結論:今回,比較的若年でCNVによる出血を契機に発見されたPICの症例を経験した。PICは小児から中高年まで生じうる,視力低下をきたす疾患の1つとして注意が必要である。

HIF-PH阻害薬投与後に糖尿病黄斑浮腫が増悪した1例

著者: 浦橋佑衣 ,   小島祥 ,   幸野理久 ,   井上俊洋

ページ範囲:P.324 - P.328

要約 目的:低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素(HIF-PH)阻害薬の投与後に糖尿病黄斑浮腫が増悪した1例を経験したので報告する。

症例:61歳,女性。近医より,糖尿病網膜症または高血圧性網膜症の精査加療目的に当科を紹介され受診となった。

所見:初診時,斑状・しみ状出血散在,著明な硬性白斑を認め,光干渉断層撮影では黄斑近傍に浮腫を認めた。また,蛍光眼底造影検査では,後極に網膜細動脈瘤と蛍光漏出が多発し,無灌流領域も散在しており,糖尿病網膜症および糖尿病黄斑浮腫の診断となった。全身状態の改善に伴い糖尿病網膜症は改善傾向であり,網膜細動脈瘤に対する複数回の網膜光凝固術施行により,黄斑浮腫は中心窩には及ばず経過していた。しかし,初診から3年後,両眼黄斑浮腫の増悪を認めた。内科で腎性貧血の治療としてエリスロポエチン製剤からHIF-PH阻害薬に切り替えた後に黄斑浮腫の増悪を認めたため,HIF-PH阻害薬の関与が疑われ薬剤を中止したところ,黄斑浮腫は速やかに改善した。

結論:今回,HIF-PH阻害薬の投与後に糖尿病黄斑浮腫が増悪した貴重な1例を経験した。新薬の有害事象の検討に関しては,内科との連携が特に重要である。

今月の表紙

水晶体前房内脱臼

著者: 山口純 ,   堀裕一

ページ範囲:P.302 - P.302

 症例は63歳,女性。2日前からの左眼の充血と眼瞼腫脹,前日の眼痛,頭痛,嘔気を主訴に前医を受診し,同日,当院を紹介され受診となった。初診時の視力は右0.8(矯正不能),左0.01(矯正不能),眼圧は右12mmHg,左8mmHg。前眼部所見として,右眼の水晶体亜脱臼と左眼の水晶体前房内脱臼がみられた。写真は,初診時の左眼である。左眼の眼底は透見不良,Bモード上では網膜剝離は認められなかった。同日,緊急手術にて超音波水晶体乳化吸引術+経毛様体扁平部硝子体手術(PEA+PPV)を行い,無水晶体眼で終了した。初診時より3か月後,IOL強膜内固定術を施行し,視力は左(0.8×cyl−3.00D 50°)となった。

 右眼についても経過観察しながら手術を検討していたところ,転倒外傷により水晶体脱臼を起こし,PEA+PPV+IOL強膜内固定術を施行した。

海外留学 不安とFUN・第86回

ロサンゼルスからこんにちは・3—オフの日編

著者: 加登本伸

ページ範囲:P.310 - P.311

 これまでコロナ禍での準備やラボ生活について述べてきましたが,最終回はオフの日の過ごし方と9か月の留学生活で得たことについて話したいと思います。

Book Review

OCTアトラス 第2版

著者: 本田茂

ページ範囲:P.362 - P.362

 現代の眼科診療,特に網膜診療において光干渉断層計(optical coherence tomography:OCT)は欠かせない機器となっています。単に病気の診断や治療の評価に用いるだけでなく,OCTによる網膜および脈絡膜構造の三次元的理解は疾患の病態解明にも大いに役立ってきました。最近ではコンピューター性能の向上によって画像取得の高速化,広画角化が進み,また長波長レーザーを用いたSwept-source OCTでは脈絡膜および硝子体のより詳細な観察と病態評価が可能となっています。さらに,現在,導入が広がりつつある網膜光干渉断層血管撮影(OCT angiography:OCTA)では造影剤なしで網膜の微小血管構造の描出が可能であり,また層別解析による血管の三次元的変化を捉えることができるようになりました。

 本書は初版からちょうど10年を経て改訂されました。私は同書の初版も所有していますが,当初から京大眼科学教室の実力を大いに発揮された,通常のアトラスよりも一歩踏み込んだ内容に感銘を受けました。それは掲載される各画像の美しさだけでなく,当時最先端の解析方法や所見の記載,それを元にした病態解釈まで網羅されていることに大きな学術的意義を見ることができたからです。今回の第2版では,その後の10年間で得られたさまざまな新知見を盛り込み,さらに進歩した画像解析と病態解釈を提示したものとなっています。特にOCTAによって発見された数多くの知見は初版にはなかったものであり,それだけでも改訂による内容の大幅な向上を十分に感じ取ることができますが,本書では各疾患におけるOCTA所見とその解釈が大変詳細に述べられており,これは他に類を見ないものです。また,初版では記載の少なかった腫瘍,緑内障,視神経疾患の他にもpachychoroid spectrum diseaseやparacentral acute middle maculopathyのように,この10年間で新たに提唱された疾患概念もあり,第2版ではそれらもくまなく網羅されています。一方,滲出型加齢黄斑変性などよく知られた疾患においても,例えば従来の脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization)が黄斑新生血管(macular neovascularization)という呼び方に変わり,IS/OS,COSTと呼ばれていた所見がそれぞれellipsoid zone(EZ),interdigitation zone(IZ)という表現に変わりました。OCT所見において,新たに同定された所見を表す用語が増えたことはもちろんですが,特発性黄斑上膜の分類に見られるように同じ所見でも病態解釈の変化によって所見を表現する用語が変化した場合もありますので,それらのアップデートも第2版の重要なポイントになっています。

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目次

ページ範囲:P.278 - P.279

欧文目次

ページ範囲:P.280 - P.281

学会・研究会 ご案内

ページ範囲:P.392 - P.397

アンケート用紙

ページ範囲:P.402 - P.402

次号予告

ページ範囲:P.403 - P.403

あとがき

著者: 西口康二

ページ範囲:P.404 - P.404

 本号から,第76回日本臨床眼科学会での原著論文の掲載が始まり,「特別講演」以外に10報が掲載されました。「特別講演」は京都大学の辻川明孝先生に「網膜静脈閉塞症の病態理解と治療戦略」というタイトルでご寄稿いただいきました。辻川先生はOCTと抗VEGF薬の登場による網膜静脈閉塞症の治療の大きな変遷を自ら体験し,特に企業との共同研究で世界最先端を行く医療機器の性能をフルに生かして,斬新な病態概念を提唱しつつ,国産の医療機器の開発に大きく貢献されてきました。特に,病理画像に迫るレベルのイメージを描出可能なAO-OCTには驚くばかりです。画像が好きな「ビジュアル系」の先生なら,きっと満足されるお勧めの内容です。

 今回で30回目を迎える「国際スタンダードを理解しよう!近視診療の最前線」の連載では,森山無価先生の「後部ぶどう腫—3D MRI」という論文を掲載させていただきました。論文では強度近視眼の眼球形態を,MRI画像を用いて3次元再構築し,眼球全体を俯瞰的に見たうえで導いた後部ぶどう腫の形体分類と従来の検眼鏡的な形体分類の比較が紹介されており,図が多く非常に分かりやすく解説されています。

基本情報

臨床眼科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1308

印刷版ISSN 0370-5579

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